(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ハドロン治療において、例えば陽子又は炭素イオンなどの陽イオンなどの、クォークで構成される粒子のビームは、たとえば癌の治療処置のために組織に選択的に照射するように用いられる。このような粒子は、組織細胞に、特に当該細胞におけるDNAに損傷を負わせ得る。損傷したDNAを修復するための劣化した能力のため、癌細胞は、このような攻撃に特に脆弱であることが知られている。高エネルギー光子の照射を用いることなどの、従来の外部からのビームの放射線治療に対する粒子治療の利点の1つは、伝送したエネルギーの良好な局所化を達成できることである。制動放射のX線は、組織中により深く貫通し得るが、組織において吸収された放射線量は、深さを増すにつれて指数関数的に減少する。陽子又はより重いイオンによると、粒子が組織を貫通してエネルギーを連続的に損失しても、放射線量は増大する。つまり、放射線量は、粒子の飛程の端部の近傍に在る特定のエネルギーのブラッグピークに対応する深さまで増大する。ブラッグピークを超えると、ゼロ又はゼロ近傍への急峻な降下を生じる。そのため、治療処置を注意深く計画することによって、ターゲットの組織周辺の健康な組織の中に、エネルギーはほとんど蓄積し得ない。
【0003】
既知のハドロン治療システムにおいて、放射線ビームは、サイクロトロン、シンクロサイクロトロン又はシンクロトロンなどの荷電粒子加速器によって生成され得る。粒子ビームのエネルギーは、例えばブラッグピークの深さなどで貫通の深さを決定するが、エネルギーのデグレーダ及びセレクタシステムによって所望の飛程に調整され得る。ビームの誘導システムは、さらに、粒子ビームを、患者が治療カウチ上に位置し得る、治療室に対して方向付けしてもよい。すると、ビーム供給システムは、治療処置計画に応じて患者にビームを供給し得る。そのようなビーム供給システムは、1つの固定された照射方向から患者にビームを供給するための固定されたビーム供給システムであってもよいし、複数の照射方向から患者にビームを供給できる回転可能なビーム供給システムであってもよい。
【0004】
放射線照射を行う前に、患者の位置は、治療処置計画に応じて粒子ビームにターゲットの組織を整列するために、正確に決定されて調整され得る。放射線量のターゲット分布を規定する治療処置計画に良好に合致する、患者における空間的な放射線量分布を供給するために、先行技術において、スポット又はペンシルビームの走査を用いることが知られている。スポット又はペンシルビームの走査システムにおいて、荷電粒子ビームは、例えばテレビジョン画像が陰極線管テレビにおいて構成される手法と同様に、ラスタの走査パターンにおいて偏向される。そのため、放射線量の供給計画に対するピクセル化された又は連続的な近似は、走査位置の関数として、ビーム強度又は走査速度を変調することによって、ターゲットボリュームにおいて描画され得る。さらに、ビームエネルギーを変えることにより、深さ寸法が、異なるビームエネルギーで規定される複数のレイヤに亘ってラスタの走査処理を繰り返すことにより、放射線量の供給に加えられ得る。
【0005】
しかしながら、ペンシルビームの走査システムにおける電磁石は、大型で、重く、高費用であり得る。さらに、回転可能なビーム供給システムは、患者に対する治療処置の角度を選択するための、例えば患者の縦軸の周囲において治療処置のビームの伝播方向を回転するためのガントリを含み得る。少なくとも一部のペンシルビームの走査システムがそのような回転可能なガントリ上に実装され得るので、ペンシルビームの走査システムの構成要素の重量およびサイズが、費用および例えばガントリなどの全体のシステムのサイズをさらに増大させ得る。
【0006】
したがって、荷電ハドロン放射線治療において、ペンシルビームの走査システムのサイズおよび重量を低減する要望が在る。残念ながら、サイズおよび重量を低減させると、より小さい治療処置の場のサイズをも招いてしまい、例えば5cmよりも大きい直径を備えるターゲットを治療するためには小さ過ぎるほどになってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態の目的は、荷電ハドロン放射線治療のための良好な手段および方法を提供することである。
【0008】
本発明の実施形態の1つの利点は、費用効率が良く、コンパクトであり、軽量の照射ビーム供給システムが、ペンシルビームによって二次元の場に渡って、例えば患者などのテーゲットを照射するために使用できることである。
【0009】
本発明の実施形態の1つの利点は、三次元の放射線量分布を放射線照射計画に応じて良好に合致して、ターゲットにおいて蓄積できることである。
【0010】
本発明の実施形態の1つの利点は、X方向におけるのみでなく、Y方向における走査をも実行することによって、時間における顕著なゲインを得られることである。
【0011】
本発明の実施形態の1つの利点は、放射線照射のための安価で簡素なシステムが提供されることであり。例えば、本システムは、第1の走査方向のみを実現するビーム偏向手段、又は第1の走査方向に加えて第2の走査方向における制限された偏向範囲のみを実現するビーム偏向手段を含む。
【0012】
本発明の実施形態の1つの利点は、照射ビーム供給システムの低い重量および小さいボリュームが達成できることであり、例えばガントリのケージのような機械的サポート及び作動構造などの構成および管理を容易化する。
【0013】
本発明の実施形態の1つの利点は、粒子ビームの照射と撮像の組み合わせが実行できることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の目的は、本発明の方法および装置によって達成される。
【0015】
本発明は、ターゲットに荷電ハドロン放射線を供給するための荷電ハドロン治療システムに関する。本システムは、上記ターゲットを支持するためのターゲット位置決めカウチであって、並進方向Y’に沿って移動するように構成される、ターゲット位置決めカウチと、第1の走査方向X及び第2の走査方向Yにおいて上記ターゲットに渡ってハドロンペンシルビームを走査するためのビーム走査手段であって、第2の走査方向が並進方向Y’と実質的に平行であり、第2の走査方向Yにおいて最大走査振幅AYを設けるように制限される、ビーム走査手段を含むビーム供給システムと、Y方向において最大走査振幅AYよりも大きいターゲットサイズに渡ってターゲットに荷電ハドロン放射線を供給するように、同期して前記並進方向(Y’)に沿ってカウチを移動するとともに同時にX方向及びY方向においてハドロンペンシルビームを走査するように構成される照射制御部とを含む。本発明の実施形態の利点の1つは、ターゲットの並進を用いることにより、より効率的な放射線照射が達成でき、より短い全体の照射セッションの結果となり得ることである。本発明の実施形態の利点の1つは、放射線照射に利用可能な空間は制限されているのだが、カウチの移動によって、大きい走査の場が得られることである。
【0016】
本システムは、照射されることとなるターゲットの様々な部分の照射のシーケンスを決定するための照射シーケンサをさらに含んでもよい。照射シーケンサは、シーケンスを決定するためにカウチの移動を考慮に入れる。本発明の実施形態の利点の1つは、ターゲットの全ての必要な部分が正確に照射されるにも関わらず、走査技術を用いることにより、より短い全体の照射セッションが得られることである。
【0017】
本システムは、第2の走査方向において荷電ハドロン粒子ビームのビーム側方の伝送を制限長さに制限する、ビーム走査手段の下流の構成要素を含んでもよい。そして、走査振幅AYは、制限長さよりも小さく制限される。本発明の実施形態の利点の1つは、放射線照射のユーザの時間効率は増大するが、照射されることとなるターゲットのボリュームは未だ正確で全体に照射できることである。なぜなら、ターゲットにおける点の所定の放射線の順番に応じてターゲットの並進を用いることにより、及び/又は照射ビームを並進することによるためである。
【0018】
照射シーケンサは、患者の治療処置計画に応じたターゲットにおけるスポット位置を走査するためのシーケンスを決定するようにプログラムされてもよい。スポット位置は、患者の治療処置計画の様々なエネルギーレイヤの一部であり、シーケンスは、カウチの移動を引き続き考慮に入れて照射されることとなるターゲットのサブボリュームを規定する。
【0019】
サブボリュームは、偏菱形状のサブボリュームまたは矩形状のサブボリュームであってもよい。平行六面体の角度の1つは、ターゲットの並進速度の関数として決定されてもよい。本発明の実施形態の利点の1つは、矩形の直方体とは異なる形状のサブボリュームの使用は従来の走査と比較してターゲットの異なる点の照射の順番における変更を意味するが、そのような形状のサブボリュームの使用が、ターゲットの一部が正しく照射されなくならずに、ターゲットの移動の期間中に照射してより短い照射セッションの結果となることを許容することである。
【0020】
上記ターゲットに渡ってハドロンペンシルビームを走査するためのビーム走査手段は、所定の時間幅の期間中にカウチ上でターゲットの並進に同期して荷電ハドロン粒子ビームの並進を提供するようにプログラムされてもよい。荷電ハドロン粒子ビームの並進速度は、ターゲットの並進速度と同一にできる。並進速度は、実質的に一定速度であり得る。本発明の実施形態の利点の1つは、照射セッションの期間中に著しい加速が課されることかないことである。ターゲットの並進は、カウチに対するターゲットの移動の補償を除いて、実質的に直線的であり得る。
【0021】
ビーム供給システムは、ターゲットの周りにペンシルビームを回転するように適用されるガントリをさらに含んでもよい。
【0022】
治療システムは、ターゲットの少なくとも一部の二次元または三次元の画像を決定するための撮像手段をさらに含んでもよい。本発明の実施形態の利点の1つは、撮像手段が、ターゲットの放射照射のための正確な位置決めを検査又は照合することを可能にし、その結果、照射されるべきでないターゲットの部分をより少ない損傷にすることを可能にするように提供されることである。
【0023】
撮像手段は、磁気共鳴撮像システムを含んでもよい。磁気共鳴撮像システムは、ターゲットにおける原子核の磁気モーメントを配列するための磁場を生成するための磁石を含む。ビーム供給手段は、磁石の第1の部分と第2の部分の間のギャップを通してターゲットの方向に荷電ハドロンペンシルビームを向けるように配置され、ギャップは、ペンシルビームのための伝送の最大領域を決定する。
【0024】
ペンシルビームのための伝送の最大領域は、通常、ペンシルビームの走査を用いて出自に照射可能なターゲットに対する最大照射領域であり得る。磁気共鳴撮像システムは、磁場がカウチのY’軸に、すなわちカウチの並進の方向に実質的に平行であるように構成され得る。
【0025】
本発明は、ターゲットに荷電ハドロン放射線を供給するための方法にも関する。本方法は、並進方向(Y’)においてターゲットとともにカウチを移動することステップと、第1の走査方向(X)及び第2の走査方向(Y)において上記ターゲットに渡ってハドロンペンシルビームを走査するステップであって、第2の走査方向が並進方向Y’と実質的に平行である、走査するステップとを含む。第2の走査方向(Y)において走査するステップは、最大走査振幅AYまでに制限される。前記カウチを移動するステップと前記走査するステップとは、Y方向において最大走査振幅AYよりも大きいターゲットサイズに渡ってターゲットに荷電ハドロン放射線を供給するように、同期して同時に実行される。本方法は、ターゲットにおける様々な照射深さに、及び/又はターゲットにおける様々な部分に対応するビームエネルギー設定のシーケンスの各ビームエネルギー設定に対して荷電ハドロン粒子ビームのエネルギーを順次設定するステップを含んでもよい。そして、本発明は、第1の走査方向及び第2の走査方向によって規定される平面におけるラスタの走査パターンにおいて、ターゲットに渡って荷電ハドロン粒子ビームを走査するステップを含み得る。本方法は、ターゲットの並進およびターゲットに渡る荷電ハドロン粒子ビームの走査の間に荷電ハドロン粒子ビームのビーム電流を変調するステップを含んでもよい。前記ビーム電流を変調するステップは、所定の患者の治療処置計画を考慮に入れることによって実行される。
【0026】
本方法は、ターゲットの照射期間中の所定の時間幅の期間中にターゲットを並進するステップに同期して荷電ハドロン粒子ビームを並進するステップを含んでもよい。
【0027】
本方法は、患者の治療処置計画に応じたターゲットにおけるスポット位置を走査するための所定のシーケンスに応じてビームを走査するステップを含んでもよい。スポット位置は、患者の治療処置計画の様々なエネルギーレイヤの一部であり、シーケンスは、カウチの移動を引き続き考慮に入れて照射されることとなるターゲットのサブボリュームを規定する。
【0028】
サブボリュームは、偏菱形状である、又は矩形の直方体形状でない。
【0029】
本方法は、ターゲットに関する更なる情報を取得するために、ターゲットの少なくとも一部の二次元または三次元の画像を取得するステップを含んでもよい。
【0030】
画像を取得するステップは、ターゲットの荷電ハドロン照射セッションの期間中に磁気共鳴撮像を実行するステップを含んでもよい。
【0031】
荷電ハドロン治療システムを制御するためのコントローラであって、コントローラは、並進方向(Y’)に沿ってカウチ上でターゲットの並進を制御するようにプログラムされる。コントローラは、第1の走査方向(X)及び並進方向(Y’)に実質的に平行である第2の走査方向(Y)において上記ターゲットに渡るハドロンペンシルビームの走査を制御するようにプログラムされる。コントローラは、最大走査振幅AYにより第2の走査方向(Y)におけるハドロンペンシルビームの走査を制御するように適用される。コントローラは、Y方向において最大走査振幅AYよりも大きいターゲットサイズに渡ってターゲットに荷電ハドロン放射線を供給するように、同期して並進方向(Y’)に沿ってカウチを移動するとともに同時にX方向及びY方向においてハドロンペンシルビームを走査するように適用される。
【0032】
コントローラは、上述の方法を実行するために、ビーム供給システムを制御するようにプログラムされてもよい。
【0033】
本発明は、上述の荷電ハドロン放射線を供給するための方法を、コンピュータ上で実行する場合に、実行するための命令の組を含む、コンピュータプログラムプロダクトおよびデータキャリアにも関する。
【0034】
本発明の特定の好ましい形態は、独立請求項および従属請求項に付随して定められる。従属請求項からの特徴は、適宜、請求項において単に明示的に定められていなくとも、独立請求項の特徴に組み合わされてもよいし、他の従属請求項に組み合わされてもよい。
【0035】
本発明の上記の及びその他の形態は、以下に記載の実施形態の参照から明らかとなり、以下に記載の実施形態の参照により説明される。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図面は、概略説明のためのみであって非限定的である。図面において、幾つかの要素のサイズは誇張されていることがあり、説明目的のためスケールに従って描かれていないこともある。
【0038】
特許請求の範囲における何れの参照符号も、限定する目的として解釈されることはない。異なる図面において、同一の参照符号は同一または類似の要素を参照する。
【0039】
本発明は、特定の実施形態に関して、特定の図面を参照して説明されるが、本発明はそれらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。記載される図面は、概略説明のためのみであって非限定的である。図面において、幾つかの要素のサイズは誇張され得、説明目的のためのスケールに描かれていない。寸法および相対的な大きさは、本発明の実施に対して実際の簡素化に対応しない。
【0040】
更に、本明細書および特許請求の範囲における第1および第2などの用語は、同様の要素の間を区別するために用いられるのであって、時間的に、空間的に、順位における又は何れの他の方法における順番を説明するために必ずしも用いられない。そのように用いられる上記の用語は、適切な状況下で交換可能であり、そして本明細書において記載される発明の実施形態は、本明細書に記載され、或いは図示された順番とは別の順番における動作が可能であると理解される。
【0041】
さらには、本明細書および特許請求の範囲における、上部の、及び下になどの用語は、説明目的であって、必ずしも相対的な位置を説明するために用いられない。そのように用いられる上記の用語は、適切な状況下で交換可能であり、そして本明細書において記載される発明の実施形態は、本明細書に記載され、或いは図示された向きとは別の向きにおける動作が可能であると理解される。
【0042】
特許請求の範囲において用いられる用語「含む」は、そこに列挙される手段に限定されるものとして解釈されるべきではないものである。この用語は、他の要素またはステップを排除しない。つまり、参照して言及される特徴、整数、ステップ又は構成要素の存在を特定するものとして解釈されるが、他の1つ以上の特徴、整数、ステップ、若しくは構成要素、又はそれらの組み合わせの存在または追加を禁止しない。そのため、表現「手段Aと手段Bとを含む装置」の範囲は、構成要素Aと構成要素Bのみから成る装置に限定されるべきでない。上記の表現は、本発明に関して、単に関連する装置の構成要素が構成要素Aと構成要素Bであることを意味する。
【0043】
本明細書を通して「或る実施形態」または「実施形態」とする参照は、実施形態に関連して記載される、特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。そのため、本明細書を通した種々の箇所における文言「或る実施形態において」または「実施形態において」の出現は、必ずしも全て同一の実施形態を参照してはおらず、同一でもあり得るものである。さらには、特定の特徴、構造または特性が、1つ以上の実施形態において、本開示から当業者にとって明らかと思われる何れの適切な方法に組み合わされてもよい。
【0044】
同様に、本発明の例示の実施形態の記載において、本発明の種々の特徴は、本開示を合理化する目的、及び1つ以上の発明の形態の理解において助力する目的のために、単一の実施形態、図面またはその説明において共に組み合わされることがある。しかしながら、この本開示の方法は、特許請求の範囲の発明が各請求項において明示的に言及された特徴よりも多い特徴を要求する示唆を反映するものとして解釈されることはない。むしろ、後続する請求項が反映することとして、発明の形態は、単一の先行する開示された実施形態の全ての特徴よりも少ないものである。そのため、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、これによって、各請求項が本発明の別個の実施形態として独自に画定して、この詳細な説明の中に明示的に組み込まれる。
【0045】
さらには、本明細書に記載される幾つかの実施形態は、他の実施形態において含まれる、幾つかだが別ではない特徴を含むものの、様々な実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内にあり、当業者によって理解されるように様々な実施形態を形成することを意味する。例えば、後述する請求項において、請求された実施形態の何れも、何れの組み合わせにおいても用いられ得る。
【0046】
本明細書に提供される説明において、数多くの特定の細部が明記される。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの特定の細部なしで実施され得る。他の例においては、既知の方法、構造および技術が、本記載の理解を不明瞭にしないために、細部において示されていない。
【0047】
図1において、本発明の実施形態に係る荷電ハドロン放射線治療システム100の構成を概要として示す。このようなシステムは、荷電ハドロン放射線源102と、ビーム輸送ライン105と、ビーム供給システム10とを含み得る。ビーム輸送ライン105は、荷電ハドロン放射線源102によって生成される粒子ビーム11を受容し、粒子ビームをビーム供給システム10に誘導する。ビーム輸送ライン105は、例えば、粒子ビームがこれに沿って誘導される少なくとも1つの真空ダクトと、粒子ビームの方向を変更する、及び/又はビームの焦点を調整するための、例えば双極子及び/又は四重極子の電磁石などの複数の磁石とを含み得る。このようなシステムは、複数のビーム供給システム10をも含んでもよい。この場合において、ビーム輸送ライン105が、例えば複数のビーム供給システムに亘ってビームを分割することによって、及び/又は複数のビーム供給システムのうちの1つにビームを選択的に向けることによって、複数のビーム供給システム10に亘って粒子ビームを配分するように適用される。荷電ハドロン放射線源102とビーム供給システム10とは、放射線の安全性の配慮を考慮に入れて、分離して遮蔽された部屋において配置されてもよい。
【0048】
荷電ハドロン放射線源102は、入射装置と加速器とを含み得る。荷電ハドロン放射線源102において、入射装置101は、例えば陽子、又は炭素イオンなどの陽イオンなどの荷電ハドロン粒子を生成する。加速器104は、例えば、60MeV〜350MeVの範囲におけるピークエネルギーにたとえば加速され得る陽子を含む陽子ビームなどの高エネルギーの荷電ハドロン粒子ビームを提供するように、荷電ハドロン粒子を加速する。加速器は、例えばサイクロトロン、シンクロトロン又はシンクロサイクロトロンを含んでもよい。荷電ハドロン放射線源102は、例えば加速器によって加速される粒子ビームのエネルギーを調整するためのコントローラなどのエネルギー選択手段103をも含んでもよい。エネルギー選択手段103は、例えば吸収体ブロック、磁気エネルギー選択磁石および/またはコリメータなどを用いる、加速器の出力ビームを選択されたエネルギーの範囲に減衰するためのエネルギーデグレーダを含み得る。ビーム供給システム10は、例えば治療処置室を含み、及び/又は治療処置室において配置され得る。
【0049】
第1の形態において、本発明は、
図2においてその一部分を示す、ターゲットに荷電ハドロン放射線を供給するための荷電ハドロン治療システムに関する。治療システムは、ターゲットを支持するためのターゲット位置決めカウチ15を含む。本発明の実施形態によると、ターゲット位置決めカウチ15は、並進方向(Y’)に沿って移動するように構成される。ターゲット位置決めカウチ15は、動力式の放射線治療の患者支持アセンブリであってもよく、例えば放射線治療の期間中に患者を支持するように意図される電動式の調整可能なカウチを含んでもよい。そのため、動力式の位置決めカウチ15は、例えば患者などのターゲットが放射線照射の期間中に支持され得る表面を含んでもよい。動力式の位置決めカウチ15は、少なくとも1つの方向Y’に沿ってターゲットを並進するために、例えば少なくとも1つの電気的、空気圧式又は油圧式のアクチュエータなどの少なくとも1つのアクチュエータを含み得る。しかしながら、好ましい実施形態において、動力式の位置決めカウチ15は、何れの方向に沿ってもターゲットを並進するように適用されてもよい。例えば、動力式の位置決めカウチ15は、ターゲットを並進するための3つの自由度を提供してもよい。動力式の位置決めカウチは、例えばハドロン粒子ビーム11を伝播する方向に対してターゲットを位置決めするための6つの自由度を提供するべく、ターゲットを回転するようにも適用されてもよい。
【0050】
本システムは、ターゲットにビームを供給するためのビーム供給システム10をも含む。本発明の実施形態に係るビーム供給システム10は、ビーム走査手段を含む。このようなビーム走査手段は、例えばビーム偏向手段13でもあり得る。ビーム偏向手段13は、例えば、ターゲット19に渡る荷電ハドロン粒子ビーム11を走査するための、例えば走査用電磁石などの少なくとも1つの電磁石であり得る。ビーム走査手段は、幾つかの実施形態において追加して、ターゲットに対して、或いは治療システムの構成要素に対して、より一般的に位置決めする、再位置決めする、または荷電ハドロン粒子ビームの一般的な移動をも提供するようにも適用されてもよい。ビーム走査手段は、少なくとも1つの方向において走査するように適用されてもよいが、第1の走査方向X及び第2の走査方向Yにおいて家電ハドロン粒子ビームを走査するように適用されることが好ましい。例えば、第2の走査方向Yは、第1の走査方向Xに実質的に直交、または直交する。第2の走査方向Yは、カウチによって提供される並進の並進方向Y’と実質的に同一直線上にあり得、例えば並進方向Y’と同一直線上にあり得る。そのため、ビーム走査手段は、ペンシルビームとしてターゲット19に渡る荷電ハドロン粒子ビーム11を走査するように適用され得る。ビーム走査手段13は、例えば、少なくとも1つの電磁石を含み得、その制御信号に応じて磁場の強さを変えるための制御信号を受信する。すると、磁場の強さは、連続的な走査モードまたは段階的な走査モードにおいて走査方向に沿って規定される位置の範囲に渡って荷電ハドロン粒子ビームを偏向するために、例えばターゲットにおける点のラスタを走査するように、連続的又は段階的に変えられ得る。
【0051】
ガントリの構成において、ビーム偏向手段13は、ガントリにおける最後の曲げ双極子に対して、上流の、下流の、または一部上流で且つ一部下流の構成において実装されてもよい。
【0052】
治療システムは、通常、照射制御手段16としても参照する照射コントローラをも含む。制御手段は、通常、方向X,Yにおけるハドロンペンシルビームの走査を制御するとともに、後述するように、走査と同時で且つ同期してカウチの移動を制御するように構成される。そのため、治療システムは、最大走査振幅AYよりもY方向において大きいターゲットサイズに渡って、ターゲットに荷電ハドロン放射線を供給する。
【0053】
制御手段は、本応用のために適用されるソフトウェアを備える、一般用途のプログラム可能なコントローラ又はコンピュータシステム、または例えば特定用途向け集積回路(ASIC)を含む、専用のデジタル処理及び制御ハードウェアシステムであってもよい。制御手段は、シーケンサ25に直接の接続にあってもよいし、一部分の接続であってもよい。
【0054】
走査の期間中に、制御手段は、少なくとも1つの方向においてだが好適にはX方向及びY方向において、例えば正弦波、三角波または傾斜波の形状の変化などというような、荷電ハドロン粒子ビームの偏向の時間の関数として、ビーム偏向手段13を制御する。そのため、制御手段は、ビーム偏向手段において、電磁石の磁場の強さを決定するための制御信号に適切な波形パターンを供給し得る。これに代えて、ビーム偏向手段13は、点のラスタに応じて段階的にビームを位置決めするように適用されてもよい。追加の選択肢として、本システムは、例えば、治療の期間中にビーム電流及びエネルギーを制御するための(図示しない)ビーム強度変調手段及び/又はビームエネルギー変調手段などの、(図示しない)ビーム電流変調手段をも含んでもよい。これに代えて、且つより一般的に、ビームエネルギーは、先行技術において知られるように、例えばシンクロトロンまたはサイクロトロンなどのビーム線源にて、又はビーム線源の近傍にて選択されてもよい。
【0055】
先行技術において知られるように、ビームの走査は、X走査及びY走査のみに限定されず、z方向における走査をも含んでもよい。ビームのエネルギーを変えることにより、深さ寸法に渡る走査が、例えばビームの貫通深さを変えることにより、本発明に係る実施形態によっても達成され得る。そのため、放射線照射計画に応じて好ましい又は等角の三次元放射線量分布が、ターゲットにおいて蓄積され得る。走査は、ターゲットにおけるより深いレイヤからターゲットにおけるより浅いレイヤに実行されることが好適である。
【0056】
本発明の実施形態によると、Y方向における走査は制限され得る。例えばシステムの構成要素がビームの伝送を制限し得、そのため放射線照射が例えばY方向などの1つの方向において、制限長さに渡ってのみ実行できる。
【0057】
本発明の実施形態によると、放射線照射の可能性における上記の制限は、ターゲットを並進することにより、解決される。制御手段16は、例えば一定の直線的モーションなどで並進方向Y’においてターゲット19を並進するべく、位置決めカウチ15を制御するようにプログラムされ得る。並進方向は、例えば第1の走査方向Xと同一直線上にない並進方向であってもよいが、好ましくは第1の走査方向Xに実質的に直交又は直交する並進方向であってもよい。並進方向は、例えば第2の走査方向Yと実質的に同一直線上又は同一直線上の並進方向Y’であってもよい。上述したように、制御手段は、ターゲットの並進を制御すると同時に、ターゲットを粒子ビームによって走査するようにプログラムされる。走査期間中に上記の並進を実行することによって、短い照射セッションが好適に達成できる。ターゲットの十分に大きいボリュームを得るために、ターゲットの様々な部分が引き続き照射される。例えば、本システムが、例えば構成要素のブロックによって、1つの方向においてビームの伝送に対する制限長さを有する場合、ターゲットは、通常、その方向において並進され、そのため、ビームの視野の場においてターゲットの部分を引き続きもたらす。すると、これらの部分は、1つ以上のサブボリュームの走査においてこれらの部分を走査することによって、照射される。以上の方法において、より大きいターゲットボリュームが、ターゲットの好適な同期並進によるビームによって、走査され得るために、偏向の制限された範囲のみが第2の走査方向において要求される。例えば、第2の走査方向における偏向の制限された範囲は、偏向の小さい範囲のみを提供し得る双極子磁石によって提供され得る。例えば、ターゲット上で規定されるビームの入射平面において、最大10cm、若しくはより小さく例えば5cm、または更に小さく例えば3cmで、ビームを偏向する。走査範囲は、走査方向における制限長さ以下であり得る。
【0058】
特定の実施形態において、ターゲットは基準位置において位置し得、基準位置から放射線照射の手順が開始される。このような手順の間に、制御手段は、例えばターゲットの一定の直線的モーションなどのターゲットの移動を維持し得る。たとえば、制御手段は、X方向及びY方向において測定のための領域を走査している間に、Y軸に沿って1〜5mm毎秒の範囲における速度を維持し得る。速度は、例えば1mm/sよりも低いなど、より小さくあってさえもよく、例えば大きい腫瘍のために有利であり得る。或いは、速度は、例えば1cm/sまで又は1cm/sを超えるなど、より大きくてもよく、例えば(きわめて高速の走査との組み合わせにおいて)小さい腫瘍のために有利であり得る。速度は、患者の快適性の関数として、腫瘍の特性の関数として、患者の治療処置の特性及び実績の関数として、又はそれらの組み合わせの関数として決定され得る。
【0059】
或る実施形態において、制御手段は、ターゲットの様々な点が照射される特定の順番を選択することによって、ターゲットの移動に対して照射を補償するようにプログラムされてもよい。そのため、本システムは、患者の治療処置計画に応じてターゲットにおけるスポット位置を走査するためのシーケンスを決定するためのシーケンスを決定するための照射シーケンサ25を含み得る。スポット位置は、患者の治療処置計画の様々なエネルギーレイヤの一部であり得る。シーケンサは、カウチの移動を考慮に入れて引き続き照射されることとなるターゲットのサブボリュームを規定するシーケンスを決定し得る。カウチの移動を考慮に入れることは、様々なサブボリューム全体がターゲット照射されることとなるボリュームを覆うことを保証するために、カウチの速度を考慮に入れることを含み得る。このことは、様々なサブボリュームが隣接することを保証することを含み得る。カウチの移動を考慮に入れることは、照射される位置のシーケンスにおいて、照射のタイミングを制御するための移動速度を考慮に入れることをも含み得る。特定の実施形態において、後述するように、例えば走査されることとなるターゲットボリュームの側部に位置していないサブボリュームなどの、典型的に走査され得るサブボリュームは、偏菱形状のサブボリュームであり得る。
【0060】
照射シーケンサ25は、照射制御部16の一部であってもよい。或いは、照射シーケンサ25は、外部の治療計画システム(TPS)の一部であってもよい。
【0061】
他の実施形態において、制御手段は、ターゲットの移動に対して照射を補償するようにプログラムされてもよい。その場合、ボリュームの正確な照射は、ビームがターゲットの第1のサブボリュームの走査の期間中に移動するターゲットに同期して移動されるように、そして、移動するターゲットに同期して照射ビームを再度移動する間に後々更なるサブボリュームを走査する照射ビームを再度位置決めするように、ビーム走査システムを制御することによって達成される。この処理は、全てのサブボリュームが走査されるまで繰り返され得る。換言すると、制御手段は、ターゲットの並進の関数として荷電ハドロン粒子ビーム11の位置決めを制御するようにプログラムされ得る。また、シーケンサは、ターゲットの様々なスポットを照射するための本来のシーケンスを決定するように用いられ得る。
【0062】
図3は、本発明に係る制御部によって制御されるとおりのシーケンサ25によって実行される第1の例示の放射線照射シーケンスを示す。例えば、シーケンスは、複数のバッチB1,B2,…を含み得る。ビームエネルギーは、例えば所定のステップ数において最大の所定深さから最小の所定深さにまで繰り返す各バッチにおいて、ターゲットにおける深さ寸法Zに沿った複数の放射線量の蓄積の深さレイヤに亘って繰り返すように、段階的に変えられる。各深さレイヤのステップにおいて、偏向手段は、第2の走査方向に渡って走査するように制御され得る。第2の走査方向は並進方向Yと同一直線上にある。例えば、Y方向に沿った複数の点は、各深さレイヤのためのビームによって到来され得る。ターゲットの並進によって、次の深さレイヤは、以前の深さレイヤの開始点に対するオフセットである、ターゲットにおける点において開始される。オフセットのステップは、並進及び走査速度によって決定される。複数の深さのステップが1つのバッチB1のために実行された場合、次のバッチB2は、次のバッチB2の第1の深さレイヤにおける第1の点がY軸に沿ったターゲットの連続的な直線的モーションにより、治療処置計画に応じて照射されることとなる次の点に配列するときに、開始を時間合わせされ得る。例えば、手順のための適切な並進速度を選択することによって、或いはバッチ内部時間の短い遅延を含むことによって、次のバッチB2は時間合わせされ得る。このシーケンスを得るための1つの方法はカウチの移動に合致して追加のビーム並進を誘導することにより、そのため、バッチの走査期間中に、ターゲットの並進は照射ビームの追加の並進によるように全体的に補償される。ビームの伝送に対する制限長さによって生じる制限は、異なるバッチの走査の間におけるビームの再位置決めによって解決できる。
図3において示す照射の概要によって明確であるように、到来される各点において、第1の走査方向Xに渡るスイープは、当業者にとって自明であるように、より短い時間フレームにおいても実行されてもよい。例えば、Y方向走査が3Hzにて実行され得る一方、X方向走査はより高い周波数、例えば30Hzにて実行される。
【0063】
図4は、代替的な放射線照射シーケンスを示す。このシーケンスは、上述の例と類似しており、例えばこのシーケンスは、複数のバッチをも含む。複数のバッチにおいて、ビームエネルギーが深さ寸法Zに沿った放射線量の蓄積の深さレイヤに亘って繰り返すように段階的に変えられるが、ターゲットの様々なサブボリュームはバッチ毎に走査される。そのため、各深さレイヤのステップにおいて、偏向手段は、並進方向Yと同一直線上にある、第2の走査方向に渡って走査するようにも制御される。しかしながら、到達可能な偏向の全制限長さは、各深さレイヤに対して用いられない。その代わりに、偏向範囲のウィンドウが、バッチにおける各深さレイヤの第1の点が、ターゲットの移動に関わらず配列されるように用いられる。例えば、深さレイヤに亘る各走査のための開始位置が、単一の深さレイヤの経路の時間に亘る直線的モーションによりターゲットによって横断される距離に対して補償するように、並進方向においてシフトされる。
【0064】
複数の離散点が
図3及び
図4において図示されたが、このことは、例えばパルス出力の照射などの離散的な手順が必ずしも用いられることを意味しない。本発明の実施形態は例えば患者などのターゲットにおける三次元ボリュームに渡って分散される複数の離散点における放射線量の、パルス出力の蓄積であってもよいが、実施形態は、連続的な放射線量の蓄積のプログラムを等価に含んでもよい。例えば、ビームが方向付けされるターゲットにおける現在点と所定の照射計画に応じてビームの強度を連続的に変えることによる、連続的な放射線量の蓄積のプログラムである。そのため、ペンシルビームの走査方法は、時間に対して連続的に走査を実行するラスタの方法、および時間に対して段階的に走査を実行するスポットの方法をも含んでもよい。
【0065】
ビーム供給システム10は、荷電ハドロン放射線治療システム100においてビーム輸送ライン105から荷電ハドロン粒子ビーム11を受容するための結合手段をも更に含んでもよい。すると、受容したビーム11は、ターゲットに対して、例えばビーム偏向手段を介して向けられ得る。
【0066】
図1に示す実施形態に係る本システムは、例えば治療処置室において固定されたビーム配置に対応し得る。このような実施形態に係る本システムは、放射線照射のための安価で簡素なシステムの利点を提示する。例えば、本システムは、第1の走査方向のみを実装するビーム偏向手段、又は第1の走査方向に加えて第2の走査方向において制限された偏向範囲のみを実装するビーム偏向手段を含む。
【0067】
しかしながら、本発明の実施形態は、固定されたビーム配置に限定されない。例えば、
図5において概略図示するとおりの本システムにおいて、ビーム供給システム10は、ターゲットに対する様々な角度からのビームの供給を許容するガントリ20をも含む。例えば、このようなシステムは、先行技術において現在知られるように、回転筒かごと、ビーム輸送ラインとを含んでもよい。ビーム輸送ラインは、例えば結合手段21から、可変の角度からターゲットに対して荷電ハドロン粒子ビームを供給するように適用されてもよい。ガントリは、並進軸Yと実質的に同一直線上にある軸の周りの照射角度を選択するように適用されてもよい。本発明に係るこのような実施形態は、ガントリの重量及びボリュームが低減し得、これによって機械的サポート及び作動構造の構成及び管理を容易化する利点を有する。
【0068】
さらに、本実施形態に係るビーム供給システム10は、
図6に示すように、ターゲットの少なくとも一部の二次元又は三次元の画像を決定するための、例えば医療撮像システムなどの撮像手段30をも含んでもよい。撮像手段30は、例えば、X線撮像装置を含んでもよく、例えば、少なくとも1つのフラットパネルデジタルX線撮像部、若しくはコンピュータ断層撮像部、超音波検査部、光学撮像部、磁気共鳴部、またはこのような撮像手段の組み合わせであってもよい。
【0069】
制御手段16は、そのような撮像手段30によって決定される二次元又は三次元の画像から導かれる入力信号を受信するように適用されてもよい。そして、制御手段16は、例えば偏向手段13及び/又は動力式の位置決めカウチ19などのビーム供給システムを制御する間に、このような入力信号を考慮に入れるように適用されてもよい。そのような情報は、例えば、放射線治療の分野において知られるゲーティング技術を実装することによって用いられ得る。これに代えて、又は加えて、現在のビーム方向及び貫通深さに対するターゲットにおけるターゲット構造の相対位置は、例えば放射線照射の期間中にビーム強度を動的に調整するために、画像中に取り込んで決定されてもよい。
【0070】
ビーム供給システムにおける撮像手段30は、ハドロンビームの伝送または荷電ハドロンビームが投射され得る自由な空間角度の上に、制限を課し得る。例えば、撮像手段30は、磁気共鳴撮像システムを含み得る。磁気共鳴撮像システムは、通常、磁場を生成するための手段を含み、例えば、0.2T〜7.0Tの範囲におけるなどの、さらには1.0T〜4.0Tの範囲におけるなどの強い磁場を生成する大型磁石が、ターゲットにおける原子核、例えば特に水素の原子核の磁化を配列するように用いられる。
【0071】
荷電粒子治療処置と磁気共鳴撮像の組み合わせは自明ではないかもしれないが、このような組み合わせのシステムの実装は、先行技術において知られている。例えば、先行技術において、磁気共鳴撮像スキャナと荷電ハドロン粒子照射システムの組み合わせは、磁場のデータを用いて粒子ビームの補正された軌道を計算するための軌道計算手段を含み得ることが知られている。
【0072】
画像を取得する間に放射線照射されているターゲットボリュームの磁気共鳴撮像を可能にするために、オープンボア磁石を用いることが知られている。オープンボア磁石において、ボアセグメントの間のギャップは、これを通して粒子ビーム投射するように用いられる。そのため、本実施形態に係るビーム供給システムは、ターゲットにおける原子核の磁気モーメントを配列するように磁場を生成するためのオープンボア磁石を含む磁気共鳴撮像システムを含み得る。荷電ハドロン粒子ビーム11は、オープンボア磁石の第1ボア部分31と第2ボア部分32との間のギャップ33を通してターゲット19の方向に向けられ得る。しかしながら、充分な画像の品質を維持するために、例えば放射線治療において通常要求される空間解像度を達成するために、オープンボア磁石におけるギャップ幅は、小さいことが好ましい。例えば10cmよりも小さく、さらにたとえば5〜9cmの範囲にあることが好ましい。本発明の実施形態は、Y軸に沿ってターゲットを並進することにより、そのようなギャップによって許容される幅よりも実質的に大きいターゲットにおける治療処置のボリュームを効率的に照射するための手段を提供する。Y軸は、小さいギャップによって許容される範囲に渡って照射ビームを走査する間に、オープンボア磁石の縦軸と同一直線上にあり得る。
【0073】
第2の形態において、本発明は、荷電ハドロン治療システムを制御するためのコントローラにも関する。本発明の実施形態に係るコントローラは、並進方向(Y’)に沿ったカウチ上でのターゲットの並進を制御するように、且つ第1の走査方向(X)、及び並進方向(Y’)に実質的に平行である第2の走査方向(Y)において上記ターゲットに渡るハドロンペンシルビームの走査を制御するようにプログラムされる。コントローラは、本発明の実施形態に応じて、最大走査振幅AYによる第2の走査方向(Y)におけるハドロンペンシルビームの走査を制御するように適用される。コントローラは、上記並進方向(Y’)に沿ったカウチの移動と、X方向及びY方向におけるハドロンペンシルビームの走査とを同時に同期して行うようにも適用される。そのため、Y方向において最大走査振幅AYよりも大きいターゲットサイズに渡って、ターゲットに荷電ハドロン放射線を供給する。コントローラは、第1の形態において記載したとおりのシステムにおける使用に特に適し得る。さらに、追加の選択肢の特徴は、第1の形態において記載したとおりの特徴に対応し得る。
【0074】
第3の形態において、本発明は、ターゲットに荷電ハドロン放射線を供給するためのビーム供給方法50にも関する。本発明の実施形態によると、本方法は、並進方向(Y’)におけるターゲットとともにカウチを移動することと、第1の走査方向(X)及び第2の走査方向(Y)において上記ターゲットに渡ってハドロンペンシルビームを走査することとを含む。第2の走査方向は並進方向Y’に実質的に平行である。第2の走査方向(Y)において走査する治療は、最大走査振幅AYに制限される。カウチの移動および更なる走査は、同時に同期して実行され、そのため、Y方向において最大走査振幅AYよりも大きいターゲットサイズに渡って、ターゲットに荷電ハドロン放射線を供給する。本発明は、第1の形態において記載したとおりのシステムを用いて好適に実行され得る。さらには、本方法は、追加の選択肢として、第1の形態に係るシステムの要素のために説明した装置の特徴の機能を実現する追加のステップを含んでもよい。
【0075】
本発明の実施形態に係る例示の方法は、
図7において説明目的で概略図示される。このような方法は、並進方向Yに沿って一定の直線的モーションにおいてターゲット19を並進すること51と、ターゲット19の方向に荷電ハドロン粒子ビーム11を向けること52とのステップを含む。方法50は、このような荷電ハドロン粒子ビーム11を生成することと、ターゲット19の並進51を開始する前に荷電ハドロン粒子ビーム11のビーム基準位置に対する初期基準位置にターゲット19を位置決めすることとをも含み得る。本方法は、ターゲット19のための治療処置計画を取得することをも含み得る。治療処置計画は、ターゲット19中に蓄積するためのターゲットの空間的な放射線の放射線量分布を規定する。
【0076】
方法50は、ターゲット19に渡って荷電ハドロン粒子ビーム11を走査するようにターゲット19を並進する間に、第1の走査方向Xに沿って荷電ハドロン粒子ビーム11を偏向すること53をさらに含む。第1の走査方向Xは、方向Yと同一直線上になく、例えば並進方向Yに直交し得る。そのため、走査方向Xにおけるターゲット19に渡る荷電ハドロン粒子ビーム11の走査、及びそれと同時の並進方向Yにおけるターゲットの並進モーションによってターゲット19上に方向X及び方向Yにより規定される平面において規定される所定の領域を覆う。
【0077】
方法50は、ビームエネルギー設定のシーケンスの各ビームエネルギー設定に対して荷電ハドロン粒子ビーム11のエネルギーを順次設定すること54をも含んでもよい。例えば、各設定は、ターゲットにおけるピーク放射線の放射線量の蓄積の異なる深さの飛程を規定する。そのため、本方法は、ターゲット19に渡って荷電ハドロン粒子ビーム11を走査するように第1の走査方向Xに沿って荷電ハドロン粒子ビームを偏向することの各ビームエネルギーのための設定を含み得る。
【0078】
方法50は、第1の走査方向及び第2の走査方向によって規定される平面におけるラスタの走査パターンにおいて、ターゲット19に渡って荷電ハドロン粒子ビーム11を走査するように、ターゲット19を並進する間に第2の走査方向に沿って荷電ハドロン粒子ビーム11を偏向すること55をさらに含んでもよい。
【0079】
方法50は、ターゲット19の並進およびターゲットに渡る荷電ハドロン粒子ビーム11の走査の間に荷電ハドロン粒子ビーム11のビーム電流を変調すること56をも含んでもよい。ビーム電流の変調は、例えば所定の放射線照射計画に合致する、ターゲットにおける放射線の放射線量の蓄積分布を取得するなどのように、所定の放射線照射計画を考慮に入れることによって実行される。
【0080】
更なる形態において、本発明は、プロセッサにおいて及び対応するプロセッサに対してコンピュータに実装された発明として実現されるハドロン治療システムを制御するための方法にも関する。例えば、このようなプロセッサの1つの構成は、例えばRAMやROMなどの少なくとも1つの形式を含むメモリ補助システムに結合された少なくとも1つのプログラム可能なコンピュータ演算コンポーネントを含む。コンピュータ演算コンポーネントは、一般用途または特定用途のコンピュータ演算コンポーネントであってもよいし、例えば他の機能を実行する他のコンポーネントを有するチップなどのデバイスにおいて包含されてもよいものである。そのため、本発明の1つ以上の形態は、デジタル電子回路において、若しくはコンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアにおいて、又はそれらの組み合わせにおいて実装されてもよい。例えば、本方法のステップの各々は、コンピュータに実装されたステップであってもよい。よって、先行技術にあるようなプロセッサであっても、ビーム供給によるハドロン治療システムを制御するための方法の形態を実現するための命令を含むシステムは、先行技術ではない。
【0081】
従って、本発明は、コンピュータ演算装置上で実行される場合に本発明に係る方法の何れの機能を提供するコンピュータプログラムプロダクトをも含む。
【0082】
他の形態において、本発明は、ハドロン治療システムを制御するためのコンピュータプログラムプロダクトを保持するためのデータキャリアに関する。このようなデータキャリアは、それらに明白に実現されるコンピュータプログラムプロダクトを含み得、プログラム可能なプロセッサによる実行のための機械読み取り可能なコードを保持し得る。そのため、本発明は、コンピュータ演算手段上で実行される場合に上述のとおりの何れの方法をも実行するための命令を提供するコンピュータプログラムプロダクトを保持するキャリア媒体に関する。用語「キャリア媒体」は、プロセッサに対する命令を実行するために提供することに加わる何れの媒体をも意味する。このような媒体は、多くの形式を採用し得、限定するものではないが、非揮発性媒体および伝送媒体を含む。非揮発性媒体は、例えば、マスストレージの一部であるストレージデバイスなどの光学または磁気ディスクを含む。コンピュータ読み取り可能媒体の一般的な形式は、CD−ROM、DVD、フレキシブルディスク若しくはフロッピーディスク(登録商標)、テープ、メモリチップ、若しくはカートリッジまたはコンピュータが読み取り可能なその他の何れの媒体をも含む。コンピュータ読み取り可能な媒体の種々の形式は、プロセッサに対する実行のための1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスを保持することに含まれ得る。コンピュータプログラムプロダクトは、LAN,WANまたはインターネットなどのネットワークにおいて、搬送波を介して送信され得る。伝送媒体は、無線波及び赤外線データ通信の期間中に生成されるような音波または光波の形式を取れる。伝送媒体は、同軸ケーブル、銅線、および光学ファイバを含み、コンピュータ内部のバスを含む電線を含む。
【0083】
図示説明の目的で、本発明の実施形態を限定するものではないが、
図8において照射時間のシミュレーション結果を示す。
図8により、(秒単位で)エネルギーを変更するための時間の関数としての照射時間を、様々な状況に対して図示している。このシミュレーションは、例示の1リットルのターゲットボリューム(10×10×10cm
3)に対して実行され、シグマ値が5mmのガウシアン形状を備えるビームによって走査されることを仮定している。ターゲットボリュームはエネルギーレイヤの数において分割され、各レイヤは照射されることとなるターゲットスポットの数によって分割される。各スポットに対して、スポットの放射線量を供給するために略2ms経過することを仮定している。
図8の鉛直軸は、ターゲットボリューム全体を照射するための、すなわち全てのエネルギーレイヤおよび各レイヤ内部の全てのスポットを照射するための全照射時間を示す。
図8の水平軸は、エネルギーを変更するための時間、すなわち1つのエネルギーレイヤから次のレイヤに切り替えるための時間を示す。実黒線は、基準の結果として、走査がY方向において実行されない状況を示す。さらに、照射時間は、患者の並進期間中のY方向における走査がY方向における様々な最大走査振幅に対して実行される方法のために示される。結果を、Y方向において1cm、Y方向において2cm、Y方向において4cmおよびY方向において8cmである走査振幅に対して示す。本発明の実施形態に係る、並進方向における走査及びそれと同時の患者の並進は、照射時間において大きいゲインを得る結果になる(照射時間は実質的により小さくなる)。小さい走査振幅であっても、上記の照射時間におけるゲインは、既に顕著であることが見て取れる。例えば、0.4秒のエネルギー切り替え時間に対して、且つたった2cmの最大走査振幅を用いる場合に、照射時間は、Y方向における走査が適用されない場合に略240秒である照射時間と比較して、65秒である。本出願人の陽子治療システムによって達成された現在のエネルギー切り替え時間は、1秒である。この1秒のエネルギー切り替えにより、且つ例えばY方向における2cmの最大走査振幅により、128秒の照射時間が、この例示のターゲットボリュームに対して得られる。1秒のエネルギー切り替え時間は改善され得、最終的に100マイクロ秒のオーダのエネルギー切り替え時間が達成され得ることが予測される。100マイクロ秒のエネルギー切り替え時間は、技術的に実現可能である限界にある。グラフにおいて、エネルギーを変更するための時間により到達し得る下限も示される。100マイクロ秒のエネルギー切り替え時間が達成され得たとすると、本発明に係る装置を用いてY方向における2cmの最大走査振幅を適用する場合に、照射時間は、60秒を越える時間から略30秒にまで低減される。