(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記レドックスを用いた光電変換素子に関しては、主に1sunの太陽光下の使用を想定した研究が進められており、2000ルクス以下の低照度下で使用する場合の検討はあまり行われていない。低照度下で発電させる光電変換素子は、各種センサ類などの電子機器の電源として使用されるが、これらの電子機器は3〜5V程度の電圧で動作するものが多く、例えば光電変換素子の高寿命化を図るべく、光電変換素子を直列接続せずに単セルで構成する場合にはDC−DCコンバータでの昇圧が必要となる。この昇圧の効率は、光電変換素子の開放電圧が高い方が高くなるため、光電変換素子では2000ルクス以下の低照度でも、なるべく高い開放電圧、具体的には0.9V以上の開放電圧が得られることが求められる。
【0005】
しかし、上記特許文献1記載の電解質を用いた光電変換素子は以下に示す課題を有していた。
【0006】
すなわち、光電変換素子が2000ルクス以下の低照度下で使用される場合、発生電流が少ないことから、チタニア電極などの酸化物半導体層から電子が電解質中に移動する逆電子移動反応が生じ、開放電圧が高くても0.86Vであり、0.9Vには達しなかった。
【0007】
そのため、2000ルクス以下の低照度下で光電変換素子の電解質として使用される場合に、0.9V以上の開放電圧を光電変換素子に付与することが可能な電解質が求められていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、2000ルクス以下の低照度下で光電変換素子の電解質として使用される場合に、0.9V以上の開放電圧を光電変換素子に付与することが可能な光電変換素子用電解質及び光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題が生じる原因について検討した。まず、特許文献1には、一価銅錯体のモル体積濃度と二価銅錯体のモル体積濃度の合計モル体積濃度に占める二価銅錯体のモル体積濃度比が0.05〜0.8であることが開示されている(段落0051)。しかし、電解質が、2000ルクス以下の低照度下で光電変換素子の電解質として使用される場合、1sun下での使用を目的とした光電変換素子用の電解質とは異なり、二価銅錯体の濃度比が大きいと、酸化物半導体層からの電子を受け取る二価銅錯体が増え、逆電子移動が起こりやすくなり、開放電圧が低くなりやすいのではないかと本発明者は考えた。そこで、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、一価銅錯体のモル体積濃度と二価銅錯体のモル体積濃度の合計モル体積濃度に占める二価銅錯体の濃度比率を特定の値未満とすることで上記課題を解決し得ることを見出した。
【0010】
即ち本発明は、レドックスとして、一価銅錯体及び二価銅錯体を含み、下記式で表される二価銅錯体の濃度比率Rが5%未満である、光電変換素子用電解質である。
R=100×C2/(C1+C2)
(上記式中、C1は前記電解質中の前記一価銅錯体の濃度(M)を表し、C2は前記電解質中の前記二価銅錯体の濃度(M)を表す。)
【0011】
この光電変換素子用電解質によれば、レドックスに含まれる一価銅錯体及び二価銅錯体に占める二価銅錯体の濃度比率Rが十分に小さくなる。このため、本発明の電解質が、酸化物半導体層を有する光電変換素子の電解質として使用され、2000ルクス以下の低照度の光が光電変換素子に照射されると、電解質中において酸化物半導体層からの電子の受け取り手を少なくすることで、酸化物半導体層からの逆電子移動を抑制することができる。その結果、本発明の電解質は、2000ルクス以下の低照度下で光電変換素子の電解質として使用される場合に、0.9V以上の開放電圧を光電変換素子に付与することが可能となる。
【0012】
上記光電変換素子用電解質において、前記電解質中の前記一価銅錯体の濃度C1と前記二価銅錯体の濃度C2の合計濃度が0.1Mより大きいことが好ましい。
【0013】
この場合、本発明の電解質は、電解質中の合計濃度Cが0.1M以下である場合に比べて、光電変換素子の光電変換特性をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明は、光電変換セルを備え、前記光電変換セルが、電極基板と、前記電極基板に対向する対向基板と、前記電極基板に設けられる酸化物半導体層と、前記電極基板及び前記対向基板の間に設けられる電解質とを備え、前記電解質が、上述した光電変換素子用電解質からなる光電変換素子である。
【0015】
この光電変換素子によれば、電解質において、レドックスに含まれる一価銅錯体及び二価銅錯体に占める二価銅錯体の濃度比率Rが十分に小さくなっている。このため、光電変換素子に2000ルクス以下の低照度の光が照射されると、電解質中において酸化物半導体層からの電子の受け取り手が少なくなることで、酸化物半導体層からの逆電子移動が抑制される。その結果、本発明の光電変換素子は、2000ルクス以下の低照度下で使用される場合に、0.9V以上の開放電圧を示すことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2000ルクス以下の低照度下で光電変換素子の電解質として使用される場合に、0.9V以上の開放電圧を光電変換素子に付与することが可能な光電変換素子用電解質及び光電変換素子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について
図1を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の光電変換素子の一実施形態を示す断面図である。
【0019】
図1に示すように、光電変換素子100は光電変換セル60を備えている。光電変換セル60は、電極基板10と、電極基板10に対向する対向基板20と、電極基板10に設けられる酸化物半導体層30と、酸化物半導体層30に吸着される色素と、電極基板10及び対向基板20の間に設けられる電解質40とを備えている。電解質40は、電極基板10と対向基板20とを連結する封止部50によって包囲されている。電解質40は、レドックスとして、一価銅錯体及び二価銅錯体を含んでおり、電解質40においては、下記式で表される二価銅錯体の濃度比率Rが5%未満となっている。
R=100×C2/(C1+C2)
(上記式中、C1は一価銅錯体の濃度(M)を表し、C2は二価銅錯体の濃度(M)を表す。)
【0020】
この光電変換素子100によれば、電解質40において、レドックスに含まれる一価銅錯体及び二価銅錯体に占める二価銅錯体の濃度比率Rが十分に小さくなっている。このため、光電変換素子100に2000ルクス以下の低照度の光が照射されると、電解質40中において酸化物半導体層30からの電子の受け取り手が少なくなることで、酸化物半導体層30からの逆電子移動が抑制される。その結果、光電変換素子100は、2000ルクス以下の低照度下で使用される場合に0.9V以上の開放電圧を示すことが可能となる。
【0021】
次に、電極基板10、対向基板20、酸化物半導体層30、電解質40、封止部50及び色素について詳細に説明する。
【0022】
<電極基板>
図1に示すように、電極基板10は、透明基板11と、透明基板11の上に設けられる透明導電層12とを備えている。
【0023】
透明基板11を構成する材料は、透明な材料であればよく、このような透明な材料としては、例えばホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、白板ガラス、石英ガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)などの絶縁材料が挙げられる。透明基板11の厚さは、光電変換素子100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば50μm〜40mmの範囲にすればよい。
【0024】
透明導電層12を構成する材料としては、例えばスズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(SnO
2)、及び、フッ素添加酸化スズ(FTO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。透明導電層12は、単層でも、異なる導電性金属酸化物で構成される複数の層の積層体で構成されてもよい。透明導電層12が単層で構成される場合、透明導電層12は、高い耐熱性及び耐薬品性を有することから、FTOで構成されることが好ましい。透明導電層12の厚さは例えば0.01〜2μmの範囲にすればよい。
【0025】
<対向基板>
図1に示すように、対向基板20は、導電性基板21と、導電性基板21のうち電極基板10側に設けられて電解質40の還元に寄与する導電性の触媒層22とを備える。
【0026】
導電性基板21は、例えばチタン、ニッケル、白金、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ステンレス等の耐食性の金属材料や、上述した透明基板11にITO、FTO等の導電性酸化物からなる膜を形成したもので構成される。また、導電性基板21は、基板と電極を分けて、上述した透明基板11に電極としてITO、FTO等の導電性酸化物からなる透明導電層を形成した積層体で構成されてもよい。導電性基板21の厚さは、光電変換素子100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば5μm〜4mmとすればよい。
【0027】
触媒層22としては、金属の触媒成分及び非金属の触媒成分が挙げられる。金属の触媒成分としては、例えば白金、金、銀、パラジウム及びロジウムなどが挙げられる。非金属の触媒成分としては、例えば、カーボンや導電性高分子などの炭素原子を含有する炭素原子含有材料、チタン酸化物、チタン複合酸化物などが挙げられる。中でも、非金属の触媒成分が炭素原子含有材料であることが好ましい。この場合、非金属の触媒成分が炭素原子含有材料でない場合に比べて、より高い発電性能が得られる。なお、導電性基板21が非金属の触媒成分を含む場合には、第2電極基板20は必ずしも触媒層22を有していなくてもよい。この場合、導電性基板21が触媒層22を兼ねることになる。
【0028】
<酸化物半導体層>
酸化物半導体層30は、酸化物半導体粒子で構成されている。酸化物半導体粒子は、例えば酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO
3)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)、酸化スズ(SnO
2)、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化タリウム(Ta
2O
5)、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化ホルミウム(Ho
2O
3)、酸化ビスマス(Bi
2O
3)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)又はこれらの2種以上で構成される。酸化物半導体層30の厚さは、特に制限されるものではないが、例えば0.1〜100μmとすればよい。
【0029】
<電解質>
電解質40は、レドックスとして、一価銅錯体及び二価銅錯体を含んでいる。
【0030】
一価銅錯体は、一価銅と、一価銅に配位結合する配位子とを含む。
【0031】
一価銅錯体の配位子は、1個の一価銅に対して4個の窒素原子にて4つの配位結合を形成している。配位子は、例えば1個の一価銅に対して2分子で4つの配位結合を形成しているが、1分子で3つの配位結合を形成し、もう1分子が1つの配位結合を形成していてもよい。配位子は、1個の一価銅に対して2分子で4つの配位結合を形成している場合、1分子中に2個のピリジン環を有していることが好ましい。このような配位子としては、例えばdmp、6,6’−ジメチル−2,2’−ビピリジン(以下、「dmby」と呼ぶ)、4,4’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビピリジン(以下、「tmby」と呼ぶ)が挙げられる。なお、dmp、dmby及びtmbyは、一価銅1個に対して2分子で配位結合を形成する化合物であり、1分子で一価銅1個に対して2つの窒素原子にて2つの配位結合を形成する。このため、dmp、dmby及びtmbyは、2分子で一価銅1個に対して4つの窒素原子にて4つの配位結合を形成する。
【0032】
二価銅錯体は、二価銅と、二価銅に配位結合する配位子とを含む。二価銅錯体の配位子も、一価銅錯体の配位子と同様の配位子を用いることができる。二価銅錯体の配位子は、一価銅錯体の配位子と同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
一価銅錯体及び二価銅錯体のカウンターアニオンとしては、例えば(CF
3SO
3)
2N
−(TFSI)、PF
6−、BF
4−、BPh
4−などが挙げられる。中でも、カウンターアニオンとしては、(CF
3SO
3)
2N
−が好ましい。この場合、光電変換素子100において、比較的高い光電変換効率が得られる。
【0034】
電解質40においては、下記式で表される二価銅錯体の濃度比率Rが5%未満となっている。
R=100×C2/(C1+C2)
(上記式中、C1は一価銅錯体の濃度(M)を表し、C2は二価銅錯体の濃度(M)を表す。)
【0035】
この場合、光電変換素子100が2000ルクス以下の低照度下で使用される場合、光電変換素子100が0.9V以上の開放電圧を示すことが可能となる。
【0036】
またRは3%以上であることが好ましい。この場合、Rが3%未満である場合に比べて、光電変換素子100においてより高い開放電圧が得られる。
【0037】
電解質40中の一価銅錯体の濃度C1と二価銅錯体の濃度C2の合計濃度Cは特に制限されるものではないが、0.1Mより大きいことが好ましい。この場合、光電変換素子100の光電変換特性をより向上させることが可能となる。
【0038】
合計濃度Cは0.21M以下であることがより好ましい。この場合、合計濃度Cが0.21Mを超える場合と比べて、光電変換素子100においてより高い開放電圧が得られる。
【0039】
電解質40は、有機溶媒、イオン液体又はこれらの混合物をさらに含む。
【0040】
有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、バレロニトリル、ピバロニトリルなどを用いることができる。
【0041】
イオン液体としては、例えばピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知の非ハロゲン化物塩であって、室温付近で溶融状態にある常温溶融塩が用いられる。このような常温溶融塩としては、例えば、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−エチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、又は、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボレートが好適に用いられる。
【0042】
電解質40はさらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、4−tert−ブチルピリジン、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、グアニジウムチオシアネートなどが挙げられる。
【0043】
さらに電解質40は、SiO
2、TiO
2、カーボンナノチューブなどのナノ粒子をさらに含んでもよい。この場合、電解質40は、ナノ粒子の混練によりゲル様となって、擬固体電解質であるナノコンポジットゲル電解質となる。また、電解質40は、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などの有機系ゲル化剤を用いてゲル化した電解質であってもよい。
【0044】
<封止部>
封止部50を構成する材料は、特に限定されるものではないが、封止部50を構成する材料としては、例えば変性ポリオレフィン樹脂、ビニルアルコール重合体などの熱可塑性樹脂、及び、紫外線硬化樹脂などの樹脂が挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂としては、例えばアイオノマー、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン−ビニル酢酸無水物共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体およびエチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。これらの樹脂は単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。中でも、封止部50を構成する材料としては、無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましい。この場合、電極基板10及び対向基板20に対して、より高い接着強度が得られる。
【0045】
<色素>
色素としては、例えばビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体、ポルフィリン、エオシン、ローダニン、メロシアニン、D−π−A型の有機色素(トリアリールアミン、チオフェン環及びシアノカルボン酸基などを有する有機色素)などの有機色素などの光増感色素や、ハロゲン化鉛系ペロブスカイト結晶などの有機−無機複合色素などが挙げられる。ハロゲン化鉛系ペロブスカイトとしては、例えばCH
3NH
3PbX
3(X=Cl、Br、I)が用いられる。ここで、色素として光増感色素を用いる場合には、光電変換素子100は色素増感光電変換素子となり、光電変換セル60は色素増感光電変換セルとなる。
【0046】
上記色素の中でも、D−π−A型の有機色素(トリアリールアミン、チオフェン環及びシアノカルボン酸基などを有する有機色素)が好ましく、その一例としてD35色素が好適である。この場合、光電変換素子100の光電変換特性をより向上させることができる。
【0047】
次に、上述した光電変換素子100の製造方法の一例について説明する。
【0048】
まず1つの透明基板11の上に、透明導電層12を形成してなる電極基板10を用意する。
【0049】
透明導電層12の形成方法としては、スパッタリング法、蒸着法、スプレー熱分解法及びCVD法などが用いられる。
【0050】
次に、透明導電層12の上に酸化物半導体層30を形成する。酸化物半導体層30は、酸化物半導体粒子を含む多孔質酸化物半導体層形成用ペーストを印刷した後、焼成して形成する。
【0051】
酸化物半導体層形成用ペーストは、上述した酸化物半導体粒子のほか、ポリエチレングリコールなどの樹脂及び、テルピネオールなどの溶媒を含む。
【0052】
酸化物半導体層形成用ペーストの印刷方法としては、例えばスクリーン印刷法、ドクターブレード法、又は、バーコート法などを用いることができる。
【0053】
焼成温度は酸化物半導体粒子の材質により異なるが、通常は350〜600℃であり、焼成時間も、酸化物半導体粒子の材質により異なるが、通常は1〜5時間である。
【0054】
次に、封止部形成体を準備する。封止部形成体は、例えば封止用樹脂フィルムを用意し、その封止用樹脂フィルムに1つの開口を形成することによって得ることができる。
【0055】
そして、この封止部形成体を電極基板10の上に接着させる。このとき、封止部形成体は、酸化物半導体層30を包囲するように配置する。また、封止部形成体の電極基板10への接着は、例えば封止部形成体を加熱溶融させることによって行うことができる。
【0056】
次に、電極基板10の酸化物半導体層30の表面に色素を吸着させる。このためには、例えば電極基板10を、色素を含有する溶液の中に浸漬させ、その色素を酸化物半導体層30に吸着させた後に上記溶液の溶媒成分で余分な色素を洗い流し、乾燥させればよい。
【0057】
次に、電解質40を準備する。電解質40は、レドックスとして、一価銅錯体及び二価銅錯体を含み且つ下記式で表される二価銅錯体の濃度比率Rが5%未満となるように調製する。
R=100×C2/(C1+C2)
(上記式中、C1は一価銅錯体の濃度(M)を表し、C2は二価銅錯体の濃度(M)を表す。)
【0058】
電解質40は、例えば一価銅錯体塩及び二価銅錯体塩を有機溶媒又はイオン液体中に溶解させることによって得ることができる。ここで、一価銅錯体塩は一価銅錯体とカウンターアニオンとの塩であり、二価錯体塩は二価銅錯体とカウンターアニオンとの塩である。
【0059】
次に、酸化物半導体層30の上に電解質40を配置する。電解質40は、例えば滴下法やスクリーン印刷法によって配置することが可能である。
【0061】
次に、対向基板20を用意し、封止部形成体の開口を塞ぐように配置した後、封止部形成体と貼り合わせる。このとき、対向基板20にも予め封止部形成体を接着させておき、この封止部形成体を電極基板10側の封止部形成体と貼り合せてもよい。対向基板20の封止部形成体への貼合せは、大気圧下で行っても減圧下で行ってもよいが、減圧下で行うことが好ましい。
【0062】
以上のようにして光電変換素子100が得られる。このとき、封止部形成体は封止部50となる。
【0063】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、光電変換素子が1つの光電変換セル60で構成されているが、光電変換素子は、光電変換セル60を複数備えていてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
<光電変換素子用電解質の調製>
電解質を以下のようにして用意した。
すなわち、一価銅錯体塩である[Cu(dmp)
2]TFSI、二価銅錯体塩である[Cu(dmp)
2]TFSI
2、添加剤としてのLi(TFSI)及び4−tert−ブチルピリジンをアセトニトリルに溶解させ、一価銅錯体塩である[Cu(dmp)
2]TFSIが0.200M、二価銅錯体塩である[Cu(dmp)
2]TFSI
2が0.004M、Li(TFSI)が0.10M、tert−ブチルピリジンが0.60Mとなるように電解質を用意した。このとき、一価銅錯体(Cu(I)錯体)である[Cu(dmp)
2]
+の濃度C1は0.200M、二価銅錯体(Cu(II)錯体)である[Cu(dmp)
2]
2+の濃度C2は0.004M、これらの合計濃度Cは0.204Mであり、合計濃度Cに占めるCu(II)錯体の濃度比率Rは2.0%であった。
【0066】
<光電変換素子の作製>
光電変換素子は以下のようにして作製した。
はじめに、電極基板としてFTOガラスを準備した。そして、この電極基板上にスクリーン印刷により、平均粒径18nmの酸化チタンナノ粒子を含有する酸化チタンナノ粒子ペーストを塗布して5mm×5mmの膜を作製し、150℃で10分間乾燥させた。こうして、第1基板を得た。その後、この第1基板をオーブンに入れて酸化チタンナノ粒子ペーストを500℃で1時間焼成し、吸収層を形成した。続いて、吸収層の上に、平均粒径400nmの酸化チタンナノ粒子を含有する酸化チタンナノ粒子ペーストを塗布して5mm×5mmの膜を作製し、150℃で10分間乾燥させ、第2基板を得た。その後、この第2基板をオーブンに入れて吸収層の上における酸化チタンナノ粒子ペーストを500℃で1時間焼成し、反射層を形成した。こうして、FTO膜上に、厚さ6μmの多孔質酸化チタン層を形成し、作用極を得た。
【0067】
次に、作用極の上に、ハイミランからなり開口を有する熱可塑性樹脂シートを配置した。このとき、熱可塑性樹脂シートの開口に、多孔質酸化チタン層が配置されるようにした。そして、熱可塑性樹脂シートを180℃で1分間加熱し溶融させて作用極に接着させた。
【0068】
次に、光増感色素であり下記構造式で表されるD35((E)−3−(5−(4−(ビス(2’,4’−ジブトキシ−[1,1’−ビフェニル]−4−イル)アミノ)フェニル)チオフェン−2−イル)−2−シアノアクリル酸)を、アセトニトリルとtert−ブチルアルコールの1:1混合液からなる溶媒中に濃度0.2Mで溶かして色素溶液を作製した。そして、この色素溶液中に上記作用極を24時間浸漬させ、多孔質酸化チタン層に光増感色素を担持させた。
【化1】
【0069】
次に、上記のようにして調製した電解質を滴下法によって、作用極に多孔質酸化チタン層を覆うように塗布した。こうして積層体を得た。
【0070】
一方、20mm×25mm×40μmのサイズのチタン箔を準備し、このチタン箔に白金をスパッタさせて対向基板を得た。
【0071】
そして、対向基板を、上記積層体の封止部形成体の開口を塞ぐように配置した後、封止部形成体を加圧しながら、減圧下(100hPa)で加熱溶融することによって封止部形成体と貼り合わせた。
【0072】
こうして光電変換素子を得た。このとき、封止部形成体は封止部となった。
【0073】
(比較例1)
Cu(II)錯体である[Cu(dmp)
2]
2+の濃度C2が0.040Mとなるように電解質を調製し、Cu(II)錯体の濃度比率Rを16.7%としたこと以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0074】
(参考例1)
電解質として、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド(DMPImI)が0.60M、I
2が0.010M、1−ブチルベンゾイミダゾールが0.10Mであるメトキシプロピオニトリル溶液からなるヨウ素系電解質を用いたこと以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0075】
実施例1、比較例1及び参考例1の光電変換素子について、白色LED照度が1000ルクス、1700ルクス、3300ルクス、14000ルクスであるときの開放電圧Voc(V)及び光電変換効率η(%)を測定した。
【0076】
図2は、実施例1、比較例1及び参考例1に係る白色LEDの照度と開放電圧Vocとの関係を示すグラフである。
【0077】
図2に示すように、参考例1では、開放電圧Vocは、白色LED照度に関係なく、開放電圧Vocは0.80V未満であった。比較例1では、白色LED照度が3300ルクス、14000ルクスである場合には、開放電圧Vocが0.90V以上であったが、白色LED照度が2000ルクス以下の低照度である場合、すなわち1000ルクス及び1700ルクスである場合には、開放電圧Vocは0.90V未満であった。これに対し、実施例1では、白色LED照度が3300ルクス、14000ルクスである場合のみならず、白色LED照度が2000ルクス以下の低照度である場合、すなわち1000ルクス及び1700ルクスである場合でも、開放電圧Vocは0.90V以上であった。
【0078】
図3は、実施例1、比較例1及び参考例1に係る白色LEDの照度と入射光に対する光電変換効率ηとの関係を示すグラフである。
図3に示すように、白色LED照度が14000ルクスである場合には、実施例1及び比較例1の光電変換素子は、参考例1の光電変換素子よりも高い光電変換効率ηを示した。しかし、このとき、実施例1の光電変換素子は、比較例1の光電変換素子よりも低い光電変換効率を示した。これに対し、白色LED照度が3300ルクス以下である場合には、実施例1及び比較例1の光電変換素子は、参考例1の光電変換素子よりも高い光電変換効率ηを示した。しかし、このとき、実施例1の光電変換素子は、比較例1の光電変換素子よりも高い光電変換効率を示した。
【0079】
なお、実施例1、比較例1及び参考例1の光電変換素子について、ソーラシミュレータにて1sun下での光電変換効率η(%)も測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0080】
表1に示すように、参考例1のヨウ素系レドックスを用いた電解質では、光電変換効率ηは2.10%であった。これに対し、比較例1の銅レドックスを用いた電解質では光電変換効率ηは3.72%とより高い値を示した。しかし、実施例1の電解質では、1sun下での光電変換効率ηは1.99%となり、1sun下においては実施例1の電解質は比較例1及び参考例1の電解質よりも光電変換特性の点で不利な結果を示した。
【0081】
このように、1sun下において、比較例1の方が実施例1よりも高い光電変換効率を示したのは以下の理由によるものと考えられる。すなわち、比較例1では、光電変換素子のフィルファクタ(FF)が0.57であったのに対し、実施例1では、光電変換素子のFFが0.32とかなり低かったためではないかと考えられる。ここで、この1sun下でのFFの差は、レドックスを形成するCu(II)錯体の濃度に起因すると推測される。すなわち、1sun下ではCu(II)錯体の濃度比率Rがある程度高くないと十分な電子の受け渡しを達成できないため、Cu(II)錯体の濃度比率Rがより小さい実施例1ではFFが低くなり、比較例1ではFFが高くなり、両者のFFに差が大きくなったものと考えられる。
【0082】
これに対し、白色LED照度が1sunの照度よりも十分低い照度(1000ルクス、1700ルクス、3300ルクス)である場合に、実施例1の方が比較例1よりも高い光電変換効率を示したのは以下の理由によるものと考えられる。すなわち、1sunの照度よりも十分に低い照度下では、光電変換素子における発生電流が少なくなるため、電子の受け渡しに必要となるCu(II)錯体の濃度比率Rも少なくすることができる。また低照度下では作用極(光電極)からの電子の漏れを防ぐことが開放電圧の向上に有効となる。このため、Cu(II)錯体の濃度比率Rが低い実施例1の方が比較例1よりもより高い開放電圧Vocを示し、その結果、より高い光電変換効率を示したものと考えられる。
【0083】
(実施例2、実施例3及び比較例2)
Cu(I)錯体である[Cu(dmp)
2]
+の濃度C1、Cu(II)錯体である[Cu(dmp)
2]
2+の濃度C2、これらの合計濃度C、及び、Cu(II)錯体の濃度比率Rをそれぞれ表1に示す通りにして電解質を調製したこと以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0084】
そして、実施例2、実施例3及び比較例2の光電変換素子について、白色LEDを用い、1000ルクス下で短絡電流密度Jsc(μA/cm
2)、Voc(V)、FF、最大出力Pmax(μW/cm
2)を測定し、続いて、ソーラシミュレータを用いて1sun下にて光電変換効率ηを測定した。結果を表1に示す。
【0085】
表1に示すように、Cu(II)錯体の濃度比率Rをそれぞれ4.8%、3.8%とした実施例2及び3でもいずれも開放電圧Vocが0.9V以上であった。これに対し、Cu(II)錯体の濃度比率Rを9.1%とした比較例2では開放電圧Vocは0.9Vには達しなかった。
【0086】
以上より、本発明の光電変換素子用電解質は、Cu(II)錯体の濃度比率Rを5%未満とすることで、2000ルクス以下の低照度下で光電変換素子の電解質として使用される場合に、0.9V以上の開放電圧を光電変換素子に付与することが可能となることが確認された。
【0087】
本発明の光電変換素子用電解質は、Cu(II)錯体の濃度比率Rが5%未満であることで、2000ルクス以下の低照度下で光電変換素子の電解質として使用される場合にVocが0.9V以上となるため、2000ルクス以下の低照度下で発電を行い、各種装置の動作させるエナジーハーべスティング電源として有用である。
【課題】2000ルクス以下の低照度下で光電変換素子の電解質として使用される場合に、0.9V以上の開放電圧を光電変換素子に付与することが可能な光電変換素子用電解質及び光電変換素子を提供すること。