(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明における充水機能付バタフライ弁の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1においては、本発明の充水機能付バタフライ弁の一部切欠き側面図、
図2は弁体の横断面図を示している。
【0027】
本発明の充水機能付バタフライ弁(以下、バルブ本体1という)は、主に、図示しない水道配管に配設されて初期充水に用いられる。バルブ本体1は、単偏心形構造に設けられ、弁箱2の内部には弁体3が設けられ、この弁体3は、弁体本体10、弁座11、弁座押さえ12、スペーサ13を有している。弁箱2の両端には、フランジ部からなる管路接続用の継手部14が設けられる。
【0028】
弁箱2は、金属材料により成形され、その表面には、エポキシ粉体塗装による塗装部15が、例えば0.3mm〜1mm程度の厚さで施され、一方、弁箱2の内部には金属製弁座面16が一体に形成される。この弁箱側弁座面16には、硬質クロムめっきなどのめっき処理が施されることで耐食性、耐摩耗性が向上され、その寸法精度も高くなる。弁座面16は、ステンレス溶射等により設けられていてもよい。
【0029】
図4(a)〜
図4(d)において、弁体本体10は、例えばFCD450−10等のダクタイル鋳鉄により略円板状に形成され、
図1の弁棒装着用の挿通孔20、弁座11取付け用の凹状溝21が外径側に形成され、弁体3の弁座11取付け位置が、弁棒17の中心Pからオフセットされた単偏心構造に設けられている。弁体本体10は、弁棒17の中心P側から見て、弁座押さえ12の後述する球面外周部22とは異なる弁翼側に山形の翼状の球面状外周部23が突出形成され、この球面状外周部23の表面は、弁軸中心Pからの半径による球面の一部を成している。なお、弁棒17は、弁箱2の口径中心に配置されている。
【0030】
球面状外周部23には、複数の略V字形の櫛歯状溝24が形成され、この櫛歯状溝24が設けられたことにより、球面状外周部23は、弁体3が弁棒(弁軸)17を中心に、一定角度回転した際に、
図4(d)に示すように、弁座面16との重なりが同時(相互)に外れあうような円弧形状に形成される。球面状外周部23の表面形状は、本実施形態以外にも、要求される流量特性に応じて弁座面との重なりの外れ方が変わる形状であってもよい。
【0031】
図1、
図2において、弁座11は、ゴム等の軟質材料により切断箇所の無い一体型のリング状に形成され、内径側には凹状溝21に嵌合する嵌合突部25が突出形成されることにより、断面略L字形状に設けられる。前記弁体本体10には、弁座11が嵌め込まれた状態で、その上から弁座押さえ12がワッシャ26を介して固着ボルト27で装着される。これにより、弁座11は、固着ボルト27を緩めて弁座押さえ12を取り外すことで着脱可能に設けられている。
【0032】
弁体本体10と弁座押さえ12との間には、複数のスペーサ13が介在される。スペーサ13は、弁体本体10と弁座押さえ12との間に挟着可能な適度の厚みにより座金状に形成され、これらの間に前記固着ボルト27で固定される。このスペーサ13を設けていることで、固着ボルト27による弁体本体10と弁座押さえ12との締付け量が調節可能に設けられ、スペーサ13の締付け量に応じて、弁座押さえ12の高さ方向の位置決め及び径方向の位置決めと、弁座11のつぶし量が設定可能となる。
【0033】
図2、
図3(a)〜
図3(c)において、弁座押さえ12は、例えばCAC406などの青銅鋳物にめっき処理を施したものや、SCSなどのステンレス鋳物、或は切削加工したステンレス材料などによりリング状に形成され、防錆性に優れ水質への悪影響も抑えられる。この弁座押さえ12は、
図2において弁体本体10との接触面を下面としたときに、上面の一方の弁翼側に、球面の一部を成す山形の翼状の球面外周部22が突出形成されている。
図3に示すように、球面外周部22には複数の溝部30が設けられ、各溝部30は、球面外周部22の中心点Bとは異なる中心点Cとする球面状の底部31を有している。底部31は、その溝深さが球面外周部の頂点に向かうに従って深くなるように、滑らかな球面状に形成される。溝部30を複数設けていることで、弁開時の水の流れを分散させ、乱流になりにくくなっている。
中心点Bにおける球面外周部22の半径をR1、中心点Cにおける球面状の底部31の半径をR2とすると、半径R1<半径R2の関係に設定している。
【0034】
前記した弁体本体10と同様に、球面外周部22の表面形状は、弁体3が弁軸Pを中心に一定角度回転したときに、
図3(c)に示すように、弁座面16との重なりが同時(相互)に外れあうような円弧形状に形成される。また、要求される流量特性に応じて弁座面16との重なりが変わる表面形状であってもよい。
【0035】
図3(a)に示すように、弁座押さえ12の弁体本体10との取付位置には複数個の貫通孔32が形成され、この貫通孔32に続けて、
図3(b)において弁座押さえ12の下面側にはザグリ孔33が形成され、このザグリ孔33にスペーサ13が圧入状態で収納される。さらに、弁座押さえ12の下面側には、弁体本体10とのシール用Oリング34の装着用の環状溝35、弁座11装着時のすべりを抑制するV字溝36がそれぞれ形成される。
【0036】
上記した球面状外周部23と弁座面16とは、弁体本体10の弁開動作時に略一定の隙間を有し、この球面状外周部23と弁座面16との略一定の隙間Sのときに、球面外周部22と弁座面16とが、徐々に拡大するクリアランスCを有するようになっている。
これにより、弁体本体10には、球面外周部22、球面状外周部23と金属製の弁座面16とが成す極小開度から小開度までの間に、初期充水に適したなだらかな流量変化特性を発揮する領域が設けられる。
本実施形態のバルブ本体1では、球面外周部22をオリフィス側とし、球面状外周部23をノズル側として設けている。
【0037】
図1において、バルブ本体1の弁体3動作用の弁棒17には内部に減速機39を有する操作部40が接続され、この操作部40(減速機39)には、
図5に示した表示部41が設けられる。表示部41は、使用圧力値に応じて充水に適した水量を流すための開度と圧力値とによる領域が併記され、直感的な操作が可能になっている。
【0038】
本実施形態では、充水時の目標流速を、0.5m/sに設定し、この目標流速を満足するために、水の圧力7.5Kのときに弁開度15%、圧力4Kのときに弁開度20%、圧力1Kのときに弁開度25%となるバルブ容量とし、これらに対応した目盛を有する表示部41を設けるようにした。この表示部41を視認しながら弁開度を調節することで、水の圧力に対応して目標弁開度を調整し、目標となる流速0.5m/sで通水することができる。充水時の目標流速は適宜設定することができ、例えば、0.3m/s〜0.5m/sの範囲内に設定することが望ましい。この場合、その目標流速に応じて、表示部41の目盛を変えることで対応できる。
【0039】
上記弁体3を組立てる場合には、
図2において、弁体本体10の凹状溝21に弁座11を嵌め込むように取付け、この弁体本体10に対して、ザグリ孔33にスペーサ13を圧入や接着剤により取付け、環状溝35にOリング34を装着した弁座押さえ12を装着し、これらをワッシャ26を介して固着ボルト27で固定する。このとき、スペーサ13により弁座11を適切な締付け量で締付けて、この弁座11の弁座面16側の当接部位を高精度に位置決めできる。V字溝36によって弁座11のすべりを防止して弁体本体10に同芯状態で配置でき、かつスペーサ13の脱落を防止しながら弁座押さえ12を取付けできるため、組立時の作業性が向上する。
弁座11に球面外周部22や球面状外周部23を密着状態で隣接配置しているので、極小開度から初期充水に適したなだらかな流量変化特性を発揮することができる。
【0040】
なお、上記実施形態では、球面外周部22をオリフィス側、球面状外周部23をノズル側としているが、弁体3の回転方向が一定方向、すなわち、本実施形態では
図6において反時計回りに回転するものであれば、逆にして使用することもできる。
【0041】
弁体3において、弁座押さえ12に溝部30、弁体本体10に櫛歯状溝24を形成しているが、要求される流量特性等に応じて、これらを逆の組合わせにしたり、或は双方を同じ形状に設けるようにしてもよい。
【0042】
弁座押さえ12は、弁体本体10に比べて部品として加工し易いため、開度の増加により流量を微調整可能な形状に加工することもできる。上記実施形態では、弁座押さえ12の溝部30を単純な平行状態にして深さ方向を球面形状(断面円弧状)に設けているが、要求される流量特性等に応じて、この溝部30を細かく加工してより細い溝に設けたり、V字形状に形成することもできる。溝部30の深さ方向(断面方向)についても、浅深状にしたり階段状に設けることで、流量特性をステップ状に変化させることも可能になり、設置条件等に応じて各種形状に形成できる。
【0043】
弁座押さえ12を単純な座金形状に設け、この弁座押さえ12に球面外周部22を後付け可能な構造とすれば、より容易に部品を交換して流量特性を変えることもでき、さらに、充水機能が必要で無い場合には、球面外周部22を取り外すことで通常のバタフライ弁として使用し、損失の少ない特性のバルブを提供できる。
【0044】
また、弁座押さえ12と弁体本体10との間のスペーサ13は、充水機能を有していない場合にも適用可能であり、各種のバルブに対して利用できる。
【0045】
表示部41は、使用圧力に応じて充水に適した水量の領域を示すものであれば、バルブ本体1の態様が異なる場合にも適用でき、本実施形態の単偏心形構造以外にも、例えば、その他の偏心形バタフライバルブ、軸芯バタフライ弁であったり、これら以外の各種の操作部や開度計を有する各種のバルブ全般に対しても利用できる。
【0046】
図示しないが、弁体3両端側の継手部14は、フランジ形に限ることはなく、耐震用の継手やその他の各種形状に設けることもできる。
【0047】
次いで、上記した充水機能付バタフライ弁の動作並びに作用を説明する。
本発明のバルブ本体1は、通常、全閉状態で上流側の管路が水で充たされつつ、二次側の管路が空の状態から動作される。この場合、急激な充水をおこなうと、満水時のウォーターハンマー等により配管の破損等が生じるおそれがあるため、適正な水量により通水しながら充水機能が発揮されるものである。
【0048】
図6においては、バルブ本体1の弁閉状態を示しており、図において、弁体3の左側の上流側が水で満たされており、弁体3の右側の下流側が水の無い状態になっている。このとき、上流側では、弁座11が弁座面16と圧縮接触することで、確実に止水された状態となる。
【0049】
図7は、
図6の状態から弁体3が全体の6%(およそ5度)開動作した状態を示している。このとき、図の左側から右側への水の流れにより、球面外周部22側がオリフィス側となり、球面状外周部23側がノズル側となって、これら球面外周部22、球面状外周部23はそれぞれ弁座面16と対峙する。この場合、弁座11が弁座面16から離れることにより、球面状外周部23と弁座面16との間に略一定の隙間Sが設けられ、球面外周部22と弁座面16との間にクリアランスCが設けられ、これら隙間SとクリアランスCとの間から通水がおこなわれる。この場合、クリアランスCは、球面外周部22表面と弁座面16との間隙と、溝部30断面による間隙との和となる。
【0050】
図8においては、
図7の弁体3が回転して全体の17%(およそ15度)開動作した状態を示している。このとき、球面状外周部23と弁座面16との隙間Sの量、球面外周部22表面と弁座面16との間隙は
図6の状態から変わらず、球面外周部22の溝部30断面の深さの増加の分だけクリアランスCの量が増え、これにより通水量が増加する。
この
図8の状態の少し前、具体的には弁開度15%の状態で、水圧7.5Kの時の充水流速が0.5m/sとなるように、隙間SとクリアランスC、特にクリアランスCの溝部30の断面積を設定している。
【0051】
図9においては、
図8の状態から弁体3が回転して全体の24%(およそ22度)開動作した状態を示している。このときには、
図8の場合の通水量に加えて、球面状外周部23の櫛歯状溝24からの通水量も加わった通水量となる。
【0052】
この
図9の状態の少し前、具体的には弁開度20%の状態で、水圧4Kの時の充水流速が0.5m/sとなるように、隙間SとクリアランスC、特にクリアランスCの溝部30の断面積を設定している。そして、弁開度20%を越えると、櫛歯状溝24を含めた隙間Sによる充水がおこなわれる。
【0053】
なお、弁開度22%を越えると、球面外周部22は、弁座面16との対向位置から外れる。
また、この
図9の状態より少し後、具体的には弁開度25%の状態で、水圧1Kの時の充水流速が0.5m/sとなるように、隙間S、特に櫛歯状溝24の断面積を設定している。
【0054】
図10においては、
図9の状態から弁体3が回転して全体の39%(およそ35度)開動作した状態を示している。この場合、
図9の状態から球面状外周部23全体が弁座面16より外れることにより、さらに通水量が増加する。さらに、この状態から弁開動作するときには、通常のバタフライ弁との水量変化と同様の特性を発揮する。
【0055】
この
図10の状態より前、具体的には弁開度30%を越えた時に、櫛歯状溝24が弁座面16との対向位置から外れるように設定している。
【0056】
このように、
図7〜
図10までにおける極小開度から小開度までの間に、初期充水に適したなだらかな流量変化特性を発揮する領域が得られる。
【0057】
上述した弁体3の動作角度とその通水量との関係は設計上の一例であり、弁体3の動作角度ごとに通水される領域は任意に設定可能である。このため、弁体3の回転角度と通水量との関係等に応じて、球面状外周部23や球面外周部22の円周方向の長さや流路方向の高さなどを適宜設定できる。この場合、例えば、これら球面状外周部23や球面外周部22を大きく形成したときには、流量を少しずつ変化させて細かく充水操作でき、小さく形成したときには、弁体3全開時の損失を少なくできるため、これらの特性のバランスを考慮しながら流路の条件に応じて最適な弁体を構成できる。
また、上記実施形態と逆方向の流れである場合にも、同様の充水性能を発揮できる。
【0058】
上述したように、本発明の充水機能付バタフライ弁は、弁体本体10にゴム製弁座11を弁座押さえ12で装着した偏心形の弁体3を設け、弁座押さえ12に翼状の球面外周部22と球面状の底部31を有する複数の溝部30を設け、弁体本体10に翼状の球面状外周部23と複数の櫛歯状溝24を設け、球面外周部22、球面状外周部23と弁箱側弁座面16とが成す極小開度から小開度までの間に、初期充水に適したなだらかな流量変化特性を発揮する領域を設けている。これにより、弁閉から小開度領域における弁体3回転時に、弁座11が弁座面16から離間した後の水量変化が、弁座押さえ12の溝部30断面の深さの変化に応じてなだらかに増加する。その後、弁体本体10の櫛歯状溝24の通水領域になだらかにつながり、この櫛歯状溝24による通水量もなだらかに変化する。
【0059】
このとき、球面状外周部23と弁座面16との隙間Sが略一定の小さい間隙を維持しつつ、球面外周部22と弁座面16とのクリアランスCが徐々に拡大するため、上記弁体3の一連の動作により低開度からなだらかに流量を変化させることができ、弁座11が離間した瞬間に間隙が大きくなることによる急激な流量の増加を確実に防止できる。
このような流量変化の特性を発揮するため、運用する圧力条件が異なる場合であっても、その管路の安全な充水に適した水量を容易に調整可能となる。
【0060】
弁体本体10側に弁座11を装着しているため、充水量の調整時にこの弁座11が弁座面16に接触するおそれがなく、このことにより、充水量調整時の操作トルクも軽くなり、ゴム製弁座11の摩耗や破損も防止する。
【0061】
弁座押さえ12が組み付け部品であるため、現場の運用条件に応じて要求される特性が変わった場合にも、バルブ本体1全体を交換することなく、部品を交換するだけで異なる流量特性を得ることができる。
【0062】
弁体本体10と弁座押さえ12との間にスペーサ13を設けていることにより、弁座押さえ12を簡単に高精度に位置調整しつつ取付け可能であり、トルクレンチ等の工具で締め加減を調節しながら弁座押さえ12を組付けたり、この締め加減を円周状で均一に調整して弁座11の飛び出し量を加減する必要もない。
【0063】
続いて、バルブ本体1の動作時の流量特性をグラフに基づいて説明する。
図11のグラフは、各種バタフライ弁の弁開度の変化に対する損失の変化を表しており、汎用のバタフライ弁と従来設計の充水機能付バタフライ弁、及び今回の充水機能付バタフライ弁を比較したものである。ここで、これ以降の図(グラフ)において、「汎用のバタフライ弁(充水機能無し)」とは、一般的な充水機能の無いバタフライ弁であり、「従来設計の充水機能付バタフライ弁」とは、従来の一般的な構造の充水機能を有するバタフライ弁であり、「今回の充水機能付バタフライ弁」とは、本発明における充水機能付バタフライ弁のことをいう。
【0064】
図11において、開度変化量に対して損失の変化が大きいものは、細かな調整に対して操作性が悪くなる。従来設計の充水機能付バタフライ弁では、小開度(概ね10〜25%程度)で損失の変化の無い一定領域を設けたものを示しているが、この小開度領域の前後では、本発明の充水機能付バタフライ弁よりも開度変化に対する損失係数の変化が急激になる。一方、本発明の充水機能付バタフライ弁は、従来設計の充水機能付バタフライ弁に比較して、開度変化量に対する損失の変化が少なく、開度の微調整の際の操作性に優れているといえる。
【0065】
特に、なだらかな流量変化特性を発揮する領域は、充水領域における損失係数が一定でなく、他のバタフライ弁より上方(損失係数の大きい)領域で損失係数カーブの急激な変化が無い状態をいう。
【0066】
図12においては、各種バタフライ弁の有効流量特性のカーブを示している。この場合、全開時に流れる流量を1とし、各開度毎に流れる量の割合を表している。実際のバタフライ弁の操作により流れる流量は、この弁の前後の管路の損失により特性が変化する。この有効流量特性は、弁単体でなく管路の損失も加味したグラフとなっている。
このグラフにおいて、従来設計の充水機能付バタフライ弁では、開度を変化させても流量が一定となる領域があり、その前後では、今回の充水機能付バタフライ弁と比べて、開度変化による流量変化が急激になっている。
一方、本発明の充水機能付バタフライ弁では、弁の開度変化に応じて流量が確実に増加し、特に微小開度から小開度付近においても、確実に流量が増加しているといえる。
【0067】
特に、初期充水に適したなだらかな流量変化特性を発揮する領域は、
図12において、極小開度(例えば、およそ5%)から小開度(例えば、およそ25%)までに充水領域における流量特性が一定流量ではなく、充水領域以降の弁開度における変化量よりも小さい特性を呈する状態の領域をいう。
【0068】
図13においては、流速を一定としたときの各種バタフライ弁の弁開度と差圧との関係を表している。この場合、安全に充水する流速として、0.3m/secに設定して開度を算出した。
同図のグラフの結果より、従来設計の充水機能付バタフライ弁では、差圧0.5MPa時に、流量一定領域の開度(本例では開度10〜25%程度)になるといえる。これにより、この領域(差圧)以外では、開度調整による流量調整が必要になり、その際、本発明の充水機能付バタフライ弁よりも細かい開度での調整が必要になり、その操作も難しくなる。
【0069】
上記のように、従来設計の充水機能付バタフライ弁は、設計された圧力条件下では一定流量範囲は機能するが、実際のフィールドの現場によって異なる運用圧力に対しては、不都合をきたす場合がある。この対策として、例えば、充水用の孔の大きさを変えたものの製作が考えられるが、現場ごとに異なる環境に応じてその都度充水用の孔の大きさを変える必要が生じることから現実的ではない。
【0070】
一方、本発明の充水機能付バタフライ弁は、上記の結果のように、異なる水の圧力条件下においても、高精度の充水機能を発揮でき、特に、初期通水時の微小開度から小開度付近でも適切な水量に調節して正確に通水して安定した充水が可能となる。
【0071】
次に、本発明の充水機能付きバタフライ弁に用いられる前述した表示部の他例と、この表示部を利用した充水機能付バタフライ弁の充水方法を述べる。
ここで、表示部の具体例として、例えば、特開2016−11666号公報に開示された微小開度表示機能付きバルブが知られている。このバルブ本体の開度表示機構は、弁体の開度を示す開度目盛部と、開度目盛部の開度目盛部を指し示す開度指針部とを備える。開度目盛部は、出力軸キャリアの回転角度に対応する弁体開度を弁体の全開度範囲において表示する全開度表示目盛と、入力軸の回転角度に対応する弁体開度を微小開度範囲において表示する微小開度表示目盛を有している。開度指針部は、出力軸キャリアの回転に同期して全開度表示目盛において弁体の開度を指し示す全開度指針部と、入力軸の回転に同期して微小開度表示目盛において弁体の開度を指し示す微小開度指針を有している。
【0072】
このバルブでは、微小開度表示部を構成する微小開度指針が入力軸に装着され、この微小開度指針の外周位置に、全開度表示目盛と全開度指針とからなる全開度表示部が配置され、この全開度表示部を挟むように微小開度目盛が全開度表示部の外周位置に配置されている。この場合には、全開度表示目盛と微小開度目盛とが表示された特殊な銘板が必要になり、地下埋設された既設の充水機能付バタフライ弁への取付けも難しくなる。
【0073】
微小開度表示部が全開度表示部を挟むように構成されていることで微小開度を把握しにくくなり、微小開度指針が指し示す直近の位置に全開度表示部があるため、作業者が微小開度と全開度表示を混同して認識するおそれもある。さらに、全開度表示目盛、微小開度表示目盛、及び、全開度指針、微小開度指針からなるそれぞれ2種類の目盛と指針とが必要になるという問題もある。
【0074】
微小開度目盛は、全開度表示目盛、流量表示目盛と共に一枚の目盛板に配置され、この目盛板が、減速機のケース上面側に固定されている。微小開度指針は、入力軸の任意の回転位置に取付けられて入力軸と同期回転され、任意の基準位置より入力軸の回転角度を確認しつつ開度を確認するようになっている。この場合、微小開度目盛の位置の調整はできず、微小開度を確認する場合、全閉状態の微小開度目盛から離れた位置にある小さな微小開度指針の回転状態を視認することとなり、特に、地下埋設下等で見え難い。
【0075】
また、図示しないが、例えば、前述の特開2016−11666号公報のバルブの微小開度目盛を内側に配置すれば、視認性の向上が図れる。ただし、その場合でも細かな微小開度の調整作業に対しては不十分である。
【0076】
これに対して、本発明のバルブの表示部の第2例を
図14に示す。表示部51は、
図5の表示部と同様に、操作部40(減速機39)に取付け可能に設けられ、充水に適した水量を流すための開度の領域が記されている。
【0077】
ここで、先ず、減速機39を説明する。
図15〜
図17において、減速機39は、入力軸60、出力軸61、減速機構62、キャップ63を有し、図示しないキーハンドル(開栓キー)にて回転操作され、その回転力がキャップ63を介して入力軸60に入力され、この入力軸60の回転が減速機構62により減速されて出力軸61から出力され、弁棒17に伝達される。
【0078】
減速機構62は、外歯車70、内歯車71、偏心カム72、ピン73を有する差動歯車機構からなり、外歯車70と内歯車71との歯数差により所定の減速比が設定される。本例で使用される減速機39は、入力軸60と出力軸61とが同方向に回転するギアの組合わせにより設けられ、入力軸60の右回り回転により出力軸61も右回り回転し、このときに弁開動作するようになっている。このことから、入力軸60、及び、入力軸60と同期して回転する後述の表示部材80と、全開度指針部81とが同一方向に回転するようになるため、視認性に優れ、直感的な操作が可能になる。このように、減速機構62は、入力軸60と出力軸61が同方向に回転するギア機構であることが望ましい。さらに、このような構造であることで、減速機構62はいわゆるセルフロック機能を発揮し、流体圧力による回転を防いで操作力を確実に
図1の弁体本体10に伝達できる。
【0079】
図14〜
図17に示したキャップ63は、入力軸60の上端部に対して嵌め込みにより一体に取付けられる。キャップ63は、いわゆるスリップキャップと呼ばれる構造であるとよく、この場合、過大なトルクが入力側から加わったときに、この入力側でスリップして入力軸60への回転伝達が遮断される。スリップキャップを用いた場合、埋設などで
図1のバルブ本体1の呼び径等が分かりづらい状態で、必要以上に大きい操作トルクが加わった際にも、入力軸60に過大な回転力が伝わることがないため安全な回転操作が可能となる。さらに、バルブ本体1の操作に必要なトルクに応じて、異なるスリップトルクのキャップを選定することも可能である。
【0080】
図17に示すように、減速機構62の上面側には、その外周側にSUS等の材料により環状の銘板82が設けられ、この銘板82の内方に環状の表示部材80が配置される。本例では、銘板82に全開度表示部83、表示部材80には微小開度表示部84が記され、このように、表示部51は、全開度表示部83、微小開度表示部84が備えられている。さらに、銘板82には、呼び圧力、最高許容圧力、最高流速、製造年等が記されているとよい(図示せず)。ここで、「全開度表示」とは、弁体操作時における弁閉から弁開までの出力軸61の開度表示、一方、「微小開度表示」とは、弁体操作時における入力側の開度表示をそれぞれ意味する。そして、「全開度表示」は、銘板82と全開度指針部81、「微小開度表示」は、銘板82と表示部材80とによって表示可能になっている。
【0081】
全開度表示部83は、弁閉状態(弁体角度0°)から弁開状態(弁体角度90°)までの弁体開度が目盛や数値により銘板82の90°の範囲にわたって記され、この全開度表示部83に、充水に適した弁開度の範囲である充水開度範囲表示部85が併記される。銘板82の全開度表示部83の180°反対側には、この全開度表示部83と同様に、入力軸60の回転数表示用の回転数表示部86が90°の範囲にわたって記される。
【0082】
図17において、出力軸61の上部には、開度軸90が同軸に取付けられ、この開度軸90の上部に全開度指針部81が一体に回転可能に嵌合される。全開度指針部81には、指針81aが180°の間隔で円周方向の2箇所に突出形成され、一方の指針81aが全開度表示部83、他方の指針81aが回転数表示部86を指すように取り付けられる。この構成により、全開度表示部83、並びに回転数表示部86に対する各指針81aの関係を視認することで、「全開度表示」の開度を確認できる。
【0083】
微小開度表示部84は、全開度表示部83の内方である表示部材80の上面に配置され、等分割された目盛84aを有し、この目盛84aとの関係により、全開度表示部83における微小開度が表示される。本例において、目盛84aは、360°を16分割して記され、このように目盛84aが細かく分割されている場合、入力軸60の回転時の微調整が容易となる。例えば、1回転以下の入力軸60の目盛のステップとして、1/4回転、1/8回転、1/16回転と、360°が4の倍数で刻まれている場合、微小開度表示部84の回転状態を直感的に視認しやすく、このうち、特に、図に示すように、1/16回転ごとのステップに分割されているときには、バルブのCv値の変化量のステップをより細かく調整可能となる。目盛84aには、0(ゼロ)から15までの数字が順に記されている。
【0084】
微小開度表示部84が設けられた表示部材80は、適度の厚みを有する環状プレート部材87の上面に装着されて一体化され、入力軸60に対して周方向に位置調整可能に設けられる。一方、全開度表示部83が設けられた銘板82には、開始位置であるバルブの漏れ出し位置を示すゼロ点表示部91が記されている。本実施形態におけるゼロ点表示部91は、弁閉状態(弁体開度0°)の位置を示す開度0%の表示も兼ねている。このように、全開度表示部83が、全開度指針部81により指される目盛の機能と、微小開度表示部84の目盛84aを差し示す指針の機能とを有することから、微小開度指針を別途必要とすることがない。
【0085】
続いて、上述した表示部51を利用したバルブ本体1の充水方法を述べる。
減速機39に表示部51を設ける場合、先ず、銘板82を弁閉状態の
図1のバルブ本体1の操作部40の上面に所定の向きに取付け、開度軸90の上方より全開度指針部81を嵌合により一体に取付ける。次いで、キャップ63の下方より、表示部材80を上部に装着したプレート部材87を嵌め込み、これらキャップ63とプレート部材87(表示部材80)とを仮組み状態で入力軸60の上方から取付ける。キャップ63(入力軸60)を操作してバルブを全閉状態にし、全開度指針部81の指針81aを全開度表示部83のゼロ点表示部91に位置に合わせる。このとき、全開度指針部81の他方側の指針81aは、回転数表示部86のゼロの位置に合わさるようになっている。
【0086】
バルブ本体1に水圧を付加した状態で、キャップ63(入力軸60)を開方向に操作し、水の漏れ出し位置まで弁体本体10を作動させる。この弁体本体10の回転により、各指針81aがゼロの状態からやや進んだ状態になる。
この状態で、フリーの状態の表示部材80(プレート部材87)を回転させ、銘板82のゼロ点表示部91にゼロの数字を合わせ、表示部材80とキャップ63とを固定することで、入力軸60(キャップ63)と表示部材80とが同期した状態で回転可能となる。この構成により、
図1の弁体本体10の回転操作時には、充水開始位置であるバルブ本体1の漏れ出し位置を充水開始位置として特定し、この充水開始位置をゼロ点として、充水開度範囲表示部85を介して、充水に適した水量の領域を微小開度で表示しつつ充水可能になる。
【0087】
上述したように、表示部51の全開度表示部83における微小開度を、全開度表示部83の内方に配置した微小開度表示部84に表示することにより、特殊な銘板を設けることなく、組付け誤差や調整誤差、弁座11の潰れ加減等による弁開時の開度の個体差を解消し、通水開始時の弁体開度をゼロ点として、全開度表示部83、微小開度表示部84を介して正確な開度を表示可能になる。すなわち、充水開度範囲表示部85(全開度表示部83)への全開度指針部81の各指針81aの状態により充水状態であることを確認しながら、さらに、16分割した微小開度表示部84に対する全開度表示部83の状態を細かく視認することで、弁体本体10の開度を正確に調節しながら、この弁体本体10を充水に適した開度の範囲に操作して、適切に充水しながら初期通水できる。
【0088】
この場合、入力軸60の回転時に、出力軸61側の全開度指針部81の指針81aが、目盛である全開度表示部51に対して回転して開度を差し示す構成になっていることにより、弁閉状態(弁体角度0°)から弁開状態(弁体角度90°)までの範囲全体における全開度指針部81の視認性が高く、およその弁体開度を一目で確認できる。
一方、入力軸60側の微小開度表示部84が、定点であるゼロ点表示部91に対して回転してその目盛84aを合わせる構成であるため、目盛84aの任意の目標値をゼロ点表示部91に合わせやすく、任意の開度に調整しやすい。
これらのことから、全開度指針部81、全開度表示部83により全体開度を把握しながら、微小開度表示部84、ゼロ点表示部91により微細な弁体角度に細かく設定し、任意の弁体開度に高精度に調整可能となる。
【0089】
しかも、作業者がキーハンドルを操作して微小開度表示部84を回転させる際に、身体の向きを一定にし、視線を一方向から向けた状態で、定点のゼロ点表示部91方向に回転する目盛84aによる目標数値を確認できる。そのため、微小開度表示部84がゼロ点表示部91に対して複数回転する構成であるにもかかわらず、これらの状態を身体や視線を動かすことなく定点状態の位置から確認しながら容易に調整できる。
【0090】
特に、本例では、微小開度表示部84を入力軸60と同期回転するよう、微小開度目盛を回転目盛としている。このことより、微小開度の調整に際し、微小開度指針を回す方式よりも、より直感的に操作でき調整がし易くなる。
なお、全開度表示部83に用いられる、通常の全開度指針部81が回転する指針回転構造は、現在の開度を確認する用途に際しては十分な視認性を持ち合わせる。
【0091】
微小開度表示部84を、全開度表示部83が記される銘板82の内方に位置する表示部材80に記していることでこれらが近接している。キャップ63を介して表示部材80を回転させるときには、全開度表示部83の同じ位置に記された開度0%の表示、ゼロ点表示部91に対して、全開度指針部81、微小開度表示部84をそれぞれ視認しやすい。しかも、表示部材80を装着したプレート部材87の下方に全開度指針部81が位置し、この全開度指針部の下方に銘板82が位置している。このことから視認性が一層向上し、全開度指針部83に近接した全開度指針部81の指針81aを視認して全開度を把握しやすく、指針81aが微小開度表示部84に被さることがないため、この微小開度表示部84の任意の目盛84aを、下方に位置するゼロ点表示部91に対して正確に調整可能となる。
【0092】
微小開度表示部84が等分割された目盛84aを有し、全開度表示部83に充水開始位置であるバルブの漏れ出し位置を示すゼロ点表示部91を記していることにより、バルブ本体1の通水開始位置で表示部材80を周方向に位置調整して目盛84aをゼロ点表示部91に合わせ、充水開示時の基点を正確に設定することができる。これにより、バルブの個体差に応じて、正確に入力軸60を回転して所定のバルブ開度にでき、バルブ本体1ごとの充水に適した領域に対して正確な開度でスムーズに弁体本体10を操作でき、充水時に水を濁らせたり赤水を発生させたりすることがない。
【0093】
前述したように、銘板82、表示部材80、全開度指針部81により全開度と微小開度とを視認可能であることから、部品点数も最小限に抑えることができ、地下埋設されたバルブ本体1への取付けも容易になる。
【0094】
図18においては、表示部の第3例を示している。なお、以降の表示部において、前述した表示部の例と同一部分は同一符号によって表し、その説明を省略する。
この例では、銘板101の表示部102に全開度表示部83のみが記され、一方、全開度指針部103には、全開度表示部83を指し示す一つの指針103aが設けられる。このように、
図14の回転数表示部86を省略することもでき、この場合、銘板101の表示や全開度指針部103の形状の簡略化が可能になる。
【0095】
図19においては、表示部の第4例を示している。この例では、銘板111の表示部112に、全開度表示部83が設けられ、この全開度表示部83とは別に、この全開度表示部83と180°の間隔で回転数表示板113が設けられる。この場合、表示部材80のゼロの位置、全開度指針部81の銘板111を指し示す指針81aと逆側の指針81aがバルブの漏れ出し位置の開度位置、回転数表示板113の回転数表示部86のゼロ回転表示部115が一直線となる位置に設定して取り付けることにより、その位置にてゼロ点を確認できるため視認が容易となり、かつ全閉状態(弁体角度0°)とゼロ点との差も明確になる。