(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に図面を参照して実施形態について説明する。
図1は、実施形態の蓄電池システムの概要構成図である。
蓄電池システム100は、商用電力を供給する商用電源1からの供給電力を測定する電力計2と、電力計2の測定結果に基づいて商用電源1の電力を充電し、電力供給がなくなった場合には放電して負荷3に対して電力供給を行う蓄電池ユニット4と、蓄電池ユニット4のローカルな制御を行う蓄電池制御コントローラ5と、蓄電池制御コントローラ5のリモート制御を行う上位制御装置6と、を備えている。
上記構成において、負荷3は、通常時は商用電源1からの電力供給を受け、商用電源1からの電力供給がなくなった場合には、蓄電池ユニット4からの電力供給をうけて動作する。
【0017】
以上の説明は、蓄電池ユニット4をバックアップ用電源として動作させる場合のものであるが、電力負荷平準化のためのピークシフトに際し、商用電源1からの電力供給に加えて、蓄電池ユニット4の電力を重畳して供給する場合であっても同様に適用が可能である。また、再生可能エネルギー(太陽光、太陽熱、水力、風力、バイオマス、地熱等によるエネルギー)を利用する場合に、電力品質(電圧、周波数等)の安定化を図る場合にも適用が可能である。
【0018】
図2は、実施形態の蓄電池システムの概要構成ブロック図である。
蓄電池ユニット4は、大別すると、電力を蓄える蓄電池装置11と、蓄電池装置11から供給された直流電力を所望の電力品質を有する交流電力に変換して負荷に供給する電力変換装置(PCS:Power Conditioning System)12と、を備えている。
【0019】
蓄電池装置11は、大別すると、複数の電池盤ユニット21−1〜21−N(Nは自然数)と、電池盤ユニット21−1〜21−Nが接続された電池端子盤22と、を備えている。
電池盤ユニット21−1〜21−Nは、互いに並列に接続された複数の電池盤23−1〜23−M(Mは自然数)と、ゲートウェイ装置24と、後述のBMU(Battery Management Unit:電池管理装置)及びCMU(Cell Monitoring Unit:セル監視装置)に動作用の直流電源を供給する直流電源装置25と、を備えている。
【0020】
ここで、電池盤ユニット21−1〜21−Nの構成について詳細に説明する。
電池盤ユニット21−1〜21−Nを構成している電池盤23−1〜23−Mは、それぞれ、高電位側電源供給ライン(高電位側電源供給線)LH及び低電位側電源供給ライン(低電位側電源供給線)LLを介して、出力電源ライン(出力電源線;母線)LHO、LLOに接続され、主回路である電力変換装置12に電力を供給している。
【0021】
電池盤23−1〜23−Mは、同一構成であるので、電池盤23−1を例として説明する。
電池盤23−1は、大別すると、複数(
図1では、24個)のセルモジュール31−1〜31−20と、セルモジュール31−1〜31−20にそれぞれ設けられた複数(
図1では、24個)のCMU32−1〜32−20と、セルモジュール31−12とセルモジュール31−13との間に設けられたサービスディスコネクト33と、電流センサ34と、コンタクタ35と、を備え、複数のセルモジュール31−1〜31−20、サービスディスコネクト33、電流センサ34及びコンタクタ35は、直列に接続されている。
【0022】
ここで、セルモジュール31−1〜31−20は、電池セルを複数、直並列に接続されて組電池を構成している。そして、複数の直列接続されたセルモジュール31−1〜31−20で組電池群を構成している。
【0023】
さらに電池盤23−1は、BMU36を備え、各CMU32−1〜32−20の通信ライン、電流センサ34の出力ラインは、BMU36に接続されている。
BMU36は、ゲートウェイ装置24の制御下で、電池盤23−1全体を制御し、各CMU32−1〜32−20との通信結果(後述する電圧データ及び温度データ)及び電流センサ34の検出結果に基づいてコンタクタ35の開閉制御を行う。
【0024】
次に電池端子盤22の構成について説明する。
電池端子盤22は、電池盤ユニット21−1〜21−Nに対応させて設けられた複数の盤遮断器41−1〜41−Nと、蓄電池装置11全体を制御するマイクロコンピュータとして構成されたマスタ(Master)装置42と、を備えている。
【0025】
マスタ装置42には、電力変換装置12との間に、電力変換装置12のUPS(Uninterruptible Power System)12Aを介して供給される制御電源線51と、イーサネット(登録商標)として構成され、制御データのやりとりを行う制御通信線52と、が接続されている。
【0026】
ここで、セルモジュール31−1〜31−20、CMU32−1〜32−20およびBMU36の詳細構成について説明する。
【0027】
図3は、セルモジュール、CMU及びBMUの詳細構成説明図である。
セルモジュール31−1〜31−20は、それぞれ、直列接続された複数(
図3では、10個)の電池セル61−1〜61−10を備えている。
【0028】
CMU32−1〜32−20は、対応するセルモジュール31−1〜31−20を構成している電池セルの電圧及び所定箇所の温度を測定するための電圧温度計測IC(Analog Front End IC:AFE-IC)62と、それぞれが対応するCMU32−1〜32−20全体の制御を行うMPU63と、BMU36との間でCAN通信を行うためのCAN(Controller Area Network)規格に則った通信コントローラ64と、セル毎の電圧に相当する電圧データ及び温度データを格納するメモリ65と、を備えている。
【0029】
以下の説明において、セルモジュール31−1〜31−20のそれぞれと、対応するCMU32−1〜32−20と、を合わせた構成については、電池モジュール37−1〜37−20と呼ぶものとする。例えば、セルモジュール31−1と対応するCMU32−1を合わせた構成を電池モジュール37−1と呼ぶものとする。
【0030】
また、BMU36は、BMU36全体を制御するMPU71と、CMU32−1〜32−20との間でCAN通信を行うためのCAN規格に則った通信コントローラ72と、CMU32−1〜32−20から送信された電圧データ及び温度データを格納するメモリ73と、を備えている。
【0031】
蓄電池制御コントローラ5は、自然エネルギー発電ユニット1の発電電力を検出し、この発電電力が電力系統へ及ぼす影響を緩和するために、蓄電池装置11を用いて発電電力の出力変動抑制を行なっている。ここで、蓄電池装置11に対する変動抑制量は当該蓄電池制御コントローラ5あるいはその上位制御装置6で算出し、蓄電池装置11に対応するPCS(Power Conditioning System)12に充放電指令として与えられる。
【0032】
図4は、上位制御装置の概要構成ブロック図である。
上位制御装置6は、いわゆるコンピュータとして構成されており、外部記憶装置6Aと、上位制御装置6全体を制御する制御部6Bと、各種情報をオペレータに対し表示する表示部6Cと、オペレータが各種情報を入力するための入力装置6Dと、制御部6Bと外部記憶装置6Aとの間および制御部6Bと蓄電池制御コントローラ5等の外部装置との通信を行うための通信ネットワーク6Eと、を備えている。
【0033】
次に実施形態の動作説明に先立ち、リチウムイオン電池を用いた蓄電池システムを例として、一般的な蓄電池の劣化現象を説明する。
劣化によって変化する電池特性として、内部抵抗と電池容量がある。電池容量は経時的に減少傾向を示し、電池の内部抵抗は逆に増加傾向を示す。電池容量が減少する要因の一つに内部抵抗の増加が挙げられる。
【0034】
また、一般的に電池温度が高いほど、電池の劣化速度は大きくなる。そのため、電池モジュール内で電池温度のばらつきが生じると、電池温度が高いセルモジュールの劣化が進行しやすくなる。例えば、電池の充放電に伴って電池内部の発熱が生じ、電池の温度が上昇する。電池から発生した熱は電池盤の上部に集まり、上部に配置された電池ほど温度が高くなる傾向にある。また、PCS12等の機器による発熱や排熱により、隣接する電池盤の温度が高くなることも考えられる。このように、電池盤内の温度分布にばらつきが生じると、電池温度が高い電池セルや電池モジュールの劣化が早まることが懸念される。
【0035】
[1]第1実施形態
図5は、第1実施形態の蓄電池システムの要部の機能構成ブロック図である。
蓄電池システム100の蓄電池装置11は、電池盤ユニット21−1〜21−Nを構成しているセルモジュール31−1〜31−20の温度を測定する電池温度計測部71を備えている。
【0036】
また、上位制御装置6は、セルモジュール31−1〜31−20の物理的な配置に基づいて、計測対象のセルモジュールの温度と環境温度が同一と見做せる他のセルモジュールの温度との差である温度差ΔTを演算するΔT演算部72と、ΔT演算部72の演算結果に基づいてセルモジュール31−1〜31−20の劣化状態あるいは異常状態を予測する劣化予測部73と、を備えている。
【0037】
電池温度計測部71は、実際には、CMU32−1〜32−20あるいはさらに加えてBMU36として構成されており、電池盤ユニット21−1〜21−Nを構成しているセルモジュール31−1〜31−20毎あるいは複数のセルモジュールで構成されるセルモジュール群(例えば、セルモジュール)の温度を計測する。
【0038】
図6は、セルモジュール群の温度を計測する場合の一例の説明図である。
ここで、
図6に示すように、セルモジュール31−1〜31−10が高さ方向に沿って高い方から順番に配置され、同様にセルモジュール31−1〜31−10が高さ方向に沿って高い方から順番に配置されているものとする。さらに、セルモジュール31−1〜31−20は、同一のケース(筐体)に収められているものとする。
【0039】
この場合に、セルモジュール31−1〜31−20の環境温度は、対流による熱伝達によれば、上方に位置する方が高くなるが、図示しないファンあるいはエアコンにより上方がある程度冷却されているため、
図6の例においては、中央部に位置するセルモジュール(例えば、セルモジュール31−4〜31−6、31−16〜31−18)が最も温度が高くなっているものとする。
【0040】
次に第1実施形態の動作を説明する。
図7は、電池温度計測部及びΔT演算部の処理フローチャートである。
まず電池温度計測部71は、全てのセルモジュールの温度(
図7中、セル温度と表記)を計測し、ΔT演算部72に出力する(ステップS11)。
【0041】
次にΔT演算部72は、入力された温度に対応するセルモジュールの物理的な配置が高さ方向に一番上に位置している(
図6の例の場合、セルモジュール31−1あるいはセルモジュール31−11)若しくは高さ方向に一番下に位置している(
図6の例の場合、セルモジュール31−10あるいはセルモジュール31−20)セルモジュールであるか否かを判別する(ステップS12)。
【0042】
ステップS12の判別において、入力された温度に対応するセルモジュールの物理的な配置が高さ方向に一番上に位置しておらず、かつ、高さ方向に一番下に位置していない場合には(ステップS12;No)、対象となるセルモジュールの上に位置するセルモジュールの温度及び対象となるセルモジュールの下に位置するセルモジュールの温度から対象となるセルモジュールの温度を推定し(ステップS13)、処理をステップS17に移行する。
【0043】
より詳細には、対象となるセルモジュールの位置を行番号row及び列番号colを用いて、(row,col)で表すものとし、対象となるセルモジュールの温度推定値Test(row,col)は、当該対象となるセルモジュールの上に位置するセルモジュールの温度Tdet(row−1,col)及び下に位置するセルモジュールの温度Tdet(row+1,col)をパラメータとする関数fにより(1)式のように表すことができる。
【0044】
【数1】
より詳細には、関数fは、例えば、(2)式のように表すことができる。
【0046】
具体的には、例えば、セルモジュールが10行2列で高さ方向に配置されている場合に、対象となるセルモジュールをセルモジュール31−3(row=3、col=1)とした場合には、対象となるセルモジュール31−3の上に位置するセルモジュール31−2(row=2、col=1)の温度Tdet(2,1)及び対象となるセルモジュール31−3の下に位置するセルモジュール31−4(row=4,col=1)の温度Tdet(4,1)から対象となるセルモジュール31−3の温度を推定し、処理をステップS17に移行することとなる。
【0047】
ステップS12の判別において、入力された温度に対応するセルモジュールの物理的な配置が高さ方向で一番上に位置している、あるいは、高さ方向で一番下に位置している場合には(ステップS12;Yes)、入力された温度に対応するセルモジュールの物理的な配置が高さ方向の一番上に位置しているか否かを判別する(ステップS14)。
【0048】
ステップS14の判別において、入力された温度に対応するセルモジュールの物理的な配置が高さ方向に一番上に位置していない場合、すなわち、入力された温度に対応するセルモジュールの物理的な配置が高さ方向に一番下に位置している場合には(ステップS14;No)、対象となるセルモジュールの上に位置するセルモジュールの温度及び対象となるセルモジュールの隣(=同一の高さに配置されている)に位置する他のセルモジュールの温度から対象となるセルモジュールの温度を推定し(ステップS15)、処理をステップS17に移行する。
【0049】
より詳細には、対象となるセルモジュールの位置を例えば、(row,col)で表すとし、対象となるセルモジュールの温度推定値Test(row,col)は、当該対象となるセルモジュールの隣りに位置するセルモジュールの温度Tdet(row,col±1)及び上に位置するセルモジュールの温度Tdet(row−1,col)をパラメータとする関数fにより(3)式のように表すことができる。
【0050】
【数3】
より詳細には、関数fは、(4)式のように表すことができる。
【0052】
具体的には、例えば、対象となるセルモジュールをセルモジュール31−20(row=10,col=2)とした場合には、対象となるセルモジュール31−20の上に位置するセルモジュール31−19(row=9,col=2)の温度及び対象となるセルモジュール31−20の隣に位置するセルモジュール31−10(row=10,col=1)の温度から対象となるセルモジュール31−20の温度を推定し、処理をステップS17に移行することとなる。
【0053】
ステップS14の判別において、入力された温度に対応するセルモジュールの物理的な配置が高さ方向に一番上に位置している場合には(ステップS14;Yes)、対象となるセルモジュールの下に位置するセルモジュールの温度及び対象となるセルモジュールの隣り(=同一の高さに配置されている)に位置する他のセルモジュールの温度から対象となるセルモジュールの温度を推定し(ステップS16)、処理をステップS17に移行する。
【0054】
より詳細には、対象となるセルモジュールの位置を例えば、(row,col)で表すとし、対象となるセルモジュールの温度推定値Test(row,col)は、当該対象となるセルモジュールの下に位置するセルモジュールの温度Tdet(row+1,col)及び隣りに位置するセルモジュールの温度Tdet(row,col±1)をパラメータとする関数fにより(5)式のように表すことができる。
【0055】
【数5】
より詳細には、関数fは、(6)式のように表すことができる。
【0057】
具体的には、例えば、対象となるセルモジュールをセルモジュール31−1とした場合には、対象となるセルモジュール31−1の下に位置するセルモジュール31−2の温度及び対象となるセルモジュール31−1の隣りに位置するセルモジュール31−11の温度から対象となるセルモジュール31−1の温度を推定し、処理をステップS17に移行することとなる。
【0058】
続いて、ΔT演算部72は、対象となるセルモジュールの検出した温度Tdet(row,col)と当該セルモジュールの推定温度Test(row,col)との差である温度差ΔTを計算する(ステップS17)。
具体的には、(7)式により温度差ΔTを計算する。
【0060】
次にΔT演算部72は、全てのセルモジュールに対して温度差ΔTを計算したか否かを判別する(ステップS18)。
具体的には、
図6の例の場合、セルモジュール31−1〜セルモジュール31−20について測定温度と推定温度との差である温度差ΔTを計算したか否かを判別することとなる。
【0061】
ステップS18の判別において、未だ全てのセルモジュールについて温度差ΔTを計算していない場合には(ステップS18;No)、温度差ΔTの計算の対象となるセルモジュールを変更して(ステップS19)、処理を再びステップS12に移行し、以下、上述と同様の処理を繰り返すこととなる。
【0062】
一方、ステップS18の判別において、全てのセルモジュールに対して温度差ΔTを計算した場合には(ステップS18;Yes)、処理を終了する。
【0063】
これにより、劣化状態検出部は、温度差ΔTの計算結果に基づいて、セルモジュールの劣化状態あるいは異常状態を予測する。
ここで、健全な状態のセルモジュールのみで構成された場合及び劣化状態あるいは異常状態のセルモジュールが含まれている場合の計測温度及び推定温度の具体例について説明する。
まず、健全な状態のセルモジュールのみで構成された場合の計測温度及び推定温度の具体例について説明する。
【0064】
図8は、健全な状態のセルモジュールのみで構成された場合の測定温度の説明図である。
また、
図9は、健全な状態のセルモジュールのみで構成された場合の温度差ΔTの説明図である。
【0065】
例えば、対象となるセルモジュールの位置(row,col)=(1,1)となるセルモジュール31−1の温度は32℃であり、このセルモジュール31−1は、一番上に位置しているので、当該セルモジュール31−1の下に位置するセルモジュール31−2の温度及び当該セルモジュール31−1の隣り(=同一の高さに配置されている)に位置する他のセルモジュール31−11の温度から当該セルモジュール31-1の温度を推定する。
すなわち、(8)式で表されるようになる。
【0067】
実際の値を代入すると、(9)式に示すように、
【数9】
となる。
【0068】
これにより、温度差ΔTは、
図9に示すように、
ΔT=32−33
=−1
となる。
【0069】
同様に対象となるセルモジュールの位置(row,col)=(6,1)となるセルモジュール31−6の温度は38℃であり、このセルモジュール31−6は、当該セルモジュール31−6の上に位置するセルモジュール31−5の温度=37℃及び当該セルモジュール31−6の下に位置するセルモジュール31−7の温度=36℃から当該セルモジュール31−6の温度を推定する。
すなわち、(10)式で表されることとなる。
【0071】
実際の値を代入すると、(11)式で表すように、
【数11】
となる。
【0072】
これにより、温度差ΔTは、
図9に示すように、
ΔT=38−36.5
=1.5
となる。
【0073】
同様に、対象となるセルモジュールの位置(row,col)=(10,2)となるセルモジュール31−20の温度は34℃であり、このセルモジュール31−20は、一番下に位置しているので、当該セルモジュール31−20の上に位置するセルモジュール31−19の温度及び当該セルモジュール31−20の隣り(=同一の高さに配置されている)に位置する他のセルモジュール31−10の温度から当該セルモジュール31−20の温度を推定する。
すなわち、(12)式で表されることとなる。
【0075】
実際の値を代入すると、(13)式で示すように、
【数13】
となる。
【0076】
これにより温度差ΔTは、
図9に示すように、
ΔT=34−34
=0
となる。
【0077】
同様に全てのセルモジュールについて温度差ΔTを求めると、
図9に示すようになり、例えば、劣化状態あるいは異常状態を判別するための温度しきい値を例えば2.5℃とした場合、これを越えるセルモジュールは存在しないため、健全な状態のセルモジュールのみで構成されていると判別することとなる。
【0078】
図10は、劣化状態あるいは異常状態のセルモジュールが含まれている場合の計測温度の説明図である。
また、
図11は、劣化状態あるいは異常状態のセルモジュールが含まれている場合の温度差ΔTの説明図である。
【0079】
図10においては、セルモジュール31−6、31−9、31−16の温度が同じ39℃であるので、理解の容易のため、これらを例として劣化状態あるいは異常状態のセルモジュールが含まれているか否かの判別処理について説明する。
【0080】
対象となるセルモジュールの位置(row,col)=(6,1)となるセルモジュール31−6の温度は39℃であり、当該セルモジュール31−6の上に位置するセルモジュール31−5の温度=38℃及び当該セルモジュール31−6の下に位置するセルモジュール31−7の温度=37℃から当該セルモジュール31−6の温度を推定する。
すなわち、(14)式で表されることとなる。
【0082】
実際の値を代入すると、(15)式に示すように、
【数15】
となる。
【0083】
これにより温度差ΔTは、
図11に示すように、
ΔT=39−37.5
=1.5(℃)
となる。
【0084】
同様に対象となるセルモジュールの位置(row,col)=(9,1)となるセルモジュール31−9の温度は39℃であり、このセルモジュール31−9は、当該セルモジュール31−9の上に位置するセルモジュール31−8の温度=36℃及び当該セルモジュール31−9の下に位置するセルモジュール31−10の温度=35℃から当該セルモジュール31−9の温度を推定する。
すなわち、(16)式で表されることとなる。
【0086】
実際の値を代入すると、(17)式に示すように、
【数17】
となる。
【0087】
これにより温度差ΔTは、
図11に示すように、
ΔT=39−35.5
=3.5(℃)
となる。
【0088】
同様に、対象となるセルモジュールの位置(row,col)=(6,2)となるセルモジュール31−16の温度は39℃であり、当該セルモジュール31−16の上に位置するセルモジュール31−15の温度=38℃及び当該セルモジュール31−16の下に位置するセルモジュール31−17の温度=38℃から当該セルモジュール31−16の温度を推定する。
すなわち、(18)式で表されることとなる。
【0090】
実際の値を代入すると、(19)式に示すように、
【数19】
となる。
【0091】
これにより、温度差ΔTは、
図11に示すように、
ΔT=39−38
=1(℃)
となる。
【0092】
同様に全てのセルモジュールについて温度差ΔTを求めると、
図11に示すようになる。
したがって、例えば、劣化状態あるいは異常状態を判別するための温度しきい値を、例えば2.5℃とした場合、これを越えるセルモジュール31−9(温度差ΔT=3.5℃)が存在するため、劣化状態あるいは異常状態のセルモジュールが含まれていると判別することとなる。
【0093】
以上をまとめると、温度差ΔTが小さい場合は、推定される温度勾配上に対象蓄電池のセル温度計測値が存在することを意味するため、劣化もしくは異常に伴う発熱は認められず、対象蓄電池は健全であると予測する。
【0094】
一方、温度差ΔTが大きい場合は、劣化もしくは異常に伴う発熱が原因で、推定される温度勾配上に対象蓄電池のセル温度計測値が存在しないため、対象蓄電池は劣化もしくは異常であると予測するのである。
【0095】
以上の説明のように、本第1実施形態によれば、蓄電池システムにおいて、セルモジュールの配置位置に起因する温度勾配を考慮することで、様々な温度環境においても正確にセルモジュール(蓄電池)の劣化状態あるいは、異常状態をより正確に予測できる。
【0096】
[2]第2実施形態
上記第1実施形態においては、算出された温度差ΔTが所定のしきい値を超えた場合には、セルモジュールが劣化あるいは異常であると判断する構成を採っていたが、本第2実施形態は、より確実にセルモジュールの劣化あるいは異常を検出するために温度差ΔTが所定のしきい値を超えた回数をカウントし、カウントに基づいてセルモジュールの劣化あるいは異常を判断するものである。
【0097】
図12は、第2実施形態の蓄電池システムの要部の機能構成ブロック図である。
図12において、
図5の第1実施形態と同様の部分には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0098】
図12において、
図5の第1実施形態と異なる点は、ΔT演算部72の後段に温度差ΔTが所定のしきい値を超えた回数をカウントするカウント部75と、カウント部75のカウント結果に基づいてセルモジュール31−1〜31−20の劣化状態あるいは異常状態を予測する劣化予測部73Aと、を備えた点である。
【0099】
ここで、劣化予測部73Aは、カウント部75におけるカウント数がある一定値を超えた場合に対象蓄電池は劣化状態もしくは異常状態であると予測する。
【0100】
従って、本第2実施形態によれば、周囲環境の変化によりたまたま温度差ΔTが所定のしきい値を超えてしまった場合でも、瞬時的な判断ではなく、劣化状態あるいは異常状態に伴う発熱の傾向をより安定的に把握できるため、蓄電池の劣化状態又は異常状態を高精度に予測できる。
【0101】
[3]第3実施形態
図13は、第3実施形態の蓄電池システムの要部の機能構成ブロック図である。
図13において、
図12の第2実施形態と同様の部分には同一の符号を付し、詳細な説明を援用する。
上記各実施形態においては、劣化予測部73、73Aの予測結果の利用については、明確に述べていなかったが、本第3実施形態は、劣化予測部73、73Aにおいて劣化状態もしくは異常状態と予測したセルモジュール(蓄電池)の状態をユーザに数段階に段階分けした劣化状態あるいは異常状態として提示する劣化提示部77を備えた点を特徴としている。
【0102】
次に第3実施形態の構成について説明する。
劣化提示部21は、劣化予測部73、73Aにおいて劣化状態あるいは異常状態と予測したセルモジュールの状態を、温度差ΔTの大きさあるいは温度差ΔTが所定の閾値を超えた回数のカウント数のうち少なくともいずれか一方に基づいて、数段階で劣化状態あるいは異常状態としてユーザに提示する。
以下の説明においては、温度差ΔTの大きさ及び温度差ΔTが所定の閾値を超えた回数のカウント数に基づき段階分けする場合を例とする。
【0103】
図14は、第3実施形態の説明図である。
温度差ΔTに対しては、セルモジュールが劣化状態あるいは異常状態にあるとの疑いがあると予想される閾値ThAと、蓄電池の劣化もしくは異常が確実であると考えられる閾値ThBを設定する。
【0104】
そして、温度差ΔTの大きさが閾値ThA未満である場合は、劣化予測部73Aは、対象蓄電池の劣化状態あるいは異常状態であるとの兆候がないと判断し、劣化提示部77は、その旨をユーザへ提示する。
【0105】
温度差ΔTの大きさが閾値ThAから閾値ThBの間であるとカウントされたカウント数が所定のカウント数閾値ThCより少ない場合(
図14の領域ARA)は、劣化予測部73Aは、対象となるセルモジュールが劣化状態あるいは異常状態である可能性はあるが、緊急性は少ない状態であると判断し、劣化提示部77は、その旨をユーザーへ提示する。
【0106】
温度差ΔTの大きさが閾値ThAから閾値ThBの間であるとカウントされたカウント数が所定のカウント数閾値ThC以上の場合(
図14の領域ARB)は、劣化予測部73Aは、対象となるセルモジュールが劣化状態もしくは異常である可能性が高いと判断し、劣化提示部77は、その旨をユーザーへ提示する。
【0107】
温度差ΔTの大きさが閾値ThBより大きい場合(
図14の領域ARC)は、劣化予測部73Aは、閾値ThBを越えたとされたカウント数に関係なく対象となるセルモジュールが劣化もしくは異常である可能性が高く緊急に対応する必要があると判断し、劣化提示部77は、その旨をユーザへ提示する。
【0108】
なお、温度差ΔTに対する閾値の数は、閾値ThA及び閾値ThBの2つの場合に限られず、3つ以上として、より領域を細分化し、各領域に応じた情報を劣化提示部77により提示するようにしても良い。
以上の説明のように、本第3実施形態によれば、劣化予測部73Aにおいて劣化状態あるいは異常状態であると予測したセルモジュール(蓄電池)の状態を数段階で劣化提示部77を介してユーザに提示することで、ユーザが各段階に応じたより適切な対応がとれる。
【0109】
[4]第4実施形態
次に第4実施形態について説明する。
図15は、第4実施形態の蓄電池システムの要部の機能構成ブロック図である。
本第4実施形態が、第1実施形態及び第2実施形態と異なる点は、セルモジュール(蓄電池)の電圧を計測する電池電圧計測部79と、電池電圧計測部79によって計測されたセルモジュールの電圧を用いて劣化状態あるいは異常状態を表す指標であり、計測電圧と予測電圧との差であるΔVを演算処理するΔV演算部81と、ΔT演算部72で演算処理された温度差ΔTが所定のしきい値を超えた回数をカウントするとともにΔV演算部81で演算処理されたΔVが設定された閾値を超えた回数をカウントするカウント部75Aと、カウント部75Aの演算処理結果に基づいて蓄電池1の劣化状態あるいは異常状態であることを予測する劣化予測部73Bと、を備えた点である。
【0110】
上記構成において、電池電圧計測部79は、蓄電池システムを構成するセルモジュールの電圧をセルモジュール毎に計測し、あるいは、複数のセルモジュールで構成されるセルモジュール群の電圧をセルモジュール群毎に計測する。
蓄電池システムにおける温度勾配(環境温度の温度勾配)は、セルモジュール31−1〜31−20の電圧に影響を及ぼす可能性がある。通電時の蓄電池のセル電圧は、蓄電池の起電力分と内部抵抗による電圧変化分で構成される。
【0111】
セルモジュール31−1〜31−20の内部抵抗(電池の内部抵抗)は、セルモジュールの温度によって変化するため、温度差がある各セルモジュールの電圧は異なる可能性がある。そこで、直列に接続されたセルモジュールに関して、対象セルモジュールの上に位置するセルモジュールと下に位置するセルモジュールの電圧を用いることで、判断対象のセルモジュールの劣化状態あるいは異常状態を予測する。
【0112】
ΔV演算部81は、計測されたセルモジュールの電圧を用いて劣化状態あるいは異常状態を表す指標であるΔVを演算処理する。
続いて計測されたセルモジュールの電圧を用いて対象となるセルモジュールのセル電圧を推定し、セル電圧の計測値とどれだけ乖離しているか(ΔV)を計算する。
具体的には、対象となるセルモジュールの電圧推定値V
estは、対象となるセルモジュールと直列に接続されており、かつ、上流側(前段側)に次に位置するセルモジュールの電圧と、対象となるセルモジュールと直列に接続されており、かつ、下流側(後段側)に次に位置するセルモジュールの電圧と、に基づいて推定する。
対象となるセルモジュールの上流側に次に位置するセルモジュールの電圧をV
det(row−1,col)とし、下流側に次に位置するセルモジュールの電圧をV
det(row+1,col)とすると、対象となるセルモジュールの電圧推定値V
est(row,col)は(20)式に示す関数fで表すことができる。
【0114】
具体的には、例えば、(21)式で求めることができる。
【数21】
【0115】
この結果、ΔVは、(22)式により算出される。
【数22】
【0116】
なお、対象となるセルモジュールが一番上もしくは一番下に位置する場合は、対象となるセルモジュールの電圧計測値と、対象となるセルモジュール蓄電池と直列に接続されており且つ近傍の蓄電池のセル電圧計測値の差分の絶対値をΔVとしても良い。
【0117】
カウント部75Aは、温度差ΔTに関するカウントとは別に、ΔV演算部81で演算処理されたΔVが設定された閾値を超えた場合に、その回数をカウントする。
劣化予測部73Bは、温度差ΔTに関するカウント数が所定のカウント閾値を超えた場合、あるいは、ΔVに対応するカウント数が所定のカウント閾値を超えた場合に、対象となるセルモジュールは、劣化状態あるいは異常状態であると予測する。
【0118】
以上の説明のように、本第4実施形態によれば、セルモジュールの温度だけではなくセルモジュールの電圧も用いてセルモジュールの劣化状態あるいは異常状態を高精度に予測することができる。
【0119】
[5]第5実施形態
次に第5実施形態について説明する。
図16は、第5実施形態の蓄電池システムの要部の機能構成ブロック図である。
本第5実施形態が、
図15の第4実施形態と異なる点は、劣化予測部5においてΔT演算部72およびΔV演算部81およびカウント部73Bの演算処理結果に基づいて劣化状態もしくは異常状態であると予測したセルモジュールの状態をユーザに数段階で提示する劣化提示部77Aを備えた点である。
【0120】
この劣化提示部77Aについては、温度差ΔTの大きさと温度差ΔTが設定された閾値を超えた場合のカウント数、ΔVの大きさとΔVが設定された閾値を超えた場合のカウント数に基づき劣化状態もしくは異常状態であると予測したセルモジュールの状態を数段階でユーザへ提示する。
【0121】
ここで、具体的な動作について再び
図14を参照して説明する。
具体的には、
図14に示したように、温度差ΔTの大きさが閾値ThA未満である場合であって、ΔVが設定された閾値を超えたカウント数が所定の閾値未満であれば、対象のセルモジュールは正常であると判断し、その旨を劣化提示部77Aにおいてユーザへ提示する。
しかしながら、
図14に示したように、温度差ΔTの大きさが閾値ThA未満である場合であっても(
図14の領域ARA)、ΔVが設定された閾値を超えたカウント数が所定の閾値以上であれば、対象となるセルモジュールが劣化状態もしくは異常状態である可能性が高いと判断し、その旨をユーザーへ提示する。
【0122】
さらに、温度差ΔTの大きさが閾値ThAから閾値ThBの間でカウントされカウント数が多い場合(
図14の領域ARB)において、ΔVが設定された閾値を超えたカウント数が所定の閾値以上であれば、対象蓄電池が劣化もしくは異常である可能性が高く緊急に対応する必要があると判断し、その旨をユーザーへ提示しても良い。
【0123】
以上の説明のように、本第5実施形態によれば、完全に劣化状態あるいは異常状態とは断定できない場合であっても、それらの可能性の高さに応じてユーザに告知できるため、ユーザが柔軟に対応することができ、メンテナンス性を向上させることができる。
【0124】
[6]第6実施形態
次に、第6実施形態について説明する。
上記各実施形態においては、温度差ΔTに基づいて劣化状態あるいは異常状態の判断に用いる閾値が予め定められている場合について説明したが、温度差ΔTに対する閾値については、蓄電池システムの環境、運用状況に応じて適宜変化させても良い。
【0125】
例えば、高い充放電レートで充放電を行う運用状況であれば、劣化した蓄電池はより発熱することを想定して、温度差ΔTに対する閾値を高めに設定しても良い。
【0126】
また、空調設備の位置や稼働状況によって蓄電池システムの温度勾配がほぼ発生しない、または、温度勾配が単調変化で常に維持されているような環境であれば、温度差ΔTに対する閾値を低めに設定しても良い。
【0127】
[7]実施形態の変形例
本実施形態の蓄電池の劣化予測装置として機能する上位制御装置は、CPUなどの制御装置、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置、HDD、CDドライブ装置などの外部記憶装置、ディスプレイ装置などの表示装置、キーボードやマウスなどの入力装置等を備えた通常のコンピュータを利用したハードウェア構成とすることが可能である。
【0128】
したがって、本実施形態の蓄電池の劣化予測装置として機能する上位制御装置で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD−R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供可能である。
【0129】
また、本実施形態の蓄電池の劣化予測装置として機能する上位制御装置で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の蓄電池の劣化予測装置として機能する上位制御装置で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
また、本実施形態の蓄電池の劣化予測装置として機能する上位制御装置のプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0130】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。