特許第6773927号(P6773927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6773927
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】電磁式燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/06 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   F02M51/06 B
   F02M51/06 J
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-9613(P2020-9613)
(22)【出願日】2020年1月24日
【審査請求日】2020年8月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雄大
【審査官】 沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−159294(JP,A)
【文献】 特開2005−240732(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/083795(WO,A1)
【文献】 特開2004−285923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部に弁座(8)を有する弁ケーシング(2)と、前記弁ケーシング(2)の他端に連設される中空の固定コア(5)と、前記固定コア(5)の外周に配設されて該固定コア(5)に磁気吸引力を生じさせ得るコイル(30)と、前記固定コア(5)の端面(5f)に対向する可動コア(12)、及び該可動コア(12)と連動し且つ前記弁座(8)と協働する弁体(14)を有した弁部材(V)とを備え、前記可動コア(12)には、前記固定コア(5)の前記端面(5f)と当接するストッパ面(37a)が設けられる電磁式燃料噴射弁において、
前記ストッパ面(37a)は、前記可動コア(12)の前記固定コア(5)との対向面の径方向内端寄りに環状に配置されていて、横断面が該固定コア(5)に向かって凸に彎曲した曲面で構成され、
前記固定コア(5)の前記端面(5f)は、該端面(5f)の径方向内方から外方側に向かうにつれて前記可動コア(12)から徐々に離れるテーパ面状に形成され、且つ該端面(5f)の前記ストッパ面(37a)との対向面に、周方向に間隔をおいて放射状に形成される複数の凹部(5fo)を有することを特徴とする、電磁式燃料噴射弁。
【請求項2】
前記ストッパ面(37a)は、前記可動コア(12)に取付けられて前記固定コア(5)の前記端面(5f)に対向する非磁性部材(37)にて形成されることを特徴とする、請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁式燃料噴射弁、特に一端部に弁座を有する弁ケーシングと、弁ケーシングの他端に連設される中空の固定コアと、固定コアの外周に配設されて固定コアに磁気吸引力を生じさせ得るコイルと、固定コアの端面に対向する可動コア、及び可動コアと連動し且つ弁座と協働する弁体を有した弁部材とを備え、可動コアには、固定コアの端面と当接するストッパ面が設けられる電磁式燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
このような電磁式燃料噴射弁は、既に特許文献1で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−285923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電磁式燃料噴射弁では、可動コアの、固定コアとの対向面の径方向内端寄りに配置、固定されて同対向面より僅かに突出する円筒カラー状のストッパ要素により、平坦面よりなる上記ストッパ面が形成され、そのストッパ面により、固定コアの可動コア吸引時に両コア間に適度なエアギャップを設定することで、両コア相互の張付き要因となる残留磁気や燃料の粘性抵抗を抑制して閉弁応答性を高めている。しかもストッパ面が接触する固定コアには、耐摩耗性に優れた特定の磁性材が使用されていて、耐摩耗性の向上が図られている。このように燃料噴射弁において、高価な耐摩耗メッキ処理を施すことなく閉弁応答性と耐摩耗性を両立させる技術が既に知られている。
【0005】
ところが近年は、エンジンの更なる燃焼性向上が要求され、これに伴い、燃料噴霧(従って燃料噴射弁)をより高精度に制御可能とすることが望まれる。そこで、例えば、可動コアと固定コアとを線接触させるようにして当接面積を微小化することが考えられる。
【0006】
しかしそうした場合でも、両コアの当接部の摩耗が進めば当接面積が増えて、上記残留磁気や油粘性抵抗に因る当接部の張付き力が増大し、これが燃料噴射弁の高精度な制御に影響を及ぼす虞れがある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、可動コアと固定コアとの当接面積を微小化して閉弁応答性を高めるようにし、またその当接部の摩耗による影響を効果的に抑制可能として弁体を高精度に制御可能とした電磁式燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、一端部に弁座を有する弁ケーシングと、前記弁ケーシングの他端に連設される中空の固定コアと、前記固定コアの外周に配設されて該固定コアに磁気吸引力を生じさせ得るコイルと、前記固定コアの端面に対向する可動コア、及び該可動コアと連動し且つ前記弁座と協働する弁体を有した弁部材とを備え、前記可動コアには、前記固定コアの前記端面と当接するストッパ面が設けられる電磁式燃料噴射弁において、前記ストッパ面は、前記可動コアの前記固定コアとの対向面の径方向内端寄りに環状に配置されていて、横断面が該固定コアに向かって凸に彎曲した曲面で構成され、前記固定コアの前記端面は、該端面の径方向内方から外方側に向かうにつれて前記可動コアから徐々に離れるテーパ面状に形成され、且つ該端面の前記ストッパ面との対向面に、周方向に間隔をおいて放射状に形成される複数の凹部を有することを第1の特徴としている。
【0009】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記ストッパ面が、前記可動コアに取付けられて前記固定コアの前記端面に対向する非磁性部材にて形成されることを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の特徴によれば、固定コアの端面に当接可能なストッパ面が可動コアに設けられる電磁式燃料噴射弁において、ストッパ面は、可動コアの固定コアとの対向面の径方向内端寄りに環状に配置されていて、横断面が固定コアに向かって凸に彎曲した曲面で構成されるので、固定コアとこれに吸引された可動コアとの当接部がほぼ線接触状態となって、その当接面積を微小化でき、これにより、当接部の張付き要因となる残留磁気や燃料の粘性抵抗の影響を最小限に抑えることが可能となって、閉弁応答性を高めることができ、燃料噴射弁を高精度に制御する上で有利となる。しかも可動コアが必ず曲面状のストッパ面で固定コアに当接する(即ちエッジで当接しない)ことから、当接の際の衝突力(従って応力)の緩和が図られる。
【0011】
その上、固定コアの、可動コアと対向する端面は、これの径方向内方から外方側に向かうにつれて可動コアから徐々に離れるテーパ面状に形成され、且つ該端面の、ストッパ面との対向面に、周方向に間隔をおいて放射状に形成される複数の凹部を有するので、ストッパ面と固定コア端面との、周方向における当接範囲が少なくなる。従って、摩耗に伴う当接面積の増大が凹部によって効果的に抑制可能となるから、当接面積増大に因る当接部の張付きを効果的に防止可能となる。また固定コアに対し弁部材(従って可動コア)が多少傾いた場合でも、固定コア端面を特に上記テーパ面としたことで、凹部のエッジ状の開口縁にストッパ面の曲面部が接触しにくくなるため、凹部の特設に起因したストッパ面の摩耗進行を効果的に抑制可能となる。
【0012】
また本発明の第2の特徴によれば、ストッパ面が、可動コアに取付けられて固定コアの端面に対向する非磁性部材にて形成されるので、コイルの消磁時の両コア間の残留磁気が迅速に消失し、従って、弁体の閉弁応答性を高める上で有利となる。またストッパ面を形成する部材は、これを可動コアや弁体とは別部品化したことで、可動コア等とは関係なく、非磁性材料より高い選定自由度を以て選定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る内燃機関用電磁式燃料噴射弁の一実施形態を示す縦断面図
図2】(A)は、燃料噴射弁の閉弁状態を示す要部拡大断面図(図1の2A矢視部拡大断面図、且つ図3の2A−2A線断面図)、(B)は、燃料噴射弁の開弁状態を示す要部拡大断面図(図2(A)対応断面図)
図3】固定コアの底面図(図2(A)の3−3線断面図)
図4】可動コアのストッパ面と固定コアとの接触態様を示す(図3対応図)であって、(a)は実施形態における接触態様の一例を示し、(b)は固定コアの端面に凹部を有しない比較例における接触態様の一例を示す
図5】燃料噴射弁の開弁過程で可動コア(弁組立体)が傾斜した場合のストッパ面と固定コア端面との接触態様の一例を示す断面図であって、(a)は実施形態の接触態様であり、また(b)は固定コア端面が平坦面(非傾斜面)である比較例の接触態様である
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。尚、本明細書において、「軸方向」「径方向」「周方向」は、電磁式燃料噴射弁Iの中心軸線Xを基準とするものであって、例えば、中心軸線Xに沿う方向が軸方向であり、中心軸線Xを中心とした半径方向が径方向であり、中心軸線Xを中心とした円周方向が周方向である。また本明細書では、電磁式燃料噴射弁Iにおいて、燃料噴射側を前方、燃料入口側を後方という。
【0015】
図1図2において、内燃機関用の電磁式燃料噴射弁Iの弁ハウジングIhは、円筒状の弁座部材3と、この弁座部材3の後端部に嵌合して液密に溶接される磁性円筒体4と、この磁性円筒体4の後端に突き当てて液密に溶接される非磁性円筒体6と、この非磁性円筒体6の内周面に前端部を嵌合して液密に溶接され且つ円筒状に形成される磁性材製の固定コア5と、この固定コア5の後端に同一素材を以て一体に連設される燃料入口筒26とを前端から後端に向かって順次連ねて構成される。
【0016】
弁座部材3、磁性円筒体4及び非磁性円筒体6は、後述する弁組立体Vを収容する弁ケーシング2を構成する。そして、この弁ケーシング2、固定コア5及び燃料入口筒26よりなる弁ハウジングIhは、燃料入口筒26の後端小径部26a及び弁座部材3の一部を除いて、各部外周面が同一直径に形成される。
【0017】
弁座部材3は、その前端面に開口する弁孔7と、この弁孔7の内端に連なる円錐状の弁座8と、この弁座8の大径部に連なる円筒状のガイド孔9とを備えている。弁座部材3の前端面には、上記弁孔7と連通する複数の燃料噴孔11を有する鋼板製のインジェクタプレート10が液密に溶接される。
【0018】
非磁性円筒体6の前端部には、固定コア5と嵌合しない部分が残され、その部分から弁座部材3に至る弁ケーシング2内に、弁部材としての弁組立体Vが収納される。
【0019】
弁組立体Vは、弁座8と協働して弁孔7を開閉するよう前記ガイド孔9を摺動し得る球状の弁体14と、この弁体14に前端が結合(例えば溶接)される杆部13と、杆部13よりも大径の円筒状に形成されて杆部13の後部に一体に連設された可動コア12とで構成される。その可動コア12は、磁性円筒体4の内周面に摺動自在に嵌合、支承されて固定コア5に対置される。球状の弁体14の周囲には、燃料の通過を許容する複数の平坦面が形成される。
【0020】
弁組立体Vには、可動コア12の後端面から始まり杆部13の中間部で終わる縦孔19と、この縦孔19を杆部13の外周面に開放する横孔20とが設けられる。縦孔19の途中には、固定コア5側を向いた環状のばね座24が形成される。
【0021】
固定コア5は、燃料入口筒26の中空部を固定コア5の前端面側に連通させる縦孔21を有する。その縦孔21は、燃料入口筒26の中空部より小径になっており、可動コア12の縦孔19と連通する。
【0022】
この固定コア5の縦孔21には、すり割り付きパイプ状のリテーナ23が圧入され、このリテーナ23と前記ばね座24との間に可動コア12を弁体14の閉弁側に付勢する弁ばね22が縮設される。その際、リテーナ23の縦孔21への嵌合深さにより弁ばね22のセット荷重が調整される。
【0023】
可動コア12には、これの後端面12fの内周端寄りに環状段部12sが凹設されており、その環状段部12sの内周面に、非磁性材製で円筒状のストッパ部材37が圧入、埋設される。このストッパ部材37の後端面は、可動コア12の、固定コア5と対向する後端面12fより僅かに突出していて、固定コア5の前端面5fと当接可能なストッパ面37aとして機能する。
【0024】
このストッパ面37aは、図2に明示したように可動コア12の中心軸線(即ち燃料噴射弁Iの中心軸線Xと一致)を含む横断面で見て、固定コア5に向かって凸に彎曲した凸曲面で構成される。また本実施形態では、可動コア12の後端面12fに、横断面円弧状の環状隆起面12frがストッパ面37aに連なるように形成されており、この隆起面12frを介してストッパ面37aの彎曲面と、可動コア12の平坦な後端面12fとが滑らかに連続する。
【0025】
そして、ストッパ部材37は、固定及び可動コア5,12相互の磁気吸引時に、ストッパ面37aを固定コア5の前端面5fに当接させることで、固定コア5及び可動コア12の対向端面間に所定のギャップを残存させる。而して、ストッパ部材37は、本発明の非磁性部材の一例であり、また固定コア5の前端面5fは、可動コア12と対向する端面の一例である。
【0026】
また固定コア5の前端面5fは、これの径方向内方から外方側に向かうにつれて可動コア12から徐々に離れるテーパ面状(図2参照)に形成される。しかもその前端面5fの、ストッパ面37aとの対向面には、図3に明示したように、周方向に間隔をおいて放射状に形成される複数の凹部5foが形成される。その凹部5foは、例えばプレス加工による形状転写により形成される。
【0027】
また本実施形態では、各凹部5foの径方向内端は、固定コア5の縦孔21の内周面に開口している。しかも凹部5foの径方向長さは、ストッパ面37aの径方向幅と略同一(即ち、ストッパ面37aの径方向幅と同一、又はそれよりやや大きいか或いはやや小さく)設定される。
【0028】
上記した凹部5foの特設によれば、ストッパ面37aと固定コア5の前端面5fとの当接部の摩耗に伴う当接面積の増大が効果的に抑えられ、後述するように当接面積増大に因る当接部の張付きの防止に有効となる。
【0029】
尚、固定コア5の前端面5fにおける複数の凹部5foの設置個数、周方向・径方向の各サイズ、周方向で隣り合う凹部5fo相互の周方向間隔等は、実施形態に限定されず、例えば、上記当接部に発生する衝撃荷重の大きさや当接部の応答性変化の許容度等に応じて最適な条件を適宜に設定可能である。
【0030】
また弁ハウジングIhの外周には、固定コア5及び可動コア12に対応して円筒状のコイル組立体28が嵌装される。このコイル組立体28は、磁性円筒体4の後端部から固定コア5にかけてそれらの外周面に嵌合するボビン29と、これに巻装されるコイル30とを備える。ボビン29及びコイル30は円筒状をなし、これらの中心軸線は、燃料噴射弁Iの中心軸線Xと一致する。ボビン29の後端部には、ボビン29の一側方に突出するカプラ端子33の基端部33aが保持され、このカプラ端子33にコイル30の端末が接続される。
【0031】
このコイル組立体28は、それの周囲を磁性体製のコイルハウジングHで囲繞される。このコイルハウジングHは、略半円筒状(換言すれば、横断面劣弧状)に各々形成されてコイル組立体28を挟むように対向配置される第1,第2コイルハウジング半体H1,H2より分割構成される。尚、図1においては、断面位置の関係で、第1コイルハウジング半体H1のみが図示される。
【0032】
その各々のコイルハウジング半体H1,H2は、コイル組立体28の外周部を覆う胴部44と、胴部44の軸方向両端から半径内方に屈曲してボビン29の前後両端面に当接する前・後接続壁部45,46と、前・後接続壁部45,46の内周端から軸方向で互いに反対方向に延びる連結部としての前・後連結筒部47,48とを各々有する。そして、前・後連結筒部47,48は、弁ケーシング2(より具体的には磁性円筒体4)および固定コア5の外周面にそれぞれ密接、固定(例えば溶接)される。また一対のコイルハウジング半体H1,H2の、周方向で隣り合う側縁は、周方向に互いに間隔をおいて相対向している。
【0033】
而して、コイルハウジングHは、後述するようにコイル30への通電時に弁ケーシング2及び固定コア5間に磁気回路を形成して、固定コア5に可動コア12(従って弁組立体V)を弁ばね22に抗して磁気吸引させることができ、これにより、弁組立体Vの弁体14が開弁動作可能となる。
【0034】
また燃料噴射弁Iは、これの外郭が、絶縁性の合成樹脂でモールド成形された樹脂被覆部32により構成される。樹脂被覆部32は、弁ハウジングIhと同心の概略段付き円筒状をなす被覆部本体32mと、その被覆部本体32mの外周部より一側方に突出するカプラ本体部32cとを備える。
【0035】
特に被覆部本体32mは、固定コア5の前半部及びコイルハウジングHを囲繞する中間大径部32maと、その中間大径部32maの前側に段差部61を介して連設されて磁性円筒体4の後半部を囲繞する前部小径部32mbと、中間大径部32maの後側に連設されて固定コア5の後半部及び燃料入口筒26を囲繞する後部小径部32mcとを有している。
【0036】
またカプラ本体部32cは、これに前述のカプラ端子33を収容、保持するものであって、中間大径部32maと後部小径部32mcとに跨がるようにして被覆部本体32mに結合される。そして、カプラ本体部32cとカプラ端子33とによりカプラ34が構成される。このカプラ34には、図示しないが、外部配線に連なる外部カプラが着脱可能に嵌合、接続される。
【0037】
而して、被覆部本体32mは、これに弁ケーシング2の一部(即ち磁性円筒体4の後半部及び非磁性円筒体6)、固定コア5、及び燃料入口筒26の大部分(後端部を除く)、並びにコイル組立体28及びコイルハウジングHを埋封するようにして、カプラ本体部32cと共にモールド成形される。そして、このモールド成形過程で、前述の各コイルハウジング半体H1,H2とコイル組立体28(従ってコイル30)との間の間隙27に充填された樹脂は、その間隙27を絶縁、シールする。
【0038】
ところで燃料噴射弁Iを装着すべき内燃機関E(具体的には機関本体)には、燃料噴射弁Iを嵌装、支持するための段付きの弁支持孔70が設けられる。この弁支持孔70は、前部小径部32mbを嵌合させる小径孔部71と、この小径孔部71の開口端に環状段部72を介して連なり且つ中間大径部32maを嵌合させる大径孔部73とを有する。
【0039】
大径孔部73には、被覆部本体32mの中間大径部32maの前部外周面が嵌合される。その嵌合面は、周方向の一部が各々平坦面に形成されて互いに平面上で面接触し、これにより、中間大径部32maを弁支持孔70に相対回転不能に嵌合保持する。かくして、燃料噴射弁Iは、内燃機関Eの弁支持孔70に対し中心軸線X回りの所定位置に確実に位置決めされる。
【0040】
また前記環状段部72は、前部小径部32mb外周に嵌合されて前部小径部32mbと大径孔部73間を液密にシールするシールリング51の座面となる。従って、この環状段部72と、被覆部本体32mの前記段差面61との間で、クッションリングに兼用可能なシールリング51が軸方向に挟持される。
【0041】
また、後部小径部32mcの外周には、カプラ本体部32cの根元部分よりも後方側において、クッションリング52を嵌合させるリング取付部62と、クッションリング52の座面となる環状突部63とが設けられる。
【0042】
一方、燃料入口筒26の後端小径部26aの外周面には、樹脂被覆部32の後部小径部32mcの後端面が臨む環状シール溝26agが凹設され、そのシール溝26agにはシールリング53が嵌着される。更に燃料入口筒26の入口、即ち後端開口には、燃料フィルタ43の筒状本体が固定(例えば圧入)される。
【0043】
ところで燃料噴射弁Iを内燃機関Eにセットする場合には、先ず、燃料噴射弁Iの前部を弁支持孔70にシールリング51を介して挿入する。次いで、不図示の燃料ポンプに連なる燃料分配管55を、シールリング53を介して燃料入口筒26に嵌装すると共に、燃料分配管55と環状突部63との間にクッションリング52を挟圧し、しかる後に、燃料分配管55を内燃機関Eの適所に固定(例えばボルト止め)する。これにより、燃料分配管55と燃料入口筒26との間が油密に接続されると共に、燃料分配管55により燃料噴射弁Iの前部が弁支持孔70に押圧、保持される。かくして、燃料噴射弁Iが、図1に例示したような設置態様で内燃機関Eにセットされる。
【0044】
尚、本実施形態では、弁支持孔70を内燃機関Eの機関本体に設けたものを示したが、内燃機関Eの付属品(例えば、スロットルボディ、吸気管等)に弁支持孔70を設けてもよい。
【0045】
次に前記実施形態の作用を説明する。
【0046】
電磁式燃料噴射弁Iの組み立てに当たっては、例えば、コイル組立体28と、弁ハウジングIhの、弁座部材3を除く主要部を別々に製作する。次いで、弁ハウジングIhの外周部の所定中間部位にコイル組立体28を嵌装すると共に、コイル組立体28を挟んで包み込むように第1及び第2コイルハウジング半体H1,H2を左右から相互に近接させる。そして両コイルハウジング半体H1,H2の胴部44内にコイル組立体28を収めた状態で前連結筒部47を磁性円筒体4の外周面に、後連結筒部48を固定コア5の外周面にそれぞれ密着させ、前・後連結筒部47,48の薄肉部を複数箇所でレーザ溶接する。こうして、コイルハウジングHは弁ハウジングIhに取付けられる。
【0047】
しかる後に樹脂被覆部32のモールド成形工程に移り、絶縁性を有する合成樹脂の射出成形により、コイル組立体28、コイル組立体28及びコイルハウジングH、並びにカプラ端子33の基部を埋封するようにして、弁ハウジングIhの周囲に樹脂被覆部32を成形する。その際、第1及び第2コイルハウジング半体H1,H2間には、カプラ端子33の基端部33aを挟む側と、その反対側とに間隙が設けられるから、その両間隙を通して射出樹脂が各コイルハウジング半体H1,H2及びコイル組立体28間の空隙27に容易に進入、充填される。
【0048】
樹脂被覆部32の成形後は、磁性円筒体4内に弁組立体Vを収容して、弁座部材3を磁性円筒体4の前端部に嵌合、溶接する。そして燃料入口筒26側から弁ハウジングIh内に弁ばね22及びリテーナ23を装着し、その後、燃料フィルタ43、シールリング51,53及びクッションリング52を取り付けて、電磁式燃料噴射弁Iの組み立て作業は、完了する。
【0049】
このようにして組立てられた燃料噴射弁Iは、図1に示すような設置態様で内燃機関Eにセットされる。このセット状態で、燃料ポンプから燃料分配管55を経て燃料入口筒26に圧送される燃料は、燃料フィルタ43で濾過された後、固定コア5及び弁ケーシング2の内部を満たす。そしてコイル30を消磁した状態では、弁ばね22の付勢力で弁組立体Vは前方に押圧され、弁体14を弁座8に着座させて弁孔7を閉じる。コイル30を通電により励磁すると、それにより生ずる磁束がコイルハウジングH、磁性円筒体4、可動コア12、固定コア5を順次走り、両コア5,12間に発生する磁気吸引力により可動コア12が弁ばね22のセット荷重に抗して固定コア5に吸引され、弁体14が弁座8から離座するので、弁孔7が開放される。これにより、弁座部材3内の高圧燃料が弁孔7を出て、インジェクタプレート10の燃料噴孔11から、霧状に噴射される。
【0050】
上記した電磁式燃料噴射弁Iにおいて、可動コア12に設けられて固定コア5の前端面5fに当接可能なストッパ面37aが、可動コア12の固定コア5との対向面の径方向内端寄りに環状に配置され、且つ可動コア12の中心軸線Xを含む横断面で見て固定コア5に向かって凸に彎曲した凸曲面で構成されている。
【0051】
これにより、固定コア5とこれに吸引された可動コア12との当接部がほぼ線接触状態(図4(a)を参照)となって、その当接面積を微小化できる。従って、その当接部の張付き要因となる残留磁気や燃料の粘性抵抗の影響が最小限に抑えられるため、弁組立体Vの閉弁応答性を高めることができ、燃料噴射弁Iを高精度に制御する上で有利となる。しかも可動コア12が必ず曲面状のストッパ面37aで固定コア5に当接する(即ちエッジで当接しない)ことから、当接の際の衝突力(従って当接部及びその周辺部の応力)の緩和が図られ、耐摩耗性や耐久性の向上が図られる。
【0052】
その上、固定コア5の前端面5fは、これの径方向内方から外方側に向かうにつれて可動コア12から徐々に離れるテーパ面状に形成され、且つ前端面5fのストッパ面37aとの対向面に、周方向に間隔をおいて放射状に形成される複数の凹部5foを有している。これにより、ストッパ面37aと固定コア5の前端面5fとの当接部は、各凹部5foにおいて途切れることから、周方向における当接部の範囲が実質的に少なくなる。従って、摩耗に伴う当接面積の増大が、凹部5foの存在によって効果的に抑制可能となるため、当接面積増大に因る当接部の張付きを効果的に防止可能となる。
【0053】
尚、図4(b)は、凹部5foを有しない比較例を示している。この比較例からも、当接部の摩耗に伴う当接面積の増大が凹部5foによって効果的に抑制可能となることは明らかである。
【0054】
ところで燃料噴射弁Iの開弁過程で、弁組立体V(従って可動コア12)は、これと弁ケーシング2との間の摺動クリアランスの範囲で中心軸線Xに対し多少傾斜した状態のまま、ストッパ面37aが固定コア5の前端面5fと当接する場合がある。この接触態様の一例を図5(a)で簡略的に示す。尚、図5(a)では、発明の原理を理解し易くするために、固定コア5のテーパ面状の前端面5fの傾斜角度、並びにストッパ面37aの曲率を実際のものより誇張して大きめに描いている。
【0055】
而して、本実施形態の開弁過程で、仮に可動コア12が傾斜姿勢のままストッパ面37aを固定コア5の前端面5fに当接させた場合には、その前端面5fが前述のようなテーパ面であることから、当接部の径方向位置は、可動コア12が非傾斜姿勢の場合の径方向位置よりも前端面5fの内周端側に偏位(図5(a)を参照)する。従って、ストッパ面37aが凹部5foの径方向外端側の開口縁e(エッジ部)と接触しにくくなるため、凹部5foに起因したストッパ面37aの摩耗進行を効果的に抑制可能となる。
【0056】
これに対し、固定コア5′の前端面5f′を中心軸線Xと直交する平坦面として、そこに複数の凹部5fo′を放射状に配設した比較例(図5(b)を参照)を想定する。この比較例の開弁過程で、仮に可動コア12が傾斜姿勢のままストッパ面37aを固定コア5′の前端面5f′に当接させた場合には、その前端面5f′が上記平坦面であることから、当接部の径方向位置は、可動コア12が非傾斜姿勢の場合の径方向位置よりも前端面5f′の外周端側に偏位(図5(b)を参照)する。従って、ストッパ面37aが凹部5fo′の径方向外端側の開口縁e′(エッジ部)と接触し易くなり、その接触に伴いストッパ面37aが摩耗し易くなる。
【0057】
更に本実施形態では、上記ストッパ面37aが、可動コア12に取付けられて固定コア5の前端面5fに対向するストッパ部材37(非磁性部材)にて形成されるので、コイル30の消磁時の両コア5,12間の残留磁気が迅速に消失し、従って、弁組立体Vの閉弁応答性を高める上で有利となる。またストッパ面37aを形成するストッパ部材37は、これを可動コア12や弁組立体Vとは別部品化したことで、可動コア12等とは関係なく、非磁性材料より高い選定自由度を以て選定可能となる。
【0058】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はそれに限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0059】
例えば、前記実施形態では、可動コア12とは別部品であるストッパ部材37(非磁性部材)にてストッパ面37aを形成したものを示したが、ストッパ面37aを可動コア12の固定コア5との対向面に直接形成してもよい。
【0060】
また前記実施形態では、可動コア12が弁組立体V(弁部材)の弁体14に杆部13を介して固定されるものを示したが、可動コア12は、杆部13に所定範囲内で摺動可能に保持させてもよい。
【0061】
また前記実施形態では、コイルハウジングHを、第1,第2コイルハウジング半体H1,H2より分割構成したものを示したが、コイルハウジングHを一体型としてもよい。
【符号の説明】
【0062】
I・・・・・電磁式燃料噴射弁
V・・・・・弁部材としての弁組立体
2・・・・・弁ケーシング
5・・・・・固定コア
5f・・・・固定コアの端面としての前端面
5fo・・・凹部
8・・・・・弁座
12・・・・可動コア
14・・・・弁体
30・・・・コイル
37・・・・非磁性部材としてのストッパ部材
37a・・・ストッパ面
【要約】
【課題】可動コアと固定コアとの当接面積を微小化して閉弁応答性を高めるようにし、またその当接部の摩耗による影響を効果的に抑制可能として弁体を高精度に制御可能とした電磁式燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】可動コア12には、固定コア5の端面5fと当接するストッパ面37aが設けられる電磁式燃料噴射弁Iにおいて、ストッパ面37aは、可動コア12の固定コア5との対向面の径方向内端寄りに環状に配置されていて、横断面が該固定コア5に向かって凸に彎曲した曲面で構成され、固定コア5の端面5fは、該端面5fの径方向内方から外方側に向かうにつれて可動コア12から徐々に離れるテーパ面状に形成され、且つ該端面5fのストッパ面37aとの対向面に、周方向に間隔をおいて放射状に形成される複数の凹部5foを有する。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5