特許第6773934号(P6773934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アクゾ ノーベル ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フエンノートシャップの特許一覧

特許6773934メチルグリシン−N,N−二酢酸ナトリウム化合物、これを調製する方法、およびその使用
<>
  • 特許6773934-メチルグリシン−N,N−二酢酸ナトリウム化合物、これを調製する方法、およびその使用 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773934
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】メチルグリシン−N,N−二酢酸ナトリウム化合物、これを調製する方法、およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/16 20060101AFI20201012BHJP
   C07C 227/42 20060101ALI20201012BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20201012BHJP
   C11D 17/06 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C07C229/16
   C07C227/42
   C11D7/32
   C11D17/06
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-500069(P2020-500069)
(86)(22)【出願日】2018年7月3日
(65)【公表番号】特表2020-526510(P2020-526510A)
(43)【公表日】2020年8月31日
(86)【国際出願番号】EP2018067920
(87)【国際公開番号】WO2019007944
(87)【国際公開日】20190110
【審査請求日】2020年2月20日
(31)【優先権主張番号】17180158.2
(32)【優先日】2017年7月7日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】ヌーリオン ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フェノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】Nouryon Chemicals International B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ショマーカー,エルウィン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ヘーレン,パウルス ヨハネス コルネリス
(72)【発明者】
【氏名】ヘウス,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ドッペン,ロイ ジェラルド
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/102483(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/173157(WO,A2)
【文献】 国際公開第2012/168739(WO,A1)
【文献】 特表2012−527426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00−409/44
C07B 31/00− 61/00
C11D 1/00− 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性メチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩化合物の総重量に対して少なくとも2重量%の、結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する固体組成物であって、前記結晶タイプIIIは、Cu Kα照射を用いたX線回折分析によって分析した場合、下にリスト化した反射を特徴とする結晶変態を含む結晶の形態である、組成物。
【表1】
【請求項2】
請求項1に記載の結晶タイプIII変態の形態のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩と、組成物中のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩結晶化合物の総重量に対して20重量%未満の、別の結晶変態のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩とを含有する、組成物。
【請求項3】
10%よりも高い結晶化度を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
20%よりも高い結晶化度を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
キレート剤、ビルダー、界面活性剤、スケール除去剤、および抗腐食剤の群から選択される化合物をさらに含有する、請求項2から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する組成物を調製する方法であって、Cu Kα照射を用いたX線回折分析によって分析した場合、下に列挙するタイプIの反射を特徴とする結晶変態を有するメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する組成物を、75〜200℃の間の温度での熱処理、0〜1barの間の圧力での低圧処理、または熱処理と低圧処理との両方に、同時にまたは相次いで供するステップを含む、方法。
【表2】
【請求項7】
前記熱処理および/または低圧処理が、1分〜24時間の間、実行される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理および/または低圧処理が、10分〜10時間の間、実行される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
最高80%相対湿度の条件下、1分〜12時間の時間、請求項1に記載の結晶タイプIIIの塩を含有する固体組成物を水蒸気に接触させることによって、請求項1に記載の固体組成物中の結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を、水和結晶タイプIの結晶変態を有するメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩に変換する方法であって、水和結晶タイプIは、Cu Kα照射を用いたX線回折分析によって分析した場合、下に列挙する反射を特徴とする、方法。
【表3】
【請求項10】
総固体含有量に対して少なくとも2重量%で水和結晶タイプIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する組成物であって、水和結晶タイプIは、Cu Kα照射を用いたX線回折分析によって分析した場合、下に列挙する反射を特徴とする、組成物
【表4】
【請求項11】
請求項1に記載の組成物、請求項2から5のいずれか一項に記載の組成物、または請求項10に記載の組成物の、洗浄剤成分としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しい結晶形態の固体メチルグリシン−N,N−二酢酸ナトリウム塩化合物、化合物を含有する組成物、この化合物を調製する方法、および化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルグリシン−N,N−二酢酸およびその塩(MGDAと呼ぶ)は、良好な生分解性を有する公知のキレート剤であり、洗浄剤、水処理のような多くの用途において、または微量栄養の生成における原材料として、適用されている。
【0003】
メチルグリシン−N,N−二酢酸およびその塩の1つの欠点は、固体として単離した場合、多湿条件での貯蔵における影響を比較的受けやすいことであり、この場合、水を吸収し、粘着性の材料を生じる。これによって、MGDAは、しばしば自動食器洗浄(ADW)用製品の基礎となる粉末などの粉状用途については、これらの粉末が自由流動特性を急速に失うため、適切性が限定的となる。
【0004】
非晶質固体の代わりに結晶として単離すると、MGDAの自由流動特性を向上させることができる。結晶性Na3−MGDA(メチルグリシン−N,N−二酢酸の三ナトリウム塩)の2つの品種(variety)が当技術分野において公知であり、異なる特徴の回折パターンを得るXRD分析によって、識別することができる。
【0005】
国際公開第2010/133618号パンフレットは、スラリーを熟成させるペーストバンカーに連結された薄膜乾燥機に基づく、Na3−MGDAの水溶液を乾燥させるプロセスを開示している。2つの異なる結晶の品種、またはこれらの混合物を、このプロセスによって得ることができる。これらの結晶品種は、Cu Kα照射を用いて測定されるX線粉末回折パターンにおけるそれぞれの回折角2シータに相関がある、オングストロームでのd値によって同定することができる。結晶タイプを、この文献において、結晶タイプIおよびIIと呼ぶ。
【0006】
国際公開第2012/168739号パンフレットは、スラリーから開始し、次に、得られた固体を凝集させ、続いて、得られた凝集体を微粉砕する、Na3−MGDAを噴霧乾燥させるプロセスを開示している。この文献によれば、このプロセスを用いることによって、あまり望ましくない一水和物よりも多くの結晶性二水和物が得られる。この文献における二水和物結晶を結晶タイプIと呼び、一水和物と呼ばれるものを結晶タイプIIと呼ぶ。
【0007】
結晶タイプIおよびIIは、表1に示す下の回折パターンによって定義することができる。
【0008】
【表1】
【0009】
国際公開第2012/168739号パンフレットにおいて、結晶タイプIは、より吸湿性が低いため、多くの用途について好ましい品種であることが示されている。高度の結晶タイプIを含有する粉末または顆粒は、高湿条件における保存の際に、自由流動特徴をより良好に保つが、タイプIIの品種のみ、または主にそれを含有する製品は、これらの条件では保つことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
特許文献1:国際公開第2010/133618号
特許文献2:国際公開第2012/168739号
特許文献3:国際公開第2017/102483号
特許文献4:国際公開第2015/173517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
新しい品種のメチルグリシン−N,N−二酢酸キレート剤が、当技術分野において継続的に必要とされている。特に、固化せず、既に公知の品種よりも、乾燥形態における使用に適するようにする特性を有する品種が必要とされている。加えて、例えば、水は、キレート剤とともに洗浄剤配合物にしばしば用いられる、例えば過炭酸塩などの漂白剤に悪影響を及ぼすため、キレート剤中の含水率が高すぎると、これらを用いた洗浄剤配合物の安定性の低下をもたらす場合があることが知られている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、本発明者らは現在、結晶タイプIまたは結晶タイプIを含有する組成物の変換によって、結晶タイプI化合物を、この出願において簡潔に結晶タイプIIIと呼ぶ新しい結晶品種に、完全に変換できることを見出している。
【0013】
本発明は、結晶性メチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩化合物の総重量に対して少なくとも2重量%の、結晶タイプIIIの形態のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含む固体組成物であって、結晶タイプIIIは、Cu Kα照射を用いたX線回折分析によって分析した場合、下の表2に列挙する反射を特徴とする結晶変態(crystalline modification)を含む、組成物を提供する。
【0014】
【表2】
【0015】
この新しい結晶タイプIIIは、上の表2にまとめ、図1に示した粉末ディフラクトグラムによって例証されるように、(Cu Kα照射を用いた際に)主な特徴的反射のリストが得られるX線回折分析によって同定することができる。結晶タイプIIIは、本発明の組成物中の量、すなわち、少なくとも2重量%の量で存在する場合のみ、同定することができることに留意するべきである。好ましくは、組成物中のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩含有量に対する結晶タイプIIIの量は、少なくとも5重量%、さらにより好ましくは少なくとも10重量%、および最大100重量%である。
【0016】
全体のパターンは、a=6.2+/−0.05;b=30.4+/−0.1;c=11.8+/−0.1;β=90.7+/−0.5の範囲の単位胞パラメーターを有する単位胞の観点から説明することができる。
【0017】
新しい品種である結晶タイプIIIの重要な利点は、これが著しく少ない水を含有し、したがって最大12%の、より多い含有量の有効成分を含有することであり、とりわけ輸送コストの低減を目標とする場合に有益である。さらに、より小さなADW錠剤、または同じサイズであるが、サイズもしくは重量における閾値を超える前に他の成分を配合することにおいてより多くの自由をもたらすADW錠剤を目指す強い要望は、新しい結晶タイプIIIのより高い活性の成分に直接関係する利益である。
【0018】
驚くべきことに、迅速な溶解が必要な場合、例えば食器洗浄用錠剤の配合物の一部をなす場合、新しい結晶タイプIIIは、追加の機能性をもたらすようである。本発明の化合物は、錠剤に崩壊剤の機能性をもたらし、それによって、錠剤の分解を加速するために配合物に通常用いられる他の崩壊剤の必要性を低減させる。
【0019】
本発明はまた、上の結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸塩を作製する方法、および(さらに)これを含有する組成物に関する。
【0020】
したがって、本発明は、結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩、および本発明により網羅されるこの結晶タイプIIIを含有する組成物を調製する方法であって、結晶タイプIを特徴とする結晶変態を有するメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する組成物を、75〜200℃の間の温度での熱処理、0〜1barの間の圧力での低圧処理、または熱処理と低圧処理との両方に、同時にまたは相次いで供するステップを含有する、方法を提供する。
【0021】
上の方法は、結晶タイプIから開始する結晶タイプIIIの形成を包含する。この方法は、単純な乾燥プロセスではなく、実際には変換であることを認識するべきである。結晶タイプIを比較的湿潤な形態で単離した場合、結晶タイプIが必要な乾燥度に達した後に結晶タイプIIIへの変換が起こるため、方法にはより長い時間がかかる。これは、タイプIをタイプIIIに変換するときに起こり得る約12%を超える辺り、またはこの12%を明らかに超える任意の重量減少から顕著である。したがって、結晶水の他に5重量%未満のさらなる水を、好ましくは1重量%未満のさらなる水を含有する結晶タイプIの固体で開始して、上の方法を実行することが好ましく、さらなる水は結晶水ではない。
【0022】
先行技術文献の国際公開第2012/168739号パンフレットおよび国際公開第2010/133618号パンフレットは、結晶タイプIを開示しているが、これらの文献は、本発明により網羅される、明らかに分析可能な量の結晶タイプIIIをもたらし得る条件下で、これらのタイプI結晶のいかなる処理も開示していないことに留意するべきである。例えば、噴霧乾燥プロセスでは、熱を適用した場合、このような熱処理が非常に短いため、検出可能な量の結晶タイプIIIを形成することはできない。
【0023】
国際公開第2017/102483号パンフレットおよび国際公開第2015/173517号パンフレットは、熱処理を受ける固体MGDA生成物を開示しているが、これは上に記載した熱処理であると考えることができる。しかしながら、これらの両文献において、いずれの開示されているMGDA結晶も、結晶タイプII形態のものであることに留意するべきである(国際公開第2017/102483号パンフレットにおいて、材料はタイプIと呼ばれるが、これが、本発明者らがタイプIIと定義したものであることは、回折パターンから明白である)。下に実証するように、タイプIIのMGDA結晶を、熱処理によって、本発明の結晶タイプIIIに変換することはできない。
【0024】
本発明の結晶タイプIII形態のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する材料を、多湿条件、水蒸気に曝露させると、結局それは再び、専ら結晶タイプIの品種を含有する材料となり、元の非処理材料と比較して、再水和後の全体の結晶性は低下するが、非常に驚くべきことに、これらの結晶タイプI含有化合物(すなわち、タイプI含有材料からタイプIIIに変換され、タイプIに戻ったもの)は、高湿条件において元の非処理材料よりも良好な自由流動性を保持する。
【0025】
したがって、新しい結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸塩を水和させ、より良好な自由流動特性を有する新しいバージョンの結晶タイプIにすることができ、これも本発明の一部である。
【0026】
本発明は、最高80%相対湿度の条件下、1分から12時間の時間、結晶タイプIIIの生成物を水蒸気に接触させることによって、結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩、またはこのような結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する組成物を、異なる特性を有する結晶タイプIである、水和結晶タイプIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩に変換する方法を提供する。本発明はまた、簡潔に水和結晶タイプIと呼ぶ上の方法の生成物、またはこの水和結晶タイプIを、総固体含有量に対して少なくとも2重量%、または好ましくは少なくとも5重量%、またはさらにより好ましくは少なくとも10重量%、および最大100重量%含有する任意の組成物を提供する。
【0027】
好ましくは、40〜75相対湿度、さらにより好ましくは50〜70相対湿度下で、水蒸気に接触させることによって、方法を行う。好ましくは0〜100℃の間、さらにより好ましくは20〜60℃の間の温度で、方法を行う。さらに別の好ましい実施形態では、30分〜6時間、さらにより好ましくは1〜3時間、この方法を実行する。より高い相対湿度、より高い温度によって方法はより速くなり、より低い湿度およびより低い温度によって方法はより遅くなることは、当業者には明らかである。
【0028】
最後に、本発明は、結晶タイプIIIの塩、この結晶タイプIIIを含有する組成物、および水和結晶タイプIの使用に関する。
【0029】
これらの使用には、自動食器洗浄用配合物などの洗浄剤配合物中の成分として、結晶タイプIIIの、または水和結晶タイプIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する組成物のいずれかの使用が含まれる。
【0030】
この文献において論じる3つの結晶品種、すなわち、この発明のタイプIII、ならびに最新技術のタイプIおよびIIは、異なるX線回折の特徴を有する。3つのタイプの間の容易な区別のため、これらをすべて表3にまとめる。タイプIIIの回折パターンをさらに、図1として添付する。
【0031】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】新しい結晶タイプIIIの回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この明細書全体を通じて、ディフラクトグラムはいずれも、Bruker−AXS D8反射回折計を用いて、Niフィルタを通したCu Kα照射によって記録した。発生器設定は40kV、40mAである。発散および散乱防止スリットはV20(可変20mm)、検出器スリットは0.6mm。測定範囲:2θ=2.0〜70.0°、ステップサイズ0.02°、ステップ当たりの時間2.2秒。
【0034】
結晶相および非晶質相の表面分率を決定し、これを用いて、結晶相の面積Icと非晶質相の面積Iaとからなる総面積に対する結晶相の面積Icの比として、結晶化度CDを算出することによって、X線粉末ディフラクトグラムから結晶化度を確認した;結晶化度(%)=Ic/(Ic+Ia)×100。
【0035】
この手順は、Bruker EVA v.4.0ソフトウェアを用いて、次のパラメーター:強調は使用不可、曲率2.5、閾値1、によって実行した。
【0036】
ある実施形態における本発明は、結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩と、組成物中の結晶性化合物の総重量に対して50重量%未満、好ましくは20重量%未満の、別の結晶変態のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩とを含有する組成物に関する。さらにより好ましい実施形態では、これらの組成物は、組成物中の結晶性化合物の総重量に対して10重量%未満の、別の結晶変態を含有する。
【0037】
さらにより一層好ましくは、これらの組成物は、10%よりも高い、最も好ましくは20%よりも高い結晶化度を有する。
【0038】
実施形態では、上の組成物は、別のキレート剤、ビルダー、界面活性剤、スケール除去剤、および抗腐食剤からなる群から選択される化合物をさらに含有することができる。
【0039】
本発明の結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を調製する方法は、結晶タイプIの反射を特徴とする結晶変態を有するメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する組成物を、75〜200℃の間、好ましくは100〜180℃の間、さらにより好ましくは140〜170℃の温度での熱処理、0〜1barの間、好ましくは0.02〜0.7barの間、さらにより好ましくは0.05〜0.5barの間の圧力での低圧処理、または熱処理と低圧処理との両方に、同時にまたは相次いで供するステップを含む。
【0040】
好ましくは、上の熱処理および/または低圧処理を、1分〜24時間の間、好ましくは10分〜10時間の時間、実行する。
【0041】
好ましい実施形態では、上の熱処理または低圧処理を、乾燥剤の存在下で実行することができる。さらに好ましい実施形態では、任意の低圧を用いる場合、低圧は、熱処理または40〜75℃の間であり得る温度と同時に行う。
【0042】
指示されるように、本発明はさらに、本発明の結晶タイプIIIのNa3−MGDA塩を水蒸気に接触させることによって、結晶タイプIII塩を、結晶タイプIの結晶変態を有する生成物に変換する方法に関する。
【0043】
得られる生成物は、先行技術から既に公知の結晶タイプIと同じ結晶変態を有するが、これは再水和形態で、結晶タイプIIIを調製するために用いる結晶タイプIよりも良好な自由流動特性を特徴とする。その結果、結晶タイプIIIを水和させる上の方法から得られる再水和結晶タイプI生成物は、最新技術において公知である元の結晶タイプIと同じではないと結論づけなければならない。
【0044】
本発明の結晶タイプIII塩、本発明のこの結晶タイプIII塩を含有する上に開示した任意の組成物、および再水和結晶タイプI生成物はすべて、洗浄剤成分などの多くの用途において、有利に用いることができる。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
結晶性メチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩化合物の総重量に対して少なくとも2重量%の、結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する固体組成物であって、前記結晶タイプIIIは、Cu Kα照射を用いたX線回折分析によって分析した場合、下にリスト化した反射を特徴とする結晶変態を含む結晶の形態である、組成物。
【表1】
項2.
項1に記載の結晶タイプIII変態の形態のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩と、組成物中のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩結晶化合物の総重量に対して20重量%未満の、別の結晶変態のメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩とを含有する、組成物。
項3.
10%よりも高い、好ましくは20%よりも高い結晶化度を有する、項2に記載の組成物。
項4.
キレート剤、ビルダー、界面活性剤、スケール除去剤、および抗腐食剤の群から選択される化合物をさらに含有する、項2または3に記載の組成物。
項5.
項1に記載の結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する組成物を調製する方法であって、Cu Kα照射を用いたX線回折分析によって分析した場合、下に列挙するタイプIの反射を特徴とする結晶変態を有するメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を含有する組成物を、75〜200℃の間の温度での熱処理、0〜1barの間の圧力での低圧処理、または熱処理と低圧処理との両方に、同時にまたは相次いで供するステップを含む、方法。
【表2】
項6.
前記熱処理および/または低圧処理が、1分〜24時間の間、好ましくは10分〜10時間の時間、実行される、項5に記載の方法。
項7.
最高80%相対湿度の条件下、1分〜12時間の時間、結晶タイプIIIの塩を水蒸気に接触させることによって、項1に記載の結晶タイプIIIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩を、水和結晶タイプIの結晶変態を有するメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩に変換する方法であって、水和結晶タイプIは、Cu Kα照射を用いたX線回折分析によって分析した場合、下に列挙する反射を特徴とする、方法。
【表3】
項8.
項7に記載の方法によって得ることができる、水和結晶タイプIのメチルグリシン−N,N−二酢酸三ナトリウム塩。
項9.
項1に記載の組成物、項2から4のいずれか一項に記載の組成物、または項8に記載の生成物の、洗浄剤成分としての使用。

【実施例】
【0045】
本発明を、下の実施例において説明する。
【0046】
[実施例1〜3]二重ドラム乾燥機を用いたNa−MGDA固体の調製
結晶品種タイプIの種を含有する加熱した(約110℃)Na−MGDAスラリーを、二重ドラム乾燥機に供給することによって、Na−MGDA固体サンプルを調製した。プロセス条件およびNa−MGDAサンプルの鏡像異性体比を、表3にまとめる。
【0047】
結果として得られた固体材料の結晶画分に関する限り、XRD分析によれば、これらのサンプルは結晶品種タイプIのみを含有していた。得られた結晶性を表3にまとめる。
【0048】
[実施例4]新しい結晶品種タイプIIIを含有するNa−MGDA固体の調製
実施例1で調製したサンプルを、160℃で1時間乾燥させた。関与する重量減少は10±1重量%であった。
【0049】
これらの乾燥サンプルを続いて、XRD分析に供した。図1に示す回折パターンに準拠して、結晶品種IまたはIIの痕跡は見出されず、代わりに、新しい品種(III)の反射のみが同定された。得られた結晶性を表3にまとめる。
【0050】
[実施例5]新しい結晶品種タイプIIIを含有するNa−MGDA固体の、新しい形態の結晶品種タイプIへの再水和
160℃で乾燥させたサンプルを、40℃、75%相対湿度で3時間保管し、続いて循環オーブン中、50℃で終夜乾燥させた。サンプルを再び、XRD分析に供した。すべてのサンプルは、専ら結晶品種タイプIを示した。得られた結晶性を表4にまとめる。
【0051】
XRD分析によって測定した結晶性は、元のサンプルと比較して低下しているが、結晶品種IおよびIIIは、脱水または再水和によって、互いに変換することができると結論づけた。
【0052】
【表4】
【0053】
[比較例6]結晶品種タイプIIを含有するNa−MGDA固体の脱水
Trilon M顆粒のサンプル(BASFからのNa−MGDA固体)を、XRDによって分析した。サンプルは、専ら結晶タイプ品種IIを含有するようであった。全体の結晶化度は71%であった。
【0054】
これらのTrilon M顆粒を、160℃で乾燥させた。1時間の乾燥後、サンプルを取り出し、XRDによって分析した。結晶品種タイプIIのみが観測され、全体の結晶化度は49%に低下した。
【0055】
160℃で3時間乾燥後、別のサンプルを取り出した。XRD分析によって、サンプルは完全に非晶質になったことが示された。
【0056】
[実施例7]他の条件における、結晶品種タイプIを含有するNa−MGDA固体の脱水
実施例1の化合物を、様々な他の乾燥条件(温度、圧力、時間)に曝露させた。XRD分析を用いることにより、結晶品種タイプIの、結晶品種タイプIIIへの変換を決定した。
【0057】
表5に提示した結果から、結晶タイプIの、結晶タイプIIIへの変換は、乾燥処理の時間スケールを、例えば温度および圧力(の減少)に適合させることによって、様々な条件で実行することができると結論づけた。
【0058】
【表5】
【0059】
[実施例8および9、ならびに比較例10]非変換の結晶タイプI化合物および結晶タイプII化合物と比較した、結晶タイプIから結晶品種タイプIIIに、次いで結晶タイプIに変換した材料の自由流動性
実施例1および3で得られた化合物を、160℃で4時間乾燥させた。続いて、5グラムの各サンプルを、(別々の)結晶化皿(直径10cm)の底に均一に分布させ、人工気象室中、40℃、75%相対湿度で、5日間保管した。Trilon M顆粒のサンプル(BASFからのNa−MGDA固体)に加えて、参照として非処理サンプルも、同じ人工気象室に同時に保管した。
【0060】
試験の信頼性を向上させるため、全サンプルの3つの別々の皿を、同じ条件で保管した。
【0061】
5日後、皿を秤量し、内容物の質量の増加を決定した。平均した結果を表6にまとめる。
【0062】
依然として自由に流動する材料の量を推定するため、まず皿を軽く叩き、次いで皿を垂直に置き、ガラス表面に貼りついたままの材料の量対最終的に底に落ちた顆粒材料の量を推定した。
【0063】
表6にまとめた結果から、処理したサンプルは遥かに大きな重量の増加を示したという事実にもかかわらず、これらのサンプルは、非処理材料と比較して、著しく大量の自由流動材料を示すと結論づけた。したがって、結晶タイプIIIは変換されて結晶タイプIに戻っているようであるが、それでも、より良好な自由流動特性を有する新しい生成物のタイプが得られる。
【0064】
【表6】
【0065】
[実施例11]結晶タイプIから結晶タイプIIIの形成、および溶解特性の比較
XRDによれば70%の結晶性を有し、結晶品種タイプIのみを示す顆粒を、160℃で終夜乾燥させ、結晶品種III(合計結晶性55%)のみを示す顆粒を得た。この処理の後、粒子サイズ分布に著しい変化は観測されなかった。
【0066】
これらの顆粒の溶解速度を、熱処理をしていない元の顆粒の溶解速度と比較した。
導電性測定プローブを装備している、75グラムの脱イオン水で満たした撹拌容器に、1グラムの顆粒を1ショットで加えた。分散液の導電性を、時間内でモニタリングした。サンプルが完全に溶解し、安定な導電性のレベルを得たときに最終的に得られた値で、導電性を除算することによって、溶解の程度を決定した。
【0067】
表7において、両方の顆粒について、特定の溶解の程度に達するのに必要な時間を示すが、これは、タイプIII含有顆粒は、タイプI含有顆粒よりも遥かに速く溶解することを示している。
(測定は2連で行い、同じ結果を得た)
【0068】
【表7】
図1