【文献】
Journal of Physiological Anthropology,2018年 1月,37:3,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の天然由来成分の睡眠改善剤のうち、血中を介した神経伝達により睡眠改善効果がもたらされるものは、効果の発現までに時間を要する点で十分に満足できるものではなかった。また、入眠時間の短縮効果は得られても、睡眠全体における睡眠効率を向上させる効果は必ずしも十分といえるものではなかった。また、香り成分の嗅覚刺激による神経伝達を経て睡眠改善効果がもたらされるものは、香りの質に対する嗜好性によって生理作用への影響が大きいため、効果の出現に個人差が見られた。また、天然物から抽出する香気成分は、原材料の産地や製造方法等により成分組成が変動しやすく、安定した睡眠効果が得られないという問題があった。
本発明の課題は、天然物からの抽出された香気成分であっても、安定した睡眠効果が得られる睡眠改善剤を提供することである。
【0008】
本発明者は、睡眠改善効果のうち、入眠時間及び起床時間の短縮並びに睡眠効率の向上の生理作用について、紅茶類から抽出した香気成分を用いて検討した結果、ホトリエノール、又は該香気成分のうち、(A)柑橘花様香気成分、(B)甘い花様香気成分、(C)芳醇花様香気成分、(D)ウッディ様香気成分、(E)グリーン様香気成分及び(F)クール様香気成分を特定の割合で配合した香気成分が、極めて高い睡眠改善効果を示すことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明以下の事項により特定される次のとおりのものである。
(1)ホトリエノールを有効成分として含有する睡眠改善剤。
(2)紅茶類由来の香気成分の1種又は2種以上を含有する睡眠改善剤。
(3)香気成分が、(A)柑橘花様香気成分、(B)甘い花様香気成分、(C)芳醇花様香気成分、(D)ウッディ様香気成分、(E)グリーン様香気成分及び(F)クール様香気成分からなる(2)に記載の睡眠改善剤。
(4)(A)柑橘花様香気成分が、リナロールオキサイド(transフラノイド型)(linalool oxide(trans-franoid))、リナロールオキサイド(cisフラノイド型)(linalool oxide(cis-franoid))、リナロール(linalool)、ホトリエノール(hotrienol)、α−ターピネオール(α-terpineol)、リナロールオキサイド(cisピラノイド型)(linalool oxide(cis-pyranoid))、シトラール(citral)、リナロールオキサイド(transピラノイド型)(linalool oxide(trans-pyranoid))、ネロール(nerol)又はゲラニオール(geraniol)及びのネロリドール(nerolidol)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上からなり、
(B)甘い花様香気成分が、ベンズアルデヒド(benzaldehyde)、フェニルアセトアルデヒド(phenylacetaldehyde)、β−ダマセノン(β-damascenone)、ベンジルアルコール(benzylalcohol)、2−フェニルエチルアルコール(2-phenylethylalcohol)又はcis−ジャスモン(cis-jasmone)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上からなり、
(C)芳醇花様香気成分が、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン(6-methyl-5-hepten-2-one)、β−シクロシトラール(β-cyclocitral)、α−ヨノン(α-ionone)、β−ヨノン(β-ionone)又は5,6−エポキシ−β−ヨノン(5,6-epoxy-β-ionone)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上からなり、
(D)ウッディ様香気成分が、β−ミルセン(β-myrcene)、α−ターピネン(α-terpinene)、D−リモネン(limonene)、α−フェランドレン(α-phellandrene)、trans−β−オシメン(trans-β-ocimene)、γ−ターピネン(γ-terpinene)、cis−β−オシメン(cis-β-ocimene)、p−シメン(p-cymene)又はターピノレン(terpinolene)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上からなり、
(E)グリーン様香気成分が、ヘキサナール(hexanal)、trans−2−ヘキセン−1−アール(trans-2-hexen-1-al)、酢酸cis−3−ヘキセニル(cis-3-hexen-1-ol,acetate)、ヘキサノール(hexanol)、cis−3−ヘキセン−1−オール(cis-3-hexen-1-ol)、trans−2−ヘキセン−1−オール(trans-2-hexen-1-ol)又は酪酸trans−2−ヘキセニル(trans-3-hexenyl butyrate)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上からなり、並びに
(F)クール様香気成分が、サリチル酸メチル(methyl salicylate)からなる(2)又は(3)に記載の睡眠改善剤。
(5)香気成分はホトリエノール及びサリチル酸メチルを含み、ガスクロマトグラフ質量分析におけるホトリエノールとサリチル酸メチルのピークエリア比(ホトリエノール/サリチル酸メチル)が0.2以上であって、サリチル酸メチル濃度が500ppb〜7000ppbである(2)〜(4)のいずれか1つに記載の睡眠改善剤。
(6)ヒトに皮膚、経鼻及び/又は経口から摂取させる(1)〜(5)のいずれか1つに記載の睡眠改善剤。
(7)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の睡眠改善剤を含む飲食品。
(8)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の睡眠改善剤を含む香粧品。
【発明の効果】
【0010】
入眠時に本発明のホトリエノールを有効成分として、又は紅茶類由来の香気成分を1種若しくは2種以上を含有する睡眠改善剤を吸入又は摂取することにより、入眠時間及び起床時間の短縮、睡眠効率の向上の生理作用がみられ、主観評価においても睡眠の質が向上した。睡眠時に、ホトリエノール又は紅茶類由来の香気成分を利用することで、眠りの質を高め、不眠症状を改善させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の睡眠改善剤は、ホトリエノール又は紅茶類由来の香気成分の1種又は2種以上(以下、「香気成分等」という。)を含有する。
本発明において「睡眠改善」とは、睡眠を質的に改善しストレス感を軽減することを意味し、好ましくは入眠時間の短縮、中途覚醒時間の短縮、睡眠効率の改善、起床時の眠気、起床時の熟眠感及び夢見の良さの改善、起床時の疲労回復感の向上、並びに睡眠時間に対する満足感の改善のうち1以上、好ましくは2以上の現象が観察されることを指す。
【0013】
本明細書において「中途覚醒」とは、入眠から起床に至るまでの間に目が覚める状態を指し、目が覚めた時間の積算時間を中途覚醒時間とする。
また、本明細書において「睡眠効率」とは、睡眠中における実質的な睡眠を意味し、睡眠中の中途覚醒を除いた睡眠時間(総睡眠時間)を、入眠から起床までの時間(総就床時間)で除した値である。したがって、中途覚醒が多いと睡眠効率は低下する。
また、本明細書において「熟眠感」とは、熟眠したという満足感を指し、熟眠感の欠如は、睡眠時間は十分なのに熟眠したという満足感がない状態で、目覚め時に睡眠不足を感じる状態を指す。
【0014】
また、本明細書において「疲労回復感」とは、睡眠によって疲労が回復したという満足感を指し、疲労回復感の欠如は、起床後も就寝前の疲労が残っていると感じる状態を指す。
なお、本明細書において「改善」とは、症状若しくは状態の好転、症状若しくは状態の悪化の防止若しくは遅延又は症状の進行の逆転、防止若しくは遅延をいう。
【0015】
本発明に用いられる香気成分等は、チャノキ(Camellia sinensis)の酸化発酵工程を得た茶葉や茎を原料とした紅茶類から、公知の方法を用いて得られた香気成分等であり、それらの中でも睡眠改善効果を有する香気成分等を好適に例示することができる。
【0016】
また、本発明に用いられるホトリエノールは、紅茶類等の天然物から抽出物であっても、化学的に全合成されたものであっても、又は紅茶類等の天然物から抽出物を化学処理した半合成されてものであってもよい。天然物からの抽出物の場合に、ホトリエノールが含まれる抽出物をそのまま又は濃縮等の操作をして用いることができ、抽出物を蒸留、カラムクロマトグラフィー等の分離精製操作を行って、ホトリエノールを単離精製したもの又はその他の成分を含む画分として用いることもできる。
また、ホトリエノールは、3位に不斉炭素があり、3R−(−)−3,7−ジメチル−1,5(E),7−トリエン−3−オール(以下、3R−(−)体という。)と3S−(+)−3,7−ジメチル−1,5(E),7−トリエン−3−オール(以下、3S−(+)体という。)の光学活性体が存在するが、本発明に用いられるホトリエノールは、3R−(−)体であっても、3S−(+)体であってもよく、また、それらの混合物であってもよく、ラセミ混合物であってもよい。
【0017】
本発明に用いられる香気成分等の原料として使用し得る紅茶類としては、ダージリン、アッサム、ニルギリ、ケニア、キーモン、ラプサンスーチョン、ヌワラエリア、ウバ、ディンブラ等が挙げられるが、中でもダージリンのセカンドフラッシュ(2nd flush)は、有効な香気成分を有しているため、より好ましく挙げられる。なお、一般的に流通している紅茶類を原料として使用することも可能である。
【0018】
本発明に用いられる香気成分等の製造方法としては、紅茶類から減圧蒸留、水蒸気蒸留、吸着剤への吸着脱着等の抽出処理により調製する方法が挙げられる。例えば、紅茶類へ熱水又は温水を加水して抽出液を得た後、常圧下又は減圧下加熱による蒸留工程で発生した蒸気水を回収することにより、紅茶類に含まれる香気成分等を得ることができる。
【0019】
また、水蒸気蒸留法により、紅茶類より本発明に用いられる香気成分等を製造することもできる。水蒸気蒸留法は、紅茶類又は紅茶類を含む水溶液に水蒸気を吹き込み、水蒸気と共に揮発した香気成分を冷却・液化して留出液として回収する方法であり、常圧水蒸気蒸留、加圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留等の方法を例示することができる。水蒸気は、飽和水蒸気又は過熱水蒸気のいずれを用いても良い。注入する水蒸気の温度や流量、水蒸気の冷却温度、留出液量等は原料茶葉の種類に応じて任意に設定することができ、水蒸気の温度は40〜110℃、流量は原料茶葉1kg当たり0.2〜20kg/hr、冷却温度は−10〜70℃、留出液量は茶葉1kg当たり0.5〜2.5kg等が例示できるが、この範囲に限定されるものではない。
その他の本発明に用いられる香気成分等の製造方法としては、紅茶類より、超臨界水又は超臨界二酸化炭素を用いた超臨界抽出法を例示することができる。
【0020】
得られた香気成分等を、さらに常圧下又は減圧下精留することにより、より高濃度の香気成分として得ることができる。さらに、逆浸透膜等の非加熱濃縮法により濃縮し、窒素置換等で気中の酸素濃度を低くしたうえで冷凍保存することで、保存性を高めることができる。
また、得られた香気成分等は、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法を用いて、紅茶類から抽出された成分が精製されたものであってもよいし、精製されていない濃縮物であってもよい。
また、前記香気成分等は、紅茶類に含まれる化合物のうち、一化合物単独の状態で、又は複数化合物混合している状態であってもよい。
このようにして得られた香気成分等を、そのまま又は適宜製剤することによって本発明の睡眠改善剤とすることができる。
【0021】
本発明において「紅茶類由来」の意味は、「紅茶類に含まれる」ことを意味し、したがって、「紅茶類由来の香気成分」とは、紅茶類に含まれる香気成分であり、紅茶類から上記方法に従って、抽出されたものであってもよく、すでに精製されている市販品をそのまま又は適宜混合したものであってもよく、化学合成されたものであってもよく、また、所望する香気組成となるよう紅茶類から抽出したものに市販の又は化学合成された香気成分等を加えて濃度調整したものであってもよい。そのような調整を専門メーカーに委託加工したものであってもよい。特に、「紅茶類由来の香気成分」中に、(A)柑橘花様香気成分、(B)甘い花様香気成分、(C)芳醇花様香気成分、(D)ウッディ様香気成分、(E)グリーン様香気成分及び(F)クール様香気成分を含有していることが本発明の睡眠改善剤として好ましい。
【0022】
本発明の睡眠改善剤は、上記した方法で得られた紅茶類由来の香気成分を1種又は2種以上を含有するが、香気成分として、例えば、グリーン様、ウッディ様、ドライ様、花様、フルーツ様、スィート様、ロースト様、スパイシー様又はクール様の香気成分が挙げられるが、花様、ウッディ様、グリーン様及びクール様香気成分含む組合せの香気成分が、睡眠改善効果を有する点で好ましく挙げることができ、さらに、花様香気成分として、柑橘花様香気成分、甘い花様及び芳醇花様香気成分からなる組合せが好ましく挙げられる。
また、前記香気成分として、ホトリエノールを有効成分として含有するのが好ましい。
【0023】
(A)柑橘花様香気成分として、例えば、リナロールオキサイド(transフラノイド型)、リナロールオキサイド(cisフラノイド型)、リナロール、ホトリエノール、α−ターピネオール、リナロールオキサイド(cisピラノイド型)、シトラール、リナロールオキサイド(transピラノイド型)、ネロール、ゲラニオール、ネロリドール、シトロネロール、ローズオキサイド等が挙げられるが、中でもリナロールオキサイド(transフラノイド型)、リナロールオキサイド(cisフラノイド型)、リナロール、ホトリエノール、α−ターピネオール、リナロールオキサイド(cisピラノイド型)、シトラール、リナロールオキサイド(transピラノイド型)、ネロール、ゲラニオール又はネロリドールが好ましく挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
(B)甘い花様香気成分として、例えば、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−ダマセノン、ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、cis−ジャスモン、酢酸ベンジル、安息香酸ベンジル等が挙げられるが、中でもベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−ダマセノン、ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール又はcis−ジャスモンが好ましく挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
(C)芳醇花様香気成分として、例えば、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、β-シクロシトラール、α−ヨノン、β−ヨノン及び5,6−エポキシ−β−ヨノン、インドール、イソオイゲノール等が挙げられるが、中でも6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、β−シクロシトラール、α−ヨノン、β−ヨノン又は5,6−エポキシ−β−ヨノンが好ましく挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
(D)ウッディ様香気成分として、例えば、β−ミルセン、α−ターピネン、γ−ターピネン、D−リモネン、α−フェランドレン、cis−β−オシメン、trans−β−オシメン、p−シメン、ターピノレン、ツヨプセン、カジネン、カジノール等が挙げられるが、中でもβ−ミルセン、α−ターピネン、γ−ターピネン、D−リモネン、α−フェランドレン、cis−β−オシメン、trans−β−オシメン、p−シメン又はターピノレンが好ましく挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
(E)グリーン様香気成分として、例えば、ヘキサナール、trans−2−ヘキセン−1−アール、酢酸cis−3−ヘキセニル、ヘキサノール、cis−3−ヘキセン−1−オール、trans−2−ヘキセン−1−オール、酪酸trans−2−ヘキセニル、ヘキサン酸、trans−2−ヘキセン酸、trans−2−ヘプテナール、1−ペンテン−3−オール等が挙げられ、中でもヘキサナール、trans−2−ヘキセン−1−アール、酢酸cis−3−ヘキセニル、ヘキサノール、cis−3−ヘキセン−1−オール、trans−2−ヘキセン−1−オール又は酪酸trans−2−ヘキセニルが好ましく挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
(F)クール様香気成分として、サリチル酸メチル、カルボン、メントフラン、メントール、メントン、メンチルアセテート、プレゴン、ロツンジホロン、カンフェン、カンファー等が挙げられるが、中でも、サリチル酸メチルが好ましく挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
本発明の睡眠改善剤に含まれる紅茶類由来の香気成分は、ホトリエノール及びサリチル酸メチルを含むのが好ましい。ガスクロマトグラフ質量分析におけるホトリエノールとサリチル酸メチルのピークエリア比(ホトリエノール/サリチル酸メチル)が0.2以上であるのが好ましく、0.3以上がさらに好ましい。また、サリチル酸メチル濃度が500ppb〜7000ppbの範囲であるのが好ましく、さらに1000〜7000ppbの範囲が好ましく、2000〜7000ppb、3000〜7000ppb、さらに4000〜7000ppbの範囲が好ましい。
【0030】
また、本発明の睡眠改善剤は、ホトリエノールを有効成分として含むのが好ましい。ホトリエノールは、香気成分として、1種単独でも、他の紅茶類由来の香気成分と組み合わせても用いることができる。他の紅茶由来の香気成分と組み合わせて用いる場合に、香気成分中、ホトリエノールの含有量は、1〜99質量%の範囲が好ましく、さらに、5〜98質量%、10〜90質量%、20〜80質量%、30〜70質量%、40〜60質量%の範囲が好ましく、また、香気成分中、50質量%以上が好ましい。
本発明の睡眠改善剤に含まれる有効成分であるホトリエノールの濃度は、1〜2000ppmの範囲が好ましく、10〜1000ppmがより好ましく、50〜500ppmがさらに好ましい。特にホトリエノールを含有する睡眠改善剤をディフューザー等で使用する場合、該睡眠改善剤に含まれるホトリエノールの濃度範囲は、10〜1000ppm(mg/L)の範囲が好ましく、50〜500ppmがより好ましく、80〜100ppmがさらに好ましい。
【0031】
本発明の睡眠改善剤の摂取方法は、体内に取り込まれる方法であれば特に制限されず、例えば、皮膚、経鼻、経口等から摂取する方法が挙げられる。皮膚から摂取する方法として、具体的には、本発明の睡眠改善剤を含むローション、軟膏・クリーム、貼付剤(テープ剤、バッブ剤)、外用液剤、スプレー、化粧品、香水等を皮膚に直接塗布又は貼付する方法、点鼻薬とし鼻中に噴霧して鼻の粘膜より吸収させる方法等が挙げられる。経口から摂取する方法として、本発明の睡眠改善剤を飲食品等に混ぜて飲食品と一緒に摂取する方法、錠剤、カプセル剤、顆粒、シロップ、ドロップ、内用液剤等の形でサプリメントのように経口から摂取する方法等が挙げられる。
【0032】
経鼻からの摂取方法として、ルームフレグランス、アロマキャンドル、室内用アロマオイル、ゲル化剤で固めた固形芳香剤等の剤型で、香気成分を常温又は加熱して大気中に蒸散させる方法が挙げられる。
本発明の睡眠改善剤中の紅茶類由来の香気成分の含有量は特に限定されないが、0.0001〜100質量%の範囲が好ましく、さらに0.001〜30質量%の範囲が好ましく、0.005〜10質量%の範囲がより好ましい。この範囲であると良好な香り立ちバランスが得られるため好ましい。
【0033】
特にルームフレグランスや室内用アロマオイルに関しては、におい紙に塗布又は噴霧して室内芳香料とする、又は拡散器(ディフューザー)を用いて香りを散布、拡散してヒトに嗅がせる、ことが好ましい。この方法であるとより睡眠を改善することができる。
使用時間は特に限定されないが、睡眠前の30分〜2時間程度が適当である。これらの方法で空気中に揮散させたときの香気成分の濃度としては、低すぎると所期の効果が得られず、高すぎると空気中で凝縮した微粒子が析出することがあるので、0.01〜100ppbの範囲となるように揮散させるのが好ましい。
例えば、6畳の部屋(25m
3)で、3.33mg/hとなるように揮散させることが好ましい。
【0034】
本発明の睡眠改善剤は、その目的に応じて、ファンデーション、口紅、眉墨、アイシャドー等のメーキャップ化粧品や洗顔料(洗顔用化粧品)、化粧水、美容液、乳液、クリーム等の基礎化粧品などの化粧品、香水、芳香剤等の香りの製品などの香粧品に利用できる。
【0035】
本発明の睡眠改善剤を飲食品として用いる場合の形態としては、固形、粉末状、液体状、ゼリー状、シート状等が例示でき、睡眠改善剤として利用しやすい形態であればよい。また、その添加量は飲食品当たり0.005〜10質量%の割合が好ましく、1回当たりの摂取量は含まれる香気成分の総量として、約1〜50mg程度、好ましくは約1〜5mg程度である。さらに、本発明の睡眠改善剤は、保健機能性食品(特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品)として用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0037】
<睡眠効果の高い茶類のスクリーニング>
香気成分の様々な生理作用は、香気の拒絶性(好き、嫌い)により影響されることから、まず茶類の香質の拒絶性について調査した。
【0038】
<拒絶性の評価方法>
香りの拒絶性(好き、嫌い)は“まったく好ましくない(嫌い)”と“とても好ましい”を両端として100mmの線尺度で主観評価を求めた。香りの感じ方は“まったく思わない”と“とても思う”を両端として100mmの線尺度で主観評価を求めた。
【0039】
<試験方法>
20〜60才代の男女13名を被験者とした。室温23℃、相対湿度40%に設定した試験室に着席し、30分間安静にして試験環境に順化させた。香気の吸入は自然呼吸による吸吐動作により行った。ブランクは空気を2分間提示し、コントロール(85℃の温水)及びサンプル(85℃の紅茶標品)は、鼻下で2分間提示した。紅茶標品は、ダージリン(2nd flush)、アッサム、ウバ、アールグレイ(ベルガモット着香紅茶)について、各茶葉2.5gを充填したティーバッグ4個に対し、95℃のミネラルウォーター600mLで抽出したものを用いた。抽出時間は、ダージリンが4分、アッサムが3分、ウバが2分30秒、アールグレイは4分とした。各種紅茶の香質の拒絶性を主観評価した。
緑茶についても、上記茶葉と同様に、拒絶性を評価した。緑茶(煎茶)2.5gを充填したティーバッグ4個に対して、95℃のミネラルウォーター600mLで抽出したものを用いた。抽出時間は、3分とした。
【0040】
<結果>
ダージリン、アッサム、ウバ、アールグレイの香質の拒絶性に関する評価の結果より、ダージリンの好ましさは85.5で最も高く、次いでアッサムが69.5であった。ウバ及びアールグレイの好ましさはやや低く、バラつきがみられた。ダージリンの香質の好ましさは、ウバ(p<0.05)及びアールグレイ(p<0.01)の好ましさよりも有意に高く、効果量0.23となり、効果大であった。即ち、ダージリンの香質は年齢や性別に関係なく、拒絶性が低く、嗜好性が高いことが示された。
緑茶の拒絶性に関する評価結果は、48.1であり、紅茶と比較して、好ましさが低いことが確認できた。
安静状態の香りの拒絶性(好き、嫌い)の評価から、睡眠改善効果が期待できる茶葉を選択し、さらに睡眠改善について詳細に検討した。
【0041】
<紅茶類由来の香気化合物を含む香気成分の製造>
ダージリン(2nd flush)及びウバの茶葉を用いて各々の香気成分を調製した。各茶葉180kgに対して温水1800kgを加水後、フィルターで茶葉を除去し、抽出液1600kgを回収した。香気成分1、香気成分2及び香気成分5は、抽出液を減圧加熱濃縮し、蒸気水1440kgを回収後、逆浸透膜(RO膜)処理により香気成分各50kg(Brix0.09)を得た。香気成分3は、前記方法のうち濃縮工程を経ず上記抽出液をそのまま用いた。香気成分4は、ダージリン(2nd flush)の茶葉2kgを減圧下95℃で水蒸気蒸留を行い、10℃で冷却して、香気成分として2kgを得た。香気成分に含まれる化合物ついて、下記に示す分析条件のガスクロマトグラフ質量分析法により分析した。
表1におけるピークエリア比とは、各化合物と内部標準物質のピーク面積値の比率を示す。また、構成比率とはピークエリア比の合計に対する割合である。比率とは、(A1)ホトリエノールとサリチル酸メチルのピークエリア比の比を示す。
【0042】
<紅茶類由来の各香気化合物の分析方法>
定性分析用試料としては、各香気成分を水で適宜希釈したものを測定試料とした。
定量分析用試料としは、以下のように調製した。各香気成分を水で5倍希釈した液10ml及び塩化ナトリウム3gを20mLバイアルに入れ、終濃度で500ppbとなるように内部標準物質としてシクロヘプタノール(東京化成工業(株)製)を添加し、測定試料液とした。
各測定試料液中の香気化合物を固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction:SPME)により、吸着剤を用いて回収し、以下に示す分析条件でガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)により分析した。
ホトリエノール及びサリチル酸メチルの含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析法により定量した。
【0043】
<SPME−GC/MS条件>
GC:TRACE GC ULTRA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
MS:TSQ QUANTUM XLS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
SPMEファイバー:50/30μmDivinylbenzene/Carboxen/Polydimethylsiloxane Stableflex
抽出:60℃、30分
カラム:SUPELCO WAX10(0.25mmI.D.×60m×0.25μm、シグマアルドリッチ社製)
オーブンプログラム:40℃で2分間保持した後、160℃まで3℃/分で昇温し、その後280℃まで10℃/分で昇温
キャリアーガス:ヘリウム(100kPa、一定圧力)
インジェクター:スプリットレス、240℃
イオン化:電子イオン化
イオン化電圧:70eV
【0044】
各測定試料の分析結果を表1にまとめて示す。
【0045】
【表1】
【実施例1】
【0046】
香気成分3について、睡眠改善効果を詳細に調査した。
<調査方法>
睡眠に不満がある女性30〜45歳の女性20名被験者対象者とした。試験品Aはプラセボとしてイオン交換水を用いた。試験品Bは、香気成分3のダージリンティーアロマ水を用いた。各試験品を超音波式ディフューザー((株)良品計画製、超音波アロマディフューザー11SS)により拡散し吸入する方法で試験を行った。各試験品を拡散、吸入させるのは、就寝1時間前〜就寝2時間後の計3時間とした。下記スケジュール表に従って、試験を行い、試験結果の解析を行った。
2期2試験品(A及びB)使用による1、2群間クロスオーバー試験を試験デザインとした。
第1期(Period I)(1日目〜7日目)は、1群は試験品A、2群は試験品Bを用い、第2期(Period II)(8日目〜14日目)は、1群は試験品B、2群は試験品Aを用いて試験を行った。
【0047】
【表2】
【0048】
被験者に対してピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI))を用いて過去1カ月間における睡眠習慣や睡眠の質に関する質問を行った。さらに、OSA睡眠調査票MAを用いて起床時の睡眠感と覚醒状態を評価する質問を行った。SCL30を用いて身体的ストレスに関する質問を行った。Micro Tag活動量計MTN-220(アコーズ社)を入浴時以外は腹囲に常時装着し、日中・睡眠中の活動量を計測した。
以上の調査結果から得られたデータを対応のある2群の検定については、Wilcoxon符号付順位検定(Wilcoxon signed rank test)を用い、対応のない2群の検定については、Mann-Whitney U検定を用いて統計解析を行った。
【0049】
<ピッツバーグ睡眠質問票による睡眠の質の評価>
ピッツバーグ睡眠質問票は、18質問項目を7つの要素(主観的睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、有効睡眠時間、睡眠障害、睡眠剤の使用、及び日常生活における障害)にカテゴリー化し、各要素に0点から3点までの点数を与え、その合計を0点から21点とし、点数が高いほど睡眠の質がより悪いとして評価するものである。
【0050】
図1に試験前、プラセボ提示期後、アロマ提示期後での全被験者のPSQI総合得点(20名の平均)を示す。試験前のPSQI総合得点は8.7であり、プラセボ提示期後は6.5(p<0.01)、アロマ提示期後は5.7(p<0.01)であった。プラセボ及びアロマ提示期後のいずれにおいても試験前に比べPSQI総合得点が有意に低下したが、プラセボ提示期後及びアロマ提示期後の比較において有意差(p<0.05)が認められ、アロマ提示による有効性が確認された。
【0051】
また、試験期間中のアロマ提示期及びプラセボ提示期の設定順序による効果の差を確認するため、
図2に、被験者1群及び2群の各々について、試験前、第1期後及び第2期後のPSQI総合得点(各群10名の平均)を示す。被験者1群(第1期プラセボ→第2期アロマ)では、PSQI総合得点はプラセボ提示期後に低下する傾向がみられたが有意差はなく、その後のアロマ提示期後では有意に低下(p<0.01)し、アロマ提示による有効性が確認された。被験者2群(第1期アロマ→第2期プラセボ)では、PSQI総合得点はアロマ提示期後で有意に低下(p<0.01)し、その後のプラセボ提示期後では低下したまま変化がみられなかった。
以上の結果から、アロマ提示によりPSQI総合得点は有意に低下し、睡眠の質が改善したことが示された。また、アロマ提示期間後にアロマ提示を停止しても、1週間は睡眠の質が改善されたまま持続されることが示された。
【0052】
<活動量による睡眠変数の評価>
計測データは睡眠/覚醒リズム研究用プログラムSleep Sign(登録商標) Act(キッセイコムテック社)により、睡眠変数(眠っていた時間、眠るまでの時間、起きていた時間の合計、睡眠中に起きた回数、起きていた時間の平均、10分以上起きていた回数、姿勢変更回数、ふとんに入った時刻、眠りについた時刻、目が覚めた時刻、ふとんから出た時刻、睡眠時間、ふとんにいた時間、起きるまでの時間、睡眠効率)を求めることができるが、本発明においては、眠っていた時間(総睡眠時間(total sleep time: TST):入眠から翌朝の最後の覚醒までの時間のうち中途覚醒を除いた時間)、眠るまでの時間(入眠潜時、睡眠潜時(sleep latency):記録開始から入眠までに要した時間)、起きるまでの時間(翌朝最後の覚醒から起き上がる時間)及び睡眠効率(sleep efficiency:TST/TIBx100%、TIB:総就床時間:就床から起床までの時間)に着目してその値で評価を行った。
【0053】
まず、
図3にプラセボ提示期及びアロマ提示期における全被験者の入眠潜時(各提示期20名の平均)を示す。プラセボ提示期では29分、アロマ提示期は13分であり、アロマ提示により有意(p<0.01)に眠るまでの時間が短縮した。
【0054】
試験期間中のアロマ提示期及びプラセボ提示期の設定順序による効果の差を確認するため、
図4に、被験者1群及び2群の各々について、入眠潜時(各群10名の平均)を示す。被験者1群(第1期プラセボ→第2期アロマ)では、プラセボ提示期では25分、アロマ提示期は13分であり、アロマ提示により入眠潜時が短縮する傾向がみられた(p=0.11)。被験者2群(第1期アロマ→第2期プラセボ)では、アロマ提示期は13分、プラセボ提示期は32分であり、アロマ提示により有意に入眠潜時が短縮した(p<0.01)。
以上の結果から、アロマ提示により入眠潜時を短縮できることが示された。
【0055】
次に、
図5に、プラセボ提示期及びアロマ提示期における全被験者の起きるまでの時間(各提示期20名の平均)を示す。プラセボ提示期では13分、アロマ提示期では7分であり、アロマ提示により有意(p<0.01)に起きるまでの時間が短縮した。
【0056】
試験期間中のアロマ提示期及びプラセボ提示期の設定順序による効果の差を確認するため、被験者1群及び2群の各々について、起きるまでの時間(各群10名の平均)を測定し、その結果を
図6に示す。被験者1群(第1期プラセボ→第2期アロマ)では、プラセボ提示期後で14分、アロマ提示期後では9分であり、アロマ提示により起きるまでの時間が有意(p<0.05)に短縮した。被験者2群(第1期アロマ→第2期プラセボ)では、アロマ提示期後では5分、プラセボ提示期後では12分であり、アロマ提示により起きるまでの時間が短縮する傾向がみられた(p=0.058)。
以上の結果から、アロマ提示により起床時間を短縮し、すっきりとした目覚めをもたらすことが示された。
【0057】
次に、プラセボ提示期及びアロマ提示期における全被験者の睡眠効率(各提示期20名の平均)を
図7に示す。プラセボ提示期は70.0%であったが、アロマ提示期は76.5%に有意(p<0.01)に上昇し、アロマ提示により睡眠効率が改善した。
【0058】
試験期間中のアロマ提示期及びプラセボ提示期の設定順序による効果の差を確認するため、被験者1群及び2群の各々について、睡眠効率(各群10名の平均)を求め、その結果を
図8に示す。被験者1群(第1期プラセボ→第2期アロマ)では、プラセボ提示期後は70.5%、アロマ提示期後では75.7%であり、アロマ提示により睡眠効率が上昇する傾向がみられた(p=0.059)。
被験者2群(第1期アロマ→第2期プラセボ)では、アロマ提示期後では77.2%、プラセボ提示期後では69.5%であり、プラセボ提示により睡眠効率が有意に減少した(p<0.01)。
以上の結果から、アロマ提示により睡眠効率が向上することが示された。
【0059】
<SCL30によるストレス度の評価>
SCL30とは、身体的ストレスに関する30項目の質問紙である。簡便に答えることができる自己評価問診用で、答えた項目数からストレスの程度が判断できる。0〜5点:問題なし、6〜10点:ややストレス気味、11〜20点:本格的なストレス状態で休養が必要、21点以上:心身症やノイローゼになる可能性が大きく、専門家による適切なカウンセリングや治療の必要があると評価される。
【0060】
被験者20名を試験前のストレススコアが高い上位群とストレススコアが低い下位群の2群に分け、試験前、プラセボ提示期後、アロマ提示期後での群ごとのSCL30得点(各群10名の平均)を集計し、その結果を
図9に示す。
香気成分3を嗅ぎながら眠ることによるストレス度への影響について検証した結果、ストレススコアが高い上位群において、試験前に比べてプラセボ提示期後(p<0.05)、及びアロマ提示期後(p<0.01)のいずれにおいても有意なストレス度の低下が見られたが、特にアロマ提示期後において、その効果は顕著に現れた。
【0061】
<OSA睡眠調査票による睡眠感の評価>
OSA睡眠調査票とは、19質問項目で構成され、起床時の眠気のなさ(因子I)、寝つきの良さと熟眠感の程度(因子II)、夢見の良さ(因子III)、起床時の疲労感のなさ(因子IV)、睡眠時間の満足度(因子V)を評価する。各因子は50点を基準とし、点数が高いほど睡眠状態が良好という評価になる。
【0062】
被験者20名を試験前のストレススコアが高い上位群とストレススコアが低い下位群の2群に分け、試験前、プラセボ提示期後、アロマ提示期後での群ごとの各因子の得点(各群10名の平均)を集計し、その結果を
図10に示す。
香気成分3を嗅ぎながら眠ることによる睡眠感への影響について検証した結果、ストレススコアが高い上位群において、因子I〜Vの全てにおいて、試験前に比べてプラセボ提示期後(p<0.01)、及びアロマ提示期後(p<0.01)のいずれにおいても有意な点数の改善が見られ、特にアロマ提示期後ではプラセボ提示期後よりも高い点数になる傾向が見られた。一方、ストレススコアが低い下位群においては、因子II(熟眠感の程度)及び因子V(睡眠時間の満足度)において、試験前と比べてプラセボ提示期後には点数の改善は見られなかったが、アロマ提示期後は有意な点数の改善が見られた(因子II:p<0.01、因子V:p<0.05)。
【実施例2】
【0063】
ホトリエノールを香気成分とする睡眠改善剤について、その睡眠効果を詳細に調査した。
<調査方法>
睡眠に不満がある女性30〜45歳の女性16名被験者対象者とした。試験品Aはプラセボとしてイオン交換水を用いた。試験品Bは、ホトリエノール(曽田香料株式会社製)をイオン交換水に溶解したもの(ホトリエノール100ppm)を用いた。試験方法、解析方法は実施例1と同様に行った。
なお、<SCL30によるストレス度の評価><OSA睡眠調査票による睡眠感の評価>において、実施例1においては、試験前のストレススコアが高い上位群とストレススコアが低い下位群の2群に分けて評価を行ったが、実施例2においては、そのような群に分けずに評価を行った。
【0064】
<PSQIによる睡眠の質の評価>
図11に、試験前、プラセボ提示期後、試験品B提示期後での全被験者のPSQI総合得点(16名の平均)を示す。試験前のPSQI総合得点は8.3であり、プラセボ提示期後は7.0、ホトリエノール提示期後は5.4であった。プラセボ及びホトリエノール提示期後のいずれにおいても試験前に比べPSQI総合得点が有意に低下したが、プラセボ提示期後及びホトリエノール提示期後の比較において有意差(p<0.01)が認められ、ホトリエノール提示による有効性が確認された。
【0065】
<活動量による睡眠変数の評価>
図12にプラセボ提示期及びホトリエノール提示期における全被験者の入眠潜時(各提示期16名の平均)を示す。プラセボ提示期では32.9分、ホトリエノール提示期は22分であり、ホトリエノール提示により有意(p<0.05)に眠るまでの時間が短縮された。
【0066】
図13に、プラセボ提示期及びホトリエノール提示期における全被験者の起きるまでの時間(各提示期16名の平均)を示す。プラセボ提示期では7.8分、アロマ提示期では8.9分であり、ホトリエノール提示により起きるまでの時間が短縮した。
【0067】
図14に、プラセボ提示期及びアロマ提示期における全被験者の睡眠効率(各提示期16名の平均)を示す。プラセボ提示期は70.3%であったが、ホトリエノール提示期は75.6%に有意(p<0.05)に上昇し、ホトリエノール提示により睡眠効率が改善した。
【0068】
<SCL30によるストレス度の評価>
被験者16名を試験前、プラセボ提示期後、ホトリエノール提示期後のSCL30得点を集計し、その結果を
図15に示す。
ホトリエノールを嗅ぎながら眠ることによるストレス度への影響について検証した結果、試験前に比べてプラセボ提示期後及びアロマ提示期後のいずれにおいてもストレス度の低下が見られたが、特にホトリエノール提示期後(p<0.01)において、その効果は顕著に現れた。
【0069】
<OSA睡眠調査票による睡眠感の評価>
被験者16名を試験前、プラセボ提示期後、アロマ提示期後のデータを集計し、その結果を
図16に示す。
ホトリエノールを嗅ぎながら眠ることによる睡眠感への影響について検証した結果、試験前に比べてプラセボ提示期後及びアロマ提示期後のいずれにおいても点数の改善が見られ、特にアロマ提示期後ではプラセボ提示期後よりも高い点数になる傾向が見られた。
【0070】
以上の結果から、アロマ提示により起床時の眠気のなさ、寝つきの良さと熟眠感、夢見の良さ、起床時の疲労感、及び睡眠時間に対する満足度を改善することが示された。この効果はストレスが高い状態の人において顕著に現れ、起床時の熟眠感及び睡眠時間に対する満足度の改善は、ストレスの負荷の状態の程度に係わらず効果があることが示唆された。
【0071】
以上の結果をまとめると、活動量計、ピッツバーグ睡眠質問票、SCLによるストレス評価及びOSA睡眠調査票による睡眠感の評価の解析の結果により、ホトリエノール及び紅茶類由来の香気成分等が睡眠効率の上昇及び睡眠の質を向上することが確認できた。