(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】変形の様子を示す概略図であり、
図1Aは曲げ変形の様子を示す概略図、
図1Bは伸縮変形の様子を示す概略図、
図1Cは折り畳み変形の様子を示す概略図である。
【
図2】空隙を設けない場合のミウラ折り(登録商標)の展開図およびミウラ折り(登録商標)形状の紙の試作品であり、
図2Aは展開図、
図2Bは試作品を展開させた写真図、
図2Cは試作品を折り畳んだ写真図、
図2Dは試作品を曲げた写真図である。
【
図3】空隙を設けた場合のミウラ折り(登録商標)の展開図およびミウラ折り(登録商標)形状の紙の試作品であり、
図3Aは展開図、
図3Bは試作品の写真図、
図3Cは試作品を曲げた写真図である。
【
図4】本発明の実施の形態のミウラ折り(登録商標)形状の電子回路基板の説明図であり、
図4Aは電子回路基板の1ユニットを示す図、
図4Bは1ユニット内の平行四辺形の一つを示す図、
図4Cは1ユニット内のyz平面を示す図である。
【
図5】同上、電子デバイスの構造を示す側面図であり、
図5Aは電子デバイスを展開した状態の構造を示す図、
図5Bは電子デバイスを折り曲げた状態の構造を示す図である。
【
図6】同上、電子回路基板の製造工程を示すものであり、
図6Aはポリイミド銅基板を示す図、
図6Bは配線層および配線保護層のカットを示す図、
図6Cは銅のパターニングを示す図、
図6Dは支持層の作製を示す図、
図6Eは支持層のカットを示す図、
図6Fは支持層の転写を示す図、
図6Gはデバイスの折り畳みを示す図である。
【
図7】同上、ミウラ折り(登録商標)状の形状を形成するための型を示す写真図であり、
図7Aは下型を示す写真図、
図7Bは上型を示す写真図、
図7Cは上型および下型の間にデバイスを嵌め込んだ状態を示す写真図、
図7Dはミウラ折り(登録商標)形状に形成した様子を示す写真図である。
【
図8】同上、ヒンジ部の中立面を説明するための図であり、
図8Aは3層構造の場合の図、
図8Bは2層構造の場合の図である。
【
図9】同上、2層構造の場合のヒンジ部の応力分布図である。
【
図10】同上、空隙の形状の例を示す図であり、
図10Aは1ユニット内の1つの平行四辺形内で平行四辺形状に空隙を設けた場合の図、
図10Bは点aおよび点cの間を直線で結んだ場合の図、
図10Cは点aおよび点cの間を外側に膨らんだ曲線で結んだ場合の図、
図10Dは点aおよび点cの間を内側に膨らんだ曲線で結んだ図である。
【
図11】同上、球面追従性評価用デバイスの構造を示す側面図であり、
図11Aはデバイスを展開した状態の構造を示す図、
図11Bはデバイスを折り曲げた状態の構造を示す図である。
【
図12】同上、球面追従性評価用デバイスの製造工程を示すものであり、
図12Aはポリエステルフィルム層のカットを示す図、
図12Bは支持層の作製を示す図、
図12Cは支持層のカットを示す図、
図12Dは支持層の転写を示す図、
図12Eはデバイスの折り畳みを示す図である。
【
図13】同上、球面追従性を評価するための試験装置の外観を示す写真図である。
【
図14】同上、球面追従性を評価するための試験装置の横断面図である。
【
図15】同上、空隙幅およびヒンジ幅の定義の説明図である。
【
図16】同上、標準サイズの球面追従性評価用デバイス(左)、および、1.5倍サイズの球面追従性評価用デバイス(右)を示す写真図である。
【
図17】同上、標準サイズおよび1.5倍サイズの球面追従性評価結果を示す図である。
【
図18】球面追従評価用デバイスを示す写真図であり、
図18Aは、比較例としての、空隙幅が0mmの球面追従性評価用デバイスを示す写真図、
図18Bは、本発明の実施の形態の、空隙幅が1mmの球面追従性評価用デバイスを示す写真図、
図18Cは、本発明の実施の形態の、空隙幅が3mmの球面追従性評価用デバイスを示す写真図、
図18Dは、本発明の実施の形態の、空隙幅が5mmの球面追従性評価用デバイスを示す写真図である。
【
図19】空隙幅を変えた場合の球面追従性評価結果を示す図である。
【
図20】本発明の実施の形態の、8個のチップLEDを実装したミウラ折り(登録商標)形状の電子デバイスを示す写真図であり、
図20Aは電子デバイスの初期状態(上方から見た投影面積100%)を示す写真図、
図20Bは電子デバイスの折り畳み(上方から見た投影面積25%)を示す写真図、
図20Cは電子デバイスの展開(上方から見た投影面積170%)を示す写真図、
図20Dは電子デバイスの曲げ(曲率半径20mm)を示す写真図、電子デバイスの球面貼り付け(直径200mm、荷重300N)を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る曲げ変形および伸縮変形可能なデバイスの実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0013】
最初に、本発明の基本的な概念について説明する。本発明は、折り畳みを利用することで、シート状の電子デバイス1の曲面への貼り付けおよび伸縮変形を実現するものである。
【0014】
図1Aは、曲げ変形の様子を示す概略図であり、対象物100の断面中央近傍に、圧縮歪みも引張歪みもかからない中立面101が存在する。一方、
図1Bは、伸縮変形の様子を示す概略図であり、対象物102の全ての領域で引張または圧縮歪みとなるので、中立面が存在しない。したがって、発光部や配線部を薄く作り、基板101の中立面にそれらを配置すれば、曲げ変形可能なフレキシブルデバイスは実現が容易であるのに対し、同じアプローチでは、伸縮変形可能なフレキシブルデバイスを実現することができない。発明者らは、曲げ変形可能な電子デバイスは実現が容易であることを逆手に取り、局所的に曲げ変形をさせることにより、中立面を残しながら、デバイス全体としては伸縮変形させることができることに想到した。
【0015】
局所的に曲げ変形させ、伸縮変形を可能とする手段として、折り畳み構造が挙げられる。例えば、一次元的な折り畳み構造として
図1Cに示すような蛇腹折りを用いることで、全体として伸縮変形が実現できる。図中、上の図が縮んだ状態、下の図が伸ばした状態である。この場合、中立面104を残しながら、デバイス103全体としては伸縮変形させることができる。また、二次元的なシート状のものを折り畳む方法として、蛇腹折りやミウラ折り(登録商標)、吉村パターン、なまこ折りなどの方法が知られている。
【0016】
例えば、宇宙での太陽電池パネルの展開構造などにも用いられているミウラ折り(登録商標)の展開図は
図2Aのようになっており、図中、山折り、谷折りとして示した折り目105でそれぞれの方向に折れ曲がることにより、折り畳むことが可能となる。しかしながら、変形の自由度を考えた場合、ミウラ折り(登録商標)は1自由度であることが知られており、ある一定の伸縮変形しかすることができない。例えば、
図2Bに示すミウラ折り(登録商標)の構造を曲げようとした場合、ある方向に対しては、
図2Cのように円筒形に二次元的に伸縮変形可能であるが、他の方向に対しては、
図2Dのように鞍型に反ってしまう。このため、球面を覆うような形状とすることができない。
【0017】
発明者らは、検討の結果、
図3Aの展開図で示すように、折り目105の交点に紙を貫通する空隙(穴)106を開けることで、自由曲面に貼り付け可能な自由度を得られることを初めて見出した。すなわち、
図3Bに示すように空隙106を有するミウラ折り(登録商標)の構造を用いることで、鞍型に反ることなく、
図3Cに示すように曲げることができることを見出した。このような構造とすることで、中立面を残しながらデバイス全体としては二次元的な伸縮変形や自由曲面への貼り付けが可能な伸縮デバイスを実現することができる。
【0018】
なお、ミウラ折り(登録商標)を使用した応用例として、太陽電池が配列されたシートにおいて、太陽電池モジュールが配置される領域を区割りする区割り線の交点に貫通孔を設けた先行技術がある(特開2015−88561号公報)。しかし、この先行技術は、ミウラ折り(登録商標)による折り畳み時に、折り曲げによる歪みの影響を抑え、よりコンパクトに折り畳めるよう構成するものにすぎない。局所的に曲げ変形をする折り畳みを利用することで、歪のない中立面がありながら全体としては伸縮変形可能となり、曲面への貼り付けが可能とすることについては何ら記載がない。
【0019】
次に、本発明に係る電子デバイスの一実施形態として、ミウラ折り(登録商標)を使用した電子デバイス1の構成について説明する。
【0020】
ミウラ折り(登録商標)形状の基板の寸法設計を行うにあたり、ミウラ折り(登録商標)の形状と変数の関係を
図4A〜
図4Cを基に説明する。
図4Aは、平行四辺形の面を4面を繰り返し単位として有する、ミウラ折り(登録商標)の1ユニットを示している。
図4Aのユニット内の平行四辺形ABCDは、
図4Bに示すように面の高さL
a[mm]および面の長さL
b[mm]、平行四辺形ABCDの鋭角γ[deg]で表され、これらの3つの変数と、
図4Cに示すxy平面とミウラ折り(登録商標)の面との角度ψ[deg]の4つの変数により、1ユニットの形状が定まる。Y軸と辺ABの角度をζ[deg]とすると、平行四辺形ABCDの鋭角γと角度ψは式(1)の関係がある。
【0022】
式(1)より、角度ζは式(2)と表せる。
【0024】
また、
図4A中の2a、
図4C中の2bおよびhは、それぞれ式(3)〜(5)で表せる。なお、基板の厚さは無視することとする。
【0028】
これらを基にミウラ折り(登録商標)形状の基板の寸法設計を行うことができる。
【0029】
一例として、基板を平面から三次元に手で折り畳むことができる程度の大きさとするために、L
a、L
b、γ、ψを以下のようにする。
【0031】
式(2)〜(5)により、ζ、2a、2b、hを算出すると以下のようになる。
【0033】
本実施の形態で作製した電子回路基板、球面追従性評価用デバイスおよび電子デバイスでは、これらの寸法を採用した。さらに、
図4Aに示すように平行四辺形の面を4面で1ユニットとし、縦に5ユニット、横に5ユニットの合計25ユニット(縦に10面、横に10面の合計100面)のデバイスとした。
【0034】
図5Aは本実施の形態の被搭載物2を搭載した電子回路基板10の基本構造を示すものである。
図5Bは、
図5Aの電子回路基板10を折り曲げたものであり、折り曲げられない平面部分を平板部3、複数の平板部3の間を繋ぎ、折り曲げ可能な部分をヒンジ部4とする。当該電子回路基板10の平板部3は、例えば銅からなる配線層11と、例えばポリイミドからなる配線保護層12と、例えばケント紙13および両面テープ14からなる支持層15の3層構造としている。ヒンジ部4には支持層15は形成されない。平板部3の支持層15の構成材料には、加工のしやすさおよび堅さの観点からケント紙13を使用した。支持層15は、被搭載物2を配置するための平面16を作る役割と、平面16から折り畳む際にケント紙13に形成した溝17に沿って折り畳み易くする役割とを有する。平板部3に搭載される被搭載物2は、例えば電子素子、光学素子、発光素子、センサ素子、半導体素子、発電素子、圧電素子、電池素子およびアクチュエータ素子などを少なくとも1つ含み得るものであるが、これらに限られるものではない。被搭載物2には曲げ変形および伸縮変形時にも応力がかからないので、被搭載物2の材料は、無機材料、金属材料、半導体材料および有機材料などを少なくとも1つ含むことができる。すなわち、平板部3には、伸縮耐性を持たない光学素子やセンサ等のデバイスを配置することができ、無機材料、金属材料、半導体材料および有機材料を用いることで、電子デバイス1の高性能化および/または低コスト化および/または高伸縮耐性化が可能である。ここで、有機材料は、上述のようにある程度の伸縮性を有するものの、電子デバイス1により更なる伸縮耐性を得ることができる。有機材料としては、例えばゴム材料やゲル材料等を使用することができる。例えば、有機材料でもカーボンナノチューブ(CNT)やグラフェン等の有機材料はほとんど伸縮耐性を有しないが、これらに対して電子デバイス1により伸縮耐性を付与することができる。
【0035】
該構造の電子回路基板10の製造方法の一例について、
図6A〜
図6Gを元に説明する。まず、予め厚さ50μmのポリイミド19の両面に厚さ18μmの銅の層20,21を有するポリイミド銅基板18(Panasonic製、R-F775)を準備する(
図6A)。この基板18を、カッティングプロッタ装置(GRAPHTEC製、CE6000-40)(図示せず)で、デバイスを展開した平面形状に切り取る(
図6B)。例えばミウラ折り(登録商標)にする場合には、
図3Aに示すような形状に切り取る。ヒンジ部4同士の交点に設ける空隙の形状および大きさについては後述する。カッティングプロッタ装置を使用すれば、カットしたい形状のデータを用意し、カット条件として圧力およびスピードなどを設定することで、自動で対象物を所望の形状にカットすることができる。カットの際は、粘着性のあるカッティングプロッタの専用台紙22に試料を貼り付ける。次に、基板18の片面の銅の層20を所望の配線形状に加工し、もう一方の他面の銅21を取り除く(
図6C)。一方で、厚さ220μmのケント紙13(栄紙業製、シルバーヒルケント紙S115)の片面に、厚さが0.092mmであり、4.3N/cmの粘着力を持つ両面テープ14(3M製、4591HH)を貼り付ける(
図6D)。この両面テープ14を貼り付けたケント紙13を、カッティングプロッタの専用台紙23に貼り付けて、カッティングプロッタ装置で切り取る(
図6E)。続いて、両面テープ14の粘着面とポリイミド19とを貼り合せた後、専用台紙23から外し(
図6F)基板を作製する。この際、カッティングプロッタの専用台紙23の粘着力よりも両面テープ14の粘着力の方が強いため、転写することが可能である。なお、本実施の形態では、前述したように加工のしやすさ等の観点から支持層15としてケント紙13と両面テープ14を用いている。しかし、支持層15の材料はこれらに限られず、基板材料の例として後述するさまざまな材料を、例えば積層してパターニングする等の処理を行うことにより用いることができる。
【0036】
図6Gは、平面形状の基板を折り曲げる様子を示しており、
図7Aおよび
図7Bはその際に使用する上型24および下型25の全体を示す写真図である。上型24および下型25は例えば3Dプリンター(Stratasys製、ObjectEden260v)で作製することができる。
図6Fの電子回路基板10たるシートに対し、折り目に癖がつく程度まで手で折り畳み、これを
図7Cに示すように上型24および下型25に嵌め込んで、片面または両面からプレスすることにより、折り曲げられた電子回路基板10を製造することができる。なお、
図7Dは、見やすくするため便宜的に紙とポリエステルフィルムとを使用して折り畳み成形した成形品を示す。本実施の形態では、電子回路基板10はミウラ折り(登録商標)状の形状を有するが、上述の製造方法は他の折り方のデバイスの製造にも適用可能である。また、より小さな縮尺のマイクロスケールの場合には、自動で折り畳むself-foldingという機構を組み込むことで、折り畳むことができる。
【0037】
本実施の形態の配線7(
図5Aの配線層11)は、折り曲げられない平板部3と、曲げ変形および伸縮変形時に歪みが実質的にできる限りゼロであるヒンジ部4の中立面6の近傍とに配設される。中立面6は、曲げ変形を加えたときに曲げ応力が0N/m
2となり、伸縮変形が起きない面のことである。基板を繰り返し折り畳むことにより、ヒンジ部4では断線が懸念されるので、中立面近傍に配線7を施すことで、配線7への歪みの影響を少なくし、繰り返し折り畳み変形させた場合でも、断線しにくくすることができる。中立面近傍とは、上述の中立面6を必ずしも含まなくてもよいが、該中立面6を含むことが好ましく、さらに配線7への歪みによる劣化の影響がほとんどないといえる領域までを含むものであることがより好ましい。歪みによる劣化の影響がほとんどないとは、デバイスが変形しても、その変形により、配線7が機械的および電気的に劣化することがほとんどないことをいう。例えば、配線7が弾性領域のみで変形し、塑性変形しない領域で用いられることなどが挙げられる。具体的には、配線7の材料にもよるが、中立面近傍とは曲げ変形をさせたときに配線7にかかる応力が配線7の材料の降伏応力もしくは耐力、疲れ限度以下となる領域までを含むものであることが好ましい。また、配線7に歪みの影響及ばないことで、配線7の材料は、無機材料、金属材料、半導体材料および有機材料のうちの少なくとも1つを含むことができる。有機材料としては、被搭載物2と同様に、ゴム材料やゲル材料、CNT、グラフェン等を使用することができる。平板部3はそのままにしてヒンジ部4を折り曲げ可能とした局所的な曲げ変形により伸縮変形を実現しているのに対し、配線7をヒンジ部4の中立面6に配置することで、曲げ変形によっても配線7を全く劣化させることがない。すなわち、配線7の弾性領域など劣化しない領域のみを用いるため、塑性変形による疲労破壊が起こることなく、電子デバイス1の繰返し変形および大変形を実現可能である。
【0038】
なお、配線7は、ヒンジ部4の少なくとも一部において、中立面6の近傍に設けられる。また、被搭載物2を搭載せず、配線7をヒンジ部4の少なくとも一部に設けた場合、曲げ変形および伸縮変形可能な電気配線として利用することができる。さらに、被搭載物2を搭載せず、配線7も設けない場合は、曲げ変形および伸縮変形可能な電子回路基板として利用することができる。また、被搭載物2を搭載し、配線を設けないようにすることもできる。
【0039】
従来の伸縮電子デバイスは、有機材料を使用することのみにより伸縮耐性を持たせようとするものがほとんどであった。しかしながら、これらに対して、有機材料に加えて無機材料、金属材料および半導体材料等のセンサや配線を使用できると、性能が圧倒的に高く、かつ低コストの電子デバイスを実現できる。本発明は、折り紙構造や折り畳みといった構造に着目し、高機能かつ高性能で高感度な上記材料を用いたまま、デバイス全体として高伸縮性を具備させるものである。本発明により、高性能かつ低コストの大変形伸縮電子デバイスが実現可能となる。
【0040】
ここで、本発明において重要な意味を持つ、ヒンジ部4の中立面6の位置について説明する。
図8Aに示すように、ヒンジ部4がポリイミド/銅/ポリイミドの3層構造である場合、外層のポリイミド30の厚さと内層のポリイミド31の厚さが同じで一定であるとすると、中立面6は銅配線32の断面中央近傍に存在する。これに対し、外層のポリイミド30を省き、銅/ポリイミドの2層構造とすると、デバイスの構造を簡略化できるので、2層構造の場合の中立面6について説明する。
図8Bにおいて、銅34の表面から中立面6までの距離をY
neut[m]、ヒンジ部4の曲率半径をρ[m]とし、銅34の厚さをt
cu[m]、ポリイミド33の厚さをt
PI[m]、銅のヤング率をE
Cu[GPa]、ポリイミドのヤング率をE
PI[GPa]とすると、ヒンジ部4の断面の曲げ応力の和はゼロであるから、式(6)に示す関係が成立する。
【0042】
式(6)をY
neutについて解くことで、中立面6の位置を算出できる。本実施の形態では、銅およびポリイミドの試験片を用いて引張試験を行い、それぞれのヤング率E
Cu、E
PIを算出したところ、E
Cu=13.1GPa、E
PI=1.63GPaであった。これらのヤング率と、上述の銅34の厚さt
Cu=18μm、ポリイミド33の厚さt
PI=50μmとを式(6)に代入して、銅34の表面から中立面6までの距離Y
neutについて解くと、Y
neut=17.7μmとなる。このときのヒンジ部4の断面の応力分布図を
図9に示す。応力分布図より、中立面6が銅配線34内に存在することが分かる。すなわち、中立面6をヒンジ部4の表面に存在させることができ、この場合、配線7をヒンジ部4の表面に配設し、曲げ変形を受けない平板部3に被搭載物2および配線7を配置すれば、配線7や被搭載物2に曲げ耐性および伸縮耐性がなかったとしても、デバイス全体としては伸縮耐性を有することができる。これにより、無機材料や金属材料、半導体材料など、曲げ耐性および伸縮耐性を有しないが高性能かつ高機能な材料を用いて、伸縮変形可能な電子デバイス1を実現することが可能になる。
【0043】
本実施の形態では、基板材料として配線保護層12にポリイミドを使用しているが、ポリイミドの他、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル樹脂(PMMA)、ABS樹脂、テフロン(登録商標)等を使用することができる。また、ヒンジ部4は、上記基板材料と同じ材料を用いて平板部3と一体に形成してもよいが、ヒンジ部4の材料は弾性を有していてもよく、あるいは弾性を有している方が好ましい場合もあり、その場合には、シリコーンゴムおよびアクリルゴム等のゴム材料や、ハイドロゲル等のゲル材料を使用することができる。
【0044】
図10A〜
図10Dは、空隙5の形状の例を示すものである。ヒンジ部4同士の交点oに設ける空隙5は、種々の形状および大きさを有することができるが、所定の条件を満たす必要がある。空隙5を設けた場合でも、空隙5が小さすぎると、空隙5が無い場合と同様に、曲げ変形させた際に
図3Cのように反り返ってしまう。空隙5が十分な大きさを有する場合には、
図3Eに示すように自由曲面に貼り付け可能な自由度を得られる。一方、被搭載物2を搭載する面40の表面積は、空隙5が小さい程、大きくすることができる。したがって、球面やより複雑な自由曲面に貼り付け可能な空隙5の大きさを満足しつつ、被搭載物2を搭載する面40の表面積をできるだけ大きくすることが好ましい。
【0045】
図10A〜
図10Eでは、ヒンジ部4上の点aおよび点bの間の距離と、点cおよび点dの間の距離とが同じなるように点a〜点dを取っており、これらの距離を空隙幅W
hoとしている。ただし、これらの距離は同じである必要はなく、さらに、例えば点aおよび点oの間の距離と、点cおよび点oの距離も同じである必要はなく、点a〜点dの位置はそれぞれのヒンジ部4上で任意に設定可能である。
図10Aでは、空隙5の辺aeおよび辺ceがそれぞれヒンジ部4の辺ocおよび辺oaと平行に形成される。同様にして、空隙5の辺bfおよび辺cfがそれぞれヒンジ部4の辺ocおよび辺obと平行であり、空隙5の辺bhおよび辺dhがそれぞれヒンジ部4の辺odおよび辺obと平行であり、空隙5の辺agおよび辺dgがそれぞれヒンジ部4の辺odおよび辺oaと平行である。この場合、被搭載物2を搭載する面40の表面積が若干小さくなるが、鞍型の反り返りを防ぐ効果が大きくなる。
【0046】
図10Bでは、点aおよび点bを直線で結んだ辺ac、点cおよび点bを直線で結んだ辺cb、点bおよび点dを直線で結んだ辺bd、および、点dおよび点aを直線で結んだ辺daにより囲まれた部分に空隙5が形成される。これに対し、
図10Cでは、点aおよび点bの間を外側に膨らんだ曲線で結び、点cおよび点bの間、点bおよび点dの間、並びに、点dおよび点aの間もそれぞれ外側に膨らんだ曲線で結んでいる。この場合、空隙は円形またはそれに近い形状に形成される。このようにすると、
図10Bの場合に比べ、空隙幅W
hoを同じ大きさとした場合に空隙5の面積を大きくすることができる。一方、
図10Dに示すように、点aおよび点bの間、点cおよび点bの間、点bおよび点dの間、並びに、点dおよび点aの間をそれぞれ内側に膨らんだ曲線で結ぶと、
図10A〜
図10Cに比べ、空隙幅W
hoを同じ大きさとした場合に、空隙5の面積を小さくし、被搭載物2を搭載する面40の表面積を大きくすることができる。これらの空隙5の形状は、
図10A〜
図10Dに示す形状に限られることなく、電子デバイス1を貼り付ける自由曲面の曲率や、搭載する被搭載物2の大きさ等に合わせて適宜設計することができる。
【0047】
本発明に係る電子デバイス1を作製するにあたり、球面への追従性が大きな課題である。そこで、製造工程が単純なケント紙とポリエステルフィルムを用いた評価用デバイスを作製し、球面への追従性の評価を行った。
【0048】
図11Aは、本実施の形態の電子デバイス1に対応する構成を有し、球面追従性の評価に使用した被験デバイスである球面追従性評価用デバイス41の基本構造を示すものであり、
図11Bは
図11Aの基板を折り曲げたものである。
図5Aの電子回路基板10の配線層11および配線保護層12の代わりとしてポリエステルフィルム層42を形成し、支持層15(ケント紙13、両面テープ14)との2層構造とした。球面への追従性はヒンジ部4の曲げ剛性により変化すると考えられるので、曲げ剛性を決定するパラメータの一つである基板材料のヤング率に着目し、ポリイミド19に配線となる銅20を施したものと、その代わりとして用いるポリエステルフィルム42のヒンジ部4の曲げ剛性が同程度となるように設計した。ポリイミド19に配線となる銅20を施したもの(ポリイミド厚さt
PI=50μm、銅厚さt
Cu=18μm)の試験片を用いて引張試験を行い、算出したポリイミド19に配線となる銅20を施したもののヤング率はE
PICu=4.92MPaであり、
図5Aの電子回路基板10のヒンジ部4の曲げ剛性は1.13×10
-6N/m
2である。これに対し、厚さt
PE=125μmのポリエステルフィルム42の試験片を用いて引張試験を行い、算出したポリエステルフィルム42のヤング率はE
PE=1.95MPaであり、厚さが100μmの場合のポリエステルフィルム42のヒンジ部4の曲げ剛性は3.17×10
-6N/m
2となり、ポリイミド銅基板10の曲げ剛性の値と同程度の値となる。
【0049】
球面追従性評価用デバイス41を作製するにあたり、まず、カッティングプロッタ装置(GRAPHTEC製、CE6000-40)で、カッティングプロッタの専用台紙43を貼り付けたポリエステルフィルム42(TORAY製、ルミラーT60)を、デバイスを展開した平面形状に切り取る(
図12A)。次に、厚さ220μmのケント紙13(栄紙業製、シルバーヒルケント紙S115)の片面に両面テープ14(3M製、4591HH)を貼り付け(
図12B)、この両面テープ14を貼り付けたケント紙13を、カッティングプロッタの専用台紙44に貼り付けて、カッティングプロッタ装置で切り取る(
図12C)。最後に両面テープ14の粘着面とポリエステルフィルム42とを貼り合せて、専用台紙44から外す(
図12D)。この際、カッティングプロッタの専用台紙44の粘着力よりも両面テープ14の粘着力の方が強いため、転写することが可能である。
図12Eは、平面形状の基板から折り曲げられた形状の基板にする様子を示しており、
図6Gの電子回路基板の場合と同様に、折り目に癖がつく程度まで手で折り畳み、これを上型24および下型25に嵌め込んで、片面または両面からプレスすることにより、折り曲げられた球面追従性評価用デバイス41を作製することができる。球面追従性評価用デバイス41はミウラ折り(登録商標)状の形状を有するが、上述の製造方法は他の折り方のデバイスの製造にも適用可能である。
【0050】
球面追従性評価方法および評価結果について説明する。球面追従性の評価を行うための試験装置50の外観を
図13に示す。該試験装置50では、2個の半球のドーム51,52が球面を上向きにして同じ向きに重ね合わされ、この2個のドームの間に球面追従性評価用デバイス41を設置し、上側ドーム51の上に重り53を配置して、上から荷重F[N]を加える構成としている。
【0051】
図14に示すように、試験装置50の下面54から上側ドーム51までの距離H’[mm]を測定し、上側ドーム51と下側ドーム52との間の距離であるドーム間距離H[mm]を算出する。ここで、ドーム51,52の厚さをH
t[mm]とし、ドームの大きさの個体差を補正する値である補正値H
g[mm]を実測により求め、式(7)により、ドーム間距離H[mm]を算出する。補正値H
gは、上下に重ねた2つのドーム間に縦10mm、横10mm、厚さ5mmの試験片を挟み、下側ドームの下面から上側ドームまでの距離H
g’を測定して、H
g’からドームの厚さH
tと、試験片の厚さ5mmとを減算したものとする。
【0053】
なお、距離H’の測定に際し、上側ドーム51が試験装置50の下面54と並行に重ねられない場合を考慮し、ドーム51,52の対角線上の2点を測定して、その平均値をとった。
【0054】
評価用デバイスの寸法(La、L
b、γ、Ψ、ζ、2a、2b)は前述した通りであり、空隙幅W
hoおよびヒンジ幅W
hiを
図15のように定義するとき、W
ho=3mm、W
hi=1mmとした。ポリエステルフィルムの厚さは125μmとしている。実際に制作した評価用デバイス41は
図16の左側に示すデバイスである。この評価用デバイス41をφ200のドームに追従させ、重り53の重量を50g、75g、100g、100g以降は500gまで50gおきに変化させて測定を行った。
図17は測定結果であり、縦軸はドーム間距離と代表寸法との比H/L
a[-]、横軸は与えた荷重F[N]である。荷重が大きくなるにつれて評価用デバイス41が球面に追従していることが分かる。
【0055】
本発明に係る電子デバイス1は、いかなる縮尺のものにも対応することができる。本実施の形態では、手で折り畳める程度の大きさの縮尺の標準スケールの電子デバイス1を作製したが、球面追従性評価には相似則が成り立ち、より大きな縮尺のラージスケール、および、より小さな縮尺のマイクロスケール縮尺にも利用可能であることを確認済みである。
【0056】
実際の測定により、相似則が成り立つことを説明する。上記の評価用デバイス41に対し、代表寸法である平行四辺形の面の高さL
aおよび面の長さL
bと、空隙幅W
hoとをそれぞれ1.5倍した評価用デバイス41’を作製した。
図16の右側に示すデバイスが1.5倍デバイス41’である。この評価用デバイス41’をφ300のドームに追従させ、前述と同様の測定を行った結果を、前述の評価用デバイス41の測定結果と比較して
図17に示す。
図17より、各荷重においてプロットの傾向が等しいことから、ドーム間距離Hと代表寸法L
aとの間には相似則が成り立つといえる。したがって、標準スケールで球面追従性の評価を行った場合でも、ラージスケールやマイクロスケールの電子デバイスに対してその評価結果を適用可能である。
【0057】
空隙5の大きさの球面追従性への影響を評価するため、空隙幅W
hoを0mm、1mm、3mm、5mmとした球面追従性評価用デバイスを作製した。その他の代表寸法は上述の評価用デバイス41と同じである。実際に作成した空隙幅W
hoを0mm、1mm、3mm、5mmとした評価用デバイス60,61,62,63を、それぞれ
図18A〜
図18Dに示す。
【0058】
それぞれの評価用デバイス60,61,62,63をφ200のドームに追従させ、重り53の重量を50g、75g、100g、100g以降は500gまで50gおきに変化させて測定を行った。
図19は測定結果であり、縦軸はドーム間距離と代表寸法との比H/L
a[-]、横軸は与えた荷重F[N]である。図中、点線は評価用デバイスが追従する境界であり、評価用デバイスの厚さを表すものである。W
hoを3mm、5mmとした場合は、低荷重で球面に追従している。一方、空隙5を開けていないW
hoが0mmの場合は、荷重Fを5N加えても、評価用デバイス60の厚さには程遠い結果となった。これらの評価用デバイス60,61,62,63のヒンジ幅W
hiは1mmであるから、本実施の形態の縮尺の電子デバイス1では、空隙幅W
hoをヒンジ幅W
hiよりも大きくすると球面追従性が高くなるともいえる。
【0059】
球面追従性評価より、W
hoを3mm、5mmとした場合に球面追従性が向上した。そこで、被搭載物2を搭載する面40の表面積を考慮し、空隙幅W
hoを3mmとして、ミウラ折り(登録商標)形状の電子回路基板10に電子素子を実装した本実施の形態に係る電子デバイス1を作製した。
【0060】
該電子デバイス1は、配線7の上に特殊クリームはんだ(Sunhayato、SMX-H05)を用いて順電圧2.9VのチップLED70を直列に4個、並列に2個の合計8個実装し(SMLE12BC7TT86、Rohm)、電源装置(TEXIO、PA18-3B)(図示せず)を用いて10.50V、0.01Aを与える。この電子デバイス1に電圧を印加した状態で、伸縮変形および曲げ変形を加えた。
図20Aは初期状態であり、
図20Bは上方から見た投影面積の面積比率で25%に収縮させた状態(折り畳み)、
図20Cは同面積比率で170%に伸展させた状態(展開)、
図20Dは半径20mmの円筒形状とした状態(曲げ)、
図20Eはφ200mmの球面形状のドーム71に貼り付けた状態(荷重300N)を示す写真図である。いずれの状態でもチップLED70は点灯し続けた。さらに、この電子デバイス1に対し、100回程度の折り畳み、展開、曲げ、球面追従を繰り返したが、チップLED70の光が消えたり暗くなったりすることはなく、断線は確認されなかった。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は種々の変形実施をすることができる。例えば、折り畳み可能な基板を作製する手段として、トレーシングペーパー上に、インクジェット式プリンターを用いて金属ナノ粒子配線を印刷する方法をとることができる。また、手を使わずに基板を自動的に折る方法として、トレーシングペーパー上にインクジェット式プリンターを用いて溶液を印刷し、溶液が乾燥するときに紙が曲がる現象を利用する方法がある。これらの方法を用いれば、印刷のみで平面から立体的な構造に折り上げられた電子デバイスを実現できる。
【0062】
また、実際のデバイスに適用する場合には、上記電子回路基板10を伸縮性のある材料(例えばポリジメチルシロキサン(PDMS))で覆った構成とし、対象物に貼り付けるようにしてもよい。
【0063】
以上のように、本発明は、「折り紙型デバイス」という汎用性の高い新たなアプローチにより、高機能かつ高性能であって、従来技術に比べて曲げ変形および伸縮変形可能な電子デバイスを実現するものであり、伸縮デバイスの新たな領域を拓くものである。折り紙のような折り畳み構造、すなわち平板部3とヒンジ部4からなる平面構造において、局所的な曲げ変形を設ける構造により、デバイス全体としての伸縮変形を実現した。二次元の折り畳み構造のヒンジ部4の交点に空隙5を設けることで、二次元的に伸縮が可能になるほか、球面やより複雑な自由曲面にも電子デバイス1を貼り付けることが可能となる。また、本発明は、平板部3とヒンジ部4とからなる折り畳み構造により伸縮可能な電子デバイス1を実現し、ヒンジ部4にも応力のかからない中立面6を形成しているから、伸縮デバイスであるにも関わらず、ヒンジ部4の曲げ変形の中立面6の近傍に金属等の配線7を配置することで、配線7が塑性変形することなく、繰返し変形や大変形においても疲労破壊することがない。したがって、硬いが高性能かつ低コストの無機材料、金属材料、半導体素子材料および有機材料等を利用可能である。