(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エミッション排出抑止手段は、前記エンジンの燃料を貯留する燃料タンク内で発生した燃料蒸発ガスをキャニスタに吸着させると共に、該吸着した燃料蒸発ガスを前記エンジンの吸気側の負圧を利用して該吸気側に移送して燃焼させる燃料蒸発ガス排出抑止装置であり、
前記故障診断手段は、前記キャニスタと前記エンジンの吸気側との間に設けられたパージバルブを開弁及び閉弁したときの前記キャニスタ内の圧力変化に基づき、前記燃料蒸発ガス排出抑止装置の故障を診断するすると共に、前記モニタ領域拡大手段による前記モニタ領域の拡大時には、前記エンジンの排ガス流量の減少によるパージ流量低下を補償すべく、通常時に比較して前記パージバルブの開弁時間を延長化するか、または前記圧力変化を判定する故障判定値として小さな値を適用するかの少なくとも一方を実行する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の故障診断装置。
【背景技術】
【0002】
周知のようにハイブリッド車両に搭載されたエンジンは駆動輪の駆動や発電機の駆動に利用されており、エンジンの運転に伴って発生した排ガス、或いはエンジンの燃料を貯留する燃料タンク内で発生した燃料蒸発ガス等が外部に排出されると環境悪化につながるため、そのような事態を防止すべく車両には種々のエミッション排出抑止装置が備えられている。
【0003】
例えばエンジンから排出される排ガス中にはNOx、HC、CO等が含まれるため、これらを浄化するためにエンジンの排気系には触媒装置が備えられている。また、触媒装置が所期の浄化性能を発揮するにはエンジンの排気空燃比を最適制御する必要があるため、エンジンの排気系には排気空燃比を検出するリニア空燃比センサ(以下、LAFSという)等の排気センサが備えられ、その出力に基づき排気空燃比の制御を行っている。
【0004】
また、NOx低減のためにエンジンには排ガス循環装置が備えられ、排ガスを排ガス循環ガスとして吸気側に環流させることにより、筒内での燃焼温度を低下させてNOxの生成を抑制している。さらに、燃料タンクには内部で発生した燃料蒸発ガスを処理するための燃料蒸発ガス排出抑止装置が備えられており、燃料蒸発ガスを一旦キャニスタに吸着した上で、その吸着した燃料蒸発ガスをエンジンの運転中に燃料と共に筒内で燃焼させている。
【0005】
例えば触媒装置が劣化すると、浄化性能の低下による排ガスの素通りを引き起こし、LAFS等の排気センサが劣化すると、検出誤差に起因する不適切な排気空燃比により触媒装置の本来の性能が発揮されない事態を引き起こす。また、排ガス循環装置が故障すると、不適切な排ガス循環還流量により筒内でのNOx生成量が増加する事態を引き起こし、燃料蒸発ガス排出抑止装置が正常に機能しないと、燃料蒸発ガスをエンジンで処理できない。
【0006】
これらのエミッション排出抑止装置の劣化や故障(以下、これらを故障と総称する)を検出するために、車両には故障診断装置が搭載されている。例えば排ガス循環の故障を診断するための排ガス循環故障診断装置として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載された車両はハイブリッド車両であり、その走行モードの1つであるシリーズモードでは、エンジンによりモータジェネレータを駆動し、その発電電力を走行モータの駆動や走行バッテリの充電に利用している。
【0007】
シリーズモードでのエンジンの運転点は、走行バッテリへの目標充電電力に応じて決定される。車両の走行中において、走行バッテリの実SOC(充電率:State Of Charge)と目標SOCとの偏差に基づき目標充電電力が逐次算出され、目標充電電力に対応するモータジェネレータの目標発電量を最小燃費で達成可能な運転点でエンジンが運転される。
このようなシリーズモードでの走行中に排ガス循環装置の故障診断は実施され、排ガス循環バルブを開弁及び閉弁したときのインテークマニホールド圧(以下、インマニ圧という)の変化に基づき、排ガス循環装置の正常・異常が判定される。インマニ圧はエンジンの回転速度や負荷の影響を受けるためエンジンの運転点を定める必要があり、また診断精度の点から排ガス循環バルブの開閉に伴いインマニ圧が明確に変化する運転点が望ましい。このような観点の下に、通常時のシリーズモードでのエンジンの運転点よりも低負荷側に予めモニタ領域が設定され、故障診断時には、モニタ領域の中央に目標運転点を定めてエンジンを運転している。このため故障診断時には、例えば
図7に示すようにモニタ領域内の●印の運転点でエンジンが運転される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、走行バッテリが満充電近くで充電を必要としない状況、或いは極低温で正常な充電が望めない状況(共に充電電力を制限すべき状況であり、以下、電池受入れ性の低下時と表現する)では、走行バッテリの保護のために目標充電電力が制限される。しかしながら、特許文献1に記載のハイブリッド車両の排ガス循環故障診断装置では、このように目標充電電力が制限されると、エンジンの運転点がモニタ領域内から逸脱して排ガス循環装置の故障診断を完了できないという問題があった。
【0010】
即ち、電池受入れ性の低下時には、排ガス循環装置の故障診断よりも走行バッテリの保護が優先される結果、目標充電電力ひいてはモータジェネレータの目標発電量が制限される。そして、目標発電量が制限されることにより、エンジンの運転点は
図3に○印で示すようにモニタ領域内から低負荷側に逸脱してしまう。
このため、モニタ領域内の図中の●印の運転点で排ガス循環装置の故障診断を実施しているときに、走行バッテリの電池受入れ性が低下した場合、或いは走行バッテリの電池受入れ性の低下によりモニタ領域外の○印の運転点でエンジンを運転しているときに、排ガス循環装置の故障診断の実施条件が成立した場合には、モニタ領域内の●印の運転点に保つべくエンジン制御が試行されるが、バッテリ保護の優先によりモニタ領域外の○印の運転点に戻されてしまう。結果として、2つの運転点を行き来するハンチング現象が生じて排ガス循環装置の故障診断を完了できず、故障診断の頻度が減少してしまうという問題があった。
【0011】
なお、以上は排ガス循環装置の故障診断についての説明であったが、他のエミッション排出抑止装置でも故障診断の際にはエンジンの運転点を定める必要があることから、所定のモニタ領域内で故障診断が実施され、必然的に電池受入れ性の低下時に同様の問題が発生した。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、走行バッテリの電池受入れ性の低下時においても、目標充電電力の制限により走行バッテリを保護しつつ、エンジンの運転点をモニタ領域内に保ってエミッション排出抑止装置の故障診断を実施することができるハイブリッド車両の故障診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の故障診断装置は、エンジンを所定の運転点で運転して発電機を駆動し、該発電機により発電された電力をバッテリに充電する充電制御手段と、前記バッテリへの充電電力を制限すべき電池受入れ性の低下時か否かを判定する電池受入れ性判定手段と、前記電池受入れ性判定手段により電池受入れ性の低下時と判定されたときに、前記バッテリへの充電電力を制限すべく前記エンジンの運転点を負荷低下方向に切り換え、発電電力を低下させる充電電力制限手段と、大気中へのエミッション排出を抑止するエミッション排出抑止手段と、前記エミッション排出抑止手段の故障診断の実施条件が成立したときに、前記エンジンの運転点を負荷と回転速度で規定されるモニタ領域内に保ちながら前記エミッション排出抑止手段の故障診断を実施する故障診断手段と、前記故障診断手段により前記エミッション排出抑止手段の故障診断が実施される際に、前記電池受入れ性判定手段の判定に基づき前記エンジンの運転点が負荷低下方向に切り換えられると前記モニタ領域を逸脱する場合に、前記モニタ領域を負荷低下方向に拡大して前記運転点を前記
拡大されたモニタ領域内に保つモニタ領域拡大手段とを備え、前記エミッション排出抑止手段は、前記エンジンの排気空燃比を検出する排気センサであり、前記故障診断手段は、前記エンジンの排気空燃比をリッチ側とリーン側との間で強制加振して、前記排気センサの出力変化に基づき劣化を診断すると共に、前記モニタ領域拡大手段による前記モニタ領域の拡大時には、前記エンジンの排ガス流量の減少による前記排気センサの出力の追従性の悪化を補償すべく、通常時に比較して前記強制加振の周期または振幅の少なくとも一方を増加させることを特徴とする(請求項1)。
【0015】
このように構成したハイブリッド車両の排ガス循環故障診断装置によれば、故障診断手段によりエミッション排出抑止手段の故障判定が実施される際に、電池受入れ性判定手段の判定に基づきエンジンの運転点が負荷低下方向に切り換えられるとモニタ領域を逸脱する場合には、モニタ領域が負荷低下方向に拡大されることから、バッテリ保護のために充電電力を制限しながら、エンジンの運転点をモニタ領域内に保ってエミッション排出抑止手段の故障診断を実施可能となる。
また、モニタ領域が負荷低下方向に拡大されるとエンジンの排ガス流量が減少し、排気センサの出力の追従性が悪化して正常な故障診断が望めない可能性が生じる。本発明では、このときに通常時に比較して排気空燃比の強制加振の周期または振幅の少なくとも何れか一方が増加されることから、排気センサの出力の追従性が悪化している状況であっても明確な出力変化に基づき的確に故障診断を実施可能となる。
【0016】
その他の態様として、前記エミッション排出抑止手段が、前記エンジンの排気空燃比を検出する排気センサであり、前記故障診断手段が、前記排気センサの劣化を診断することが好ましい(請求項
2)。
この態様によれば、バッテリ保護のために充電電力を制限しながら、エンジンの運転点をモニタ領域内に保って排気センサの劣化診断を実施可能となる。
【0017】
その他の態様として、前記エミッション排出抑止手段が、前記エンジンの排ガスを浄化する触媒装置であり、前記故障診断手段が、前記触媒装置の劣化を診断することが好ましい(請求項
3)。
この態様によれば、バッテリ保護のために充電電力を制限しながら、エンジンの運転点をモニタ領域内に保って触媒装置の劣化診断を実施可能となる。
【0018】
その他の態様として、前記エミッション排出抑止手段が、前記エンジンの燃料を貯留する燃料タンク内で発生した燃料蒸発ガスを処理する燃料蒸発ガス排出抑止装置であり、前記故障診断手段が、前記燃料蒸発ガス排出抑止装置の故障を診断することが好ましい(請求項
4)。
この態様によれば、バッテリ保護のために充電電力を制限しながら、エンジンの運転点をモニタ領域内に保って燃料蒸発ガス排出抑止装置の故障診断を実施可能となる。
【0021】
その他の態様として、前記エミッション排出抑止手段が、前記エンジンの燃料を貯留する燃料タンク内で発生した燃料蒸発ガスをキャニスタに吸着させると共に、該吸着した燃料蒸発ガスを前記エンジンの吸気側の負圧を利用して該吸気側に移送して燃焼させる燃料蒸発ガス排出抑止装置であり、前記故障診断手段が、前記キャニスタと前記エンジンの吸気側との間に設けられたパージバルブを開弁及び閉弁したときの前記キャニスタ内の圧力変化に基づき、前記燃料蒸発ガス排出抑止装置の故障を診断するすると共に、前記モニタ領域拡大手段による前記モニタ領域の拡大時には、前記エンジンの排ガス流量の減少によるパージ流量低下を補償すべく、通常時に比較して前記パージバルブの開弁時間を延長化するか、または前記圧力変化を判定する故障判定値として小さな値を適用するかの少なくとも一方を実行することが好ましい(請求項
5)。
【0022】
この態様によれば、モニタ領域が負荷低下方向に拡大されるとエンジンの吸気側の負圧が低下し、キャニスタ内の圧力変化が小さくなって正常な故障診断が望めない可能性が生じる。本発明では、このときに通常時に比較してパージバルブの開弁時間が延長化されるか、或いは圧力変化を判定する故障判定値として小さな値が適用されるため、差圧の増加が緩慢な状況であっても的確に故障診断を実施可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のハイブリッド車両の排ガス循環故障診断装置によれば、走行バッテリの電池受入れ性の低下時においても、目標充電電力の制限により走行バッテリを保護しつつ、エンジンの運転点をモニタ領域内に保って排ガス循環装置の故障診断を実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をプラグインハイブリッド車両(以下、車両1という)の故障診断装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の故障診断装置が適用されたプラグインハイブリッド車両を示す全体構成図である。
本実施形態の車両1は、フロントモータ2の出力またはフロントモータ2及びエンジン3の出力により前輪4を駆動し、リヤモータ5の出力により後輪6を駆動するように構成された4輪駆動車である。
【0026】
エンジン3の出力軸は減速機7を介して前輪4の駆動軸8と連結され、減速機7には内部の動力伝達を断接可能なクラッチ9が内蔵されている。クラッチ9の接続時にはエンジン3の駆動力が減速機7及び駆動軸8を経て前輪4に伝達され、クラッチ9の切断時には前輪4側からエンジン3が切り離されて単独で運転可能となる。
減速機7のクラッチ9より動力伝達方向の下流側(前輪4側)にはフロントモータ2が連結され、その駆動力が減速機7から駆動軸8を経て前輪4に伝達されるようになっている。また、減速機7のクラッチ9より動力伝達方向の上流側(反前輪4側)にはモータジェネレータ10が連結され、クラッチ9の切断時において、モータジェネレータ10はエンジン3の駆動により発電したり、或いはエンジン3を始動するスタータモータとして機能したりする。また、リヤモータ5は減速機11を介して後輪6の駆動軸12と連結され、その駆動力が減速機11から駆動軸12を経て後輪6に伝達されるようになっている。
【0027】
エンジン3には、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されたエンジンコントローラ14が接続され、このエンジンコントローラ14によりエンジン3のスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等が制御されてエンジン3が運転される。
フロントモータ2、リヤモータ5及びモータジェネレータ10は三相交流電動機であり、それらの電源として走行バッテリ15(バッテリ)が備えられている。走行バッテリ15はリチウムイオン電池等の二次電池から構成され、そのSOC(充電率)の算出や温度TBATの検出を行うバッテリモニタリングユニット15aを内蔵している。
【0028】
フロントモータ2及びモータジェネレータ10はフロントモータコントローラ16を介して走行バッテリ15に接続され、フロントモータコントローラ16にはフロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bが備えられている。走行バッテリ15の直流電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより三相交流電力に変換されてフロントモータ2やモータジェネレータ10に供給される。また、フロントモータ2による回生電力やモータジェネレータ10による発電電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより直流電力に変換されて走行バッテリ15に充電される。
【0029】
同様に、リヤモータ5はリヤモータコントローラ17を介して走行バッテリ15に接続され、リヤモータコントローラ17にはリヤモータ用インバータ17aが備えられている。走行バッテリ15の直流電力は、リヤモータ用インバータ17aにより三相交流電力に変換されてリヤモータ5に供給され、リヤモータ5による回生電力は、リヤモータ用インバータ17aにより直流電力に変換されて走行バッテリ15に充電される。
【0030】
また、車両1には、走行バッテリ15を外部電源によって充電する充電機13が備えられている。
ハイブリッドコントローラ18は、車両1の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されている。このハイブリッドコントローラ18により、エンジン3、フロントモータ2、モータジェネレータ10、リヤモータ5の各運転状態、及び減速機7のクラッチ9の断接状態等が制御される。そのために、ハイブリッドコントローラ18の入力側には、走行バッテリ15のバッテリモニタリングユニット15a、フロントモータコントローラ16、リヤモータコントローラ17、エンジンコントローラ14、アクセル開度θaccを検出するアクセル開度センサ19、及び車速Vを検出する車速センサ20が接続されており、これらの機器からの検出及び作動情報が入力される。
【0031】
また、ハイブリッドコントローラ18の出力側には、フロントモータコントローラ16、リヤモータコントローラ17、減速機7のクラッチ9、及びエンジンコントローラ14が接続されている。
そして、ハイブリッドコントローラ18は、アクセル開度センサ19等の上記各種検出量及び作動情報に基づき、車両1の走行モードをEVモード、シリーズモード、パラレルモードの間で切り換える。例えば、高速領域のようにエンジン3の効率が高い領域では、走行モードをパラレルモードとする。また、中低速領域では、走行バッテリ15の充電率SOC等に基づきEVモードとシリーズモードとの間で切り換える。
【0032】
EVモードでは、減速機7のクラッチ9を切断すると共にエンジン3を停止し、走行バッテリ15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。
シリーズモードでは、減速機7のクラッチ9を切断した上で、エンジン3を運転してモータジェネレータ10を駆動し、その発電電力及び走行バッテリ15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させると共に、余剰電力を走行バッテリ15に充電する。
【0033】
パラレルモードでは、減速機7のクラッチ9を接続した上で、エンジン3を運転して駆動力を減速機7から前輪4に伝達すると共に、エンジン駆動力に余剰があるときには、フロントモータ2で回生し、エンジン駆動力が足りないときには、バッテリ電力を使ってフロントモータ2でアシストする。
また、ハイブリッドコントローラ18は、上記各種検出量及び作動情報に基づき車両1の走行に必要な総要求出力を算出し、その総要求出力を、EVモード及びシリーズモードではフロントモータ2側とリヤモータ5側とに配分し、パラレルモードではフロントモータ2側とエンジン3側とリヤモータ5側とに配分する。そして、それぞれに配分した要求出力、及びフロントモータ2から前輪4までの減速機7のギヤ比、エンジン3から前輪4までの減速機7のギヤ比、リヤモータ5から後輪6までの減速機11のギヤ比に基づき、フロントモータ2、エンジン3、リヤモータ5のそれぞれの要求トルクを設定し、各要求トルクを達成するようにフロントモータコントローラ16、リヤモータコントローラ17及びエンジンコントローラ14に指令信号を出力する。
【0034】
フロントモータコントローラ16及びリヤモータコントローラ17ではハイブリッドコントローラ18からの指令信号に基づき、要求トルクを達成するためにフロントモータ2及びリヤモータ5の各相のコイルに流すべき目標電流値を算出する。そして、それらの目標電流値に基づきフロントモータ用インバータ16a及びリヤモータ用インバータ17aをスイッチング制御し、それぞれの要求トルクを達成する。尚、モータジェネレータ10の発電時も同様であり、負側の要求トルクから求めた目標電流値に基づき、モータジェネレータ用インバータ16bをスイッチング制御して要求トルクを達成する。
【0035】
エンジンコントローラ14ではハイブリッドコントローラ18からの指令信号に基づき、要求トルクの達成のためのスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等の目標値を算出し、それらの目標値に基づく制御によりエンジン3を運転して要求トルクを達成する。
また、ハイブリッドコントローラ18は、シリーズモードによる車両1の走行中において走行バッテリ15の充電状態を最適化すべく、モータジェネレータ10を駆動しているエンジン3の運転点を制御している。具体的には、走行バッテリ15の実SOCと目標SOCとの偏差に基づき目標充電電力を逐次算出し、目標充電電力に対応するモータジェネレータ10の目標発電量を最小燃費で達成可能な運転点を求め、その運転点でエンジン3を運転する。概括的に表現すると、走行バッテリ15のSOCが増加して満充電に近づくほど目標充電電力が低下し、エンジン3の運転点は低負荷側に移行する(充電制御手段)。
【0036】
加えて、ハイブリッドコントローラ18は、走行バッテリ15の電池受入れ性の低下(満充電近くで充電を必要としない状況、或いは極低温で正常な充電が望めない状況)を常に監視しており(電池受入れ性判定手段)、電池受入れ性の低下判定を下したとき場合には、走行バッテリ15の保護のために目標充電電流を制限する処理を実施する(充電電力制限手段)。
【0037】
例えば、以下の1),2)の条件の成立時に、走行バッテリ15の電池受入れ性が低下したと判定する。
1)最大充電電力―目標充電電力≦制限電力判定値(例えば10kw)
2)充電電流>制限電流判定値またはバッテリ電圧>制限電圧判定値
ここに、最大充電電力は、走行バッテリ15のSOH(劣化指標:State of Health)や温度等から定まる現在の走行バッテリ15が充電可能な上限電力である。
【0038】
このような電池受入れ性の低下判定を下すと、ハイブリッドコントローラ18は走行バッテリ15への目標充電電力を制限する。必然的にモータジェネレータ10の目標発電量が低下することから、エンジン制御側でエンジン3の運転点が低負荷側に切り換えられる。
一方、エンジン3の運転に伴って発生した排ガス、及びエンジン3の燃料を貯留する燃料タンク内で発生した蒸発ガス等の外部への排出を防止すべく、車両1には種々のエミッション排出抑止装置(エミッション排出抑止手段)が搭載されており、それらのエミッション排出抑止装置には故障を診断するための故障診断装置がそれぞれ備えられている。
【0039】
例えば
図2に示すように、エンジン3の排気系には触媒装置21及び排気センサ類22,23が設けられ、エンジン3の吸気系には排ガス循環装置24が設けられている。
触媒装置21はエンジン3の排気通路25に介装され、排気通路25上の触媒装置21の上流側にはLAFS22(リニア空燃比センサであり、本発明の排気センサ)が備えられ、触媒装置21の下流側にはO
2センサ23が備えられている。例えば触媒装置21は三元触媒として構成されて排ガス中に含まれるNOx、HC、COを浄化する機能を奏し、その浄化性能が最大限に発揮されるストイキに排気空燃比を保つために、LAFS22及びO
2センサ23の出力に基づきハイブリッドコントローラ18によりエンジン3の運転状態が制御される。
【0040】
これらの触媒装置21、LAFS22、O
2センサ23は常に高温の排ガスに晒されるため、次第に劣化して機能低下を生じる。触媒装置21の劣化は、浄化性能の低下に伴う排ガスの素通りを引き起こし、LAFS22やO
2センサ23の劣化は、検出誤差に起因する不適切なエンジン制御により、排気空燃比がストイキから外れて触媒装置21の本来の性能が発揮されない事態を引き起こす。
【0041】
そこで、例えばLAFS22及び触媒装置21の劣化診断がハイブリッドコントローラ18により以下の手順で実施される(故障診断手段)。
図3はLAFS22の劣化診断の実施状況を示すタイムチャートであり、ハイブリッドコントローラ18はエンジン3の排気空燃比を所定の周期及び振幅でストイキを中心として強制加振する。LAFS22が正常な場合には、図中に実線で示すように排気空燃比の変動に同期してLAFS22の出力が大きく変化する。このため、出力のリッチ側への変化時には予め設定されたリッチ判定値Sr1を超え、リーン側への変化時には予め設定されたリーン判定値Sl1を超える。これに対してLAFS22が劣化すると、図中に破線で示すようにLAFS22の出力変化が縮小されるため、リッチ及びリーン側に変化したとしてもリッチ判定値Sr1及びリーン判定値Sl1を超えなくなる。
【0042】
図4は触媒装置21の劣化診断の実施状況を示すタイムチャートであり、ハイブリッドコントローラ18はエンジン3の排気空燃比を所定の周期及び振幅でストイキを中心として強制加振する。触媒装置21の上流側のLAFS22の出力が排気空燃比の変動に同期して大きく変化するのに対し、下流側のO
2センサ23の出力は、触媒装置21の浄化性能と共に低下するO
2ストレージ能力に応じた変化状態となる。詳しくは、触媒装置21が正常な場合には図中に破線で示すように、予め設定されたリッチ判定値Sr2及び判定値Sl2を超えることなく両判定値Sr2,Sl2の間で周期的に変化し、触媒装置21が劣化すると図中に実線で示すように、リッチ判定値Sr2を超えてリッチ側に変化し、判定値Sl2を超えてリーン側に変化する。
【0043】
そこで、例えば所定の診断期間中において、LAFS22の出力やO
2センサの出力23がリッチ判定値Sr1,Sr2及びリーン判定値Sl1,Sl2を超えた回数をカウントし、診断期間中の強制加振による排気空燃比の変動回数とカウント値との比を求める。LAFS22に関しては劣化が進行するほど比が0に近づき、触媒装置21に関しては劣化が進行するほど比が1に近づくため、これらの比を予め設定したカウント判定値と比較することにより、それぞれの正常・劣化を判定する。
【0044】
また、
図2に示すように排ガス循環装置24は、エンジン3のエキゾーストマニホールド27とインテークマニホールド28(吸気側)とを接続する排ガス循環通路29、及び排ガス循環通路29の開度を調整する排ガス循環バルブ30から構成されている。排ガス循環バルブ30の開度はエンジン3の運転領域に基づきハイブリッドコントローラ18により制御され、排ガス循環バルブ30の開度に応じて排ガスが排ガス循環通路29を経て排ガス循環ガスとしてインテークマニホールド28に還流され、これにより筒内での燃焼温度が低下してNOxの生成が抑制される。
【0045】
排ガス循環装置24の故障により所期の排ガス循環還流量を達成不能になると、NOx増加やドライバビリティの悪化を引き起こす。そこで、例えば排ガス循環装置24の故障診断がハイブリッドコントローラ18により以下の手順で実施される(故障診断手段)。
インテークマニホールド28には吸気圧センサ31が設けられ、この吸気圧センサ31によりインテークマニホールド内の圧力(以下、インマニ圧という)が検出される。まず、ハイブリッドコントローラ18は排ガス循環バルブ30を一旦全閉(0%)した上で、吸気圧センサ31により検出されるインマニ圧の検出値を第1インマニ圧Pin1として記憶する。その後に排ガス循環バルブ30を所定量(20%)して、インマニ圧の検出値を第2インマニ圧Pin2として記憶する。これらの第1及び第2インマニ圧Pin1,Pin2の差圧ΔPinが予め設定された故障判定値以上のときには排ガス循環装置24の正常判定を下し、故障判定値未満のときには異常判定を下す。
【0046】
一方、
図5に示すように、車両1に搭載された燃料タンク33には燃料を補給するための燃料給油口34が設けられ、燃料タンク33内に貯留された燃料は燃料ポンプ35により燃料配管36を経てエンジン3の燃料噴射弁37に供給されるようになっている。このように構成された燃料タンク33とエンジン3のインテークマニホールド28との間に、以下に述べるような燃料蒸発ガス排出抑止装置38が設けられている。
【0047】
燃料タンク33内には燃料の流出を防止するためのカットオフバルブ39が設けられ、このカットオフバルブ39は給油時の液面調整用のレベリングバルブ40を介してベーパ配管41の一端に接続されている。ベーパ配管41は燃料タンク33外に延出されて密閉バルブ42が介装され、ベーパ配管41の他端はパージ配管43の中間部に接続されている。パージ配管43の一端はキャニスタ44に接続され、この一端とベーパ配管41の接続箇所との間にはバイパスバルブ45が介装されている。パージ配管43の他端はエンジン3のインテークマニホールド28に接続されると共に、パージ配管43上にはパージバルブ46が介装されている。
【0048】
キャニスタ44の内部には燃料蒸発ガスを吸着可能な活性炭が封入され、その外部の一側にはエバポレーティブリークチェックモジュール47が設けられている。
図6に示すように、エバポレーティブリークチェックモジュール47はキャニスタ44の内部と連通するキャニスタ側通路47a、及び外部と連通する大気側通路47bが形成されると共に、大気側通路47bには負圧ポンプ47c及びキャニスタ圧センサ47dを備えたポンプ通路47fが連通している。
【0049】
キャニスタ側通路47aと大気側通路47b及びポンプ通路47fとの間には切替バルブ47gが介装され、この切替バルブ47gの切換に応じてキャニスタ側通路47aは大気側通路47bまたはポンプ通路47fと連通し、大気側通路47bとの連通時にはキャニスタ側通路47aを介してキャニスタ44内が大気開放され、ポンプ通路47fとの連通時にはキャニスタ44内が閉鎖される。また切替バルブ47gの切換に関係なく、キャニスタ圧センサ47dはバイパス通路47hのオリフィス47eを介してキャニスタ44側と連通し、このキャニスタ44内の圧力を検出している。
【0050】
燃料の給油時には密閉バルブ42、バイパスバルブ45及び切替バルブ47gを開き、パージバルブ46を閉じて、燃料タンク33内の燃料蒸発ガスをキャニスタ44内に導き活性炭に吸着させる。そして、エンジン3の運転が開始されると、密閉バルブ42を閉じ切替バルブ47g及びパージバルブ46を開いて、キャニスタ44の活性炭に吸着させた燃料蒸発ガスを、エンジン3のインテークマニホールド28に発生した負圧によりパージ配管43を経てインテークマニホールド28内に導き、燃料と共に筒内で燃焼させる。
【0051】
このような燃料蒸発ガスの処理のためには、燃料蒸発ガス排出抑止装置38の各バルブ類が正常に切り換えられて燃料蒸発ガスがインテークマニホールド28に移送される必要があり、正常な機能が得られない場合には、燃料蒸発ガスの外部への漏洩を引き起こす。そこで、燃料蒸発ガス排出抑止装置38の故障診断(所謂パージフローモニタ)がハイブリッドコントローラ18により以下の手順で実施される(故障診断手段)。
【0052】
エンジン3の運転が開始されると、ハイブリッドコントローラ18はバイパスバルブ45を開き、切替バルブ47g、密閉バルブ42及びパージバルブ46を閉じた上で、キャニスタ圧センサ47dにより検出されるキャニスタ44内の圧力の検出値を第1キャニスタ圧Pcan1として記憶する。その後にパージバルブ46を開き、所定時間後のキャニスタ44内の圧力の検出値を第2キャニスタ圧Pcan2として記憶する。これらの第1及び第2キャニスタ圧力Pcan1,Pcan2の差圧ΔPcanが予め設定された故障判定値以上のときには、インテークマニホールド28の負圧の影響を受けてキャニスタ44内が圧力低下したものとして燃料蒸発ガス排出抑止装置の正常判定を下し、故障判定値未満のときには異常判定を下す。
【0053】
なお、LAFS22、触媒装置21、排ガス循環装置24及び燃料蒸発ガス排出抑止装置38の故障診断の内容は、上記に限るものではなく他の手法を用いてもよい。
そして、以上の各故障診断は車両1がシリーズモードで走行しているときに実施され、エンジン3の回転速度Ne及び負荷(充填効率Ec或いは吸気量Q)により規定されるエンジン3の運転点は、走行バッテリ15への目標充電電力に基づく通常時の値から、各故障診断に好適な所定のモニタ領域内の値に切り換えられる。しかし、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、電池受入れ性の低下時には、故障診断よりも走行バッテリ15の保護が優先される結果、エンジン3の運転点がモニタ領域から低負荷側に逸脱してしまい、故障診断を完了できないという問題があった。
【0054】
このような不具合を鑑みて本発明者は、走行バッテリ15の保護のために目標充電電力を制限しつつエミッション排出抑止装置の故障診断を完了するために、以下の2種の対策を見出した。
その1つは、エンジン3の運転点を最適化してモニタ領域内に保つことにより故障診断を実施可能とする手法(以下、第1の手法という)であり、他の1つは、モニタ領域を拡大してエンジン3の運転点をモニタ領域内に保つことにより故障診断を実施可能とする手法(以下、第2の手法という)である。
【0055】
以下、第1の手法を各エミッション排出抑止装置(LAFS22、燃料蒸発ガス排出抑止装置38、及び排ガス循環装置24)に適用した実施形態を第1実施形態、第2の手法を各エミッション排出抑止装置に適用した実施形態を第2実施形態として順次説明する。
[第1実施形態]
図7は本実施形態の第1の手法による故障診断時のモニタ領域内でのエンジン3の運転点を示すマップである。
【0056】
モータジェネレータ10の発電量は、基本的にエンジン3の回転速度Neと充填効率Ecまたは吸気量Qとの積で定まる。このため、例えば
図7に示す30kw及び20kwの特性線のようにモータジェネレータ10の発電量が表わされ、これらの特性線上であれば、どの運転点であっても対応する発電量が達成される。そして、例えば電池受入れ性の低下に基づきモータジェネレータ10の目標発電量が30kwから20kwに制限されると、負荷(充填効率Ec、吸気両Q)低下方向にはモニタ領域の余地がほとんどないのに対し、回転速度Neの低下方向にはある程度の余地が存在することが判る。そこで、エンジン3の運転点を、負荷低下方向に代えて回転低下方向に切り換える手法を採用したものが本実施形態である。
【0057】
従って、本実施形態によれば、モニタ領域内の図中の●印の運転点でエミッション排出抑止装置の故障診断を実施しているとき、走行バッテリ15の電池受入れ性の低下によりモータジェネレータ10の目標発電量を30kwから20kwに制限すべく、エンジン3の運転点を負荷低下方向に切り換えるとモニタ領域を逸脱してしまう場合に、現在のエンジン3の充填効率Ecや吸気量Qを保ちつつ回転速度Neを低下させて、図中の□印に運転点を切り換える(運転点補正手段)。
【0058】
また、走行バッテリ15の電池受入れ性の低下により、モータジェネレータ10の目標発電量を20kwに制限すべく図中の○印の運転点でエンジン3を運転しているときに、エミッション排出抑止装置の故障診断の実施条件(例えばスロットル開度が一定、冷却水温が所定範囲内等)が成立すると、エンジン3の充填効率Ecや吸気量Qを増加させ且つ回転速度Neを低下させながら、20kwの特性線上でエンジン3の運転点を□印まで移動させる(運転点補正手段)。
【0059】
図8は第1の手法をLAFS22の故障診断に適用した場合の実施状況を示すタイムチャートである。
LAFS22の故障診断のためのモニタ領域は、例えばエンジン3の回転速度Ne1250〜1750rpm、充填効率Ec30〜50%に予め設定され、その中央の回転速度Ne1500rpm、充填効率Ec40%が故障診断時の目標運転点として設定されている。
【0060】
走行バッテリ15の電池受入れ性が低下してない通常時においては、図中に実線で示すように、モータジェネレータ10の目標発電量を最小燃費で達成可能な運転点でエンジン3が運転されている。故障診断の実施条件が成立し、その後に強制加振の条件が成立すると、それに呼応してエンジン3の運転点がモニタ領域内の目標運転点に切り換えられると共に、排気空燃比の強制加振が開始される。モータジェネレータ10が発電制限されていないため、エンジン3は目標運転点で運転されてモニタ領域内に保たれ続け、LAFS22の出力に基づき故障診断が実施される。
【0061】
一方、電池受入れ性が低下すると、図中に破線で示すように、モータジェネレータ10の発電制限によりエンジン3の運転点はモニタ領域の下限の充填効率Ecを下回るため、通常であればモニタ領域を逸脱していると見なされて故障診断は開始されない。本実施形態では、LAFS22の故障診断の実施条件が成立した時点で、モニタ領域において回転速度Neが低下すると共に、充填効率Ecが増加してモニタ領域内に移行する。従って、この場合でもエンジン3の運転点はモニタ領域内に保たれ、問題なくLAFS22の故障診断が実施される。
【0062】
なお、触媒装置21の故障診断についてもLAFS22の場合と同様の手順で実施可能である。
図9は第1の手法を燃料蒸発ガス排出抑止装置38の故障診断に適用した場合の実施状況を示すタイムチャートである。
燃料蒸発ガス排出抑止装置38の故障診断のためのモニタ領域は充填効率Ecに代えて吸気量Qが用いられ、エンジン3の回転速度Ne及び吸気量Qによりモニタ領域が規定され、その中央に故障診断時の目標運転点が設定されている。
【0063】
従って、電池受入れ性が低下した状態では、モータジェネレータ10の発電制限によりエンジン3の運転点はモニタ領域の下限の吸気量Qを下回るため、通常であればモニタ領域を逸脱していると見なされて故障診断は開始されない。本実施形態では、燃料蒸発ガス排出抑止装置38の故障診断の実施条件が成立した時点で、
図9に破線で示すようにモニタ領域内で回転速度Neが低下すると共に、モニタ領域外の吸気量Qが増加してモニタ領域内に移行する。従って、この場合でもエンジン3の運転点はモニタ領域内に保たれ、問題なく故障診断が実施される。
【0064】
図10は第1の手法を排ガス循環装置の故障診断に適用した場合の実施状況を示すタイムチャートである。
排ガス循環装置24の故障診断のためのモニタ領域は、例えばエンジン3の回転速度Ne1250〜1750rpm、充填効率Ec15〜25%に予め設定され、その中央の回転速度Ne1500rpm、充填効率Ec20%が故障診断時の目標運転点として設定されている。
【0065】
この場合の通常時及び電池受入れ性の低下時のエンジン3の運転点の制御状況は、モニタ領域の設定が相違するだけで上記したLAFS22の故障診断と同様である。このため重複する説明はしないが、電池受入れ性の低下時であっても、回転速度Neの低下及び充填効率Ecの増加によりエンジン3の運転点がモニタ領域内に保たれ、問題なく排ガス循環装置24の故障診断が実施される。
【0066】
以上のように何れのエミッション排出抑止装置も本実施形態による第1の手法を適用すれば、走行バッテリ15の電池受入れ性の低下時においても、目標充電電力の制限により走行バッテリ15を保護しつつ、エンジン3の運転点をモニタ領域内に保って故障診断を実施することができる。
なお、上記したエンジン3の充填効率Ecや回転速度Neに関する例示は一例にすぎず、任意に変更可能であることは言うまでもない。
[第2実施形態]
上記したようにモニタ領域はエンジン3の回転速度Neと充填効率Ecまたは吸気量Qとで規定されており、モータジェネレータ10の目標発電量の制限によりエンジン3の運転点が充填効率Ecまたは吸気量Qの下限を下回った場合に、故障診断を実施不能な事態に陥る。そこで、走行バッテリ15の電池受入れ性の低下時に限り、モニタ領域を負荷低下方向に拡大すること、より詳しくはモニタ領域の充填効率Ecまたは吸気量Qに関する下限を低下させることにより、エンジン3の運転点を切り換えることなくモニタ領域内に保つ手法を採用したものが本実施形態である(モニタ領域拡大手段)。
【0067】
図11は第2の手法をLAFS22の故障診断に適用した場合の実施状況を示すタイムチャートである。
走行バッテリ15の電池受入れ性が低下してない通常時の制御状況は、図中に実線で示すように、上記した第1実施形態と同様であり、エンジン3が目標運転点で運転されながらLAFS22の出力に基づき故障診断が実施される。
【0068】
一方、電池受入れ性が低下すると、モータジェネレータ10の発電制限によりエンジン3の運転点はモニタ領域の下限の充填効率Ecを下回るため故障診断は開始されない。本実施形態では、LAFS22の故障診断の実施条件が成立した時点で、
図7に仮想線で示すように、モニタ領域の下限が充填効率Ecの低下方向に切り換えられ、これによりモニタ領域が負荷低下方向に拡大される(モニタ領域拡大手段)。このため、
図11中に破線で示すようにモニタ領域を逸脱していたエンジン3の運転点がモニタ領域内に保たれることになり、問題なく故障診断が開始される。
【0069】
そして、この電池受入れ性が低下しているときの故障診断では、通常時とは異なる強制加振が実施され、その趣旨は以下に述べる通りである。
周知のようにLAFS22の出力の追従性とエンジン3の排ガス流量との間には相関があり、排ガス流量はエンジン3の充填効率Ecに応じて変化する。より具体的には、エンジン3の充填効率Ecが低下すると排ガス流量が減少し、それに伴ってLAFS22の出力の追従性が次第に悪化する。従って、エンジン3の充填効率Ecがモニタ領域の下限まで低下した状態で故障診断が実施された場合に、最もLAFS22の出力の追従性が悪化することになり、この場合でも故障診断が可能な程度のLAFS22の出力変化が得られるように、強制加振の周期及び振幅が設定されている。本実施形態による第2の手法は、このようなLAFS22の出力の追従性に関してほとんど余裕がないモニタ領域の下限を、さらに充填効率Ecの低下方向に切り換えるため、出力追従性の悪化により正常な故障診断が望めない可能性が生じる。
【0070】
そこで本実施形態では、
図8との比較から判るように、第2の手法を適用した電池受入れ性が低下しているときの故障診断時に、排気空燃比の強制加振の周期を増加させている。このため充填効率Ecの低下が補償され、LAFS22の出力の追従性が悪化している状況であっても明確なLAFS22の出力変化に基づき的確に故障診断を実施することができる。
【0071】
なお、
図11では示していないが、周期の増加に伴って故障診断の所要時間は延長化されている。また、強制加振の周期を増加させる代わりに強制加振の振幅を増加させてもよいし、強制加振の周期及び振幅を共に増加させてもよい。
また、触媒装置21の故障診断についてもLAFS22の場合と同様に実施可能であり、その際に強制加振の周期や振幅を増加させる点についても同様である。
【0072】
図12は第2の手法を燃料蒸発ガス排出抑止装置38の故障診断に適用した場合の実施状況を示すタイムチャートである。
第1実施形態で述べたように、燃料蒸発ガス排出抑止装置38の故障診断のためのモニタ領域は充填効率Ecに代えて吸気量Qが用いられる。従って、電池受入れ性が低下した状態では、モータジェネレータ10の発電制限によりエンジン3の運転点はモニタ領域の下限の吸気量Qを下回るため、通常であればモニタ領域を逸脱していると見なされて故障診断は開始されない。本実施形態では、故障診断の実施条件が成立した時点で、モニタ領域の下限が吸気量Qの低下方向に切り換えられて拡大されることから、図中に破線で示すようにモニタ領域を逸脱していたエンジン3の運転点がモニタ領域内に保たれ、問題なく故障診断が開始される。
【0073】
そして、この電池受入れ性が低下しているときの故障診断では、第2キャニスタ圧Pcan2を検出する際のパージバルブ46の開弁時間Tを通常時よりも延長化しており、その趣旨は以下に述べる通りである。
吸気量Qが減少するとパージ流量が減少するため、故障診断時の差圧ΔPcanが減少する。従って、エンジン3の吸気量Qがモニタ領域の下限まで低下した状態で故障診断が実施された場合に、最も差圧ΔPcanが減少することになり、この場合でも故障診断が可能な程度のインテークマニホールド28内の負圧が得られるように、モニタ領域の吸気量Qに関する下限が設定されている。本実施形態による第2の手法は、このようなインテークマニホールド28内の負圧に関してほとんど余裕がないモニタ領域の下限を、さらに吸気量Qの低下方向に切り換えるため、負圧の低下により正常な故障診断が望めない可能性が生じる。
【0074】
そこで本実施形態では、
図9との比較から判るように、第2の手法を適用した電池受入れ性が低下しているときの故障診断時に、第2キャニスタ圧Pcan2を検出する際のパージバルブ46の開弁時間Tを延長化している。このためパージ流量低下が補償され、差圧ΔPcanの増加が緩慢な状況であっても通常時と同程度の第2キャニスタ圧Pcan2が検出されることから、燃料蒸発ガス排出抑止装置の正常・異常を的確に判定することができる。
【0075】
加えて、仮にパージバルブ46の開弁時間Tを延長化しないとすると、通常時と電池受入れ性の低下時との第2キャニスタ圧Pcan2の相違に応じて個別に故障判定値を設定する必要が生じる。結果として事前の故障診断の条件設定が複雑化してしまうが、このように故障判定値を共通化することで、その手間を省くことができる。
但し、必ずしもパージバルブ46の開弁時間Tを延長化する必要はなく、これに代えて、通常時に比較して差圧Pcanを判定するための故障判定値として小さな値を適用するようにしてもよい。
【0076】
図13は第2の手法を排ガス循環装置24の故障診断に適用した場合の実施状況を示すタイムチャートである。
この場合の通常時及び電池受入れ性の低下時のエンジン3の運転点の制御状況は、モニタ領域の設定が相違するだけで上記したLAFS22の故障診断と同様である。このため重複する説明はしないが、電池受入れ性の低下時であっても、モニタ領域の下限が充填効率Ecの低下方向に切り換えられることで、図中に破線で示すようにモニタ領域を逸脱していたエンジン3の運転点がモニタ領域内に保たれることになり、問題なく故障診断が開始される。
【0077】
以上のように何れのエミッション排出抑止装置も本実施形態による第2の手法を適用すれば、走行バッテリ15の電池受入れ性の低下時においても、目標充電電力の制限により走行バッテリ15を保護しつつ、エンジン3の運転点をモニタ領域内に保って故障診断を実施することができる。
ところで以上の第1及び第2実施形態の説明は、故障診断を開始する以前に既に電池受入れ性が低下していた場合であるが、燃料蒸発ガス排出抑止装置38及び排ガス循環装置24に関しては故障診断の開始後に電池受入れ性が低下した場合にも応用できる。例えば、燃料蒸発ガス排出抑止装置38の故障診断を開始したが未だ第1キャニスタ圧Pcan1の検出を開始していない段階で、電池受入れ性の低下判定が下された場合には、その時点でエンジン3の運転点の切換(第1実施形態)、またはモニタ領域の拡大(第2実施形態)を実行すればよい。これによりエンジン3の運転点がモニタ領域内に保たれるため、上記と同様に問題なく故障診断が実施することができる。
【0078】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、走行モードをEVモード、シリーズモード、パラレルモードの間で切換可能なプラグインハイブリッド車両1の故障診断装置に具体化したが、車両1の種別はこれに限るものではない。エンジンにより発電機を駆動して発電電力を走行バッテリに充電するシリーズモードを実行可能なハイブリッド車両であれば任意に適用可能である。