特許第6774046号(P6774046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三省製薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774046
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】育毛剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20201012BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   A61K8/49
   A61Q7/00
   A61K8/81
   A61K8/25
   A61K8/34
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-103323(P2016-103323)
(22)【出願日】2016年5月24日
(65)【公開番号】特開2017-210420(P2017-210420A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176110
【氏名又は名称】三省製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】小宮 康夫
【審査官】 佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−204426(JP,A)
【文献】 特開2011−046690(JP,A)
【文献】 特開2011−153122(JP,A)
【文献】 特開2006−213637(JP,A)
【文献】 特開2006−335649(JP,A)
【文献】 特開2001−316228(JP,A)
【文献】 特開平10−072321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−ベンジルアミノプリンを必須成分とする育毛剤組成物であって、当該組成物が、
(a)6−ベンジルアミノプリンを0.2〜1重量%、
(b)アニオン性水溶性高分子を0.1〜2重量%、
(c)シリコン架橋物、シリカ、タルク、マイカから選ばれた1種以上の水に不溶な粉体を1〜10重量%、および、
(d)水とエタノールの重量比が65:35〜10:90である水・エタノール溶媒、
を含むことを特徴とするハリ・コシ効果があり、かつ使用後のべたつきのない育毛剤組成物。
【請求項2】
前記アニオン性水溶性高分子が、カルボキシビニルポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の育毛剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の育毛剤組成物を使用してなることを特徴とする育毛剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6−ベンジルアミノプリンを育毛成分とする育毛剤組成物に関する。より詳しくは、ハリ・コシ感があり、かつ、使用後のべたつきが無い新規な育毛剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、育毛剤に期待される機能として、薄毛の改善、抜け毛の減少、髪のハリ・コシ感の向上といった髪質改善が挙げられている。
【0003】
ところで、皮膚の老化防止効果及び頭皮に外用することによる細胞の賦活化を目的とした外用剤として、6−ベンジルアミノプリン(6−ベンジルアデニン)及びその誘導体が知られている(例えば、特許文献1、2)。
そして、6−ベンジルアミノプリンを配合した育毛剤の商品開発においては、当該6−ベンジルアミノプリンの育毛効果に係る有効濃度を適正に維持するために、エタノール主体のエタノール・水系混合溶媒が一般に使用されている。
【0004】
しかし、6−ベンジルアミノプリンは、優れた効能を備える一方、エタノールに対する溶解度が1%程度で、水に対しては0.01%以下である難溶性の素材であるため、非常に製剤設計しづらい素材であり、エタノールの刺激感を押さえるためにエタノールの使用量を減らせば、水にほとんど溶けない6−ベンジルアミノプリンの製剤における溶解性が下がり、低温時での沈殿析出を助長するため、安定した育毛効果が発揮できないという問題があった。
【0005】
そこで、溶解補助剤として、多価アルコールや界面活性剤を使用することにより、6−ベンジルアミノプリンのエタノールへの溶解性を向上させる方法が提案されている(特許文献3)。しかし、かかる成分は、塗布後の毛髪にべたつきを与え、良い使用感の養毛剤組成物を得ることには課題があった。
【0006】
また、上記のように育毛剤の求める機能として毛髪のハリ・コシ感があり、かかる機能を発揮する成分として従来から水溶性高分子が使用されている(特許文献4)。6−ベンジルアミノプリンを含有する育毛剤についても、毛髪成長促進効果を改善し、このハリ、コシ感を得るために両親媒性高分子を併用することが提案されている(特許文献5)。しかしながら、6−ベンジルアミノプリンは上述のように水に対する溶解性が乏しく、単に水溶性高分子や両親媒性高分子を使用するだけでは、使用後の毛髪がべたつくという課題を解決することはできなかった。
【0007】
このように、6−ベンジルアミノプリンを育毛成分とし、毛髪のハリ・コシ感を有しながら、かつ、べたつきのない育毛剤組成物は未だ提供されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−320028号公報
【特許文献2】特開平07−233037号公報
【特許文献3】特開平10−072321号公報
【特許文献4】特開2006−199648号公報
【特許文献5】特開2006−213637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の目的は、育毛成分として6−ベンジルアミノプリン含む育毛剤組成物において、毛髪のハリ・コシ感を有しながら、かつ、使用後に毛髪のべたつきのない育毛剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来の課題等を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、6−ベンジルアミノプリン含む育毛剤組成物において、水・エタノール混合溶媒中のエタノールの量をできるだけ減らすことによりエタノールの刺激感を押さえ、かつ、育毛剤の機能として求められる毛髪のハリ・コシ感を有しながら、べたつきを抑えた組成物とするため、水溶性高分子と凝固点が−5℃以下の油又は水に不溶な粉体とを併用することにより、本願の目的とする育毛剤組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、次の(1)〜()に存する。
)6−ベンジルアミノプリンを必須成分とする育毛剤組成物であって、当該組成物が、
(a)6−ベンジルアミノプリンを0.2〜1重量%、
(b)アニオン性水溶性高分子を0.1〜2重量%、
(c)シリコン架橋物、シリカ、タルク、マイカから選ばれた1種以上の水に不溶な粉体を1〜10重量%、および、
(d)水とエタノールの重量比が65:35〜10:90である水・エタノール溶媒、
を含むハリ・コシ効果があり、かつ使用後のべたつきのない育毛剤組成物。
)前記アニオン性水溶性高分子が、カルボキシビニルポリマーである前記(1)に記載の育毛剤組成物。
)前記(1)又は(2)に記載の育毛剤組成物を使用してなる育毛剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、頭皮に外用することにより優れた毛髪成長促進効果を示し、毛髪のハリ・コシ感の向上、および毛髪のべたつきのない等の髪質改善効果に優れ、しかも、その改善効果が持続する育毛剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の育毛剤組成物は、(a)6−ベンジルアミノプリンを0.2〜1重量%、(b)水溶性高分子を0.1〜2重量%、および、(c)凝固点が−5℃以下の油及び水に不溶な粉体のいずれかから選ばれた1種以上を1〜10重量%、を含むことを特徴とする育毛剤組成物に係るものである。次に、各成分につき説明する。
【0014】
(a)6−ベンジルアミノプリン:
6−ベンジルアミノプリン(分子量225.26)は、結晶性の白色粉末であり、別名6−ベンジルアデニン、あるいはサイトプリン(以下「CTP」と称すことがある。)とも呼ばれ、育毛用の有効成分として公知である。
本発明においては、育毛効果を発揮できる6−ベンジルアミノプリンの十分な量として、育毛剤組成物(全体100重量%)に対し、0.2〜1重量%、薬効薬理面(薬剤利用率)と皮膚適用上の負担の点で好ましくは0.3〜0.7重量%、最適には0.5重量%を使用する。即ち、6−ベンジルアミノプリンの含有量がこれらの範囲になるように水・エタノール混合溶媒で適宜組成物溶液を調製する。
【0015】
本発明で規定する6−ベンジルアミノプリンの使用量0.2重量%に対しては、水・エタノール混合溶媒の重量比65:35〜10:90で自由に溶解調製することができ、1重量%に対しては、40:60〜10:90の範囲内で自由に溶解調製することができる。エタノール臭と刺激の点から考えると50:50〜40:60の範囲内で溶解調製することが好ましい。
【0016】
(b)水溶性高分子:
次に、本発明で使用する水溶性高分子とは、毛髪にハリ・コシを付与する為に使用されるものであり、化粧品や育毛製品に一般的に使用される水溶性高分子が使用できる。
水溶性高分子としては、アニオン性水溶性高分子、カチオン性水溶性高分子、非イオン性水溶性高分子があげられる。具体的には、カルボキシビニルポリマーおよびその誘導体やポリビニルピロリドンおよびその誘導体等のビニル系水溶性高分子、ヒアルロン酸等のムコ多糖類、ヒドロキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース等の非イオン性水溶性高分子、カチオン化グァーガムのような第4級のカチオン性水溶性高分子が例示される。
これらのなかでも、アニオン性水溶性高分子、特に、カルボキシビニルポリマーおよびその誘導体が配合し易さの面から好適に使用される。
本発明において、水溶性高分子は、ハリ・コシの付与とべたつき抑制のバランス面から育毛剤組成物(全体100重量%)に対し、0.1〜3重量%、好ましくは0.3〜2.5重量%、最適には0.5〜2重量%を使用する。
【0017】
(c)凝固点が−5℃以下の油及び水に不溶な粉体:
次に、本発明で使用する凝固点が−5℃以下の油及び水に不溶な粉体は、ハリ・コシの付与の為の水溶性高分子を含有する本育毛剤組成物において、べたつきを抑制する効果を有する成分である。より具体的には、アルコールの刺激感を抑制するために、育毛成分である6−ベンジルアミノプリンを溶解するためのエタノールの使用量をできるだけ減らし、かつ、使用後のべたつきを抑えるために使用する成分である。
以下、当該油および紛体につき説明する。
【0018】
(c1)凝固点が−5℃以下の油;
本発明の凝固点が−5℃以下の油とは、具体的には、流動パラフィンやスクワランのような炭化水素類、ミスチリン酸オクチルドデシルやイソノナン酸イソトリデシルのような脂肪酸とアルコールのエステル類、ジメチルシリコンやメチルフェニルシリコンのようなシリコンオイル類が挙げられる。これらは、1種または1種以上を混合して適宜使用することできる。
ここで凝固点が−5℃以下としているのは、寒冷地では油が固化し使用上の不具合が発生するためである。
【0019】
(c2)水に不溶な粉体;
本発明の水に不溶な粉体としては、一般に化粧品として用いられる紛体であれば良く、例えば、ポリオルガノシルセスキオキサン硬化物粉末(シリコンパウダー)のようなシリコン架橋物、酸化チタンや酸化亜鉛のような金属酸化物、シリカ、タルク、マイカのような無機粉末が挙げられる。特に、アニオン性水溶性高分子を使用する場合には、シリコン架橋物、シリカ、タルク、マイカから選ばれた1種以上である粉末が好適に使用される。
【0020】
上記、(c1)凝固点が−5℃以下の油と(c2)水に不溶な粉体とは、これらを併用することも可能である。なお、凝固点が−5℃以下の油又は/及び水に不溶な粉体の使用量は、育毛剤組成物(全体100重量%)に対し、1〜10重量%、好ましくは3〜7重量%である。これらの使用量が1重量%未満では、べたつき効果の抑制効果が乏しく、また10重量%を超えると、油の場合、毛髪が油っぽくなり、また、粉体の場合、毛髪が白くなるという不具合があるためである。
【0021】
上記(a)から(c)以外の成分として、6-ベンジルアミノプリンの溶解補助剤を使用することが好ましい。溶解補助剤としては、ペンチレングリコール、1,3ブチレングリコールやプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが挙げられる。これらは本育毛剤組成物における6-ベンジルアミノプリンの溶解性を向上させる機能を持たせるものである。これらの成分の使用割合は、育毛剤組成物(全体100重量%)に対し、それぞれ1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%である。
【0022】
また、水溶性高分子としてアニオン性水溶性高分子を使用する場合には、中和剤を使用することが好ましい。中和剤としては、たとえばトリエタノールアミンがあげられる。中和剤の量は、使用するアニオン性水溶性高分子の量に応じ適宜決定される。なお、中和することによりアニオン性水溶性高分子が増粘し、育毛剤を使用する際、流れ落ちず使用し易くなる効果がある。
【0023】
本発明の育毛剤組成物には、上記成分の他に、その使用目的等に応じ、上記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、任意成分を含有することができる。このような成分としては、例えば、非イオン性界面活性剤、糖質系界面活性剤およびその他の界面活性剤、高分子樹脂、色剤、香料、アミノ酸類、抗炎症剤、pH調整剤などの少なくとも1種を挙げることができる。
【0024】
本発明の育毛剤組成物は、医薬品、医薬部外品および化粧品のカテゴリーとして許容しうる形態を含むものである。具体的には、育毛剤として、例えば、水・エタノール系の溶液製剤、液状かどうかを問わずに本発明の育毛剤組成物を利用したゲル、エッセンス等の可溶化製剤およびエアゾール等の噴射剤混合製剤糖として提供できる。
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、ハリ・コシ感の有無、の有無は次のようにして評価した。
1)ハリ・コシ感:
実施例、比較例で調整した育毛剤組成物を5名のボランティアに使用してもらい、ボランティア自身によって下記評価基準で評価した。
有:髪全体にボリュームが出て、ハリ・コシが感じられた。
無:変化が感じられない。または、ボリュームがなくなった。
2)べたつき:
実施例、比較例で調整した育毛剤組成物を5名のボランティアに使用してもらい、ボランティア自身によって下記評価基準で評価した。
有:毛髪にべたつきが感じられた。
無:毛髪にべたつきが感じられなかった。

【0026】
使用した成分は次のものである。
1)6−ベンジルアミノプリン:CTP 三省製薬株式会社製
2)カルボキシビニルポリマー:カーボポール980 日本ルーブリゾール株式会社製
3)流動パラフィン:パールリームEX 日油株式会社製
4)ジメチコン油:KF-966A 10cs 信越化学株式会社製
5)シリコン架橋物:KMP−590 信越化学株式会社製
なお、その他の成分は、化粧品原料として市販されているものを使用した。
【0027】
<実施例1>
下記表1に示す、Aに属する成分を均一に撹拌して6−ベンジルアミノプリンを溶解した。当該溶解液にBに属する成分を徐々に加え、均一に撹拌した後、中和剤としてトリエタノールアミンを適量加えた。中和後、Cに属する成分を添加して育毛組成物を得た。この育毛組成物につき、ハリ・コシの効果、およびべたつきの有無を評価した。結果を併せて表1に示した。
【0028】
<実施例2〜6>
実施例1において表1に示すAからCに属する成分、およびそれらの添加量を用いて、実施例1と同様に育毛組成物を得た。これらの育毛組成物につき、ハリ・コシの効果、およびべたつきの有無を評価した。結果を併せて表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
<比較例1〜4>
実施例1において表2に示すAからCに属する成分、およびそれらの添加量を用いて、実施例1と同様に育毛組成物を得た。これらの育毛組成物につき、ハリ・コシの効果、およびべたつきの有無を評価した。結果を併せて表2に示した。
【0031】
【表2】

注1:べたつきは無いが、油テカリがある。
注2:べたつきは無いが、髪が白くなる。
【0032】
表1、2から明らかなように、実施例1〜6においては、ハリ・コシ効果を有し、使用後のべたつきの無い育毛組成物が得られた。一方、比較例1、2に示すようにアニオン性の水溶性高分子、および凝固点が−5℃以下の油又は水に不溶な粉体を含有しない場合や比較例3、4に示すようにこれらを含有しても本願発明の組成を外れる場合は、ハリ・コシ効果を有し、かつ使用後のべたつきの無い育毛組成物は得られなかった。
【0033】
次に、上記育毛組成物を使用した育毛剤の処方例を示す。
下記Aに属する成分を均一に撹拌して6−ベンジルアミノプリンを溶解した。当該液にBに属する成分を徐々に加え、均一に撹拌した後、中和剤としてトリエタノールアミンを適量加えた。次いでC、Dを順次添加して育毛剤を製造した。なお、クエン酸はPH調整剤である。
【0034】
<処方例1> 育毛剤1
【0035】
【表3】

【0036】
<処方例2> 育毛剤2
【0037】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、6−ベンジルアミノプリンを有効成分とし、ハリ・コシ感があり、かつ、使用後のべたつきが無い新規な育毛剤組成物が提供される。