【文献】
ACS Applied Materials and Interfaces,2015年,7(41),pp.22821-22830
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記式(6)で表され、第1の核酸構造体を介して第1の粒子と第2の粒子とが結合した第1の複合体と、前記式(7)で表され、第2の核酸構造体を介して前記第1の粒子と前記第2の粒子とが結合した第2の複合体と、前記式(8)で表される第3の核酸構造体と、λ−γ−β−γ[但し、λ、β、γは、前記式(8)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを備え、前記対象核酸がγ−δ[但し、γは前記式(3)における定義に同じであり、δは前記式(3)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片である、請求項14に記載のキット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法は、手間、時間、コストのかかる前処理(対象核酸の精製等)及び高価な装置(リアルタイムPCR装置等)が必要不可欠であり、対象核酸のその場検出には利用しにくい場合がある。また、非特許文献2に記載の方法は、検出感度が低く、対象核酸の検出限界濃度は10nM程度である。また、非特許文献3に記載の方法は、非特許文献2に記載の方法よりも検出感度が向上し、対象核酸の検出限界濃度は0.26nM程度であるが、検出に要する時間が極めて長く、約12時間を要する。そこで、本発明は、対象核酸を簡便に検出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]第1の核酸構造体を介して第1の粒子と第2の粒子とが結合した複合体であって、前記第1の核酸構造体の足場依存型鎖交換反応によって、前記第1の粒子と前記第2の粒子との結合が解離する、複合体。
[2]前記第1の粒子が光学的に識別可能である、[1]に記載の複合体。
[3]前記第1の粒子に水溶性高分子化合物が結合している、[1]又は[2]に記載の複合体。
[4]遠心分離又は磁石を近接させることにより前記第2の粒子が凝集する、[1]〜[3]のいずれかに記載の複合体。
[5]下記式(1)で表される、[1]〜[4]のいずれかに記載の複合体。
【化1】
[式(1)中、X
1又はX
2は一方が前記第1の粒子を表し、他方が前記第2の粒子を表し、γ及びδ’はそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、γ’は前記γと相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]
[6]下記式(2)で表される、[1]〜[4]のいずれかに記載の複合体。
【化2】
[式(2)中、X
1、X
2、γ、γ’及びδ’は前記式(1)における定義に同じであり、α及びβはそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、α’及びβ’はそれぞれ前記α又は前記βと相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]
[7]下記式(3)又は下記式(4)で表される、[1]〜[4]のいずれかに記載の複合体。
【化3】
[式(3)中、X
1、X
2、α、α’、β、β’、γ、γ’及びδ’は前記式(2)における定義に同じであり、εはそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、ε’は前記εと相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]
【化4】
[式(4)中、X
1、X
2、α、α’、β、β’、γ、γ’、δ’、ε及びε’は前記式(3)における定義に同じである。]
[8]第1の核酸構造体を介して第1の粒子と第2の粒子とが結合した複合体であって、前記第1の核酸構造体の足場依存型鎖交換反応によって、対象核酸が生成される、複合体。
[9]前記第1の粒子が光学的に識別可能である、[8]に記載の複合体。
[10]前記第1の粒子に水溶性高分子化合物が結合している、[8]又は[9]に記載の複合体。
[11]遠心分離又は磁石を近接させることにより前記第2の粒子が凝集する、[8]〜[10]のいずれかに記載の複合体。
[12]下記式(5)で表される、[8]〜[11]のいずれかに記載の複合体。
【化5】
[式(5)中、X
1、X
2、α、α’、β’、γ、γ’及びδ’は前記式(3)における定義に同じであり、δは前記δ’又と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]
[13]下記工程(a)〜(c)を備える、試料中の対象核酸の検出方法。
工程(a):前記試料と、[1]〜[7]のいずれかに記載の複合体とを含む混合液をインキュベートする工程であって、前記混合液中で、前記試料中の対象核酸が前記第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第1の粒子と前記第2の粒子との結合が解離する工程。
工程(b):工程(a)の後に、解離した前記第2の粒子及び未反応の前記複合体を凝集させる工程であって、その結果、解離した前記第1の粒子が前記混合液中に分散する工程。
工程(c):工程(b)の後に、前記混合液中の前記第1の粒子の存在量を測定する工程であって、測定された前記存在量が前記対象核酸の存在量に対応する工程。
[14]工程(a)における前記複合体が[5]〜[7]のいずれかに記載の複合体であり、前記対象核酸がγ−δ[但し、γは前記式(3)における定義に同じであり、δは前記式(3)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片である、[13]に記載の検出方法。
[15]前記工程(a)が、前記試料と、[6]又は[7]に記載の複合体と、α−β−γ[但し、α、β、γは、前記式(3)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを含む混合液をインキュベートする工程であって、
前記混合液中で、前記試料中の対象核酸が前記第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第1の核酸構造体からβ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸が解離する工程(a1)と、
α−β−γの塩基配列を有する前記一本鎖核酸断片が前記第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第1の核酸構造体からαの塩基配列を有する一本鎖核酸及び対象核酸が解離することにより、前記第1の粒子と前記第2の粒子の結合が解離し、更に対象核酸が再生される工程(a2)とを含む、[14]に記載の検出方法。
[16]下記工程(aa)、(bb)及び(cc)を備える、試料中の対象核酸の検出方法。
工程(aa):前記試料と、[12]に記載の複合体とを含む混合液をインキュベートする工程であって、前記混合液中で、足場依存型鎖交換反応により前記第1の粒子と前記第2の粒子との結合が解離するとともに対象核酸が増幅される工程。
工程(bb):工程(aa)の後に、解離した前記第2の粒子及び未反応の前記複合体を凝集させる工程であって、その結果、解離した前記第1の粒子が前記混合液中に分散する工程。
工程(cc):工程(bb)の後に、前記混合液中の前記第1の粒子の存在量を測定する工程であって、測定された前記存在量が前記対象核酸の存在量に対応する工程。
[17]前記工程(aa)が、前記試料と、下記式(6)で表され、第1の核酸構造体を介して第1の粒子と第2の粒子とが結合した第1の複合体と、下記式(7)で表され、第2の核酸構造体を介して前記第1の粒子と前記第2の粒子とが結合した第2の複合体と、下記式(8)で表される第3の核酸構造体と、λ−γ−β−γ[但し、λ、β、γは、下記式(8)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを含む混合液をインキュベートする工程であって、
前記対象核酸がγ−δ[但し、γは前記式(3)における定義に同じであり、δは前記式(3)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片であり、
前記混合液中で、前記試料中の対象核酸が前記第3の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第3の核酸構造体からα−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸が解離する工程(aa1)と、
α−β−γの塩基配列を有する前記一本鎖核酸断片が前記第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第1の核酸構造体からαの塩基配列を有する一本鎖核酸及びγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が解離することにより、前記第1の粒子と前記第2の粒子の結合が解離し、更に対象核酸が生成される工程(aa2)と、
λ−γ−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が前記第3の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第3の核酸構造体からθ−λ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸及び対象核酸が解離することにより、対象核酸が再生される工程(aa3)と、
θ−λ−γの塩基配列を有する前記一本鎖核酸断片が前記第2の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第2の核酸構造体からθの塩基配列を有する一本鎖核酸及びγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が解離することにより、前記第1の粒子と前記第2の粒子の結合が解離し、更に対象核酸が生成される工程(aa4)とを含む、[16]に記載の検出方法。
【化6】
[式(6)中、X
1、X
2、α、α’、β’、γ、γ’及びδ’は前記式(3)における定義に同じであり、δは前記δ’又と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]
【化7】
[式(7)中、X
1、X
2、γ、γ’、δ及びδ’は前記式(6)における定義に同じであり、θ’及びλ’はそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、θは前記θ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]
【化8】
[式(8)中、α、β、β’、γ、γ’、δ’は前記式(3)における定義に同じであり、θ及びλはそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、λ’は前記λと相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]
[18][1]〜[12]のいずれかに記載の複合体を備える、試料中の対象核酸の検出キット。
[19][6]又は[7]に記載の複合体と、α−β−γ[但し、α、β、γは、前記式(3)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを備え、前記対象核酸がγ−δ[但し、γは前記式(3)における定義に同じであり、δは前記式(3)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片である、[18]に記載のキット。
[20]前記式(6)で表され、第1の核酸構造体を介して第1の粒子と第2の粒子とが結合した第1の複合体と、前記式(7)で表され、第2の核酸構造体を介して前記第1の粒子と前記第2の粒子とが結合した第2の複合体と、前記式(8)で表される第3の核酸構造体と、λ−γ−β−γ[但し、λ、β、γは、前記式(8)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを備え、前記対象核酸がγ−δ[但し、γは前記式(3)における定義に同じであり、δは前記式(3)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片である、[18]に記載のキット。
[21]増感剤を更に備える、[18]〜[20]のいずれかに記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象核酸を簡便に検出する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[複合体]
1実施形態において、本発明は、第1の核酸構造体を介して第1の粒子と第2の粒子とが結合した複合体であって、前記第1の核酸構造体の足場依存型鎖交換反応によって、前記第1の粒子と前記第2の粒子との結合が解離する、複合体を提供する。
【0012】
図1は、本実施形態の複合体の一例を示す模式図である。
図1に示すように、複合体100は、第1の粒子110と、第2の粒子120と、第1の核酸構造体130とを備える。第1の核酸構造体130の一部は第1の粒子110と結合している。また、第1の核酸構造体130の他の一部は第2の粒子120と結合している。すなわち、第1の粒子110と第2の粒子120とは、第1の核酸構造体130を介して結合している。後述するように、第1の核酸構造体が、足場依存型鎖交換反応を行うことにより、第1の粒子110と第2の粒子120との結合が解離する。
【0013】
(鎖交換反応)
ここで、
図2を参照しながら、鎖交換反応について説明する。
図2は、DNAの鎖交換反応の一例を示す模式図である。
図2では、一本鎖DNA断片210と、これに相補的な塩基配列を有する一本鎖DNA断片220とがハイブリダイズして、二本鎖DNA断片230を形成している。二本鎖DNA断片230に、一本鎖DNA断片220と同じ塩基配列を有する別の一本鎖DNA断片220’を混合してインキュベートすると、やがて、一本鎖DNA断片220と一本鎖DNA断片220’とが置換される。この、一本鎖DNA断片220と一本鎖DNA断片220’との置換反応を鎖交換反応という。
【0014】
鎖交換反応の結果、一本鎖DNA断片220と一本鎖DNA断片220’とが置換され、一本鎖DNA断片210と一本鎖DNA断片220’とがハイブリダイズした二本鎖DNA断片230’と、遊離した一本鎖DNA断片220とが生成される。しかしながら、
図2に示す鎖交換反応は反応に長時間を必要とすることが知られている。
【0015】
(足場依存型鎖交換反応)
続いて、
図3を参照しながら、足場依存型鎖交換反応について説明する。
図3は、DNAの足場依存型鎖交換反応の一例を示す模式図である。
図3では、一本鎖DNA断片310と、これに相補的な塩基配列を有する一本鎖DNA断片320とがハイブリダイズして、二本鎖DNA断片330を形成している。
【0016】
ここで、一本鎖DNA断片310のうち、一本鎖DNA断片320とハイブリダイズしていない領域311を足場(toe−hold)という。二本鎖DNA断片330に、一本鎖DNA断片310に相補的な塩基配列を有する別の一本鎖DNA断片340を混合してインキュベートすると、やがて、一本鎖DNA断片310の足場領域311に一本鎖DNA断片340の一部がハイブリダイズする。続いて、足場領域311におけるハイブリダイゼーションを起点として、一本鎖DNA断片340と一本鎖DNA断片320とが置換される。この、足場領域311を介した、一本鎖DNA断片340と一本鎖DNA断片320との置換反応を足場依存型鎖交換反応という。
【0017】
足場依存型鎖交換反応の結果、一本鎖DNA断片320と一本鎖DNA断片340とが置換され、一本鎖DNA断片310と一本鎖DNA断片340とがハイブリダイズした二本鎖DNA断片330’と、遊離した一本鎖DNA断片320とが生成される。
【0018】
二本鎖DNA断片330’において、一本鎖DNA断片310のうち、一本鎖DNA断片340とハイブリダイズしていない領域312は、再び足場として機能する。その結果、今度は一本鎖DNA断片320と一本鎖DNA断片340とが置換される逆反応が進む。
【0019】
足場依存型鎖交換反応は、上述した足場を介しない鎖交換反応と比較して、速度定数k(M
−1s
−1)が10
5〜10
7倍増加することが知られている。また、足場の長さは4〜6塩基で十分であることが知られている。
【0020】
後述するように、本実施形態の複合体では、第1の粒子と第2の粒子とを結合する、第1の核酸構造体上で行われる足場依存型鎖交換反応によって、前記第1の粒子と前記第2の粒子との結合が解離する。そして、解離した第1の粒子を検出することにより、対象核酸を検出することができる。
【0021】
実施例において後述するように、本実施形態の複合体を利用することにより、対象核酸を簡便に検出する技術を提供することができる。また、実施例において後述するように、本実施形態の複合体を利用した対象核酸の検出では、対象核酸を精製することなく、細胞抽出液等の生体試料中の対象核酸を直接検出することもできる。したがって、例えば、血中からmiRNAを高感度にその場で検出すること等が可能となる。
【0022】
本実施形態の複合体において、第1の粒子110は光学的に識別可能であってもよい。ここで、光学的に識別可能とは、例えば、可視光の吸収、蛍光、酵素反応により発色、蛍光又は化学発光を生じること等により、第1の粒子110の存在を検出可能であることを意味する。
【0023】
例えば、第1の粒子110はナノオーダーの直径を有する金粒子(金ナノ粒子)であってもよい。金ナノ粒子は、そのサイズ、形状、表面の修飾、凝集状態等に依存して吸光特性が変化することが知られている。あるいは、第1の粒子110は、量子ドットであってもよく、色素、蛍光物質、酵素(アルカリフォスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等)等で修飾した樹脂粒子等であってもよい。
【0024】
また、第1の粒子110には、水溶性高分子化合物が結合していてもよい。水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリルアミド、デキストラン等が挙げられる。水溶性高分子化合物は、非イオン性であってもよく、イオン性であってもよい。水溶性高分子化合物が非イオン性であると、第1の粒子110の表面の電荷を減らす効果が高い傾向にあり、好ましい。
【0025】
第1の粒子110の表面に水溶性高分子化合物を結合させることにより、第1の粒子110の表面への生体物質の非特異的吸着を抑制することができる。また、水溶性高分子化合物を結合させることにより、第1の粒子110の表面の電荷を減らすことができる。この結果、水溶性高分子化合物を有しない第1の粒子110における鎖交換反応よりも、水溶性高分子化合物が結合した第1の粒子110における鎖交換反応の方が、反応速度が向上する傾向にある。
【0026】
水溶性高分子化合物の分子量は、第1の粒子110の表面の第1の核酸構造体を水溶性高分子化合物の分子量が覆ってしまわない(第1の核酸構造体が露出する)程度の分子量であることが好ましい。水溶性高分子化合物の分子量としては、例えば200〜15000程度が挙げられる。
【0027】
本実施形態の複合体において、第2の粒子120は、遠心分離又は磁石を近接させることにより凝集するものであることが好ましい。第2の粒子120が、遠心分離又は磁石を近接させることにより凝集するものであると、上述した足場依存型鎖交換反応で第1の粒子110と第2の粒子120との結合が解離した後、遊離の第1の粒子110とそれ以外の粒子(第2の粒子120、第1の粒子110と第2の粒子120との結合が維持されている未反応の複合体等)を容易に分離することができる。その結果、遊離の第1の粒子110の量を測定することが容易になる。
【0028】
遠心分離の条件としては、遊離の第1の粒子110とそれ以外の粒子を簡便且つ確実に分離することができれば特に制限されず、例えば15,000×g以下で5分間以内の条件等が挙げられる。
【0029】
あるいは、第2の粒子120は、磁気粒子であってもよい。第2の粒子120が磁気粒子であると、磁気スタンド等により磁場を適用することにより、反応チューブの壁面等に第2の粒子120を容易に凝集させることができる。これにより、遊離の第1の粒子110とそれ以外の粒子を簡便且つ確実に分離することができる。
【0030】
(複合体:第1実施形態)
1実施形態において、上述した複合体は下記式(1)で表されるものであってもよい。
【0032】
式(1)中、X
1又はX
2は一方が前記第1の粒子を表し、他方が前記第2の粒子を表し、γ及びδ’はそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、γ’は前記γと相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。
【0033】
式(1)において、粒子X
1は一本鎖核酸断片γと結合している。また、一本鎖核酸断片γ’及びδ’は連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、粒子X
2は一本鎖核酸断片δ’と結合している。また、一本鎖核酸断片γとγ’とはハイブリダイズしている。その結果、一本鎖核酸断片γ、γ’及びδ’は第1の核酸構造体を形成しており、第1の核酸構造体を介して粒子X
1と粒子X
2とが結合し、複合体を形成している。
【0034】
ここで、粒子X
1又はX
2と核酸断片とは直接結合していてもよいし、スペーサーを介して結合していてもよい。スペーサーとしては任意の2価の基が挙げられ、例えば炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数2〜20のポリオキシエチレン基、オリゴヌクレオチド鎖、ペプチド鎖等が挙げられる。
【0035】
式(1)で表される複合体にγ−δ[但し、γは上記式(1)における定義に同じであり、δは上記式(1)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を接触させると、式(1)におけるδ’の領域を足場として足場依存型鎖交換反応が生じる。その結果、式(1)におけるX
1−γが解離する。その結果、粒子X
1と粒子X
2との結合が解離する。粒子X
1と粒子X
2との結合が解離した状態を下記式(1−1)に示す。
【化10】
【0036】
式(1−1)において、一本鎖核酸断片γ及びγ’、δ及びδ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、X
1−γは遊離している。
【0037】
(複合体:第2実施形態)
1実施形態において、上述した複合体は下記式(2)で表されるものであってもよい。
【0039】
式(2)中、X
1、X
2、γ、γ’及びδ’は上記式(1)における定義に同じであり、α及びβはそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、α’及びβ’はそれぞれ前記α又は前記βと相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。
【0040】
式(2)で表される複合体において、粒子X
1は一本鎖核酸断片αと結合している。また、一本鎖核酸断片β及びγは連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、一本鎖核酸断片α’、β’、γ’及びδ’は連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、粒子X
2は一本鎖核酸断片δ’と結合している。また、一本鎖核酸断片α及びα’、β及びβ’、γ及びγ’は、それぞれハイブリダイズしているが、αとβとは結合していない。その結果、一本鎖核酸断片α、α’、β、β’、γ、γ’及びδ’は第1の核酸構造体を形成しており、第1の核酸構造体を介して粒子X
1と粒子X
2とが結合し、複合体を形成している。
【0041】
式(1)で表される複合体と同様に、式(2)で表される複合体において、粒子X
1又はX
2と核酸断片とは直接結合していてもよいし、スペーサーを介して結合していてもよい。スペーサーとしては上述したものと同様のものが挙げられる。
【0042】
ここで、式(2)で表される複合体にγ−δ[但し、γは上記式(1)における定義に同じであり、δは上記式(1)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を接触させた場合の反応について説明する。γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片は、例えば、対象核酸(検出対象である一本鎖核酸断片)である。
【0043】
式(2)で表される複合体にγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片を接触させると、式(2)におけるδ’の領域を足場として足場依存型鎖交換反応が生じる。その結果、式(2)におけるβ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が解離する。β−γが解離した状態を下記式(2−1)に示す。
【化12】
【0044】
式(2−1)において、一本鎖核酸断片α及びα’、γ及びγ’、δ及びδ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、β−γは遊離している。
【0045】
続いて、式(2−1)で表される複合体にα−β−γ[但し、α、β、γは、上記式(2)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を接触させると、式(2−1)におけるβ’の領域を足場として足場依存型鎖交換反応が生じる。その結果、式(2−1)におけるγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片、及びX
1−αが解離する。その結果、粒子X
1と粒子X
2との結合が解離するとともに、γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が再生される。ここで、再生されるとは、一度足場依存型鎖交換反応に関与した、γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が、再び新たな足場依存型鎖交換反応に関与できる状態になることを意味する。
【0046】
γ−δが再生され、粒子X
1と粒子X
2との結合が解離した状態を下記式(2−2)に示す。
【0048】
式(2−2)において、一本鎖核酸断片α及びα’、β及びβ’、γ及びγ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、β−γ、X
1−α、及びγ−δはそれぞれ遊離している。このように、第2実施形態の複合体は、γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片を再生することができる。
【0049】
1実施形態において、上述した複合体は下記式(3)又は下記式(4)で表されるものであってもよい。
【0051】
式(3)中、X
1、X
2、α、α’、β、β’、γ、γ’及びδ’は上記式(2)における定義に同じであり、εはそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、ε’は前記εと相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。式(3)で表される複合体は、後述する実施例で使用した複合体に相当するものである。
【0053】
式(4)中、X
1、X
2、α、α’、β、β’、γ、γ’、δ’、ε及びε’は上記式(3)における定義に同じである。
【0054】
式(3)で表される複合体は、上述した式(2)で表される複合体と類似した構成を有しており、一本鎖核酸断片ε及びε’が存在する点において、式(2)で表される複合体と相違している。
【0055】
式(3)で表される複合体において、粒子X
1は一本鎖核酸断片αと結合している。また、一本鎖核酸断片β及びγは連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、一本鎖核酸断片α’、β’、γ’、δ’及びε’は連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、粒子X
2は一本鎖核酸断片εと結合している。また、一本鎖核酸断片α及びα’、β及びβ’、γ及びγ’、ε及びε’は、それぞれハイブリダイズしているが、αとβとは結合していない。また、γとεとは結合していない。その結果、一本鎖核酸断片α、α’、β、β’、γ、γ’、δ’、ε及びε’は第1の核酸構造体を形成しており、第1の核酸構造体を介して粒子X
1と粒子X
2とが結合し、複合体を形成している。
【0056】
式(1)で表される複合体と同様に、式(3)で表される複合体において、粒子X
1又はX
2と核酸断片とは直接結合していてもよいし、スペーサーを介して結合していてもよい。スペーサーとしては上述したものと同様のものが挙げられる。
【0057】
式(4)で表される複合体は、式(3)で表される複合体と類似した構成を有しており、粒子X
2が結合している一本鎖核酸断片がεではなくε’である点において相違している。式(4)で表される複合体も、式(3)で表される複合体と同様に機能することができる。
【0058】
ここで、式(3)で表される複合体にγ−δ[但し、γは上記式(1)における定義に同じであり、δは上記式(1)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を接触させた場合の反応について説明する。γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片は、例えば、対象核酸(検出対象である一本鎖核酸断片)である。
【0059】
式(3)で表される複合体にγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片を接触させると、式(3)におけるδ’の領域を足場として足場依存型鎖交換反応が生じる。その結果、式(3)におけるβ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が解離する。β−γが解離した状態を下記式(3−1)に示す。
【0061】
式(3−1)において、一本鎖核酸断片α及びα’、γ及びγ’、δ及びδ’、ε及びε’は、それぞれハイブリダイズしている。また、β−γは遊離している。
【0062】
続いて、式(3−1)で表される複合体にα−β−γ[但し、α、β、γは、上記式(2)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を反応させると、式(3−1)におけるβ’の領域を足場として足場依存型鎖交換反応が生じる。その結果、式(3−1)におけるγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片、及びX
1−αが解離する。その結果、粒子X
1と粒子X
2との結合が解離するとともに、γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が再生される。ここで、再生されるとは、一度足場依存型鎖交換反応に関与した、γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が、再び新たな足場依存型鎖交換反応に関与できる状態になることを意味する。
【0063】
γ−δが再生され、粒子X
1と粒子X
2との結合が解離した状態を下記式(3−2)に示す。
【0065】
式(3−2)において、一本鎖核酸断片α及びα’、β及びβ’、γ及びγ’、ε及びε’は、それぞれハイブリダイズしている。また、β−γ、X
1−α、及びγ−δはそれぞれ遊離している。このように、第2実施形態の複合体は、γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片を再生することができる。
【0066】
式(4)で表される複合体に、上述したγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片、及びα−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片を接触させた場合においても、粒子X
2がεでなくε’と結合している点以外は、式(3)で表される複合体と同様の反応が生じる。
【0067】
(複合体:第3実施形態)
1実施形態において、本発明は、第1の核酸構造体を介して第1の粒子と第2の粒子とが結合した複合体であって、前記第1の核酸構造体の足場依存型鎖交換反応によって、対象核酸が生成される、複合体を提供する。
【0068】
本明細書において、対象核酸とは、検出対象である核酸を意味する。本実施形態の複合体によれば、第1の核酸構造体の足場依存型鎖交換反応によって、対象核酸が生成され、試料中の対象核酸を増幅することができる。このため、本実施形態の複合体を使用することにより、対象核酸の検出感度を飛躍的に向上することができる。
【0069】
本実施形態の複合体は、第1の核酸構造体の足場依存型鎖交換反応によって、対象核酸が生成されるとともに、第1の粒子と第2の粒子との結合が解離するものであってもよい。
【0070】
また、本実施形態の複合体においても、上述した第1実施形態の複合体と同様に、第1の粒子が光学的に識別可能であってもよい。光学的に識別可能な第1の粒子としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0071】
また、本実施形態の複合体においても、上述した第1実施形態の複合体と同様に、第1の粒子に水溶性高分子化合物が結合していてもよい。これにより、第1の粒子の表面への生体物質の非特異的吸着を抑制することができる。また、水溶性高分子化合物を結合させることにより、第1の粒子の表面の電荷を減らすことができ、反応速度を向上させることができる傾向にある。水溶性高分子化合物の種類及び分子量は上述したものと同様のものが挙げられる。
【0072】
また、本実施形態の複合体においても、上述した第1実施形態の複合体と同様に、遠心分離又は磁石を近接させることにより第2の粒子が凝集するものであることが好ましい。第2の粒子としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0073】
本実施形態の複合体は、例えば、下記式(5)で表されるものであってもよい。
【0075】
式(5)中、X
1、X
2、α、α’、β’、γ、γ’及びδ’は上記式(3)における定義に同じであり、δは前記δ’又と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。
【0076】
式(1)で表される複合体と同様に、式(5)で表される複合体において、粒子X
1又はX
2と核酸断片とは直接結合していてもよいし、スペーサーを介して結合していてもよい。スペーサーとしては上述したものと同様のものが挙げられる。
【0077】
ここで、式(5)で表される複合体にα−β−γ[但し、α、β、γは、上記式(2)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を接触させた場合の反応について説明する。
【0078】
式(5)で表される複合体にα−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片を接触させると、式(5)におけるβ’の領域を足場として足場依存型鎖交換反応が生じる。その結果、式(5)におけるγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片、及びX
1−αが解離する。その結果、粒子X
1と粒子X
2との結合が解離するとともに、γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が生成される。ここで、γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片は、対象核酸である(対象核酸と同一の塩基配列を有している。)。
【0079】
γ−δが生成され、粒子X
1と粒子X
2との結合が解離した状態を下記式(5−1)に示す。
【0081】
式(5−1)において、一本鎖核酸断片α及びα’、β及びβ’、γ及びγ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、X
1−α及びγ−δはそれぞれ遊離している。このように、第3実施形態の複合体は、γ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片を新たに生成することができる。
【0082】
[試料中の対象核酸の検出方法]
1実施形態において、本発明は、下記工程(a)〜(c)を備える、試料中の対象核酸の検出方法を提供する。
工程(a):前記試料と、上述した第1実施形態又は第2実施形態の複合体とを含む混合液をインキュベートする工程であって、前記混合液中で、前記試料中の対象核酸が前記第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第1の粒子と前記第2の粒子との結合が解離する工程。
工程(b):工程(a)の後に、解離した前記第2の粒子及び未反応の前記複合体を凝集させる工程であって、その結果、解離した前記第1の粒子が前記混合液中に分散する工程。
工程(c):工程(b)の後に、前記混合液中の前記第1の粒子の存在量を測定する工程であって、測定された前記存在量が前記対象核酸の存在量に対応する工程。
【0083】
本実施形態の検出方法により試料中の対象核酸を簡便に検出することができる。以下各工程について説明する。
【0084】
《工程(a)》
対象核酸としては、一本鎖の核酸が好適である。核酸はDNAであってもよく、RNAであってもよく、核酸アナログであってもよい。より具体的な対象核酸としては、miRNA、アプタマー等が挙げられる。アプタマーとしては、例えば、標的分子に結合することにより核酸断片をリリースする、構造スイッチングアプタマー等が挙げられる。この場合においては、リリースされた核酸断片を対象核酸としてもよい。
【0085】
対象核酸の長さは、例えば10〜100塩基であってもよく、10〜50塩基であってもよく、10〜30塩基であってもよい。
【0086】
また、対象核酸を含有する試料としては特に制限されず、例えば、血液、血清、血漿等の生体試料が挙げられるがこれに限定されない。
【0087】
混合液のインキュベート温度は、検出対象である対象核酸が足場依存型鎖交換反応を行うことができる温度であればよく、例えば10〜50℃の任意の温度であってもよく、例えば室温(約25℃)であってもよい。また、均一に反応を進行させる観点から、インキュベート中に撹拌することが好ましい。
【0088】
本実施形態の検出方法は、従来法よりも短時間で対象核酸を検出することができる。したがって、インキュベート時間は例えば10分間〜10時間であってもよく、10分間〜5時間であってもよく、10分間〜3時間であってもよい。
【0089】
《工程(b)》
続いて、本工程において、解離した第1の粒子をその他の粒子と分離する。その他の粒子とは、解離した第2の粒子、及び、未反応の複合体(第1の粒子と第2の粒子とが結合した複合体)である。
【0090】
例えば、第2の粒子が磁性粒子である場合、磁気スタンド等により磁場を適用することにより、解離した第2の粒子及び未反応の複合体を凝集させることができる。あるいは、例えば、第2の粒子が容易に遠心可能な粒子である場合、遠心分離することにより、解離した第2の粒子及び未反応の複合体を凝集させることができる。その結果、解離した第1の粒子を混合液中に分散することができる。
【0091】
《工程(c)》
続いて、本工程において、混合液中に分散した第1の粒子の存在量を測定する。第1の粒子の存在量は、試料中の対象核酸の存在量に対応する。例えば、第1の粒子が特定の波長の光を吸収するものである場合には、分光光度計等により第1の粒子の存在量を測定することができる。
【0092】
また、第1の粒子が蛍光を発するものである場合には、励起光を照射して、発生する蛍光を蛍光分光光度計等により測定することにより、第1の粒子の存在量を測定することができる。
【0093】
また、第1の粒子が酵素で標識されている場合、第1の粒子に適切な基質を反応させることにより生じる、発色、発光、蛍光等を測定することにより、第1の粒子の存在量を測定することができる。
【0094】
(検出方法:第1実施形態)
上述した第1実施形態の複合体を用いて本実施形態の検出方法を実施する場合について説明する。一例として、上記式(1)で表される複合体を使用して試料中の対象核酸を検出する場合について説明する。ここで、対象核酸はγ−δ[但し、γは上記式(1)における定義に同じであり、δは上記式(1)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片(例えば、miRNA)であるものとする。
【0095】
《工程(a)》
本工程において、試料と、式(1)で表される複合体とを混合して混合液を調製し、インキュベートする。その結果、混合液中で、試料中の対象核酸が、式(1)で表される複合体を構成する第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行う。その結果、第1の粒子と第2の粒子との結合が解離する。この足場依存型鎖交換反応、及び第1の粒子と第2粒子との結合の解離については、第1実施形態の複合体の説明において上述したものと同様である。
【0096】
《工程(b)及び工程(c)》
工程(b)及び工程(c)については、上述したものと同様である。本実施形態の検出方法により、対象核酸を簡便に検出することができる。
【0097】
(検出方法:第2実施形態)
続いて、第2実施形態の検出方法について説明する。本実施形態の検出方法は、上述した第1実施形態の検出方法と、工程(a)が異なっている。本実施形態の検出方法の工程(a)は、下記工程(a1)及び(a2)を備える。
工程(a1):試料と、上述した第2実施形態の複合体と、α−β−γ[但し、α、β、γは、前記式(3)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを含む混合液をインキュベートする工程であって、前記混合液中で、前記試料中の対象核酸が前記第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第1の核酸構造体からβ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸が解離する工程。
工程(a2):α−β−γの塩基配列を有する前記一本鎖核酸断片が前記第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、その結果、前記第1の核酸構造体からαの塩基配列を有する一本鎖核酸及び対象核酸が解離することにより、前記第1の粒子と前記第2の粒子の結合が解離し、更に対象核酸が再生される工程。
【0098】
第2実施形態の検出方法では、試料中の対象核酸は、複合体中の第1の粒子及び第2の粒子を解離させた後、再生される。そして、再生された対象核酸は、更に別の複合体と反応し、第1の粒子と第2の粒子を解離させる。このため、本実施形態の検出方法では、対象核酸の検出速度又は検出感度が向上している。
【0099】
ここで、検出速度が向上しているとは、所定のレベルのシグナルを生成するのに要する時間が短縮することを意味する。また、検出感度が向上しているとは、工程(a)を所定の時間実施した場合に得られるシグナルが高くなることを意味する。
【0100】
ここで、一例として、上記式(2)で表される複合体を使用して試料中の対象核酸を検出する場合についてより詳細に説明する。ここで、対象核酸はγ−δ[但し、γは上記式(1)における定義に同じであり、δは上記式(1)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片(例えば、miRNA)であるものとする。
【0101】
《工程(a1)》
本工程において、試料と、式(2)で表される複合体と、α−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを混合して混合液を調製し、インキュベートする。その結果、混合液中で、試料中の対象核酸が式(2)で表される複合体を構成する第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行う。その結果、第1の核酸構造体からβ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸が解離する。この足場依存型鎖交換反応、及びβ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸の解離については、第2実施形態の複合体の説明において上述したものと同様である。
【0102】
《工程(a2)》
続いて、本工程において、α−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が、β−γが解離した第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行う。その結果、第1の核酸構造体から、αの塩基配列を有する一本鎖核酸が解離し、対象核酸が再生する。そして、第1の粒子と第2の粒子の結合が解離する。この足場依存型鎖交換反応、第1の粒子と第2粒子との結合の解離、及び対象核酸の再生については、第2実施形態の複合体の説明において上述したものと同様である。再生した対象核酸は、更に別の複合体と反応し、第1の粒子と第2の粒子を解離させる。このため、本実施形態の検出方法では、対象核酸の検出速度又は検出感度が向上している。
【0103】
《工程(b)及び工程(c)》
工程(b)及び工程(c)については、上述したものと同様である。
【0104】
(検出方法:第3実施形態)
続いて、第3実施形態の検出方法について説明する。本実施形態の検出方法は、下記工程(aa)、(bb)及び(cc)を備えている。
工程(aa):試料と、上述した第3実施形態の複合体とを含む混合液をインキュベートする工程であって、前記混合液中で、足場依存型鎖交換反応により前記第1の粒子と前記第2の粒子との結合が解離するとともに対象核酸が増幅される工程。
工程(bb):工程(aa)の後に、解離した前記第2の粒子及び未反応の前記複合体を凝集させる工程であって、その結果、解離した前記第1の粒子が前記混合液中に分散する工程。
工程(cc):工程(bb)の後に、前記混合液中の前記第1の粒子の存在量を測定する工程であって、測定された前記存在量が前記対象核酸の存在量に対応する工程。
【0105】
ここで、対象核酸が増幅されるとは、対象核酸が新たに生成され、対象核酸の分子数が増加することを意味する。
【0106】
第3実施形態の検出方法では、試料中の対象核酸は、複合体中の第1の粒子及び第2の粒子を解離させた後再生され、更に新たに生成(増幅)される。そして、再生された対象核酸、及び新たに生成された対象核酸は、更に別の複合体と反応し、第1の粒子と第2の粒子を解離させ、更に対象核酸を増幅させる。このため、本実施形態の検出方法では、対象核酸の検出速度又は検出感度が格段に向上している。
【0107】
第3実施形態の複合体としては、上述した式(5)で表される複合体を利用することができる。第3実施形態の複合体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0108】
ここで、一例として、第3実施形態の複合体を2種類用いる検出方法について、より詳細に説明する。ここで、対象核酸はγ−δ[但し、γは上記式(1)における定義に同じであり、δは上記式(1)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片(例えば、miRNA)であるものとする。
【0109】
本例においては、上述した工程(aa)は、後述する工程(aa1)、工程(aa2)、工程(aa3)及び工程(aa4)を備えている。また、対象核酸はγ−δ[但し、γは上記式(3)における定義に同じであり、δは上記式(3)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片(例えば、miRNA)であるものとする。
【0110】
《工程(aa1)》
本工程において、試料と、下記式(6)で表され、第1の核酸構造体を介して第1の粒子と第2の粒子とが結合した第1の複合体と、下記式(7)で表され、第2の核酸構造体を介して前記第1の粒子と前記第2の粒子とが結合した第2の複合体と、下記式(8)で表される第3の核酸構造体と、λ−γ−β−γ[但し、λ、β、γは、下記式(8)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを混合して混合液を調製し、インキュベートする。
【0112】
式(6)中、X
1、X
2、α、α’、β’、γ、γ’及びδ’は上記式(3)における定義に同じであり、δは前記δ’又と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。
【0113】
式(6)で表される第1の複合体において、粒子X
1は一本鎖核酸断片αと結合している。また、一本鎖核酸断片γ及びδは連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、一本鎖核酸断片α’、β’、γ’及びδ’は連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、粒子X
2は一本鎖核酸断片δ’と結合している。また、一本鎖核酸断片α及びα’、γ及びγ’、δ及びδ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、αとγとは結合していない。その結果、一本鎖核酸断片α、α’、β’、γ、γ’、δ及びδ’は第1の核酸構造体を形成しており、第1の核酸構造体を介して粒子X
1と粒子X
2とが結合し、複合体を形成している。
【0115】
式(7)中、X
1、X
2、γ、γ’、δ及びδ’は上記式(6)における定義に同じであり、θ’及びλ’はそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、θは前記θ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。
【0116】
式(7)で表される第2の複合体において、粒子X
1は式(6)で表される複合体における粒子X
1と同じものであり、一本鎖核酸断片θと結合している。また、一本鎖核酸断片γ及びδは連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、一本鎖核酸断片θ’、λ’、γ’及びδ’は連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、粒子X
2は式(6)で表される複合体における粒子X
2と同じものであり、一本鎖核酸断片δ’と結合している。また、一本鎖核酸断片θ及びθ’、γ及びγ’、δ及びδ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、θとγとは結合していない。その結果、一本鎖核酸断片θ、θ’、λ’、γ、γ’、δ及びδ’は第2の核酸構造体を形成しており、第2の核酸構造体を介して粒子X
1と粒子X
2とが結合し、複合体を形成している。
【0118】
式(8)中、α、β、β’、γ、γ’、δ’は前記式(3)における定義に同じであり、θ及びλはそれぞれ任意の塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表し、λ’は前記λと相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。
【0119】
式(8)で表される第3の核酸構造体において、一本鎖核酸断片θ、λ及びγは連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、一本鎖核酸断片α、β及びγは連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、一本鎖核酸断片λ’、γ’、β’、γ’及びδ’は連結して一本鎖の核酸断片を形成している。また、一本鎖核酸断片λ及びλ’、2組存在するγ及びγ’、β及びβ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、γとβとは結合していない。
【0120】
ここで、上述した式(7)で表される複合体を構成する第2の核酸構造体、及び式(8)で表される第3の核酸構造体において、θ=αであってもよい。すなわち、θ及びαは同じ塩基配列を有する一本鎖核酸断片であってもよい。これにより、式(6)で表される第1の複合体におけるX
1−αと式(7)で表される第2の複合体におけるX
1−θを共通化することができる。
【0121】
第1の複合体と、第2の複合体と、第3の核酸構造体と、λ−γ−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを含む混合液をインキュベートした結果、混合液中で、試料中の対象核酸γ−δが式(8)で表される第3の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行う。その結果、第3の核酸構造体からα−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸が解離する。
【0122】
対象核酸γ−δが第3の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行い、第3の核酸構造体からα−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸が解離した状態を下記式(8−1)に示す。
【0124】
式(8−1)において、一本鎖核酸断片λ及びλ’、2組存在するγ及びγ’、δ及びδ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、α−β−γは遊離している。
【0125】
《工程(aa2)》
続いて、本工程において、工程(aa1)で遊離したα−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が、上述した式(6)で表される複合体を構成する第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行う。その結果、第1の核酸構造体からαの塩基配列を有する一本鎖核酸及びγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が解離する。そして、第1の粒子と第2の粒子の結合が解離し、更に対象核酸γ−δが生成される。
【0126】
α−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が、式(6)で表される複合体を構成する第1の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行った結果、粒子X
1と粒子X
2との結合が解離し、対象核酸γ−δが生成された状態を下記式(6−1)に示す。
【0128】
式(6−1)において、一本鎖核酸断片α及びα’、β及びβ’、γ及びγ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、X
1−α及びγ−δはそれぞれ遊離している。この反応により、第1の粒子と第2の粒子の結合が解離するとともに、試料中のγ−δの分子数が増幅する。
【0129】
《工程(aa3)》
一方、工程(aa1)でインキュベートした混合液中のλ−γ−β−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片は、上記式(8−1)で表される前記第3の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行う。その結果、式(8−1)で表される第3の核酸構造体からθ−λ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸及び対象核酸γ−δが解離する。すなわち、一度足場依存型鎖交換反応を行った、試料中の対象核酸γ−δが再生され、再び反応に関与できる状態になる。
【0130】
式(8−1)で表される第3の核酸構造体からθ−λ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸及び対象核酸γ−δが解離した状態を下記式(8−2)に示す。
【0132】
式(8−2)において、一本鎖核酸断片λ及びλ’、2組存在するγ及びγ’、β及びβ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、θ−λ−γ及びγ−δはそれぞれ遊離している。
【0133】
《工程(aa4)》
本工程において、工程(aa3)で遊離したθ−λ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が、上述した式(7)で表される複合体を構成する第2の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行う。その結果、第2の核酸構造体からθの塩基配列を有する一本鎖核酸及びγ−δの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が解離する。そして、第1の粒子と第2の粒子の結合が解離し、更に対象核酸γ−δが生成される。
【0134】
θ−λ−γの塩基配列を有する一本鎖核酸断片が、式(7)で表される複合体を構成する第2の核酸構造体と足場依存型鎖交換反応を行った結果、粒子X
1と粒子X
2との結合が解離し、対象核酸γ−δが生成された状態を下記式(7−1)に示す。
【0136】
式(7−1)において、一本鎖核酸断片θ及びθ’、λ及びλ’、γ及びγ’は、それぞれハイブリダイズしている。また、X
1−θ及びγ−δはそれぞれ遊離している。この反応により、第1の粒子と第2の粒子の結合が解離するとともに、試料中のγ−δの分子数が増幅する。
【0137】
以上説明した工程(aa1)〜(aa4)は、混合液をインキュベートしている間、繰り返し進行する。そして、工程(aa2)、工程(aa4)で新たに生成された対象核酸γ−δ、及び、工程(aa3)で再生された対象核酸γ−δは、更に、未反応の第3の核酸構造体と反応し、第1の粒子X
1を解離させる。そして、遊離の粒子X
1の量は、工程(bb)及び工程(cc)を経て、試料中の対象核酸の量に対応するシグナルとして検出される。
【0138】
《工程(bb)及び工程(cc)》
工程(bb)は上述した工程(b)と同様である。また、工程(cc)は上述した工程(c)と同様である。
【0139】
《シグナル及び対象核酸の増幅》
本例の反応においては、工程(aa1)〜(aa4)が1回ずつ実行された場合を1サイクルとし、反応がnサイクル実行されると、混合液中の対象核酸の存在量が3
n倍に増幅する。また、遊離の粒子X
1の量は2×3
n−1倍ずつ増幅する。このように、第3実施形態の検出方法によれば、対象核酸の検出速度又は検出感度が格段に向上している。
【0140】
[試料中の対象核酸の検出キット]
1実施形態において、本発明は、上述したいずれかの複合体を備える、試料中の対象核酸の検出キットを提供する。実施例において後述するように、本実施形態のキットによれば、試料中の対象核酸を簡便に検出することができる。
【0141】
(検出キット:第2実施形態)
1実施形態において、検出キットは、対象核酸がγ−δ[但し、γは前記式(3)における定義に同じであり、δは前記式(3)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片であり、上述した第2実施形態の複合体と、α−β−γ[但し、α、β、γは、前記式(3)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを備えるものであってもよい。
【0142】
本実施形態の検出キットは、上述した、第2実施形態の検出方法に使用することができる。本実施形態のキットによれば、対象核酸を再生することができるため、対象核酸の検出速度又は検出感度が向上している。
【0143】
(検出キット:第3実施形態)
1実施形態において、検出キットは、対象核酸がγ−δ[但し、γは前記式(3)における定義に同じであり、δは前記式(3)における前記δ’と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸断片を表す。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片であり、上述した第3実施形態の複合体と、上記式(8)で表される核酸構造体と、λ−γ−β−γ[但し、λ、β、γは、前記式(8)における定義に同じである。]の塩基配列を有する一本鎖核酸断片とを備えるものであってもよい。
【0144】
第3実施形態の検出キットが備える複合体は、1種であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。複合体が2種の組み合わせである場合、例えば、上記式(6)で表される第1の複合体と、上記式(7)で表される第2の複合体との組み合わせであってもよい。複合体を2種以上組み合わせることにより、対象核酸及びシグナルの増幅量を更に増大することができる。
【0145】
本実施形態の検出キットは、上述した、第3実施形態の検出方法に使用することができる。本実施形態のキットによれば、対象核酸を再生させるだけでなく、対象核酸を新たに生成(増幅)させることができるため、対象核酸の検出速度又は検出感度を格段に向上させることができる。
【0146】
(増感剤)
上述した検出キットは、更に増感剤を備えていてもよい。増感剤としては、複合体から解離した第1の粒子に由来するシグナルを増幅するものであれば特に制限されない。例えば、第1の粒子が金ナノ粒子である場合、テトラクロリド金(III)酸と塩酸ヒドロキシルアミンの組み合わせ等が挙げられる。
【実施例】
【0147】
次に実験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0148】
<実験例1>
[複合体の調製]
下記式(3)で表される複合体を調製した。より具体的には、下記式(3)において、X
1が金ナノ粒子であり、X
2が磁気粒子であり、α、α’、β、β’、γ、γ’、δ’、ε及びε’が下記表1に示す塩基配列の一本鎖DNAである複合体を調製した。本実験例で調製した複合体は、miRNAの1種であるmiR34c(配列番号16)を対象核酸として検出できるものである。
【0149】
【化27】
【0150】
【表1】
【0151】
下記表2に、使用したDNA断片及びRNA断片の塩基配列の配列番号を示す。
【0152】
【表2】
【0153】
(DNA/PEG−金ナノ粒子の調製)
表面にDNA及びポリエチレングリコール(PEG)を結合した金ナノ粒子(以下、「DNA(x)/PEG−金ナノ粒子」といい、ここで、xは金ナノ粒子1個あたりのDNA鎖の平均数を表す。)を調製した。
【0154】
クエン酸で安定化した直径15nmの金ナノ粒子の溶液(2.3nM、1.4×10
12個/mL)1000μLに、1.0(v/v)%Tween20水溶液10μL、及び20μMのDNA(上記表2の「s−2」)の水溶液(x=22では30μL、x=33では35μL、x=42では40μL、x=55では50μL)を添加し、室温で1時間インキュベートした。
【0155】
続いて20μMのPEG(重量平均分子量6000)の水溶液を30μL添加した。1分間インキュベートした後、10×リン酸バッファー(PBS)を添加した。続いて、溶液を更に室温で1時間インキュベートした。
【0156】
続いて、溶液を20,000×gで20分遠心し、遊離のDNA及びPEGを除去することを3回繰り返した。上清を除去し、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)250μLをDNA(x)/PEG−金ナノ粒子の赤い油状の沈殿に添加して懸濁した。
【0157】
得られたDNA(x)/PEG−金ナノ粒子の溶液は4℃で保存した。調製の過程で元の量の約30%の金ナノ粒子が失われた。
【0158】
(dsDNA(x)/PEG−金ナノ粒子の調製)
DNA(x)/PEG−金ナノ粒子の0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)溶液250μL(金ナノ粒子の濃度6nM、x=22、33、42、55)に、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の20μMのDNA(上記表2の「s−1」)14μL、及び0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の20μMのDNA(上記表2の「s−3」)12μLを添加し、室温で6時間インキュベートした。
【0159】
続いて、溶液を20,000×gで20分遠心し、遊離のDNAを除去することを3回繰り返した。上清を除去し、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)200μLをdsDNA(x)/PEG−金ナノ粒子の赤い油状の沈殿に添加して懸濁した。
【0160】
続いて、各溶液の紫外光/可視光スペクトルを測定し、適切な量の0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)を添加して、金ナノ粒子の濃度を4nMに調整した。得られたdsDNA(x)/PEG−金ナノ粒子の溶液は4℃で保存した。
【0161】
(複合体の調製)
ストレプトアビジン修飾された磁気粒子(20μL、10mg/mL、6×10
8個/mL)をPBS(pH7.4)20μLで3回洗浄した。続いて、磁気粒子に20μMのDNA(上記表2の「capture−DNA」)7.5μLを添加して25℃で30分間穏やかに撹拌した。
【0162】
磁気スタンドを用いてDNA−磁気粒子を反応チューブの壁面に集め、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)20μLで3回洗浄した。得られたDNA−磁気粒子に、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中のdsDNA(x)/PEG−金ナノ粒子(20μL、金ナノ粒子の濃度=4nM)を添加し、25℃で30分間穏やかに撹拌して、複合体を形成させた。磁気スタンドを用いて形成された複合体を反応チューブの壁面に集め、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)20μLで3回洗浄した。
【0163】
続いて、上清の波長522nmにおける吸光度(A
522)を測定することにより複合体の収率を決定した。なお、金ナノ粒子は波長522nmに吸光のピークを有している。続いて、複合体を0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)30μLに懸濁した。金ナノ粒子の終濃度は2.67nMであった。
【0164】
<実験例2>
[金ナノ粒子1個あたりのDNA鎖の平均数の最適化]
実験例1と同様にして調製した、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)30μL中の各複合体(金ナノ粒子の終濃度=2.67nM、dsDNA(二本鎖DNA)の濃度=58.67〜146.85nM、x=22、33、42、55)を96ウェルプレートのウェルに添加した。
【0165】
続いて、各複合体の溶液に、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)5μL、0.01(v/v)%Tween20−125mM MgCl
2−PBS(pH7.4)5μL、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の1.0μMのDNA(上記表2の「fuel−DNA」)5μL、及び0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の1.0μMの対象核酸(上記表2の「miR34c」)5μLを添加し、50μLの溶液を調製した。
【0166】
溶液中のMg
2+、金ナノ粒子、dsDNA、fuel−DNA及びmiR34cの終濃度は、それぞれ12.5mM、1.6nM、35〜88nM、100nM及び100nMであった。
【0167】
続いて、各溶液を25℃で2時間穏やかに撹拌しながらインキュベートした。この過程において、まず、miRNA34cが複合体のdsDNAと足場依存型鎖交換反応を行う。続いて、fuel−DNAが複合体のdsDNAと足場依存型鎖交換反応を行う。その結果、金ナノ粒子と磁気粒子との結合が解離する。インキュベーションの過程で、A
522を適切な時間間隔で測定した。A
522の測定は、磁場の適用下でマイクロプレート分光光度計により行った。
【0168】
図4は、A
522の測定結果を示すグラフである。その結果、金ナノ粒子1個あたりのDNA鎖の平均数xが22である複合体において、A
522の変化が最も大きく最も速かった。この結果から、x=22が最適であることが明らかとなった。そこで、後の実験においては、dsDNA(x)/PEG−金ナノ粒子(x=22)を使用した。
【0169】
<実験例3>
[fuel−DNA濃度の最適化]
dsDNA(x)/PEG−金ナノ粒子(x=22)を用いて調製した複合体を用いて、fuel−DNAの最適な濃度を検討した。具体的には、miR34cの終濃度を0又は100nMとし、fuel−DNAの終濃度を50、100、120、150又は200nMとした点以外は、実験例2と同様の反応を行い、A
522を適切な時間間隔で測定した。
【0170】
図5は、A
522の測定結果を示すグラフである。その結果、miR34cの濃度(図中、[miR34c]と表す。)が0nMの試料と100nMの試料との間でA
522の変化に明確な差が認められた。この結果は、本実験系によりmiR34cを特異的に検出できることを示す。
【0171】
また、fuel−DNAの終濃度(図中、[fuel]と表す。)が150nMである試料において、最も高いシグナル/ノイズ比が得られることが明らかとなった。この結果から、fuel−DNAの終濃度は150nMが最適であることが明らかとなった。
【0172】
<実験例4>
[緩衝液中のmiR34cの検出]
dsDNA(x)/PEG−金ナノ粒子(x=22)を用いて調製した複合体を用いて、緩衝液中でmiR34cの検出を行った。具体的には、実験例1と同様にして調製した、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)30μL中の複合体(金ナノ粒子の終濃度=2.67nM、dsDNA(二本鎖DNA)の濃度=58.67nM、x=22)を96ウェルプレートのウェルに添加した。
【0173】
続いて、複合体の溶液に、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)5μL、0.01(v/v)%Tween20−125mM MgCl
2−PBS(pH7.4)5μL、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の1.5μMのDNA(上記表2の「fuel−DNA」)5μL、及び0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の様々な濃度の対象核酸(上記表2の「miR34c」)5μLを添加し、50μLの溶液を調製した。
【0174】
溶液中のMg
2+、金ナノ粒子、dsDNA、fuel−DNA及びmiR34cの終濃度は、それぞれ12.5mM、1.6nM、35nM、150nM及び0〜10nMであった。
【0175】
続いて、各溶液を25℃で2時間穏やかに撹拌しながらインキュベートした。インキュベーションの過程で、A
522を適切な時間間隔で測定した。A
522の測定は、磁場の適用下でマイクロプレート分光光度計により行った。
【0176】
図6は、A
522の測定結果を示すグラフである。図中、miR34cの濃度を[miR34c]と表す。また、
図6における挿入図は、miR34cの濃度0〜1.0nMの範囲の拡大図である。その結果、反応時間2時間での検出限界濃度が0.05nMであることが明らかとなった。
【0177】
<実験例5>
[増幅反応の検討]
実験例4の反応後、金ナノ粒子の増幅反応を行い、検出感度の向上について検討した。具体的には、実験例4の反応後、磁気スタンドを用いて磁気粒子を壁面に集め、解離したDNA/PEG−金ナノ粒子を含む上清を回収して新しい96ウェルプレートに入れた。
【0178】
続いて、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)10μL、2.5mM HAuCl
4(テトラクロリド金(III)酸)水溶液5μL、及び100mM塩酸ヒドロキシルアミン5μLを添加して混合し、混合液の波長575nmにおける吸光度(A
575)を1分以内に測定した。この反応により、溶液中の金ナノ粒子を核として金ナノ粒子が成長し、検出感度が向上した。
【0179】
図7は、A
575の測定結果を示すグラフである。図中、miR34cの濃度を[miR34c]と表す。また、
図7における挿入図は、miR34cの濃度0〜0.1nMの範囲の拡大図である。また、
図8は、増幅反応の前後における反応液の写真である。その結果、反応時間2時間後の増幅反応(1分間)により、検出限界濃度が0.005nMに向上し、目視でも検出できることが明らかとなった。
【0180】
<実験例6>
[対象核酸の特異性の検討]
dsDNA(x)/PEG−金ナノ粒子(x=22)を用いて調製した複合体を用いて、実験例4と同様にして、miR34c、miR34a及びmiR34b
*の検出を行った。なお、使用した複合体は、miR34c検出用の塩基配列を有していた。miR34c、miR34a及びmiR34b
*の塩基配列を下記表3に示す。表3中、miR34a及びmiR34b
*の塩基配列のうち、miR34cの塩基配列と相違する部分に下線を付す。
【0181】
【表3】
【0182】
具体的には、実験例1と同様にして調製した、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)30μL中の複合体(金ナノ粒子の終濃度=2.67nM、dsDNA(二本鎖DNA)の濃度=58.67nM、x=22)を96ウェルプレートのウェルに添加した。
【0183】
続いて、複合体の溶液に、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)5μL、0.01(v/v)%Tween20−125mM MgCl
2−PBS(pH7.4)5μL、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の1.5μMのDNA(上記表2の「fuel−DNA」)5μL、及び0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の1nM又は50nMの各miRNA(miR34c、miR34a及びmiR34b
*)5μLを添加し、50μLの溶液を調製した。
【0184】
溶液中のMg
2+、金ナノ粒子、dsDNA及びfuel−DNAの終濃度は、それぞれ12.5mM、1.6nM、35nM及び150nMであった。また、溶液中のmiRNAの終濃度は100pM又は5nMであった。
【0185】
続いて、各溶液を25℃で2時間穏やかに撹拌しながらインキュベートした後A
522を測定した。A
522の測定は、磁場の適用下でマイクロプレート分光光度計により行った。また、実験例5と同様の増幅反応を行い、A
575を1分以内に測定した。
【0186】
図9は、増幅反応の前後における反応液の写真である。図中、miRNAの濃度を[miRNA]と表す。また、
図10は、増幅反応前のA
522の測定結果を示すグラフである。また、
図10における挿入図は、増幅反応後のA
575の測定結果を示すグラフである。
【0187】
その結果、対象核酸としてmiR34cを反応させた試料において、miR34a、miR34b
*を反応させた試料よりも顕著に高い吸光が観察された。この結果は、本実験例の方法により、わずかな塩基配列の違いを識別することができ、miR34cを特異的に検出できることを示す。
【0188】
<実験例7>
[細胞抽出液中のmiR34cの検出]
健康なドナーから採取した口腔粘膜由来の細胞からヒト細胞抽出液を調製した。口腔粘膜由来の細胞は、口を1mLの生理的食塩水で激しくリンスすることにより回収した。回収した細胞懸濁液を2,000×gで90秒間遠心し、PBS(pH7.4)で3回洗浄した。
【0189】
続いて、細胞の沈殿をRNA later(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィク社)500μLに懸濁し、内在性RNAの酵素的分解を抑制した。細胞数を測定した後、RNA later(商標)75μLを更に追加し、細胞密度を1×10
6個/mLに調整した。細胞懸濁液は使用するまで−20℃で保存した。
【0190】
続いて、細胞懸濁液100μL(1×10
5個の細胞に相当)を2,000×gで90秒間遠心し、RNA later(商標)を除去した。この細胞の沈殿に0.5(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)25μLを添加し、25℃で30分間穏やかに撹拌しながらインキュベートして細胞を破砕し、細胞抽出液を得た。
【0191】
続いて細胞抽出液を2,000×gで90秒間遠心し、細胞の破片を除去した。細胞抽出液(上清25μL)(1×10
5個の細胞に相当)を新しい反応チューブに移し、使用するまで−20℃で保存した。
【0192】
続いて、複合体を用いてヒト細胞抽出液中のmiR34cを検出した。具体的には、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の50nM又は1nMのmiR34c溶液5μLを、上述したヒト細胞抽出液5μL(2×10
4個の細胞に相当)にそれぞれ添加した。
【0193】
続いて、96ウェルプレート中の複合体の溶液30μLに、miR34cを含むヒト細胞抽出液10μL、0.01(v/v)%Tween20−125mM MgCl
2−PBS(pH7.4)5μL、0.01(v/v)%Tween20−PBS(pH7.4)中の1.5μMのDNA(上記表2の「fuel−DNA」)5μLを添加し、50μLの溶液を調製した。miR34cの終濃度は100pM又は5nMであった。また、比較のために、細胞抽出液を含まない緩衝液中のmiR34cの検出も行った。
【0194】
続いて、各溶液を25℃で2時間穏やかに撹拌しながらインキュベートした後A
522を測定した。A
522の測定は、磁場の適用下でマイクロプレート分光光度計により行った。
【0195】
下記表4に、細胞抽出液中のmiR34cを検出した結果を示す。細胞抽出液を含まない緩衝液中のmiR34cの検出結果も示す。表4中、RSDは相対標準偏差を表す。
【0196】
【表4】
【0197】
その結果、緩衝液中での測定値及び細胞抽出液中での測定値の間の誤差は8%以内であり、いずれも同じような値が測定された。この結果は、本実験例の方法による対象核酸の検出が、様々な生体物質に阻害されることがないことを示す。したがって、本実験例の方法により、細胞抽出液等の生体試料中の対象核酸を直接検出することができる。