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特許6774059無線通信装置、及び、無線通信装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774059
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】無線通信装置、及び、無線通信装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 72/08 20090101AFI20201012BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20201012BHJP
【FI】
   H04W72/08 110
   H04W84/12
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-166113(P2017-166113)
(22)【出願日】2017年8月30日
(65)【公開番号】特開2019-47222(P2019-47222A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年6月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500112146
【氏名又は名称】サイレックス・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】下地 龍二
【審査官】 石田 信行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−13958(JP,A)
【文献】 特開2010−154183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−4
CT WG1、4
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線フレームに係る無線信号を含む電波を受信する電波受信部と、
前記無線信号を復調することでデジタル信号を生成する復調部と、
前記復調部が生成した前記デジタル信号に基づいてキャリアセンスする処理部と、
(a)前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から、前記復調部が識別し得る信号ノイズ比を減算した第一値を、前記復調部のノイズフロア値として設定し、
(b)前記ノイズフロア値の設定の前と後とで、前記処理部による前記キャリアセンスに用いるキャリアセンス閾値を維持する、制御部とを備える
無線通信装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記(a)において、
前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から、前記復調部が識別し得る信号ノイズ比の最小値を減算した値を、前記復調部の前記ノイズフロア値として設定する
請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記電波受信部は、前記無線フレームとして、無線端末からの無線接続要求に係る無線フレームを含む前記無線信号を受信し、
前記制御部は、前記無線接続要求に係る前記無線フレームを含む前記無線信号の受信強度を用いて、前記(a)により前記復調部の前記ノイズフロア値を設定する
請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記制御部は、さらに、
前記第一値の設定前の前記復調部のノイズフロア値である第二値が、前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から前記信号ノイズ比を減算した値以上である場合には、前記無線端末からの前記無線接続要求に対して接続拒否を示す接続応答を送信する
請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第一値の設定前の前記復調部のノイズフロア値である第二値が、前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から前記信号ノイズ比を減算した値より低い場合にのみ、前記(a)により前記復調部の前記ノイズフロア値を設定する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記制御部は、
第一無線端末と無線接続を維持しているときに、第二無線端末から無線フレームに係る無線信号を含む電波を前記電波受信部が受信した場合には、
(c)前記第二無線端末から前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から、前記復調部が識別し得る信号ノイズ比を減算した第三値を算出し、
(d)前記第一値より前記第三値が低い場合に限り、前記第三値を前記復調部のノイズフロア値として設定し、
(e)前記第三値の設定の前と後とで、前記処理部による前記キャリアセンスに用いるキャリアセンス閾値を維持する
請求項1〜5のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記電波受信部は、前記無線フレームとして、基地局からのビーコンフレームを含む前記無線信号を受信し、
前記制御部は、前記ビーコンフレームを含む前記無線信号の受信強度を用いて、前記(a)により前記復調部の前記ノイズフロア値を設定する
請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記復調部に設定されているノイズフロア値を変更することに連動して前記処理部におけるキャリアセンス閾値が変更される場合には、
前記第一値を前記復調部に設定した後に、前記処理部のキャリアセンス閾値を、前記第一値の設定前のキャリアセンス閾値に設定することによって、前記処理部における前記キャリアセンス閾値を維持する
請求項1〜7のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項9】
無線通信装置の制御方法であって、
無線フレームに係る無線信号を含む電波を受信する電波受信ステップと、
前記無線信号を復調することでデジタル信号を生成する復調ステップと、
前記復調ステップで生成した前記デジタル信号に基づいてキャリアセンスする処理ステップと、
(a)前記電波受信ステップで受信した前記無線信号の受信強度から、前記復調ステップで識別し得る信号ノイズ比を減算した第一値を、前記復調ステップでのノイズフロア値として設定し、
(b)前記ノイズフロア値の設定の前と後とで、前記処理ステップでの前記キャリアセンスに用いるキャリアセンス閾値を維持する、制御ステップとを含む
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置、及び、無線通信装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置は、無線通信に係る電波を受信し、受信した電波を復調することでデジタル信号を生成する。そして、無線通信装置は、生成したデジタル信号を通信フレーム(以降、フレームともいう)とみなしてプロトコル処理を行う。受信した電波に混入しているノイズは、復調の前又は後で除去され、プロトコル処理の対象にならないように構成されている。また、無線通信装置は、フレームを含む電波を送信する際に、他の無線通信装置が送信する電波との干渉を回避すべく、キャリアセンスを用いた衝突回避を行う。
【0003】
ノイズを適切に除去しながら、キャリアセンスにおいて他の無線通信装置が送出するキャリアを適切に受信するには、ノイズフロア値とキャリアセンス閾値との両方を適切に設定することが必要である。
【0004】
特許文献1は、周辺の通信環境又は状況の変化に応じて適切なキャリアセンス閾値を設定し得る無線通信装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−154183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される技術によれば、キャリアセンス閾値が動的に設定される。無線通信装置のキャリアセンス閾値を不用意に変更すると、フレームの受信及び送信の振る舞いが変わり、周囲の電波環境を変化させたり、自装置又は周囲の無線通信装置による無線通信の状況を変化させたりしてしまう可能性があるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、周囲の電波環境への影響を抑制しながら、ノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行う無線通信装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る無線通信装置は、無線フレームに係る無線信号を含む電波を受信する電波受信部と、前記無線信号を復調することでデジタル信号を生成する復調部と、前記復調部が生成した前記デジタル信号に基づいてキャリアセンスする処理部と、(a)前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から、前記復調部が識別し得る信号ノイズ比を減算した第一値を、前記復調部のノイズフロア値として設定し、(b)前記ノイズフロア値の設定の前と後とで、前記処理部による前記キャリアセンスに用いるキャリアセンス閾値を維持する、制御部とを備える。
【0009】
これによれば、無線通信装置は、受信した無線フレームの受信強度に基づいて、当該受信フレームを復調できる適切なノイズフロア値を設定できる。これにより、復調の際にノイズとして除去する無線信号の量を増加させることで、プロトコル処理においてキャリアセンスの対象となるデジタル信号の量を削減することができ、キャリアセンスに基づく送信機会の獲得を適切に行うことができる。また、このノイズフロア値の設定の前後でキャリアセンス閾値を維持するので、フレームの受信及び送信の振る舞いが変わることで周囲の電波環境を変化させたり、自装置又は周囲の無線通信装置による無線通信の状況を変化させたりしてしまうことが抑制される。このように、無線通信装置は、周囲の電波環境への影響を抑制しながら、ノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行うことができる。
【0010】
また、前記制御部は、前記(a)において、前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から、前記復調部が識別し得る信号ノイズ比の最小値を減算した値を、前記復調部の前記ノイズフロア値として設定してもよい。
【0011】
これによれば、無線通信装置は、復調部が識別し得る信号ノイズ比の最小値を用いてノイズフロア値を調整する。フレームの受信強度から、信号ノイズ比の最小値を減算した値は、受信フレームと区別できる無線信号の受信電力の最大値に相当する。そのため、この値をノイズフロア値とすることで、受信フレームでない無線信号をなるべく多く、ノイズとして除去することができる。これにより、キャリアセンスに基づく送信機会をより一層多く獲得できる。
【0012】
また、前記電波受信部は、前記無線フレームとして、無線端末からの無線接続要求に係る無線フレームを含む前記無線信号を受信し、前記制御部は、前記無線接続要求に係る前記無線フレームを含む前記無線信号の受信強度を用いて、前記(a)により前記復調部の前記ノイズフロア値を設定してもよい。
【0013】
これによれば、無線通信装置は、基地局として、無線端末からの接続要求の際にノイズフロア値を決定することができる。よって、接続要求を送信してきた無線端末との通信に適切なノイズフロアを、その通信を行う前に適切に設定できる利点がある。
【0014】
また、前記制御部は、さらに、前記第一値の設定前の前記復調部のノイズフロア値である第二値が、前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から前記信号ノイズ比を減算した値以上である場合には、前記無線端末からの前記無線接続要求に対して接続拒否を示す接続応答を送信してもよい。
【0015】
これによれば、無線通信装置は、基地局として、上記のようなノイズフロアの調整が不可能であると予想されるときに、無線端末との接続を行わないこととする。この場合、無線端末からの接続要求に係るフレームの受信強度が比較的低い、又は、当該フレームを受信したときのノイズフロア値(つまり第二値)が比較的高いために、仮に接続したとしても良好な品質での通信ができないと推定される。このような場合に接続を拒否することで、通信の品質が低下することを抑制することができる。
【0016】
また、前記制御部は、前記第一値の設定前の前記復調部のノイズフロア値である第二値が、前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から前記信号ノイズ比を減算した値より低い場合にのみ、前記(a)により前記復調部の前記ノイズフロア値を設定してもよい。
【0017】
これによれば、無線通信装置は、無線端末からの接続要求に係るフレームの受信強度が比較的高い、又は、当該フレームを受信したときのノイズフロア値(つまり第二値)が比較的低いので、良好な品質での通信ができると推定される。よって、無線通信装置は、通信の品質が低下することを抑制することができる。
【0018】
また、前記制御部は、第一無線端末と無線接続を維持しているときに、第二無線端末から無線フレームに係る無線信号を含む電波を前記電波受信部が受信した場合には、(c)前記第二無線端末から前記電波受信部が受信した前記無線信号の受信強度から、前記復調部が識別し得る信号ノイズ比を減算した第三値を算出し、(d)前記第一値より前記第三値が低い場合に限り、前記第三値を前記復調部のノイズフロア値として設定し、(e)前記第三値の設定の前と後とで、前記処理部による前記キャリアセンスに用いるキャリアセンス閾値を維持してもよい。
【0019】
これによれば、無線通信装置は、複数の無線端末からの接続要求がある場合に、これらの接続要求から算出される調整後ノイズフロア値のうちの低い方を採用することで、複数の端末の両方からのフレームを適切に受信することと、キャリアセンスに基づく送信機会の獲得とを適切に行うことができる。
【0020】
また、前記電波受信部は、前記無線フレームとして、基地局からのビーコンフレームを含む前記無線信号を受信し、前記制御部は、前記ビーコンフレームを含む前記無線信号の受信強度を用いて、前記(a)により前記復調部の前記ノイズフロア値を設定してもよい。
【0021】
これによれば、無線通信装置は、無線端末として、基地局との接続前にノイズフロア値を決定することができる。よって、基地局との通信に適切なノイズフロアを、その通信を行う前に適切に設定できる利点がある。
【0022】
また、前記復調部に設定されているノイズフロア値を変更することに連動して前記処理部におけるキャリアセンス閾値が変更される場合には、前記第一値を前記復調部に設定した後に、前記処理部のキャリアセンス閾値を、前記第一値の設定前のキャリアセンス閾値に設定することによって、前記処理部における前記キャリアセンス閾値を維持してもよい。
【0023】
これによれば、無線通信装置は、ノイズフロア値とキャリアセンス閾値とが連動して設定される場合にも、キャリアセンス値を維持してノイズフロア値を調整することができる。
【0024】
また、本発明の一態様に係る無線通信装置の制御方法は、無線フレームに係る無線信号を含む電波を受信する電波受信ステップと、前記無線信号を復調することでデジタル信号を生成する復調ステップと、前記復調ステップで生成した前記デジタル信号に基づいてキャリアセンスする処理ステップと、(a)前記電波受信ステップで受信した前記無線信号の受信強度から、前記復調ステップで識別し得る信号ノイズ比を減算した第一値を、前記復調ステップでのノイズフロア値として設定し、(b)前記ノイズフロア値の設定の前と後とで、前記処理ステップでの前記キャリアセンスに用いるキャリアセンス閾値を維持する、制御ステップとを含む。
【0025】
これにより、上記無線通信装置と同様の効果を奏する。
【0026】
なお、本発明は、装置として実現できるだけでなく、その装置を構成する処理手段をステップとする方法として実現したり、それらステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、そのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能なCD−ROMなどの記録媒体として実現したり、そのプログラムを示す情報、データ又は信号として実現したりすることもできる。そして、それらプログラム、情報、データ及び信号は、インターネット等の通信ネットワークを介して配信してもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、周囲の電波環境への影響を抑制しながら、ノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施の形態に係る基地局を含む通信システムの構成を示す模式図である。
図2図2は、実施の形態に係る基地局の機能ブロックを示すブロック図である。
図3図3は、ノイズフロア値とキャリアセンス閾値との関係を示す説明図である。
図4図4は、実施の形態に係るノイズフロア値の調整を示す第一の説明図である。
図5図5は、実施の形態に係るノイズフロア値の調整を示す第二の説明図である。
図6図6は、実施の形態に係るノイズフロア値の調整をしない場合を示す説明図である。
図7図7は、実施の形態に係るノイズフロア値の調整の処理を示すフロー図である。
図8図8は、実施の形態の変形例に係る基地局を含む通信システムの構成を示す模式図である。
図9図9は、実施の形態の変形例に係るノイズフロア値の調整の処理を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態について説明する前に、本発明の基礎となった知見について説明する。
【0030】
「背景技術」欄に記載したとおり、無線通信装置において、ノイズフロア値とキャリアセンス閾値との両方を適切に設定することが求められている。ノイズフロア値とキャリアセンス閾値との設定に関する従来技術について具体的に説明する。
【0031】
無線通信装置におけるプロトコル処理では、無線通信に係る無線信号のうちノイズフロア値以上の受信強度を有する信号から復調されたデジタル信号を対象として、当該デジタル信号が自装置宛ての通信フレームを含んでいるか否かを判定する。そのため、無線通信装置は、ノイズフロア値以上の受信強度を有する無線信号を受信しているときには、送信すべきフレームの送信処理を行うことができない。
【0032】
無線通信装置は、一般に、ノイズレベルに応じてノイズフロア値を適切に調整するノイズフロア調整機能を有している。無線通信装置は、ノイズフロア値を調整することによって、ノイズとして除去する無線信号の量を変化させ、その結果、プロトコル処理の対象となるデジタル信号の量を変化させることができる。例えば、無線通信装置は、ノイズレベルが比較的高い環境では、ノイズフロア値を比較的高く設定することで、ノイズとして除去する無線信号の量を増加させ、プロトコル処理の対象となるデジタル信号の量を減らす。
【0033】
一般のノイズフロア調整機能では、ノイズフロア値は、例えば、無線通信リンクの確立時に受信したフレームの受信強度を基準として設定される。これにより、継続的なノイズが存在する環境では、妥当なノイズフロア値が設定され得る。しかし、無線LAN(Local Area Network)に係る通信のように散発的な通信が発生する環境では、妥当なノイズフロア値が設定されないことがある。
【0034】
妥当なノイズフロア値が設定されない場合、以下のような問題が発生し得る。ノイズフロア値が適正値より高い場合には、無線通信に係るキャリアつまり無線フレームをノイズとみなして除去してしまうという問題が発生し得る。また、ノイズフロア値が適正値より低い場合には、プロトコル処理の対象となるデジタル信号の割合が増え、自装置が送信すべき無線フレームの送信機会が得られず、無線フレームの送信が遅延するという問題が発生し得る。
【0035】
一方、通信環境において、通信に必要なSN比(Signal−to−Noise ratio)又は、DU比(Desired to Undesired signal ratio)を確保するために、キャリアセンス閾値を動的に設定することが行われる。キャリアセンス閾値の動的な設定では、受信したフレームの受信強度から、通信に必要なSN比の分を下げた値をキャリアセンス閾値として設定することが理想的であると言われている。しかし、キャリアセンス閾値は、ノイズフロア値を基準として固定値を加算することで決定されるのが一般的である。つまり、ノイズフロア値からキャリアセンス閾値までの差分値が固定値に設定されており、キャリアセンス閾値だけを単独で増減させることはできないのが一般的である。
【0036】
そこで、上記のように通信に必要なSN比又はDU比を確保するために、キャリアセンス閾値とともにノイズフロア値を高くする技術もある。この技術では、ノイズフロア値を変化させる際にキャリアセンス閾値も変化するので、フレームの受信及び送信の振る舞いが変わり、周囲の電波環境を変化させたり、自装置又は周囲の無線通信装置による無線通信の状況を変化させたりしてしまい、適切な無線通信を行えない可能性があるという問題がある。
【0037】
このように、従来のノイズフロア値とキャリアセンス閾値との設定に関する技術では、周囲の電波環境への影響を抑制しながら、ノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行うことができない。より具体的には、ノイズフロアを調整することで、キャリアセンスに基づく送信機会を適切に獲得するようにすることができない。
【0038】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0039】
以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0040】
なお、同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0041】
(実施の形態)
本実施の形態において、周囲の電波環境への影響を抑制しながら、ノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行う無線通信装置としての基地局などについて説明する。
【0042】
図1は、本実施の形態に係る基地局10を含む通信システム1の構成を示す模式図である。
【0043】
図1に示されるように、通信システム1は、基地局10と端末30とを備える。通信システム1は、LAN40を介して外部のネットワークNに、通信可能に接続されている。
【0044】
基地局10は、端末30と無線通信をする基地局装置(一般にアクセスポイントともいう)である。基地局10は、端末30との間で無線通信リンクを確立し、無線通信リンクを通じて無線通信を行う。また、基地局10は、LAN40を介して外部のネットワークNに接続されており、端末30と外部のネットワークNとの間で通信フレームの転送を行う。なお、無線通信の規格は、どのようなものであってもよいが、例えば、IEEE802.11a、b、g、n等を採用し得る。また、LAN40は、有線LANであってもよいし、無線LANであってもよいし、これらが混在するネットワークであってもよい。
【0045】
端末30は、基地局10と無線通信をする無線通信端末(一般にステーションともいう)である。端末30は、基地局10との間で無線通信リンクを確立し、無線通信リンクを通じて無線通信を行う。端末30は、基地局10及びLAN40を介して外部のネットワークNとの間で通信を行う。
【0046】
図2は、本実施の形態に係る基地局10の機能ブロックを示すブロック図である。
【0047】
図2に示されるように、基地局10は、無線通信モジュール11と、制御部15とを備える。なお、基地局10は、LAN40に接続する機能、及び、無線通信モジュール11とLAN40側の通信モジュールとの間でフレームを転送する機能などを有するが、これらの機能については、従来の基地局装置などと同様であるので説明を省略する。
【0048】
無線通信モジュール11は、端末30との無線通信を行う無線通信モジュールである。無線通信モジュール11は、無線通信に係る電波の送受信、電波に含まれる無線通信信号の変調及び復調、通信フレームの生成、プロトコル処理などを行う。以降では、本発明に関わる部分を詳しく説明する。
【0049】
無線通信モジュール11は、アンテナ20と、電波送信部21と、変調部22と、電波受信部23と、復調部24と、処理部25とを備える。
【0050】
アンテナ20は、電波を送受信するアンテナである。アンテナ20は、電波送信部21から提供される無線信号を電波として送信し、また、受信した無線信号を電波受信部23に提供する。
【0051】
電波送信部21は、変調部22が生成したベースバンド信号に基づいて搬送波を変調することで無線信号を生成し、生成した無線信号をアンテナ20により送信する。
【0052】
変調部22は、基地局10が送信すべき無線フレームのデジタル信号を変調することでベースバンド信号を生成する変調回路である。変調部22は、生成したベースバンド信号を電波送信部21に提供する。変調部22がベースバンド信号を出力するタイミングは、処理部25によるCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)アルゴリズムに係る処理に基づいて定められる。変調部22がベースバンド信号を送信するタイミングは、基地局10が無線フレームを送信するタイミングに相当する。
【0053】
電波受信部23は、無線信号を含む電波をアンテナ20により受信する。具体的には、電波受信部23は、フレームに係る無線信号を含む電波をアンテナ20により受信する。電波受信部23は、受信した電波に含まれる無線信号からベースバンド信号を復調して、復調部24に提供する。なお、電波受信部23が受信する電波に含まれる無線信号は、例えば、端末30が基地局10に接続しようとするときの接続要求(具体的にはAssociation Request)フレームに係る無線信号であり、ここではこの場合を説明するが、通信データを含むフレームなどでも同様の説明が成立する。
【0054】
復調部24は、電波受信部23からベースバンド信号を取得し、ベースバンド信号に復調処理を施してデジタル信号を生成する。復調部24のノイズフロア値は、制御部15により適切な値が設定される。また、復調部24が識別し得るSN比の最小値を最小SN比という。最小SN比は、例えばdBmの単位で表現され得る。
【0055】
処理部25は、無線通信に係るプロトコル処理を行う処理モジュールである。処理部25は、MAC(Media Access Control)レイヤにおける処理として、MACフレームの送受信処理、及び、CSMA/CAアルゴリズムに係る処理を行う。また、処理部25は、復調部24が受信したデジタル信号のデータ、デジタル信号の受信強度、及び、転送レート等の受信ステータスを取得し、取得した受信ステータスを制御部15に提供する。
【0056】
処理部25は、具体的には、復調部24が生成したデジタル信号から無線フレームを取得し、取得した無線フレームに基づいてキャリアセンスを行い、変調部22によるベースバンド信号の出力タイミング、つまり、基地局10が無線フレームを送信するタイミングを制御する。例えば、処理部25は、電波受信部23がキャリアセンス閾値を超える信号を受信した場合には、基地局10による無線フレームの送信を所定期間待機する。なお、待機する時間は、無線通信の規格により定められる。
【0057】
制御部15は、復調部24による復調に用いるノイズフロア値と、処理部25によるキャリアセンスに用いるキャリアセンス閾値とを設定する処理部である。具体的には、制御部15は、電波受信部23が受信した無線信号の受信強度を処理部25から取得する。そして、制御部15は、電波受信部23が受信した無線信号の受信強度から、復調部24が識別し得るSN比を減算した値を、復調部24のノイズフロア値として設定する。その際、制御部15は、ノイズフロア値の設定の前と後とで、処理部25によるキャリアセンスに用いるキャリアセンス閾値を維持する。このとき、制御部15は、電波受信部23が受信した無線信号の受信強度から、復調部24が識別し得るSN信号ノイズ比の最小値(つまり最小SN比)を減算した値を、復調部24のノイズフロア値として設定してもよい。なお、制御部15は、例えば、無線通信モジュール11の制御用のソフトウェア、いわゆるドライバに相当する。制御部15は、基地局10が備えるプロセッサ(不図示)がメモリ等を用いて所定のプログラムを実行することで実現され得る。
【0058】
以降において、制御部15による復調部24のノイズフロア値の調整について説明する。ここでは、復調部24に予めノイズフロア値が設定されている前提で、設定されているノイズフロア値を制御部15により調整する処理を説明する。
【0059】
図3は、ノイズフロア値、最大ノイズフロア値、及び、キャリアセンス閾値の関係を示す説明図である。図3を参照しながら、ノイズフロアの調整範囲について説明する。
【0060】
制御部15は、上記のとおり、ノイズフロア値を算出して復調部24に設定することにより、ノイズフロア値を調整し、その調整の際にキャリアセンス閾値を維持する。
【0061】
仮にノイズフロア値がキャリアセンス閾値を超えていると、復調部24は、ノイズをすべてキャリアとみなしてしまい、つまり、常にキャリアを検出することになるので適切でない。そこで、ノイズフロア値がキャリアセンス閾値を超えることがないように、マージンを考慮して、制御部15が算出するノイズフロア値は、下記(式1)を満たすことを要する。(式1)において、ノイズフロア値をNFとし、キャリアセンス閾値をThとしている。また、mは、所定のマージンであり、例えば5dBm程度とすることができる。
【0062】
NF≦Th−m (式1)
【0063】
なお、(Th−m)は、ノイズフロア値が取り得る最大値であり、最大ノイズフロア値MaxNFともいう。
【0064】
次に、ノイズフロアの調整、つまり、調整後ノイズフロアの算出方法について説明する。
【0065】
制御部15は、電波受信部23が受信したフレームの受信強度から最小SN比を減算した値と、現在のノイズフロア値との大小判定をする。すなわち、電波受信部23が受信したフレームの受信強度をPとし、最小SN比をMinSNRとし、現在のノイズフロア値をNFとして、下記(式2)が成立するか否かを判定する。
【0066】
P−MinSNR>NF (式2)
【0067】
そして、電波受信部23が受信したフレームの受信強度から最小SN比を減算した値より現在のノイズフロア値が低い場合、つまり(式2)が成立する場合にノイズフロア値の調整を行い、そうでない場合には、ノイズフロア値の調整を行わない。各場合について以降で詳しく説明する。
【0068】
(1)ノイズフロア値の調整をする場合
図4は、本実施の形態に係るノイズフロア値の調整を示す第一の説明図である。図4は、電波受信部23が受信したフレームの受信強度から最小SN比を減算した値より、現在のノイズフロア値が低い場合に行う、ノイズフロア値の調整を示す。
【0069】
電波受信部23が受信したフレームの受信強度から最小SN比を減算した値が、現在のノイズフロア値より高い場合、制御部15は、受信フレームの受信強度から最小SN比を減算して調整後ノイズフロア値を算出する。すなわち、調整後ノイズフロア値をNF1とし、電波受信部23が受信したフレームの受信強度をPとし、最小SN比をMinSNRとして、下記(式3)により調整後ノイズフロア値を求める。なお、調整後ノイズフロア値を第一値ともいう。これに対し、調整前のノイズフロア値を第二値という。
【0070】
NF1=P−MinSNR (式3)
【0071】
このようにすることで、「受信したフレームの受信強度より最小SN比の分だけ低い電力値」よりさらに低い電力で受信した無線信号を、復調部24によりノイズとして除去することで復調処理を省くことができる。これにより、ノイズとして除去した分の無線信号を、処理部25によるキャリアセンスの対象から除外することができる。これにより、基地局10によるフレームの送信機会が減らされることを抑制することができる。
【0072】
なお、調整後ノイズフロア値が最大ノイズフロア値を超える場合の調整について図5を参照しながら説明する。図5は、本実施の形態に係るノイズフロア値の調整を示す第二の説明図である。図5は、受信したフレームの受信強度から最小SN比を減算した値より、現在のノイズフロア値が低い場合であって、調整後ノイズフロア値が最大ノイズフロア値を超える場合におけるノイズフロア値の調整を示す。
【0073】
ノイズフロア値がキャリアセンス閾値を超える場合、上記のとおり、キャリアをすべてノイズとみなしてしまうことに相当し、適切でない。そこで、(式3)の調整後ノイズフロア値が最大ノイズフロア値を超える場合には、改めて、調整後ノイズフロア値を最大ノイズフロア値に調整することとする。すなわち、調整後ノイズフロア値は、下記(式4)により求められる。
【0074】
NF1=P−MinSNR (P−MinSNR<MaxNFのとき)、
NF1=MaxNF (P−MinSNR≧MaxNFのとき)
(式4)
【0075】
このようにすることで、ノイズフロア値がキャリアセンス閾値を超えることでキャリアをすべてノイズとみなしてしまうことを回避できる。
【0076】
例えば、受信したフレームの受信強度が−60dBmであり、調整前のノイズフロア値が−90dBmであり、最小SN比が15dBであり、キャリアセンス閾値が−62dBmであるとき、(式2)の左辺が(−60dBm)−15dB=−75dBmとなり、(式2)の右辺が−90dBmとなり、(式2)が成立する。この場合、調整後ノイズフロア値は、(式4)により、(−60dBm)−15dB=−75dBmと算出される。つまり、制御部15は、ノイズフロア値を−90dBmから−75dBmに設定変更することで調整する。
【0077】
(2)ノイズフロア値の調整をしない場合
図6は、本実施の形態に係るノイズフロア値の調整をしない場合を示す説明図である。図6は、電波受信部23が受信したフレームの受信強度から最小SN比を減算した値より、現在のノイズフロア値が高い場合を示している。
【0078】
この場合、現在のノイズフロア値の設定において、受信フレームの受信強度とノイズフロア値との差分が最小SN比より小さいので、復調部24において受信フレームを含む電波とノイズとを適切に識別することができていない。この場合、仮にノイズフロア値を上げるとすれば、受信フレームの受信強度とノイズフロア値との差分が現在よりさらに小さくなり、復調部24における受信フレームを含む電波とノイズとの識別が、より困難になる。また、仮にノイズフロア値を下げるとすれば、復調部24においてノイズとして除去する信号が増加し、処理部25におけるキャリアセンスの対象となる信号が増加し、基地局10によるフレームの送信機会が減る。
【0079】
この場合、制御部15は、ノイズフロア値の調整をしない。電波受信部23が受信したフレームの受信強度と現在とのノイズフロア値とが、図6に示される関係にある場合には、ノイズフロア値を調整しても、フレームとノイズとを適切に識別できるようにしたり、キャリアセンスに基づく送信機会を適切に獲得できるようにしたりすることができないからである。
【0080】
例えば、受信したフレームの受信強度が−80dBmであり、調整前のノイズフロア値が−90dBmであり、最小SN比が15dBであるとき、(式2)の左辺が(−80dBm)−15dB=−95dBmとなり、(式2)の右辺が−90dBmとなり、(式2)が成立しない。この場合、制御部15は、ノイズフロアの調整をしない。
【0081】
なお、上記のとおり、電波受信部23が受信した電波に含まれるフレームの一例は、基地局10との無線通信リンクを確立することを要求する接続要求フレームである。この場合、上記(1)のようにノイズフロアを調整して無線端末と通信リンクを確立するときには、接続要求フレームに対して接続を許容することを示す接続応答(Association Response)フレームを送信してもよい。一方、上記(2)のようにノイズフロア値の調整をしないときには、接続を拒否することを示す応答を送信してもよい。
【0082】
以上のように構成された基地局10の処理について説明する。
【0083】
図7は、本実施の形態に係るノイズフロア値の調整の処理を示すフロー図である。
【0084】
ここでは、基地局10と端末30との間で無線通信リンクを確立し、無線通信リンクを通じて無線通信を行う一例をもとに、図7の詳細な説明をする。
【0085】
ステップS101において、電波受信部23は、接続要求フレームに係る無線信号を含む電波をアンテナ20により受信する。また、復調部24は、電波受信部23が受信した無線信号を復調する。
【0086】
ステップS102において、制御部15は、ステップS101で取得した無線信号の受信強度を復調部24から取得する。
【0087】
ステップS103において、制御部15は、ステップS102で取得した、無線信号の受信強度から最小SN比を減算し、現在のノイズフロア値NFとの大小比較を行う。制御部15は、具体的には、(式2)が満たされるか否かを判定する。(式2)が満たされると判定した場合(ステップS103でYes)には、ステップS104に進み、そうでない場合(ステップS103でNo)には、ステップS110に進む。
【0088】
ステップS104において、制御部15は、ノイズフロア値を算出する。ノイズフロア値の算出方法は、(式3)又は(式4)に示した通りであり、調整後のノイズフロア値NF1が算出される。
【0089】
ステップS105において、制御部15は、ステップS104で算出した、調整後ノイズフロア値NF1を復調部24に設定する。
【0090】
ステップS106において、処理部25は、端末30との接続を許容することを示す接続応答フレームを、ステップS101で受信した接続要求フレームの応答として送信する。
【0091】
ステップS107において、無線通信モジュール11は、ステップS104で算出したノイズフロア値を用いながら、端末30との間の通信を行う。具体的には、無線通信モジュール11は、処理部25が生成したデータフレームを、変調部22、電波送信部21及びアンテナ20を用いて送信する。また、無線通信モジュール11は、アンテナ20により電波に含まれるデータフレームを、電波受信部23及び復調部24を用いて受信する。
【0092】
ステップS110において、処理部25は、端末30との接続を拒否することを示す接続応答フレームを、ステップS101で受信した接続要求フレームの応答として送信する。
【0093】
なお、ステップS110では、接続を拒否することを示す接続応答フレームを送信する代わりに、従来と同じように、つまりノイズフロア値の調整を行うことなく端末30との接続を行うことにしてもよい。この場合、処理部25は、端末30との接続を許容することを示す接続応答フレームを、ステップS101で受信した接続要求フレームの応答として送信する。
【0094】
なお、ここでは、基地局10がノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行う無線通信装置である場合を例として説明したが、端末30がノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行う無線通信装置であってもよい。この場合、無線通信装置である端末30は、ステップS101(図7参照)における接続要求フレームの代わりに、基地局10からのビーコンフレームを用いることができる。これにより、端末30は、基地局10との接続前にノイズフロア値を決定することができる。
【0095】
なお、無線通信モジュールは、ノイズフロア値が変更されると、この変更に連動して、ノイズフロア値とキャリアセンス閾値との差分を維持するようにキャリアセンス閾値を変更するものが一般的である。このような無線通信モジュールを本実施の形態の無線通信モジュール11として使用する場合には、上記ステップS105において、調整後ノイズフロア値を復調部24に設定した後に、キャリアセンス閾値を、調整後ノイズフロア値の設定前のキャリアセンス閾値に設定する。このようにすることで、処理部25におけるキャリアセンス閾値を維持することができる。このようにすれば、一般的な無線通信モジュールを用いて、無線通信モジュール11を実現し得る。
【0096】
(実施の形態の変形例)
本変形例において、周囲の電波環境への影響を抑制しながら、ノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行う無線通信装置などについて、通信相手装置が複数存在する場合の処理について説明する。より具体的には、無線通信装置としての基地局10に複数の無線通信端末が接続する場合における基地局10のノイズフロア値の調整方法について説明する。なお、実施の形態におけるものと同じものについては、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0097】
実施の形態では、基地局10が1つの端末30から接続要求フレームを受信した場合の処理を説明した。本変形例では、基地局10が複数の端末から接続要求フレームを受信する場合の処理を説明する。
【0098】
図8は、本変形例に係る基地局10を含む通信システム1Aの構成を示す模式図である。
【0099】
図8に示されるように、通信システム1Aは、基地局10と、端末30及び31とを備える。通信システム1Aは、LAN40を介して外部のネットワークNに、通信可能に接続されている。端末31は、端末30と同様に、基地局10に接続する無線通信端末である。
【0100】
通信システム1Aは、2つの端末30及び31を備える点で、実施の形態における通信システム1と異なる。
【0101】
図9は、本変形例に係るノイズフロア値の調整の処理を示すフロー図である。
【0102】
ステップS201において、電波受信部23は、端末30から接続要求フレームに係る無線信号を含む電波をアンテナ20により受信する。この処理は、図7におけるステップS101の処理と同じである。
【0103】
ステップS202において、制御部15は、ステップS201で受信した電波に含まれる接続要求フレームに基づいて、ノイズフロア値(ノイズフロア値Aともいう)を算出し、算出したノイズフロア値Aを復調部24に設定する。
【0104】
ステップS203において、電波受信部23は、端末31から接続要求フレームに係る無線信号を含む電波をアンテナ20により受信する。この処理の内容は、ステップS201と同じであるが、端末31が送信した接続要求フレームに対する処理である点でステップS201と異なる。
【0105】
ステップS204において、制御部15は、ステップS203で受信した電波に含まれる接続要求フレームに基づいて、ノイズフロア値(ノイズフロア値B又は第三値ともいう)を算出する。ノイズフロア値Bの算出に係る処理は、図7のステップS104の処理と同じである。
【0106】
ステップS205において、制御部15は、ステップS202で算出したノイズフロア値Aと、ステップS204で算出したノイズフロア値Bとの大小比較を行う。ノイズフロア値Bがノイズフロア値Aより低い場合(ステップS205でYes)には、ステップS206に進み、そうでない場合(ステップS205でNo)には、ステップS210に進む。
【0107】
ステップS206において、制御部15は、復調部24にノイズフロア値Bを設定する。
【0108】
ステップS207において、無線通信モジュール11は、ノイズフロア値Bを用いながら、端末30との間の通信を行う。この処理の内容は、図7のステップS107と同じである。
【0109】
ステップS210において、制御部15は、復調部24のノイズフロア値Aを維持し、変更しない。
【0110】
このように、制御部15は、第一無線端末(端末30に相当)と無線接続を維持しているときに、第二無線端末(端末31に相当)から無線フレームに係る無線信号を含む電波を電波受信部23が受信した場合には、第二無線端末から電波受信部23が受信した無線信号の受信強度から、復調部24が識別し得る信号ノイズ比を減算した第三値を算出する。そして、第一値より第三値が低い場合に限り、第三値を復調部24のノイズフロア値として設定し、第三値の設定の前と後とで、処理部25によるキャリアセンスに用いるキャリアセンス閾値を維持する。
【0111】
これにより、基地局10は、複数の端末30及び31からの接続要求を順次に受けた場合には、複数の端末30及び31それぞれについて算出される調整後のノイズフロア値の低い方を採用して通信を行う。このように低い方のノイズフロア値を採用することで、複数の端末30及び31の両方からのフレームを適切に受信することと、キャリアセンスに基づく送信機会の獲得とを適切に行うことができる。
【0112】
以上のように本実施の形態の無線通信装置は、受信した無線フレームの受信強度に基づいて、当該受信フレームを復調できる適切なノイズフロア値を設定できる。これにより、復調の際にノイズとして除去する無線信号の量を増加させることで、プロトコル処理においてキャリアセンスの対象となるデジタル信号の量を削減することができ、キャリアセンスに基づく送信機会の獲得を適切に行うことができる。また、このノイズフロア値の設定の前後でキャリアセンス閾値を維持するので、フレームの受信及び送信の振る舞いが変わることで周囲の電波環境を変化させたり、自装置又は周囲の無線通信装置による無線通信の状況を変化させたりしてしまうことが抑制される。このように、無線通信装置は、周囲の電波環境への影響を抑制しながら、ノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行うことができる。
【0113】
また、無線通信装置は、復調部が識別し得る信号ノイズ比の最小値を用いてノイズフロア値を調整する。フレームの受信強度から、信号ノイズ比の最小値を減算した値は、受信フレームと区別できる無線信号の受信電力の最大値に相当する。そのため、この値をノイズフロア値とすることで、受信フレームでない無線信号をなるべく多く、ノイズとして除去することができる。これにより、キャリアセンスに基づく送信機会をより一層多く獲得できる。
【0114】
また、無線通信装置は、基地局として、無線端末からの接続要求の際にノイズフロア値を決定することができる。よって、接続要求を送信してきた無線端末との通信に適切なノイズフロアを、その通信を行う前に適切に設定できる利点がある。
【0115】
また、無線通信装置は、基地局として、上記のようなノイズフロアの調整が不可能であると予想されるときに、無線端末との接続を行わないこととする。この場合、無線端末からの接続要求に係るフレームの受信強度が比較的低い、又は、当該フレームを受信したときのノイズフロア値(つまり第二値)が比較的高いために、仮に接続したとしても良好な品質での通信ができないと推定される。このような場合に接続を拒否することで、通信の品質が低下することを抑制することができる。
【0116】
また、無線通信装置は、無線端末からの接続要求に係るフレームの受信強度が比較的高い、又は、当該フレームを受信したときのノイズフロア値(つまり第二値)が比較的低いので、良好な品質での通信ができると推定される。よって、無線通信装置は、通信の品質が低下することを抑制することができる。
【0117】
また、無線通信装置は、複数の無線端末からの接続要求がある場合に、これらの接続要求から算出される調整後ノイズフロア値のうちの低い方を採用することで、複数の端末の両方からのフレームを適切に受信することと、キャリアセンスに基づく送信機会の獲得とを適切に行うことができる。
【0118】
また、無線通信装置は、無線端末として、基地局との接続前にノイズフロア値を決定することができる。よって、基地局との通信に適切なノイズフロアを、その通信を行う前に適切に設定できる利点がある。
【0119】
また、無線通信装置は、ノイズフロア値とキャリアセンス閾値とが連動して設定される場合にも、キャリアセンス値を維持してノイズフロア値を調整することができる。
【0120】
以上、本発明の無線通信装置等について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、周囲の電波環境への影響を抑制しながら、ノイズ除去とキャリアセンスとを適切に行う無線通信装置に適用され得る。具体的には、無線基地局及び無線端末に適用される。
【符号の説明】
【0122】
1、1A 通信システム
10 基地局
11 無線通信モジュール
15 制御部
20 アンテナ
21 電波送信部
22 変調部
23 電波受信部
24 復調部
25 処理部
30、31 端末
40 LAN
N ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9