【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年1月6日〜7日開催 一般社団法人電気学会主催 「知覚情報研究会」 平成30年1月6日発行 一般社団法人電気学会刊行 「知覚情報研究会 予稿集」 平成30年2月16日開催 国立大学法人電気通信大学主催 「国立大学法人電気通信大学情報理工学部総合情報学科卒業研究発表会」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0016】
<一実施形態>
本実施形態では、患者が歯科用チェアユニットに乗って仰臥位の状態で治療を受けている状況を想定し、歯科用チェアユニット表面に設置した重心動揺計測装置を用いて患者の重心動揺を計測することで、患者の心身的負担(精神状態や疼痛状況等)を客観的に計測して評価する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る心身的負担測定システムに用いられる歯科用チェアユニット(可動式背もたれ付き椅子)の例を示す。
図1の上段は歯科用チェアユニット1の上面図、
図1の下段は歯科用チェアユニット1の側面図である。本実施形態では、歯科用チェアユニットを用いたが、被験者の仰臥位の状態を維持できるものであればこの例に限らない。例えば、一般的な診療用ユニット、汎用の可動式背もたれ付き椅子、又はベッドでもよい。
【0018】
図1に示す歯科用チェアユニット1は、座面部2と、背面部3と、座面部2の上に配置された重心動揺計測装置4と、背面部3の上に配置された重心動揺計測装置5を備える。歯科用チェアユニット1は、被験者の座位又は仰臥位の状態を維持する目的で一般的に使用されている医療用ユニット(ユニット構造体の一例)を利用したものであり、背面部3とヘッドレスト部の接続部分に対応する首元にさまざまな治療器具が内蔵されている。背面部3は、座面部2に対して任意の角度となるように回動可能かつ任意の角度で停止可能に構成されている。
図1では、背面部3と座面部2を結ぶ方向(頭から足への方向)をX軸、そのX軸に垂直な方向(右肩から左肩への方向)をY軸としている。座面部2の重心動揺計測装置4と背面部3の重心動揺計測装置5との間は、距離L(例えば15cm)だけ離れている。距離Lは、重心動揺計測装置4,5の各々が被験者の背部又は臀部の荷重と重心位置を良好に取得できる任意の距離に設定される。以下の説明において、「背部」は、主に被験者の背中から腰部にかけての部分を指し、「臀部」は、主に被験者の臀部から大腿にかけての部分を指す。
【0019】
重心動揺計測装置4,5には、
図2に示すように下面部の4隅にストレインゲージ式の荷重センサ11〜14が内蔵されている。重心動揺計測装置4,5は、4つの荷重センサ11〜14のそれぞれにかかる荷重から、重心動揺計測装置4,5の上に乗っている被験者の重心位置、及び重心位置にかかる荷重(重さ)を計測する。重心動揺計測装置4,5は、仰臥位の状態にある被験者の重心位置、及びその重心位置にかかる荷重(被験者の重さ)の計測データを所定のサンプリング周期で出力する。
【0020】
本実施形態では、重心の計測位置は、治療中に動くと考えられる被験者の背部及び臀部の2か所である。被験者の背部は重心動揺計測装置5で計測され、臀部は重心動揺計測装置4で計測される。重心動揺計測装置4,5はそれぞれ、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信I/Fを備え、無線通信により情報処理装置20(
図3参照)へ計測結果を送信する。なお、重心動揺計測装置4,5は、圧電式の荷重センサなど、ストレインゲージ式以外の荷重センサを用いて構成してもよい。
【0021】
一般に歯科用チェアユニット1の座面部2及び背面部3には弾力性のあるクッションが入っているため、座面部2及び背面部3の上に重心動揺計測装置4,5を直接設置すると荷重センサ11〜14では正確な計測ができない。そこで、座面部2及び背面部3の上にそれぞれ板6,7を設置し、その板6,7の上に重心動揺計測装置4,5を配置している。
【0022】
また、重心動揺計測装置4,5の上に直接被験者が仰臥位の状態をとると痛みが生じるおそれがあるため、重心動揺計測装置4,5の上にはそれぞれクッション8,9が設置されている。これは、重心動揺計測装置4,5を直接、被験者の体に触れさせないというだけでなく、重心動揺計測装置4,5を被験者に見せないようにすることで、被験者に緊張感を生起させないという利点もある。また、実用性という観点からいえば、重心動揺計測装置4,5、板6,7及びクッション8,9をそれぞれ、座面部2及び背面部3に内蔵することが考えられる。
【0023】
このように構成された歯科用チェアユニット1において、座面部2側のクッション8には、被験者の臀部(主に臀部から大腿にかけての部分)が接触し、背面部3のクッション9には、被験者の背部(主に背中から腰部にかけての部分)が接触する。すなわち、重心動揺計測装置4は、被験者の臀部の重みがかかる位置に配置され、重心動揺計測装置5は、被験者の背部の重みがかかる位置に配置される。
【0024】
なお、後述する実験1,2では、重心動揺計測装置4,5として、Nintendo社のゲーム機のコントローラーであるバランスWiiボード(登録商標)を使用した。先行研究では、JIS(Japanese Industrial Standards)規格を満たした床反力計とバランスWiiボードには、質量で0.999、座標位置で0.989という高い相関があることが示されており、バランスWiiボードを安価な重心動揺計測装置として用いることが可能である。
【0025】
[心身的負担測定システム(情報処理装置)の構成]
図3は、本発明の一実施形態に係る心身的負担測定システムの情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
図3に示す心身的負担測定システム30は、重心動揺計測装置4,5が配置された歯科用チェアユニット1と、重心動揺計測装置4,5から送られる計測データを処理する情報処理装置20から構成される。
【0026】
情報処理装置20は、制御装置21、メモリ22、不揮発性記録装置23、表示装置24、入力装置25、近距離無線通信I/F26、及びネットワークI/F27を備える。情報処理装置20の各部は、不図示のバスラインを介して相互に通信可能に接続されている。情報処理装置20には、例えばパーソナルコンピューターを用いることができる。
【0027】
制御装置21は、心身的負担測定システム30全体又は心身的負担測定システム30の各部の動作を制御するように構成されている。例えば制御装置21には、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)が用いられる。制御装置21の構成及び機能についての詳細は後述する。
【0028】
メモリ22は、ROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)である。メモリ22は記録媒体の一例であり、メモリ22には、制御装置21が動作するために必要なプログラムやデータ等が記憶される。メモリ22が、制御装置21による演算処理の途中に発生した変数やパラメータ等を一時的に記憶する構成としてもよい。制御装置21は、本実施形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをメモリ22から読み出して実行し、各部の制御や各種の演算を行う。なお、制御装置21に代えて、MPU(Micro Processing Unit)等の他の演算処理装置を用いてもよい。
【0029】
不揮発性記録装置23も記録媒体の一例であり、この不揮発性記録装置23には、制御装置21が各部を制御するためのプログラムやOS(Operating System)等のプログラム、及びデータ等が記憶される。不揮発性記録装置23としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、磁気テープ、メモリカード等が用いられる。なお、プログラムは、ローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線または無線の伝送媒体を介して提供されてもよい。
【0030】
表示装置24は、例えば液晶ディスプレイモニター(出力部の一例)であり、GUI画面や制御装置21で行われた処理の結果等を表示する。なお、出力部として、表示灯やスピーカーを備えていてもよい。入力装置25には、例えば、マウスやタッチパネル等のポインティングデバイス、キーボードなどが用いられ、ユーザーは入力装置25に操作を行い、指示を入力することが可能である。入力装置25は、ユーザーの操作に応じた入力信号を生成して制御装置21へ供給する。
【0031】
近距離無線通信I/F26は、例えばBluetooth等の近距離無線通信規格に準じた無線通信を行うインターフェース部である。近距離無線通信I/F26は、歯科用チェアユニット1の重心動揺計測装置4,5に内蔵された近距離無線通信I/Fから計測データを受信し、制御装置21へ供給する。なお、重心動揺計測装置4,5と情報処理装置20との通信は、専用線などの有線による通信でもよい。
【0032】
ネットワークI/F27は、例えばNIC(Network Interface Card)やモデム等が用いられ、端子が接続されたLAN等のネットワーク又は専用線等を介して、外部装置との間で各種のデータを送受信することが可能に構成されている。
【0033】
(制御装置の構成及び機能)
制御装置21は、重心位置処理部211、負担測定処理部212、操作回数計測部213、及び出力処理部214を備える。制御装置21の各部は、制御装置21(CPU)がメモリ22に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0034】
重心位置処理部211は、重心動揺計測装置4,5が出力する被験者の重心位置の時系列データから、被験者の重心動揺に応じた評価指標の値を算出する処理を行う。例えば、重心位置処理部211は、被験者の重心動揺に応じた評価指標として、被験者の重心位置の時系列データから所定時間長ごとにその重心の軌跡の外周面積を算出する。または、重心位置処理部211は、被験者の重心動揺に応じた評価指標として、被験者の重心位置の時系列データから所定時間長ごとにその重心の軌跡の長さを算出する。この被験者の重心動揺に応じた評価指標は、後述するように設定時間ごとに所定時間長の評価区間において算出される。
【0035】
負担測定処理部212は、重心位置処理部211で算出された評価指標の値の時間変化に基づいて、被験者の心身的負担を測定する処理を行う。例えば、負担測定処理部212は、重心位置処理部211で算出された被験者の重心動揺に応じた評価指標の値を所定の閾値と比較し、比較結果に基づいて被験者の心身的負担を判定(評価)する。また、負担測定処理部212は、さらに被験者の重心の変位(移動方向)を加味して、被験者の心身的負担を判定できるように構成されている。
【0036】
操作回数計測部213は、被験者に身体的な刺激を与えたときに被験者が入力装置25を操作した回数を計測する処理を行う。例えば、患者に入力装置25としてマウスを与え、痛みを感じたときにマウスのボタンをクリックした回数を計測する。なお、この操作回数計測部213は、本発明の一実施形態にかかる心身的負担測定システム30の必須構成ではない。後述する実験1,2において、重心動揺に基づいて被験者の心身的負担を客観的評価する際に、客観的評価を裏付ける主観的評価の指標としてクリック回数の情報が利用される。
【0037】
出力処理部214は、負担測定処理部212の心身的負担の測定の結果を、入力装置25やネットワークI/F27、不揮発性記録装置23などへ出力する処理を行う。
【0038】
ここで、重心動揺計測装置4,5を用いて被験者の重心位置と重さを計測するために、発明者らが開発した計測プログラムについて説明する。
図4は、心身的負担測定システム30における計測プログラム(GUI)の例を示す説明図であり、計測プログラムで用いられる表示画面50の例である。表示画面50には、ユーザーが、二台の重心動揺計測装置4,5の距離(各装置の中心から中心までの距離)を測定して入力するための入力欄がある。
【0039】
「接続開始ボタン」は、近距離無線通信により、重心動揺計測装置4,5と情報処理装置20の接続開始を指示するためのボタンである。
図4の例では、接続開始ボタンが押下されてBluetooth等の接続確立処理が行われている状態を示している。重心動揺計測装置4,5と情報処理装置20との接続状況に応じて、情報処理装置20と接続されている重心動揺計測装置の数が表示される。
【0040】
「試し計測ボタン」は、重心動揺計測装置4,5が正常に動作するかを点検するために、試しに重心動揺計測の開始を指示するためのボタンである。重心動揺計測装置4,5が正常に計測を実施しているときには、重心動揺計測装置4,5のX軸、Y軸、及び重さの各項目の表示領域に、被験者の重心位置と重さ(各部による荷重)の計測値が表示される。
「計測開始ボタン」は、重心動揺計測装置4,5により被験者の重心動揺計測の開始を指示するためのボタンである。被験者の計測データは、一時的にメモリ22に格納される。
【0041】
「補正ボタン」は、重心位置の座標の補正を指示するためのボタンである。
「記録開始ボタン」は、被験者の重心動揺の計測データを不揮発性記録装置23又はUSBメモリ等の外部メモリに記録する処理の開始を指示するためのボタンである。
「被験者名」、「部位」、「状況」は、計測データを不揮発性記録装置23等に保存する際のファイル名を設定するための入力欄である。
「選択ボタン」は、計測データの出力先フォルダを選択するボタンである。
「接続終了ボタン」は、重心動揺計測装置4,5による被験者の重心動揺計測の終了を指示するためのボタンである。
【0042】
「キャリブレーション(重さ)ボタン」は、重心動揺計測装置4,5による被験者の重さの計測データをキャリブレーションするためのボタンである。
「キャリブレーション(座標)ボタン」は、重心動揺計測装置4,5による被験者の重心位置(座標)の計測データをキャリブレーションするためのボタンである。
【0043】
バランスWiiボードが用いられた重心動揺計測装置4,5は、オープンソースであるWiimoteLibを用いて、情報処理装置20と接続することができる。プログラムには、Microsoft Visual C#を使用した。後述する実験1,2の計測は、サンプリング周波数を100Hzで行ったが、Microsoft Visual C#に元々用意されているタイマー関数の精度は15msecであり、正確に100Hzで計測することが難しい。そこで、Multimedia TimerというWindows APIを用いた精度1msecの高精度タイマーを用いて計測した。Windowsは登録商標である。これにより、2台の重心動揺計測装置4,5から同時にミリ秒単位の重心位置座標と体重計測が可能である。
【0044】
ここで、計測データの解析は、計測プログラムと解析プログラムを用いて行われる。計測プログラムを用いて計測した計測データは、CSV(Comma-Separated Values)ファイルに保存される。そして、このCSVファイルが制御装置21に読み込まれ、解析プログラムによりその解析が行われる。解析プログラムも同様にMicrosoft Visual C#が用いられ、以下に説明する評価指標としての重心の軌跡長及び重心の軌跡の外周面積を計算する。解析プログラムは、制御装置21の重心位置処理部211に相当する。
【0045】
[評価指標]
図5は、重心動揺計測装置4,5で計測された重心の散布図(軌跡)から評価指標としての軌跡長を計算する方法を説明する図である。また、
図6は、重心動揺計測装置4,5で計測された重心の散布図(軌跡)から評価指標としての外周面積を計算する方法を説明する図である。以下にそれぞれの評価指標となる計算式を示す。
【0046】
(軌跡長)
軌跡長は、連続する重心位置間の距離を定められた時間分(例えば1秒間)足し合わせた長さである。重心動揺計測装置4,5で計測された重心位置の時系列データとして、座標点A
1(x
1,y
1)、A
2(x
2,y
2)、…、A
n(x
n,y
n)が得られたとする。評価する期間の時間をtとしたとき、1秒間当たりの軌跡長dは、次式(1)で表すことができる。
【0048】
(外周面積)
重心動揺の評価に用いる外周面積は、一般的に近似的な計算で表されることが多い。今回用いた計算手法では、まず、評価したい期間の重心動揺の中心位置を決める。そこを中心に、例えば360度を3度ずつ120分割し、各分割領域の中心位置から最長距離にある最長点同士を結んだ線分(外周)により囲まれる面積を外周面積とした。本例では、360度を3度ずつ120分割したが、分割数は任意である。以下に詳しい計算方法を示す。
【0049】
重心の軌跡長のときと同様に、重心位置の時系列データとして、
図6の黒丸で示す座標点A
1(x
1,y
1),A
2(x
2,y
2),…,An(x
n,y
n)が得られたとする。複数の分割領域Sr1,Sr2…の中心となる点を仮の原点Oとして各座標点の座標を補正する。すなわち、複数の分割領域内の重心位置のX座標とY座標の平均値を求め、これを仮の原点Oとする。そして、時系列データの重心位置の各座標の値から仮の原点であるXY座標の平均値を引くことで補正する。例えば、補正後の座標をtB
1(tx
1,ty
1),tB
2(tx
2,ty
2),…,tB
3(tx
m,ty
m)とすると、時系列データの補正後の重心位置のX座標は次式(2)となる。
【0051】
次に、補正後の重心位置の座標について仮の原点Oからの角度、距離を求める。角度をθ
m、距離をd
mとすると、θ
mとd
mは次式(3),(4)で表される。θ
mは度数であり−180度から180度の範囲である。
【0053】
次に、補正後の重心位置の座標が、360度を3度ずつに分けた分割領域Sr1,Sr2…のどの分割領域に存在するかを判定し、その分割領域の中での最長点を決める。そこで決まった最長点の座標をG
1(mx
1,my
1),G
2(mx
2,my
2),…,G
120(mx
120,my
120)とする。最長点G
1,G
2,…,G120の隣接する最長点同士を結んだ外周60により囲まれる領域の面積(外周面積s)は、次の式(5)に表すことができる。
【0055】
[心身的負担測定処理の手順]
次に、心身的負担測定システム30の情報処理装置20による心身的負担測定処理の手順について説明する。
図7は、心身的負担測定処理の手順例を示すフローチャートである。
図7に示す心身的負担測定処理の各手順は、主に制御装置21(CPU)が、メモリ22に格納されたプログラムを実行することにより行われる。
【0056】
まず、重心動揺計測装置4及び/又は5は、歯科用チェアユニット1上に仰向けになっている被験者の重心位置を所定のサンプリング周期で計測し、近距離無線通信I/F26を介して、計測データ(時系列データ)を情報処理装置20の制御装置21へ送信する(S1)。
【0057】
次に、制御装置21の重心位置処理部211は、重心動揺計測装置4及び/又は5から出力された被験者の重心位置の時系列データを取得する計測データ取得処理を行う(S2)。そして、重心位置処理部211は、重心位置の時系列データから評価指標の値を算出する処理を行う(S3)。ここで算出される評価指標は、重心の軌跡の外周面積、及び/又は1秒間当たりの重心の軌跡長である。
【0058】
次に、負担測定処理部212は、重心位置処理部211で算出された評価指標の値の時間変化を検出する処理を行う(S4)。そして、負担測定処理部212は、評価指標の値の時間変化に基づいて、被験者の心身的負担を測定する(S5)。
【0059】
最後に、出力処理部214は、測定の結果を表示装置24及び/又は不図示のスピーカーへ出力する処理を行う(S6)。また、出力処理部214は、測定の結果を示すデータを、不揮発性記録装置23に記録する処理を行ってもよい。ステップS6の処理が終了後、出力処理部214は、
図7に示す一連の心身的負担測定処理を終了する。
【0060】
図8に、心身的負担測定処理による測定の結果の出力例を示す。インジケーター70は、被験者の心身的負担の状態や状況を知らせる表示要素の一例である。インジケーター70は、被験者の心身的負担がない場合(例えば安静状態)には“心身的負担なし”を示す目盛り付近を指す。被験者の心身的負担が増加すると(例えば治療中の場合)、インジケーター70の指示値が大きくなる。そして、被験者の心身的負担が閾値を超えると、インジケーター70の指示値は“声かけ”を示す目盛りを超える。歯科医師は、インジケーター70の指示値が“声かけ”の目盛りを超えていることを確認すると、患者に声かけ等を行う。“声かけ”等の閾値の設定については、後述する。
【0061】
なお、
図8では、インジケーターの表示例を示したが、表示画面上に警告ランプを表示したり、音声や音楽によって知らせたりしてもよい。また、
図14,
図15,
図17及び
図18に示すような重心位置の時系列データ(波形)を表示するようにしてもよい。
【0062】
心身的負担を測定するための実験は、
図3に示した心身的負担測定システム30を用いて2種類の方法で行った。実験は、歯科用チェアユニット1の背面部3の傾斜を水平にした状態で実施した。
【0063】
[実験1の内容]
まず、実験1について説明する。実験1では、被験者に歯科用チェアユニット1の上に仰臥位の状態で乗ってもらい、被験者に2種類の方法で5分間ずつ計測を行った。
図9に、心身的負担測定システム30を用いた実験1のプロトコルを示す。
【0064】
実験1−(1):5分間すべて被験者を安静状態(Rest)にして重心動揺を計測する。
実験1−(2):1分目、3分目、5分目を安静状態(Rest)にして計測し、2分目、4分目を“Task”として、口内洗浄機の音を出した状態で被験者の重心動揺を計測する。すなわち、一分おきに“Rest”と“Task”を交互に繰り返して計測を行う。なお、この刺激は、口内洗浄機の音を出しているのみの音刺激であり、身体の疼痛を伴う刺激ではない。
【0065】
被験者は、健常成人である被験者A〜Cの3名である。実験は、歯科医師の協力の下、実際の歯科治療現場にて行った。重心動揺計測装置4,5から得られた各被験者の重心座標から散布図を作成し、“Rest”及び“Task”における被験者の心身的負担の状態を比較した。すなわち、実験後、各サンプリング時間における重心のX座標及びY座標を記録し、各評価指標の算出を行った。すなわち、1分間ごとに外周面積、1秒間当たりの重心の軌跡長を計算し、実験1−(1)と実験1−(2)で評価指標の比較を行った。
【0066】
従来、重心動揺のデータを比較する方法として、主に総軌跡長、外周面積、単位面積軌跡長が用いられていた。本実施形態では、評価指標として、1秒間当たりの重心の軌跡長と、外周面積を用いた。1秒間当たりの軌跡長は、1秒間に重心位置がどれだけ動いたかを表す数値であり、軌跡長が長ければ長いほど重心が不安定であることを示している。具体的には、計測時間(例えば1分間)内における1秒間当たりの軌跡長の平均値である。ここで、総軌跡長ではなく1秒間当たりの軌跡長を用いたのは、治療時間が定まっていないため総軌跡長では比較が難しいからである。また、外周面積は、計測時間(例えば1分間)に重心位置がどの範囲で移動しているかを表し、外周面積が大きければ大きいほど重心が不安定であることを示している。
【0067】
[実験1の結果]
まず、実験1の結果について説明する。
図10は、実験1における一人の被験者Aの重心動揺の変化を示すグラフであり、縦軸は重心の軌跡長[cm]、横軸は時間(min)を示す。また、
図11は、実験1における被験者Aの1分ごとの重心の軌跡の外周面積の変化を示すグラフであり、縦軸は重心の軌跡の外周面積(cm
2)、横軸は時間(min)を示す。
【0068】
図10及び
図11に示すグラフの2分目、すなわち1分から2分の間を見ると、1秒間当たりの軌跡長と外周面積ともに、実験1−(1)と実験1−(2)との間に差がある。被験者の重心動揺から、歯科治療中の被験者の精神状態すなわち精神的負担を測定できる可能性が示唆された。また、
図10に示すグラフの4分目を比較すると、1秒間当たりの軌跡長は実験1−(1)と実験1−(2)で背部、臀部ともほとんど差がなかった。また、
図11に示すグラフでは、外周面積に関しては実験1−(1)と実験1−(2)の間に差が見られるが、2分目のときほど大きな差は出なかった。
【0069】
また、臀部の重心よりも背部の重心の方が動いていることが確認できた。よって、背部の重心のみの計測データから、被験者の精神的負担を測定できる可能性があることが示された。さらに、
図10に示す1秒間当たりの軌跡長よりも
図11に示す外周面積の方が、実験1−(1)と実験1−(2)で大きく差が出ていることがわかった。
【0070】
なお、グラフの図示を省略したが、他の二人の被験者についても同様に実験1−(1),1−(2)の計測を行った。二人の被験者のうち一人の被験者Bについては、
図10及び
図11に示す実験結果と同様の傾向を示す実験結果が得られた。また、もう一人の被験者Cについては、実験1−(1)と実験1−(2)との間で実験結果にあまり差が見られなかった。これは、刺激提示が音刺激のみだったため、当該被験者Cにとって負担にならない程度の刺激だった可能性がある。
【0071】
このように、各被験者A〜Cとも臀部よりも背部のほうが動いていることが確認できた。よって、背部のみの計測データから被験者の精神的負担を評価できる可能性があることが示された。
【0072】
また、各被験者A〜Cともに1秒間当たりの軌跡長よりも外周面積の方が、実験1−(1)と実験1−(2)で計測結果の差が大きかった。よって、1秒間当たりの軌跡長で比較せずとも、外周面積のみで精神的負担を評価できる可能性が示唆された。
【0073】
[実験2の内容]
次に、実験2について説明する。実験2では、実験1と同様に、被験者に歯科用チェアユニット1の上に仰臥位の状態で乗ってもらい、実際の治療下で計測を行った。被験者は2名(被験者D,E)とし、1分目と7分目を安静状態、2〜6分目に治療として歯石除去を行う形で実験をした。
【0074】
図12に、心身的負担測定システム30を用いた実験2のプロトコルを示す。実験2では、“Task”として治療時間を5分間に設定し、その“Task”の前後に“Rest”として1分間ずつの安静時間を設け、全7分間で治療を行った。
【0075】
また、実験2では、どの時間に被験者が刺激を与えられたか、つまり心身的負担を感じたかを見るために、被験者D,Eの右手にマウスを持たせ、痛みを感じた場合にマウスのボタンをクリックしてもらうようにした。被験者は痛ければ痛いほどボタンをクリックし、単位時間のクリック回数が増える。評価指標も実験1と同様に、1秒間当たりの軌跡長と外周面積を用いた。実験2では、例えば時系列データに5秒間の評価区間を設定し、所定時間(例えば1秒)ごとに時系列データの各評価区間における評価指標の値を算出した。痛みについても同様の評価区間内にマウスのボタンが何回クリックされたかを計算し、評価指標として扱った。
【0076】
図13は、実験2で設定した評価区間を示している。本例では、各評価区間は、時間的に重複している。すなわち、5秒間に設定された評価区間における評価指標の値を算出する場合には、前の評価区間の計算を開始してから、5秒以内に次の評価区間の計算を開始する。ただし、各評価区間が時間的に重複する例に限定されない。
【0077】
[実験2の結果]
次に、実験2の結果について説明する。被験者D,Eともに、実験1の結果と同様、臀部より背部の方が、重心の軌跡長及び重心の軌跡の外周面積の変化(偏差)が大きかった。よって、実際の治療下でも、背部の重心のみの計測で心身的負担の評価が可能であることが示された。ただし、これは、臀部の重心のみの計測で心身的負担を評価することを排除するものではなく、背部及び臀部の重心を計測して心身的負担を評価してもよい。以下、
図14〜
図15に、実験2における背部の重心動揺の例として、被験者Dの計測結果を示す。
【0078】
図14は、実験2における被験者Dの背部重心の軌跡長及びクリック回数の変化を示すグラフである。左側の縦軸は背部重心の軌跡長(cm)、右側の縦軸はクリック回数(回)、及び横軸は時間(sec)を表す。
図15は、実験2における被験者Dの背部重心の軌跡の外周面積及びクリック回数の変化を示すグラフである。左側の縦軸は背部重心の軌跡の外周面積(cm
2)、右側の縦軸はクリック回数(回)、及び横軸は時間(sec)を表す。
図14及び
図15において、60secと360secにおける一点鎖線は、タスク(治療)の開始時間と終了時間を示している。
【0079】
図14及び
図15に示すように、実験1の結果と同様に、重心の軌跡長(
図14)よりも外周面積(
図15)の変化(偏差)の方が大きいことがわかる。
図15に示すように、被験者Dでは安静時と比較して治療時の外周面積が大きい。外周面積の変化とクリック回数の推移は概ね一致(対応)しており、外周面積を用いることで被験者の痛み(身体的負担)を測定できる可能性が示された。例えば、
図15においてクリック回数のピークである270秒あたりでは、外周面積はあまり変化していないが、クリック回数のピークが終了後に外周面積に大きな変化が見られる。これは、強い持続する痛みに対して被験者Dに力が入ることで背部の重心の変化が少なくなり、その後、治療終了後と同様に被験者Dは一時的な痛みから解放されたことで力が抜け、重心の変化が大きくなったと考えられる。
【0080】
また、被験者Dは、治療終了後(360sec以降)に外周面積が大きく増加しており(
図15の時間T5参照)、被験者Dが心身的負担から解放された場合にも背部の重心が動く可能性が示された。
【0081】
一方、被験者Eは、図示を省略しているが、安静時と治療中で外周面積の差が小さく、クリック回数も最大で5秒間に2回と、ほとんど痛みを感じていなかった。被験者Eは、実験終了後の感想でもあまり痛くなかったと話している。このことから、被験者が感じる痛みが小さければ小さいほど外周面積の変化も小さくなり、感じる痛みが大きければ大きいほど変化も大きくなる可能性が示された。
【0082】
本実験ではほぼ痛みを感じなかった被験者Eを除き、被験者Dに対して追加で実験を2回行った。実験1では身体的負担はないが、実験2は身体的負担も伴う実験である。図示を省略するが追加の実験では、1回目の実験と同様に、2回目及び3回目ともに、治療前及び治療後と比較して治療中に外周面積が大きく変化した。また、外周面積とクリック回数を比較しても、外周面積の変化とクリック回数の推移は概ね一致(対応)していた。
【0083】
次に、精神的負担のみの場合と、精神的負担と身体的負担(すなわち心身的負担)が与えられた場合を比較するため、痛みのクリック回数が“0”の場合と“1“以上の場合のそれぞれの背部重心の軌跡の外周面積の平均値を、安静時の外周面積と比較した結果を、
図16に示す。
図16は、実験2における被験者Dによるクリック回数の増加率を示す表である。“D1回目”から“D3回目”は、被験者Dの1回目から3回目を意味し、“E”は被験者Eを意味する。
【0084】
被験者D,Eとも、クリック回数が“0”の場合、すなわち痛みを感じておらず精神的負担のみかかっている場合にも、外周面積の平均値が変化していた。さらに、クリック回数が“1”以上の場合すなわち治療中の外周面積の平均値は、治療前の外周面積の平均値と比較して、42.4%増加していた。つまり、痛みを伴うとさらに外周面積が大きく増加することが示された。よって、重心の軌跡の外周面積を用いて、痛みを伴わない精神的負担のみ、及び痛みを伴う心身的負担の両方を計測できることがわかった。ただし、これは、軌跡長のみの計測で心身的負担を評価することを排除するものではない。
【0085】
一方で、
図15において、例えば215秒(時間T1)、260秒(時間T3)、315秒(時間T4)秒付近、及び治療終了後(時間T5)では、痛みを表すクリック回数が減少したにもかかわらず、外周面積が増加していることがわかった。そこで、被験者Dの動きをより詳しく見るため、被験者Dの重心位置の変位、特に体の上下方向(頭方向と足方向)に注目して、外周面積とクリック回数との比較を行った。
【0086】
図17に、実験2における被験者Dの背部重心位置のX座標及びクリック回数の変化を示す。
図17において、左側の縦軸は背部重心のX方向の移動距離(cm)、右側の縦軸はクリック回数(回)、及び横軸は時間(sec)を表す。ここでは、
図1に基づいて、被験者の基準位置よりも頭方向をマイナス値、足方向をプラス値で表している。
【0087】
図17より、外周面積及びクリック回数ともに大きく反応が出ていた被験者Dに関して、クリック回数が増える前(例えば時間T1,T3,T4)から背部重心が頭方向(矢印D1,D3,D4)に変位し、クリック回数がピークを過ぎると(例えば時間T2)、背部重心の位置が足方向(矢印D2)に変位することがわかる。これは、被験者Dが痛みを感じる前から背部重心が動いていること、また、被験者Dが痛みから解放されるときに背部重心が足方向に変位することを表しており、被験者Dの精神的負担を測定できる可能性があるということが示された。
【0088】
また、
図17より、痛みのクリック回数が増えていく過程でも背部重心が頭方向に移動することがわかった。つまり、痛みが増加又は継続中に、被験者Dの背部重心の位置は頭方向に変位する。治療中に被験者が痛みを感じたとき、背部上部(例えば頭や肩)に力が入ることで、重心が全体的に体の上方向(頭方向)に移動したと考えられる。このように、体の重心位置の変位は、精神的負担レベルの変位を表していると考えられ、外周面積と重心位置の変位を組み合わせて解析することで、被験者の心身的負担をより正確に測定することができる。
【0089】
被験者の重心位置の変位と外周面積とクリック回数の関係は、背部重心と臀部重心ともに同様の傾向であった。
【0090】
図18は、実験2における被験者の背部の重さw1、臀部の重さw2及びクリック回数の変化を示すグラフである。左側の縦軸は背部又は臀部の重さ(kg)、右側の縦軸はクリック回数(回)、及び横軸は時間(sec)を表す。重さに関しては、クリック回数が増えると、背部の重さw1の計測値が減少し臀部の重さw2の計測値が上昇した。被験者Dは痛みを感じると背中上部(例えば首や肩)に力が入り、背部重心が頭方向に大きく動いたと考えられる。それと同時に、背部重心が頭方向に変位することで腰のあたりが歯科用チェアユニット1から離れる方向に動いて背部の重さw1の計測値が減少し、それにより、被験者Dは頭や肩、臀部で体を支えるような状態になり、臀部の重さw2の計測値が上昇したと考えられる。逆に、痛みを表すクリック回数が減る場合には、緊張が解けて体の力が抜けることで、背部重心が体の足方向に移動すると考えられる。なお、図示を省略しているが、クリック回数が極端に少なかった被験者Eは、背部重心のX座標とY座標、背部と臀部の重さの全てにおいてほとんど変化がなかった。
【0091】
[定量的評価]
心身的負担を定量的に評価するために、実験2の測定ごとに治療前、治療中、治療後の背部重心の軌跡の外周面積の平均値をまとめて、
図19に示す。また、実験2の測定ごとに治療前、治療中、治療後の背部重心の軌跡の外周面積の標準偏差をまとめて、
図20に示す。さらに、実験2の各測定における治療前の背部重心の軌跡の外周面積と比較した場合の、治療中及び治療後の背部重心の軌跡の外周面積(百分率)をまとめて、
図21に示す。
【0092】
図19に示すように、疼痛反応が強く出ていた被験者Dでは3回の測定ともに、治療前と比較して、治療中及び治療後に背面重心の軌跡の外周面積が増加していた。また、
図20に示すように、被験者Dでは3回の測定ともに、治療前と比較して、治療中及び治療後に外周面積の標準偏差が増加していた。
【0093】
そして、
図21に示すように、被験者Dでは、治療前と比較して、治療中には外周面積が約2.5倍変化していたことがわかった。つまり、治療中は、治療前と比較して背面重心が大きく移動したと言える。逆に、疼痛反応が弱かった被験者Eでは、治療前と比較して、治療中には背面重心の軌跡の外周面積が約8%だけ変化したことがわかった。
【0094】
そこで、例えば、外周面積において治療前の2.5倍を閾値に設定し、外周面積がこの閾値を超えた場合に被験者が痛みを感じていると判定することとした。また、主観的評価として、痛みのクリック回数の平均値を閾値に設定し、クリック回数がこの閾値を超えた場合に被験者が痛みを感じていると判定することとした。重心動揺を用いた客観的評価と主観的評価が同時に閾値を超えた場合及び同時に閾値を超えなかった場合を判定成功とみなし、判定成功率を算出した。その結果を
図22の表に示す。
【0095】
また、
図22に示すように、今回の実験では、全体(被験者D,E)でおよそ65%の判定成功率であった。痛みをよく感じた被験者Dのみに絞れば、判定成功率は約67%であった。一方、被験者Eは、治療中の背面重心の軌跡の外周面積が、治療前の外周面積の2.5倍を超えることがなかったため、被験者Eの閾値を被験者Dの閾値とは別の値に設定することを検討してもよい。
【0096】
上述した一実施形態によれば、被験者の治療前及び治療後の重心動揺計測結果に基づいて、被験者の痛みの状況、またそれに伴う精神的負担を測定することができる。すなわち、本実施形態によれば、特許文献1のように予め心身状態に対応した既知の心身状態指数を記憶するデータベースを用意することなく、より簡易な構成により、被験者の重心動揺計測結果から被験者の心身的負担を測定することができる。
【0097】
例えば、本実施形態によれば、重心動揺計測装置の計測データ(時系列データ)を用いて、歯科治療中の患者の精神状態や疼痛状況を客観的に測定し、治療中に歯科医師にその結果を伝達できるので(例えば
図8参照)、歯科医師は円滑に治療を進行することができる、また、歯科医師が、その測定の結果に基づいて、患者の状態に合わせた治療の継続、延期、又は中止等を決定できるので、例えば治療を一時停止して麻酔を打つなどの治療法の変更が可能になるという効果もある。なお、上述した実施形態では、歯科治療を例に説明したが、他の治療行為に対しても適用可能である。
【0098】
また、本実施形態では、実験1,2を通して重心動揺計測装置4,5のそれぞれの上にクッション8,9を置いて計測を行った。その影響は計測データには見られず、重心動揺計測装置の上にクッションを置いても心身的負担が計測できることがわかった。よって、重心動揺計測装置を歯科用チェアユニット1等の上に置くだけではなく、重心動揺計測装置をユニット内部に組み込んで計測することが可能である。
【0099】
医療用カメラ(ファイバースコープ)を用いて胃などの消化管の内部を観察する内視鏡検査では、患者は側臥位の状態で検査を受ける。このような患者が側臥位の状態であっても、本実施形態にかかる重心動揺計測装置4及び5を備える心身的負担測定システム30により、患者の心身的負担を測定することが可能である。
【0100】
<変形例>
上述した実施形態にかかる心身的負担測定システム30は、座位状態にある被験者の心身的負担を測定することにも利用できる。
図23に、被験者の座位状態を維持するユニット構造体(例えば椅子)の例を示す上面図及び側面図である。
図23に示す椅子80は、座面部82と背もたれ83とから構成される。歯科用チェアユニット1と同様に、座面部82の上に板6が設置され、板6の上に重心動揺計測装置4が配置されている。また、重心動揺計測装置4の上には、クッション8が配置されている。情報処理装置20が、座面部82の上に配置された重心動揺計測装置4の計測データに基づいて、被験者の心身的負担を測定する。
【0101】
上述した変形例によれば、座位状態にある人の心身的負担を測定することができる。例えば椅子に座って作業をしている作業者に対し、作業の中止、休憩をとることを促すなどの適切な対応が可能となる。
【0102】
また、上述した実施形態では、治療前と治療中の重心動揺の軌跡の外周面積又は軌跡長から閾値を設定する例を説明したが、実際の治療中に閾値を設定してもよい。例えば、治療開始から1分間は初期設定の閾値を用いて治療を行い、この1分間に重心動揺計測装置から得られた計測データとクリック回数から閾値を計算する。これにより、治療中に計測データに基づいて、患者に合わせて閾値を設定することができる。なお、クリック回数を用いずに、重心動揺計測装置の計測データのみに基づいて閾値を設定するようにしてもよい。
【0103】
また、上述した実施形態又は変形例において、仰臥位又は座位の状態にある被験者の心身的負担の測定について説明したが、上述した実施形態は側臥位の状態にある被験者の心身的負担の測定に利用することができる。側臥位の状態にある被験者に対して、被験者の重心動揺に応じた評価指標(外周面積、軌跡長)に、被験者の重心の変位を加味して被験者の心身的負担を判定する場合、主として重心位置の移動方向がX方向ではなくY方向(
図1参照)になる可能性がある。よって、心身的負担の測定に重心位置の変位を加味する場合には、被験者の仰臥位又は側臥位の状態に応じた重心の移動方向と評価指標に基づいて、心身的負担を判定する必要がある。
【0104】
また、心身的負担測定システム30は、歯科用チェアユニット1と情報処理装置20から構成されているが、歯科用チェアユニット1に情報処理装置20が組み込まれていてもよい。歯科用チェアユニット1に組み込まれた情報処理装置20が測定した結果は、近距離無線通信により、近距離無線通信I/Fを備えた表示装置やタブレット型端末に出力される。また、重心動揺計測装置の計測データをネットワークに接続されたサーバーに送信し、サーバーが被験者の心身的負担を測定し、そして、ネットワークを介して測定の結果をサーバーから表示装置に供給する構成としてもよい。
【0105】
さらに、本発明は上述した各実施形態例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない範囲において、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
【0106】
例えば、上述した実施形態例は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、上述した実施形態例の構成の一部について、他の構成要素の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0107】
また、上記の各構成要素、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路の設計などによりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成要素、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。