(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774064
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】誘電体バリアプラズマ処理のための電極機構
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20201012BHJP
A61B 17/03 20060101ALI20201012BHJP
A61N 1/44 20060101ALI20201012BHJP
A61N 1/40 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
H05H1/24
A61B17/03
A61N1/44
A61N1/40
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-504102(P2018-504102)
(86)(22)【出願日】2016年9月26日
(65)【公表番号】特表2018-533813(P2018-533813A)
(43)【公表日】2018年11月15日
(86)【国際出願番号】DE2016100446
(87)【国際公開番号】WO2017067535
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2019年6月4日
(31)【優先権主張番号】102015117715.3
(32)【優先日】2015年10月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512158435
【氏名又は名称】シノギー・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CINOGY GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】トルトビグ、レオンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ハーンル、ミルコ
(72)【発明者】
【氏名】ストーク、カール−オット
(72)【発明者】
【氏名】バンドケ、ディルク
(72)【発明者】
【氏名】コップ、マティアス
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−123159(JP,A)
【文献】
特表2014−505553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/03
A61N 1/40
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟な平面状の電極(1)と、平面状の柔軟な材料からなる誘電体(2)であって、直接的な通電を妨げる層(3)を備え、前記電極(1)を処理されるべき表面から遮蔽する誘電体(2)とを有する、カウンター電極として利用される導電性の物体の表面の誘電体バリア放電プラズマ処理のための電極機構であって、
前記誘電体(2)は突起を有する構造体を介して処理されるべき表面に載置することができ、それぞれの突起の間にプラズマの形成のための空気スペースが構成され、前記構造体が、空気スペースを形成するチャンバ(9)を有する格子構造体(6)であり、前記チャンバ(9)は、直接的な通電を妨げる前記誘電体(2)の前記層(3)による底面において閉鎖され、処理されるべき表面に向かって開いた側を有しており、前記チャンバ(9)は、0.1〜1.0mmの材料厚みおよび0.5〜3mmの高さを有する壁部(7,8)に互いに接し合うことによって区切られ、処理されるべき表面上に載置するための当接面は前記格子構造体(6)の前記壁部(7,8)の端部エッジ(10)からなっており、前記壁部(7,8)の材料厚みは前記チャンバ(9)の最大の幅の20%未満を占めることを特徴とする電極機構。
【請求項2】
前記格子構造体(6)は多数の壁部(7,8)の互いに角度をなす群からなっており、そのうちそれぞれ互いに交差する2つの壁部ペア(7,8)によってそれぞれ1つのチャンバ(9)が区切られることを特徴とする、請求項1に記載の電極機構。
【請求項3】
前記群の前記壁部(7,8)は互いに平行に延びていることを特徴とする、請求項2に記載の電極機構。
【請求項4】
2つの群の前記壁部(7,8)が存在し、その壁部(7,8)が互いに垂直をなすことを特徴とする、請求項3に記載の電極機構。
【請求項5】
前記壁部(7,8)は断面で見て正方形のチャンバ(9)を区切ることを特徴とする、請求項4に記載の電極機構。
【請求項6】
前記チャンバ(9)は円形、楕円形、または多角形、特にハニカム状の断面を有するように形成されることを特徴とする、請求項1に記載の電極機構。
【請求項7】
前記壁部(7,8)の材料厚みはチャンバ(9)の最大の幅の10%未満を占めることを特徴とする、請求項1に記載の電極機構。
【請求項8】
前記壁部(7,8)の材料厚みは0.4〜0.6mmであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の電極機構。
【請求項9】
直接的な通電を妨げる前記誘電体(2)の前記層(3)の上の前記壁部(7,8)の高さは1〜2mmであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の電極機構。
【請求項10】
前記格子構造体(6)は直接的な通電を妨げる前記誘電体(2)の前記層(3)と一体的に構成されていることを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載の電極機構。
【請求項11】
前記格子構造体(6)は別個の部品として製作されて、直接的な通電を妨げる前記誘電体(2)の前記層(3)に付加されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載の電極機構。
【請求項12】
平面状の前記電極(1)はその面にわたって配分された貫通孔(11)を有しており、前記電極(1)を遮蔽する前記誘電体(2)は平面状の前記電極(1)の両方の側に延びるとともに、処理されるべき表面から流体を排出するために構成された貫通孔(12)を備えており、該貫通孔が前記電極(1)の前記貫通孔(11)と一直線上に並ぶとともに、前記電極(1)の前記貫通孔(11)よりも小さい寸法を有しており、それにより前記誘電体(2)は前記貫通孔(11)の領域でも前記電極(1)を全面的に覆うことを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載の電極機構。
【請求項13】
直接的な通電を妨げる前記層(3)の前記貫通孔(12)は前記格子構造体(6)のチャンバ(9)と一直線上に並ぶことを特徴とする、請求項12に記載の電極機構。
【請求項14】
前記構造体(6)は誘電性材料でできていることを特徴とする、請求項1から13のいずれか1項に記載の電極機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟な平面状の電極と、直接的な通電を妨げる層によって電極を処理されるべき表面から遮蔽する、平面状の柔軟な材料からなる誘電体とを有する、カウンター電極として利用される導電性の物体の表面の誘電体バリアプラズマ処理のための電極機構に関するものであり、誘電体は突起を有する構造体を介して処理されるべき表面に載置することができ、その際にそれぞれの突起の間にプラズマの形成のための空気スペースが構成される。
【背景技術】
【0002】
このような種類の電極機構は特許文献1から公知である。その構造は、不規則に湾曲した表面にも合わせて適合化可能である、平面状で柔軟な電極機構の構成を可能にし、それにより、プラズマ処理を実施するために、この電極機構を当該表面の上に載置することができる。その際にプラズマが発生できるようにするために、誘電体は突起を有する構造体を備えるように構成されており、これらの突起をもって電極機構が表面に載置され、それにもかかわらず、それぞれの突起の間の空気スペースでプラズマを形成することができる。「空気スペース」とは、ここでは、および本件出願の枠内においては、通常は空気で満たされているが、特定の利用ケースについては特別なプラズマを形成するために適当なガスで満たすことができる空隙スペースを意味する。突起を備えるように構成される誘電体の構造体は、電極からの直接的な通電を妨げる層と一体的に構成されていてよく、または機械式、形状接合式、および/もしくは物質接合式にこの層と結合することができる別個のコンポーネントとして製作されていてよい。平面状で柔軟な電極が誘電体に全面的に埋設されるのが好ましく、誘電体は2つの層で成り立つことができ、これらの間に電極が−比較的小さい平面状の広がりをもって−挿入され、これに続いて誘電体の両方の層が互いに結合される。このことは、分離面の領域で誘電体の材料を溶融させることによって、あるいは適当な絶縁性接着剤を使用することによって、物質接合式に行うことができる。別の実施形態では、ワイヤ格子から形成されていてよい平面状の電極が誘電体の材料により、電極機構の成形のために射出成形または注型方法で被覆される。
【0003】
公知の電極機構は成果が実証されており、特に、人間や動物の身体の皮膚表面を処理するためにも好適である。プラズマ処理によって治療上や美容上の作用物質をより良く吸収させることができ、それによってプラズマ処理が、追求される治療上や美容上の作用を強化する。さらにプラズマ処理は微生物を破壊し、特に殺菌作用と殺真菌作用を皮膚で及ぼすので、効果的な殺菌のためにも作用する。
【0004】
医療上や美容上の作用物質による皮膚の処理について、これが電極機構との組み合わせで皮膚に印加されることは容易に推考されるところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許第102009060627B4号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明の根底にある問題設定は、成果が実証されている公知の電極機構を、それによって実現可能な利点を含めて維持しながら、美容や医療の分野でのその完成可能性と適用可能性に関していっそう改良することにある。
【0007】
この課題を解決するために、本発明によると、冒頭に述べた種類の電極機構は、構造体が、空気スペースを形成す
るチャンバを
有する格子構造体であり、これらのチャンバは、直接的な通電を妨げる誘電体の層による底面側の閉鎖部と、処理されるべき表面に向かって開いた
側を有しており、
チャンバは、0.1〜1.0mmの材料厚みおよび0.5〜3mmの高さを有する壁部に互いに接し合うことによって区切られ、処理されるべき表面
上で載置するための当接面は格子構造体の壁部の端部エッジからなっていることを特徴とする。
【0008】
空気スペースを定義する電極機構の構造体を格子構造体として構成することは、電極からの直接的または導電的な通電を妨げる誘電体の連続する層と、処理されるべき表面との間の間隔の遵守を、好ましくは再吸収をしない材料からなる、すなわち液体を吸収しない、非常に柔軟で軽量の構造体によって可能にする。その際の好適な材料は柔軟なシリコンであり、特に、SILPURAN(登録商標)の商品名でWacker Chemie社から販売されているシリコンである。それによって本発明の電極機構は、液体が表面に存在している表面の処理や、たとえば皮膚の創傷の場合に該当し得るような、液体が発生する表面の処理にも適している。このように本発明による電極機構は創傷被覆としても適している。材料が創傷や創傷分泌物と結合することがなく、それにより電極機構の取外しのときに、生じている治癒層の裂開を引き起こすことがないからである。
【0009】
本発明の好ましい実施形態では、互いに角度をなす壁部を有する−好ましくは2つの−壁部群が、互いに交差する壁部ペアによって区切られる空気スペースとしてのチャンバを構成する。このとき本発明の格子構造体は、それぞれ互いに平行に延びる2つの群の壁部によって形成されるのが好ましく、両方の群の壁部が互いに交差する。それにより、両方の群のそれぞれ2つの壁部によって区切られる、長方形あるいは菱形のチャンバが空気スペースとして生じ得る。格子構造体の
材料は原則として任意であり、たとえば程度の差こそあれ導電性であってよい。しかしながら格子構造体は、誘電体の材料と同一または類似していてよい誘電性材料からなるのが好ましい。
【0010】
それぞれ互いに平行に延びる2つの群の壁部によるチャンバの構成は、統一された壁厚を有する壁部で区切られる、常に等しい大きさのチャンバが形成されるという利点がある。格子構造体が六角形のハニカムからなるハニカム構造体であるときも、これと同じ効果を実現することができる。
【0011】
好ましい実施形態では、壁部の両方の群は互いに垂直をなしており、それにより長方形の、好ましくは正方形のチャンバが形成される。
【0012】
あるいは本発明では、格子構造体は、円形、楕円形、または多角形の断面を有するチャンバを有することもできる。その場合、このようなチャンバの互いに接し合う壁部は、同じく空気スペースとしての役目を果たすことができる楔形間隙を形成し、それにより、この格子構造体は複数のサイズのチャンバを、特に2つのサイズのチャンバを有することになる。ただしこの場合、楔形間隙スペースを壁部材料で充填して、格子構造体の安定性を高めることも可能である。このケースでは、チャンバは等しい基本壁厚を有する壁部によって区切られるが、この壁部が楔形間隙領域では肉厚に構成される。
【0013】
壁部はそれぞれ同一の高さを有するのが好ましく、それにより、側方で閉じられるとともに、処理されるべき表面の上に電極機構が載置されたときに閉鎖された空気スペースを形成するチャンバが形成される。実験が明らかにしたところでは、このような種類の閉鎖されたチャンバ内でも適切なプラズマを形成することができる。このことは、チャンバが処理材料で部分的に満たされる場合にはなおのこと該当する。この材料は軟膏やペースト形状で、あるいは吸収可能な多孔性の固体として、チャンバに挿入することができ、チャンバが完全に満たされていなければ、引き続き適切なプラズマを生成可能である。
【0014】
本発明による格子構造体は、壁部の材料厚みがチャンバの最大幅の20%未満、好ましくは10%未満を占めているときに特別に好ましい。このようにして、非常に大きい容積がプラズマ形成のために提供され、それにもかかわらず、格子構造体が確実な間隔保持のために作用する。
【0015】
壁部の材料厚みは、好ましくは0.05〜3mm、さらに好ましくは0.1〜1.0mm、特に0.4〜0.6mmである。このとき通電を妨げる誘電体の層に対する壁部の高さが0.1〜5mm、好ましくは0.5〜3mm、特に1〜2mmであると、非常に柔軟な材料の場合にも、格子構造体による間隔保持の所望の安定性が実現される。
【0016】
格子構造体は、電気回路を妨げる誘電体の層と一体的に構成されていてよい。このような構成は注型方法で製作可能である。あるいは本発明による格子構造体は、3D印刷方法でプロトタイプのような形式での迅速な作成をも可能にする。
【0017】
本発明による格子構造体は、これと同じ方式で、すなわち注型方法または3D印刷方法で、別個の部品として製作することもでき、それから直接的または導電的な通電を妨げる層に付加される。その場合、格子構造体と誘電体の層との間の固定的な結合部の製作は通常の仕方で行うことができ、すなわちハウジング構造で機械式に、形状接合式に、および/または物質接合式に、後者では接着や溶接により行うことができる。格子構造体の別個の製作は、特に創傷の処理の場合に、創傷と接触する電極機構の部分の容易な交換可能性を可能にするという利点を有することができ、別個の部品は取外し可能な使い捨て部品として利用可能であり、あるいは容積が小さいので簡単に殺菌することもできる。
【0018】
特に創傷処理に好適な電極機構として、平面状の電極がその面にわたって配分された貫通孔を有しており、電極を遮蔽する誘電体が平面状の電極の両方の側に延びるとともに、処理されるべき表面から流体を排出するために構成された貫通孔を備えており、該貫通孔が電極の貫通孔と一直線上に並ぶとともに、電極の貫通孔よりも小さい寸法を有しており、それにより誘電体が貫通孔の領域でも電極を全面的に覆う実施形態が好ましい。このような貫通孔を通して創傷分泌物を運び出すことができ、導電性の創傷分泌物を介して電極から皮膚への破裂放電が起こる危険がない。さらに貫通孔は、処理されるべき表面へ、場合により空気流としてガス流を誘導するために利用することができる。いずれの場合にも貫通孔は、連続する層の領域で格子構造体のチャンバと一直線上に並ばせるのが好都合である。
【0019】
本発明による格子構造体は、創傷と直接的に接触させるために適していてよい。しかしながら、十分な価値のある創傷被覆をなす創傷被覆材料からなる薄い層を格子構造体に装着することも可能である。創傷被覆材料は、それが開放気孔であり、それに伴ってプラズマの形成を格子構造体の内部で可能にするときには、格子構造体の内部にあってもよい。
【0020】
次に、図面に示されている実施例を参照しながら本発明について詳しく説明する。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明による電極機構の第1の実施例を示す垂直断面図である。
【
図2】第1の実施形態に基づく電極機構の変形例を示す垂直断面図である。
【
図3】第1の実施形態の電極機構の平坦な電極の高さで示す水平断面図である。
【
図4】第2の実施例に基づく電極機構を示す垂直断面図である。
【
図5】第2の実施形態に基づく電極機構を示す模式的な分解図である。
【
図6】第3の実施形態に基づく電極機構の構造体を示す模式的な平面図である。
【
図7】第4の実施形態に基づく電極機構の構造体を示す模式的な平面図である。
【
図8】第5の実施形態に基づく電極機構の構造体を示す模式的な平面図である。
【
図9】第6の実施形態に基づく電極機構の構造体を示す模式的な平面図である。
【
図10】第7の実施形態に基づく電極機構の構造体を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
第1の実施形態に基づく電極機構を示す垂直断面図は、誘電体2によって全面で取り囲まれた、平面状で柔軟な金属の電極1を示している。特に誘電体は、処理されるべき表面のほうを向く下側の層3と、 処理されるべき表面から離れるほうを向く上側の表面4とを構成する。誘電体2は全面で電極1よりも大きく寸法決めされており、それにより、誘電体2が電極1を全面で覆うことがもたらされる。特に下側の層3は、電極1と(図示しない)処理されるべき表面との間の直接的な(導電的な)通電を妨げる層3である。
【0023】
図1に認めることができる通り、上側の層4は電極1の縁部領域に切欠き5を有していて、これを介して電極1に高圧を供給可能である。
【0024】
下側の層3には、互いに平行に延びる壁部7,8によって形成される格子構造体の形態の構造体6が誘電体に一体的に後続しており、一方では壁部7が、他方では壁部8がそれぞれ互いに平行に延びており、壁部7と8は互いに垂直をなしている。それぞれ2組の壁部7および8の間に、それぞれ長方形の、好ましくは正方形のチャンバ9が生じており、このチャンバは底面側では、電極1からの直接の通電を妨げる下側の層3によって閉鎖されている。他方の側に向かっては、チャンバ9は開いている。したがって、好ましくは等しい高さに構成される壁部7,8が処理されるべき表面に当接すると、その端部エッジ10が、処理されるべき表面への格子状の当接面を形成する。
【0025】
さらに
図1に認められる通り、電極1は貫通孔11を有しており、そこに誘電体2のさらに小さい貫通孔12がセンタリングされて存在する。このように電極1の貫通孔11はほぼ全面的に、すなわち小さいほうの貫通孔12を除いて充填され、それにより貫通孔12の領域でも、電極1は誘電体2によって全面的に遮蔽される。
【0026】
貫通孔11,12はそれぞれ1つのチャンバ9と一直線上に並ぶのが好ましく、処理されるべき表面から該当するチャンバ9を通過して流体の、特に液体の排出を可能にする。
【0027】
このように構成される電極機構は、特に、創傷を含んでいる皮膚表面を処理するのに好適であり、創傷分泌物を貫通孔12を通して電極機構の遠位の表面へと排出可能である。
【0028】
図2に示す、
図1に示す電極機構の実施形態の変形例は、チャンバ9が材料13で、すなわち治癒や皮膚ケアの物質で、たとえばコラーゲンで、あるいは液体を吸い込む材料で、満たされていてよいことを示しているにすぎず、この材料は脱脂綿状に構成されていてよく、したがって、チャンバ9の中でプラズマを形成するための十分な空気スペースを依然として保証する。コラーゲンのように多孔性でない材料や繊維状でない材料は、プラズマの形成のための十分な空気チャンバが残るようにするために、チャンバ9を部分的にのみ埋めるのがよい。
【0029】
たとえば皮膚適合的な適切なシリコンのような疎水性の材料からなる格子構造体6を有する誘電体2の形成は、皮膚表面または創傷への電極機構の直接的な載置を可能にする。このケースでは、壁部7,8の端部エッジ10が皮膚表面または創傷の上に直接載置される。疎水性の材料によって創傷分泌物による格子構造体6の粘着が回避され、それにより、創傷を再び開裂させることなく、電極機構を創傷から取外し可能である。
【0030】
あるいは、格子構造体6の壁部7,8の端部エッジ10の上に、たとえばガーゼ層の形態の創傷被覆材料を装着することも可能であり、それによって滅菌された創傷被覆を保証する。
【0031】
図1に示す電極機構の水平断面の
図3の図面は、電極1が接続ラグ14を構成し、切欠き5を通過してここで接触を行うことができる成形状態を認めさせる。接続ラグ14の領域でも、電極1は全面で−切欠き5を例外として−誘電体2により取り囲まれており、それにより誘電体もラグ構造体15を形成する。ラグ構造体15には、円筒状の閉止部分17を備える柔軟な帯材16が一体成形されている。円筒状の閉止部分17のサイズは切欠き5のサイズに相当しており、電極機構が接触されていないときに切欠き5を閉止する役目を果たす。
【0032】
図3に認められるように、誘電体は実質的に長方形に構成された電極1をフレーム状に取り囲み、電極1から全面で突き出している。図示した実施例では、電極1から突き出ている誘電体2の帯状の領域に、さらに別の貫通孔12’が配置されており、この貫通孔も同じく処理されるべき表面の、特に創傷に由来する創傷分泌物の、気体または液体の物質の排出の役目を果たす。
【0033】
電極1の接続ラグ14と誘電体2のラグ構造体15がある電極機構の領域は、処理されるべき表面の上への載置のために設けられるのでないことは明らかであり、したがって、
図1および
図2ではこの領域に格子構造体6もない。
【0034】
図4は、本発明による電極機構の第2の実施形態の
図1に対応する垂直断面図を示している。この実施形態は
図1に示す実施形態と同一であり、誘電体の上側の層4に格子構造体6の上方で装着された、創傷分泌物吸収性の材料からなる層18を有しているにすぎない。この層18は、誘電体2と接着などによって結合されていてよく、あるいは、電極機構が処理されるべき表面の上で固定される二次包帯の一部であってもよい。
【0035】
第2の実施形態に基づく電極機構の構造は、
図5に分解図を用いて図解されている。処理されるべき表面と反対を向いている側に、創傷分泌物吸収性の材料からなる層18がある。この層18を除けば、
図1に示す電極機構の第1の実施形態がもたらされる。
【0036】
層18の下方に、内側輪郭19をもって平面状の電極1を収容する、誘電体2の上側の層4がある。電極1の他方の側には、誘電体2の下側の層3およびその上に装着された、互いに交差する壁部7,8からなる格子構造体6が構成されている。
【0037】
図5の分解図は図解の役目を果たすにすぎず、リアリティを完全に反映しているわけではない。層3,4を備える誘電体2は、通常の場合、単一の方法ステップで電極1の注型被覆によって製作されるからであり、それは特に、電極1の貫通孔11の内部で、小さな貫通孔12を除いて連続する全面的な絶縁を誘電体2によって保証するためである。ただし原則としては、誘電体2を2つの層3,4から製作することも考えられ、それは、たとえば創傷分泌物の排出が必要ないと考えられるときに、貫通孔11,12を省略しようとする場合である。これに加えて、フレーム状の電極
1の縁取り領域で、あるいは誘電体2の貫通孔12を維持しながら貫通孔11を通過するように、両方の層3,4を突合せ抵抗溶接プロセスによって互いに材料接合式に結合することも当然ながら可能である。
【0038】
図示した実施例では、格子構造体6は誘電体2と一体的に図示されているが、格子構造体6を別個に製作して、誘電体2の下側の層3に固定するのが好ましい場合もあり得る。格子構造体の製作は相応の鋳型を用いた注型によって、あるいは3D印刷によって行うことができる。別個に製作された格子構造体6を容易に交換可能な仕方で下側の層3へ固定することは、滅菌性の理由から望ましい場合がある格子構造体6の取替を、それ以外の点での電極機構の処理を維持しながら可能にする。
【0039】
好ましくは交流電圧として適用される、プラズマ生成のために必要な高圧を供給するための電極機構の接触は、切欠き5で露出している電極1の面を確実に全面的に絶縁するマウス状の接続端子を用いて行われ、それにより、高圧の供給を受ける電極1の偶発的な接触が排除される。好適な接触装置が国際公開第2012/175066A1号明細書に記載されて図面に示されているので、これを引用して再度の説明は省略することができる。
【0040】
図6〜
図10には、構造体6の形状によって区別される、本発明による電極機構のさらに別の実施形態が示されている。
【0041】
図6に示す第3の実施形態では、構造体6のチャンバ9がハニカム状に、すなわち等辺六角形に構成されている。このようにしてチャンバ9は隙間なく互いに接し合い、一定の壁厚の壁部20によって互いに分離される。構造体6は周回する閉鎖壁21によって縁取りされる。それ以外の点では第1および第2の実施形態と一致するこの実施形態でも、誘電体2を通って貫通孔12が延びることができ、これが平面状の電極1の大きい貫通孔11と一直線上に並ぶ。
【0042】
図7に示す電極機構の第4の実施形態は、
図6に示す第3の実施形態の構造に対応しているが、周回する閉鎖壁21なしに構成されており、それにより構造体6は、構造体6の縁部のところでチャンバ9のメアンダ状の壁部20によって区切られる。ここでも構造体6は両方の平面状の広がりに関して、電極1のそれぞれの広がりを超えて延びており、それにより構造体6が電極1から平面的に全周で突き出す。
【0043】
図8に示す第5の実施形態ではチャンバ9が円形に構成されており、相応の中空円筒状の壁部22によって区切られる。壁部22は一定の壁厚で構成されているので、各チャンバ9の間には楔形チャンバ23が生じていて、その中で同じくプラズマを形成することができる。電極機構のその他の構造は、上述した各実施形態に対応している。
【0044】
図9に示す第6の実施形態では、チャンバ9が同じく円形に構成されているが、各チャンバ9の間の中間スペースを全面的に充填し、それに伴って、相応に変化する壁厚を有する壁部24によって区切られる。この実施形態では、壁部24は
図8の実施形態におけるよりも多くの材料によって形成される。材料の追加消費量は、
図9の実施形態では1つの行または列のチャンバ9が、隣接する行または列のチャンバ9に対してそれぞれチャンバ幅の半分だけオフセットされて配置されることによって制限されており、それに対して
図8の実施形態では、各チャンバが水平の行または垂直の列を形成する。
図9の実施形態では材料コストが高くなるが、それと対照的に製造は簡素化される。
【0045】
図10の第7の実施形態では、
図9の第6の実施形態と同じように円形のチャンバ9が、隣接してオフセットされて配置されており、小さい楔形スペース25が生じており、これが中実の三角形の材料または相応の三角形の中空円筒によって充填されていてよい。この実施形態の電極機構の構造は、その他の点では上述した各実施形態の構造に対応する。
【0046】
容易に明らかな通り、全周で閉じられたチャンバ9を備えるこれ以外の構造体6を形成することもでき、このときチャンバ9はそれぞれ異なるサイズで構成されていてよく、このことは
図8では、そこに図示されているチャンバ9および23ですでに該当している。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 柔軟な平面状の電極(1)と、直接的な通電を妨げる層(3)によって前記電極(1)を処理されるべき表面から遮蔽する、平面状の柔軟な材料からなる誘電体(2)とを有する、カウンター電極として利用される導電性の物体の表面の誘電体バリアプラズマ処理のための電極機構であって、前記誘電体(2)は突起を有する構造体を介して処理されるべき表面に載置することができ、その際にそれぞれの突起の間にプラズマの形成のための空気スペースが構成される、このような電極機構において、前記構造体が、空気スペースを形成する多数のチャンバ(9)を区切る、互いに接し合う壁部(7,8)からなる格子構造体(6)であり、前記チャンバ(9)は、直接的な通電を妨げる前記誘電体(2)の前記層(3)による底面側の閉鎖部と、処理されるべき表面に向かって開いた側とを有しており、処理されるべき表面とのその当接面は前記格子構造体(6)の前記壁部(7,8)の端部エッジ(10)からなっていることを特徴とする電極機構。
[2] 前記格子構造体(6)は多数の壁部(7,8)の互いに角度をなす群からなっており、そのうちそれぞれ互いに交差する2つの壁部ペア(7,8)によってそれぞれ1つのチャンバ(9)が区切られることを特徴とする、[1]に記載の電極機構。
[3] 前記群の前記壁部(7,8)は互いに平行に延びていることを特徴とする、[2]に記載の電極機構。
[4] 2つの群の前記壁部(7,8)が存在し、その壁部(7,8)が互いに垂直をなすことを特徴とする、[3]に記載の電極機構。
[5] 前記壁部(7,8)は断面で見て正方形のチャンバ(9)を区切ることを特徴とする、[4]に記載の電極機構。
[6] 前記チャンバ(9)は円形、楕円形、または多角形、特にハニカム状の断面を有するように形成されることを特徴とする、[1]に記載の電極機構。
[7] 前記壁部(7,8)の材料厚みはチャンバ(9)の最大の幅の20%未満を占めることを特徴とする、[1]から[6]のいずれか1項に記載の電極機構。
[8] 前記壁部(7,8)の材料厚みはチャンバ(9)の最大の幅の10%未満を占めることを特徴とする、[7]に記載の電極機構。
[9] 前記壁部(7,8)の材料厚みは0.1〜1.0mmであることを特徴とする、[1]から[8]のいずれか1項に記載の電極機構。
[10] 直接的な通電を妨げる前記誘電体(2)の前記層(3)に対する前記壁部(7,8)の高さは0.05〜3.0mmであることを特徴とする、[1]から[9]のいずれか1項に記載の電極機構。
[11] 前記格子構造体(6)は直接的な通電を妨げる前記誘電体(2)の前記層(3)と一体的に構成されていることを特徴とする、[1]から[10]のいずれか1項に記載の電極機構。
[12] 前記格子構造体(6)は別個の部品として製作されて、直接的な通電を妨げる前記誘電体(2)の前記層(3)に付加されることを特徴とする、[1]から[10]のいずれか1項に記載の電極機構。
[13] 平面状の前記電極(1)はその面にわたって配分された貫通孔(11)を有しており、前記電極(1)を遮蔽する前記誘電体(2)は平面状の前記電極(1)の両方の側に延びるとともに、処理されるべき表面から流体を排出するために構成された貫通孔(12)を備えており、該貫通孔が前記電極(1)の前記貫通孔(11)と一直線上に並ぶとともに、前記電極(1)の前記貫通孔(11)よりも小さい寸法を有しており、それにより前記誘電体(2)は前記貫通孔(11)の領域でも前記電極(1)を全面的に覆うことを特徴とする、[1]から[12]のいずれか1項に記載の電極機構。
[14] 直接的な通電を妨げる前記層(3)の前記貫通孔(12)は前記格子構造体(6)のチャンバ(9)と一直線上に並ぶことを特徴とする、[13]に記載の電極機構。
[15] 前記構造体(6)は誘電性材料でできていることを特徴とする、[1]から[14]のいずれか1項に記載の電極機構。