特許第6774087号(P6774087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6774087-海洋浮体構造物の船体 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6774087
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】海洋浮体構造物の船体
(51)【国際特許分類】
   B63B 3/16 20060101AFI20201012BHJP
   B63B 3/20 20060101ALI20201012BHJP
   B63B 11/02 20060101ALI20201012BHJP
   B63B 25/08 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B63B3/16
   B63B3/20
   B63B11/02
   B63B25/08 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-82874(P2020-82874)
(22)【出願日】2020年5月8日
【審査請求日】2020年5月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520161539
【氏名又は名称】山内 剛太
(74)【代理人】
【識別番号】100121795
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴亀 國康
(72)【発明者】
【氏名】山内 剛太
【審査官】 福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−099986(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0002212(KR,A)
【文献】 特開2006−069355(JP,A)
【文献】 特開2001−138982(JP,A)
【文献】 特開2009−286166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 3/16
B63B 3/20
B63B 11/02
B63B 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋浮体構造物の船体であって、その横断面が、甲板下に延在する一定の船幅が一定の深さ保持され、その後深くなるに従い漸減する拡幅域と、前記船体の総トン数の測度を所定値に保持するように、前記拡幅域に続く船底側の船底に向けて船幅が漸減する減幅域からなり、
満載喫水線が前記拡幅域の船幅が一定の深さ保持される部分に設定され、軽荷喫水線が前記減幅域部分に設定される船体。
ここで総トン数の測度は、船舶のトン数の測度に関する法律施行規則による。
【請求項2】
船体は、二重底構造を有し、減幅域の船幅漸減に伴って総トン数が減少する部分の主要部が前記二重底構造部分にあることを特徴とする請求項1に記載の船体。
【請求項3】
船体の総トン数の測度を所定値に保持する基準船幅を越える拡幅域の範囲にあって、船幅が一定の深さ保持される浮力向上分画a1と、船幅が深くなるに従い漸減する接続分画a2との割合を、a2/(a1+a2)=0.2〜0.4 とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の船体。
【請求項4】
船体は液体貨物用のタンクを備える二重底構造を有し、前記タンクは、その底面、側面及び天面が、それぞれ前記二重底構造の内底板、船側外板に沿って設けられる傾斜側内板及び隔壁甲板により形成され、横断面形状が等脚台形状であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の船体。
【請求項5】
液体貨物用のタンクが設けられた二重底構造を有する船体であって、
前記タンクは、その底面、側面及び天面が、それぞれ前記二重底構造の内底板、船側外板に沿って設けられる傾斜側内板及び隔壁甲板により形成され、横断面形状が船底に向けて末広がりになった等脚台形状である船体。
【請求項6】
傾斜側内板は、その下方部が船体中心線に向け屈折して内底板に接合されてなることを特徴とする請求項5に記載の船体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、艀、桟橋などの海洋浮体構造物の船体の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、艀、桟橋などの海洋浮体構造物の船体はその用途・機能に応じて適切な構造が採用されるが、船体横断面形状は一般的に箱形に形成される。しかしながら、船体抵抗の減少、船体の横揺れ安定性能の向上、針路安定性能の向上等を目的として船首、船尾又は船底部分の改善が提案されており、かかる部分は必ずしも箱形になっていない。
【0003】
例えば、特許文献1に優れた安定性を有し効果的に横揺れを制御することができ、15ノットの速度を有する遠洋航海用船舶及び該遠洋航海用船舶の船体に係る提案がなされている。すなわち、排水型の遠洋航海用船舶の船体であって、喫水線より下方の断面において実質的に矩形バージ型の一定断面で底部の平らな船体中央セクションと、該船体中央セクションから延びて収束するボウとを備え、該ボウは、底部と各船側との間にカーブした移行部を有し、前記船体中央セクションの船底湾曲部に沿う前記底部と船側との間の移行部は比較的先鋭であり、曲率半径が0.5m未満である船体が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、船体の横断面形状が概略箱形形状の本体部分に続く船尾部の横断面形状において、キールラインを頂点とし設定喫水線を底辺とするする概略三角形状とし、前記頂点の高さが船尾端に向かって次第に高くなる形状を有する船体が提案されている。この船体は、針路安定性能を向上させるとともに、船体の縦揺れ等に関する波の衝撃を低減できるとされる。
【0005】
特許文献3には、船体が、船首部と、前記船首部の後方に接続された船体平行部と、前記船体平行部の後方に接続された船尾部とを有する船体構造であって、前記船体平行部のビルジ部の横断面形状が直線状であり、前記船首部と前記船尾部のビルジ部の横断面形状が曲線を含む船体構造が提案されている。この船体構造は、稼働時における横揺れの安定性と移動時における抵抗性能とを満たし、かつ製造コストを抑えることができるとされる。
【0006】
一方、船体の横断面形状は全体として箱形であるが、上記特許文献1〜3に記載の船形と異なる横断面形状を有する船体に係る提案がされている。例えば、特許文献4に、水中観光船において、前後方向に延びる水中キャビンの上半部両側に左右一対のフロート室を形成した水中観光船が提案されている。この水中観光船は、船体の傾斜に対する復元力及び安定性が高いとされ、船体を90度傾斜させても確実に復元するとされる。また、水中キャビンへの浸水も吃水線まで達すれば止まるとされる。
【0007】
特許文献5には、内部にコンテナ収容空間を有し、上面にコンテナを積載するメイン積載面が形成されている船体と、前記船体の両側にそれぞれ設置され、上面に上記メイン積載面に対応して共にコンテナを積載することができるサブ積載面が形成され、下側縁が前記船体の軽荷喫水線以下まで延伸している2つの付加構造体と、を備えるコンテナ船が提案されている。このコンテナ船は、コンテナ積載量を増やし、航行の安定性を向上させることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002-526323号公報
【特許文献2】特開2018-122711号公報
【特許文献3】特開2018-131173号公報
【特許文献4】特開平6-278683号公報
【特許文献5】特開2011-219081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
国際海事機関(IMO)を通じて締結された条約や議定書等に基づいて、船舶の安全確保、環境保全・改善あるいは乗組員の居住環境の改善などを目的として、法律改正が行われ、船舶はその改正法に従った船体構造が求められている。例えば、1966年の満載喫水線に関する国際条約に係る1988年議定書の2003年関係法令の整備などがある。かかる法令による船首部の保護強化、船員の安全な通行などの要求に対し、所要の貨物室を確保するため船体を大きくして対応する案が考えられる。しかしながら、船舶の総トン数は、我が国の海事関係制度において船舶の大きさを表すための主たる指標として用いられるところ(船舶のトン数の測度に関する法律)、最近の船舶の船体構造は、法律で規定される総トン数区分の上限範囲で設定される傾向がある。このため、上記特許文献1〜5に示すような用途・機能に応じた適切な船体構造を採用することが困難な状況にあり、総トン数を所定の範囲に維持しつつ、改正法に対応可能な船体構造が求められている。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点又は要請に鑑み、総トン数を所定の範囲に維持するとともに、船体の安定性や横揺れ防止性能を確保しつつ、所要の安全設備、交通路又は作業性の確保が可能な船体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る海洋浮体構造物の船体は、船体の横断面が、甲板側の船幅が一定の深さ保持され、その後深くなるに従い漸減する拡幅域と、前記船体の総トン数の測度を所定値に保持するように、船底側の船底に向けて船幅が漸減する減幅域からなり、満載喫水線が前記拡幅域の船幅が一定の深さ保持される部分に設定され、軽荷喫水線が前記減幅域部分に設定される。ここで総トン数の測度は、船舶のトン数の測度に関する法律施行規則による。
【0012】
上記発明において、船体は、二重底構造を有し、減幅域の船幅漸減に伴って総トン数が減少する部分の主要部が前記二重底構造部分にあるものとすることができる。
【0013】
また、船体の総トン数の測度を所定値に保持する基準船幅を越える拡幅域の範囲にあって、船幅が一定の深さ保持される浮力向上分画a1と、船幅が深くなるに従い漸減する接続分画a2との割合を、a2/(a1+a2)=0.2〜0.4 とすることができる。
【0014】
また、上記発明において、船体は液体貨物用のタンクを備える二重底構造を有し、前記タンクは、その底面、側面及び天面が、それぞれ前記二重底構造の内底板、船側外板に沿って設けられる傾斜側内板及び隔壁甲板により形成され、横断面形状が等脚台形状であるものとすることができる。
【0015】
また、本発明に係る船体は、液体貨物用のタンクが設けられた二重底構造を有する船体であって、前記タンクは、その底面、側面及び天面が、それぞれ前記二重底構造の内底板、船側外板に沿って設けられる傾斜側内板及び隔壁甲板により形成され、横断面形状が等脚台形状である船体とすることができる。この船体において、傾斜側内板の下方部が船体中心線に向け屈折して内底板に接合されてなるものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、総トン数を所定の範囲に維持するとともに、船体の安定性や横揺れ防止性能を確保しつつ、所要の安全設備、交通路又は作業性の確保が可能な船体構造を提供することできる。そして、この船体は船舶に限らず、艀、桟橋など海洋浮体構造物に適用することができる。また、本発明に係る船体は、液体貨物を運搬する船舶において、船体の重心高さの低い、復元力に優れた船体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る船体の横断面を示す図面である。
図2】本発明に係る船体の横断面であって、減幅域の相殺分画が二重底構造部分に設けられる例の図面である。
図3】本発明に係る船体の横断面であって、船幅が直線状に減少する船側外板を有例の図面である。
図4】本発明に係る船体の横断面であって、船幅が直線状に減少する船側外板を有するとともに、減幅域の相殺分画が二重底構造部分に設けられる例の図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係る船体の横断面を示す。本船体10は、その横断面が甲板側の船幅が一定の深さ保持され、その後深くなるに従い漸減する拡幅域Aと、船体10の総トン数の測度を所定値に保持するように、船底側の船底に向けて船幅が漸減する減幅域Bからなる。この拡幅域Aと減幅域Bとの相殺により、船体10の総トン数の測度を所定値に保持する。そして、満載喫水線25が拡幅域Aの船幅が一定の深さ保持される部分に設定され、軽荷喫水線26が減幅域Bの部分に設定される。ここで総トン数の測度は、船舶のトン数の測度に関する法律施行規則による。なお、船体10の平面形状は公知の形状をしており、横断面は図1に示す船体中心線に対して対称である。
【0019】
図1に示すように、船体10は、船底外板11、船側外板13及び甲板15により外形が画定される。甲板15は、上甲板又は隔壁甲板であり、船体10が液体貨物用のタンクを備える場合は、隔壁甲板である。船体10が二重底構造を有する場合は、内底板12を有する。なお、一点鎖線で示す船体(111、121、131)は、従来の船体の横断面を示し、船底外板111、船側外板113及び甲板15により外形が画定される。その船体が二重底構造を有する場合は、内底板121を有する。
【0020】
本発明は、船舶の安全確保等の理由から従来と同様な貨物倉等を確保するのが困難な場合に、従来同様な貨物倉等の容積を確保しつつ、船体の安定性や横揺れ防止性能をも確保することを目的としている。このため、本船体10は、従来の船体に比較して、船幅を増大させる部分と減少させる部分を設けている。その船幅を増大させる部分が拡幅域Aである。拡幅域Aは、船幅が一定の深さ保持される横断面形状が矩形状の部分と、その後深くなるに従い漸減する横断面形状が等脚台形状の部分からなる。その横断面形状が矩形状の領域において、二重斜線部分は、従来の船体と比較して船体の安定性や横揺れ防止性能の向上を図る部分であり、浮力向上分画a1とされる。横断面形状が等脚台形状の領域において、二重斜線部分は、船体全体の横断面形状が船底側の減幅域Bに滑らかにつながるように設けられる接続分画a2である。
【0021】
図1において、C点は拡幅域Aから減幅域Bに替わる転換点である。すなわち、C-Cが船体10の総トン数の測度を所定値に保持する船幅であり、従来の船体の船幅である。船幅C-Cは、いわば基準船幅をいえる。減幅域Bは、従来の船体に対して増大させた容量分(浮力向上分画a1+接続分画a2)が相殺される領域(斜線部分、相殺分画b)である。船体10は、その相殺分画bほど従来の船体の横断面より小さくなっている。この減幅域Bは船幅を船底に向けて漸減させるように設けられるが、図2に示すように、相殺分画bはその主要部を船底側に設けることができる。特に二重底構造を有する船体10にあっては、相殺分画bが二重底内部(二重底部分)にあるように設けるのがよい。これにより貨物倉等の容量減少を抑制することができる。
【0022】
船側外板13は、拡幅域Aの船幅が漸減する部分と減幅域Bの船幅が漸減する部分が、直線状に減少する船幅を有するように設けるのが好ましい。これにより、船側外板13の加工が容易になる。しかしながら、図1及び図2に示す船側外板13は、浮力向上分画a1と接続分画a2の境界部分に曲げ加工が施されている。これは、拡幅域Aの一定の深さ保持される船幅を出来るだけ大きくするためである。
【0023】
本船体10において、満載喫水線25は、上述のように船幅が一定の深さ保持される部分に設定される。すなわち、満載喫水線25は浮力向上分画a1部分に設定される。これにより、船体10の安定性や横揺れ防止性能を確保することができる。軽荷喫水線26は、減幅域Bに設定されが、船幅が直線状に減少する船側外板13の部分に設定するのがよい。船幅が直線状に減少する船側外板13を有する船体の例を図3又は図4に示す。図4は、相殺分画bが船底側、特に二重底内に設けられる場合の例である。図3又は図4に示す船体10の場合は、半載喫水線27を拡幅域Aに設定することができるので好ましい。例えば、積荷の特性や顧客の特性によって、船舶の通常の積載量が満載積載量の50%又は80%である場合がある。かかる場合に半載喫水線27を拡幅域Aに設定することができるので好ましい。また、かかる場合において、浮力向上分画a1と、接続分画a2との割合を、a2/(a1+a2)=0.2〜0.4 とすることができる。
【0024】
本発明に係る船体10が、液体貨物の搬送に供される場合は、船体10は二重底構造を有するものとされる。すなわち、図1に示すように、液体を貯留するタンクを、二重底構造の内底板12、船側外板13に沿って設けられる傾斜側内板16及び隔壁甲板15により形成する。傾斜側内板16は、平板状で内底板12及び隔壁甲板15に連接されている。本タンクは、横断面形状が等脚台形状をしている。タンクの船首側及び船尾側は、それぞれ公知の船首隔壁、船尾隔壁により形成されている。かかるタンクは、タンク重心を深くすることができ、安定性に優れた船体を形成することができる。
【0025】
図1において、傾斜側内板14は、船体中心線に対して対称であって、従来の船体の船側縦通隔壁141の機能を有するように設けられている。しかしながら、傾斜側内板14と別途に船側縦通隔壁を設けることができる。傾斜側内板14の傾斜角θは、90°を越える角度(例えば、150°)にすることができる。また、図1において、傾斜側内板14は、傾斜した平板状で内底板12に接合されているが、安全規格(IMUCO規則)に基づいてその下方部を船体中央に向けて屈折させる場合(屈折部14a)がある。例えば、船体が液体化学薬品運搬船である場合は、貨物の危険性に対し船形タイプ1、2及び3に分類され、船形タイプ1、2においては、外板から貨物積載場所までの距離を760mm以上確保しなければならないことが規定されているからである。
【0026】
以上、本発明に係る船体10について説明した。本発明に係る船体10は、船舶のみならず、艀、桟橋などを含めた海洋浮体構造物に使用することができる。艀にあっては、高さ制限がある場合に所要の空間とともに船体の安定性を確保する手段として有効である。
【符号の説明】
【0027】
10 船体
11 船底外板
12 内底板
121 内底板
13 船側外板
131 船側外板
14 傾斜側内板
141 船側縦通隔壁
15 甲板
25 満載喫水線
26 軽荷喫水線
27 半載喫水線
【要約】      (修正有)
【課題】総トン数を所定の範囲に維持するとともに、船体の安定性や横揺れ防止性能を確保しつつ、所要の安全設備、交通路又は作業性の確保が可能な船体構造を提供する。
【解決手段】海洋浮体構造物の船体10は、船体の横断面が、甲板15側の船幅が一定の深さ保持され、その後深くなるに従い漸減する拡幅域と、前記船体の総トン数の測度を所定値に保持するように、船底側の船底に向けて船幅が漸減する減幅域からなり、満載喫水線25が前記拡幅域の船幅が一定の深さ保持される部分に設定され、軽荷喫水線26が前記減幅域部分に設定される。ここで総トン数の測度は、船舶のトン数の測度に関する法律施行規則による。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4