【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:平成29年5月18日 集会名:「ため池減災技術に関する講習会」 開催場所:茨城県つくば市観音台2−1−6 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究部門 防災研究棟緊急防災対策室
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、その目的の一は、複数の貯水池の連鎖決壊や同時決壊等によって生じる氾濫解析を容易に行えるようにした複数貯水池氾濫解析プログラム及びコンピュータで読み取り可能な記録媒体並びに記憶した機器、複数貯水池氾濫解析方法、複数貯水池氾濫解析装置を提供することにある。
【0011】
本発明の第1の形態に係る複数貯水池氾濫解析プログラムによれば、上流側に位置する上池と、上池よりも下流側に位置する下池を含む複数の貯水池が連鎖的に決壊する氾濫解析を行うための複数貯水池氾濫解析プログラムであって、上池及び下池の情報、並びに氾濫解析の対象となる地域の地形データを取得する機能と、上池及び下池の近傍を含む地図を表示部に表示させた状態で、上池及び下池に対して、破提時に水が流出する破堤位置と、下池の湖面に該当する領域をそれぞれ指定させる機能と、前記取得された上池情報に基づき、前記上池の破堤位置から流出される水の流出量を演算する機能と、演算された流出量の内、前記取得された地形データに基づいて、下池に流入される
下池流入量を演算する機能と、前記演算された下池流入量から、前記取得された下池情報に基づき、前記下池の水位と、前記下池の破堤位置から下流に流出する下池流出量を演算する機能とをコンピュータに実現させることができる。これにより、連鎖決壊の解析を容易に行えるようになる。特に、破堤位置を指定し、この位置からの流出量を演算すると共に、地形に応じて下池への流入量を計算することで、より柔軟な流量計算が実現される。
【0012】
また、第2の形態に係る複数貯水池氾濫解析プログラムによれば、上記に加えて、さらに、地表の高低差の情報を有し、上池から流出する不定流を演算する地表面レイヤーと、下池の満水面積の情報を有する下池レイヤーとを関連付けるレイヤー関連付け機能をコンピュータに実現させることができる。
【0013】
さらに、第3の形態に係る複数貯水池氾濫解析プログラムによれば、上記何れかに加えて、前記
下池流入
量を演算する機能が、前記関連付けられた地表面レイヤーの内
、下池湖面設定部により定義された下池湖面に該当する領域に流入する水量を、前記下池レイヤーの内で、前記下池湖面に該当する領域に、流入する水量として与えて演算する機能を含み、前記下池流出量を演算する機能が、前記下池レイヤーにおいて、下池の貯水量に基づいて、下池から流出する水量を演算し、該演算された下池から
流出する水量を、前記地表面レイヤーの、予め指定された下池の破堤位置から流出される水量として与えて演算する機能を含むことができる。
【0014】
さらにまた、第4の形態に係る複数貯水池氾濫解析プログラムによれば、上記何れかに加えて、前記表示部は、上池の破堤時からの流出量の時間変化を示すハイドログラフを表示させるためのハイドログラフ表示領域を含むことができる。
【0015】
さらにまた、第5の形態に係るコンピュータで読み取り可能な記録媒体又は記憶した機器は、上記プログラムを格納するものである。記録媒体には、CD−ROM、CD−R、CD−RWやフレキシブルディスク、磁気テープ、MO、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−R、DVD+R、DVD−RW、DVD+RW、Blu−ray(登録商標)、HD DVD(AOD)等の磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリその他のプログラムを格納可能な媒体が含まれる。またプログラムには、上記記録媒体に格納されて配布されるものの他、インターネット等のネットワーク回線を通じてダウンロードによって配布される形態のものも含まれる。さらに記憶した機器には、上記プログラムがソフトウェアやファームウェア等の形態で実行可能な状態に実装された汎用もしくは専用機器を含む。さらにまたプログラムに含まれる各処理や機能は、コンピュータで実行可能なプログラムソフトウェアにより実行してもよいし、各部の処理を所定のゲートアレイ(FPGA、ASIC)等のハードウェア、又はプログラムソフトウェアとハードウェアの一部の要素を実現する部分的ハードウェアモジュールとが混在する形式で実現してもよい。
【0016】
さらにまた、第6の形態に係る複数貯水池氾濫解析方法によれば、上流側に位置する上池と、上池よりも下流側に位置する下池を含む複数の貯水池が連鎖的に決壊する氾濫解析を行うための複数貯水池氾濫解析方法であって、上池及び下池の情報、並びに氾濫解析の対象となる地域の地形データを取得する工程と、上池及び下池の近傍を含む地図を表示部に表示させた状態で、上池及び下池に対して、破提時に水が流出する破堤位置と、下池の湖面に該当する領域をそれぞれ指定させる工程と、前記取得された上池情報に基づき、前記上池の破堤位置から流出される水の流出量を演算する工程と、演算された流出量の内、前記取得された地形データに基づいて、下池に流入される
下池流入量を演算する工程と、前記演算された下池流入量から、前記取得された下池情報に基づき、前記下池の水位と、前記下池の破堤位置から下流に流出する下池流出量を演算する工程とを含むことができる。これにより、連鎖決壊の解析を容易に行えるようになる。特に、破堤位置を指定し、この位置からの流出量を演算すると共に、地形に応じて下池への流入量を計算することで、より柔軟な流量計算が実現される。
【0017】
さらにまた、第7の形態に係る複数貯水池氾濫解析方法によれば、上記に加えて、前記下池の湖面に該当する領域を指定する工程が、地表の高低差の情報を有し、上池から流出する不定流を演算する地表面レイヤーと、下池の満水面積の情報を有する下池レイヤーとの関連付けを含むことができる。
【0018】
さらにまた、第8の形態に係る複数貯水池氾濫解析方法によれば、上記何れかに加えて、前記下池流入量を演算する工程は、前記関連付けられた地表面レイヤーの内
、下池湖面設定部により定義された下池湖面に該当する領域に流入する水量を、前記下池レイヤーの内で、前記下池湖面に該当する領域に、流入する水量として与えて演算され、前記下池流出量を演算する工程は、前記下池レイヤーにおいて、下池の貯水量に基づいて、下池から流出する水量を演算し、前記演算された下池から流出する水量を、前記地表面レイヤーの、予め指定された下池の破堤位置から流出される水量として与えて演算することができる。
【0019】
さらにまた、第9の形態に係る複数貯水池氾濫解析方法によれば、上記何れかに加えて、前記下池流出量を演算する工程において、下池流出量を演算するアルゴリズムとして、下池決壊前の演算アルゴリズムと下池決壊後の演算アルゴリズムを有しており、下池の水位が、初期水位から、越流総水頭までの間は、下池決壊前の演算アルゴリズムを用い、下池の情報として取得した放流部深さに至った以降は、下池決壊後の演算アルゴリズムを用いるように下池流出量の演算アルゴリズムを切り替えることができる。これにより、上池と下池の連鎖決壊後の氾濫解析をより的確に行うことが可能となる。
【0020】
さらにまた、第10の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上流側に位置する上池と、上池よりも下流側に位置する下池を含む複数の貯水池が連鎖的に決壊する氾濫解析を行うための複数貯水池氾濫解析装置であって、上池の情報、及び下池の情報を取得するための池情報入力部と、氾濫解析の対象となる地域の地形データを取得するための地形情報入力部と、上池及び下池の近傍を含む地図を表示可能な表示部と、上池及び下池に対して、破提時に水が流出する破堤位置をそれぞれ指定するための破堤位置指定部と、下池の湖面に該当する領域を指定するための下池湖面設定部と、前記池情報入力部から入力された上池情報に基づき、前記上池の破堤位置から流出される水の流出量を演算する上池流出量演算部と、前記上池流出量演算部で演算された流出量の内、前記地形情報入力部で取得された地形データに基づいて、下池に流入される
下池流入量を演算するための下池流入量演算部と、前記下池流入量演算部で演算された下池流入量から、前記池情報入力部から入力された下池情報に基づき、前記下池の貯水量を演算する下池貯水量演算部と、前記下池の破堤位置から下流に流出する下池流出量を演算する下池流出量演算部とを備えることができる。上記構成により、連鎖決壊の解析を容易に行えるようになる。特に、破堤位置を指定し、この位置からの流出量を演算すると共に、地形に応じて下池への流入量を計算することで、より柔軟な流量計算が実現される。
【0021】
また、第11の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上記構成に加えて、前記破堤位置指定部は、前記表示部に表示されたメッシュ状の地図上で設定可能に構成できる。
【0022】
さらに、第12の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上記何れかの構成に加えて、前記破堤位置指定部は、破堤位置を、前記上池が有する放流部の位置に指定するよう構成できる。上記構成により、破堤位置指定部が自動で破堤位置を指定することが可能となる。
【0023】
さらにまた、第13の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上記何れかの構成に加えて、前記破堤位置指定部で、破堤位置が放流部の位置に初期値として指定された状態で、手動で破堤位置を調整可能に構成できる。上記構成により、破堤位置を放流部の位置に自動で指定させた上で、必要に応じてユーザが調整することを可能として、下池の状態に応じてより柔軟な設定を行うことが可能となる。
【0024】
さらにまた、第14の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上記何れかの構成に加えて、前記表示部は、上池の破堤時からの流出量の時間変化を示すハイドログラフを表示させるためのハイドログラフ表示領域を備えることができる。
【0025】
さらにまた、第15の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上記何れかの構成に加えて、さらに、地表の高低差の情報を有し、上池から流出する不定流を演算する地表面レイヤーと、下池の満水面積の情報を有する下池レイヤーとを関連付けるレイヤー関連付け部を備えることができる。
【0026】
さらにまた、第16の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上記何れかの構成に加えて、前記下池流入量演算部は、前記レイヤー関連付け部で関連付けられた地表面レイヤーの内、前記下池湖面設定部により定義された下池湖面に該当する領域に流入する水量を、前記下池レイヤーの内で、前記下池湖面に該当する領域に、流入する水量として与え、前記下池流出量演算部は、前記下池レイヤーにおいて、下池の貯水量に基づいて、下池から流出する水量を演算し、前記演算された下池から
流出
する水量を、前記地表面レイヤーの、予め破堤位置指定部で指定された下池の破堤位置から流出される水量として与えるよう構成できる。
【0027】
さらにまた、前記上池流出量演算部が、前記池情報入力部から入力された上池情報に基づき、前記上池が解析開始時刻に、決壊すると想定し、前記破堤位置指定部で指定された上池の破堤位置を流出箇所とし、上池流出量を演算するアルゴリズムを、以下の計算式で規定される水量が流出するモデルとできる。
【0028】
上式において、V
maxは総貯水量[×10
6m
3]、Aは満水面積[m
2]、h
bは洪水吐高[m]、q
l(t)は時刻tにおける下池流出量[m
3/s]、V
lは下池決壊時貯水量[×10
6m
3]、H
lは下池堤高
[m]、tは下池決壊した時刻からの時間[sec]、t
lは下池決壊時刻[sec]、q
l_inは下池決壊後に下池に流入した水量[m
3/s]である。
【0029】
さらにまた、前記下池流出量演算部が、下池流出量を演算するアルゴリズムとして、越流総水頭が放流部切込深さより小さな水深である場合、下池の放流部から下流に流出すると想定し、下流に放流される流量を
で演算し、貯水池の所期貯水量を、放流部の下端まで水位があると仮定して
で演算することができる。
(Qは流量[m
3/s]、Cは流量係数、Bは洪水吐幅[m]、h
kは越流総水頭[m]、V
maxは総貯水量[m
3])
【0030】
さらにまた、前記下池貯水量演算部が、越流総水頭が放流部切込深さを超えると、貯水池が決壊すると想定して、下池の貯水量を
(Aは満水面積[m
2]、h
bは洪水吐高[m])
として演算し、かつ前記下池流出量演算部が、決壊以降に下池流出量を演算するアルゴリズムとして、下池流出箇所から下流への流出量の時間変化を次式で演算するよう切り替えることができる。
(q
l(t)は時刻tにおける下池流出量[m
3/s]、V
lは下池決壊時貯水量[×10
6m
3]、H
lは下池堤高
[m]、tは下池決壊した時刻からの時間[sec]、t
lは下池決壊時刻[sec]、q
l_inは下池決壊後に下池に流入した水量[m
3/s])
【0031】
さらにまた、第17の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上記何れかの構成に加えて、さらに、下流側の境界条件としての水位を入力するための下流端水位入力部を備えることができる。
【0032】
さらにまた、第18の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上記何れかの構成に加えて、さらに前記地表面レイヤーに、降雨量を付加するための降雨量設定部を備えることができる。上記構成により、二次元不定流解析の地表面レイヤーに降雨に起因した流れを計算することが可能となる。
【0033】
さらにまた、時間によって変動する潮位を演算するための潮位演算部を備えることができる。上記構成により、地表面レイヤーの下流端条件の水位を、潮位に応じて時間変化させることができる。
【0034】
さらにまた、第19の形態に係る複数貯水池氾濫解析装置によれば、上記何れかの構成に加えて、さらに、上池から下池に流入する流量を、下池の水位に変換する水位変換部を備えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0037】
本発明の実施例において使用される複数貯水池氾濫解析装置とこれに接続される操作、制御、表示、その他の処理等のためのコンピュータ、プリンタ、外部記憶装置その他の周辺機器との接続は、例えばIEEE1394、RS−232xやRS−422、RS−423、RS−485、USB等のシリアル接続、パラレル接続、あるいは10BASE−T、100BASE−TX、1000BASE−T等のネットワークを介して電気的、あるいは磁気的、光学的に接続して通信を行う。接続は有線を使った物理的な接続に限られず、IEEE802.1x等の無線LANやBluetooth(登録商標)、その他のNFC等の電波、赤外線、光通信等を利用した無線接続等でもよい。さらにデータの交換や設定の保存等を行うための記録媒体には、メモリカードや磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等が利用できる。なお本明細書において複数貯水池氾濫解析装置とは、複数貯水池氾濫解析装置本体のみならず、これにコンピュータ、外部記憶装置等の周辺機器を組み合わせた浸水度リアルタイム予測システムも含む意味で使用する。
(実施形態1)
【0038】
本発明の実施形態1に係る複数貯水池氾濫解析装置は、上流側に位置する上池と、この上池よりも下流側に位置する下池を含む複数の貯水池が連鎖的に決壊する氾濫解析を行うための装置である。なお本明細書において貯水池とは、ダムやファームポンドその他の農業用ため池及び調整池、河川、天然ダム等を含む意味で使用する。また、上池決壊には山腹崩壊からの土砂等の流入を含む意味で使用する。
【0039】
まず、連鎖決壊が生じるプロセスを、
図1A〜
図1Gに基づいて説明する。
図1Aに示すように、傾斜面の上方に上池RS1が、上池RS1の下方に下池RS2が存在する場合を考える。上池RS1、下池RS2共、下流側の壁面で水が溢れないように保持しており、逆にいえば湖面の水位が壁面の高さを超えると水が溢れ出し、いわゆる決壊状態となる。そして上池RS1と下池RS2で連鎖決壊が生じるには、まず上池RS1が決壊し、続いて下池RS2が決壊することが必要となる。なお、以下の例では説明のため上池RS1と下池RS2の連鎖決壊について説明するが、本発明は貯水池に限らず、河川や水路、自然ダム、山腹の土砂崩壊など、上側で溜まっている水などの液状物が、下側でたまっている貯水池等に流入する場合にも適用できる。また複数貯水池氾濫解析装置や複数貯水池氾濫解析プログラムは、連鎖決壊や、複数の貯水池が同時的に決壊する場合の氾濫解析に利用できる。
【0040】
まず、上池RS1の決壊を考えると、
図1Bに示すように上池RS1から貯水が流れ出して、下流側に流出する。ここではコスタ(Costa)の式を用いて算出されたハイドログラフに従った水量が下流に流出するモデル乃至アルゴリズムを採用している(詳細は後述)。なおコスタの式とは、統計的なデータを基に、ダムファクタとするダム高と貯水容量によってピーク流量を算出する回帰式である(非特許文献2参照)。ただ本発明は流量計算の手法をコスタ式に限定するものでなく、他の方法、例えばフローリッヒ式・土地改良事業の費用対効果算定手法・任意ハイドログラフ等も利用できる。
【0041】
次に下池RS2の決壊について考える。
図1Cに示すように、上池RS1の決壊により、上池RS1で貯水されていた水が下池RS2に流入する。ここで、
図1Dに示すように下池RS2が満水でない場合と、
図1Fに示すように満水の場合とに分けて考える。
【0042】
下池RS2が満水でない場合は、
図1Dに示すように上池RS1から流入した水は下池RS2に蓄えられ、時間の経過につれて下池RS2の水位が上昇する。そして下池RS2の水位が、下池RS2の壁面に形成された「放流部」を越えると、
図1Eに示すように放流部から下池RS2の下流側に流下されていく。この流出量は決壊の場合に比べて少量であり、その計算はH−Q式から算出される(詳細は後述)。
【0043】
一方、
図1Fに示すように下池RS2が満水の場合は、下池RS2が決壊し、
図1Gに示すように下池RS2の下流側に多くの水が流出する。この場合の流出量は、コスタ式等が採用される。
(複数貯水池氾濫解析装置100)
【0044】
本発明の実施形態1に係る複数貯水池氾濫解析装置を
図2に示す。この図に示す複数貯水池氾濫解析装置100は、入力部10と、操作部20と、演算部30と、表示部40と、データ記憶部50を備えている。この複数貯水池氾濫解析装置100は、専用のハードウェアで構成する他、複数貯水池氾濫解析プログラムを汎用あるいは専用のコンピュータにインストールして構成できる。
(入力部10)
【0045】
入力部10は、外部からのデータ入力を受け付けるための入力インターフェースであり、例えば外部機器との通信等により、外部のデータベースにアクセスするなどして、必要な情報を取得するデータ取得部として機能する。データ取得部は、インターネットなどの汎用ネットワーク回線、あるいは専用線等を介した特定のネットワークに接続するための通信機能を備えている。この入力部10は、池情報入力部11と、地形情報入力部12を備える。
【0046】
池情報入力部11は、上池の情報、及び下池の情報を取得するための部材である。池情報入力部11は、好ましくは農林水産省所管の溜池データベースを入力する。これにより、各地の溜池の諸元入力を個々に行うことなく、氾濫解析を行うことが可能となる。
【0047】
地形情報入力部12は、氾濫解析の対象となる地域の地形データを取得するための部材である。地形情報入力部12で入力する地形データとして、例えば、国土交通省国土地理院作成の地図や、ドローンで取得した3次元の点群データ等が利用できる。複数貯水池氾濫解析装置は、このような地形データから、地盤標高モデルを作成する地盤標高モデル作成機能を備えている。例えば国土交通省国土地理院による基盤地図情報(標高のメッシュデータである数値標高モデル)を地形情報入力部12から入力して、氾濫解析対象地域の地盤標高モデルを作成し、表示部40に表示させることができる。
(操作部20)
【0048】
操作部20は、複数貯水池氾濫解析装置に対する種々の操作や設定を行うための部材であり、マウスやキーボード、コンソール等の入力デバイスが利用できる。この操作部20は、破堤位置指定部21と、下池湖面設定部22と、レイヤー関連付け部23と、降雨量設定部24の機能を実現する。
(破堤位置指定部21)
【0049】
破堤位置指定部21は、一以上の下池に対して、下池の破提時に水が流出する破堤位置を指定するための部材である。これにより、破堤位置指定部21を介してユーザが手動で破堤位置を指定したり、あるいは複数貯水池氾濫解析装置が自動で破堤位置を指定することができる。
【0050】
この破堤位置指定部21は、一以上の下池の破堤位置を、この下池が有する放流部の位置に指定することができる。これにより、自動で破堤位置を指定することが可能となる。あるいは、下池の破堤位置が放流部の位置に初期値として指定された状態で、手動で破堤位置を調整可能としてもよい。この場合は、破堤位置を放流部の位置に自動で指定させた上で、必要に応じてユーザが調整することを可能として、下池の状態に応じてより柔軟な設定を行うことが可能となる。なお破堤位置は、1つの貯水池に対して1箇所をユーザが指定する。いいかえると、一の貯水池で二箇所同時に破堤することは確率論的には低いため、想定していない。
(下池湖面設定部22)
【0051】
下池湖面設定部22は、下池の湖面に該当する領域を指定するための部材である。
(レイヤー関連付け部23)
【0052】
レイヤー関連付け部23は、上池を含む、地表の高低差の情報を有し、上池から流出する不定流を演算する二次元不定流のレイヤーである地表面レイヤーと、下池の満水面積の情報を有する湖面のレイヤーである下池レイヤーとを関連付けるための部材である。このレイヤー関連付け部23は、地表面レイヤーの内、下池湖面設定部22により定義された下池湖面に該当する領域に流入する水量を、下池レイヤーの内で、下池湖面に該当する領域に、流入する水量として与え、下池レイヤーにおいて、下池の貯水量などの情報に基づいて、下池から流出する水量を演算し、この演算された下池からの流出
量を、地表面レイヤーの、予め破堤位置指定部21で指定された下池の破堤位置から流出される水量として与えるように構成できる。
(降雨量設定部24)
【0053】
降雨量設定部24は、地表面レイヤーに、降雨量を付加するための部材である。降雨量設定部24により、二次元不定流解析の地表面レイヤーに降雨に起因した流れを計算することが可能となる。また、この雨量は時間変化させることができる。そのため、上池の破堤に起因する水量だけでなく、降雨に起因する水量も下池に流入する。降雨を考慮した解析と、降雨を考慮しない解析の結果を比較することにより、降雨が貯水池の破堤に与える影響を検討することが可能である。さらに雨量データとして実際の降雨量を用いてもよい。このような雨量データの採否は任意であり、雨量データを用いないで解析することもできる。雨量データは、例えば入力部10が通信ネットワークを介して取得する。これによって、逐次最新の情報に更新することが容易となる。
【0054】
雨量データには、予測地域の解析雨量と短時間降水予報及び任意の設定雨量が含まれる。ここで解析雨量とは、現在時刻から過去、所定の時間内に実際に降雨した雨量である。また短時間降水予報とは、現在時刻から今後、所定の時間内に降雨すると予想される雨量である。本実施形態において、この所定時間は1時間毎としている。例えば気象業務支援センターが配信する雨量データは、解析雨量と短時間降水予報を、地形データを1kmメッシュで区切った範囲の6時間先までの予測雨量が30分毎に更新されて配信される。よって入力部10は、このようなデータを逐次取得して、演算部30に送出する。また、入力部10で取り込んだ気象データを、データ記憶部50に保持することもできる。
【0055】
雨量データの収集先は特に特定せず、例えば気象庁や気象業務支援センターが配信する雨量データを利用する他、独自の雨量観測装置等を設置して直接収集してもよい。また、所定時間は、1時間に限らず、これよりも短い時間(例えば30分)、あるいはこれよりも長い時間(例えば2時間)としてもよい。
(データ記憶部50)
【0056】
データ記憶部50は、各種データを保持するための部材であり、例えば半導体メモリやハードディスク、あるいは可搬メディア等を利用できる。例えば、地形データを保持する地形データ記憶部の機能を実現する。地形データは、地図上の各位置における高さ情報を保持している。例えば、予測地域内の各区画の標高や傾斜等の情報を含んでいる。地図上の位置は、メッシュ状に区画されたデータで管理できる。
【0057】
ここで区画とは、予測地域内を5m四方の枡目状に区切った単位を1区画としている。実施形態1では、5m四方の範囲をさらに縦横5×5個ずつ組み合わせて、25m四方を1区画とする。後述する演算部30に利用する地形データは、この25m四方内における平均値を利用している。このデータ記憶部50は、5m四方の地形データを記憶させてもよいし、あるいは予め25m四方における地形データの平均値を記憶させてもよい。
【0058】
なお、1区画あたりの大きさは、以上に特定されない。精密な予測結果が要求されるなら1区画を25mより小さくしてもよい。例えば一辺を1m、2.5m、5mとするなど、任意の大きさに設定できる。あるいは、演算処理の高速化が優先される場合等には、1区画を大きくしてもよい。
【0059】
例えば5mメッシュ(一例として国土交通省国土地理院による基盤地図情報)や2mメッシュ(一例として一般財団法人日本地図センターによる2mメッシュ標高データ)の詳細な地盤高データが公表、販売されており、このような地盤高データには排水路を地表の起伏として反映されていることがある。
(標高補間機能)
【0060】
また複数貯水池氾濫解析装置は、地盤標高モデルの作成時等に、標高の数値データを補間する標高補間機能を備えることもできる。上述した基盤地図情報は、緯度経度情報で公開されており、投影法の違いから平面直角座標に変換すると、5m×5mのメッシュの内に必ずしも1点ずつ標高値の既知点があるとは限らない。例えば、5m×5mのメッシュの内に、2点の既知点がある場合もあれば、既知点が存在しない場合もある。そこで、既知点のないメッシュに対して、近傍のメッシュの地盤標高値の平均値を、当該既知点のないメッシュの推定地盤標高値として補間する補完機能を設けることができる。例えば
図3Aに示す数値標高モデルにおいて、中央のメッシュで標高値の既知点がない場合、未知のメッシュの周囲に位置するメッシュ(ここでは8個)の地盤標高値の平均値を、このメッシュの推定地盤標高値として補間する。ここでは、未知のメッシュの周囲のメッシュの標高値の和から、平均値を演算している。
図3Aの例では、(4.0+4.5+5.2+3.9+5.3+4.2+4.9+5.4)/8=4.7となるので、
図3Bに示すように既知点のないメッシュに対して補間された標高4.7を設定する。
【0061】
さらに、地盤標高が補間されたメッシュと、メッシュ内に既知点があるメッシュとを区別するため、両者を異なる色で着色し、表示部上に表示させてもよい。例えば既知点があるメッシュを青色で、既知点がなく補完されたメッシュを黄色で、それぞれ表示させることにより、ユーザは表示された地盤標高の信憑性を視覚的に把握することができる。
(混合地盤標高モデル作成機能)
【0062】
さらに複数貯水池氾濫解析装置は、異なるメッシュサイズの数値標高モデルを混合した混合地盤標高モデルの作成機能を備えることもできる。
【0063】
上述した数値標高モデルの内、5mメッシュの数値標高モデルの精度は、10mメッシュの数値標高モデルより良いものの、日本全域を網羅していない。特に山間部では、5mメッシュ数値標高モデルの標高値がない箇所がある。これに対し、10mメッシュ数値標高モデルは、日本全域を網羅している。したがって、5mメッシュ数値標高モデルがある箇所は、この5mメッシュ数値標高モデルを使用し、5mメッシュ数値標高モデルのない箇所では10mメッシュ数値標高モデルを使用することで、広い範囲を網羅しつつも、可能な限り精度の高い地盤標高モデルが得られる。
【0064】
そこで、本実施形態に係る複数貯水池氾濫解析装置は、5mメッシュ数値標高モデルや10mメッシュ数値標高モデル等のメッシュサイズの異なる複数の数値標高モデルを取り込み、混合地盤標高モデルを作成する混合地盤標高モデル作成機能を備えている。また混合地盤標高モデル作成時の条件設定を行う地盤標高モデル設定手段として、地盤標高初期化機能と、標高補間機能を備えている。
【0065】
地盤標高初期化機能は、地盤標高を初期化してから計算するための機能である。この機能を地盤標高モデル設定手段でONに設定した場合は、すでに設定されている地盤標高を初期化して、地盤標高データを読み込む。また標高補間機能は、上述した標高値の空白を補間する機能である。この機能をONに設定した場合は、既知点のないメッシュに対して、近傍のメッシュの地盤標高の平均値を地盤標高として自動で補間する。
【0066】
メッシュサイズの異なる複数の地盤標高データを取り込む際には、これらの地盤標高初期化機能と標高補間機能を設定する。ここで、5mメッシュ数値標高モデルと10mメッシュ数値標高モデルを混合して、混合地盤標高モデルを作成する例を説明する。
(作成する地盤標高モデルのメッシュサイズが10m未満の場合)
【0067】
ここでは作成する地盤標高モデルのメッシュサイズが10m未満の場合について説明する。まず10mメッシュ数値標高モデルを読み込む際に、地盤標高初期化機能と標高補間機能を共にONに設定して、標高モデルを作成する。その後、5mメッシュ数値標高モデルを読み込む際に、地盤標高初期化機能と標高補間機能を共にOFFに設定して、標高モデルを作成する。これにより、5mメッシュ数値標高モデルがないところに10mメッシュ数値標高モデルを置いた地盤標高モデルが作成できる。
(作成する地盤標高モデルのメッシュサイズが10m以上の場合)
【0068】
次に、作成する地盤標高モデルのメッシュサイズが10m以上の場合について説明する。まず10mメッシュ数値標高モデルを読み込む際に、地盤標高初期化機能をON、標高補間機能をOFFに、それぞれ設定して標高モデルを作成する。その後、5mメッシュ数値標高モデルを読み込む際に、地盤標高初期化機能と標高補間機能を共にOFFに設定して標高モデルを作成する。これにより、5mメッシュ数値標高モデルがないところに10mメッシュ数値標高モデルを置いた地盤標高モデルが作成できる。
(着色機能)
【0069】
さらに、5mメッシュ数値標高モデルと10mメッシュ数値標高モデルを混合して地盤標高モデルを作成した際に、地盤標高モデルにおいて5m数値標高モデルが採用されたメッシュと、10mメッシュ数値標高モデルが採用されたメッシュを区別するため、両者を異なる色で着色し、表示することができる。
【0070】
加えて、上述の通り補完機能を用いて地盤標高が補間されたメッシュを、異なる色で着色して表示させてもよい。例えば、5mメッシュと、10mメッシュと、補間されたメッシュとを互いに異なる色に着色して表示部上に表示させることができる。これにより、ユーザは表示された地盤標高の精度や信頼性を、色でもって区別して把握することができる。さらに、メッシュの大きさも5mメッシュと10mメッシュに限らず、他のサイズ、例えば2mメッシュ、1mメッシュ、50cmメッシュ等を用いることができ、これらも色分けして表示させることができる。さらにまた、任意の大きさのメッシュを設定してもよい。
(混合地盤標高モデルの作成手順)
【0071】
ここで、5mメッシュ数値標高モデルと10mメッシュ数値標高モデルを混合して混合地盤標高モデルを作成する手順を、
図4〜
図11に基づいて説明する。まず
図4において、表示部40上に地図を表示させた状態で、複数貯水池氾濫解析を行う解析領域を指定する。
図4の例では、解析領域ROIを正方形状の青枠で指定している。
【0072】
次に10mメッシュ数値標高モデルを読み込む。
図5に示す例では、表示部40上に表示された地図上に重ねて、長方形状の赤枠で10mメッシュ数値標高モデルが存在する箇所が、データファイル名と共にそれぞれ表示される。ここでは、解析領域ROIが2つの10mメッシュ数値標高モデルMM10−1、MM10−2に跨がっていることが判る。
【0073】
この状態で、地盤標高モデル作成条件設定を行う。具体的には、
図6に示すように地盤標高モデル作成条件設定画面60を開く。ここでは、5mメッシュ地盤標高モデルを作成するため、地盤標高初期化機能と標高補間機能を共にONに設定する。この状態で地盤標高モデル作成機能を実行させると、
図7に示すように10mメッシュの数値標高モデルMM10−1、MM10−2で、5mメッシュの地盤標高モデルが作成される。地盤標高モデルが作成された領域は、地図上で他と区別できる態様でハイライトして表示される。
図7の例では、5mメッシュ地盤標高モデルM5Mが着色して表示される。
【0074】
次に、この状態と重ねて、5mメッシュ数値標高モデルが存在する箇所を抽出する。ここでは、
図8に示すように青色の長方形状で5mメッシュ数値標高モデルが存在する領域が碁盤目状に表示される。この内、
図7で作成された5mメッシュの地盤標高モデルM5Mと重複する5mメッシュ数値標高モデルMM5−1〜MM5−11については、赤枠にハイライトされて区別される。
【0075】
この状態で、再度モデル作成機能を実行すべく、
図9に示すように地盤標高モデル作成条件設定を行う。ここでは、地盤標高初期化機能と標高補間機能を共にOFFに設定する。この状態で混合地盤標高モデル作成機能を実行させると、
図10に示すように10mメッシュの上に5mメッシュが重ねられ、
図7よりも高精細な5mメッシュ数値標高モデルと10mメッシュ数値標高モデルの混合した混合地盤標高モデルM5−10Mが作成される。
(メッシュ別ハイライト機能)
【0076】
さらにこの状態で、混合地盤標高モデルを構成した数値標高モデルのメッシュサイズを区別できるようにハイライト表示する機能を備えてもよい。例えば
図11に示すように、混合地盤標高モデルM5−10Mの内、10mメッシュ数値標高モデルで作成した領域H10を赤色に、5mメッシュ数値標高モデルで作成した領域H5を青色に、それぞれ着色して表示部40上に表示させる。これにより、混合地盤標高モデル上のどの領域の標高値の精度がどの程度かをユーザは視覚的に把握することができる。
(表示部40)
【0077】
表示部40は、上池や下池を示す地図を表示させたり、ハイドログラフを表示させたり、あるいは必要な設定等を確認するための部材である。この表示部40は、例えばLCDや有機ELディスプレイ、CRT等が利用できる。また表示部にタッチパネルを使用することで、操作部と表示部を一体的に構成することもできる。
【0078】
表示部40は、上池の破堤時からの流出量の時間変化を示すハイドログラフを表示させるためのハイドログラフ表示領域を設けている。ハイドログラフとは、時間と洪水水位または洪水流量との関係を表す図である。
(演算部30)
【0079】
演算部30は、下池貯水量演算部で演算された下池の貯水量が、予め与えられた下池が決壊する条件に至ったとき、下池流出量を下池決壊後の流量に変更する。これによって、下池の決壊後の氾濫解析を行うことができる。
【0080】
この演算部30は、上池流出量演算部31と、下池流入量演算部32と、下池演算部33と、下流端水位入力部37と、水位変換部38を備える。
【0081】
上池流出量演算部31は、池情報入力部11から入力された上池情報に基づき、この上池から流出される水の流出量を演算する部材である。
【0082】
下池流入量演算部32は、上池流出量演算部31で演算された総流出量の内、地形情報入力部12で取得された地形データに基づいて、下池に流入される水量を演算するための部材である。
(下池演算部33)
【0083】
下池演算部33は、下池流入量演算部32で演算された下池流入量から、池情報入力部11から入力された下池情報に基づき、この下池の貯水量と、この下池から下流に流出する下池流出量を演算するための部材である。下池演算部33は、下池の水深が、初期水浸から越流総水頭までの間と、放流部深さに至った以降で、流量を演算するアルゴリズムを切り替えるよう構成している。
【0084】
この下池演算部33は、下池貯水量演算部34と、下池流出量演算部36の機能を実現する。下池貯水量演算部34は、下池流入量演算部32で演算された下池流入量から、前記池情報入力部11から入力された下池情報に基づき、この下池の貯水量を演算するための部材である。下池流出量演算部36は、この下池から下流に流出する下池流出量を演算するための部材である。
(下池水位演算部35)
【0085】
また下池貯水量演算部34は、下池の水位を演算する下池水位演算部35の機能を実現することもできる。例えばアルゴリズム切り替え条件を、下池の水位が放流部深さに至ったタイミングとする。下池が有する放流部深さの情報は、予め池情報入力部11で取得しておく。これにより、下池の水位が、初期水位から越流総水頭までの間(この間は破堤でない)と、水吐け深さに至った以降とで、下池流出量の演算アルゴリズムを切り替えることができる。
(下流端水位入力部37)
【0086】
下流端水位入力部37は、時間によって変動する下流側の境界条件としての水位を入力するための部材である。下流端水位は、ユーザが別途計算して数値として直接入力してもよいし、演算で求めてもよい。また貯水池による氾濫水が海面に流下する箇所では、下流端水位を時間変化を潮位と連動させることにより、満潮時や干潮時における貯水池による浸水状況をシミュレートできる。さらに満潮時や干潮時における解析の結果を比較することにより、潮汐が浸水状況に与える影響を検討することも可能である。あるいは、下流端水位を潮位とすることもできる。この場合は、時間変化する潮位を取得して入力する。このようにして下流端水位入力部37により、地表面レイヤーの下流端条件の水位を、潮位に応じて時間変化させることができる。
(水位変換部38)
【0087】
水位変換部38は、上池の(下池に流入する)流量を下池の水位に変換するための部材である。
【0088】
なお上池は、解析開始時刻に決壊すると想定する。上池流出箇所と設定したメッシュに対し、コスタ式を用いて算定されたハイドログラフに従った水量が流出する。
(解析モデル)
【0089】
以下、本実施形態で用いた解析モデルについて説明する。
(地表面上の氾濫水の流れ)
<基礎式>
【0090】
地表面の氾濫流の基礎式としては、以下のような二次元・非定常浅水流の連続式と運動方程式を用いる。
[連続式]
[数1]
[x方向運動方程式]
[数2]
[y方向運動方程式]
[数3]
【0091】
上式において、tは時間;x,yは水平二次元座標;hは水深;u,vはx,y方向の流速成分;M,Nはx,y方向の流量フラックス(単位幅流量)で、M=uh及びN=vh;Hは水位;r(t)は雨量による供給量;q
CHANは排水路から地表面上に溢れる、流出する、あるいは地表面上から排水路へ流入する水量、gは重力加速度;ρは水の密度;τ
b,x,τ
b,yはx,y方向の地表面摩擦抵抗応力を、それぞれ示している。なおτ
b,x,τ
b,yは次式で表される。
[数4]
[数5]
【0092】
上式において、nは合成等価粗度係数である。
<基礎式の離散化>
【0093】
氾濫流の数値計算では、数1、数2および数3を、空間的にはスタガード・構造格子について陽的に差分化し、時間的にはleap−frog法により、数値解析する。
図12にスタガード・構造格子と未知変数の定義点を示す。この図においてi,jは、それぞれ軸方向の分割番号である。
<特殊な場合の計算法>
【0094】
ここで、特殊な場合の計算方法について検討する。
(盛土等の越流)
【0095】
まず、
図13に示すように盛土などの凹凸を越流する場合を検討する。このように盛土や道路といった帯状の物体が存在する場合には、運動方程式をそのまま適用することはできない。帯状物体の天端高さよりその両側の水位が低い場合には、流量フラックスはゼロとする。そうでない場合には、数6および数7のような本間の越流公式により越流流量フラックスを算出する。
[数6]
[数7]
【0096】
上式においてh
1およびh
2は、それぞれ帯状の物体の天端からの水位で、高い方をh
1、低い方をh
2とする。また、μは流量係数であり、数6ではμ=0.35、数7ではμ=0.91である。
(メッシュ間で支配断面が現れる場合)
【0097】
次に、メッシュ間で支配断面が現れる場合について検討する。
図14の断面図に示すように、隣接するメッシュ間で標高差が大きく、水面が不連続となる場合や、急激な水位上昇が起こった場合は、支配断面が現れる。この場合は流量フラックスの算出に運動方程式は適用せず、段落ち流れとして計算を行う。ここでは数8、数9のように流量フラックスを与える。
[数8]
ただし、
[数9]
[数10]
ただし、
[数11]
h
cxは、地表面流におけるx方向の限界水深、h
cyは、地表面流におけるy方向の限界水深、Eはエネルギー水頭である。
(2)排水路内の水の流れ
【0098】
次に、排水路内の水の流れについて検討する。本実施形態においては、
図15に示すように、排水路の走行方向と流量の定義点を規定している。このように、排水路は座標軸の方向にのみ位置しているものとみなす。また、設定したメッシュの中心(水深の定義点)を通るものとする。
【0099】
排水路の流れの基礎式としては、以下のような連続式と運動方程式を用いる。運動方程式は、二次元浅水流れから移流項を省略したものである。
[連続式]
[数12]
[方向運動方程式]
[数13]
[方向運動方程式]
[数14]
【0100】
上式において、hは水深、qは排水路内の単位幅流量で流向が座標軸の向きに一致する場合には正値、逆の場合には負値をとるものとする。q
GROUND'は排水路から地表面上に溢れる、流出する、あるいは地表面上から排水路へ流入する水量である。Hは水位、τは摩擦抵抗応力を、それぞれ示している。なお添え字で示すx,yは、それぞれx,y方向に走る排水路に対する式であることを示している。また摩擦抵抗項は、次式のように表される。
[数15]
[数16]
【0101】
上式においてRは径深、nはマニングの粗度係数である。また添え字のx,yは、それぞれx,y方向に走る排水路に対する式であることを示している。
(3)貯水池の設定
1)上池
【0102】
上池は、上述の通り複数貯水池氾濫解析装置による解析を開始した解析開始時刻に決壊すると想定する。上池流出箇所と設定したメッシュに対し、コスタ式を用いて算定されたハイドログラフに従った水量が流出する。ここでコスタ式を数17に、流出量の時間変化を数18に示す。この数18は、総流出量が貯水量になる、すなわち数19を満たすように設定されている。
[数17]
[数18]
[数19]
【0103】
上式において、q
u(t)は時刻tにおける上池流出量[m
3/s];V
uは上池貯水量[×10
6m
3]、H
uは上池堤高[m]、tは時間[sec]である。
(2)下池
(下池への流入)
【0104】
まず、下池湖面を設定する。下池湖面に設定されたメッシュは、常に水深が無い状態となる。そのため、隣接するメッシュから下池湖面と設定されたメッシュに水量が流入する。これが、下池への流入量となる。下池に流入した水量は、
図16に示すように地表面モデルから下池モデル(後述)に移行する。そして、後述する数20、数23に該当する水量が下池モデルから地表面モデルに移行し、地表面を流下する。
(下池の放流部からの流出)
【0105】
下池モデルの概念を
図17に示す。ここでは、貯水池を直方体に見立てモデル化している。また貯水池の下流側の一部には、蓄えられた水の一部を放流するための放流部を設けている。放流部は、貯水池等の洪水吐や、河川堤防等の越流部であり、例えばコンクリート製の貯水池の一部を切り込み状に形成して、満水に近い状態となったときに放流部を通じて一部の水が安定的に流下できるように構成されている。放流部の形状は、三角堰や四角堰のような多角形状、矩形状の切り込みが利用できる。
図17の例では、矩形状の切り込みを採用している。また本明細書においては、放流部の切り込まれた高さを、放流部の深さと呼ぶ。貯水池の水位が、放流部の深さを超えると、越流すると判定できることができる。越流総水頭が放流部の深さより小さな水深である場合は、放流部から下流に流出すると想定し、数20のH−Q式より下流に放流される。また、貯水池の初期貯水量は、数21とし、放流部の下端まで水位がある設定としている。
[数20]
[数21]
【0106】
上式においてQは流量[m
3/s]、Cは流量係数、Bは洪水吐幅[m]、H
maxは堤高[m]、h
kは越流総水頭[m]、V
maxは総貯水量[m
3]、Aは満水面積[m
2]を、それぞれ示す。
(下池の決壊)
【0107】
越流総水頭が放流部の切込深さを超えると、貯水池が決壊すると想定し、コスタ式より下流に流出する。ここでコスタ式を数23に、流出量の時間変化を数24に、それぞれ示す。ここで数23は、上池の総流出量が貯水量になるように、すなわち以下の数24を満たすように、設定されている。また、下池決壊後も下池への流入が想定されることから、流出量の時間変化(数23)には、コスタ式に加えて、下池への流入量を、下池流出箇所から流出させる。
[数22]
[数23]
[数24]
[数25]
【0108】
上式において、q
l(t)は時刻tにおける下池流出量[m
3/s]、V
lは下池決壊時貯水量[×10
6m
3]、H
lは下池堤高
[m]、tは下池決壊した時刻からの時間[sec]、t
lは下池決壊時刻[sec]、q
l_inは下池決壊後に下池に流入した水量[m
3/s]を、それぞれ示している。
3.設定方法
【0109】
次に連鎖決壊時の氾濫解析を行う際の設定方法の手順を記す。
(1 上池決壊位置の設定)
【0110】
まず、
図18に示すように上池決壊位置を設定する。
(2 下池湖面の設定)
【0111】
次に、
図19に示すように下池の湖面に該当するメッシュを設定する。これにより設定されたメッシュ上の氾濫水は、地表面モデルから下池貯水モデルに移る。そして、放流部より水位が高い場合は、下池決壊位置から地表面モデルへ流出する。
(3 下池決壊位置の設定)
【0112】
さらにまた、
図20に示すように下池の決壊位置を設定する。
【0113】
このようにして、上池と下池の決壊位置が設定される。
【0114】
以上説明した例では、上池と下池の2つの池について、連鎖決壊を含む氾濫解析を行う例を説明した。ただ、状況によっては上池の下流側に複数の下池が存在する場合もある。また複数の下池も、高低差がある場合も考えられ、例えば上池、中間池、下池といった3段階で3つの池が傾斜地に配置される場合も考えられる。このように、下池が複数連なる態様においても、本発明を適用できる。