(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774124
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】磁気抵抗素子、当該磁気抵抗素子を用いた磁気ヘッド及び磁気再生装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/39 20060101AFI20201012BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20201012BHJP
H01L 43/10 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
G11B5/39
H01L43/08 M
H01L43/08 Z
H01L43/10
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-199742(P2019-199742)
(22)【出願日】2019年11月1日
(62)【分割の表示】特願2016-151330(P2016-151330)の分割
【原出願日】2016年8月1日
(65)【公開番号】特開2020-24777(P2020-24777A)
(43)【公開日】2020年2月13日
【審査請求日】2019年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ イェ
(72)【発明者】
【氏名】古林 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰祐
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 裕弥
(72)【発明者】
【氏名】高橋 有紀子
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【審査官】
中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−015489(JP,A)
【文献】
特開2012−054419(JP,A)
【文献】
特開2016−134520(JP,A)
【文献】
特開2010−056288(JP,A)
【文献】
特開2012−204683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/39
H01L 43/08
H01L 43/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイスラー合金よりなる下部強磁性層と上部強磁性層、及び当該下部強磁性層と上部強磁性層との間に挟まれたスペーサ層とを備える面直方向磁気抵抗素子において、
前記スペーサ層がMg1−xTixOy(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)と伝導性非磁性金属からなる非磁性スペーサ層であると共に、窒素元素を含有する界面保護層を有しないことを特徴とする面直方向磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記伝導性非磁性金属は、Ag、Mg、Al、Zn、Ti、V、およびCuから選ばれる少なくとも一つの非磁性金属元素からなることを特徴とする請求項1に記載の面直方向磁気抵抗素子。
【請求項3】
ホイスラー合金よりなる下部強磁性層と上部強磁性層、及び当該下部強磁性層と上部強磁性層との間に挟まれたスペーサ層とを備える面直方向磁気抵抗素子において、
前記スペーサ層が、Mg1−xTixOy(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)と、当該Mg1−xTixOyの上下の両層に伝導性非磁性金属層を、配置している非磁性スペーサ層であると共に、窒素元素を含有する界面保護層を有しないことを特徴とする面直方向磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記伝導性非磁性金属層は、Ag、Mg、Al、Zn、Ti、V、およびCuから選ばれる少なくとも一つの非磁性金属元素からなることを特徴とする請求項3に記載の面直方向磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記Mg1−xTixOy(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)がMg0.2Ti0.8Oであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の面直方向磁気抵抗素子。
【請求項6】
表面酸化Si基板、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、MgO基板の少なくとも一種類である基板と、
前記基板の上に形成される下地層と、 前記下地層に積層された請求項1乃至5の何れか1項に記載する面直方向磁気抵抗素子であって、
前記下地層はAg、Al、Cu、Au、Crからなる群から選ばれた少なくとも一種類の金属又は合金を含み、前記ホイスラー合金のエピタキシャル成長する結晶方向は(001)方向であることを特徴とする面直方向磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記下部強磁性層と上部強磁性層は、Co2ABの組成式で表されるホイスラー合金であって、前記AはCr、Mn、Fe、またはこれらのうちの2種類以上を合計の量が1になるように混合したもの、前記BはAl、Si、Ga、Ge、In、Sn、またはこれらのうちの2種類以上を合計の量が1になるように混合したものを含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の面直方向磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記下部強磁性層と上部強磁性層は、B2規則構造又はL21規則構造の少なくとも一方を持つホイスラー強磁性合金からなると共に、前記ホイスラー強磁性合金がCo2Fe(GaxGe1−x)(0.25<x<0.6)、Co2FeAl1−xSix(0.0≦x≦1.0)、Co2Fe1−xMnxSi(0.0≦x≦1.0)、又はCo2Fe1−xMnxGe(0.0≦x≦1.0)から選ばれたホイスラー強磁性合金を含むことを特徴とする請求項8に記載の面直方向磁気抵抗素子。
【請求項9】
さらに、磁気抵抗測定用の電極である下地層を、前記下地層と前記下部強磁性層との間に挟んで設けたことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の面直方向磁気抵抗素子。
【請求項10】
さらに、前記上部強磁性層に積層された、表面保護用のキャップ層を有すると共に、
前記キャップ層はAg、Al、Cu、Au、RuおよびPtからなる群から選ばれた少なくとも一種類の金属又は合金よりなることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の面直方向磁気抵抗素子。
【請求項11】
さらに、前記上部強磁性層の上又は下部強磁性層の下に設けられたピニング層を有すると共に、
前記ピニング層はIrMn合金、PtMn合金等の反強磁性体の層であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の面直方向磁気抵抗素子。
【請求項12】
ホイスラー合金薄膜間にスペーサ層を配した構造を持つ面直方向磁気抵抗(CPPGMR)素子であって、
前記ホイスラー合金薄膜が、B2規則構造又はL21規則構造の少なくとも一方を持つホイスラー強磁性合金からなると共に、前記ホイスラー強磁性合金がCo2Fe(GaxGe1−x)(0.25<x<0.6)、Co2FeAl1−xSix(0.0≦x≦1.0)、Co2Fe1−xMnxSi(0.0≦x≦1.0)、又はCo2Fe1−xMnxGe(0.0≦x≦1.0)から選ばれたホイスラー強磁性合金であり、
前記スペーサ層がMg1−xTixOy(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)と伝導性非磁性金属からなると共に、窒素元素を含有する界面保護層を有しないことを特徴とする面直方向磁気抵抗(CPPGMR)素子。
【請求項13】
請求項1乃至11の何れか1項に記載の面直方向磁気抵抗素子又は請求項12に記載の面直方向磁気抵抗素子を用いたことを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項14】
請求項13に記載の磁気ヘッドを用いたことを特徴とする磁気再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性金属/非磁性金属/強磁性金属の3層構造を持つ薄膜の面直方向磁気抵抗効果(CPPGMR)を利用した素子に関し、特に当該非磁性金属層としてMgTiO層の上下の両層に伝導性非磁性金属層を配置している非磁性スペーサ層を用いた磁気抵抗素子に関する。
【背景技術】
【0002】
面直方向磁気抵抗効果(Current perpendicular to plane Giant Magnetoresistance; CPPGMR)を利用した素子は、強磁性金属/非磁性金属/強磁性金属の3層構造を持つ薄膜よりなるもので、磁気ディスク用読み取りヘッド用として期待されている。強磁性金属としてスピン分極率の大きなホイスラー合金を用いた素子について研究がなされており、スペーサ層(非磁性金属の層)として面心立方格子構造(face-centered cubic; fcc)金属であるCuを用いることが、例えば特許文献1、2で提案されている。ま
た、磁性層にホイスラー合金Co
2FeGa
0.5Ge
0.5(CFGG)を用い、スペーサ層として面心立方格子構造金属であるAgを用いることが、例えば非特許文献1、2で提案されている。
【0003】
さらに、非特許文献3では、AgやCuのfcc構造をもつスペーサ層を用いた場合、強磁性層のホイスラー合金の方位により磁気抵抗出力が大きく変わることが開示されている。これは、bcc基のホイスラー合金とfccのAgやCuの格子歪みがホイスラー合金の結晶方位によって大きく変わるためで、その結果Agを使った場合はホイスラー合金の(001)面、Cuを使った場合はホイスラー合金の(011)面がスペーサ層と界面を構成する場合に高い磁気抵抗が得られることが開示されている。ここで、(001)や(011)はミラー指数で、結晶の格子中における結晶面や方向を記述するための指数である。
しかしながら、bcc基の構造を持つホイスラー合金とfcc構造をもつAgやCuの格子歪みとそれらの結晶方位による磁気伝導依存性のために、理論計算から予測されるほどの磁気抵抗出力が得られていない。
【0004】
これに対してホイスラー合金と同じbcc基の結晶構造を持つL2
1規則合金Cu2RhSn、あるいはB2型規則合金NiAlをスペーサ層に用いた方が、バンド構造の界面での整合性が向上しより大きな磁気抵抗効果が得られるとの理論的予測が存在している。そこで、この理論的予測に基づいて研究が行われてきており、本発明者らの提案にかかる特許文献3、4には、ホイスラー合金を磁性層にL2
1型あるいはB2型規則合金をスペーサ層に用いたCPPGMRが開示されている。しかしながら、特許文献3、4の発明で
は、理論計算から予測されるほどの効果は得られていない。この原因として、これらの合金には比較的重い元素Rh・Sn、あるいは磁性元素Niが含まれるため、強いスピン軌道散乱やスピン散乱の効果により磁気抵抗効果が弱められていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−59927号公報
【特許文献2】特開2008−52840号公報
【特許文献3】特開2010−212631号公報
【特許文献4】特許第5245179号公報
【特許文献5】WO2016/017612 A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 98, 152501 (2011).
【非特許文献2】J. Appl. Phys. 113, 043901 (2013).
【非特許文献3】Jiamin Chen, Songtian Li, T. Furubayashi, Y. K. Takahashi and K. Hono, J. Appl. Phys. 115, 233905 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決したもので、強磁性金属/非磁性金属/強磁性金属の3層構造を持つ薄膜の面直方向磁気抵抗効果(CPPGMR)を利用した素子において、従来構造よりも高い磁気抵抗出力を発現する磁気抵抗素子を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成とした
面直方向磁気抵抗素子である。
本発明の
面直方向磁気抵抗素子は、例えば
図1に示すように、ホイスラー合金よりなる下部強磁性層13と上部強磁性層15、及び当該下部強磁性層13と上部強磁性層15に挟まれたスペーサ層14とを備える面直方向磁気抵抗素子において、スペーサ層14がMg
1−xTi
xO
y(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)
と伝導性非磁性金属からなる非磁性スペーサ層であると共に、窒素元素を含有する界面保護層を有しないことを特徴とする。
【0009】
ここで、伝導性非磁性金属は、スペーサ層14のMg
1−xTi
xO
yの上下の両側を伝導性非磁性金属層で挟んだ3層構造スペーサ(例えば、Ag/MTO/Ag)でもよく、また3層構造に明確に分離されていない層構造であって、Mg
1−xTi
xO
yと伝導性非磁性金属が混ざっている組織による層構造でもよい。
本発明の面直方向磁気抵抗素子は、例えば図1に示すように、ホイスラー合金よりなる下部強磁性層13と上部強磁性層15、及び当該下部強磁性層13と上部強磁性層15に挟まれたスペーサ層14とを備える面直方向磁気抵抗素子において、スペーサ層14がMg1−xTixOy(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)と、当該Mg
1−xTi
xO
yの上下の両層に伝導性非磁性金属層を、配置している非磁性スペーサ層である
と共に、窒素元素を含有する界面保護層を有しないことを特徴とする。 本発明の
面直方向磁気抵抗素子において、好ましくは、前記伝導性非磁性金属または伝導性非磁性金属層は、Ag、Mg、Al、Zn、Ti、V、およびCuから選ばれる少なくとも一つの非磁性金属元素からなるとよい。
本発明の
面直方向磁気抵抗素子において、好ましくは、前記Mg
1−xTi
xO
y(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)がMg
0.2Ti
0.8Oであるとよい。
【0010】
本発明の
面直方向磁気抵抗素子は、例えば
図1に示すように、表面酸化Si基板、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、MgO基板の少なくとも一種類である
基板11と、基板11の上に形成される下地層12と、下地層12に積層された上記の面直方向磁気抵抗素子であって、下地層12はAg、Al、Cu、Au、Crからなる群から選ばれた少なくとも一種類の金属又は合金を含み、前記ホイスラー合金のエピタキシャル成長する結晶方向は(001)方向である
ことを特徴とする。
【0011】
本発明の
面直方向磁気抵抗素子において、好ましくは、下部強磁性層13と上部強磁性層15は、Co
2ABの組成式で表されるホイスラー合金であって、前記AはCr、Mn、Fe、またはこれらのうちの2種類以上を合計の量が1になるように混合したもの、前記BはAl、Si、Ga、Ge、In、Sn、またはこれらのうちの2種類以上を合計の量が1になるように混合したものを含むとよい。
本発明の
面直方向磁気抵抗素子において、好ましくは、下部強磁性層13と上部強磁性層15は、B2規則構造又はL2
1規則構造の少なくとも一方を持つホイスラー強磁性合金からなると共に、前記ホイスラー強磁性合金がCo
2Fe(Ga
xGe
1−x)(0.25<x<0.6)、Co
2FeAl
1−xSi
x(0.0≦x≦1.0)、Co
2Fe
1−xMn
xSi(0.0≦x≦1.0)、又はCo
2Fe
1−xMn
xGe(0.0≦x≦1.0)から選ばれたホイスラー強磁性合金を含むとよい。
【0012】
本発明の
面直方向磁気抵抗素子において、好ましくは、さらに、磁気抵抗測定用の電極である下地層12bを、下地層12と下部強磁性層13との間に挟んで設けるとよい。
本発明の
面直方向磁気抵抗素子において、好ましくは、さらに、上部強磁性層15に積層された、表面保護用のキャップ層16を有すると共に、キャップ層16はAg、Al、Cu、Au、RuおよびPtからなる群から選ばれた少なくとも一種類の金属又は合金よりなるとよい。
本発明の
面直方向磁気抵抗素子において、好ましくは、さらに、上部強磁性層15の上又は下部強磁性層13の下に設けられたピニング層であって、前記ピニング層はIrMn合金、PtMn合金等の反強磁性体の層であるとよい。
このように構成された
面直方向磁気抵抗素子においては、交換異方性によって上部強磁性層の磁化反転を抑えることにより、上部強磁性層と下部強磁性層が反平行に磁化した状態を安定化することができる。
【0013】
本発明の
面直方向磁気抵抗(CPPGMR)素子は、例えば
図1に示すように、ホイスラー合金薄膜(13、15)間にスペーサ層14を配した構造を有し、前記ホイスラー合金薄膜が、B2規則構造又はL2
1規則構造の少なくとも一方を持つホイスラー強磁性合金からなると共に、当該ホイスラー強磁性合金が、Co
2Fe(Ga
xGe
1−x)(0.25<x<0.6)、Co
2FeAl
1−xSi
x(0.0≦x≦1.0)、Co
2Fe
1−xMn
xSi(0.0≦x≦1.0)、又はCo
2Fe
1−xMn
xGe(0.0≦x≦1.0)から選ばれたホイスラー強磁性合金であり、スペーサ層14がMg
1−xTi
xO
y(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)
と伝導性非磁性金属からなると共に、窒素元素を含有する界面保護層を有しないことを特徴とする。
ここで、Co
2Fe(Ga
xGe
1−x)において、Gaの割合xが0.25以下の場合と、Gaの割合xが0.6以上の場合は、ともにスピン分極率が低下するため磁気抵抗が低下するという不都合がある。好ましくは、(Ga
xGe
1−x)でのGaの割合xは、0.25と0.6の間がよく、更に好ましくは0.45と0.55の間である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では従来例のような比較的重い元素Rh・Snや磁性元素Niを含まず、電気抵抗率が低くスペーサ層に適した材料として、Mg
1−xTi
xO
y(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)をスペーサ層に用いることによりAgスペーサ層を用いた場合よりも高い磁気抵抗変化量を得ることができる。
従って、本発明のMTOを用いたCPPGMR素子を作製することができ、高い磁気抵抗出力を提供できる。また本発明の磁気抵抗素子を用いた磁気ヘッド及び磁気再生装置に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態による磁気抵抗素子の構造模式図である。
【
図2】本発明の一実施の形態によるCPPGMR素子に、磁界に対する電気抵抗測定用の電極を付加した素子の断面模式図である。
【
図3】Mg
0.2Ti
0.8O(MTO)をスペーサ層に用いた素子の、電気抵抗および素子面積当たり電気抵抗の印可磁界に対する依存性を説明する図である。
【
図4】Mg
0.2Ti
0.8O(MTO)をスペーサ層に用いた素子の断面透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法によって得られた、素子中の各元素の分布図を示す。
【
図5】MTO層の膜厚に対する磁気抵抗変化率の説明図である。
【
図6】MTO層の膜厚に対する素子単位面積当たり電気抵抗変化量の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図7は、本発明の一実施の形態による磁気抵抗素子の構造模式図である。図において、磁気抵抗素子は、基板11、下地層12、下部強磁性層13、スペーサ層14、上部強磁性層15、キャップ層16がこの順で積層されている。
【0017】
基板11には、例えば単結晶MgO基板が用いられるが、特に単結晶MgO基板に限られるものではなく、ホイスラー合金層が多結晶となるSiや金属・合金等を基板として使ってもよい。基板11としては、表面酸化Si基板が安価でよいが、半導体製造用のシリコン基板でも良く、またガラス基板や金属基板でもよい。これらの材料を基板11に用いても、磁気抵抗素子として高い磁気抵抗比がえられる。
【0018】
下地層12は、磁気抵抗測定用の電極となるもので、例えばAg、Al、Cu、Au、Cr等の少なくとも一種類を含む金属や、これら金属元素の合金が用いられる。なお、下地層12は、さらに下地層12bの下に別の下地層12aを追加した二層構造や、三層以上の多層構造としてもよい。
なお、配向層を下地層12の下側に設けても良い。配向層は、ホイスラー合金層を(100)方向に配向させる作用を持つもので、例えばMgO、TiN、NiTa合金の少なくとも一種類を含むものを用いる。
【0019】
下部強磁性層13と上部強磁性層15は、Co
2ABの組成式で表されるホイスラー合金であって、AはCr、Mn、Fe、またはこれらのうちの2種類以上を合計の量が1になるように混合したもの、BはAl、Si、Ga、Ge、In、Sn、またはこれらのうちの2種類以上を合計の量が1になるように混合したものを含む。ホイスラー合金としては、Co
2Fe(Ga
xGe
1−x)(0.25<x<0.6)(CFGG)が特に好ましいが、これまでCPPGMRで大きな磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが得られているCo
2FeAl
1−xSi
x(0.0≦x≦1.0)、Co
2Fe
1−xMn
xSi(0.0≦x≦1.0)、又はCo
2Fe
1−xMn
xGe(0.0≦x≦1.0)でもよい。上部強磁性層及び下部強磁性層は1種類のホイスラー合金を用いてもよく、2種類以上のホイスラー合金や他の金属や合金を組み合わせてもよい。
【0020】
スペーサ層14は、下部強磁性層13と上部強磁性層15との接触面に、それぞれ非磁性金属を用いた伝導性非磁性金属層14a、14cを有しているとよい。スペーサ層14は、伝導性非磁性金属層14a、14cで挟まれた中間層14bが、Mg
1−xTi
xO
y(0.5≦x≦1.0,0.8≦y≦1.2)であるとよい。ここで、xが0.5以下の場合は、中間層14bで導電性を得るのが困難になる。xが1.0の場合は、Ti
xO
yとなり、Mgを含有しない二元元素組成物となる。yが0.8未満の場合は、中間層14bの電気抵抗率が低すぎるため磁気抵抗変化量が小さくなるという不都合がある。yが1.2超えの場合は、中間層14bの電気抵抗率が高すぎて十分な導電性が得られないという不都合がある。
スペーサ層14の厚さは、例えば0.1nmから20nmであるため、これら金属間化合物は一個ないし200個程度の金属原子層を形成している。
【0021】
キャップ層16は表面の保護のための金属又は合金よりなる。キャップ層16には、例えばAg、Al、Cu、Au、Cr 等の少なくとも一種類を含む金属や、これら金属元素の合金が用いられる。下地層12、スペーサ層14及びキャップ層16の各層は、それぞれ1種類の材料を用いても良いし、2種類以上の材料を積層させたものでもよい。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態によるCPPGMR素子の断面模式図である。
図2は、本発明の一実施の形態によるCPPGMR素子に、磁界に対する電気抵抗測定用の電極を付加した素子の断面模式図である。
図2において、基板11として単結晶MgO基板、下地層12にはCr、Agを下から積層させたもの、下部強磁性層13と上部強磁性層15にはホイスラー合金Co
2FeGa
0.5Ge
0.5(CFGG)を用いている。また、スペーサ層14については、伝導性非磁性金属層14a、14cにはAg、中間層14bにはMg
0.2Ti
0.8O(MTO)を用いている。キャップ層16にはAgとRuを下から積層させたものを用いている。
【0023】
図2に示す素子においては、MgO基板板上に下から、Cr(10)/Ag(100)/CFGG(10)/Ag(1)/MTO(2.2)/Ag(1)/CFGG(10)/Ag(5)/Ru(8)、括弧内の数字は膜厚(nm)、の膜構成でスパッタ法により製膜を行った。
CFGG薄膜の結晶構造の改善のため、上部CFGG層を製膜後、スパッタ室内で真空中にて550℃でアニールを行い、その後Ag(5)/Ru(8)を積層させた。
【0024】
次に、
図2の素子構造の詳細を説明する。なお、
図2において、前記
図1と同一作用をするものには同一符号を付して説明を省略する。図において、酸化シリコン層17は、
図1に示す下部強磁性層13、スペーサ層14、上部強磁性層15、キャップ層16の周囲に設けられるもので、Agの下地層12bの上に積層されている。銅電極層18は、酸化シリコン層17とキャップ層16の上に積層されている。定電流源19は、導線20a、20bによってAgの下地層12bと銅電極層18に接続されており、CPPGMR素子の膜面の垂直方向に定電流を流す。電圧計21は、導線22a、22bによってAgの下地層12bと銅電極層18に接続されており、CPPGMR素子の膜面の垂直方向に発生する電圧を測定する。定電流源19の電流値と、電圧計21の測定電圧値から、CPPGMR素子の膜面の垂直方向の電気抵抗が測定できるため、CPPGMR素子の磁界に対する電気抵抗の変化を調べることができる。
【0025】
このように構成された素子について、膜面に垂直方向の電気抵抗を測定するため、
図2に示すような微細加工を行い、さらに電極を付け、面内方向に印可した磁界に対する電気抵抗の変化を調べた。
図3は、素子の単位面積当たり電気抵抗Rと単位素子面積当たりの電気抵抗RAを外部磁場Hexに対してプロットした図である。
【0026】
図3は、Mg
0.2Ti
0.8O(MTO)をスペーサ層に用いた素子の、印加磁場に対する電気抵抗×素子面積の変化を説明する一例図で、横軸が印加磁場H(kA/m)、縦軸が電気抵抗[Ω]及び電気抵抗×素子面積[mΩ・μm
2]である。印加磁場H(kA/m)を−80kA/mから+80kA/mまで増加させると、−80kA/mから−40kA/mまでは207[mΩ・μm
2]程度、−40kA/mから−8kA/mまでは207から236[mΩ・μm
2]程度まで漸増し、−8kA/mから+1kA/mまではステップ状に236から297[mΩ・μm
2]程度まで増加し、+1kA/mから+4kA/mまでは297[mΩ・μm
2]程度でほぼ一定値を示す。さらに印加磁場を増大させると+4kA/mから+20kA/mまでは297から255[mΩ・μm
2]まで漸減した後、+20kA/m付近で213[mΩ・μm
2]に減少し、+20kA/mから+40kA/mまでは213から208[mΩ・μm
2]に漸減し、+40kA/mから+80kA/mまでは再び207[mΩ・μm
2]程度となっている。印加磁場H(kA/m)を+80kA/mから−80kA/mまで減少させると、印加磁場Hが0kA/mを中心線として、印加磁場Hを増加させる場合とほぼ対称な曲線となっている。
磁気抵抗変化率43%、単位素子面積当たりの抵抗変化量として、ΔRA=90mΩ・μm
2という値が得られた。
【0027】
図4は、
図3に示した素子の断面透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法によって得られた、素子中の各元素Ag、O、Mg、Tiの分布図を示す。スペーサ層がAgとMTOからなることが示されている。ただし、その構造はAg/MTO/Agの3層構造という設計とは異なり、Agがほぼ1層に集まりまた場所による不均一も見られる。このことは製膜後のアニールによって原子が拡散したことによるものと考えられる。しかしながら、このような構造でも大きなΔRAが得られており、AgとMTOからなるスペーサ層を用いることが有効であることを示している。
【実施例2】
【0028】
実施例1と同じ構造の素子において、スペーサ層をMTOの膜厚を変化させその影響を調べた。すなわち、MgO基板板上に下から、Cr(10)/Ag(100)/CFGG(10)/Ag(1)/MTO(t)/Ag(1)/CFGG(10)/Ag(5)/Ru(8)、括弧内の数字は膜厚(nm)、の膜構成でスパッタ法により製膜を行った。実施例1と同じ条件で熱処理および微細加工を行い、電気抵抗の磁界依存性を測定した。
【0029】
磁気抵抗変化率を中間層14bであるMTO層の厚さt
MTO(nm)に対してプロットしたものを
図5に示す。t
MTO=2.2nmの時に、平均値30%という最大の磁気抵抗変化率が得られた。また、最大の磁気抵抗変化率として平均値20%を境界値とすると、2.1nm≦t
MTO≦2.4nmの範囲が好ましい。さらに、最大の磁気抵抗変化率として平均値10%を境界値とすると、2.0nm≦t
MTO≦2.7nmの範囲が好ましい。また、単位素子面積当たりの抵抗変化量ΔRAをt
MTO(nm)に対してプロットしたものを
図6に示す。t
MTO=2.1nmの時に、平均値87mΩ・μm
2とい
う最大のΔRAが得られた。
【実施例3】
【0030】
スペーサ層に挿入した伝導性非磁性金属層14a、14cとしてのAg層の効果を調べるため、中間層14bであるMTOのみをスペーサ層に用いた素子を作成した。すなわち、MgO基板板上に下から、Cr(10)/Ag(100)/CFGG(10)/MTO(3.3)/CFGG(10)/Ag(5)/Ru(8)、括弧内の数字は膜厚(nm)、の膜構成でスパッタ法により製膜を行った。実施例1、2と同様の熱処理および微細加工を行い印可磁界に対する電気抵抗の依存性を測定した。その結果、磁気抵抗変化率は0.3%と、実施例1、2と比較して低い値であった。
【0031】
なお、上記の実施の形態においては、(001)方向に配向したエピタキシャル膜を示しているが、結晶方位はこれに限られるものではなく、(110)、(111)、(211)等の適宜の方向に配向したエピタキシャル膜でもよい。また基板の構造は単結晶に限られるものではなく多結晶でもよい。多結晶の場合においても結晶方位は(001)、(110)、(111)、(211)等の適宜の方向に配向していてもよく、あるいは全く配向していなくてもよい。
【0032】
図1に示す構造に加え、上部強磁性層の上にピニング層としてIrMn合金、PtMn合金等の反強磁性体の層を追加し、交換異方性によって上部強磁性層の磁化反転を抑えることにより、上部強磁性層と下部強磁性層が反平行に磁化した状態を安定化することができる。ピニング層は下部強磁性層の下に挿入してもよい。
また、上記実施例では、伝導性非磁性金属層14a、14cとして、MgTiO層の両側にAg層を配置しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、この層は伝導性のある非磁性金属であればよく、Agの他に、Mg、Al、Zn、Ti、V、Cu、でもよい。また、伝導性非磁性金属層14a、14cとMgTiO層は、明確な3層構造のスペーサ(例えば、Ag/MTO/Ag)でもよく、また3層構造に明確に分離されていない層構造であって、Mg
1−xTi
xO
yと伝導性非磁性金属が混ざっている組織による層構造でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の面直方向磁気抵抗効果(CPPGMR)を利用した素子は、磁気ディスク用読み取りヘッド用として使用するのに適しており、また微細な磁性情報の検出にも利用できる。
【符号の説明】
【0034】
11 基板
12a、12b 下地層
13 下部強磁性層
14a、14b、14c スペーサ層
15 上部強磁性層
16a、16b キャップ層