特許第6774135号(P6774135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774135クロム被覆を製造する方法および被覆物体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774135
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】クロム被覆を製造する方法および被覆物体
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/02 20060101AFI20201012BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20201012BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20201012BHJP
   C23C 18/52 20060101ALI20201012BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20201012BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20201012BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20201012BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20201012BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20201012BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20201012BHJP
   C25D 3/06 20060101ALN20201012BHJP
【FI】
   C23C28/02
   C23C14/06 F
   C23C16/27
   C23C18/52 A
   C23C18/52 B
   C23C28/00 B
   C25D5/14
   C25D5/26 L
   C25D5/48
   C25D5/50
   C25D15/02 F
   !C25D3/06
【請求項の数】22
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-545294(P2016-545294)
(86)(22)【出願日】2014年1月15日
(65)【公表番号】特表2017-508879(P2017-508879A)
(43)【公表日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】FI2014050031
(87)【国際公開番号】WO2015107256
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2017年1月12日
【審判番号】不服2019-3504(P2019-3504/J1)
【審判請求日】2019年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】515191224
【氏名又は名称】サヴロック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ミエッティネン ユハ
(72)【発明者】
【氏名】ライサ ユッシ
【合議体】
【審判長】 中澤 登
【審判官】 北村 龍平
【審判官】 平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−023316(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/105392(WO,A1)
【文献】 米国特許第5252360(US,A)
【文献】 米国特許第3164897(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00-20/08
C23C24/00-30/00
C25D1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価クロムめっきによって物体上にクロム被覆を製造する方法であって、
‐前記物体上にニッケルリン合金(NiP)の層を堆積するステップと、
‐前記NiP層上に中間層を堆積するステップであって、前記中間層は、他の金属もしくは金属合金またはセラミックからなる、ステップと、
‐前記中間層上に三価クロム浴からクロムの層を堆積するステップと、
‐前記被覆を硬化し、前記NiP層に由来し、結晶性Niと結晶性NiPとを含む少なくとも一つの層と、前記クロム層に由来し、結晶性Crを含む少なくとも一つの層とを含む多相層を製造するために、前記被覆物体に一つ以上の熱処理を行うステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記中間層は、銅または銅の合金を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中間層は、モリブデンまたはモリブデンの合金を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記中間層は、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物、金属ケイ化物およびそれらの混合物を含む群より選択される無機非金属固体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記NiP層を堆積させる前に、前記物体上にニッケルストライク層を堆積するステップをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記NiP合金のリン含量は、1〜15w%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記一つ以上の熱処理の温度は、200〜1000℃である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記被覆物体は、二つ以上の熱処理が行われ、各熱処理の後に冷却される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱処理のうちの少なくとも一つは、500〜700℃の間の温度で行われる、請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第一熱処理の温度は、200〜500℃であり、第二熱処理の温度は、500〜800℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
第一熱処理の温度は、500〜800℃であり、第二熱処理の温度は、200〜500℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
被覆されるべき前記物体は金属の物体であり、前記物体の前記金属の硬化は、前記被覆物体が熱処理されるのと同時に行われる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
NiPの少なくとも二つの層と、Crの少なくとも二つの層と、少なくとも一つの中間層とを含む多層被覆を製造するために、前記堆積するステップを二回以上繰り返し、その後、前記多層被覆物体に、一つ以上の熱処理が行われるステップを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
薄膜堆積によって、前記被覆および熱処理された物体上に最上層を堆積するステップをさらに含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記被覆物体に一つ以上の熱処理を行う前記ステップの前に、薄膜堆積によって、前記被覆物体上に最上層を堆積するステップをさらに含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法を使用して被覆された物体であって、前記被覆は、結晶性Niと結晶性NiPとを含む多相層と、他の金属もしくは金属合金またはセラミックを含む中間層と、結晶性Crを含む多相層とを含む、被覆物体。
【請求項17】
前記中間層は、銅または銅の合金からなる、請求項16に記載の被覆物体。
【請求項18】
前記中間層は、モリブデンまたはモリブデンの合金からなる、請求項16に記載の被覆物体。
【請求項19】
前記中間層は、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物、金属ケイ化物およびそれらの混合物を含む群より選択される無機非金属固体を含む、請求項16に記載の被覆物体。
【請求項20】
薄膜堆積によって前記被覆物体上に施された最上層を含む、請求項1619のいずれか一項に記載の被覆物体。
【請求項21】
前記最上層は、金属、金属合金、セラミック、またはダイヤモンドライクカーボンからなる、請求項20に記載の被覆物体。
【請求項22】
2000HVより高いビッカース微小硬度値を有する、請求項1621のいずれか一項に記載の被覆物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三価クロムめっきによって物体上にクロム被覆を製造する方法に関する。本発明は、該方法によって製造される被覆物体にも関する。
【背景技術】
【0002】
クロム被覆は、その高い硬度値、魅力的な外観、ならびに優れた摩耗抵抗性および腐食抵抗性により、金属物品の表面被覆として広く使用されている。伝統的に、クロム堆積は、クロムの供給源として六価クロムイオンを含むクロムめっき浴からの電着によって達成される。このプロセスは、本質的に毒性が高い。電気めっきにおける六価クロムの使用に代わる代替的な被覆および被覆プロセスを開発するために多大な努力がなされている。これらの代替的なプロセスの中で、三価クロム電気めっきは、環境にやさしい非毒性の化学物質の使用による製造上の便宜、および明るい色のクロム堆積物を製造する能力により、魅力的に見える。しかし、三価クロム水溶液により硬質の腐食抵抗性のクロム堆積物を生じる工業規模のプロセスはまだ存在しない。当産業において、現在の被覆における六価クロムの使用に代わる、うまく管理でき使用し易いクロムベース被覆プロセスが早急に必要とされる。
【0003】
装飾クロムは、美観が良く耐久性があるように設計される。装飾クロム被覆の厚みは、一般に0.05〜0.5μmの間である。六価装飾クロム浴から離れ、新たな三価クロム浴に向かう強い動きがある。クロムの三価形態は、より毒性が低いと考えられる。
【0004】
硬質クロムは、摩擦を低減し、耐摩耗性および摩耗抵抗性により耐久性を高め、部品のカジリまたはゴーリングを最小化し、より広い一連の条件を含めるために化学不活性性を拡大するために、ならびに摩耗部品の原寸を回復するためのバルキング材料として、使用される。硬質クロム被覆は、装飾クロム被覆より厚い傾向がある。硬質クロムの厚みは、200〜600μmの高さでありうる。硬質クロムの硬度は、その厚みにより、通常700HVを超える。今日、硬質クロムは、三価クロム浴を使用して所望の摩耗抵抗性および硬度に達するのが困難であるため、ほぼもっぱら六価クロム浴から電気めっきされる。
【0005】
従来技術の多くのクロムめっきプロセスは、2000HV以上のビッカース微小硬度値を有する被覆を製造できない。周知のクロムベース被覆のさらなる欠点は、その不十分な摩耗抵抗性および腐食抵抗性である。このようなクロム被覆は、非常にもろい性質である。クロム被覆における割れおよび微細割れの数は、被覆の厚さと共に増加し、被覆の腐食抵抗性を損なう。
【0006】
無電解めっきまたは電気めっきによるニッケルの堆積も、硬質クロムに代わるものとしても提案されている。ニッケルめっきの欠点には、硬度、摩擦係数、摩耗抵抗性、腐食抵抗性および接着力の不足が含まれる。ニッケルめっきおよび硬質クロムは、互換可能な被覆ではない。両者は固有の堆積物特性を有し、したがってそれぞれの異なった用途を有する。
【0007】
クロム被覆の硬度を、熱処理によってある程度改良できることが当技術分野において公知である。非特許文献1によれば、めっきした状態のクロム堆積物の微小硬度は約700〜1000HV100である。300〜350℃での熱処理によって、三価Crの微小硬度を約1700〜1800HV100まで上昇させることができる。より高い温度では、Cr堆積物の硬度は減少する傾向がある。三価Cr層の接着力は、問題を生じることが知られている。周知の三価Cr浴のプロセス化学は、非常に複雑であり管理が難しいことが多い。
【0008】
特許文献1は、三価Crイオンだけから作られた六価Crイオンを含まない被覆を物体上に電着するステップと、被覆を少なくとも30分間少なくとも66℃の温度に加熱するステップを含む、金属物体上に摩耗抵抗性Cr被覆を提供する方法を開示する。
【0009】
特許文献2は、ワークピースを電気めっきする方法であって、Cr(VI)化合物をメタノールまたは蟻酸を用いてCr(III)化合物に還元することによって製造された三価Crを含むめっき浴を提供するステップと、めっき浴中に陽極を提供するステップと、陰極として作用させるために浴中にワークピースを配置するステップと、ワークピース上にクロムおよび鉄金属層を電気めっきするステップと、ワークピースを約316℃から約913℃に十分な時間にわたり加熱して、ワークピース上にめっきされたクロム合金の硬度を維持または増加しながらワークピースを硬化するステップとを含む方法を開示する。
【0010】
特許文献3は、クロムめっき鋼基質の摩耗抵抗性および腐食抵抗性を改善するための熱処理方法であって、鋼基質上にクロム層をめっきするステップと、クロムめっき鋼基質を酸化性気体環境において大気圧以上で加熱して、鋼基質の表面上に磁鉄鉱(Fe)を含む酸化層を形成するステップであって、鋼基質の表面は、クロム層に形成された貫通クラックを通じて部分的に空気にさらされている、ステップとを含む方法を開示する。
【0011】
特許文献4は、基質と基質上の被覆とを含む被覆物品を製造する方法であって、被覆は、クロムおよびリンを含み、CrおよびPは、化合物CrPおよびCrPの少なくとも一つに存在する、方法を開示する。リンは、クロム溶液の一部として被覆に取り込まれ、熱処理後に達することができる最高硬度は1400〜1500HVである。この被覆は、上述のすべての他のクロム被覆と同様にニッケルを含まない。
【0012】
既知の三価Cr被覆の硬度、摩擦係数、摩耗抵抗性および腐食抵抗性は、当産業の要求を満たすのに十分でない。従来技術の被覆プロセスは、約2000HV以上のビッカース微小硬度値を有する被覆を製造することができない。
【0013】
工業用途の六価クロム浴に代わることができる最大の機械的性質を産出可能な、費用効果的な三価クロムベースの電気めっき法を見つける必要が、従来技術において明らかに存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5271823A号明細書
【特許文献2】米国特許第5413646A号明細書
【特許文献3】米国特許第6846367B2号明細書
【特許文献4】米国特許第7910231B2号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】An Overview of Hard Cromium Plating Using Trivalent Chromium Solutions)、http://www.pfonline.com/articles/an‐overview‐of‐hard‐chromium‐plating‐using‐trivalent‐chromium‐solutions
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
発明の目的
本発明の目的は、従来技術の直面する問題を排除することまたは少なくとも減らすことである。
【0017】
より正確には、本発明の目的は、優れた機械的および化学的特性を有するクロム被覆を製造する環境にやさしい方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、被覆が比較的低い厚みで既に表面圧力に耐えられるように、硬度が次第に増加する層を有する被覆を提供することである。これにより、従来よりも薄い被覆および低い製造コストによって十分な成果に達することができるため、コスト削減がもたらされる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明による方法は、請求項1に記載されたことを特徴とする。
【0020】
本発明による被覆物体は、請求項17に記載されたことを特徴とする。
【0021】
本方法は、被覆すべき物体上にニッケルリン合金(NiP)の層を堆積するステップと、NiP層上に中間層を堆積するステップであって、中間層は、他の金属もしくは金属合金またはセラミックからなる、ステップと、中間層上に三価クロム浴からクロム層を堆積するステップとを含む。その後、被覆の機械的および物理的特性を是正し、結晶性Niと結晶性NiPとを含む少なくとも一つの層と、結晶性Crを含む少なくとも一つの層とを含む多相層を製造するために、被覆物体に一つ以上の熱処理が行われる。
【0022】
この点で、「他の金属または金属合金」という言い回しは、ニッケルまたはNiP以外の金属または金属合金をさすために使用される。中間層は一つの層だけからなってもよいし、または別々に堆積された二つ以上の層からなってもよい。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、中間層は、銅または銅の合金を含む。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、中間層は、モリブデンまたはモリブデンの合金を含む。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、中間層は、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物、金属ケイ化物およびそれらの混合物を含む群より選択される無機非金属固体(セラミック)を含む。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、NiP層を堆積する前に、ストライク層が物体上に堆積される。ストライク層は、二層間の接着力を高めるために使用されうる。ストライク層は、例えば、スルファミン酸ニッケル、光沢ニッケル、チタンまたは他の任意の適切な材料からなりうる。
【0027】
NiP合金のリン含量は、1〜15%の範囲とすることができ、好ましくは3〜12%の範囲であり、より好ましくは5〜9%の範囲である。NiP層は、無電解めっきまたは電解めっきによって堆積されうる。
【0028】
一つ以上の熱処理の温度は、200〜1000℃とすることができ、好ましくは400〜750℃であり、より好ましくは500〜700℃である。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、被覆物体は、二つ以上の熱処理が行われ、各熱処理の後に冷却される。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、熱処理のうちの少なくとも一つは、500〜700℃の間の温度で行われる。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、第一熱処理の温度は200〜500℃であり、好ましくは350〜450℃であり、第二熱処理の温度は500〜800℃であり、好ましくは650〜750℃である。
【0032】
本発明の別の実施形態によれば、第一熱処理の温度は500〜800℃であり、好ましくは650〜750℃であり、第二熱処理の温度は200〜500℃であり、好ましくは350〜450℃である。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、被覆される物体は、金属物体であり、物体の金属の硬化が、被覆物体が熱処理されるのと同時に行われる。
【0034】
本発明のさらなる実施形態によれば、被覆されるべき物体は、鋼物体であり、熱処理は、750〜1000℃の間の温度で行われ、好ましくは800〜950℃の間の温度で行われる。
【0035】
金属物体の硬化が被覆物体の熱処理と関連して行われる場合、その後物体に、クエンチング後に行われる第二熱処理において焼なまし(アニーリング)または焼戻しを行うことが可能である。
【0036】
金属物体が被覆の前にもともと硬化されている場合であっても、被覆物体の熱処理の間に、すでに硬化された金属物体にさらなる硬化を行うことも可能である。
【0037】
本発明の一実施形態は、NiPの少なくとも二つの層、Crの少なくとも二つの層、および少なくとも一つの中間層を含む多層被覆を製造するために、堆積ステップを二回以上繰り返すステップを含み、その後、多層被覆物体に一つ以上の熱処理が行われる。多層被覆を製造するときには、中間層の一つ以上を省くことが可能である。その場合、クロムの層が、NiPの層またはニッケルストライク層の次に堆積されうる。
【0038】
本発明の一実施形態は、物理気相成長(PVD:physical vapor deposition)、化学気相成長(CVD:chemical vapor deposition)、または原子層堆積(ALD:atomic layer deposition)等の薄膜堆積により、被覆および熱処理された物体上に最上層を堆積するステップを含む。最上層は、被覆表面に所望の特性を与えることができる任意の適切な材料で作られうる。適切な材料は、例えば、金属、金属合金、窒化チタン(TiN)または窒化クロム(CrN)等のセラミック、およびダイヤモンドライクカーボン(DLC)を含む。
【0039】
あるいは、熱処理の前に被覆物体上に薄膜堆積された最上層を製造することが可能である。
【0040】
本発明による方法を用いて被覆された物体の被覆は、結晶性Niと結晶性NiPとを含む多相層と、他の金属もしくは金属合金またはセラミックの中間層と、結晶性Crを含む多相層とを含む。
【0041】
中間層は、例えば、銅もしくは銅の合金、モリブデンもしくはモリブデンの合金、または金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物、金属ケイ化物およびそれらの混合物を含む群より選択される無機非金属固体(セラミック)からなりうる。
【0042】
被覆物体は、物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)、または原子層堆積(ALD)等の薄膜堆積によって被覆物体上に施された最上層が設けられうる。
【0043】
最上層は、金属、金属合金、または窒化チタン(TiN)もしくは窒化クロム(CrN)等のセラミック、またはダイヤモンドライクカーボン(DLC)からなりうる。
【0044】
被覆物体は、2000HVより高いビッカースマイクロ硬度値を有しうる。
【0045】
被覆物体の熱処理は、例えば、従来のガス炉において行われうる。あるいは、熱処理は、誘導、火炎加熱またはレーザ加熱に基づくプロセスにより行われうる。誘導加熱は、強い局所的な制御可能な熱を急速に生成する非接触プロセスである。誘導により、被覆物体の選択された部分だけを加熱することが可能である。火炎加熱とは、物体が溶解することまたは材料が除去されることなく熱がガス火炎によって物体に伝達されるプロセスをいう。レーザ加熱は、物体のバルクの特性に影響を与えずに、材料表面上の局所変化を生み出す。レーザによる熱処理は、被覆物体の表面が溶融しない固体変換を含む。被覆物品の機械的および化学的特性の両方が、加熱冷却サイクルの間に生成される冶金反応によって、大きく強化されうることが多い。
【0046】
被覆の特性は、NiPおよびCrの層の間に適切な中間層を堆積させることによって、要望に応じて調節および改善されうる。中間層は、NiPおよびCrの層の間の接着力を高めるために堆積されうる。被覆物体の腐食抵抗性が、例えば、隣の層のガルバニー電位と異なるガルバニー電位の中間層を堆積させることによって、改良されうる。AlまたはTiN等の非金属固体の中間層は、機械的または化学的応力に対して被覆の構造を強化するために使用されうる。
【0047】
本発明による方法によって、優れた腐食抵抗性および極めて高い硬度(ビッカース微小硬度1000〜3000HV)を有するクロム被覆を製造することが可能である。被覆プロセス自体は安全であり、六価クロムを含む被覆プロセスよりも毒性が低い。
【0048】
添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書の一部を構成するものであり、本発明の実施形態を例示し、説明と共に本発明の原理を説明するに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】400℃および700℃での二重熱処理の後のNiP‐Cr被覆のEDSスペクトルの例を示した図である。
図2図1の被覆のXRDスペクトルの一部を示した図である。
図3】700℃および400℃での二重熱処理の後のNiP‐Cr被覆のEDSスペクトルの例を示した図である。
図4図3の被覆のXRDスペクトルの一部を示した図である。
図5】NiP‐Cr被覆のXRDおよびGIDスペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本方法によって被覆される物体は、例えば、鋼、銅、青銅、黄銅などでできた金属物体とすることができ、またはセラミックもしくはプラスチックでできた物体とすることができる。この新規な被覆は、装飾クロムまたは硬質クロムめっきに代えて使用できる。
【0051】
被覆される物体は、表面から油および汚れを除去するための化学および/または電解脱脂、ならびに実際の被覆ステップの前に表面を活性化するための酸洗等の適切な前処理ステップが行われうる。
【0052】
次に、物体に無電解ニッケル‐リン堆積が行われ、それによってNiP層が前処理された物体に化学的に堆積される。NiP層は、例えば、次亜リン酸ナトリウムを還元剤として調製した溶液から堆積されうる。物体上に堆積されるニッケル膜は、1〜15重量%のリンを含み、好ましくは3〜12重量%のリンを含み、より好ましくは5〜9重量%のリンを含む。NiP層の厚みは、1〜100μmとすることができ、好ましくは3〜30μmである。
【0053】
あるいは、ニッケルリン層は、電気めっきによって物体上に堆積されることができる。
【0054】
必要に応じて、ニッケル下層が、NiP層を堆積させる前に、前処理された物体上に堆積されうる。この目的のため、物体がスルファミン酸ニッケル浴等の適切なニッケル浴に浸漬され、これに電流が通され、金属基質上にNi下層の堆積が生じる。より厚い下層が必要な場合には、この手順が必要なだけ繰り返されうる。装飾クロム被覆に関しては、光沢ニッケル浴が、明るい腐食抵抗性Ni下層を製造するために用いられうる。Ni下層は、かわりに無電解堆積によって製造されることもできる。Ni下層の厚みは、例えば、10〜20μmとすることができる。硬質クロム被覆に関しては、追加の防食が必要ないため、Ni下層は通常省略できる。
【0055】
NiP層の堆積の後、中間層が、電気めっきまたは無電解めっきによってNiP層上に堆積されうる。中間層は、他の金属もしくは金属合金またはセラミックの層である。中間層での使用に適した金属および金属合金は、少なくとも、銅、銅の合金、モリブデンおよびモリブデンの合金を含むがこれに限定されない。中間層での使用に適したセラミックは、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物、金属ケイ化物、およびそれらの混合物等の無機非金属固体を含む。
【0056】
その後、中間層上に三価クロム浴からクロムの層が堆積される。三価クロムによる電気めっきは、例えば装飾Crめっきにおいて産業的に使用可能な任意の適切な被覆プロセスを用いて行われうる。使用できる電解質溶液の一例は、Trichrome Plus(登録商標)の商品名でアトテックドイチランド社(Atotech Deutschland GmbH)が販売するものである。この電解質溶液は、20〜23g/lの三価クロムイオンと、60〜65g/lのホウ酸とを含む。プロセスのワーキングパラメータは、pH2.7〜2.9、温度30〜43℃、および陰極電流密度8〜11A/dmである。堆積されるCr層の厚みは、0.05〜100μmとすることができ、好ましくは1〜10μmである。
【0057】
クロム層の堆積後、被覆物体に、一つ以上の熱処理シーケンスが行われうる。熱処理は、200〜1000℃の温度で行うことができ、好ましくは400〜750℃の温度で、より好ましくは500〜700の温度で行うことができる。プロセスは二つ以上の連続した熱処理を含み、熱処理の合間に被覆物体が冷却されるのが好ましい。熱処理は、例えば、従来のガス炉において行うことができ、その場合には、一つの熱処理の時間は20〜60分とすることができる。あるいは、熱処理は、誘導、火炎加熱、またはレーザ加熱によって行うこともできる。誘導加熱は、強い局所的な制御可能な熱を急速に生成する非接触プロセスである。誘導では、被覆金属基質の選択された部分だけを加熱することが可能である。火炎加熱は、物体が溶解することなくまたは材料が除去されることなく熱がガス火炎によって物体に伝達されるプロセスをいう。レーザ加熱は、所与の成分のバルクの特性に影響を与えずに、材料の表面での局所変化を生み出す。レーザによる熱処理は、金属の表面が溶融しない固体変換を含む。被覆物品の機械的および化学的特性の両方が、加熱冷却サイクルの間に生成される冶金反応によって、大きく強化されうることが多い。
【0058】
被覆の熱処理と同時に被覆されている物体の金属の硬化を行うことも可能である。硬化は、金属の硬度を増加させるために使用される冶金プロセスである。例えば、鋼は、変態温度帯の上からフェライトおよびパーライト形成を防止しマルテンサイトの形成をもたらす速度で冷却することにより硬化されうる。硬化は、物品の組成およびサイズならびに鋼の硬化能に応じて、水、油または空気中で冷却するステップを含みうる。鋼は、有用な硬化反応を達成するために、十分な炭素を含まなければならない。
【0059】
鋼硬化温度(例えば750〜1000℃)で行われる熱処理の後、被覆金属物体に、より低い温度で熱処理を行うことによって、焼なまし(アニーリング)または焼戻しが行われうる。
【0060】
被覆前に金属物体の硬化が行われている場合であっても、多層被覆物体の熱処理の間に金属物体の硬化が行われうる。この種の被覆金属物体のさらなる硬化によって、良い結果が得られている。
【0061】
最後に、物理気相成長、化学気相成長または原子層堆積等の薄膜堆積によって、被覆物体上に高密度の最上層が施されうる。最上層は、適切な金属、金属合金、窒化チタンもしくは窒化クロム等のセラミック、またはダイヤモンドライクカーボン(DLC)からなりうる。最上層は、物体に熱処理を行う前または熱処理を行った後に、被覆物体上に堆積されうる。
【0062】
本被覆の熱処理によって、特に高い硬度値、腐食抵抗性および摩耗抵抗性の増加ならびに摩擦係数の低下等の改良された表面特性が得られることが分かっている。例えば、2500〜3000HVの高さの硬度値が試験で測定されている。
【実施例】
【0063】
実施例1
いくつかの鋼物体を7μmのNiP層および4μmのCr層で被覆し、その後、被覆物体に二重熱処理シーケンスを行った。第一加熱ステップは、200℃〜700℃の間の温度で30分間または45分間行い、その後、被覆物体を冷却した。同じサンプルの第二加熱ステップは、400℃〜700℃の間の温度で5〜30分間行い、その後、被覆物体を再び冷却した。
【0064】
被覆および熱処理した物体の硬度値を、被覆の厚さに応じて5g、10gまたは25gのインデンタウェイトを使用してビッカース硬度試験によりマイクロレンジで測定した。試験は、EN‐ISO6507にしたがって行った。
【0065】
被覆および熱処理した物体の腐食抵抗性を、SFS‐EN ISO9227にしたがって、酢酸酸性塩水噴霧試験(AASS:Acetic Acid Salt Spray Test)で測定した。
【0066】
被覆および熱処理した物体の摩擦係数を、ピン‐オン‐ディスク摩擦測定デバイスで測定した。シャフトを、300rpmの速度で30分間回転させた。Al製ボールを、100〜500gの負荷でシャフトの回転表面に対して押圧した。
【0067】
比較のため、腐食および摩擦試験を、同じ試験パラメータを用いて他の市販の参照品にも行った。
【0068】
表1は、3つの市販製品(A、B、C)から測定した硬度、摩耗量および摩擦係数、ならびに二重熱処理したNiP‐Cr被覆(D)から測定した同じ特性を示す。POD摩耗試験を、300rpmの速度で、200gのAlボールで行った。新規な被覆の摩耗試験においては、Alボールが摩滅し、被覆は無傷のままだった。
【0069】
【表1】
【0070】
試験の結果は、第一加熱ステップの温度を200℃から700℃に上昇させるにしたがって、被覆の硬度が増加することを示した。プロセスが一つの加熱ステップだけを含む場合、400℃〜600℃の間の温度によって、1600〜1900HVの間の硬度値が与えられる。第二加熱ステップは、被覆物体の硬度を増加させる。第二熱処理の後に2000HVを大きく超える硬度値を測定でき、最高値は2500〜3000HVの高さであった。
【0071】
熱処理の最適条件をさがした際、400℃での第一ステップと700℃の第二ステップとの組み合わせによって良い結果が達成できた。第二ステップを700℃で15〜30分間行った後、約2500のHVの硬度値を測定した。700℃での第一ステップとでの400℃第二ステップとの組み合わせによっても、良い結果が達成できた。第二ステップを400℃で15〜30分間行った後、約3000HVの硬度値が測定された。
【0072】
被覆からとった断面図によって、被覆内の三つまたは四つの異なる層の存在を確認した。被覆物体の熱処理は、層に影響し、拡散の結果として元の層の内部および間に様々な相を作製し、この相が、例えば機械運動に対する、被覆の性能を高める。ハイパー三元多相合金は、熱処理の間に生み出される新規な極めて硬質の構造を含む。
【0073】
本発明による方法においては、中間層が、NiPおよびCrの層の間に堆積され、中間層は他の金属、金属合金またはセラミックの層とすることができる。NiPおよびCrの層の間に中間層を堆積させることは、被覆の特性を損なわないことが観察されている。逆に、中間層によって一部の特性を改善できる。
【0074】
実施例2
鋼物体を、7μmのNiP層および4μmのCr層で被覆した。熱処理を、二つのステップで行った。第一ステップは400℃で45分かけ、第二ステップは700℃で30分かけた。
【0075】
二重熱処理の後に被覆物体から測定したビッカース微小硬度値は、負荷10gで測定して約2500HVであった。
【0076】
被覆表面の断面顕微鏡写真において、層構造が識別できた。被覆の組成を、エネルギー分散型X線分光法(EDS)によって、電子ビームにサンプル画像上のラインをたどらせ、その空間的勾配に沿って以前に同定した元素の相対的割合のプロットを生成することによって、分析した。図1は、サンプルのEDSスペクトルを示す。鋼基質はグラフの左側にあり、被覆の表面はグラフの右側にある。
【0077】
サンプルにおいて鋼基質から被覆の外側表面に向かって以下の層が識別できる。
‐Feリッチな層(鋼基質)、
‐FeおよびNiを主に含む層、
‐NiおよびPを主に含む層、
‐NiおよびCrを主に含む層、
‐CrおよびOを主に含む層、
‐CrおよびCを主に含む層。
【0078】
サンプルのX線回折スペクトル(XRD)も測定した。図2は、サンプルのXRDスペクトルの一部を示す。
【0079】
NiPおよびCrの層の間に中間層を堆積させることは、被覆の特性を損なわない。逆に、中間層によって一部の特性を改善できる。
【0080】
実施例3
別の鋼物体を、7μmのNiP層および4μmのCr層を含む、実施例2と類似の被覆で被覆した。熱処理を、400℃で30分の第一ステップ、および700℃で30分の第二ステップの二つのステップで行った。
【0081】
被覆および熱処理した物体から測定したビッカース微小硬度値は、負荷10gで測定して約2500〜3000HVの範囲であった。
【0082】
被覆の断面顕微鏡写真において、層構造が識別できた。図3は、サンプルのEDSを示す。サンプルにおいて鋼基質から被覆の外側表面に向かって以下の層が識別できた。
‐Feリッチな層(鋼基質)、
‐FeおよびNiを主に含む層、
‐NiおよびPを主に含む層、
‐NiおよびCrを主に含む層、
‐CrおよびOを主に含む層、
‐CrおよびCを主に含む層。
【0083】
図4は、サンプルのXRDスペクトルの一部を示す。
【0084】
図2(400℃および700℃の熱処理)および図4(700℃および400℃の熱処理)のXRDスペクトルは、いずれの場合にも、被覆に結晶性の相が存在することを示す。
【0085】
NiPおよびCrの層の間に中間層を堆積させることは、被覆の特性を損なわない。逆に、中間層によって一部の特性を改善できる。
【0086】
実施例4
斜入射回折(GID:grazing incidence diffraction)を用いて、被覆表面の相構造の表面付近の深さプロフィールを得た。結果を図5に示す。最下は従来のXRDスペクトルである。入射角1.2°、5.5°および8.5°は、被覆の異なる深さを表す。測定されたスペクトルを被覆物体に含まれることが既知の元素のスペクトルと比較することによって、異なる入射角で測定したXRDスペクトルのピークを同定した。
【0087】
被覆表面のXRDスペクトルは、二つの相対的に高いピークといくつかの相対的に低いピークとを含む。第一ピークは、NiP、NiおよびCrの結晶相に対応する44〜45°の回折角2θ近くに位置する。被覆には微量の結晶性イソバイト(crystalline isovite)(Cr,Fe)23、CrNiおよびCrBも存在する。第二ピークは、NiおよびCrNiの結晶相に対応する51〜52°の回折角2θ近くに位置する。加えて、表面付近の層にCr、Cr、CrBおよびCrFeOの結晶相の証拠が存在する。被覆のさらに深くには、NiP、Ni、Cr、FeNi、CrおよびCrNiの結晶相の証拠が存在する。
【0088】
NiPおよびCrの層の間に堆積された中間層がある場合、この層の間に結晶性CrNiは形成されない。しかし、CrNi含有層のプラスの影響は、中間層に使用される材料により生み出される別のプラスの影響で置き換えられうる。
【0089】
実施例5
硬化可能なまたは表面硬化された金属物体を、1μmのストライクニッケル層、3μmのNiP層および4μmのCr層で被覆した。被覆の総厚みは、約8μmであった。その後、物体を誘導加熱によって一つのステップで熱処理した。
【0090】
最初に、26kWの電力および1500mm/分の速度での誘導ループによって物体を予熱した。それから物体の温度を、26kWの電力および1500mm/分の速度での誘導により、850℃まで上昇させ、その後、物体を水噴射で冷却した。
【0091】
基材の表面を約1mmの深さまで硬化し、被覆の硬度を増加させた。硬化後の基材のロックウェル硬度は58HRCであり、被覆のビッカース微小硬度は約1800HVであった。
【0092】
実施例6
硬化可能な金属物体を、1μmのストライクニッケル層、3μmのNiP層および4μmのCr層で被覆した。被覆の総厚みは、約8μmであった。その後、物体を誘導加熱によって熱処理した。
【0093】
物体の温度を、60kWの電力および1500mm/分の速度での誘導によって850℃まで上昇させ、その後、物体を水噴射で冷却した。
【0094】
基材を硬化し、被覆の硬度を増加させた。硬化後の基材のロックウェル硬度は55HRCであり、被覆のビッカース微小硬度は約1600HVであった。
【0095】
実施例7
表面硬化した金属物体を、1μmの第一ストライクニッケル層、3μmの第一NiP層、4μmの第一Cr層、1μmの第二ストライクニッケル層、3μmの第二NiP層および4μmの第二Cr層で被覆した。被覆の総厚みは、約16μmであった。その後、物体を誘導加熱によって熱処理した。
【0096】
最初に、26kWの電力および1500mm/分の速度での誘導ループによって物体を予熱した。それから、物体の温度を、26kWの電力および1500mm/分の速度での誘導によって850℃まで上昇させ、その後、物体を水噴射で冷却した。
【0097】
基材を硬化し、被覆の硬度を増加させた。硬化後の基材のロックウェル硬度は58HRCであり、被覆のビッカース微小硬度は約1900HVであった。
【0098】
実施例8
物体を、7μmのNiP層および5μmのCr層で被覆した。被覆物体を、700℃で30分間加熱した。その後、薄膜堆積によってDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の最上層を被覆物体上に堆積させた。
【0099】
被覆は、非常に硬質だった(2000HVを上回るビッカース微小硬度)。被覆表面のピン‐オン‐ディスク摺動摩耗は、0μmであった(試験時間210分、負荷500g、および速度300rpm)。被覆表面の摩擦係数は、0.24であった。AASS腐食試験は、200hを上回る値が得られた。
【0100】
あるいは、最上層を、NiP‐Cr被覆上に直接施してもよかったが、その場合には、熱処理を、薄膜堆積ステップの後に行うことができた。
【0101】
技術の進歩により、本発明の基本理念が様々な方法で実施されうることが、当業者に明らかである。したがって本発明およびその実施形態は、上記の実施例に限定されず、特許請求の範囲内で変動しうる。

図1
図2
図3
図4
図5