特許第6774138号(P6774138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774138オストレオリシン、機能的に関連したその変異体、オストレオリシンを含む抽出物、及びそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774138
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】オストレオリシン、機能的に関連したその変異体、オストレオリシンを含む抽出物、及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20201012BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20201012BHJP
   C07K 14/375 20060101ALN20201012BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20201012BHJP
【FI】
   A61K38/16ZNA
   A61K9/08
   A61K9/10
   A61K9/12
   A61K9/14
   A61K9/20
   A61K9/48
   A61P1/16
   A61P3/04
   A61P3/00
   !C07K14/375
   !C12N1/21
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2019-207449(P2019-207449)
(22)【出願日】2019年11月15日
(62)【分割の表示】特願2017-500471(P2017-500471)の分割
【原出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2020-40966(P2020-40966A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2019年11月29日
(31)【優先権主張番号】61/955,338
(32)【優先日】2014年3月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/955,874
(32)【優先日】2014年3月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/082,308
(32)【優先日】2014年11月20日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309038764
【氏名又は名称】イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブリュー ユニバーシティー オブ エルサレム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ ベティ
(72)【発明者】
【氏名】イェフダ−シュナイドマン エイナフ
(72)【発明者】
【氏名】ニムリ リリ
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−238091(JP,A)
【文献】 World J Fung Plant Biol., 2012, Vol.3 No.1, p.1-12
【文献】 Biochemistry, 2005, Vol.44, p.11137-11147
【文献】 FEBS Lett., 2004, Vol.575, p.81-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61K 9/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のうち1以上の処置、予防、又はその重症度の軽減における使用のための、オストレオリシン、又は、配列番号1と少なくとも95%の配列同一性を有するオストレオリシンの機能的に関連した変異体を含み、
前記オストレオリシンの機能的に関連した変異体は、オストレオリシンと同じ機能活性を有する、
製剤。
【請求項2】
前記オストレオリシンの機能的に関連した変異体は、配列番号1と少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記製剤が医薬製剤である、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
前記製剤が、粉体、溶液、腸溶錠、懸濁液、乳濁液、錠剤、カプセル、ゲル、クリーム、軟膏、泡、ペースト又は注射の形態である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項5】
前記オストレオリシンが組換えタンパク質である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項6】
前記オストレオリシンが精製されたタンパク質である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代謝症候群に関連する1つ以上の症状若しくは合併症を処置、予防、緩和及び/又は軽減するための、又は肥満、脂肪肝、糖尿病及び/又は癌を処置若しくは予防するための、オストレオリシン(ostreolysin)(oly)、機能的に関連したその変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物の使用を対象とする。
【背景技術】
【0002】
肥満は、流行しており、世界中で3億人を超える人が肥満であり、絶えず増加している。肥満は、美容の問題だけでなく、生命にかかわる疾患であり、生活の質及びその寿命を低下させる。肥満は、2型糖尿病、循環器疾患及び癌を含めて、多数の恐ろしい疾患のリスクを増加させ、インスリン抵抗性、糖不耐性及び脂質異常症に関連する。したがって、肥満に関連した機序を理解し、致死的疾患及びその合併症と戦う方法を見つける重要な必要性がある。
【0003】
処置の展望として、肥満及び関連した合併症の適切な治療法を見つけることは、疾患の生理学的及び生化学的複雑さのために、極めて困難である。しかし、エネルギー恒常性をエネルギー摂取に対してエネルギー消費に有利なように変えると、肥満と戦うのに役立つことは明らかである。したがって、全身エネルギー消費を増加させること(「負のエネルギー収支」)ができる細胞機構の特定は、肥満治療の目標として有利である。
【0004】
エネルギー消費を増加させる1つの選択肢は、褐色脂肪組織(BAT:brown adipose tissue)におけるミトコンドリア呼吸の脱共役である。このプロセスにおいては、ミトコンドリア内膜における脱共役タンパク質1(UCP1:uncoupling protein 1)を介した制限的プロトン漏洩(regulated proton leak)が存在し、エネルギーが熱として放散され、燃料酸化が増加する。これは、多量の活性なBATが肥満との戦いにおいて有益であることを示唆する。しかし、残念ながら、成人は、小型哺乳動物及び新生児とは対照的に、BATの量が不十分であると考えられる。したがって、成人期におけるBATの活性を高める方法を見つけることは、体内の栄養素の酸化を増加させることによって肥満と戦うのに有益であろう。
【0005】
成人におけるBATの最近の発見、及びBATの発生の更なる理解は、肥満を処置する新しい代替法の探索を促進した。というのは、肥満者は、その痩せた相手よりも褐色脂肪組織量/活性が劣るように見えるからである。BATの活性が過体重/肥満のグループよりも痩せたグループの方が約4倍高いことは注目すべきである。
【0006】
解剖学的観点から、褐色脂肪細胞は、2つのタイプの貯蔵所(depot)、すなわち分離した貯蔵所と拡散した貯蔵所に局在する。ヒトにおいては、分離した場所のBATは、主要血管周りの頚部−鎖骨上、腎周囲/副腎、及び脊椎傍領域に見られ、恐らくは、熱を生成し、分配して核心温度を維持するために存在する。それに対して、拡散褐色脂肪細胞は、白色脂肪中に存在し、寒冷暴露又は慢性カテコールアミン刺激に応じて出現する。
【0007】
高脂血症、真性糖尿病、高血圧症などの代謝異常の集団を含む代謝症候群は、西洋先進国において広範にますます流行している疾患である。
【0008】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:Non−alcoholic fatty liver disease)は、現在、代謝症候群の肝臓症状として認識され、慢性肝疾患の最も一般的な原因の1つとして世界中で出現している。NAFLDは、単純な肝臓脂肪症から脂肪性肝炎、進行線維症及び硬変まで広い疾患範囲を包含する。NAFLDに起因する肝臓に関連した病的状態及び死亡は、進行線維症及び硬変の患者に認められる。NAFLDの悪化及び進展期に向かう単純な脂肪変性の進行を加速する機序は十分理解されていないが、それは、ツーヒット説を意味すると一般に考えられる。肝脂肪蓄積は、疾患の「第1ヒット」である。肝細胞における脂肪蓄積は、NAFLDの特徴であり、それらを「第2ヒット」、例えば、TNF−α、単球走化性タンパク質1(MCP−1:monocyte chemoattractant protein−1)、別のサイトカインなどの酸化的ストレス及び炎症性サイトカインによる損傷に対して極めて脆弱にすることが示唆された。
【0009】
現在、脂肪性肝炎を完全に逆転又は予防することができる薬物療法は得られていない。したがって、NAFLDの処置に有効な療法を開発することが必要であり、NAFLDのリスクを低下させ得る分子又は組成物の発見が有用であろう。
【0010】
結腸直腸癌(CRC:Colorectal cancer)は、米国及びイスラエルにおいて成人の癌による死因の第2位である。死亡率は、常に上昇しており、そのため、罹患率を減少させる要因を見つけることはそれだけ重要である。処置の展望として、癌及び関連した合併症の適切な治療法を見つけることは、この疾患進行に関与する機序の複雑さのために、極めて困難である。したがって、関係した細胞機構、並びに結腸癌細胞増殖及び進行を抑制することができる分子の確認は、癌処置に有利であり得る。
【0011】
カベオリン1(Cav−1)は、電子顕微鏡写真において原形質膜の50〜100nm陥入部として認識される分化した脂質ラフトであるカベオラの主要なタンパク質成分である。カベオラは、主に、脂肪細胞、内皮細胞及び線維芽細胞を含めた高分化型間葉細胞に見られ、細胞増殖の負の調節因子としてのCav−1の果たし得る役割を示唆する。興味深いことに、Cav−1は、発癌性細胞形質転換、腫瘍化及び転移の原因に関係する。腫瘍細胞を含めた細胞は、生存し、増殖するか、又はプログラム細胞死(アポトーシス)を起こすかどうかの判断に常に直面している。したがって、アポトーシス促進性又は抗アポトーシス性の経路を特定することは、腫瘍細胞増殖を抑制するために重要な意味がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一部の実施形態においては、必要とする対象における代謝症候群に関連する1つ以上の症状又は合併症を処置する、予防する、又はその重症度を軽減する方法であって、有効量のoly、olyの機能的に関連した変異体又はそれらの組合せを含む組成物を必要とする対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0013】
本発明の一部の実施形態によれば、代謝症候群に関連する1つ以上の症状又は合併症は、過体重、肥満、リポジストロフィー、脂肪肝、NAFLD、NASH、慢性肝疾患、硬変又は肝細胞癌である。
【0014】
本発明の一部の実施形態によれば、代謝症候群に関連する1つ以上の症状又は合併症は、高血中/血漿グルコースレベル、糖不耐性II型糖尿病、高コレステロールレベル、高脂質レベル又は高トリグリセリドレベルである。
【0015】
本発明の一部の実施形態によれば、必要とする対象における癌を処置する、予防する、減少させる、又は軽減する方法であって、有効量のoly、olyの機能的に関連した変異体又はそれらの組合せを含む組成物をそれを必要とする対象に投与するステップを含む方法が提供される。
【0016】
本発明の一部の実施形態によれば、癌は結腸癌である。
【0017】
本発明の一部の実施形態によれば、olyは組換えタンパク質である。
【0018】
本発明の一部の実施形態によれば、olyは原核細胞中で産生される。
【0019】
本発明の一部の実施形態によれば、原核細胞は細菌細胞である。
【0020】
本発明の一部の実施形態によれば、癌を処置する、予防する、減少させる、又は軽減するための有効量のoly、olyの機能的に関連した変異体又はそれらの組合せを含む製剤が提供される。
【0021】
本発明の一部の実施形態によれば、癌は結腸癌である。
【0022】
本発明の一部の実施形態によれば、代謝症候群に関連する1つ以上の症状又は合併症を処置する、予防する、又はその重症度を軽減するためのoly、olyの機能的に関連した変異体又はそれらの組合せを含む製剤が提供される。
【0023】
本発明の一部の実施形態によれば、代謝症候群に関連する1つ以上の症状又は合併症は、過体重、肥満、脂肪肝、NAFLD、NASH、慢性肝疾患、硬変又は肝細胞癌である。
【0024】
本発明の一部の実施形態によれば、1つ以上の症状又は合併症は、代謝症候群に関連し、高血中/血漿グルコースレベル、糖不耐性II型糖尿病、高コレステロールレベル、高脂質レベル又は高トリグリセリドレベルである。
【0025】
本発明の一部の実施形態によれば、製剤は医薬製剤である。
【0026】
本発明の一部の実施形態によれば、肥満又は過体重を処置するステップは、細胞において白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に分化させること、又は細胞において褐色脂肪生成を誘発させることに関連する。
【0027】
本発明の一部の実施形態によれば、本明細書に記載の処置後に褐色脂肪生成マーカーの遺伝子発現が増加する。
【0028】
本発明の一部の実施形態によれば、必要とする対象における代謝症候群に関連する少なくとも1つ以上の症状又は合併症を処置する、予防する、又はその重症度を軽減する方法であって、olyを含む抽出物若しくはolyを含むキノコ抽出物又はolyを含む抽出物若しくはolyを含むキノコ抽出物を含む組成物の有効量を必要とする対象に投与するステップを含む方法が提供される。
【0029】
本発明の一部の実施形態によれば、代謝症候群に関連する1つ以上の症状又は合併症は、過体重、肥満、リポジストロフィー、脂肪肝、NAFLD、NASH、慢性肝疾患、硬変又は肝細胞癌である。
【0030】
本発明の一部の実施形態によれば、代謝症候群に関連する1つ以上の症状又は合併症は、高血中/血漿グルコースレベル、糖不耐性II型糖尿病、高コレステロールレベル、高脂質レベル又は高トリグリセリドレベルである。
【0031】
本発明の一部の実施形態によれば、必要とする対象における癌を処置する、予防する、減少させる、又は軽減する方法であって、olyを含む抽出物若しくはolyを含むキノコ抽出物又はolyを含む抽出物若しくはolyを含むキノコ抽出物を含む組成物の有効量を必要とする対象に投与するステップを含む方法が提供される。
【0032】
本発明の一部の実施形態によれば、癌は結腸癌である。
【0033】
本発明の一部の実施形態によれば、代謝症候群に関連する1つ以上の症状又は合併症を処置する、予防する、又はその重症度を軽減するための、olyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はolyを含む有効量の抽出物若しくはキノコ抽出物を含む製剤が提供される。
【0034】
本発明の一部の実施形態によれば、癌を処置する、予防する、減少させる、又は軽減するための、olyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はolyを含む有効量の抽出物若しくはキノコ抽出物を含む製剤が提供される。
【0035】
本発明の一部の実施形態によれば、製剤は、機能性食品製剤、食品添加物又は栄養補助食品である。
【0036】
本発明の一部の実施形態によれば、キノコ抽出物はヒラタケ属キノコ(Pleurotus mushroom)に由来する。
【0037】
本発明の一部の実施形態によれば、ヒラタケ属キノコは、ヒラタケ又はウスヒラタケ(Pleurotus Pulmonarious mushroom)である。
【0038】
本発明の一部の実施形態によれば、本明細書に記載の抽出物又は製剤は、粉体、溶液、腸溶錠、懸濁液、乳濁液、錠剤、又はカプセル、ゲル、クリーム、軟膏、泡、ペースト又は注射の形態である。
【0039】
本発明の一部の実施形態によれば、製剤は、機能性食品組成物又は栄養補助食品であり、摂食に適切な担体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】SDS−PAGE画像である。凍結乾燥oly純度を還元剤の存在下でSDS−PAGE(15%)によって測定した。それぞれの40から5μlは、10、5、3.75、2.5及び1.25μg/レーンに対応する。
図2】モノマーの予想分子サイズに対応する25mMトリス−HCl+300を用いて非変性(non−denaturative)条件下で展開された分析用Superdex75カラム上のolyのゲル濾過クロマトグラフィである。
図3】HCT116及びFHS74Int細胞系の細胞生存率を示すグラフである。Oly(62.5μg/ml)を24時間添加し、MTTアッセイを行った。
図4】新規に設計されたポリクローナル抗体を用いたolyのウエスタンブロット分析を示す図である。ヒラタケ子実体から抽出したタンパク質(50μg、子実体(FB:Fruiting Bodies))及び組換えolyタンパク質(2〜4μg)をSDS−PAGEに載せ、ニトロセルロース膜に転写した。olyに対して新規に設計されたポリクローナル抗体を使用した(1:2,500希釈)。
図5A】HIB−1Bにおける脂肪滴蓄積を示す顕微鏡画像である。特に、図5Aは、HIB−1B細胞(10μg/ml、48時間)においてolyによって誘導された脂質蓄積の代表的な光学顕微鏡画像であり、上の画像は対照細胞であり、下の画像はoly処理細胞である。さらに、左側の画像はX20倍率であり、右側の画像はX40倍率である。
図5B】HIB−1B及び3T3−L1細胞における脂肪滴蓄積を示す顕微鏡画像である。図5Bは、脂質検出色素ナイルレッドで染色された処理(oly−10μg/ml、48時間)又は非処理(対照)のHIB−1B及び3T3−L1細胞の代表的な共焦点顕微鏡画像である。
図6A】脂肪生成マーカーの遺伝子発現に対するoly(oly、10μg/ml、48時間)の効果を示すグラフである。遺伝子発現を実時間PCRによって測定し、ベータアクチンを基準にした。
図6B】特異的褐色脂肪生成マーカーの遺伝子発現に対するoly(oly、10μg/ml、48時間)の効果を示すグラフである。遺伝子発現を実時間PCRによって測定し、ベータアクチンを基準にした。
図7】カベオリン1の遺伝子発現においてolyによって誘導される増加を示すグラフである。遺伝子発現を実時間PCRによって測定し、ベータアクチンを基準にした。Oly処理は10μg/ml、48時間であった。
図8】異なる食餌条件(高脂肪食(HFD:High Fat Diet)及び低脂肪食(LFD:Low Fat Diet))及び異なるoly処理に供されたマウスの体重増加を示すグラフである。IPGTTを16週目に実施した。
図9】異なる食餌条件及びoly処理にさらされたマウスの屠殺日における体重を示すグラフである。*HFD P<0.05。
図10A】腹腔内グルコース負荷試験(IPGTT:intraperitoneal glucose tolerance test)の結果を示すグラフである。4実験群の血糖値変化。
図10B】腹腔内グルコース負荷試験(IPGTT)の結果を示すグラフである。曲線下面積(AUC:Areas under the curve)。
図11】マウス摂食量を示すグラフである。
図12】屠殺日における精巣上体脂肪組織の重量を示すグラフである。*HFD P<0.001。
図13A】Bアクチンに対するUCP−1の発現を示すグラフである。
図13B】Bアクチンに対するCideaの発現を示すグラフである。
図13C】Bアクチンに対するPRDM16の発現を示すグラフである。
図13D】Bアクチンに対するペリリピンAの発現を示すグラフである。
図13E】内臓脂肪組織におけるβアクチン発現に対するTNFαの発現を示すグラフである。
図14】屠殺日における肝臓重量を示すグラフである(HFD群P<0.05)。
図15】屠殺日におけるGOTレベルを示すグラフである(HFD群P<0.05)。
図16】屠殺日におけるGPTレベルを示すグラフである(HFD群P<0.05)。
図17】屠殺日におけるトリグリセリドレベルを示すグラフである(HFD群P<0.05)。
図18】屠殺日におけるコレステロールレベルを示すグラフである(HFD群P<0.05)。
図19A図19A〜Dは、屠殺日におけるマウスの肝臓の組織学的結果を示す画像である。対照LF(図19A)、対照LF+oly(図19B)、HF(図19C)、HF+oly(図19D)。
図19B図19A〜Dは、屠殺日におけるマウスの肝臓の組織学的結果を示す画像である。対照LF(図19A)、対照LF+oly(図19B)、HF(図19C)、HF+oly(図19D)。
図19C図19A〜Dは、屠殺日におけるマウスの肝臓の組織学的結果を示す画像である。対照LF(図19A)、対照LF+oly(図19B)、HF(図19C)、HF+oly(図19D)。
図19D図19A〜Dは、屠殺日におけるマウスの肝臓の組織学的結果を示す画像である。対照LF(図19A)、対照LF+oly(図19B)、HF(図19C)、HF+oly(図19D)。
図20】屠殺日におけるマウスの肝臓におけるアポトーシス評価(BAX/BCL2)を示すグラフである(P<0.05)。
図21図21A〜Fは、HCT116細胞(図21A、C及びE)と、HM7クローン#1及びクローン#15細胞(図21B、D及びF)に対するオストレオリシン(oly)の細胞障害活性を示す。細胞をダルベッコ変法イーグル培地中で終夜増殖させ、実施例の項に示したように様々な濃度のオストレオリシンで4時間(図21A及びB)、8時間(図21C及びD)、24時間(図21E及びF)処理した。細胞生存率をMTTアッセイによって推定した。生存率(%)を、異なる時間間隔における処理細胞と実験の最初における対照細胞の550nmにおけるホルマザン吸光度の比として表した。各ポイントは、n=4反復実験で行った4回の独立した実験の平均±SEである。エラーバーは、シンボルサイズよりも小さいので、識別できない。
図22A】HCT116細胞系の蛍光活性化細胞選別分析を示す。特に、図22Aは、Oly125μg/ml若しくはFBE0.01%(w/v)で処理した細胞、又は対照として8時間未処理の細胞を示す。インキュベーション後、細胞を収集し、透過処理し、ヨウ化プロピジウムで染色し、分析した。結果は、各々3つ組で行った2つの独立した実験のうち1つの代表である。データを15,000個のHCT116細胞から得た。
図22B】HCT116細胞系の蛍光活性化細胞選別分析を示す。図22Bに示したように、Oly125μg/ml、FBE0.01%(w/v)で処理し、又は対照として未処理のままで、最後に上述したように透過処理及び染色したHCT116細胞系のWinMDI2.9ソフトウェアを用いて細胞周期を分析した。すべての細胞相を百分率として表す。示したデータは、各々3つ組で行った2つの独立した実験の平均±SEである。データを15,000個のHCT116細胞から得た。
図23A】HCT116細胞におけるPARP−1の切断及びBAX発現レベルに対する組換えOlyの効果を示す図である。細胞をOly又はFBE(子実体抽出物:Fruiting Bodies Extract)の存在又は非存在下で8時間インキュベートした。(PARP−1及びBAXタンパク質の)全細胞溶解物を、方法に記載のようにウエスタンブロット分析のために処理した。示したデータは、各々二つ組で行った3つの独立した実験のうち1つの代表である。添加量が同じであることは、各ブロットをβアクチンについて探索することによって確認した。
図23B】HCT116細胞におけるPARP−1の切断及びBAX発現レベルに対する組換えOlyの効果を示す図である。細胞をOly又はFBE(子実体抽出物:Fruiting Bodies Extract)の存在又は非存在下で8時間インキュベートした。(PARP−1及びBAXタンパク質の)全細胞溶解物を、方法に記載のようにウエスタンブロット分析のために処理した。示したデータは、各々二つ組で行った4つの独立した実験のうち1つの代表である。添加量が同じであることは、各ブロットをβアクチンについて探索することによって確認した。
図23C】HCT116細胞におけるPARP−1の切断及びBAX発現レベルに対する組換えOlyの効果を示す図である。細胞をOly又はFBE(子実体抽出物:Fruiting Bodies Extract)の存在又は非存在下で8時間インキュベートした。(PARP−1及びBAXタンパク質の)全細胞溶解物を、方法に記載のようにウエスタンブロット分析のために処理した。添加量が同じであることは、各ブロットをβアクチンについて探索することによって確認した。濃度測定分析による定量化をGelpro32分析計ソフトウェアを用いて行った。結果を平均±SE(n=4)として表す。統計解析によれば、Olyで処理したHCT116細胞におけるBAXの発現は未処理細胞よりも高い。P値<0.05(スチューデントのt検定)。
図24】オストレオリシンが細胞膜を通り、サイトゾルに入ることを示す図である。抗Oly抗体によって認識される細胞内部のオストレオリシンの存在を示す、非処理条件で8時間処理したHCT116細胞(対照)、濃度125μg/mlのOlyで処理した細胞、濃度0.01%(w/v)のFBEで処理した細胞の代表的な免疫蛍光。スケールバー20μm。
図25】オストレオリシンが脂質ラフトにおいてカベオリン1の再構築を誘発することを示す図である。抗Cav−1抗体によって認識される膜上のCav−1のクラスター形成を示す、非処理条件で8時間処理したHCT116細胞(対照)、濃度125μg/mlのOlyで処理した細胞、濃度0.01%(w/v)のFBEで処理した細胞の代表的な免疫蛍光。スケールバー20μm。図から分かるように、組換えOlyは、HCT116細胞において脂質ラフトマーカーFlot−1の発現を高める。
図26】オストレオリシンが脂質ラフトにおけるフロチリン1の発現を高めないことを示す図である。したがって、Olyは、ラフトタンパク質Cav−1に特異的である。抗Flot−1抗体によって認識される膜上のFlot−1の発現増加を示す、非処理条件で4時間処理したHCT116細胞、濃度125μg/mlのOlyで処理した細胞、及び濃度0.01%(w/v)のFBEで処理した細胞の代表的な免疫蛍光。スケールバー20μm。
図27】C57Blマウスに移植されたMC38由来の結腸癌細胞に対するOlyの効果を示す図である。細胞を左腰に皮下注射した(2x10細胞/マウス)。注射の10日後、一部のマウスに腫瘍の徴候が出現した後、マウスを1mg/kg Olyで処理した(腹腔内に週3回)。対照マウスにPBSを週3回腹腔内投与した。各バーは、平均値の標準誤差である。N=8マウス。マウスを39日目に屠殺した。*=P<0.001。
図28】C57Blマウスに移植されたMC38由来の結腸癌細胞に対するOlyの効果を示す図である。腫瘍を屠殺後に切除し、秤量した。N=8。*=P<0.001。
図29】液体窒素凍結後のヒラタケ(方法1、レーン1及び3)及び−20℃凍結後の粉末ヒラタケ(方法2、レーン2及び4)の抽出調製物中のolyの濃度を示すウエスタンブロット画像である。
図30A図30A〜Dは、対照(図30A)、oly10μg/ml(図30B)、液体窒素凍結後のヒラタケの抽出調製物(図30C)、及び−20℃凍結後の粉末ヒラタケの抽出調製物(図30D)を示す。
図30B図30A〜Dは、対照(図30A)、oly10μg/ml(図30B)、液体窒素凍結後のヒラタケの抽出調製物(図30C)、及び−20℃凍結後の粉末ヒラタケの抽出調製物(図30D)を示す。
図30C図30A〜Dは、対照(図30A)、oly10μg/ml(図30B)、液体窒素凍結後のヒラタケの抽出調製物(図30C)、及び−20℃凍結後の粉末ヒラタケの抽出調製物(図30D)を示す。
図30D図30A〜Dは、対照(図30A)、oly10μg/ml(図30B)、液体窒素凍結後のヒラタケの抽出調製物(図30C)、及び−20℃凍結後の粉末ヒラタケの抽出調製物(図30D)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施形態は、代謝症候群に関連する1つ以上の症状若しくは合併症を予防、緩和及び/又は軽減する方法、又は肥満、リポジストロフィー、脂肪肝、糖尿病及び/又は癌を処置若しくは予防する方法であって、治療有効量のoly、olyの機能的に関連した変異体、又はoly若しくはolyの機能的に関連した変異体を含む組成物を対象に投与するステップを含む方法を対象とする。一部の実施形態においては、olyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む組成物を対象に投与する。本発明の一部の実施形態においては、キノコ抽出物は、ヒラタケ属キノコからの抽出物である。本発明の一部の実施形態においては、ヒラタケ属キノコはヒラタケに由来する。本発明の一部の実施形態においては、ヒラタケ属キノコはウスヒラタケに由来する。本願を通して、別段の記載がない限り、「処置すること」という用語は、「予防すること」、「症状の作用/重症度を軽減すること」、「症状の進行を遅らせること」、症状の少なくとも1つの望ましくない副作用を軽減/除去すること」などを含むことを意味することに留意されたい。「予防すること」という用語は、投与時に罹患している可能性がないと診断されたが、発症することが予想され得る、又は疾患のリスクが高い可能性がある患者に投与したときに、本発明の化合物が有用であることを意味する。本発明のoly若しくはその機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物、又はoly、その機能的に関連した変異体、若しくはolyを含む抽出物を含む組成物は、疾患症候の発生を遅らせ、疾患の発生を遅らせ、又は個体が発症するのを完全に予防する。予防することは、年齢、家族歴、遺伝子若しくは染色体の異常のために、及び/又は公知の遺伝子変異などの疾患の1種以上の生物学的マーカーの存在のために、罹患しやすいと考えられる個体に本発明の化合物を投与することも含む。
【0042】
oly若しくはその機能的に関連した変異体又はolyを含む抽出物の使用は、様々な代謝病又は障害(例えば、肥満、代謝症候群、インスリン抵抗性、(2型糖尿病を含めた)糖尿病、及び脂質異常症)、並びに急性心筋梗塞(「心臓発作」)及び大動脈弁狭窄及びアテローム性動脈硬化症などのそれだけに限定されない別の心血管合併症;慢性腎疾患(特に、腎血管系に対する糖尿病の影響を考慮して);動脈石灰化;大動脈弁石灰化又は僧帽弁石灰化を含めて、ただしそれだけに限定されない弁石灰化;大動脈弁狭窄症又は僧帽弁狭窄症を含めて、ただしそれだけに限定されない弁狭窄症;急性心筋梗塞;冠動脈インターベンション後の再狭窄;(生体弁移植を含めた)弁移植を含めて、ただしそれだけに限定されない冠動脈インターベンション後の組織損傷の加速、又は治癒の遅延;ステント留置;人工組織の移植、同種移植片(allograft)、(ロス手術を含めて、ただしそれだけに限定されない)同種移植片(homograft)、バイオプロテーゼ組織、ダクロン移植片又は任意の合成若しくは生体導管;心臓移植;(伏在静脈バイパス移植片及び血液透析AVシャントを含めて、ただしそれだけに限定されない)動脈又は静脈移植片移植;発作;及び心不全;冠動脈バイパス術のための静脈移植の失敗;糖尿病性腎症;血管炎;網膜症;勃起不全;及びすい炎など、ただしそれだけに限定されない非心血管合併症;非アルコール性脂肪性肝疾患;神経炎症;認知障害;癌などのそれらの臨床的合併症を予防する、遅延させる、又は改善することができる。本願に記載の疾患又は症状の処置又は予防においては、本発明の化合物又は抽出物を治療有効量で投与する。治療有効量は、当業者に知られているように、使用する個々の化合物及び投与経路に応じて変わる。
【0043】
さらに、投与する組成物の量は、言うまでもなく、処置対象、病気の重症度、投与方式、処方する医師の判断、及びすべての他の関連する要因に依存する。投与する正確な用量の決定は、当業者に既知の方法によって行われる。
【0044】
本発明の一部の実施形態においては、単一の処置におけるoly又はその機能的変異体の量は、約0.10〜10mg/kg体重(BW:body weight)/日であると計算される。本発明の一部の実施形態においては、約0.3〜1.0mg/kgのoly量を1日当たり使用する。一部の実施形態においては、約0.5〜0.8mg/kgの量を1日当たり使用する。
【0045】
olyを含む抽出物又はキノコ抽出物の場合、投与する乾燥抽出物の量は、その中のolyの量に応じて計算することができる。一部の実施形態においては、凍結乾燥粉末ヒラタケ属又はヒラタケ約20〜200mg/Kg体重(BW)を1日当たり使用する。一部の実施形態においては、凍結乾燥粉末ヒラタケ約20〜60mg/Kg BWを1日当たり使用する。一部の実施形態においては、凍結乾燥粉末ヒラタケ約40〜50mg/Kg BWを1日当たり使用する。
【0046】
一般に、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物、又はolyを含むキノコ抽出物を用いた処置は、少なくとも1日1回、一般には1日1回、2回、3回又は4回施され、十分な効果を誘導するために薬物の一定した存在を維持するために昼夜を通して等間隔で投与されることが考えられる。しかし、当業者は、処置スケジュールを所与の患者に対して最適化することができ、化合物の投与を1日1回よりも少なくできることを承知しているはずである。
【0047】
処置は、必要なだけ長期間実施することができる。一般に、処置は、病態が持続する間は無期限に継続されるが、化合物がもはや有益な効果をもたらさない場合は中断も必要になり得ると考えられる。処置する医師は、患者の反応に基づいて処置を増やす、減らす、又は中断する仕方を知っているはずである。
【0048】
本発明の一部の実施形態においては、抽出物又はキノコ抽出物は、少なくとも0.001mg/g抽出物粉体の濃度でolyを含む。本発明の一部の実施形態においては、抽出物又はキノコ抽出物は、少なくとも0.005mg/g粉体の濃度でolyを含む。本発明の一部の実施形態においては、抽出物又はキノコ抽出物は、少なくとも0.01mg/g粉体の濃度でolyを含む。本発明の一部の実施形態においては、抽出物又はキノコ抽出物は、少なくとも0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1mg/g抽出物粉体以上の濃度でolyを含む。
【0049】
さらに、利用されるoly又はその機能的に関連した変異体は、患者の症状を処置するために必要に応じて追加の活性成分と一緒に処方又は投与できると理解される。
【0050】
オストレオリシン(Oly)は、ヒラタケ(ヒラタケ(oyster mushroom)及びヤルデンキノコ(Yarden mushrooms)としても知られる)及びウスヒラタケ中に存在するタンパク質である。Olyはコレステロール濃縮領域と相互作用し得る子実体形成中に発現される15kDa細胞溶解性タンパク質である。
【0051】
本発明は、in−vivo及びin−vitroモデル並びに様々なパラメータに関連した代謝症候群に対する、及び/又は脂肪肝、肥満、過体重、癌及び糖尿病、並びにGOT、GPT、トリグリセリド及びコレステロールのレベルに対するoly及びolyを含む抽出物の驚くべき効果に基づく。
【0052】
実施例の項で明らかなように、少量の組換えoly、及びolyを含む抽出物は、細胞における脂肪滴蓄積(図5)、脂肪生成マーカーの遺伝子発現(図6)、体重増加(図8)、IPGTT(図10)、精巣上体(epididimal)脂肪組織の重量(図12)、肝臓重量及び遺伝子の発現(それぞれ図14及び13)、並びにGOT、GPT、トリグリセリド及びコレステロールのような他のパラメータに対して有意な効果を示した。
【0053】
本明細書では、「代謝症候群」又は「X症候群」は、NCEP ATPIII基準に基づいて定義される。この基準では、以下の要因のうち3つ以上が存在する:1)腹囲の増加(男性>102cm[>40インチ]、女性>88cm[>35インチ])、2)トリグリセリドの上昇(>150mg/dl)、3)低HDLコレステロール(男性<40mg/dl、女性<50mg/dl)、4)不適当な血圧(>130mmHg収縮期又はmmHg拡張期)、及び5)空腹時血糖異常(>110mg/dl)。本発明の方法は、本明細書中に定義した代謝症候群、及び代謝症候群の症状のいずれか1つ以上を、別々に、若しくは本明細書中に定義した組み合わせで、又は上記合併症を処置するためのものであることを理解されたい。
【0054】
本明細書では、「脂肪肝」という用語は、脂肪が脂質代謝の障害のために肝細胞に過剰に蓄積した状態を指す。それは、アンギナ、心筋梗塞、発作、動脈硬化症、膵炎などの様々な疾患を引き起こすことがある。
【0055】
「耐糖能障害」を本明細書では米国糖尿病学会の基準に基づいて定義する。耐糖能障害は、2時間75g経口ブドウ糖負荷試験値140から199mg/dL(7.8から11.0mmol/l)である。
【0056】
「空腹時血糖異常」を本明細書では米国糖尿病学会の基準に基づいて定義する。空腹時血糖異常を空腹時血糖値100から125mg/dL(5.6から6.9mmol/l)として定義する。
【0057】
「真性糖尿病」とは、一般に、空腹時血糖値126mg/dL(7.0mmol/l)以上を指す。
【0058】
「インスリン抵抗性」を本明細書では20mcU/mLを超える空腹時血中インスリンレベルとして定義する。
【0059】
個体における「初発糖尿病」(通常、空腹時血中グルコース濃度7.0mmol/l以上に基づいて定義される)。
【0060】
「高血糖」は、空腹時血中グルコース濃度7.0mmol/l以上である。
【0061】
脂肪肝疾患(FLD:fatty liver disease)としても知られる脂肪肝は、可逆的な症状である。トリグリセリド脂肪の大きい液胞は、脂肪変性(細胞内の脂質の異常な保持)プロセスによって肝細胞中に蓄積する。脂肪肝は、過剰なアルコール摂取及び(インスリン抵抗性の作用があってもなくても)肥満の人において世界中で発生する単一の疾患と考えることができる。症状は、脂肪代謝に影響する別の疾患にも関連する。この脂肪代謝プロセスが混乱すると、脂肪が肝臓に過剰に蓄積し、したがって脂肪肝になることがある。アルコール性FLDと非アルコール性FLDは、症候が類似しており、異なる段階における小滴性及び大滴性脂肪変化を特徴とする。脂肪の蓄積は、脂肪性肝炎と呼ばれる肝臓の進行性炎症(肝炎)を伴うこともある。「肝臓脂肪症」とは、肝細胞内の脂質の異常な保持を表すプロセスを指す。脂肪肝は、対象のアルコール消費に応じてアルコール性脂肪変性又は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれ、より重篤な形はアルコール性脂肪性肝炎(アルコール性肝疾患の一部)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Non−alcoholic steatohepatitis)と呼ばれることもある。
【0062】
成人の場合、「過体重」及び「肥満」の範囲は、体重及び身長を用いて「体格指数」(BMI:body mass index)と呼ばれる数値を計算することによって決定される。BMIは、ほとんどの人でその体脂肪量と相関するので使用される。BMI25から29.9の成人は、過体重と考えられる。BMI30以上は肥満と考えられる。これらの症状又は障害のすべてが、oly、olyに関連した変異体、又はolyを含む抽出物を含む組成物によって改善又は処置される。抽出物は、キノコ抽出物とすることができ、一部の実施形態においてはヒラタケ属抽出物とすることができる。
【0063】
本明細書では、「oly」又は「オストレオリシン」という用語は、下記アミノ酸配列を含む天然オストレオリシンタンパク質又は組換えオストレオリシンタンパク質を指す。
AYAQWVIIIIHNVGSQDVKIKNLKASWGKLHADGDKDAEVSASNYEGKIIKPDEKLQINACGRSDAAEGTTGTFDLVDPADGDKQVRHFYWDCPWGSKTNTWTVSGSNTKWMIEYSGQNLDSGALGTITVDTLKKGN(配列番号1)。
【0064】
本明細書では、「断片」又は「oly断片」という用語は、olyの任意のアミノ酸配列部分を指す。
【0065】
本明細書では、「oly誘導体」又は「oly類似体」という用語は、oly又はoly断片の配列に比べてアミノ酸置換、付加、欠失又は化学修飾によって少なくとも1個の変化したアミノ酸残基を含むoly又はoly断片を指す。Oly誘導体は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、任意の化学修飾アミノ酸、及び任意の利用可能な分子構造を有するアミノ酸を含む、アミノ酸置換及び/又は付加を含む。
【0066】
本明細書では、「olyの機能的に関連した変異体」という句は、本明細書に記載のolyの同じ又は増大した機能活性を有する、olyの任意の断片、誘導体若しくは類似体、又はそれらの任意の組合せを指す。
【0067】
本発明の一部の実施形態においては、olyの機能的に関連した変異体は、配列番号1のアミノ酸配列又はolyタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%配列同一性である。
【0068】
本発明の一部の実施形態においては、oly、oly断片、oly誘導体、oly類似体、又はolyの機能的に関連した変異体は、単離されたタンパク質である。本発明の一部の実施形態においては、oly、oly断片、oly誘導体、oly類似体、又はolyの機能的に関連した変異体は、任意のタイプ、サイズ及び原子組成の担体又は分子構造に埋め込まれる、又はそれに接続される。
【0069】
代謝的に関連したパラメータ、代謝関連疾患、及び/又は代謝に関連した病的症状の改善とは、(単独で、又は1つ以上の組み合わせで)以下の1つ以上を指す:体重減少、(場合によっては褐色脂肪の脂肪細胞(brown fat adipocytes)産生の増加による)エネルギー消費の増加、肝臓重量、(例えば、GOT、GPTなどの肝酵素の活性の改善による)肝機能及び幾つかの脂肪滴を含めた肝臓関連パラメータの改善、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に関連する臨床パラメータの改善、血中/血漿グルコースレベルなどのグルコース関連パラメータの改善、糖不耐性の改善、並びにコレステロール、脂質、ペプチド、レプチン及びトリグリセリドレベルに関連した1個以上のパラメータの改善。
【0070】
NAFLDは、慢性肝疾患の主要原因であることが知られており、NAFLD患者の20〜30%は、進行して非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を発症し、それは、硬変、肝細胞癌及び死亡率上昇、II型糖尿病、高脂血症(hyperlipimedimia)、高コレステロール血症、並びに臨床的に有益な効果が肝機能又は少なくとも1個の関連した肝臓パラメータの改善によって現れる疾患を引き起こし得る。したがって、これらの症状は、本発明の方法及び調製物によっても処置することができる。
【0071】
一部の実施形態によれば、oly、その機能的に関連した変異体、又はoly、その機能的に関連した変異体を含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はoly若しくはolyの機能的に関連した変異体又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む組成物、又はolyを含む組成物抽出物若しくはキノコ抽出物は、場合によっては褐色脂肪細胞分化を促進し、エネルギー消費を増加させることによって、肥満、糖尿病及び/又はそれらの合併症の処置に使用することができる。更なる実施形態によれば、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はoly、その機能的に関連した変異体又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む組成物を使用して、肝機能を改善する、肝臓重量を減少させることができる。本発明の一部の実施形態によれば、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はoly、その機能的に関連した変異体又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む組成物を使用して、高脂肪食で育てた動物における糖不耐性を改善することができる。更なる実施形態によれば、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はoly、その機能的に関連した変異体又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む組成物を使用して、既に完全に分化した脂肪細胞の代謝を増加させる。
【0072】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞において白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に分化させる、又は褐色脂肪生成を誘発させる方法であって、oly、olyの機能的に関連した変異体、又はそれらの任意の組合せ、又はolyを含む抽出物と細胞を接触させるステップを含む方法を提供する。この方法は、インビトロ試験、例えば、それだけに限定されないが、olyと他の活性材料の相乗効果の評価に使用することができる。
【0073】
本発明の更なる実施形態は、有効量のoly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はoly、その機能的に関連した変異体又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む組成物と脂肪細胞を接触させることによって代謝率を高くする方法を対象とする。一部の実施形態によれば、脂肪細胞は、褐色、白色又はその両方である。一部の実施形態によれば、より高い代謝率は、呼吸及び/又は栄養素酸化の増加に起因し得る。
【0074】
本発明の更なる実施形態は、褐色脂肪の脂肪細胞の産生を高める方法であって、有効量のoly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はoly、その機能的に関連した変異体又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む組成物と褐色脂肪の脂肪細胞の前駆体を接触させるステップを含む方法を対象とする。
【0075】
本発明の更なる実施形態は、有効量のoly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物、又はoly、その機能的に関連した変異体又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む組成物の投与を含む、癌を処置する方法を対象とする。一部の実施形態によれば、処置される癌は結腸癌である。本発明の別の実施形態によれば、癌は、脳腫瘍、中咽頭癌、上咽頭癌、腎臓癌、胆道癌、前立腺癌、クロム親和細胞腫、膵島細胞癌、リ・フラウメニ腫瘍、甲状腺癌、副甲状腺癌、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨原性肉腫腫瘍、複数の神経内分泌I型及びII型腫瘍、乳癌、肺癌、頭部&頚部癌、前立腺癌、食道癌、気管癌、皮膚癌 脳腫瘍、肝臓癌、膀胱癌、胃癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頚癌、精巣癌、結腸癌、直腸癌又は皮膚癌である。本明細書では「癌」という用語は、発癌細胞に典型的な特性、例えば、抑制されない増殖、分化機能の喪失、不死、著しい転移能、抗アポトーシス活性の著しい増加、急速な成長及び増殖速度、並びにある特徴的な形態及び細胞マーカーを有する細胞の存在を指す。一般に、癌細胞は、腫瘍の形態であり、動物内に局在し、又は独立細胞、例えば、白血病細胞として血流中を循環する。癌の処置としては、癌細胞の増殖の減少、癌の発生、再発の予防、増殖速度の減少、増殖の停止、腫瘍縮小、進行の遅延、転移の減少、生存率の上昇、癌患者の生活の質の向上などが挙げられる。癌細胞の増殖の減少は、増殖速度の減少、細胞分裂停止効果、細胞傷害効果、アポトーシス効果、又はそれらの任意の組合せによって達成することができる。
【0076】
一部の実施形態においては、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物は、細胞停止及び/又はアポトーシスを誘発する。一部の実施形態においては、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物は、癌細胞における細胞停止又はアポトーシスを誘発する。一部の実施形態においては、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物は、転移を阻止する。一部の実施形態においては、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物は、腫瘍増殖を阻止する。一部の実施形態においては、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物は、血管新生を阻止する。一部の実施形態においては、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物は、細胞周期を阻害する。一部の実施形態においては、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物は、異常細胞周期を阻害する。
【0077】
一部の実施形態によれば、本発明によって利用されるolyは、キノコによって産生される天然olyである。一部の実施形態によれば、本発明によって利用されるolyは、組換えタンパク質である。更なる実施形態によれば、olyは原核細胞中で産生される。一部の実施形態によれば、olyは細菌細胞中で産生される。一部の実施形態によれば、産生されるolyは、溶血性でない。一部の実施形態によれば、細菌細胞は大腸菌である。
【0078】
一部の実施形態は、活性成分として治療有効量のoly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物と、薬学的又は機能性食品的に許容される担体とを含む医薬組成物又は機能性食品組成物を対象とする。本発明は、さらに、oly、又はolyの機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む栄養補助食品を提供する。活性成分(oly又は機能的に関連したその変異体)の薬学的に許容される塩を一部の実施形態によれば使用することもできる。薬学的に許容される塩としては、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などの無毒の無機又は有機酸から誘導される塩などの遊離アミノ基と形成される塩、及びナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの無毒の無機又は有機塩基から誘導される塩などの遊離カルボキシル基と形成される塩が挙げられる。
【0079】
oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物を含む薬学的又は機能性食品的組成物は、代謝症候群、又は本明細書に記載の代謝症候群症状若しくは合併症の1つ以上、並びに肥満、脂肪肝、糖尿病、癌及び高レベルのコレステロール及び/又はトリグリセリドの1つ以上を処置するのに必要な1種以上の追加の活性成分を含むことができる。追加の活性成分は、oly、oly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物と相乗効果を有し得ることに留意されたい。
【0080】
本発明のoly、その機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物若しくはキノコ抽出物は、肥満、リポジストロフィー、肥満における食欲抑制、(本明細書で定義した)代謝症候群、並びに(本明細書で定義した)その症状及び/又は合併症、及びリポジストロフィー関連不妊症又は肥満、脂肪肝、糖尿病、癌並びに高レベルのコレステロール及び又はトリグリセリドの1つ以上の処置に使用される他の薬物と組み合わせて摂取するように処方することもできる。かかる組合せで使用するときには、oly若しくはその機能的に関連した変異体、又はolyを含む抽出物、及び従来の薬物は、同じ若しくは異なる経路で、同時に投与することができ、又は処置中の異なる時間に投与することができる。選択した従来の薬物の用量は、使用する個々の化合物、並びに投与の経路及び回数に依存する。
【0081】
本発明は、本発明の医薬品又は機能性食品組成物の成分の1つ以上を充填した1個以上の容器を含む医薬品又は機能性食品のパック又はキットも提供する。医薬品又は生物学的製剤の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって指定された形の通知をかかる容器(単数又は複数)に場合によっては添付する。通知は、ヒト投与のための製造、使用又は販売の機関による承認を示すものである。
【0082】
「薬学的に許容される」という用語は、対象、例えば、ヒトへの投与に適切であることを意味する。例えば、「薬学的に許容される」という用語は、連邦若しくは州政府の規制行政機関によって認可された、又は米国薬局方、若しくは動物用、より具体的にはヒト用の他の一般に認知された薬局方に記載されていることを意味し得る。「担体」という用語は、治療化合物が一緒に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルを指す。かかる医薬担体は、落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油など、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、他の合成溶媒などの石油、動物、野菜又は合成起源のものを含めて、水、油などの無菌液体とすることができる。水は、医薬組成物を静脈内投与するときに好ましい担体である。食塩水並びにデキストロース及びグリセロール水溶液を、特に注射液用の、液状担体として使用することもできる。適切な医薬品賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又は酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩などのpH緩衝剤を含むこともできる。ベンジルアルコール、メチルパラベンなどの抗菌剤、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、及び塩化ナトリウム、デキストロースなどの浸透圧調節剤も予見される。
【0083】
医薬組成物、機能性食品組成物又は栄養補助食品は、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤又はカプセルの形態を取ることができる。医薬組成物は、粉体、ゲル、クリーム、軟膏、泡、ペースト、徐放性製剤などの形態を取ることもできる。組成物は、トリグリセリド、微結晶セルロース、トラガカントゴム、ゼラチンなどの伝統的な結合剤及び担体と一緒に坐剤として処方することができる。経口製剤は、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準担体を含むことができる。適切な医薬担体の例は、その内容を参照により本明細書に援用するE.W.マーチン(Martin)「レミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。かかる組成物は、対象への適切な投与のための剤形を与えるように適切な量の担体と一緒に、例えば、十分精製された形態の、治療有効量のoly、その機能的に関連した変異体を含む。本発明の一部の実施形態においては、機能性食品又は栄養補助食品をチューインガム、乳製品などの食品に添加することができる。本発明の一部の実施形態においては、機能性食品又は栄養補助食品を水、乳、ジュースなどの液体に添加することができる。
【0084】
個々の障害又は症状の処置に有効であるoly、その機能的に関連した変異体、又はそれを含む抽出物若しくはキノコ抽出物の量は、障害又は症状の性質に依存し、当業者に既知の標準臨床技術によって決定することができる。さらに、in−vitroアッセイを場合によっては用いて、最適な投与量範囲の確認を助けることができる。製剤に使用される正確な用量は、投与経路及び疾患又は障害の性質にも依存するが、開業医の判断及び各患者の状況に応じて決定すべきである。有効量は、in−vitro又はin−vivo動物モデル試験バイオアッセイ又はシステムから得られる用量反応曲線から推定することができる。
【0085】
医薬組成物の投与経路は、患者及び/又は処置する疾患若しくは症状に依存する。適切な投与経路としては、非経口投与、例えば、皮内、静脈内、筋肉内、病巣内、皮下、髄腔内、腹腔内、及び当該技術分野で公知の任意の他の投与方法が挙げられるが、それだけに限定されない。一部の実施形態によれば、組成物を経口、経皮、直腸、膣、局所、経鼻、吸入及び眼球処置様式で投与する。例えば、吸入器又は噴霧器を使用して、肺投与することもできる。
【0086】
経口適用の場合、医薬組成物は、以下の成分又は性質の類似した化合物のいずれかを含むことができる錠剤又はカプセルの形態とすることができる:微結晶セルロース、トラガカントゴム、ゼラチンなどの結合剤、デンプン、ラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、Primogel、コーンスターチなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、又はコロイド状二酸化ケイ素などの流動化剤。投与単位剤形がカプセルであるときには、それは、上記タイプの成分に加えて、脂肪油などの液状担体を含むことができる。さらに、投与単位剤形は、投与単位の物理的形態を変える種々の別の材料、例えば、糖、シェラック又は別の腸溶剤の被覆物を含むことができる。本発明の錠剤は、さらに、フィルム被覆することができる。
【0087】
「褐色脂肪の脂肪細胞の前駆体」という用語は、例えば、幹細胞、間葉幹細胞、筋原性前駆体、褐色前駆脂肪細胞及び白色前駆脂肪細胞を含めて、褐色脂肪の脂肪細胞に直接、又は中間細胞型を経て、分化することができる任意の細胞を指す。
【0088】
「類似体」及び「誘導体」という用語は、天然ペプチドに比べてアミノ酸置換、付加、欠失又は化学修飾によって少なくとも1個の変化したアミノ酸残基を含むペプチドを指す。ペプチド誘導体は、特に、天然アミノ酸残基によるアミノ酸置換及び/又は付加、及び、例えば、一般に天然に存在する酵素修飾などの化学修飾を含む。ペプチド類似体は、特に、非天然アミノ酸残基によるアミノ酸置換及び/又は付加、及び天然に存在しない化学修飾を含む。
【0089】
本発明は、少なくとも1個のアミノ酸が化学修飾されたペプチド/タンパク質の使用を包含する。アミノ酸残基の化学修飾としては、アミド化、メチル化、アセチル化、グリコシル化、酸化、還元、ミリスチル化、硫酸化、アシル化、ADPリボシル化、環化、ヒドロキシル化、ヨウ素化、保護/ブロック基による誘導体化、又は当該技術分野で公知の任意の他の誘導体化方法が挙げられるが、それだけに限定されない。かかる変化は、olyの生物活性を破壊しないが、改善し得る。
【0090】
一実施形態においては、本明細書では「断片」と「ペプチド」という用語は、区別なく使用することができ、全く同じ意味及び性質を有する。
【0091】
一実施形態においては、本明細書では「ペプチド」と「タンパク質」という用語は、区別なく使用することができ、全く同じ意味及び性質を有する。
【0092】
本発明の原理による誘導体、類似体、前駆体及び断片は、−CH2−NH−、−CH2−S−、−CH2−S=O、O=C−NH−、−CH2−O−、−CH2−CH2−、S=C−NH−及び−CH=CH−を含めて、ただしそれだけに限定されない側鎖結合修飾、並びに修飾ペプチド結合などの骨格修飾を含むこともできる。ペプチド内のペプチド結合(−CO−NH−)は、例えば、N−メチル化結合(−N(CH3)−CO−)、エステル結合(−C(R)H−C−O−O−C(R)H−N)、ケトメチレン結合(−CO−CH2−)、α−アザ結合(−NH−N(R)−CO−)(式中、Rは任意のアルキル基、例えば、メチルである)、カルバ結合(−CH2−NH−)、ヒドロキシエチレン結合(−CH(OH)−CH2−)、チオアミド結合(−CS−NH)、オレフィン二重結合(−CH=CH−)及びペプチド誘導体(−N(R)−CH2−CO−)(式中、Rは、炭素原子上に天然に存在する「通常の」側鎖である)で置換することができる。これらの修飾は、ペプチド鎖に沿った1個以上の結合において、更には同時に幾つか(例えば、2〜3)においても起こり得る。
【0093】
本発明は、遊離アミノ基を誘導体化して、アミン塩酸塩、p−トルエンスルホニルアミノ基、カルボベンゾキシアミノ基、t−ブチルオキシカルボニルアミノ基、クロロアセチルアミノ基又はホルミルアミノ基を形成するペプチド/タンパク質誘導体及び類似体も包含する。遊離カルボキシル基を誘導体化して、例えば、塩、メチル及びエチルエステル、又は別のタイプのエステル、又はヒドラジド、及びアミドを形成することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素を誘導体化して、N−im−ベンジルヒスチジンを形成することができる。
【0094】
20種の標準アミノ酸残基の1種以上の天然アミノ酸誘導体を含むペプチド/タンパク質誘導体も含まれる。例えば、4−ヒドロキシプロリンでプロリンを置換することができ、5−ヒドロキシリジンでリジンを置換することができ、3−メチルヒスチジンでヒスチジンを置換することができ、ホモセリンでセリンを置換することができ、オルニチンでリジンを置換することができる。ペプチド類似体は、非天然アミノ酸を含むこともできる。非天然アミノ酸の例としては、サルコシン(Sar)、ノルロイシン、オルニチン、シトルリン、ジアミノ酪酸、ホモセリン、イソプロピルLys、3−(2’−ナフチル(naphtyl))−Ala、ニコチニルLys、アミノイソ酪酸及び3−(3’−ピリジル−Ala)が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0095】
さらに、ペプチド/タンパク質類似体は、メチル化アミノ酸、N−ベンジル化アミノ酸、O−ベンジル化アミノ酸、N−アセチル化アミノ酸、O−アセチル化アミノ酸、カルボベンゾキシ置換アミノ酸などを含めて、ただしそれだけに限定されない別の誘導体化アミノ酸残基を含むことができる。具体例としては、メチル−Ala(MeAla)、MeTyr、MeArg、MeGlu、MeVal、MeHis、N−アセチル−Lys、O−アセチル−Lys、カルボベンゾキシ−Lys、Tyr−O−ベンジル、Glu−O−ベンジル、ベンジル−His、Arg−トシル、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニンなどが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0096】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コード化配列中の単一のアミノ酸又は少数のアミノ酸を変える、付加する、又は欠失させる核酸、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質配列に対する個々の置換、欠失又は付加は、変更が化学的に類似したアミノ酸によるアミノ酸の置換という結果になる場合を含めて、「保存的に改変された変異体」であることを認識するはずである。機能上類似したアミノ酸を与える保存的置換の表は当該技術分野で周知である。表現型として無変化である可能性があるアミノ酸変化に関するガイダンスは、ボウイ(Bowie)ら、1990、サイエンス(Science)247:1306 1310にも記載されている。かかる保存的に改変された変異体は、多形変異体、種間ホモログ及び対立遺伝子を補うものであり、これらを排除するものではない。典型的な保存的置換としては、1)アラニン(A)、グリシン(G)、2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、4)アルギニン(R)、リジン(K)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、7)セリン(S)、スレオニン(T)、及び8)システイン(C)、メチオニン(M)が挙げられるが、それだけに限定されない(例えば、クライトン(Creighton)、プロテインズ(Proteins)(1984)を参照されたい)。アミノ酸は、側鎖に関連する性質に基づいて置換することができ、例えば、極性側鎖を有するアミノ酸は、例えば、セリン(S)及びスレオニン(T)で置換することができ、側鎖の電荷に基づくアミノ酸は、例えば、アルギニン(R)及びヒスチジン(H)で置換することができ、疎水性側鎖を有するアミノ酸は、例えば、バリン(V)及びロイシン(L)で置換することができる。示したように、変化は、一般に、折りたたみやタンパク質の活性に大きな影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換などの重要でない性質のものである。
【0097】
本明細書では、一実施形態においては、「アミノ酸誘導体」という用語は、本明細書で記述及び例示したように、天然又は非天然アミノ酸から誘導可能な基を指す。アミノ酸誘導体は、当業者に明らかであり、エステル、アミノアルコール、アミノアルデヒド、アミノラクトン、並びに天然及び非天然アミノ酸のN−メチル誘導体が挙げられるが、それだけに限定されない。一実施形態においては、アミノ酸誘導体は、本明細書に記載の化合物の置換基として与えられ、置換基は、−NH−G(Sc)−C(O)−Q又は−OC(O)G(Sc)−Qである。式中、Qは−SR、−NRR又はアルコキシルであり、Rは水素又はアルキルであり、Scは天然又は非天然アミノ酸の側鎖であり、GはC1〜C2アルキルである。ある実施形態においては、GはCiアルキルであり、Scは水素、アルキル、ヘテロアルキル、アリールアルキル及びヘテロアリールアルキルからなる群から選択される。
【0098】
本発明の一部の実施形態においては、タンパク質/ペプチドのアミノ酸は、L若しくはD立体異性体又はそれらの組合せである。
【0099】
本明細書では、一実施形態においては、「ペプチド」又は「タンパク質」又は「断片」という用語は、天然生物源から誘導することができ、合成することができ、又は組換え技術によって産生することができる。それは、化学合成を含めてどんな方法でも生成させることができる。1個以上のアミノ酸を、例えば、炭水化物基、リン酸基、ファルネシル基、イソファメシト(isofamesyt)基、脂肪酸基、アシル基(例えば、アセチル基)、結合リンカー、官能基化(functionalization)、別の公知の保護/ブロック基などの化学物質の添加によって修飾することができる。
【0100】
一実施形態においては、本発明のペプチド/タンパク質を、アフィニティクロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、濾過、電気泳動、疎水性相互作用クロマトグラフィ、ゲル濾過クロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィ、コンカナバリンAクロマトグラフィ、クロマトフォーカシング、分別可溶化(differential solubilization)など、ただしそれだけに限定されない種々の標準タンパク質精製技術によって精製する。
【0101】
一実施形態においては、回収を容易にするために、発現されるコード配列を操作して、本発明のペプチド/タンパク質及び融合した切断可能部分をコードすることができる。一実施形態においては、ペプチド/タンパク質がアフィニティクロマトグラフィによって、例えば、切断可能部分に特異的なカラム上の固定化によって、容易に単離できるように、融合タンパク質を設計することができる。一実施形態においては、切断部位は、ペプチドと切断可能部分の間で操作され、ペプチドは、融合タンパク質をこの部位において特異的に切断する適切な酵素又は薬剤で処理することによってクロマトグラフィカラムから遊離させることができる[例えば、ブース(Booth)ら、イムノロジー・レターズ(Immunol.Lett.)19:65〜70(1988)、及びガーデラ(Gardella)ら、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリ(J.Biol.Chem.)265:15854〜15859(1990)]。
【0102】
一実施形態においては、本発明のタンパク質/ペプチドは、in−vitro発現系を用いて合成することもできる。一実施形態においては、in−vitro合成法は、当該技術分野で周知であり、系の成分は市販されている。
【0103】
一実施形態においては、本発明のタンパク質/ペプチドの製造は、組換えDNA技術を使用している。「組換え」ペプチド又はタンパク質とは、組換えDNA技術によって製造される、すなわち、所望のペプチド又はタンパク質をコードする外来DNA構築物によって形質転換された細胞から産生される、ペプチド又はタンパク質を指す。
【0104】
一実施形態においては、本発明のペプチドは、少なくとも5個のアミノ酸を含む。別の一実施形態においては、ペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸を含む。別の一実施形態においては、ペプチドは、少なくとも20個のアミノ酸を含む。別の一実施形態においては、ペプチドは、少なくとも25個のアミノ酸を含む。別の実施形態においては、ペプチドは、少なくとも30個のアミノ酸、少なくとも50個のアミノ酸、75個のアミノ酸、100個のアミノ酸、125個のアミノ酸、150個のアミノ酸、200個のアミノ酸、250個のアミノ酸、300個のアミノ酸、350個のアミノ酸、又は400個のアミノ酸を含む。一実施形態においては、本発明のペプチドは、少なくとも5個のアミノ酸から本質的になる。別の一実施形態においては、ペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸から本質的になる。別の実施形態においては、ペプチドは、少なくとも30個のアミノ酸、少なくとも50個のアミノ酸、75個のアミノ酸、100個のアミノ酸、125個のアミノ酸、150個のアミノ酸、200個のアミノ酸、250個のアミノ酸、300個のアミノ酸、350個のアミノ酸、又は400個のアミノ酸から本質的になる。一実施形態においては、本発明のペプチドは、少なくとも5個のアミノ酸からなる。別の一実施形態においては、ペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸からなる。別の実施形態においては、ペプチドは、少なくとも30個のアミノ酸、少なくとも50個のアミノ酸、75個のアミノ酸、100個のアミノ酸、125個のアミノ酸、150個のアミノ酸、200個のアミノ酸、250個のアミノ酸、300個のアミノ酸、350個のアミノ酸、又は400個のアミノ酸からなる。
【0105】
天然芳香族アミノ酸Trp、Tyr及びPheは、TIC、ナフチルエラニン(naphthylelanine)(Nol)、Pheの環メチル化誘導体、Pheのハロゲン化誘導体、o−メチル−Tyrなどの合成非天然酸を置換することができる。
【0106】
本明細書では、一実施形態においては「アミノ酸」という用語は、天然及び合成α、β γ又はδアミノ酸を指し、タンパク質中に存在するアミノ酸、すなわちグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン及びヒスチジンを含むが、それだけに限定されない。ある実施形態においては、アミノ酸は、L配置である。あるいは、アミノ酸は、アラニル、バリニル、ロイシニル、イソロイシニル、プロリニル、フェニルアラニニル、トリプトファニル、メチオニニル、グリシニル、セリニル、スレオニニル、システイニル、チロシニル、アスパラギニル、グルタミニル、アスパルトイル、グルタロイル、リジニル、アルギニニル、ヒスチジニル、β−アラニル、β−バリニル、β−ロイシニル、β−イソロイシニル、β−プロリニル、β−フェニルアラニニル、β−トリプトファニル、β−メチオニニル、β−グリシニル、β−セリニル、β−スレオニニル、β−システイニル、β−チロシニル、β−アスパラギニル、β−グルタミニル、β−アスパルトイル、β−グルタロイル、β−リジニル、β−アルギニニル又はβ−ヒスチジニルの誘導体とすることができる。本明細書では、一実施形態においては、「保存的に改変された変異体」という句は、アミノ酸配列と核酸配列の両方に適用される。「アミノ酸変異体」とは、アミノ酸配列を指す。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体とは、同一若しくは本質的に同一なアミノ酸配列をコードする核酸を指し、又は核酸がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一な若しくは関連する(例えば、天然に隣接する)配列を指す。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が大部分のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCUは全てアミノ酸のアラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンによって指定される全ての位置において、コドンは、コードされたポリペプチドを変えずに、記述された対応するコドンのうち別のコドンに変更することができる。かかる核酸変異は、保存的に改変された変異の一種である「サイレントな変異」である。ポリペプチドをコードする本明細書の全ての核酸配列は、核酸のサイレントな変異も記述する。ある状況においては、核酸中の各コドン(通常はメチオニンの唯一のコドンであるAUG及び通常はトリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)は、機能的に同一な分子を得るために改変できることを当業者は理解するはずである。したがって、ポリペプチドをコードする核酸のサイレントな変異は、発現生成物に関して記述された配列に暗黙的に含まれる。
【0107】
一部の実施形態においては、本発明は、さらに、oly若しくはその機能的に関連した変異体又はその融合タンパク質が複合体に含まれ、それがタンパク質部分(例えば、非相同アミノ酸配列)又は非タンパク質部分(例えば、PEG)に結合していることも想定する。タンパク質部分又は非タンパク質部分の各々は、循環中に組成物の半減期を延長することができる。
【0108】
かかる分子は、極めて安定であり(恐らくは非タンパク質部分によって付与される立体障害のために、in−vivoタンパク質分解活性に対して耐性があり)、一般的な固相合成によって製造することができる。組換えペプチド生成物をin−vitro修飾(例えば、以下に更に記述するPEG化)に供する更なる組換え技術を使用することもできる。
【0109】
本明細書では「非タンパク質部分」という句は、上記IL−31アミノ酸配列に結合したペプチド結合アミノ酸を含まない分子を指す。一部の実施形態によれば、非タンパク質部分は、ポリマー又はコポリマー(合成又は天然)とすることができる。本発明の非タンパク質部分の非限定的例としては、ポリエチレングリコール(PEG:polyethylene glycol)若しくはその誘導体、ポリビニルピロリドン(PVP:Polyvinyl pyrrolidone)、ジビニルエーテルと無水マレイン酸のコポリマー(DIVEMA:divinyl ether and maleic anhydride copolymer)、ポリシアル酸(PSA:polysialic acid)及び/又はポリ(スチレンコ無水マレイン酸)(SMA:poly(styrene comaleic anhydride))が挙げられる。さらに、oly又はその機能的に関連した変異体を環境から保護し、したがってその安定性を維持することができる複合体を使用することができる。例えば、oly若しくはその機能的に関連した変異体又はそれを含む融合タンパク質を含むリポソーム又はミセルも本発明に含まれる。
【0110】
本発明の一部の実施形態によれば、本発明のoly若しくはその機能的に関連した変異体、又はoly若しくはその機能的に関連した変異体を含む融合タンパク質は、徐放性促進剤として作用し得る非タンパク質部分に結合している。例示的な徐放性促進剤としては、ヒアルロン酸(HA:hyaluronic acid)、アルギン酸(AA:alginic acid)、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(ポリHEMA:polyhydroxyethyl methacrylate)、グリム及びポリイソプロピルアクリルアミドが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0111】
本発明のoly若しくはその機能的に関連した変異体又はそれを含む融合タンパク質のアミノ酸配列成分を別の非アミノ酸剤に共有結合によって、又は非共有結合形態(non−covalent complexion)によって、例えば、分解若しくは切断して徐放可能な化合物を生成することができる疎水性ポリマーとの形態によって、oly若しくはその機能的に関連した変異体又はそれを含む融合タンパク質のアミノ酸部分をリポソーム又はミセル中に捕捉して、oly若しくはその機能的に関連した変異体又はそれを含む融合タンパク質を含む複合体を生成することによって、結合することができる。結合は、他の成分(リポソーム、ミセル)内のアミノ酸配列の捕捉、又は本発明の最終ペプチドを生成するポリマー内のアミノ酸配列の注入によることができる。
【0112】
一部の実施形態においては、PEG誘導体は、PEGカルボン酸のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、カルボキシメチル化PEGのスクシンイミジルエステル(SCM−PEG)、PEGのベンゾトリアゾールカルボナート誘導体、PEGのグリシジルエーテル、PEGp−ニトロフェニルカルボナート(メトキシPEG−NPCなどのPEG−NPC)、PEGアルデヒド、PEG−オルトピリジル−ジスルフィド、カルボニルジイミダゾル(carbonyldimidazol)活性化PEG、PEG−チオール、PEG−マレイミドである。PEG−マレイミド、PEG−ビニルスルホン(VS)、PEG−アクリラート(AC)又はPEG−オルトピリジルジスルフィドを使用することもできる。
【0113】
非タンパク質部分は、oly又はその機能的に関連した変異体アミノ酸配列に任意の選択位置において結合することができる。ただし、oly又はその機能的に関連した変異体の治療活性は保持される。
【0114】
本発明の一部の実施形態においては、oly又はその機能的に関連した変異体を含む融合タンパク質、及びoly若しくはその機能的に関連した変異体を安定化する、又は血流若しくは組織においてそれを保護するタンパク質を提供する。本発明の一部の実施形態においては、oly又はその機能的に関連した変異体及びIgGを含む融合タンパク質を提供する。IgGは、その任意のサブクラス又はアイソタイプ、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4とすることができる。
【0115】
本発明の一部の実施形態においては、oly又はその機能的に関連した変異体、及びIgG、及びIgG、及び/又は血清中のoly若しくはその機能的に関連した変異体及びIgGの半減期を延長するために使用することができる任意の他のタンパク質を、リンカーによって連結する。本発明の一部の実施形態においては、リンカーは、2〜20個のアミノ酸の配列である。
【0116】
本発明の一部の実施形態においては、リンカーは、MMP9/2、トリプシン、PSA、カテプシン、カリクレイン、セリンプロテアーゼ、カスパーゼなどの酵素のための切断部位を形成する4〜12個のアミノ酸の配列である。追加の可能な切断部位は、チョイ(CHOI)ら、「プロテアーゼ活性化薬剤開発(Protease−Activated Drug Development)」、セラノスティクス(Theranostics)、Vol.2(2)、pp.156〜178(http://www.thno.org/v02p0156.pdf)に記載されている。一部の実施形態においては、リンカーは、6〜8個のアミノ酸であり、一部の実施形態においては、MMP9/2、トリプシン、PSA、カテプシン、カリクレイン、セリンプロテアーゼ、カスパーゼ及び/又は別の酵素などの酵素のための切断部位を含む。
【0117】
一部の実施形態においては、リンカーは、MMP−9/2、カテプシン、トリプシン、カリクレイン、セリンプロテアーゼ、カスパーゼ、又はoly若しくはその機能的に関連した変異体とIgGの間に付加することができる任意の他の切断酵素の切断部位を含む。一部の実施形態においては、本発明は、oly又はその機能的に関連した変異体及びIgGを含む融合タンパク質を提供する。
【0118】
さらに、本発明は、本明細書に記載の融合タンパク質をコードする核酸を包含する。本発明は、さらに、oly又はolyの機能的に関連した変異体をコードする核酸を包含する。さらに、これらの核酸を含むベクター、及びかかるベクターで形質転換された細胞も本発明に包含される。
【0119】
本発明の一部の実施形態においては、olyを含む抽出物を、本明細書に記載の様々な症状、例えば、肥満、脂肪肝、糖尿病、癌などの処置に使用することができる。本発明の一部の実施形態においては、抽出物はキノコ抽出物である。キノコ抽出物はヒラタケ抽出物とすることができる。抽出物は、本明細書に詳述するように調製することができる。
【0120】
乾燥粉体は、ヒラタケ(ヤルデン(Yarden))キノコの新しい子実体から、新しい子実体を液体窒素で凍結させ、凍結乾燥し、その後、任意の適切な粉砕機で粉砕して調製することができる。あるいは、キノコを温度−4℃から−40℃で凍結させ、凍結乾燥し、任意の適切な粉砕機で粉砕する。一部の実施形態においては、粉砕を約20秒から10分間行う。一部の実施形態においては、粉砕を約30秒から2分間行う。一部の実施形態においては、粉砕を約1分間行う。粉末子実体を水で抽出することができ、一部の実施形態においては、終夜又は約20分間から6時間撹拌することによって冷水を使用する。次いで、抽出物を、例えば、約3,000rpmから30rpmで約10分間から2時間以上遠心分離する。上清を濾過する。一定分量をマウスHIB−1B細胞におけるOly発現又は活性について試験することができる。
【0121】
実施例7に示すように、液体窒素による新しい子実体の凍結、続いて凍結乾燥、その後の粉砕によって、温度約−20℃で凍結させ、凍結乾燥し、粉砕したキノコよりもoly濃度が高くなった。しかし、マウスHIB−1B細胞における活性は、両方の調製物からの一定分量では類似していた。本発明の一部の実施形態においては、olyが豊富な抽出物を提供するために、追加のoly(天然でも合成でもよい)を抽出物に添加することができる。
【0122】
以下の実施例は、本発明のある実施形態を更に説明するためのものである。しかし、それらは、本発明の広範な範囲を限定するものと決して解釈すべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示した原理の多数の変更及び改変を容易に考案することができる。
【実施例】
【0123】
実験法
オストレオリシンの調製
Olyを、(5’末端の)NcoI及び(3’末端の)BamHI+XbaI部位を含むプライマーを用いてPCR増幅し、NcoI及びXbaI部位においてpTrc99aベクターにサブクローニングした。タンパク質の分子量は15,400Daであり、(DNAmanプログラムによって計算される)280nmにおける比吸光度はg/Lに対して2.62であった。タンパク質は、IPTGを可溶性タンパク質として用いた誘導によって発現した。タンパク質をNaHCOの存在下で、近似のタンパク質:塩比1:1で、逐次抽出、硫安塩析、透析、アニオン交換クロマトグラフィ、調製用ゲル濾過、透析及び凍結乾燥によって精製した。その濃度を280nmにおける比吸光度によって計算した。タンパク質は、DDWに易溶である。その純度を、還元剤の存在下でSDS−PAGEによって(図1参照)、また、25mMトリス−Hcl+300mM NaCl、pH8の存在下で展開されたSupperdex75カラム上の分析的ゲル濾過によって(図2参照)測定した。両方の方法によって測定した純度は>95%であり、非変性条件下の分子量は、タンパク質がモノマーであることを示している。多量のolyを得るために、タンパク質を大腸菌中で過剰発現させ、精製した(図1及び2参照)。
【0124】
細胞培養
[トランスジェニックマウスの褐色脂肪腫瘍から誘導され、褐色脂肪特異的ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP)を発現可能な第1樹立褐色脂肪細胞の細胞系である]HIB−1B褐色前駆脂肪細胞を増殖させ、分化させ、又はロシグリタゾンを使用し、又はそれらをOlyで処理した。マウス3T3−L1を増殖させ、ロシグリタゾンを用いて分化させた。
【0125】
RNA抽出及びRT−PCR
全RNAをT−Reagent(Sigma)を用いて単離した。逆転写をHigh−Capacity cDNA(Applied Biosystems)を用いて行った。RT−PCRをSYBR Green(Applied Biosystems)を用いて行った。
【0126】
ウエスタンブロット法
一次及び二次抗体をCell Signaling Technology(ダンバーズ、MA)又はSanta Cruz Biotechnology(サンタクルズ、CA)から入手し、ヤフーダ−シナイドマン(Yehuda−Shnaidman),E.ら、「PKAによって誘導される脂肪分解による白色脂肪細胞呼吸の急性刺激(Acute stimulation of white adipocyte respiration by PKA−induced lipolysis)」、ダイアビーテス(Diabetes)、2010.59(10):p.2474〜83に記載のようにウエスタンブロット法を実施した。
【0127】
免疫蛍光及び共焦点顕微鏡法
細胞を12ウェルプレートに蒔き、ガラスカバーガラスで覆い、0.1%ゼラチンで被覆した。1日後、oly(10〜62.5μg/ml)を8時間添加した。細胞を3.7%(v/v)PFAで固定し、0.5%(v/v)Triton X−100を用いて3分間透過処理した。細胞をPFA3.7%と一緒に20分間インキュベートし、PBSで洗浄した。5%(v/v)ロバ血清を用いて室温で1時間ブロッキング後、カバーガラスをカベオリン1一次抗体(1:100希釈)又はoly一次抗体と一緒に終夜40℃でインキュベートした。カバーガラスをTBSTで洗浄し、Alexa Fluor488ヤギ抗ウサギIgG二次抗体及びファロイジン−TRITCと一緒に2時間室温でインキュベートした。追加の洗浄を行い、最後に、DAPI(30%(v/v))を含む封入溶液(70%(v/v))を添加した。細胞を共焦点Zeiss Axiovert 100M顕微鏡(LSM 510、ドイツ)で観察した。
【0128】
ナイルレッド染色
細胞を0.1%ゼラチン被覆ガラス底部24ウェル培養皿(MatTak Corporation、アシュランド、MA)の上に蒔いた。37℃、5%COで終夜インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、1μg/mlナイルレッドと一緒に20分間37℃でインキュベートし、共焦点顕微鏡によって分析した。
【0129】
実施例1
HCT−116結腸癌細胞系における組換えolyの抗増殖活性を評価するin−vitroアッセイ
生死判別試験(MTTアッセイ)を使用して、HCT−116結腸癌細胞系における組換えolyの生物学的抗増殖活性を試験した。天然タンパク質と同様に、組換えolyは抗増殖活性を有する(図3灰色)。olyの抗増殖活性が、多量の脂質ラフト(lipid drafts)を有する癌細胞に特異的であるかどうか更に調査するために、非癌細胞系FHS74Int(胎児の小腸)の生存率に対するolyの効果を試験した。図3(黒色の柱)に示すように、olyの抗増殖活性は、癌細胞(灰色)よりも非癌細胞(黒色)においてはるかに低い。
【0130】
実施例2
全組換えolyに対するポリクローナル特異的抗体の選定
全組換えolyに対するポリクローナル特異的抗体を設計した。図4は、得られた抗体が極めてoly特異的であり、組換えタンパク質と野生型タンパク質の両方を認識することを示す。
【0131】
実施例3
脂肪細胞分化におけるolyの役割を試験するin−vitroアッセイ
細胞に侵入することができる活性なolyを得た後、olyを脂肪細胞分化におけるその推定上の役割について試験した。マウス褐色前駆脂肪細胞の細胞系HIB−1B及びマウス白色前駆脂肪細胞の細胞系3T3−L1をこの試験に利用した。HIB−1B細胞をolyで処理すると、細胞質における脂肪滴の蓄積のために形態学的変化が認められた(図5A)。これは、ナイルレッド染色によっても証明された(図5B)。それに対して、olyで処理した3T3−L1は、脂質蓄積を示さないが(図5B)、幾つかの分化遺伝子(HSL、PGC−1αなど、図示せず)の遺伝子発現に影響を及ぼした。注意:両方の細胞系において、olyの最良の効果を24〜48時間後に検出した。処理期間を延長しても、更なる変化は生じなかった。
【0132】
olyによって誘導される褐色脂肪生成を更に特徴づけるために、幾つかの脂肪生成マーカーの遺伝子発現に対するolyの効果を測定した。図6Aは、olyがaP2、PGC−1α及びC/EBPαの遺伝子発現を増加させ、ネクジン(necdin)(脂肪生成阻害剤)が減少することを示しており、脂肪細胞分化を示唆している。さらに、olyは、UCP1、CIDEA、prdm16などの特異的褐色脂肪生成マーカーの遺伝子発現を増加させる(図6B)。
【0133】
したがって、olyが褐色脂肪の分化を誘発し、白色脂肪細胞から「褐色様」細胞への転換を起こし得ると仮定される。白血球は褐色細胞に転換し得ることが知られている。
【0134】
olyによって誘導される褐色脂肪生成における脂質ラフト関連タンパク質の関与についても調査した。この問題は、以下の2つの理由により特に関連する:(1)olyは、脂質ラフトと相互作用し、それは、細胞膜を通したその侵入を引き起こし得る、(2)多数の累積した証拠によれば、脂肪細胞代謝におけるカベオリン1に対する役割が提起される。したがって、olyによって誘導される脂肪生成におけるカベオリン1の役割を試験した。olyは、HIB−1B細胞においてカベオリン1遺伝子発現を増加させることが判明した(図7)。これは、olyの効果におけるカベオリン1に対する役割を示唆しており、分化プロセスの一部であり得る。
【0135】
実施例4
毒性のin−vivo実験
組換えoly0.2mg/kg体重(BW)又は0.5mg/kgBWをマウスにIP注射しても死亡を誘発せず、投与後1週間後の適用から、注射したマウスにおける病気や毒性の徴候もなかった。
【0136】
実施例5
肥満、糖尿病及び脂肪肝に対するolyの効果を評価するin−vivo試験
動物及び実験の設計
雄性C57BL/6マウス、5週齢をHarlan laboratories、Ein Karem、エルサレムから購入した。すべてのマウスは同腹仔であった。マウスを同じ動物施設において4個のプラスチック製檻中で飼育した。各檻は、異なる実験群であり、2群を通常食で維持し、2群は高脂肪食(60%脂肪)を摂取した。マウスには水を自由に与えた。マウスを週2回秤量した。マウス群に2種類の食餌を14週間与えた後、olyの注射期間を開始した。処置群(1つの檻の通常食及び1つの檻の高脂肪食(HFD)マウスに固定濃度のoly(1.0μg/gBW)を隔日で腹腔注射した。各マウスを注射前に秤量し、olyの注射体積をマウスの体重に応じて調節した。対照群に同様の体積の食塩水を注射した。すべての注射において、26Ga3/8’’針を有する滅菌1mlシリンジを使用した。動物管理及び実験手順は、ヘブライ大学の公認の動物倫理委員会に従った。
【0137】
体重に対するolyの効果
実験中の4群のマウスの体重増加を図8に示す。図9は、屠殺日におけるマウスの体重を示す。結果によれば、肥満マウス、すなわち、高脂肪食を与えたマウスへのoly投与は、かなりの体重減少をもたらした。
【0138】
腹腔内グルコース負荷試験(IPGTT:Intraperitoneal glucose tolerance test)に対するolyの効果
空腹時血糖値を12時間絶食したマウスから得た。実験1日目から16週間後に試験を行った。各マウスを秤量し、血糖計(Optimum Xceed、Abbot、UK)及びそれぞれの血中グルコース試験片(Optimum、Abbot、UK)を用いて、空腹時血糖値を小さい尾部クリップからの静脈血から得た。その後、グルコース溶液(20%(w/v)食塩水溶液)を、1mlシリンジ、26Ga3/8’’針を用いて、マウスの体重に応じて(2mg/g体重)、注射した。グルコース溶液注射から30、60、90及び120分間後に血糖値を測定した(図10A参照)。体の耐糖能を表すIPGTTの曲線下面積(AUC)をすべてのマウス群について計算した(図10B参照)。図10A及び10Bに示すように、肥満マウスへのoly投与は、グルコース応答性をかなり低下させ、olyは、糖不耐性をかなり低下させた。
【0139】
摂食量に対するolyの効果
実験を通したマウスの摂食量をモニターした。図11に示すように、マウスの摂食量は、olyの投与によって影響されない。したがって、証明された体重減少は、食欲不振などによるものではない。
【0140】
体組織に対するolyの効果
20週間後、異なる群のマウスを屠殺し、異なる組織を血液試料と同様に分析した。精巣上体脂肪組織の重量を図12に示す。図13Aは、UCP−1、Cidea、PRDM16、ペリリピンA(褐色脂肪生成マーカー)の発現を示す。発現は、その中で示したように、olyの投与によって増加する。一方、TNF−αの発現は、olyの投与によって内臓脂肪組織において減少した。したがって、olyの投与は、精巣上体脂肪量をかなり減少させ、内臓嚢(visceral mass)をより褐色脂肪生成特性に向かって制御すると結論される。
【0141】
図14は、屠殺日におけるマウスの肝臓重量を示し、olyの投与が肝臓重量をかなり減少させることを示している。さらに、血液を肝機能について分析した。図15及び16に示すように、トランスアミナーゼGOT及びGPTは、oly処理によってかなり減少した。さらに、図17及び18に示すように、トリグリセリド及びコレステロールレベルもoly処理によってかなり減少した。
【0142】
さらに、肝臓試料を組織学的に試験した。図19に示すように、高脂肪食を与えたマウスの肝臓は、低脂肪食を与えたマウスにおける脂肪滴数よりも比較的多い脂肪滴数から明らかであるように、極度に脂肪過多であることが判明した(対照HF群参照)。さらに、olyで処理したHFDマウスから得られる正常な組織学的結果から明らかであるように、oly処理は、肝臓の脂肪レベルを低下させたと思われる。肝臓におけるアポトーシスも同様に評価した。図20に示すように、olyは、アポトーシス促進ペプチドBaxを減少させ、抗アポトーシスペプチドBcl2を増加させた。したがって、BAX/BCL2は、肝臓試料においてolyの投与によって減少し、したがって肝細胞の死を阻止した。上記結果は、olyの投与が脂肪肝の出現及び付随する肝臓活性をかなり低下させたことを示している。
【0143】
さらに、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に対するOlyの効果を評価する様々な試験を行った。試験及び結果を下表1に示す。
【0144】
【表1-1】
【0145】
【表1-2】
【0146】
実施例6
癌におけるolyの効果
方法
細胞系及び培養条件
HCT116結腸直腸癌細胞(ATCC番号:CCL−247)を、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS:Fetal bovine serum、Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)及び0.2%(v/v)ペニシリン−ストレプトマイシン−ナイスタチンを補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM:Dulbecco’s modified Eagle’s medium、Sigma−Aldrich、イスラエル)中で維持した。クローン#1(カベオリン1を発現しない、pcDNA3 neoプラスミドを移入したHM7細胞)及びクローン#15(高レベルのカベオリン1を発現する、カベオリン1タンパク質挿入断片を含むプラスミドであるpcDNA−カベオリン1を移入したHM7細胞)由来のHM7高転移性結腸癌細胞を、10%(v/v)FBS及び0.275%(v/v)G−418を補充したDMEM(ギブコ、ペイズリー、UK)中で維持した。すべての細胞を5%CO、加湿雰囲気で37℃で培養した。
【0147】
抗癌活性(MTTアッセイ)
クローン#1及びクローン#15由来のHCT116細胞及びHM7細胞を96ウェルプレートに蒔いた(2.0x10/ウェル)。CO恒温器中で終夜37℃でプレインキュベーション後、大腸菌中の発現によって調製された組換えタンパク質オストレオリシンを細胞培養物に濃度125μg/ml及び62.5μg/mlで添加した。新しい培地のみを対照に添加した。子実体抽出物を3つの濃度で添加した:0.01%(w/v)、0.025%(w/v)、0.05%(w/v)。37℃で4、8、12、24時間インキュベーション後、培地を除去し、3−(4−,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)溶液(0.5mg/ml)50μlを添加した。プレートを1時間37℃でインキュベートした。MTT溶液を除去した後、DMSO100μlを各ウェルに添加し、プレートを20分間振とうした。有色ホルマザンの形成を550nmにおいてELx808Ultraマイクロプレートリーダー(BIO−TEK INSTRUMENTS INC)でKC juniorソフトウェアを用いて評価した。
【0148】
細胞周期分析
HCT116細胞を6ウェルプレートに蒔き(9.0×10細胞/ウェル)、終夜付着させた。新しい培地を濃度125μg/mlの組換えタンパク質オストレオリシンを含む細胞培養物に添加した。新しい培地のみを対照に添加した。子実体抽出物を濃度0.01%(w/v)で添加した。8時間インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン処理し、収集し、0.5ml無菌PBSに再懸濁した。冷70%(v/v)エタノール0.5mlをボルテックス撹拌しながら細胞懸濁液に添加し、試料を4℃で貯蔵した。染色のため、細胞を5分間1500rpmで遠心分離し(Hettich Zentrifugen Rotofix 32)、上層を廃棄し、DNA断片化溶液(0.05mg/mlヨウ化プロピジウム、0.1%(v/v)Triton X−100及び0.1%(w/v)クエン酸ナトリウム)を添加し、氷上で1時間インキュベートした。ヨウ化プロピジウムを488nmにおいて励起させ、575nmにおける発光(FL2)をフローサイトメータ(BD FACScalibur BD Biosciences、サンホゼ、CA)によって測定することによって、DNA含有量を測定した。分析をWinMDI2.9ソフトウェアによって行った。
【0149】
ウエスタンブロット法及び濃度測定
HCT116細胞溶解物を12%SDS−PAGE中で電気泳動させ、ニトロセルロース転写膜(ワットマン、Schleicher、Schuell、Dassel、ドイツ)に転写し、5%(w/v)乾燥脱脂乳を含むTBST中でブロックし、PARP−1(1:1000希釈)又はBAX(1:500)又はβアクチン(1:10,000希釈)抗体と一緒に終夜4℃でインキュベートした。続いて、膜を西洋ワサビペルオキシダーゼ(Jackson IR、ボルチモア、PA、USA、1:10,000希釈)に結合した二次抗ウサギ抗体と一緒に1時間室温でインキュベートした。タンパク質をECLキットを用いて可視化した。ニトロセルロース膜への有効な転写をポンソーS染色によって確認した。膜をMustek1200UB Plusスキャナー(Mustek systems Inc.、CA、USA)によって走査した。濃度測定をGelpro32分析計ソフトウェアを用いて評価し、βアクチンを負荷対照として使用した。
【0150】
免疫蛍光及び共焦点顕微鏡法
12ウェルプレート中に置かれた0.1%ゼラチン被覆ガラスカバーガラス(直径1.8cm)の上にHCT116細胞を密度3.6x10細胞/ウェルで蒔いた。細胞を終夜付着させ、以下のように処理した:新しい培地を濃度125μg/mlの組換えタンパク質olyを含む細胞培養物に添加した。新しい培地のみを対照に添加した。子実体抽出物を濃度0.01%(w/v)で添加した。4又は8時間インキュベーション後、細胞を3.7%(v/v)PFAで固定し、0.5%(v/v)Triton X−100で3分間透過処理した。その後、細胞をPFA3.7%と一緒に20分間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。非特異的染色をブロックするために、細胞を1時間室温で5%(v/v)ロバ血清と一緒にTBST中でインキュベートした。細胞を湿度チャンバ中で終夜4℃でカベオリン1一次抗体(1:100希釈)又はオストレオリシン一次抗体(1:500希釈)又はフロチリン1一次抗体(1:100希釈)で順次染色した。カバーガラスをTBSTで3回30分間洗浄し、次いでAlexa Fluor488ヤギ抗ウサギIgG二次抗体(1:500希釈)及びファロイジン−TRITCと一緒に湿度チャンバ中で2時間室温でインキュベートした。カバーガラスをTBSTで4回洗浄し、次いでDAPI(30%(v/v))を含む封入溶液と混合した封入溶液(70%(v/v))を用いてスライドガラス上に裏返して載せた。細胞をLeica CTR4000共焦点顕微鏡(マンハイム、ドイツ)でx63倍率で液浸油を用いて観察した。
【0151】
結果
組換えオストレオリシンは、HCT116細胞及びHM7クローンに対して抗増殖効果を示す。
HCT116(結腸直腸癌細胞)をolyに曝露すると、有効濃度125μg/mlで細胞傷害性を示し、8時間における細胞生存率が50%減少した(図21C)。olyの細胞傷害効果はHM7(高転移性結腸癌)においても認められた。(高Cav−1レベルを発現する)HM7クローン#15は、4及び8時間投与すると(それぞれ図21B及び21D)、クローン#1(Cav−1発現なし)に比べてolyに対する感受性がかなり増加した。
【0152】
細胞形態の直接顕微鏡観察によって、olyがHCT116細胞系及びHM7クローンに対して類似の効果を有し、細胞の収縮を生じることが確認された(データ示さず)。olyの細胞障害活性は、両方の細胞系において4時間のインキュベーション後に既に最高に達した。
【0153】
olyの細胞傷害効果が癌細胞に特異的であるかどうか試験するために、非癌細胞系FHS74Int(胎児の小腸)の生存率に対するolyの効果も試験した。図3に示すように(実施例1参照)、olyの抗増殖活性は、癌細胞(HCT116、灰色)よりも正常細胞(FHS74Int、黒色)においてはるかに低く、癌細胞におけるolyの特異的抗増殖性の役割を意味している。
【0154】
HCT116細胞系の細胞周期分析によれば、組換えolyはこれらの細胞においてアポトーシスを誘発する。
アポトーシス及び細胞周期における細胞分布を定量化するために、HCT116細胞系をフローサイトメトリー(図22A)によって処理なし(対照)又はoly125μg/ml及びFBE0.01%(w/v)に関して分析した。定量的DNA結合色素で染色後、アポトーシスによってDNAを失った細胞は、より染色されず、G1ピークの左にサブG1ピークとして出現する。結果は、HCT116未処理細胞において、細胞周期分布が、アポトーシス、G0/G1、S、G2/Mでそれぞれ1.238±0.124、42.482±1.709、13.198±0.845、27.997±0.856であったことを示している。FBE0.01%(w/v)で処理したHCT116細胞においては、細胞周期分布は、アポトーシス、G0/G1、S、G2/Mでそれぞれ2.045±0.326、33.807±1.109、11.483±0.726、27.560±1.102であった。oly125μg/mlで処理したHCT116細胞においては、細胞周期分布は、アポトーシス、G0/G1、S、G2/Mでそれぞれ7.380±0.584、46.048±2.307、13.022±1.158、25.988±0.487であった。未処理HCT116細胞とoly125μg/ml処理HCT−116細胞の差は、P値<0.05で有意であった(図22B)。
【0155】
組換えオストレオリシンは、HCT116細胞系(結腸癌ヒト細胞系)においてPARP−1の切断、及びBAXアポトーシス促進マーカーの発現を促進する。
アポトーシスの程度を、ウエスタンブロットを用いた活性PARP−1の検出及びBAXタンパク質の検出によって評価した。116kDの核ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼであるPARPは、in−vivoでカスパーゼ3の主要な切断標的の1つである。切断は、PARPアミノ末端DNA結合領域(24kD)をカルボキシ末端触媒領域(89kD)から分離し(10)、アポトーシスを起こす細胞のマーカーとして役立つ。HCT116細胞系においては、oly125μg/ml処理がPARPの切断を誘発したことが(図23A)、完全長116kD断片と89kD切断断片の両方を認識する抗体によって明らかになった。BAXは、Bcl−2ファミリーの一員である23kDアポトーシス促進タンパク質である。BAXの活性化プロセスにおける重要な事象は、ミトコンドリアへのその転位、並びにミトコンドリア膜挿入及びオリゴマー化に密接に関連したそのN末端の構造変化である。ミトコンドリア外膜へのBAXの挿入は、アポトーシスプログラムの実行に必須であるチトクロムc、プロカスパーゼ3などの幾つかのタンパク質のサイトゾル中への放出に密接に関連する。BAX活性化を、BAXの活性化構造を特異的に認識する抗体を用いたウエスタンブロットによって調べた。HCT116細胞のOly125μg/ml処理は、無処理条件に比べて活性化BAXを増加させた(図23B)。BAX陽性アポトーシス細胞数の定量化は、olyが対照未処理細胞に比べて全アポトーシスにかなり影響することを明らかにした(図23C)。
【0156】
組換えオストレオリシンは、細胞膜と相互作用し、HCT116細胞のサイトゾルに入る。
既報のように、軟骨細胞膜上のolyの選択的結合及びクラスター形成は、人工膜及びチャイニーズハムスター卵巣細胞から得られた結果と合わせて、膜に結合したoly分子の分布が細胞表面に均一に分布せず、多数の限局的クラスター中に濃縮されたことを示している。これは、olyが、恐らくはアエゲロリジン(aegerolysin)様タンパク質に対する付着部位として働く明確な膜領域を認識し、それらの集合及び細孔の形成をもたらすことを示唆している。
【0157】
次に、対照条件と比較したHCT116細胞のoly及びFBE処理後の組換えolyの膜分布(図24)を検討した。組換えoly125μg/mlで8時間処理した細胞は、対照及びFBE条件よりも広いolyリッチ領域の分布を示した(図24)。さらに、oly処理細胞の断面画像は、組換えolyが細胞膜を通り、サイトゾルに入ることを示した。
【0158】
組換えolyは、HCT116細胞においてCav−1リッチ膜の再構築及びクラスター形成を誘導する。
細胞外刺激によって、原形質膜は、カベオラなどのサイズ及び寿命が増大したより安定化された領域及び分子クラスターの形成に備えていると考えられる。結腸癌細胞のアポトーシスへのカベオリン1の関与を理解するために、HCT116細胞系に対するoly刺激の効果を調べた(図25)。カベオラは、均一形状の直径50〜100nmの円形輪郭としてはっきり見え、カベオリンの重合によって形成され、細胞原形質膜における既存のコレステロールスフィンゴ脂質リッチ領域(脂質ラフト)のクラスター形成及び陥入をもたらす。したがって、対照条件及びoly処理後におけるCav−1の膜分布を検討した。oly125μg/mlで8時間処理した細胞は、対照条件よりも多数のCav−1リッチ領域を示した(図25)。それに対して(図26)、Olyは、脂質ラフト関連タンパク質フロチリン(Flotilin)1の発現の著しい上方制御を誘導しなかった。
【0159】
in−vivo抗癌実験
C57BlマウスにMC38結腸癌細胞株を皮下接種すると、細胞接種後3週間以内に極めて侵襲性の高い腫瘍が原位置で発生した。図27は、C57Blマウスに移植されたMC38由来の結腸癌細胞に対するOlyの効果を示す。細胞を左腰に皮下注射した(2x10細胞/マウス)。注射の10日後、一部のマウスに腫瘍の徴候が出現した後、マウスを1mg/kg Olyで処理した(腹腔内に週3回)。対照マウスにPBSを週3回腹腔内投与した。各バーは、平均値の標準誤差である。N=8マウス。マウスを39日目に屠殺した。*=P<0.001。図から分かるように、olyは、腫瘍サイズをかなり減少させた。図28は、(対照のサイズの約半分である)腫瘍重量に対するolyの有益な効果を示す。
【0160】
実施例7
ヒラタケ抽出物の調製:
ヒラタケ調製法1:
ヒラタケ(ヤルデン)キノコの新しい子実体から、新しい子実体を液体窒素で凍結させ、凍結乾燥し、その後に1分間粉砕して、乾燥粉体を調製した。粉末子実体各10グラムを終夜撹拌して冷水(4℃)100mlで抽出し、混合物を10,000rpmで30分間遠心分離した。上清を濾過し、一定分量のOly発現をウエスタンブロットによって試験し(将来的には、Oly濃度を試験するELISA法が開発されるであろう)、マウスHIB−1B細胞における活性を試験するために10マイクロリットル一定分量を使用した。
【0161】
ヒラタケ調製法2:
ヒラタケ(ヤルデン)キノコの新しい子実体から、試料を−20℃で凍結させ、凍結乾燥し、Moulinex中で1分間粉砕して、乾燥粉体を調製した。粉末子実体各10グラムを終夜撹拌して冷(4℃)水100mlで抽出し、10,000rpmで30分間遠心分離した。上清を濾過し、一定分量のOly発現をウエスタンブロットによって試験し、マウスHIB−1B細胞における活性を試験するために10マイクロリットル一定分量を使用した。
【0162】
2個のヒラタケ調製物におけるoly濃度の比較
ウエスタンブロット分析を示した図29から分かるように、液体窒素凍結後の粉末ヒラタケ(方法1)からの抽出物のOly濃度は、−20℃凍結後の粉末ヒラタケ(方法2)からの抽出物より高い。
【0163】
2個のヒラタケ調製物の生物学的試験
試料を生物学的に試験した。
用いた生物学的試験は、HIB−1B細胞内の細胞内脂肪滴に似た球体の外観であり、それはトランスジェニックマウスの褐色脂肪腫瘍から誘導され、褐色脂肪特異的ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP)を発現可能な第1樹立褐色脂肪細胞の細胞系である。
【0164】
HIB−1B細胞を、ヒラタケ調製法1の1/10希釈調製物10μl(蒸留滅菌水で希釈)、又はほぼ同量のヒラタケ調製法2にさらした。
【0165】
結果
(24時間インキュベーションでは、48時間インキュベーションと同様の結果を得たが、データを示していないことに留意されたい。)
【0166】
図30から分かるように、対照HIB−1B細胞においては、脂肪滴は見られなかった(図31A)。Oly(10μg/ml)で処理したHIB−1B細胞においては、多数の脂肪滴を見ることができる(図31B)。ヒラタケ調製法1で処理したHIB−1B細胞における。
【0167】
方法1に従ったヒラタケからの子実体抽出物で処理したHIB−1B細胞。oly処理細胞とほぼ同じ量の脂肪滴が見られた(図31C)。同様に、ヒラタケ調製法2で処理したHIB−1B細胞を示す図31Dから分かるように、細胞中の脂肪滴の量は、oly処理における液滴量とほぼ同じであった。
【0168】
要するに、両方の抽出物調製法は、十分なOly様活性をもたらした。より低濃度のolyでも、調製物は有効である。したがって、これらのヒラタケ単離物のin−vivo投与は、組換えolyで見られたように、抗肥満、抗インスリン抵抗性、抗癌及び抗脂肪肝効果を誘発すると予想される。
【0169】
本発明は、上で特に示し、記述したものに限定されないことを当業者は理解されたい。より正確に言えば、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって規定される。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図19C
図19D
図20
図21
図22A
図22B
図23A
図23B
図23C
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30A
図30B
図30C
図30D
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]