特許第6774152号(P6774152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774152低いかぶりを有する新規なポリプロピレン組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774152
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】低いかぶりを有する新規なポリプロピレン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20201012BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20201012BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20201012BHJP
   C08F 210/06 20060101ALI20201012BHJP
   C08F 4/629 20060101ALI20201012BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C08L23/10
   C08L23/08
   C08K3/013
   C08F210/06
   C08F4/629
   C08J5/00CES
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-555685(P2018-555685)
(86)(22)【出願日】2017年6月20日
(65)【公表番号】特表2019-519628(P2019-519628A)
(43)【公表日】2019年7月11日
(86)【国際出願番号】EP2017065053
(87)【国際公開番号】WO2017220556
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2018年12月7日
(31)【優先権主張番号】16176089.7
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511114678
【氏名又は名称】ボレアリス エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジンボ
(72)【発明者】
【氏名】クニーゼル クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】アールニオ−ヴィンテルホーフ ミンナ
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ カールハインツ
(72)【発明者】
【氏名】ベルガー フリードリヒ
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第03015504(EP,A1)
【文献】 国際公開第2009/082019(WO,A1)
【文献】 特開平09−003298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00− 23/36
C08K 3/00− 13/08
C08F 4/00− 4/82
C08F 210/00−210/18
C08J 5/00− 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MFRCompが5〜90g/10分の範囲内のポリプロピレン組成物であって、
(A)最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて60〜95重量%の異相ポリプロピレン(HECO)であって、前記HECOの総重量に基づいて10〜30重量%の分散相を含み、前記分散相が30〜45重量%のコモノマー含有量を有し、前記HECOが12〜200g/10分の範囲内のメルトフローレートMFRPPを有し、チーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)重合ポリプロピレンである、前記HECO、
ここで前記チーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)がIUPACの4〜6族の遷移金属、2族金属化合物および内部供与体の化合物を含み、
前記内部供与体がマロン酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、シトラコン酸塩、グルタル酸塩、シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、安息香酸塩および1,3−ジエーテル、ならびにそれらの任意の誘導体および/または混合物を含む群から選択されるものであり、
(B)最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて0〜15重量%の1種以上のエラストマー、
(C)最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて5〜20重量%の、雲母、珪灰石、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイトおよびタルクからなる群から選択される少なくとも1種の充填剤であって、5.0μmより小さい中央の粒径d50[質量パーセント]を有する前記充填剤、
を含み、
ここで前記ポリプロピレン組成物が不等式(1)
かぶり≦0.02MFRComp+0.3 (1)
を満たし、前記分散相を、25℃でISO 16152に従ってキシレン低温可溶性(XCS)画分として測定し、
前記分散相のコモノマー含有量を、NMRで測定し、MFRCompおよびMFRPPを、230℃で2.16kgの荷重でISO 1133に従って測定し、かぶりをISO 75201、方法Bに従って重量測定的に測定する、
前記ポリプロピレン組成物。
【請求項2】
5〜15重量%の1種以上のエラストマー(B)を含む、請求項1に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項3】
さらに、前記最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて5重量%までの添加剤を含む、請求項1または2に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項4】
前記分散相がエチレンおよび/またはC〜C10α−オレフィンとのエラストマープロピレンコポリマー(EC)を含んでいる、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項5】
前記異相ポリプロピレン(HECO)が230℃で2.16kgの荷重でISO 1133に従って測定して12〜120g/10分の範囲内のMFRPPを有する、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項6】
キシレン低温可溶性画分(XCS)がデカリン中で135℃でDIN ISO 1628/1に従って測定して1.5〜6.0dl/gの範囲内の固有粘度(IV)を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項7】
前記エラストマー(B)が4〜12個の炭素原子を有する、好ましくは4〜8個の炭素原子を有する高級α−オレフィンとのエチレン高級α−オレフィンエラストマーである、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項8】
前記エラストマーの密度が935kg/mより低い、好ましくは850〜900kg/mの範囲内である、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物の、押出成形した、中空成形した、または射出成形した物品の製造のための使用。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物を含む物品であって、前記物品が自動車内装物品である、前記物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異相(heterophasic)ポリプロピレンおよび少なくとも1種の充填剤を含み、広いMFR範囲にわたって改善されたかぶり性能を有するポリプロピレン組成物に関する。本発明はさらに、本発明のポリプロピレン組成物の、押出成形した、中空成形した、または射出成形した物品の製造のための使用、製造した物品および本発明のポリプロピレン組成物を含む自動車内装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装部品、例えばダッシュボード、ドア被覆材、トリムなどは、一般にポリマー;特に充填剤を有するプロピレンベースの樹脂製である。それらの耐薬品性および耐熱性のために、それらは、これらの用途のために広く使用されている。しかしながら、多くのポリマー特性が直接的または間接的に相互に関係しており、すなわち特定の特性を改善することを、別の特性を犠牲にしてのみ達成することができるので、要求は困難である。例えば、ポリマー材料の上昇した剛性は、より高い脆性を伴って達成され、したがって乏しい衝撃特性がもたらされる。それ故、充填された異相プロピレンベースの材料は、それらのより良好な衝撃剛性均衡のために自動車内装用途に好ましい。自動車用途のためのさらなる重要な要件は、高品質の知覚を自動車の寿命の終了まで維持することであり、それは、ポリマーが、例えば鍵、指の爪、リングなどからの引っかき傷に対する高い耐性を提供するべきであることを意味する。最終製品の良好な耐引っかき性を達成するために、非常にしばしば、補助物質、例えばHDPEおよび/またはスリップ剤を、ポリマーに添加する。さらに、近年、自動車用途について、低い排出ならびに低い量の揮発性有機化合物、低いかぶり、臭気の低減およびポリマー材料の改善された官能特性が、追加的な重要な問題となっており、しばしば用語EFO(排出、かぶり、臭気)の下で要約される。排出および臭気は、主に、種々の鎖長の一次重合および分解生成物に、ならびに添加剤に由来し、それらはまた、通常の大気温度で自動車内装最終製品において生じる。
【0003】
化学的観点から、排出は、低級の短鎖アルカンからオリゴマーにかけてのものである。C〜C10の鎖長を有する極めて低級のアルカンの全有機炭素排出は、VDA 277:1995に従って測定される。揮発性有機化合物(VOC)は、C〜C20の鎖長を有する極めて低級のアルカンから低級アルカンにかけての排出として定義され;それらは、VDA 278:2002に従って測定される。FOG値は、C16〜C32の鎖長を有する添加剤、アルカンおよびオリゴマーの排出として定義され;それはまた、VDA 278:2002に従って測定される。排出された揮発性物質の数種は、「かぶり」と称される乳白色の沈殿物をフロントガラス上に形成し得、それは、視認性に対して悪影響を与え、それによって運転者および乗客の安全に影響を及ぼす。用語「かぶり」は、>C30の鎖長を有する添加剤および脂肪族オリゴマーの排出を示す。それは、個々の物質から排出されるガスを表示し、それは次に沈殿し、フロントガラス上に脂肪性の膜を形成し得る。当該凝縮性要素を、縮合による重量の増加を決定する重量測定的かぶり試験によって測定することができる。かぶり値について、VOCおよびFOGとは異なる物質が原因であるという事実により、材料のVOCおよびFOGからそのかぶり値に結論付けることは、可能ではない。さらに、かぶりがしばしば所要の機械的特性を達成するために添加される添加剤によって増加するので、低下したかぶり値は、ポリマー産業における大きな課題である。
【0004】
先行技術において、自動車内装用途のためのポリマー組成物のEFO問題を扱う多くの利用可能な文献がある。
【0005】
特許文献1、特許文献2および特許文献3には、マトリックス中に分散した粒子として存在する結晶性プロピレンホモポリマーマトリックスならびにエチレンおよび/または4〜10個の炭素原子を有するα−オレフィンとの非晶質プロピレンコポリマーを含む異相ポリプロピレン組成物(HECO)が開示されている。任意に、結晶性エチレンコポリマーが、組成物中に分散した粒子の含有物として存在し;および任意に、α−核形成剤が、ホモポリマーマトリックス中に存在する。異相ポリプロピレン組成物は、チーグラー−ナッタ触媒の存在下で生成し、それらは、改善された衝撃/剛性均衡ならびに低いVOCおよびFOG値を示す。しかしながら、当該文献には、HECOを含む充填組成物が開示されていない。
【0006】
特許文献4には、プロピレンベースのポリマー、プロピレンベースのポリマー内に分散したプロピレン/エチレンコポリマーおよび置換フェニレン芳香族ジエステルを含むプロピレン衝撃コポリマーが開示されている。後者は、プロピレン衝撃コポリマーを製造するための重合ステップ中に存在するチーグラー−ナッタ触媒組成物の一部である。最終生成物は、高い溶融流れおよび低い揮発性物質含有量(VOC)を提供する。衝撃コポリマーは、核形成剤を含むことができ、種々の添加剤、例えば酸化防止剤と配合することができる。当該文献には、プロピレン衝撃コポリマーを含む充填組成物が開示されていない。
【0007】
特許文献5には、VDA 277による揮発性物質の低い含有量ならびにVDA 278による低いVOCおよびFOG値を達成するために、特定の物質、例えばヒンダードアミン系光安定剤を含有する、自動車用途のためのタルク充填ポリプロピレン組成物が開示されている。ポリプロピレン組成物は、エチレンまたはC〜C10α−オレフィンであるコモノマーを有する異相プロピレンコポリマーであり得、それらを、チーグラー・ナッタまたはシングルサイト触媒の存在下で製造する。しかしながら、良好なVOCおよびFOG値を有する組成物は、ポリプロピレンホモポリマーをベースとし、当該文献には、組成物のかぶりおよび機械的特性については全く言及されていない。
【0008】
特許文献6には、異相プロピレンコポリマー、タルク充填剤、トリアジン誘導体およびフェノール系酸化防止剤を含む、自動車内装用途に適したポリプロピレン組成物が開示されている。組成物およびそれから製造した物品は、VDA277による揮発性物質の減少した量を有する。しかしながら、当該文献には、得られたポリプロピレン組成物のかぶり値については言及されていない。
【0009】
特許文献7には、良好な帯電防止値および良好なかぶり値の組合せを得るために、グリセリルモノステアレートと脂肪酸ジアルカノールアミドとの添加剤組合せを、1:1〜3:1の範囲内の混合比および1.5重量%までの総量において、タルカム強化プロピレンブロックコポリマーに添加することが示唆されている。しかしながら、当該発明の例において、7g/10分のMFIを有するHECO、48w%のエチレン含有量を有する5w%のEPMゴムを使用し、0.92mgのかぶり値を、7.5g/10分のMFIを有する組成物で達成する。より高いMFR値を有する組成物は、開示されていない。
【0010】
特許文献8には、VDA278による低い量の揮発性物質(VOC)およびFOG、ならびに良好な機械的特性、例えば良好な耐引っかき性を有する異相ポリプロピレン組成物が開示されている。当該組成物は、4〜12個の炭素原子を有するα−オレフィンから選択された1種以上のコモノマーを衝撃改質剤として有するエチレンコポリマーとブレンドされたプロピレンホモポリマーを含む。任意に、ポリマー組成物は、さらにエチレンホモポリマーおよび/または20重量%までの少なくとも1種の充填剤材料を含む。プロピレンホモポリマーを、シングルサイトまたはチーグラー・ナッタ触媒の存在下で製造し;エチレンコポリマーを、シングルサイトメタロセン触媒の存在下で製造する。実施例から、満足なVOCおよびFOG値を有する組成物は、メタロセン触媒で製造したプロピレンホモポリマー材料の使用に限定されることが、明らかである。当該文献には、かぶり値について全く言及されていない。
【0011】
多くの開発研究が異相ポリプロピレン組成物の分野において行われてきたが、現在まで、広いMFR範囲にわたるすべての述べた要件を組み合わせる十分に均衡のとれたポリマー組成物を見出すことは、可能ではなかった。この点に関して、ベースポリマー(HECO)における良好な機械的および/または排出およびかぶり値によって、最終的な配合ポリマー組成物において同様に良好な値が保証されないことに留意しなければならない。実際、配合ステップ中に、種々の材料、例えばエラストマー、充填剤、添加剤、スリップ剤、衝撃改質剤などを、注文仕立ての組成物を受容するために添加する。すべてのこれらの材料は、ポリマー最終製品の特性に対して悪影響を及ぼし得、特にかぶり値は、この点において重要である。さらに、化合物のMFRが高くなるに伴って、かぶり値はより劣悪になり、それは、ポリプロピレン化合物の関連するMFR範囲全体にわたって良好なかぶり値を得ることが課題であることを意味することが、知られている。
【0012】
したがって、許容し得る(低温)衝撃/剛性均衡を保持する一方、良好な耐引っかき性、ならびに低いVOCおよびFOG排出が広いMFR範囲にわたって低いかぶり値を有する異相ポリプロピレン組成物についての必要性が、尚ある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第3 015 503号
【特許文献2】欧州特許第3 015 504号
【特許文献3】国際公開第2016/066453号パンフレット
【特許文献4】米国特許第7 935 766号
【特許文献5】欧州特許第2 154 190号
【特許文献6】欧州特許第2 530 116 A1号
【特許文献7】米国特許第5 756 567号
【特許文献8】国際公開第2009/124753号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、かかる材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上述の目的を、以下のものを含む特定のポリプロピレン組成物によって達成することができるという知見に基づいている。
(A)最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて60〜95重量%の異相ポリプロピレン(HECO)であって、前記HECOの総重量に基づいて10〜30重量%の分散相を含み、前記分散相が30〜45重量%のコモノマー含有量を有し、前記HECOが12〜200g/10分の範囲内のメルトフローレートMFRPPを有し、チーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)の存在下で製造される、前記HECO、
(B)最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて0〜15重量%の1種以上のエラストマー、
(C)最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて5〜20重量%の少なくとも1種の充填剤、
ここで、ポリプロピレン組成物は、不等式(1)
かぶり≦0.02MFRComp+0.3
を満たし、分散相を、25℃でISO 16152に従ってキシレン低温可溶性(XCS)画分として測定し、
分散相のコモノマー含有量を、NMRで測定し、MFRCompおよびMFRPPを、230℃で2.16kgの荷重でISO 1133に従って測定し、かぶりをISO 75201、方法Bに従って重量測定的に測定する。
【0016】
不等式(1)を満たし、成分(A)および(C)を含むこの特別な組成物によって、驚くべきことに、以下の実施例によって見られるように、低温でも良好な衝撃/剛性均衡、良好な耐引っかき性、低いVOCおよびFOG排出および広いMFR範囲にわたる顕著な良好なかぶり値の良好に均衡した組合せが可能になる。
【0017】
本発明の第1の実施形態において、ポリプロピレン組成物ならびに異相ポリプロピレン成分(A)は、フタル酸エステルならびにそれらのそれぞれの分解生成物を含まない;好ましくは、ポリプロピレン組成物ならびに異相ポリプロピレン成分(A)は、フタル酸化合物ならびにそれらのそれぞれの分解生成物を含まない。
【0018】
本発明によれば、用語「フタル酸化合物」は、フタル酸(CAS No.88−99−3)、脂肪族、脂環式および芳香族アルコールとのそのモノおよびジエステル、ならびに無水フタル酸を指す。
【0019】
用語フタル酸エステル、好ましくはフタル酸化合物を「含まない」は、本発明の意味において、フタル酸エステルならびにそれぞれの分解生成物、好ましくはフタル酸化合物ならびにチーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)に由来するそれぞれの分解生成物が全く検出可能でない異相ポリプロピレン組成物を指す。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、本発明によるポリプロピレン組成物の、押出成形した、中空成形した、または射出成形した物品、例えば小物袋および袋、パイプおよび付属品、輸送包装容器、ならびに自動車の外部および内部のための構成要素、例えばダッシュボード、ドア被覆材、コンソール、バンパーおよびトリム、ならびに製造した物品の製造のための使用に関する。
【0021】
なおさらなる局面において、本発明は、本発明のポリプロピレン組成物を含む物品に関し、当該物品は、自動車内装物品である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において、本発明によるポリプロピレン組成物の個々の成分を、より詳細に定義する。
【0023】
組成物
本発明のポリプロピレン組成物は、少なくとも(A)最終的なポリプロピレン組成物の総重量を基準にして60〜95重量%の異相ポリプロピレン(HECO)および(C)最終的なポリプロピレン組成物の総重量を基準にして5〜20重量%の少なくとも1種の充填剤を含み、それは、不等式(1)
かぶり≦0.02MFRComp+0.3 (1)
を満たす。
【0024】
好ましくは、本発明のポリプロピレン組成物は、不等式(2)
かぶり≦0.02MFRComp+0.28 (2)
を満たす。
【0025】
尚より好ましくは、本発明のポリプロピレン組成物は、不等式(3)
かぶり≦0.02MFRComp+0.26 (3)
を満たす。
【0026】
好ましい実施形態において、本発明のポリプロピレン組成物は、成分(A)HECOおよび(C)充填剤に加えて、1種以上のエラストマー(B)を、最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて15重量%までの量において含む。
【0027】
最終的なポリプロピレン組成物の機械的特性が−20℃での衝撃強度が>2kJ/mであり、引張係数が>1600MPaであるような関連する要件を満たすことがまた、重要である。当該分野において、最終的なポリマー組成物の機械的特性が、ポリマー組成物をベースポリマーから製造する配合ステップによって大きく影響を受けることが、知られている。同一の理由のために、ベースポリマーの良好な機械的特性は、必ずしもこれらのポリマーから製造したポリマー組成物が自動的にまた良好な機械的特性を示すことを意味しない。したがって、最終的な組成物の所望の機械的値を保証するために、配合中にエラストマーをしばしば添加する。
【0028】
したがって、好ましい実施形態において、本発明のポリプロピレン組成物はさらに、最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて5〜15重量%を含み、特に好ましい実施形態において10〜15重量%の1種以上のエラストマー(B)を含む。
【0029】
好ましい選択肢において、本発明によるポリプロピレン組成物はさらに、最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて5重量%までの添加剤、例えば核形成剤および酸化防止剤ならびにスリップ剤ならびに任意に5重量%までのカラーマスターバッチを含む。より好ましい選択肢において、ポリプロピレン組成物はさらに、最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて4重量%まで、特に好ましくは3重量%までの添加剤および任意に3重量%まで、特に好ましくは2重量%までのカラーマスターバッチを含む。尚より好ましい実施形態において、ポリプロピレン組成物はさらに、最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて3重量%までの添加剤および2重量%までのカラーマスターバッチを含む。
【0030】
さらに、本発明によるポリプロピレン組成物は、5〜90g/10分の範囲内、好ましくは5〜80g/10分の範囲内、より好ましくは10〜70g/10分の範囲内、最も好ましくは10〜35g/10分の範囲内の、230℃で、および2.16kgの荷重で、ISO1133に従って測定したMFRCompを有することが、理解される。
【0031】
本発明のポリマー組成物を、当該分野において公知の任意の好適な方法によって、例えば異相ポリプロピレン成分(A)を他の成分と直接、例えば押出機中でブレンドして、同一の押出機を使用して完成品を製造するようにすることによって、または別個のミキサーもしくは押出機中で前溶融混合することによって製造することができる。混合のために、従来の配合またはブレンド装置、例えばBanburyミキサー、2ロールゴムミル、Buss−co−ニーダーまたは二軸押出機を、使用してもよい。
【0032】
異相PP成分(A)
本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)は、プロピレンホモポリマー(H−PP)であるマトリックス(M)を含む。マトリックス(M)は、エラストマープロピレンコポリマー(EC)を含む分散相を有する分散相を含有する。したがって、マトリックス(M)は、マトリックス(M)の一部ではない(微細に)分散した含有物を含み、前記含有物は、エラストマープロピレンコポリマー(EC)を含む。本発明による用語「含有物」は、好ましくは、マトリックスおよび含有物が異相ポリプロピレン(HECO)内で異なる相を形成することを示すものとし、前記含有物は、例えば高分解能顕微鏡法、例えば電子顕微鏡法もしくは原子間力顕微鏡法によって、または動的機械的熱分析(DMTA)によって視認可能である。特に、DMTAにおいて、多相構造の存在を、少なくとも2つの異なるガラス転移温度の存在によって同定することができる。
【0033】
好ましくは、本発明による成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)は、ポリマー成分として、ポリマーマトリックス(M)、すなわちプロピレンホモポリマー(H−PP)および分散相中に含まれるエラストマープロピレンコポリマー(EC)のみを含む。換言すれば、異相ポリプロピレン(HECO)は、総異相ポリプロピレン(HECO)に基づいて5.0重量%を超える、より好ましくは3.0重量%を超える、例えば1.0重量%を超える量におけるさらなる添加剤を含有してもよいが、他のポリマーを含まない。かかる低い量において存在し得る1種の追加的なポリマーは、異相ポリプロピレン(HECO)の製造によって得られた副反応生成物であるポリエチレンである。
【0034】
上述したように、本発明の成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)のポリマーマトリックス(M)は、プロピレンホモポリマー(H−PP)である。本発明を通して使用する表現「プロピレンホモポリマー」は、実質的に、すなわち99.0重量%に等しいかまたはそれより高い、より好ましくは99.5重量%に等しいかまたはそれより高い、例えば99.8重量%に等しいかまたはそれより高いプロピレン単位からなるポリプロピレンに関する。好ましい実施形態において、プロピレンホモポリマー中のプロピレン単位のみが、検出可能である。ポリマーマトリックス(M)は、単一のポリマー、例えばプロピレンホモポリマーからなってもよいが、また(2種の)異なるプロピレンポリマー、例えば異なるプロピレンホモポリマーの混合物を含んでもよい。理想的には、しかしながら、単一のポリマー、例えば単一のプロピレンホモポリマー(H−PP)が、存在する。
【0035】
本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)は、プロピレンとは別に、またコモノマーを含む。好ましくは、プロピレン以外の異相ポリプロピレンは、プロピレンと共重合可能なモノマー、例えばエチレンおよび/またはC〜C10α−オレフィンを含む。したがって、本発明の意味内の異相ポリプロピレンは、プロピレンおよびエチレンならびに/またはC〜C10α−オレフィンから誘導される単位を含む、好ましくはそれからなるポリプロピレンとして理解される。プロピレン(コモノマー)、特にエチレンおよび/またはC〜C10α−オレフィン、例えば1−ブテンおよび/または1−ヘキセンと共重合可能なモノマーは、成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)の分散相中のエラストマープロピレンコポリマー(EC)中に含まれる。
【0036】
したがって、成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)の分散相は、エチレンおよび/またはC〜C10α−オレフィンとのエラストマープロピレンコポリマー(EC)を含んでいることが、好ましい。
【0037】
好ましくは、本発明によるポリプロピレン組成物に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)は、エチレン、1−ブテンおよび1−ヘキセンからなる群からのプロピレン(コモノマー)と共重合可能なモノマーを含む。より特定的には、異相ポリプロピレン(HECO)は、−プロピレンとは別に−エチレンおよび/または1−ブテンから誘導可能な単位を含む。好ましい実施形態において、異相ポリプロピレン(HECO)は、エチレンおよびプロピレンのみから誘導可能な単位を含む。したがって、分散相中のエラストマープロピレンコポリマー(EC)は、好ましくはエチレンプロピレンゴム(EPR)である。したがって、1つの特定の実施形態において、異相ポリプロピレン(HECO)の分散相中のコモノマーは、エチレンのみである。
【0038】
本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)は、HECOの総重量に基づいて10〜30重量%、好ましくは10〜20重量%、より好ましくは12〜18重量%の分散相を含む。
【0039】
異相ポリプロピレン(HECO)中の分散相の占有率はまた、「異相ポリプロピレン(HECO)のキシレン低温可溶性(XCS)画分」として示される。言い換えれば、用語「分散相」、「異相ポリプロピレン(HECO)のキシレン低温可溶性(XCS)画分」、「エラストマープロピレンコポリマー(EC)」および「エチレン−プロピレンゴム(EPR)」は、同一のことを示し、すなわち交換可能である。
【0040】
本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)の分散相は、NMRで測定して30〜45重量%、好ましくは35〜45重量%のコモノマー含有量を有する。キシレン低温可溶性(XCS)画分の含有量、したがって分散相のCおよび/またはC〜C10α−オレフィン含有量の百分率量は、成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)のキシレン低温可溶性(XCS)画分のコモノマー含有量に相当する。上述の特定の実施形態によれば、分散相中のコモノマーはエチレンのみであり、成分(A)のHECOのXCS画分のコモノマー含有量は、XCS画分のC含有量(C/XCS)に相当する。
【0041】
したがって、極めて好ましい実施形態において、本発明のポリプロピレン組成物は、分散相のコモノマー含有量がキシレン低温可溶性(XCS)画分のC含有量(C/XCS)に相当する、請求項1において特定した成分(A)、(B)および(C)を含んでいる。
【0042】
本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)は、中程度のメルトフローレートによって特徴づけられる。したがって、異相ポリプロピレン(HECO)は、12〜200.0g/10分の範囲内の溶融流れMFRPPを有する。好ましい実施形態において、異相ポリプロピレン(HECO)は、ISO 1133に従って230℃および2.16kgの荷重で測定して12〜120g/10分の範囲内、尚より好ましくは12〜100g/10分の範囲内のメルトフローレートMFRPPを有する。
【0043】
本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)のキシレン低温可溶性(XCS)画分およびしたがって分散相を、その固有粘度(IV)によってさらに特定する。低い固有粘度(IV)値は、低い重量平均分子量を反映する。本発明について、異相ポリプロピレン(HECO)のキシレン低温可溶性画分(XCS)が1.5〜6.0dl/gの範囲内、より好ましくは2.0〜4.0dl/gの範囲内、尚より好ましくは2.2〜3.0dl/gの範囲内の固有粘度(IV)を有することが好ましく、ここで固有粘度(IV)を、DIN ISO 1628/1、1999年10月に従って135℃でデカリン中で測定する。
【0044】
本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)を、チーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)の存在下で製造した。触媒の性質によって、特にポリマーの微細構造に影響が及ぶ。例えば、ある種のチーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)を用いて製造したポリプロピレンは、コモノマーの分散相中への包含がある程度までより濃淡のむらがあるように起こるので(それを三つ組分布によって表現する)、異なるチーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)を用いることによって製造したポリプロピレンと比較して異なる微細構造を提供する。したがって、本発明における成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)の製造のために、特定のチーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)を使用する。
【0045】
好ましくは、本発明において使用する触媒は、チーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)であり、それは、IUPACの4〜6族の遷移金属、例えばチタン、2族金属化合物、例えばマグネシウム、および非フタル酸化合物、好ましくは非フタル酸エステルおよび/または非フタル酸ジエーテルである内部供与体の化合物を含み、エステルは、より好ましくは非フタル酸ジカルボン酸のジエステルであり、ジエーテルは、より好ましくは以下により詳細に記載する1,3−ジエーテルである。したがって、触媒は、所望されないフタル酸化合物を完全に含まない。さらに、触媒は、いかなる外部の担体物質、例えばシリカまたはMgClをも含まない固体触媒であるが、触媒は自立である。好ましくは、第2族金属は、マグネシウムである。4〜6族の遷移金属化合物は、好ましくはチタン化合物(TC)、最も好ましくはハロゲン化チタン、例えばTiClである。
【0046】
チーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)を、それが得られる方法によってさらに定義することができ;典型的には、チーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)を、沈殿法によって、またはエマルジョン凝固法によって得ることができる。両方の方法において、触媒化学は同一である。
【0047】
本発明において使用する触媒の製造において使用する非フタル酸内部供与体を、好ましくは、非フタル酸カルボン(二)酸の(ジ)エステル、ジエーテル、例えば1,3−ジエーテル、それらの誘導体および混合物から選択し;混合物の場合において、(ジ)エステル供与体とジエーテル供与体との間のモル比が50〜0.02の範囲内、より好ましくは30〜0.1の範囲内であることが、好ましい。内部供与体として特に好ましいのは、モノ不飽和ジカルボン酸のジエステルおよび1,3−ジエーテル、それらの誘導体および混合物である。本発明によるポリプロピレン組成物の製造のために、内部供与体をマロン酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、シトラコン酸塩、グルタル酸塩、シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、安息香酸塩および1,3−ジエーテル、ならびにそれらの任意の誘導体および/または混合物を含む群から選択することが、特に好ましい。
【0048】
最終的に得られるチーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)は、望ましくは、一般に5〜200μm、好ましくは10〜100μmの平均粒径範囲を有する粒子の形態にある。典型的には、Tiの量は、触媒組成物の1〜6重量%、Mgは10〜20重量%、および内部供与体は10〜40重量%である。
【0049】
本発明において使用することができる好適な触媒は、当該分野において知られており、例えばWO99/571560、WO2012/049204、WO2012/139897、EP2594593、EP2610273、WO2016/066446、EP3015504、WO2016/066453に開示されている。好適な触媒はまた、例えばLyondell BasellのAvant ZN180M、Avant ZN168M、Avant ZN127M触媒として市場において入手できる。
【0050】
本発明のポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)の製造中に存在するチーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)を、好ましくは共触媒および任意に外部供与体と共同して使用する。
【0051】
本発明のポリプロピレン組成物中に含まれる異相ポリプロピレン(HECO)の製造中に外部供与体が存在することが、好ましい。好適な外部供与体には、特定のシラン、エーテル、エステル、アミン、ケトン、複素環式化合物およびこれらのブレンドが含まれる。シランを使用することが特に好ましく;さらにより好ましい外部供与体は、ジシクロペンチルジメトキシシラン供与体(D供与体)またはシクロヘキシルメチルジメトキシシラン供与体(C供与体)である。
【0052】
チーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)および任意の外部供与体に加えて、共触媒を使用することができる。共触媒は、好ましくは、周期表(lUPAC)の第13族の化合物、例えば有機アルミニウム、例えばアルミニウム化合物、例えばアルミニウムアルキル、ハロゲン化アルミニウムまたはハロゲン化アルミニウムアルキル化合物である。したがって、1つの特定の実施形態において、共触媒は、トリアルキルアルミニウム、例えばトリエチルアルミニウム(TEAL)、ジアルキルアルミニウムクロリドもしくはアルキルアルミニウムジクロリドまたはそれらの混合物である。1つの特定の実施形態において、共触媒は、トリエチルアルミニウム(TEAL)である。
【0053】
好ましくは、共触媒(Co)と外部供与体(ED)との間の比[Co/ED]および/または共触媒(Co)と遷移金属(TM)との間の比[Co/TM]を、注意深く選択する。したがって、共触媒(Co)対外部供与体(ED)のモル比[Co/ED]は、5〜45の範囲内でなければならず、好ましくは5〜35の範囲内であり、より好ましくは5〜25の範囲内であり;任意に共触媒(Co)対チタン化合物(TC)のモル比[Co/TC]は、80より高く、500までの範囲内でなければならず、好ましくは100〜350の範囲内であり、尚より好ましくは120〜300の範囲内である。
【0054】
外部供与体、共触媒および共触媒(Co)と外部供与体(ED)との間の比[Co/ED]ならびに/または共触媒(Co)と遷移金属(TM)との比[Co/TM]の詳細な説明は、EP 3 015 503、EP 3 015 504、WO 2016/066453に開示されており、それらを、参照により本明細書に組み込む。
【0055】
本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)を、したがって、好ましくは、
(a)IUPACの4〜6族の遷移金属、2族金属化合物および内部供与体の化合物を含むチーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)、ここで前記内部供与体は、非フタル酸化合物であり、好ましくは非フタル酸エステルおよび/または非フタル酸ジエーテルであり、尚より好ましくはエステルは、非フタル酸ジカルボン酸のジエステルであり、ジエーテルは、より好ましくは1,3−ジエーテルである;
(b)任意に共触媒(Co)、ならびに
(c)任意に外部供与体(ED)
の存在下で製造する。
【0056】
本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)を、好ましくは、直列に連結された少なくとも2つの反応器、好ましくは少なくとも3つの反応器を含む多ステージプロセスにおいて製造する。かかるプロセスにおいて、ポリマーマトリックス(M)を最初に製造し、その後のステップにおいて、分散相を形成するエラストマープロピレンコポリマー(EC)を、マトリックス(M)の存在下で製造する。したがって、異相ポリプロピレン(HECO)の分散相中に含まれるエラストマープロピレンコポリマー(EC)を、in situで製造する。これによって、ポリマーマトリックス(M)中の分散相の良好な分布および良好な均質性が可能になり、したがってポリマーマトリックス(M)を重合後に別個に製造したエラストマープロピレンコポリマー(EC)とブレンドすることによって製造した異相ポリプロピレン(HECO)と比較しての構造的差異が構成される。
【0057】
したがって、本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)を、
(I)プロピレンホモポリマー(H−PP)であるポリマーマトリックス(M)を形成するためのプロピレン
を重合させ、その後
(II)前記マトリックス(M)中の分散相中に含まれるエラストマープロピレンコポリマー(EC)を形成するための、好ましくは気相におけるプロピレンおよびエチレンおよび/またはプロピレンとは異なるC〜C10α−オレフィン、好ましくはエチレン
を重合させることによって製造し、
ここで好ましくは、ステップ(I)および(II)の両方を、同一のチーグラー−ナッタ固体触媒(ZN−C)、好ましくは上記に定義した触媒の存在下で行う。
【0058】
好ましくは、異相ポリプロピレン(HECO)を、以下のステップを含む逐次重合法によって得、
(a)第1の反応器においてプロピレンを重合し、それによって第1のプロピレンホモポリマー画分を得るステップ、
(b)前記第1のプロピレンホモポリマー画分を第2の反応器中に移すステップ、
(c)前記第2の反応器中で第1のプロピレンホモポリマー画分の存在下でプロピレンを重合し、第2のプロピレンホモポリマー画分を得、前記第1のプロピレンホモポリマー画分および前記第2のプロピレンホモポリマー画分が、ポリマーマトリックス(M)、例えばプロピレンホモポリマー(H−PP)を形成するステップ、
(d)前記ポリマーマトリックス(M)を第3の反応器に移すステップ、
(e)前記第3の反応器中で、ポリマーマトリックス(M)の存在下で、プロピレンおよびエチレンおよび/またはC〜C10α−オレフィンを重合し、エラストマープロピレンコポリマー(EC)を得るステップであって、前記ポリマーマトリックス(M)および前記エラストマープロピレンコポリマー(EC)が本発明の成分(A)の異相プロピレンコポリマー(HECO)から分散相中に含まれる前記ステップ、
ここで、好ましくは、当該ステップを、同一のチーグラー・ナッタ固体触媒(ZN−C)、好ましくは上記で定義した触媒の存在下で行う。
【0059】
用語「逐次重合法」は、本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)を、直列に連結された少なくとも2つ、例えば3つまたは4つの反応器中で製造することを示す。したがって、本方法は、少なくとも第1の反応器、第2の反応器、ならびに任意に第3および第4の反応器を含む。用語「重合プロセス」は、主な重合が起こることを示すものとする。したがって、プロセスが4つの重合反応器からなる場合において、この定義は、全体のプロセスが例えば前重合反応器中での前重合ステップを含むという選択肢を排除しない。
【0060】
第1の反応器は、好ましくはスラリー反応器であり、バルクまたはスラリーにおいて動作するあらゆる連続的な、または単純な撹拌バッチタンク反応器またはループ反応器であり得る。バルクは、少なくとも60重量%のモノマーを含む反応媒体中での重合を意味する。本発明によれば、スラリー反応器は、好ましくは(バルク)ループ反応器である。第2の反応器は、スラリー、例えばループ反応器または気相反応器(GPR)のいずれかであり得る。第3および第4の反応器(存在する場合)は、好ましくは気相反応器(GPR)である。かかる気相反応器は、任意の機械的に混合された、または流動床反応器であり得る。好ましくは、気相反応器は、少なくとも0.2m/秒のガス速度を有する機械的に撹拌した流動床反応器を含む。したがって、気相反応器が好ましくは機械的撹拌機を備えた流動床タイプの反応器であることが、理解される。
【0061】
好ましい実施形態において、第1および第2の反応器は、スラリー、例えばループ反応器であり、一方第3の、および任意に第4の反応器は、気相反応器(GPR)である。
【0062】
したがって、本プロセスのために、少なくとも3つ、好ましくは3つの重合反応器、すなわち第1のスラリー反応器、例えばループ反応器、第2のスラリー反応器、例えばループ反応器および直列に連結された気相反応器(GPR)を、使用する。必要である場合、第1のスラリー反応器の前に、前重合反応器を配置する。
【0063】
好適なスラリー−気相プロセスは、BasellのSpheripol(登録商標)プロセスである。
【0064】
さらなる好適な多段階プロセスは、例えばBorealisによって開発され(BORSTAR(登録商標)技術として知られている)、例えば特許文献、例えばEP 0 887 379、WO 92/12182、WO 2004/000899、WO 2004/111095、WO 99/24478、WO 99/24479、WO 00/68315に記載されている「ループ−気相」プロセスである。好適な方法はまた、EP 3 015 503、EP 3 015 504、WO2016/066453に記載されている。
【0065】
好ましくは、本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)を製造するために、スラリー反応器、例えばループ反応器、例えば第1の、および任意に第2の反応器についての条件は、以下の通りであり得る:
− 温度は、50℃〜110℃、好ましくは60℃〜100℃、より好ましくは65℃〜95℃の範囲内であり、
− 圧力は、20bar〜80bar、好ましくは40bar〜70barの範囲内であり、
− 水素を、モル質量を制御するために公知の方式においてそれ自体で加えることができる。
【0066】
好ましくは、本発明によるポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)を製造するために、気相反応器(GPR)、例えば第2および/または第3および第4の反応器(存在する場合)についての条件は、以下の通りである:
− 温度は、50℃〜130℃、好ましくは60℃〜100℃の範囲内であり、
− 圧力は、5bar〜50bar、好ましくは10bar〜35barの範囲内であり、
− 水素を、モル質量を制御するために公知の方式においてそれ自体で加えることができる。
【0067】
滞留時間を、個々の反応器において変化させることができる。
【0068】
成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)を製造する方法の1つの実施形態において、スラリー(バルク)反応器、例えばループ反応器中での滞留時間は、0.1〜3.5時間、例えば0.15〜3.0時間の範囲内であり、気相反応器中での滞留時間は、一般に0.2〜6.0時間、例えば0.3〜5.0時間である。
【0069】
所望により、重合を、公知の方式において、超臨界条件下で、第1の、および任意に第2の反応器において、すなわちスラリー反応器、例えばループ反応器中で、および/または気相反応器における凝縮モードとして行ってもよい。
【0070】
本発明によれば、本発明のポリプロピレン組成物中に含まれる成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)を、チーグラー・ナッタ触媒(ZN−C)の存在下で製造した。
【0071】
したがって、好ましくは、異相ポリプロピレン(HECO)の製造方法はまた、チーグラー・ナッタ前駆触媒、外部供与体および任意に共触媒を含む触媒系での前重合を含む。
【0072】
好ましい実施形態において、前重合を、液体プロピレン中でのバルクスラリー重合として行い、すなわち液相は、主にプロピレンを含み、それと共に少量の他の反応物および任意に不活性成分がその中に溶解している。前重合反応を、典型的には10〜60℃、好ましくは15〜50℃、およびより好ましくは15〜35℃の温度で行う。前重合反応器中の圧力は臨界的ではないが、反応混合物を液相に維持するために十分に高くなければならない。したがって、圧力は、20〜100bar、例えば30〜70barであり得る。
【0073】
触媒成分を、好ましくは、すべて前重合ステップに導入する。しかしながら、固体触媒成分および共触媒を別個に供給することができる場合には、共触媒の一部のみを前重合ステージ中に導入し、残りの部分をその後の重合ステージ中に導入することが、可能である。他の成分をまた前重合ステージに添加することが、可能である。したがって、当該分野において知られているように、水素を前重合段階中に添加して、プレポリマーの分子量を制御してもよい。さらに、帯電防止添加剤を使用して、粒子が互いに、または反応器の壁に付着するのを防止してもよい。
【0074】
前重合条件および反応パラメーターの正確な制御は、当業者の技術内である。
【0075】
成分(B)エラストマー
任意に、本発明のポリプロピレン組成物は、1種以上のエラストマーを、最終的なポリプロピレン組成物(成分B)の総重量に基づいて15重量%までの量において、好ましくは5重量%〜15重量%の量において、尚より好ましくは10重量%〜15重量%の量において含む。
【0076】
エラストマーを、通常、所望の機械的特性を達成するためにポリマー組成物に添加し;通常、添加を、個々の成分の配合の間に行う。したがって、本発明のポリプロピレン組成物中の成分(B)のエラストマーを、別個に製造する。
【0077】
好ましくは、本発明のポリプロピレン組成物中の成分(B)のエラストマー(単数または複数)は、4〜12個の炭素原子を有する、より好ましくは4〜8個の炭素原子を有する高級α−オレフィンとのエチレン−高級α−オレフィンエラストマーである。したがって、エチレン−1−ブテンないしエチレン−1−オクテンコポリマーは、本発明における成分(B)のエラストマー(単数または複数)として好ましい。あるいはまた、エチレンプロピレンゴム(EPR)またはエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)を、本発明における成分(B)のエラストマー(単数または複数)として使用することができる。可能なエラストマーの例は、Borealisによって流通しているQueo(登録商標)グレードまたはDowからのEngage(登録商標)生成物である。
【0078】
好ましい態様において、本発明のポリプロピレン組成物中の成分(B)のエラストマー(単数または複数)の密度は、935kg/mより低く、好ましくは当該密度は、850〜900kg/mの範囲内、より好ましくは860〜880kg/mの範囲内、例えば約870kg/mである。成分(B)のエラストマー(単数または複数)の密度が過度に高くないこと、したがって935kg/mより低いことが重要であり、さもなければ最終的なポリマー組成物は、過度に脆くなる。密度を、ISO 1183−1に従って測定する。試料の製造を、ISO 1872−2(圧縮成形)に従って行った。
【0079】
エラストマーを、通常、ポリマー組成物に、それを成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)中に、当該分野において公知の任意の好適な方法によって、例えば成分(B)のエラストマー(単数または複数)を他の成分と直接、例えば押出機中で、同一の押出機を使用して完成品を製造するようにブレンドすることによって、または別のミキサーもしくは押出機中で前溶融混合することによって配合することによって添加する。混合のために、従来の配合またはブレンド装置、例えばBanburyミキサー、2ロールゴムミル、Buss共同ニーダーまたは二軸押出機を、使用してもよい。
【0080】
成分(C)充填剤、添加剤
本発明によるポリプロピレン組成物は、最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて5〜20重量%の少なくとも1種の充填剤を含有する。
【0081】
充填剤に関して、任意の無機充填剤を、本発明において使用することができる。しかしながら、無機充填剤がフィロケイ酸塩、雲母または珪灰石であることが、好ましい。尚より好ましくは、無機充填剤を、雲母、珪灰石、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイトおよびタルクからなる群から選択する。最も好ましい無機充填剤は、タルクである。好ましくは、無機充填剤は、10μmに等しいかまたはそれより小さい、より好ましくは5.0μmより小さい、例えば3.0μmより小さい中央の粒径d50[質量パーセント]を有する。無機充填剤は、好ましくは20.0μmに等しいかまたはそれより小さい、より好ましくは10.0μmより小さい、例えば8.0μmより小さい切断粒径d95[質量%]を有する。典型的には、無機充填剤は、50m/g未満、より好ましくは30m/g未満、尚より好ましくは25m/g未満の表面積を有する。これらの要件を満たす無機充填剤は、好ましくは異方性無機充填剤、例えばタルク、雲母および珪灰石である。
【0082】
好ましい選択肢において、本発明によるポリプロピレン組成物は、さらに、最終的なポリプロピレン組成物の総重量に基づいて5重量%までの添加剤および任意に5重量%までのカラーマスターバッチを含んでいる。
【0083】
可能な添加剤は、例えばスリップ剤、核形成剤、酸化防止剤、UV安定剤、潤滑剤、ケイ素マスターバッチなどである。好適なスリップ剤は、例えば不飽和脂肪酸アミドであるものである。脂肪酸の炭素原子の量は、好ましくは10〜25の範囲内である。好ましいスリップ剤は、(Z)−ドコス−13−エナミド(エルカミド)、CAS No.112−84−5であり、商品名は、以下のとおりである:CrodaからのCrodamide ER−BE−(HU)。
【0084】
好適な添加剤および充填剤は、当該分野において周知であり、例えば”Additives for Plastics”Handbook,J.Murphy,Elsevier、第2版、2001中に見出すことができる。添加剤を、純粋な剤として、またはマスターバッチ、例えばケイ素マスターバッチとして添加することができる。当該方法もまた、当該分野において周知である。
【0085】
さらなる局面において、本発明は、本発明によるポリプロピレン組成物の、押出成形した、中空成形した、または射出成形した物品、例えば小物袋および袋、パイプおよび付属品、輸送包装容器、ならびに自動車の外部および内部のための構成要素、例えばダッシュボード、ドア被覆材、コンソール、バンパーおよびトリム、ならびに製造した物品の製造のための使用に関する。好ましくは、ポリプロピレン組成物を、自動車用物品、例えば成形した自動車用物品、例えば自動車用射出成形物品の製造のために使用する。
【0086】
尚さらなる局面において、本発明は、本発明のポリプロピレン組成物を含む物品に関し、当該物品は、自動車内装物品である。
【0087】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明のポリプロピレン組成物を含む自動車内装物品は、ダッシュボード、計器盤、ドア被覆材、アームレスト、ギア転換装置、シフトレバーノブ、マット、内装スキン、トランク被覆材、または内装トリムである。
【0088】
好ましい実施形態において、物品、例えば上述の自動車内装物品は、本発明のポリプロピレン組成物を、少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも95重量%含んでおり、最も好ましくは本発明のポリプロピレン組成物からなっている。
【0089】
本発明のポリプロピレン組成物は、良好な低温衝撃/剛性値、低いVOCおよびFOG値、良好な耐引っかき性および顕著な良好なかぶり値の極めて良好に均衡した組み合わせを示すので、当該組成物は、例えばそれらの多数の要件を伴う自動車内装用途に特に適している。良好な特性が広いMFR範囲にわたって達成可能であるという事実により、物品を製造するために多種多様なマトリックス材料を使用することがさらに可能であり、したがって様々な適用分野を網羅する。
【0090】
以下において、本発明を、実施例によってさらに例示し、それらに限定されるものではない。
【実施例】
【0091】
用語および決定方法の以下の定義は、別段定義しない限り、本発明の上記の一般的な説明ならびに以下の実施例に該当する。
【0092】
1.測定法
キシレン低温可溶性画分(XCS、重量%):キシレンに可溶なポリマーの量を、25℃でISO 16152;第5版;2005−07−01に従って決定する。
【0093】
NMR分光法によるHECOの分散相のコモノマー含有量:
定量的核磁気共鳴(NMR)分光法をさらに用いて、ポリマーのコモノマー含有量およびコモノマー配列分布を定量した。定量的13C{H}NMRスペクトルを、溶液状態において、それぞれHおよび13Cについて400.15および100.62MHzで作動するBruker Advance III 400 NMR分光計を使用して記録した。すべてのスペクトルを、すべての空気圧について窒素ガスを用いて125℃で13C最適化10mm拡張温度プローブヘッドを用いて記録した。約200mgの材料を、3mlの1,2−テトラクロロエタン−d(TCE−d)に、クロム−(III)−アセチルアセトネート(Cr(acac))と共に溶解し、溶媒中の緩和剤の65mM溶液を得た(Singh,G.,Kothari,A.,Gupta,V.,Polymer Testing 28 5(2009),475)。均質な溶液を確実にするために、加熱ブロック中での最初の試料製造の後、NMR管を、回転オーブン中で少なくとも1時間さらに加熱した。磁石中に挿入した際に、管を、10Hzで回転させた。この設定を、主として高分解能のために選択し、正確なエチレン含有量定量のために定量的に必要であった。標準的な単一パルス励起を、NOEなしで、最適化された先端角度、1秒のリサイクル遅れおよび2レベルのWALTZ16デカップリングスキーム(Zhou,Z.,Kuemmerle,R.,Qiu,X.,Redwine,D.,Cong,R.,Taha,A.,Baugh,D.Winniford,B.,J.Mag.Reson.187(2007)225;Busico,V.,Carbonniere,P.,Cipullo,R.,Pellecchia,R.,Severn,J.,Talarico,G.,Macromol.Rapid Commun.2007,28,5 1 128)を用いて使用した。合計6144(6k)の過渡信号が、スペクトルあたり得られた。
【0094】
定量的13C{H}NMRスペクトルを加工し、積分し、関連する定量的特性を積分から、独占所有権のあるコンピュータプログラムを用いて決定した。すべての化学シフトを、エチレンブロック(EEE)の中央のメチレン基に対して、30.00ppmで、溶媒の化学シフトを用いて間接的に参照した。このアプローチによって、この構造単位が存在しない場合でさえも比較可能な参照が可能になった。エチレンの包含に対応する特徴的なシグナルが、観察された。Cheng,H.N.,Macromolecules 17(1984),1950)
【0095】
2,1に対応する特徴的なシグナルで、エリトロ領域欠陥が観察され(L.Resconi,L.Cavallo,A.Fait,F.Piemontesi,Chem.Rev.2000,100(4),1253、Cheng,H.N.,Macromolecules 1984,17,1950、ならびにW−J.WangおよびS.Zhu,Macromolecules 2000,33 1 157に記載されているように)、決定した特性に対する領域欠陥の影響についての補正が必要であった。他のタイプの領域欠陥に対応する特徴的なシグナルは、観察されなかった。
【0096】
コモノマー画分を、Wang et.al.(Wang,W−J.,Zhu,S.,Macromolecules 33(2000),1 157)の方法を用いて、13C{H}スペクトルの全スペクトル領域にわたる複数のシグナルの積分を通して定量した。この方法を、その頑強な性質および必要な場合には領域欠陥の存在を説明する能力について選択した。積分領域をわずかに調整して、適用性を遭遇したコモノマー含有量の全範囲にわたって増加させた。
【0097】
PPEPP配列中の単離したエチレンのみが観察された系について、Wang et.al.の方法を、存在しないことが知られている部位の非ゼロ積分の影響を低減するように修正した。このアプローチによって、かかる系のエチレン含有量の過大評価が低減され、絶対エチレン含有量を決定するために使用する部位の数の以下への換算によって達成された:
E=0.5(Sββ+Sβγ+Sβδ+0.5(Sαβ+Sαγ))
【0098】
この部位の組の使用により、対応する積分方程式は、Wang et.al.の記事(Wang,W−J.,Zhu,S.,Macromolecules 33(2000),1 157)において使用するのと同一の表記法を使用して、以下のようになる:E=0.5(I+I+0.5(l+I))。絶対的なプロピレン含有量のために使用した方程式は、修正しなかった。
【0099】
モルパーセントコモノマー包含を、モル分率から計算した:E[mol%]=100*fE
【0100】
重量パーセントコモノマー包含を、モル分率から計算した:
E[wt%]=100(fE28.06)/((fE28.06)+((1−fE)42.08))
【0101】
三つ組レベルでのコモノマー配列分布を、Kakugo et al.の分析方法(Kakugo,M.,Naito,Y.,Mizunuma,K.,Miyatake,T.Macromolecules 15(1982)1150)を用いて決定した。この方法を、コモノマー含有量のより広い範囲への適用性を増加させるようにわずかに調整したその頑強な性質および積分領域について選択した。
【0102】
MFRPP、MFRComp、MFRMatrix(230℃;2.16kg):溶融流れ割合を、MFRPP(HECO)それぞれMFRComp(組成)およびMFRMatrix(マトリックス)として、230℃およびポリプロピレンについての2.16kgの荷重で、ISO 1133に従って測定する。MFRは、ポリマーの流動性、したがって加工性の指標である。溶融流れ割合が高くなるに伴って、ポリマーの粘度は低くなる。
【0103】
密度(エラストマー):エラストマーの密度を、ISO 1183−1に従って測定する。試料製造を、ISO 1872−2(圧縮成形)に従って行う。
【0104】
HECOの分散相の固有粘度(IV):例えばXCS画分のIV値を、135℃でデカリン中で、DIN ISO 1628/1、1999年10月に従って測定する。IV値は、ポリマーの分子量に伴って増加する。
【0105】
シャルピー切り欠き衝撃強度:シャルピー切り欠き衝撃を、ISO 179/1eAに従って+23℃および−20℃で、ISO 1873に従って製造した射出成形試験片(80×10×4mm)を使用して測定する。
【0106】
引張弾性率、引張強度、引張強度における引張ひずみ、破断点伸び:引張特性を、射出成形試験片、タイプ1Bに関して、ISO 527−1および2に従って決定する。射出成形を、ISO1873に従って行う。
【0107】
引っかき抵抗:引っかき可視性を決定するために、Erichsenによって製造されたCross Hatch Cutter Model 420Pを、使用した。試験のために、70×70×4mmサイズのプラークを、140×200×4mmのサイズの成形した顆粒化したプラークから切り出した(顆粒パラメーター:平均粒径=1mm、顆粒深さ=0.12mm、コニシティ=6°)。試験片の射出成形と引っかき試験との間の期間は、7日であった。
【0108】
試験のために、試験片を、上記のように好適な装置中に固定しなければならない。引っかき傷を、10Nの力で、ボール形状の端部(半径=0.5mm±0.01)を有する円筒形金属ペンを使用して付した。1000mm/分の切断速度を、使用した。
【0109】
互いに平行な最小20個の引っかき傷を、10Nの荷重で、2mmの距離で付した。引っかきの適用を、互いに垂直に繰り返し、その結果引っかきスクリーンが得られた。引っかき方向は、一方向でなければならない。
【0110】
引っかき可視性を、引っかいていない領域と引っかいた領域の輝度の差異ΔLとして報告する。ΔL値を、DIN 5033に対する要件を満たす分光光度計を用いて測定した。
【0111】
試験方法(Erichsenクロスハッチカッター法)の詳細な試験説明を、Thomas KochおよびDoris Machlによる記事”Evaluation of scratch resistance in multiphase PP blends”、Polymer Testing刊行、26(2007),p.927−936中に見出すことができる。
【0112】
VOC:これを、ペレットからVDA 278:2002に従って決定する。VDA278によるVOCは、すべての高い、および中程度の揮発性化合物の合計である。それを、トルエン当量(TE)として計算する。VDA278によるVOCは、C20(n−エイコサン)までの沸点および溶出範囲におけるすべての有機化合物を表す。
【0113】
FOG:これを、ペレットからVDA 278:2002に従って決定する。VDA278によるFOGは、n−ヘキサデカンより大きいかまたはそれに等しい溶出時間を有する低揮発性のすべての有機化合物の合計である。FOGを、ヘキサデカン当量(HD)として計算する。VDA278によるFOGは、n−アルカンC16〜C32の沸点範囲の有機化合物を表す。
【0114】
VDA規格は、”Verband der Automobilindustrie”によって公表されている。本明細書中で使用するVDA規格は、”Dokumentation Kraftfahrwesen (DKF);Ulrichstrasse 14,D−74321 Bietigheim−Bissingen,Germanyから入手できるか、またはそれらのウェブサイト(www.dkf−ev.de)からダウンロードすることができる。
【0115】
かぶり:かぶりを、射出成形した板から切り出した圧縮成形した試験片(直径80mm+/1mm、厚さ2mm)に関して、ISO 75201、方法Bに従って測定する。かぶりは、車両のトリム材料の揮発性物質の蒸発を意味する。この方法は、有機成分の揮発性を、重量測定的測定によって評価する。試料を、室温で24時間、デシケーター中でシリカゲルを用いて乾燥させた。試験を、100℃で行った。ビーカーを、タールを塗布したアルミニウム箔(直径103mm、厚さ0.03mm)およびガラス板および冷却板を上部上で用いることによって閉じなければならない。試験時間(100℃で16時間)後、ガラス板を取り除かなければならず(この方法ではもはや有用ではない)、アルミニウム箔を取り除き、重量を加えて戻す。重量かぶり値「G」(%)を、以下の等式によって決定するものとする。
G=かぶり試験後のアルミニウム箔の重量−アルミニウム箔の風袋、mgにおける
Gsample=各試料について使用した2枚の箔のmg単位における平均。
【0116】
2.実施例
本発明の実施例IE1〜IE4の成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)の製造のために、Lyondell Basell触媒Avant ZN180Mを使用した。重合を、前重合反応器、2つのループ反応器(R1、R2)および気相反応器(GPR)を含むSpheripolプラント中で行った。重合条件を、表1に示す。
【0117】
表1:本発明の実施例IE1〜IE4の異相ポリプロピレン(HECO)の重合
【表1】
【0118】
比較例CE1およびCE2の成分(A)の異相ポリプロピレン(HECO)の製造のために、EP 591 224もしくはEP 586 390に記載されているような、またはEP 491 566による好ましいもののような触媒を、使用した。重合を、前重合反応器、2つのループ反応器(R1、R2)および気相反応器(GPR)を含むSpheripolプラント中で行った。
【0119】
重合条件を、表2に示す。
【0120】
表2:比較例CE1およびCE2の異相ポリプロピレン(HECO)の重合
【表2】
【0121】
表1および表2から、それぞれ本発明の実施例IE4(HECO IE4)および比較例CE2(HECO CE2)の本発明の実施例IE1(HECO IE1)および比較例CE1(HECO CE1)の異相ポリプロピレンを、異なる触媒を使用した以外は同一の重合条件で製造したことが、明らかである。
【0122】
成分(A)のそれぞれの異相ポリプロピレン(HECO)、充填剤成分(C)としてのタルク、および任意にエラストマー成分(B)、添加剤およびカラーマスターバッチを、本発明のポリプロピレン組成物IE1、IE2、IE3、IE4、それぞれ比較のポリプロピレン組成物CE1、CE2を得るために溶融ブレンドすることによって、最終的なポリプロピレン組成物を製造した。配合を、タルク分散のために推奨される標準的なスクリュー設計を有する共回転二軸押出機中で行った。
【0123】
本発明の実施例IE1〜IE4ならびに比較例CE1およびCE2の最終的なポリマー組成物の個々の成分の量ならびに機械的およびEFO特性を、表3に列挙する。
【0124】
表3:本発明の実施例IE1〜IE4および比較例CE1、CE2のポリプロピレン組成物の特性
【表3】
【0125】
タルク充填剤として、Imerysの商業的な製品Steamic T1 CAおよびJetfine 3CAを、使用した。
エラストマーとして、DOW Chemicalsからの商業的な製品Engage 8200(密度=0.87g/cm、MFR(190℃;2.16kg)=5g/10分)を、使用した。
SongwonからのSongnox 1010およびHPL Additives limitedからのKinox 68G(トリス(2,4−ジ−tert.ブチルフェニル)ホスファイト)を、酸化防止剤として使用した。
NA11UHは、Adeka Palmaroleからの核形成剤である。
Crodamide ERは、Crodaからのスリップ剤である。
SaboからのSabostab UV119およびHPL Additives limitedからのHilite 77G(セバシン酸の2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルエステル)を、UV安定剤として使用した。
カラーマスターバッチとして、Cabot PlasticsからのPlasblak PE4103を、使用した。
【0126】
表3から、本発明の組成物IE1および比較組成物CE1、それぞれ本発明の組成物IE4および比較組成物CE2は、主として、相応する異相ポリプロピレン(HECO)の重合中に使用した触媒に関して異なることが、明らかである。表1、2を参照。したがって、IE1およびCE1、それぞれIE4およびCE2を、それらの特性に関して直接比較することができる。したがって、表3から、本発明の組成物IE1およびIE4は、比較組成物CE1およびCE2よりも改善されたかぶり値を有し、一方良好な衝撃/剛性均衡を低い耐引っかき性ならびに良好なVOCおよびFOG値と共に維持することが、明らかである。
【0127】
さらに、本発明の組成物IE1〜IE4は、不等式(1)を満たし、それは、改善されたかぶり性能が広いMFR範囲にわたって達成されることを意味する。このことは、また図1から明らかであり、それは、本発明のポリプロピレン組成物および比較例の組成物の両方のMFRCompに対するかぶり値を示す。本発明の組成物IE1〜IE4のかぶり値は、図1の線上または下方にあり、したがって不等式(1)を満たす一方、比較例CE1およびCE2の値は、線の上方にあり、したがって不等式(1)を満たさない。
【0128】
図1:本発明の実施例IE1〜IE4ならびに比較例CE1およびCE2のポリプロピレン組成物のかぶり(重量測定的)対MFRComp(230;2.16)
【表4】