(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774157
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
B62D25/08 C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-232857(P2016-232857)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-90008(P2018-90008A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】松田 久義
(72)【発明者】
【氏名】鏡 友則
(72)【発明者】
【氏名】平谷 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 保和
(72)【発明者】
【氏名】柳井 雅文
(72)【発明者】
【氏名】吉積 将
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−227153(JP,A)
【文献】
特開2014−141121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00 − 25/08
B62D 25/14 − 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネルに取り付けられたブレーキブースタと、
このブレーキブースタの車両前方側に位置するサスペンションタワーと、
このサスペンションタワーの車両前方側に位置する剛体部品と、
を備えており、
前記サスペンションタワー、および前記剛体部品は、車両前部において車両前後方向に延びるフロントサイドメンバに沿うように配置されている、車両前部構造であって、
車両前方からの荷重入力により、前記剛体部品が車両後方側へ後退する際に、前記剛体部品を前記サスペンションタワーから車幅方向において遠ざける方向に移動ガイドするガイド部材を、さらに備えており、
前記ガイド部材は、前記剛体部品を支持するブラケットに設けられ、かつ前記剛体部品の車幅方向外方側に位置するようにして上向きに起立したプレート状の突起として構成されているとともに、平面視において、前記ガイド部材の車両後方側領域に相当する先端寄り領域は、車両後方側ほど車幅方向内方側に位置するように傾斜して前記剛体部品よりも車両後方側に突出し、前記移動ガイドが可能な傾斜部とされており、
前記ガイド部材のうち、前記傾斜部よりも下方側に位置する基端部は、前記ガイド部材の他の部分と比較して幅狭な脆弱部として構成されていることを特徴とする、車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部構造の具体例として、特許文献1に記載の構造がある。
同文献に記載の構造においては、車両前部のエンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルに取り付けられたブレーキブースタの車両前方側に、サスペンションタワーが配されている。また、このサスペンションタワーのさらに車両前方側には、ブレーキブースタの内部の負圧を高めるための電動負圧ポンプを備えた油圧制御ユニットが配されている。これらブレーキブースタ、サスペンションタワー、および油圧制御ユニットは、フロントサイドメンバに沿って並んだ配置となっている。
特許文献1においては、油圧制御ユニットに接続された油圧配管に工夫が施され、車両の前突時にフロントサイドメンバが変形したとしても、この変形に起因して前記油圧配管が簡単には損傷しないように構成されており、油圧配管の損傷に起因してブレーキの正常な機能をできる限り維持できるようにされている。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地があった。
【0004】
すなわち、車両の前突に起因して車両前部がクラッシュする場合、ブレーキブースタが車室内側に押し込まれる現象は、乗員保護の観点から極力回避する必要がある。
これに対し、前記従来技術においては、ブレーキブースタ、サスペンションタワー、および油圧制御ユニットの三者は、フロントサイドメンバに沿った配置にある。このため、車両前突時に車両前部がクラッシュする際には、油圧制御ユニットとブレーキブースタとの間にサスペンションタワーが挟まれる。このような事態を生じたのでは、油圧制御ユニットが車両前突時に受けた荷重は、サスペンションタワーを介してブレーキブースタに入力し易い。すなわち、車両の前突時の荷重入力によって油圧制御ユニットが後退すると、サスペンションタワーが車両後方側に押される。すると、このサスペンションタワーがブレーキブースタを車両後方側にさらに押す。これでは、ブレーキブースタが後退し易くなる。
また、フロントサイドメンバの前部には、たとえばラジエータサポートが取り付けられているのが一般的であり、車両の前突時においてフロントサイドメンバなどの車両前部の車体部材がクラッシュする際には、前記ラジエータサポートが油圧制御ユニットに当たる虞がある。ところが、前記従来技術においては、前記したクラッシュ時に、油圧制御ユニットがラジエータサポートとサスペンションタワーとの間に挟まれる。したがって、そのような状態となる分だけ、フロントサイドメンバなどの車体部材のクラッシュストロークは短くなってしまう。このようなことは、ブレーキブースタの後退量を少なくする上で好ましいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−227153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、車両の前突時にブレーキブースタが車室内に押し込まれる現象を、簡易な手段によって適切に防止することが
可能な車両前部構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供される車両前部構造は、ダッシュパネルに取り付けられたブレーキブースタと、このブレーキブースタの車両前方側に位置するサスペンションタワーと、このサスペンションタワーの車両前方側に位置する剛体部品と、を備えており、前
記サスペンションタワー、および前記剛体部品は、車両前部において車両前後方向に延びるフロントサイドメンバに沿うように配置されている、車両前部構造であって、車両前方からの荷重入力により、前記剛体部品が車両後方側へ後退する際に、前記剛体部品を前記サスペンションタワーから車幅方向
において遠ざける方向に移動ガイドするガイド部材を、さらに備えて
おり、前記ガイド部材は、前記剛体部品を支持するブラケットに設けられ、かつ前記剛体部品の車幅方向外方側に位置するようにして上向きに起立したプレート状の突起として構成されているとともに、平面視において、前記ガイド部材の車両後方側領域に相当する先端寄り領域は、車両後方側ほど車幅方向内方側に位置するように傾斜して前記剛体部品よりも車両後方側に突出し、前記移動ガイドが可能な傾斜部とされており、前記ガイド部材のうち、前記傾斜部よりも下方側に位置する基端部は、前記ガイド部材の他の部分と比較して幅狭な脆弱部として構成されていることを特徴としている。
ここで、前記の「剛体部品」とは、車両の前突が発生し、車両後方側に後退した際にサスペンションタワーを圧縮変形させ得る程の剛性をもつ部品である。たとえば、前記従来技術で述べたような、ブレーキブースタの内部の負圧を高めるための電動負圧ポンプを備えた油圧制御ユニットの他、電動負圧ポンプに代えて、または加えて、ABS(Antilock Brake System)や、VSC(Vehicle Stability Control)用の油圧制御機器などを備えたような油圧制御ユニットが該当する他、バッテリなども該当する。
【0009】
本発明によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、車両の前方衝突が発生し、この前方衝突時の荷重入力に起因して剛体部品が車両後方側に後退する現象が生じた場合に、この剛体部品がサスペンションタワーを車両後方側に直接強く押すことは、前記ガイド部材による移動ガイド作用によって回避される。したがって、剛体部品が受けた荷重が、サスペンションタワーを介してブレーキブースタに入力する現象を適切に防止することが可能となる。また、車両前部に設けられているラジエータサポートなどの部材が剛体部品を車両後方に押す現象を生じた場合に、この剛体部品が前記部材とサスペンションタワーとの間に挟まれるようなことも解消される。このため、車両前部のクラッシュストロークを従来技術よりも長くとることが可能となる。このようなことから、本発明によれば、車両の前突時に、ブレーキブースタが車室内側に押し込まれることを適切に防止または抑制することが可能となる。
本発明においては、剛体部品を移動ガイドするためのガイド部材を設けているが、このガイド部材については、構成を簡易なものとすることができ、製造コストの上昇や重量の増大を適切に抑制することも可能である。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る車両前部構造の一例の概略構成を示す要部斜視図である。
【
図3】(a),(b)は、
図2に示す構造の作用説明図である。
【
図4】(a)は、
図1および
図2に示す構造の油圧制御ユニットの取付け箇所の要部平面図であり、(b)は、(a)の要部分解平面図である。
【
図5】(a)は、
図1および
図2に示す構造の油圧制御ユニットの取付け箇所の要部側面図であり、(b)は、(a)の要部分解側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1および
図2に示す車両前部構造Aは、エンジンルーム1と車室2とを区画するダッシュパネル3に取り付けられたブレーキブースタ4、このブレーキブースタ4よりも車両前方側に位置するようにしてエンジンルーム1内に設けられ、かつフロントサスペンションのストラットなどを支持するためのサスペンションタワー5、およびこのサスペンションタワー5よりも車両前方側に位置する油圧制御ユニット6を備えている。油圧制御ユニット6は、本発明でいう剛体部品の一例に該当し、ブレーキブースタ4の内部の負圧を高めるための電動負圧ポンプ(不図示)や、ABS、VSC用の油圧制御機器などを備え、かつこれらをユニット化したものである(単に「アクチュエータ」と称される場合もある)。
【0014】
前記したブレーキブースタ4、サスペンションタワー5、および油圧制御ユニット6は、フロントサイドメンバ7に沿うようにして設けられており、これらは車幅方向および上下高さ方向において、互いにオーパラップしている。フロントサイドメンバ7は、車両前部の車幅方向外方側に位置して車両前後方向に延びる部材であり、その前端部側には、ラジエータサポート(その全体図は不図示)の縦柱部70が接合されている。
【0015】
油圧制御ユニット6は、ブラケット8を利用してその取り付け固定が図られているが、このブラケット8には、車両前突時において油圧制御ユニット6の移動ガイドを行なうためのガイド部材80が一体的に連設されている。
より具体的には、
図1に示すように、ブラケット8は、複数の取付け片部81a,81bを有しており、これらを介してフロントサイドメンバ7やサスペンションタワー5の下部側壁部5aなどへの固定が図られている。ブラケット8の上部は、
図4および
図5に示すような構成であり、油圧制御ユニット6を載置支持するための支持板部82、油圧制御ユニット6とブラケット8とをボルト83などを介して固定連結するための固定連結用片84a,84bなどを備えている。
【0016】
ガイド部材80は、ブラケット8の支持板部82から上向きに起立したプレート状の突起として形成されており、油圧制御ユニット6よりも車幅方向外方に位置し、かつその先端部は、油圧制御ユニット6よりも車両後方側に突出するように形成されている。
図4に示す平面視において、このガイド部材80の先端寄り領域は、車両後方側の部分ほど車幅方向内方側に位置するように適当な角度θで傾斜した傾斜部80aとされている。好ましくは、傾斜部80aの先端には、適当な曲率半径Rの丸み付けがなされている。
【0017】
図5(b)によく現われているように、ガイド部材80の基端部80bは、他の部分と比較して幅Wが狭い幅狭領域とされており、ガイド部材80に所定以上の荷重が作用した際には、基端部80bの位置が破断し、ガイド部材80がブラケット8から分離するように構成されている。基端部80bは、ガイド部材80の脆弱部に相当する。
【0018】
図2に示すように、ガイド部材80は、油圧制御ユニット6とサスペンションタワー5との相互間に介在するように位置している。好ましくは、ガイド部材80の傾斜部80aの先端は、サスペンションタワー5の車幅方向内方側に位置するように設定される。
【0019】
次に、前記した車両前部構造の作用について説明する。
【0020】
まず、車両の前突が発生し、
図3(a)に示すように、車両前方から荷重Fの入力があると、ラジエータサポートなどが車両後方側に押動され、フロントサイドメンバ7が圧縮変形する。これに伴い、油圧制御ユニット6およびそのブラケット8も車両後方側に後退し、ガイド部材80の傾斜部80aがサスペンションタワー5の角部などに圧接する。すると、ガイド部材80は、脆弱部とされた基端部80bが分断することによりブラケット8から分離する一方、油圧制御ユニット6は、ガイド部材80が分離した状態のブラケッ
ト8とともになおも後退する。
【0021】
ただし、前記の際には、油圧制御ユニット6はガイド部材80と当接することにより、
図3(b)の矢印Naで示すように、車幅方向内方側に移動ガイドされ、油圧制御ユニット6とサスペンションタワー5とは、車幅方向においてオーバラップしないこととなる。その結果、油圧制御ユニット6がサスペンションタワー5に強く当接してこのサスペンションタワー5を圧縮変形させるようなことは適切に回避される。その結果、サスペンションタワー5が油圧制御ユニット6よって後方へ押されることに起因して、ブレーキブースタ4がさらに後方に押されて車室2内側に押し込まれることは適切に解消される。また、ラジエータサポートの縦柱部70などとサスペンションタワー5との間に、油圧制御ユニット6が挟まれるようなことも回避できるため、フロントサイドメンバ7などの車両前部の車体構成部材のクラッシュストロークを長くとることも可能となる。したがって、ブレーキブースタ4が車室2内に押し込まれることを防止する上で、より好ましいものとなる。
【0022】
既述したように、油圧制御ユニット6が後退する際には、ガイド部材80は、ブラケット8から分離し、油圧制御ユニット6に伴って車両後方側に大きく後退することは回避される。分離状態のガイド部材80については、油圧制御ユニット6が後退する際に、サスペンションタワー5の側面部に接触した状態に固定させておくことが可能であり、油圧制御ユニット6を車幅方向内方へ移動ガイドすることを確実化する作用が得られることとなる
。
【0023】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両前部構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0025】
本発明でいう剛体部品の定義および具体例については、先に述べたとおりであって、バッテリなども含む概念であり、その具体的な種類は限定されない。
【符号の説明】
【0026】
A 車両前部構造
3 ダッシュパネル
4 ブレーキブースタ
5 サスペンションタワー
6 油圧制御ユニット(剛体部品)
7 フロントサイドメンバ
80 ガイド部材