特許第6774158号(P6774158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6774158-アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774158
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   C01G33/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-253742(P2016-253742)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-104242(P2018-104242A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒田 武利
(72)【発明者】
【氏名】中村 正二郎
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−190115(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102180672(CN,A)
【文献】 特開2005−306641(JP,A)
【文献】 S.Onnom et al.,Characterization of LiNbO3 Powder Prepared by Citrate Gel Method,Advanced Materials Research,2008年,vol.55-57,pp.153-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を含有し、任意成分としてアンモニアを含有し、pHが7〜10の範囲であるアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルであって、
当該ゾルが、下記(a)又は(b)で規定された組成比を有するものである、アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル。
(a)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5〜2の範囲であり、かつ、
アンモニア/Nb2O5(モル比)が0である。
(b)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上であって、
アンモニア/Nb2O5(モル比)が0超0.5未満であり、かつ、
アルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5超2以下の範囲である。
【請求項2】
請求項1記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルであって、
当該ゾルのNb2O5濃度を15質量%、且つ、液温を25℃に設定したときに、
円錐平板形粘度計によって測定した当該ゾルの粘度が100mPa・s以下である、
アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル。
【請求項3】
アルカリ金属がリチウムである、請求項1又は2記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル。
【請求項4】
フッ酸、又はフッ酸と硫酸との混酸にニオブ化合物を溶解させたニオブ溶解液と、アルカリ金属を含有したアルカリ水溶液とを、pHが8以上を保持した状態で反応させてアルカリ金属安定型ニオブ酸の微粒子を含有する分散液を得る第一工程と、
第一工程で得られた分散液をろ過洗浄する第二工程と、
を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【請求項5】
ニオブ酸アンモニウムゾルをアルカリ金属の存在下において、加熱又は洗浄してアンモニアを除去する工程、
を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【請求項6】
無機酸を混合したニオブ酸アンモニウムゾルを洗浄してアンモニアを除去した後、アルカリ金属の存在下で加熱する工程、
を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミック原料、電子材料、表面処理剤等の分野において、高い屈折率及び誘電率を有する酸化ニオブに対する需要が高まっている。特に、オプトエレクトロニクス材料、半導体材料、表面保護剤、反射防止材、屈折率調整剤、触媒等の分野では、原料として粒子径が小さく、且つシャープな粒度分布を有するニオブ原料が要求され、種々のニオブ系ゾルが開発されてきた。
【0003】
本願出願人は、優れた自己結着性を示すニオブ系ゾルとして、特許文献1に記載のニオブ酸アンモニウムゾルに関する技術を開発した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5441264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のニオブ酸アンモニウムゾルは、屈折率調整剤、ハードコート剤等の用途に検討されてきた。近年、新たな用途展開として、例えば、電池用コーティング剤等の電池材料への適用について検討してきたが、ニオブ酸アンモニウムゾルを焼成したときに生成する酸化ニオブが電池材料に適したものとは言い難かった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、強力な固体酸であるニオブ酸がアンモニアによって安定化されたニオブ酸アンモニウムゾルにつき、これに代わる新たなニオブ酸ゾルの開発を検討した。
【0007】
その結果、意外にもアルカリ金属を含有させることによってニオブ酸アンモニウムゾル中のアンモニア含有量を低減することが可能であることを見出し、この知見を基にさらに検討した結果、所定量のアルカリ金属の適用によって安定なニオブ酸ゾルを得ることができた。また、当該ゾルを焼成したときに生成する化合物が酸化ニオブではなく、アルカリ金属とニオブを構成要素とする化合物であることを確認し、電池材料等の新たな用途に展開することが可能となった。そして、さらなるアンモニアの低減について検討した結果、アンモニア不含有タイプ、即ち、アルカリ成分としてアルカリ金属のみを含有した安定なニオブ酸ゾルを得ることができた。本発明では、上記アンモニア低減タイプとアンモニア不含有タイプをまとめて、アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルと称するものである。
【0008】
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]アルカリ金属を含有し、任意成分としてアンモニアを含有したアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルであって、当該ゾルが、下記(a)又は(b)で規定された組成比を有するものである、アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル。
(a)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5〜2の範囲であり、かつ、アンモニア/Nb2O5(モル比)が0である。
(b)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上であって、アンモニア/Nb2O5(モル比)が0超0.5未満であり、かつ、アルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5超2以下の範囲である。
[2]上記[1]記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルであって、当該ゾルのNb2O5濃度を15質量%、且つ、液温を25℃に設定したときに、円錐平板形粘度計によって測定した当該ゾルの粘度が100mPa・s以下である、アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル。
[3]アルカリ金属がリチウムである、上記[1]又は[2]記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル。
[4]フッ酸、又はフッ酸と硫酸との混酸にニオブ化合物を溶解させたニオブ溶解液と、アルカリ金属を含有したアルカリ水溶液とを、pHが8以上を保持した状態で反応させてアルカリ金属安定型ニオブ酸の微粒子を含有する分散液を得る第一工程と、第一工程で得られた分散液をろ過洗浄する第二工程と、を含む、上記[1]〜[3]のいずれか1項記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
[5]ニオブ酸アンモニウムゾルをアルカリ金属の存在下において、加熱又は洗浄してアンモニアを除去する工程、を含む、上記[1]〜[3]のいずれか1項記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
[6]無機酸を混合したニオブ酸アンモニウムゾルを洗浄してアンモニアを除去した後、アルカリ金属の存在下で加熱する工程、を含む、上記[1]〜[3]のいずれか1項記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1において得られたゾルの100℃乾燥、300℃焼成、500℃焼成のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル(以下「本発明のゾル」という。)について説明する。
【0011】
本発明のゾルは、アルカリ金属を含有し、任意成分としてアンモニアを含有し、当該ゾルが、下記(a)又は(b)で規定された組成比を有するものである。
(a)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5〜2の範囲であり、かつ、アンモニア/Nb2O5(モル比)が0である。
(b)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上であって、アンモニア/Nb2O5(モル比)が0超0.5未満であり、かつ、アルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5超2以下の範囲である。
ここで、(a)の場合は本発明のゾルにはアンモニアが全く含まれず、(b)の場合はアンモニアが含まれるものであり、これにより、アンモニアを任意成分とするものである。
また、本発明のゾルは、アンモニアの含有の有無にかかわらず、その発揮する性能にはほとんど差がみられない。
【0012】
本発明のゾルは、(a)の場合には{ニオブ酸とアルカリ金属の複合体}が、(b)の場合には{ニオブ酸とアルカリ金属の複合体}に加えて{ニオブ酸とアンモニアの複合体}が、分散粒子として存在すると云えるものである。ところで、本発明のゾル中において、(a)と(b)に共通して、アルカリ金属はイオンとして存在しているのではなく、ニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在しており、この存在形態が本発明のゾルの高度な安定化に寄与しているものと推定される。また、(b)の場合におけるアンモニアも同様にイオンとして存在しているのではなく、ニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在し、本発明のゾルの高度な安定化に寄与しているものと推定される。この推定の根拠として、本発明のゾルを分画分子量10000の限外ろ過膜(マイクローザUF:型式SLP-1053;旭化成(株)製)でろ過したときに得られる微粒子を分析したときの組成比((a)の場合はアルカリ金属/Nb2O5のモル比、(b)の場合はアルカリ金属/Nb2O5のモル比とアンモニア/Nb2O5のモル比)と、本発明のゾルを分析したときの組成比とが、ほぼ同じ値を示すことが挙げられる。
【0013】
本発明のゾルの組成比は、(a)の場合は、アルカリ金属/Nb2O5(モル比)=0.5〜2の範囲であり、アンモニアを含有しないため、アンモニア/Nb2O5(モル比)が0である。アルカリ金属/Nb2O5のモル比について、下限値は0.5以上であることにより、分散粒子としての粒子径が大きくなることによる沈降物の発生や白濁化等を防ぐことができる。一方、上限値は2以下であることにより、ニオブ酸が微粒子ではなく塩のような構造を形成することを防ぐことができる。このモル比の下限値と上限値の設定に関する説明は、(b)の場合におけるアルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5超2以下にも適用することができる。また、(a)と(b)に共通するのは、アルカリ金属/Nb2O5(モル比)の下限値を0.5としていることである。当該下限値以上のアルカリ金属の含有量によって、アルカリ金属によるニオブ酸微粒子の分散安定性が得られるものである。アルカリ金属/Nb2O5(モル比)の下限値は、0.7であることが好ましく、より好ましくは0.8である。また、(a)の場合におけるアルカリ金属/Nb2O5(モル比)の上限値と(b)の場合におけるアルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)の上限値は、それぞれ1.8であることが好ましく、より好ましくは1.5である。
【0014】
また、本発明のゾルの組成比のうち、(b)におけるアンモニア/Nb2O5(モル比)が0超0.5未満については、アンモニア含有量はできるだけ少ない方が望ましいという観点から、上限値は0.4であることが好ましく、より好ましくは0.3であり、さらにより好ましくは0.2である。
【0015】
アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム等が好例である。特に、導電性が求められる電池材料等を用途とする場合には、リチウムが好適である。
【0016】
本発明のゾルの好適な一特性は、本発明のゾルのNb2O5濃度を15質量%、且つ、液温を25℃に設定したときに、円錐平板形粘度計によって測定した当該ゾルの粘度が100mPa・s以下を示すことである。当該粘度特性は、例えば、本発明のゾルを塗布する用途において有用な特性と云えるものである。上記粘度は、50mPa・s以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明のゾル中の分散粒子の結晶形については、ゾルを100℃で乾燥させたときの乾燥粉をX線回折分析に供したときに、(a)と(b)のいずれの場合であっても結晶性のピークがほとんど確認されないことから、無定形と判断されるものである。なお、100℃での乾燥の方法は、乾燥粉が得られるのであれば特に限定されることはなく、通風乾燥、静置乾燥等の常法を用いればよい。また、本発明のゾルのpHについては、7〜10の範囲であることが好ましい。
【0018】
(製造方法)
本発明のゾルの好適な製造方法として、次の第一〜第三製法を例示することができる。
・第一製法は、フッ酸、又はフッ酸と硫酸との混酸にニオブ化合物を溶解させたニオブ溶解液と、アルカリ金属を含有したアルカリ水溶液とを、pHが8以上を保持した状態で反応させてアルカリ金属安定型ニオブ酸の微粒子を含有する分散液を得る第一工程と、第一工程で得られた分散液をろ過洗浄する第二工程と、を含むものである。
・第二製法は、ニオブ酸アンモニウムゾルをアルカリ金属の存在下において、加熱又は洗浄してアンモニアを除去する工程、を含むものである。
・第三製法は、無機酸を混合したニオブ酸アンモニウムゾルを洗浄してアンモニアを除去した後、アルカリ金属の存在下で加熱する工程、を含むものである。
【0019】
第一製法は、特にアンモニアを含有しないタイプの本発明のゾルに好適な製造方法であり、第二製法及び第三製法は、アンモニア低減タイプの本発明のゾルに好適な製造方法である。なお、特に断らない限り、原料を混合させる際には、通常の撹拌方法を用いればよい。
【0020】
(第一製法)
第一工程におけるニオブ溶解液の作製では、ニオブ化合物を溶解させる観点からフッ酸が最適であるが、これに硫酸を含有する混酸を用いても良い。用いる酸量は、ニオブ化合物中のNb2O5に対しHF/Nb2O5(モル比)=6〜12、H2SO4/Nb2O5(モル比)=0〜6が好ましく、より好ましくはHF/Nb2O5(モル比)=8〜10、H2SO4/Nb2O5(モル比)=0〜3であり、短時間に完全に溶解させるために必要に応じて加熱処理を行うこともできる。ニオブ化合物としては、例えば、酸化ニオブ、ニオブ酸等が挙げられる。また、本発明のゾルが得られる範囲内において、ニオブ化合物には、他の成分が含有されていても構わない。他の成分の一例としては、フッ酸、硫酸、アンモニア等が挙げられる。
【0021】
次に、ニオブ溶解液とアルカリ金属を含有したアルカリ水溶液(以下「アルカリ金属含有アルカリ水溶液」という。)とをpHが8以上を保持した状態で反応させてアルカリ金属安定型ニオブ酸の微粒子を含有する分散液(以下「微粒子分散液」という。)を得る。
【0022】
アルカリ金属含有アルカリ水溶液は、アルカリ金属をイオンとして含有し、水溶液がアルカリ性を示すものである。アルカリ金属含有アルカリ水溶液中のアルカリ成分としては、アルカリ金属の割合が100モル%であることが好ましいが、本発明のゾルが得られる範囲内であれば、アンモニアの含有を排除するものではない。アンモニアが含有される場合であっても、アルカリ成分中のアルカリ金属の割合は80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。アルカリ金属含有アルカリ水溶液の具体例として、アルカリ金属化合物を溶解させた水溶液が挙げられ、アルカリ金属化合物として、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。アルカリ金属含有アルカリ水溶液中のアルカリ金属の種類は1種だけであってもよいし、2種以上であっても構わない。このうち、特に、導電性が求められる電池材料等を用途とする場合には、アルカリ金属としてはリチウムが好ましい。
【0023】
微粒子分散液を得るためにニオブ溶解液とアルカリ金属含有アルカリ水溶液とをpHを常に8以上に保持した状態で反応させる理由は、ニオブ溶解液にアルカリ金属含有アルカリ水溶液を添加した場合や反応液のpHが8未満になった場合には、反応によって得られる微粒子中にフッ素が取り込まれたり、粒子径が増大したりすることによって、最終的に本発明のゾルを得られないことがあるためである。微粒子分散液を得るための好適な方法として、ニオブ溶解液をアルカリ金属含有アルカリ水溶液に添加する方法、ニオブ溶解液とアルカリ金属含有アルカリ水溶液を同時に添加する方法等を例示できる。
【0024】
ニオブ溶解液とアルカリ金属含有アルカリ水溶液の量比は、アルカリ金属含有アルカリ水溶液中のアルカリの総量がニオブ溶解液の酸量に対して、当量比で1〜2の範囲が好ましい。当量比が2を超える場合、過剰のアルカリ成分によって一部に溶解性のニオブ酸塩が生成するため、後段のろ過洗浄に長時間を要するばかりでなく、設計通りの濃度のゾルが得られ難い。一方、前記当量比が1を下回ると、反応液のpHを8以上に保持することが困難となる。前記当量比の更に好ましい範囲は1.1〜1.3であり、中和反応終了時点におけるpHは8〜9の範囲となることが特に望ましい。なお、ニオブ溶解液及びアルカリ金属含有アルカリ水溶液のいずれか一方又は双方の液にアンモニアが含有される場合であっても、上記pH条件に加えて、得られる微粒子分散液中のアルカリ金属/アンモニアのモル比が4以上となるように設定することが好ましく、より好ましくは5以上である。
【0025】
ニオブ溶解液とアルカリ金属含有アルカリ水溶液とを反応させる時の温度は特に制限されないが、例えば、10〜90℃の範囲が好ましい。
【0026】
第一工程で得られる微粒子分散液は、組成等によりゾル様の状態を呈することもあるが、基本的には完全なゾルとは言い難い状態の液であるため、次の第二工程において微粒子分散液をろ過洗浄することによって副生塩やイオン性物質等の不純物を除去する。不純物が存在すると、本発明のゾルの安定性阻害要因となる恐れがあり、また、用途を制約しかねないため、極力除去することが望ましい。副生塩の一例は、原料のいずれかにナトリウムが含有されていた場合は、フッ化ナトリウムや硫酸ナトリウム等である。イオン性物質の一例は、アルカリ金属イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン等である。また、微粒子分散液がアンモニアを含有するものであれば、アンモニウムイオンも該当する。
【0027】
ろ過洗浄の方法は特に限定されないが、限外ろ過が最も簡便である。ろ過洗浄により不純物を除去して得られる本発明のゾルは、コロイド粒子が均一に分散されたゾルとしての外観を示すものである。なお、限外ろ過時において、濃縮することも可能である。
【0028】
ところで、ろ過洗浄によって除去されない成分は、ニオブ酸の微粒子に結合又は吸着されたものと見なすことができるものである。そして、ニオブ酸の微粒子に結合又は吸着できるのは所定範囲の成分量であるため、本発明のゾルの組成比の規定を満たすゾルが得られることになる。
【0029】
(第二製法)
原料として用いるニオブ酸アンモニウムゾルについて説明する。ニオブ酸アンモニウムゾル及びその製造方法は、特許文献1に詳述されているので、ここではその概略を説明する。ニオブ酸アンモニウムゾルは、無定形のニオブ酸アンモニウムの微粒子がコロイド粒子として分散した水分散型ゾルであり、該ゾルを100℃で10時間乾燥させたときのアンモニアとニオブ酸がNH3/Nb2O5(モル比)=0.5〜1.5の範囲であることを特徴とするものである。ニオブ酸アンモニウムゾルの製造方法は、フッ酸、又はフッ酸と硫酸の混酸にニオブ化合物を溶解させた水溶液と、アンモニア水溶液とを、pHを8以上に維持しつつ混合、反応させてニオブ酸アンモニウムの微粒子を含有する分散液を得た後、当該分散液をろ過洗浄するものである。また、市販のニオブ酸アンモニウムゾルとして、例えば、多木化学(株)製の商品名「バイラール Nb-G6000」を挙げることができる。
【0030】
ニオブ酸アンモニウムゾルをアルカリ金属の存在下において加熱又は洗浄する操作は、ニオブ酸アンモニウムゾルにアルカリ金属を含有させ、これを加熱又は洗浄する操作を行えばよい。ニオブ酸アンモニウムゾルにアルカリ金属を含有させる方法については特に制限はなく、例えば、ニオブ酸アンモニウムゾルとアルカリ金属化合物とを混合してもよいし、ニオブ酸アンモニウムゾルとアルカリ金属含有アルカリ水溶液とを混合してもよい。なお、アルカリ金属化合物とアルカリ金属含有アルカリ水溶液の具体例は上述のとおりである。
【0031】
加熱又は洗浄は、アンモニアを除去するために行うものである。ところで、ニオブ酸アンモニウムゾル中では、アンモニウムイオンはほとんど存在せず、アンモニアはニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在していると推定される。しかし、ニオブ酸アンモニウムゾルにアルカリ金属を存在させた場合にアンモニアを加熱又は洗浄によって除去できるのは、次のようなメカニズムによるものと推定される。すなわち、ニオブ酸に結合又は吸着されたアンモニアのうち少なくとも一部がアルカリ金属化合物によって置換され、これによって遊離のアンモニアが生成し、この遊離のアンモニアを加熱においては揮散させ、洗浄においては系外へ排出する。アンモニアの除去は、本発明のゾルにおいて、アンモニア/Nb2O5(モル比)が少なくとも0.5未満となるまで行う。
【0032】
アルカリ金属の存在量は、本発明のゾルにおいて、下限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上、上限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が2以下となるように設計する。
【0033】
加熱については、加熱温度は、例えば、50〜150℃の範囲であることが好ましい。また、加熱時間は加熱温度に応じて適宜設定すればよいが、目安としては、1〜8時間である。加熱温度の下限は、80℃であることがより好ましく、さらに好ましくは90℃である。アルカリ金属の存在量及び加熱条件を最適化すれば、本発明のゾル中のアンモニア含有量を検出限界以下とすることも不可能ではない。
【0034】
洗浄については、アンモニアが除去できれば洗浄方法に特に制限はなく、水を添加しながらの限外ろ過、ヌッチェろ過、フィルタープレス等が例示でき、これらのうち特に限外ろ過が好ましい。洗浄方法や洗浄条件を最適化すれば、本発明のゾル中のアンモニア含有量を検出限界以下とすることも不可能ではない。またアルカリ金属の存在下で加熱した後に洗浄でアンモニアを除去しても良いし、その逆であっても構わない。
【0035】
(第三製法)
第三製法は、以下の(i)〜(iii)工程に分けて説明する。
(i)ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合する(微粒子含有液1)。
(ii)微粒子含有液1を洗浄してアンモニアを除去する(微粒子含有液2)。
(iii)微粒子含有液2をアルカリ金属の存在下で加熱する。
【0036】
(i)工程の無機酸の使用量は、(ii)工程において目的とするアンモニア除去量に応じて適宜設定すればよいが、目安を示すと、無機酸/Nb2O5(モル比)=0.5〜2の範囲である。無機酸の種類としては、塩酸、硝酸、硫酸等が例示でき、これらのうち塩酸が特に好ましい。ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸との混合方法には特に制限はなく、ニオブ酸アンモニウムゾルに無機酸を添加しても、その逆であっても構わない。微粒子含有液1の性状は、無機酸の添加量が多くなるに従い、ゲル状を呈する傾向にある。
【0037】
(ii)工程の洗浄は、アンモニアが除去できれば洗浄方法に特に制限はなく、水を添加しながらの限外ろ過、ヌッチェろ過、フィルタープレス等が例示でき、これらのうち特に限外ろ過が好ましい。洗浄方法や洗浄条件を最適化すれば、本発明のゾル中のアンモニア含有量を検出限界以下とすることも不可能ではないが、少なくともアンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5未満となるまで洗浄する。
【0038】
(iii)工程において、微粒子含有液2にアルカリ金属を存在させる操作は、微粒子含有液2にアルカリ金属を含有させる操作を行えばよい。例えば、微粒子含有液2とアルカリ金属化合物とを混合してもよいし、微粒子含有液2とアルカリ金属含有アルカリ水溶液とを混合してもよい。なお、アルカリ金属化合物とアルカリ金属含有アルカリ水溶液の具体例は上述のとおりである。アルカリ金属の使用量は、除去したアンモニアの代わりにゾルとしての安定性を得るためのものであり、本発明のゾルにおいて、下限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上、上限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が2以下となるように設計する。
【0039】
加熱は、微粒子含有液2中のアルカリ金属とニオブ酸とを反応させることによって、ゾルとしての安定性が得られる加熱条件であれば特に制限されることはない。好例としては、加熱温度が50〜150℃の範囲であり、加熱時間は加熱温度に応じて適宜設定すればよいが、目安としては、1〜8時間である。加熱温度の下限は、80℃であることがより好ましく、さらに好ましくは90℃である。
【0040】
第二製法及び第三製法によって得られる本発明のゾルのpH範囲は、好適には8〜10の範囲である。
【0041】
本発明のゾルは、以上の好適な製造方法である第一〜第三製法によって得られるものであるが、各製法によって得られるゾル間にはその発揮する性能にほとんど差がないという特徴を有する。
【0042】
本発明のゾルは、Nb2O5濃度として1〜40質量%の範囲であっても構わないが、下限は製造上・輸送上の経済的な観点から3質量%であることが好ましい。上限の40質量%は、高粘度化によるハンドリング性の低下を回避する観点から設定したものである。通常は、6〜30質量%の範囲、より好ましくは6〜20質量%の範囲であることが、製造上及び利用上の観点からより好ましい。
【0043】
本発明のゾルを濃度調整する場合は、ゾルとしての安定状態が保たれる範囲において常法によって実施すればよく、例えば、加熱濃縮、減圧濃縮等による濃縮、水による希釈等が挙げられる。
【0044】
本発明のゾルは、ハンドリング性が高いことから各種用途に好適に使用することができる。一例としては、本発明のゾルを含有してなる透明薄膜形成用塗布液、二次電池、電子材料等の添加剤、各種触媒等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の詳細を実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断らない限り%は全て質量%を示す。
【0046】
(原料・装置)
・ニオブ酸アンモニウムゾルとして、多木化学(株)製の「バイラール Nb-G6000」(Nb2O5=6.0%、pH7.5、アンモニア/Nb2O5(モル比)=1.0)を用いた。
・限外ろ過装置として、旭化成(株)製「マイクローザUF」(型式SLP-1053)を用いた。
【0047】
(実施例1)
五酸化ニオブ(多木化学(株)製)50gを10%フッ化水素酸水溶液480gに溶解させ、イオン交換水を添加することによってNb2O5=0.5%のフッ化ニオブ酸水溶液を得た。フッ化ニオブ酸水溶液を1%水酸化リチウム水溶液6.9kgに対し、反応させた液のpHが8.0を下回らないようにゆっくりと添加し、副生成塩を含有するpH8.7、Nb2O5含有量が0.3%である微粒子分散液を得た。限外ろ過装置を用いてろ過洗浄しフッ化リチウム等を除去することによって、pH8.6のリチウム安定型ニオブ酸ゾル330gを得た。
このゾルの組成分析を行ったところ、ゾルのNb2O5含有量は15.0%であり、Li/Nb2O5(モル比)=1.0、アンモニア/Nb2O5(モル比)=0であった。また、このゾルの液温を25℃に設定したときの円錐平板形粘度計(東機産業(株)製 TVE-25形粘度計)による粘度は2.5mPa・sであった(以下の実施例、参考例においても、粘度は液温を25℃に設定したものを測定対象とした)。
このゾルを25℃で1ヶ月間保存したところ、粘度変化や沈殿物の発生は認められず、保存安定性を有していることが確認された。
また、このゾルを100℃で乾燥させた乾燥粉のX線回折分析では、無定形であることが確認された。一方、上記乾燥粉を300℃で1h、500℃で1h焼成した各X線回折分析では、両方においてニオブ酸リチウムに由来するパターンが確認された(図1)。
【0048】
(実施例2)
ニオブ酸アンモニウムゾル100gに、10%水酸化カリウム水溶液20.9gを添加し、95℃で3時間加熱処理を行い、カリウム安定型ニオブ酸ゾル(Nb2O5=5.1%、pH9.3、粘度1.4mPa・s)を得た。
このゾルをNb2O5=15.0%になるまで加熱濃縮した後、組成及び物性の確認を行ったところ、K/Nb2O5(モル比)=1.6、アンモニア/Nb2O5(モル比)=0.1、pH9.4、粘度2.0mPa・sであり、ゾルとしての特性を保持していた。
この加熱濃縮ゾルを25℃で1ヶ月間保存したところ、粘度変化や沈殿物の発生は認められず、保存安定性を有していることが確認された。
また、この加熱濃縮ゾルを100℃で乾燥させた乾燥粉のX線回折分析では、無定形であることが確認された。
【0049】
(実施例3)
ニオブ酸アンモニウムゾル1000gに、5%水酸化リチウム水溶液112gを添加した後、限外ろ過装置を用いてろ過洗浄及び濃縮を行った。得られたゾルはpH7.9、Nb2O5含有量は15.0%、Li/Nb2O5(モル比)=0.6、アンモニア/Nb2O5(モル比)=0.4、pH8.8、粘度11.2mPa・sのリチウム安定型ニオブ酸ゾルであった。
このゾルを25℃で1ヶ月間保存したところ、粘度変化や沈殿物の発生は認められず、保存安定性を有していることが確認された。
また、このゾルを100℃で乾燥させた乾燥粉のX線回折分析では、無定形であることが確認された。
また、このゾルを分画分子量10000の限外ろ過膜でろ過したときに得られた微粒子を分析したところ、Li/Nb2O5(モル比)=0.6、アンモニア/Nb2O5(モル比)=0.4であり、上記ゾルの組成比といずれも同じであった。
【0050】
(実施例4)
ニオブ酸アンモニウムゾル1000gをイオン交換水でNb2O5=1.0%まで希釈後、5%塩酸227gを添加した後、限外ろ過装置を用いてろ過洗浄を行った。これに5%水酸化リチウム水溶液89gを添加し、140℃で3時間の加熱処理を行い、リチウム安定型ニオブ酸ゾル(Nb2O5=2.0%、pH8.4、粘度1.6mPa・s)を得た。このゾルをエバポレーターでNb2O5=15.0%になるまで加熱濃縮した後、組成及び物性の確認を行ったところ、Li/Nb2O5(モル比)=0.8、アンモニア/Nb2O5(モル比)=0.01、pH8.5、粘度2.2mPa・sであり、ゾルとしての特性を保持していた。
この加熱濃縮ゾルを25℃で1ヶ月間保存したところ、粘度変化や沈殿物の発生は認められず、保存安定性を有していることが確認された。
また、この加熱濃縮ゾルを100℃で乾燥させた乾燥粉のX線回折分析では、無定形であることが確認された。
【0051】
(参考例1)
ニオブ酸アンモニウムゾルをエバポレーターにより濃縮し、Nb2O5=15.0%としたところ、粘度は215mPa・sであった。
【0052】
(比較例1)
ニオブ酸アンモニウムゾル1000gをイオン交換水でNb2O5=1.0%まで希釈後、5%塩酸227gを添加し、限外ろ過装置を用いてろ過洗浄及び濃縮を行った。これに10%水酸化カルシウム水溶液121.0gを添加し、140℃で3時間の加熱処理を行ったものの、溶液は白濁し、沈殿物の発生も認められ、ゾルが得られなかった。また、この溶液は、Nb2O5=2.0%、Ca/Nb2O5(モル比)=0.7、アンモニア/Nb2O5(モル比)=0.01であった。
【0053】
(比較例2)
ニオブ酸アンモニウムゾル1000gをイオン交換水でNb2O5=1.0%まで希釈後、5%塩酸227gを添加し、限外ろ過装置を用いてろ過洗浄及び濃縮を行った。これに5%水酸化リチウム水溶液34gを添加し、140℃で5時間の加熱処理を行ったところ、溶液は白濁し、沈殿物の発生も認められ、ゾルが得られなかった。また、この溶液は、Nb2O5=2.0%、Li/Nb2O5(モル比)=0.3、アンモニア/Nb2O5(モル比)=0.01であった。
図1