特許第6774168号(P6774168)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774168
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】車両用表示システム
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/00 20060101AFI20201012BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20201012BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20201012BHJP
   B60Q 1/26 20060101ALI20201012BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B60Q1/00 G
   G08G1/16 C
   G08G1/16 F
   B60R16/02 640K
   B60Q1/26 Z
   G02B26/10 104Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-78428(P2015-78428)
(22)【出願日】2015年4月7日
(65)【公開番号】特開2016-199072(P2016-199072A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(72)【発明者】
【氏名】早川 三千彦
(72)【発明者】
【氏名】村松 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 直樹
(72)【発明者】
【氏名】柳津 翔平
(72)【発明者】
【氏名】菊池 賢
(72)【発明者】
【氏名】原 弘明
(72)【発明者】
【氏名】石塚 貴義
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀忠
(72)【発明者】
【氏名】増田 剛
【審査官】 河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−057740(JP,U)
【文献】 特開2014−184876(JP,A)
【文献】 特開2010−285055(JP,A)
【文献】 特開2012−247369(JP,A)
【文献】 特開2009−298360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車速を検知する車速センサと、
前記車両の走行時に運転者および/または他者にとって注意すべき情報を検知する情報センサと、
前記情報センサの検知と連動して前記車両の周囲に所定の表示を描画する描画ユニットと、を備え、
前記描画ユニットは、車速が所定の低速域である場合に作動され、前記低速域の下限値以上となると作動開始され、上限値超となると作動が停止され
前記下限値は、車速20km/h以下である
ことを特徴とする車両用表示システム。
【請求項2】
前記描画ユニットは、前記上限値超となり作動が停止された後は、前記低速域内の所定の緩衝値以下となった時に再び作動されることを特徴とする請求項1に記載の車両用表示システム。
【請求項3】
前記上限値は、車速35km/h以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用表示システム。
【請求項4】
前記緩衝値は、前記上限値の85%以上であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用表示システム。
【請求項5】
前記描画ユニットは、車速の増加に比例して表示を形成する光源の出力が増加されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両用表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行時の注意喚起を表示する車両用表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、路面等に図形や文字等を描画することで、運転者または歩行者/対向車等の他者に対して注意喚起を表示する車両用表示システムが知られている。例えば特許文献1では、車両前部に搭載したレーザヘッドを駆動させて、進入禁止等の図形を路面に描画するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−45870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような表示を運転者や他者の目線で変形しないように描画することは難しく、車両が高速で走行している場合は尚更であった。この問題について本発明者らが鋭意検討した結果、効果的に表示を認識させることのできる車速や表示の形態についてわかってきた。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであって、走行時の注意喚起を効果的に表示することのできる車両用表示システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用表示システムは、車両の車速を検知する車速センサと、前記車両の走行時に運転者および/または他者にとって注意すべき情報を検知する情報センサと、前記情報センサの検知と連動して前記車両の周囲に所定の表示を描画する描画ユニットと、を備え、前記描画ユニットは、車速が所定の低速域である場合に作動し、前記低速域の下限値以上となると作動を開始し、上限値超となると作動を停止する。
【0007】
この態様によれば、車速が低速域である時のみ注意喚起の表示を行うため、高速走行時より表示が拡散しにくく、運転者および/または他者にとって歪みの少ない表示として視認させることができるので、注意喚起を効果的に行うことができる。
【0008】
前記描画ユニットは、前記上限値超となり作動を停止した後は、前記低速域内の所定の緩衝値以下となった時に再び作動するようにしてもよい。上限値を閾値に表示のON/OFFを行うと、車速が上限値付近を往来している状況では表示のチラつきが起こり、運転者に煩わしさを与えるおそれがある。この態様によれば、上限値超となり作動を停止した後の再表示に適切な幅を持たせておくことで、運転者への注意喚起を効果的に行うことができる。
【0009】
前記上限値は、車速35km/h以上としてもよい。車速35km/h超では表示が拡散する傾向が見られるが、これ以下の車速においては表示の拡散が微小であり、注意喚起を効果的に行うことができる。
【0010】
前記下限値は、車速20km/h以下としてもよい。注意喚起の必要性が高くない状況においては動作を停止することで、運転者にとっての煩わしさが低減され、注意喚起を効果的に行うことができる。
【0011】
前記緩衝値は、前記上限値の80%以上としてもよい。例えば上限値が車速35km/hの場合に、作動を停止した後の再表示を車速30km/hで行うように設定することで、上記チラつき防止と注意喚起の双方を効果的に行うことができる。
【0012】
前記描画ユニットは、車速の増加に比例して表示を形成する光源の出力を増加するようにしてもよい。車速の増加に伴い運転者のアイポイントがより遠方となり必要となる表示の拡散が生じるため、光源の出力を増すことで鮮明な表示を出すことができるようになり、注意喚起を効果的に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、走行時の注意喚起を効果的に表示することのできる車両用表示システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係る車両用表示システムを含む車両用灯具の正面図である。
図2図1の灯具の縦断面図である。
図3】制御装置を説明する機能ブロック図である。
図4】描画の制御を説明するフロー図である。
図5】車両用表示システムによる実施例を説明する図である。
図6】車両用表示システムによる実施例を説明する図である。
図7】車両用表示システムによる実施例を説明する図である。
図8】車両用表示システムによる実施例を説明する図である。
図9】車両用表示システムによる実施例を説明する図である。
図10】車両用表示システムによる実施例を説明する図である。
図11】車両用表示システムによる実施例を説明する図である。
図12】車両用表示システムによる実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好適な実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1は本実施の形態に係る車両用表示システムを含む車両用灯具の正面図、図2図1の灯具の縦断面図(図1に示す線II−IIに沿う断面図)である。
【0016】
(全体構成)
図1図2は、車両用表示システム7を含む車両用灯具1を示している。灯具1は車両の前部の左右いずれかに設けられる前照灯である。矢印L-Rは灯具1を正面視した場合の左右方向を、矢印U-Dは同上下方向を、矢印F-Bは同前後方向を示している。なお、車両用表示システム7は左右の灯具1のいずれか一方に設けられている構成として説明するが、左右両方に設けられている構成であってもよい。
【0017】
灯具1は、開口部を有する箱状のランプボディ2と、その開口部に取り付けられた透光性のある樹脂又はガラス等で形成された前面カバー3とで灯室が画成されている。灯室内には、ハイビーム用光源ユニット5,ロービーム用光源ユニット6,車両用表示システム7,鉛直ブラケット4,およびエクステンション12が配置されている。
【0018】
ハイビーム用光源ユニット5およびロービーム用光源ユニット6は、ハイビーム用配光パターンおよびロービーム用配光パターンを形成する。これら光源ユニット5,6は、例えば反射型やプロジェクタ型の灯具ユニットを用いてよく、ここではその種類を問わない。図2に現れるロービーム用光源ユニット6の構成はプロジェクタ型を採用した一例である。ハイビーム用光源ユニット5およびロービーム用光源ユニット6は、これらの支持部材となる金属製の鉛直ブラケット4の前面に固定されている。鉛直ブラケット4は、コーナー部のうち3か所がエイミングスクリュ14によってランプボディ2に固定されており、各光軸を上下左右に調整可能である。光源ユニット5,6および後述する車両用表示システム7(の描画ユニット8)の灯室内前方には、それぞれの出射光の灯具前方への進行を許容する開口部を有する目隠し材のエクステンション12が設けられている。
【0019】
(車両用表示システム)
車両用表示システム7は、所定の表示を描画する描画ユニット8と、車速センサおよび情報センサを含む制御装置9とを有する。
【0020】
(描画ユニット)
描画ユニット8は、レーザ光源ユニット10と走査機構11を有する。
【0021】
図2に示すように、レーザ光源ユニット10はRGBレーザユニットであり、赤レーザ光を出射する第1光源15,緑レーザ光を出射する第2光源16、および青レーザ光を出射する第3光源17が、それぞれ基板を介して支持台に固定されている。レーザ光源ユニット10は、光源15,16,17からの各出射光を、それぞれの前方に配置した集光レンズにて平行光として集光し、その前方に配置したダイクロイックミラーに入射させてRGB合成し、光源15,16,17のそれぞれをON/OFF制御することにより単色、混色、または白色のレーザ光B2を形成可能である。レーザ光源ユニット10は、光源15,16,17の出力を制御する監視装置28を有しており、レーザ光B2の照射強度は監視装置28により監視されている。なお、レーザ光源ユニット10の光源は、光源15,16,17によるRGBの3光源を有する構成に限られず、単体の白色光源を備えること、または、RGBに橙色レーザダイオードを追加した4光源を備えること、または、青色レーザダイオ−ドの出射光を黄色の蛍光体に通過させる構成を備えることにより、励起で白色光を発生するもの、等であってもよい。また、各光源15,16,17は、レーザダイオード以外の他のレーザであってもよい。
【0022】
図1に示すように、走査機構11はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーであり、ベース部37,第1回動体38,第2回動体(反射部)39,ベース部37の四方に設けられた磁石42,43および端子部44を有する。第1回動体38は、ベース部37の中央開口部に設けられた一対のトーションバーにより、ベース部37に対して左右(水平方向)に回動可能に支持されている。第2回動体39は、第1回動体38の中央開口部に設けられた一対のトーションバーにより、第1回動体38に対して上下(鉛直方向)に回動可能に支持されている。第2回動体39の前面には、銀蒸着やメッキなど処理等によって反射部が形成されている。第1回動体38には制御装置9に接続された第1コイル(図示せず)が、第2回動体39には制御装置9に接続された第2コイル(図示せず)が配線されている。ベース部37には、左右の辺に一対の永久磁石42が設けられ、上下の辺に一対の永久磁石43が設けられている。第1コイルおよび第2コイルは、端子部44を介して制御装置9に接続されている。上記の第1コイルと永久磁石42および上記の第2コイルと永久磁石43は、後述する図3の走査用アクチュエータ58を構成する。走査用アクチュエータ58は、第1コイルおよび第2コイルに流れる駆動電流の大きさと向きを個別に変化させることにより、第1回動体38および第2回動体39を回動させて、第2回動体(反射部)39の向きを変化させる。なお、走査機構11には、ガルバノミラー、DMD(Digital Micro Mirror Device)等の他のスキャン光学系が採用されてよい。
【0023】
図2に示すように、レーザ光源ユニット10は、その光軸が下方に向かうように鉛直ブラケット4の前面に固定されている。走査機構11は、レーザ光源ユニット10の光軸上に反射部39が配置され、かつその出射光が灯具前方に反射されるように、鉛直ブラケット4に固定された水平保持プレートにより、灯具前方下側から灯具後方上側に向けて傾斜した状態で固定されている。
【0024】
描画ユニット8は、レーザ光源ユニット10から出射したレーザ光B2を、走査機構11において反射させ、予め設定された矩形の走査領域に走査する。上記走査領域は、少なくとも走行車線の路肩および隣接車線と車両の前方5メートル〜50メートルとをカバーできるよう設定されるのが好ましく、灯具1の前方25mの位置に仮想的にたてられた仮想鉛直スクリーン上で、上下端はH−H線の−1°〜−8°、左右端はV−V線の20°〜−20°の範囲に設定されるのが好ましい。
【0025】
(制御装置)
次に、図3は制御装置9を説明する機能ブロック図である。制御装置9は、灯具ECU51と、ROM52、RAM53等を有する。ROM52には、各種制御プログラムが記録され、灯具ECU51は、ROM52に記録された各種制御プログラムをRAM53において実行し、各種制御信号を生成する。なお、制御装置9は、ハードウェア的には半導体素子や電気回路で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムで実現されるが、これらの様々な組み合わせによって他のかたちでも実現可能であることは当業者には容易に想到される事項である。制御装置9は、例えばランプボディ2に固定される。
【0026】
灯具ECU51は、車速センサ60と接続されている。その他に、灯具ECU51は、情報センサ、例えば操舵角センサ61、加速度センサ62、方向指示器検知センサ63、ブレーキセンサ64、ナビゲーションシステム66、車載カメラ67、他車両検出センサ68、人感センサ69、照度センサ70、および運転者監視センサ73と接続されている。情報センサは、これらの例に限らず、車両の走行時に運転者および/または他者にとって注意すべき情報を検知するその他のものを含んでよい。
【0027】
車速センサ60は、機械式や電気式等、車両に通常に備えられているものでよく、車輪の回転を検知して車速を検知する。操舵角センサ61は、ステアリングホイールの転舵角を検知する。加速度センサ62は、アクセルの踏み量を検知する。方向指示器検知センサ63は、方向指示器のスイッチ動作を検知する。ブレーキセンサ64は、ブレーキの踏み量を検知する。ナビゲーションシステム66は、GPS65からのデータ受信と地図データとから車両の現在位置を検知し目的地への経路案内を行なう。車載カメラ67は、車両の前部、後部、または所要の方向に備えられ、その方向の映像を撮影・録画する。車載カメラ67で撮影された画像データは、画像処理装置72によって画像処理が施され、対象物が認識される。また、画像処理装置72は、車載カメラ67以外のカメラ、例えば交差点信号に設置された交差点カメラや監視カメラ等の外部システム71からの画像データが受信できた場合にも同様に画像処理する。他車両検出センサ68は、ミリ波レーダー等で車両の前後方向または側方の他車両までの距離や相対速度を検知する。人感センサ69は、赤外線等で前後方向または側方の人間の存在を検知する。照度センサ70は、光電効果を利用して車両の周囲環境の明るさを検知する。運転者監視センサ73は、車内に配置されたアイカメラによる眼球の画像解析やハンドルに配置された心拍解析装置等から、運転者の状態を検知する。
【0028】
灯具ECU51は、レーザ光源制御部81、アクチュエータ制御部82、描画判定部83を有する。
【0029】
レーザ光源制御部81は、後述の描画判定部83が決定した内容に基づき、各光源15,16,17のそれぞれを独立にON/OFF制御し、レーザ光B2の点消灯、発光色、および出射強度を制御する。
【0030】
アクチュエータ制御部82は、描画判定部83が決定した内容に基づき、アクチュエータ制御信号を出力して走査用アクチュエータ58を駆動し、反射部39の回動を制御する。
【0031】
アクチュエータ制御部82は、上記の走査領域を水平にかつ位置を微小距離だけ下方にずらしながら走査することを繰り返す。レーザ光源制御部81は、走査機構11の走査が表示を描画する箇所である間は第1〜第3光源(15〜17)を一部または全て点灯してレーザ光B2を出射し、表示の描画箇所以外の時間は第1〜第3光源(15〜17)を全て消灯させる。これにより、車両用表示システム7は、上記の走査領域を高速で一巡(1スキャン)することを繰り返して発光点を積層し、任意の形状の表示を描画することができる。なお、走査機構11は水平走査以外の走査を行ってもよい。
【0032】
ここで、本発明者らが鋭意検討を行った結果、路面描画の仕様で重要な要素として、描画サイズ、輝度(コントラスト)、表示方法が挙がるが、表示を効果的に運転者や他者に認識させるためには、この他に車速も重要であることが分かった。本発明者らは、光束3000ANSIルーメンの光源を用いて車速を段階的に変更して、歩行者位置および運転席の被験者による表示の見え方に応じた官能評価を実施したところ、車速が35km/h超の場合の運転者のアイポイントでは表示が拡散する傾向があり、評価が低くなることを確認した。よって、表示を他者および運転者の目線で変形しないように行うためには、車速に上限値VpUを設定することが効果的であると判断した。一方、運転者にとっては、正常に注意を払いながら走行している場合には、このような表示はかえって紛らわしいと感じる場合が多いことを確認した。よって、車速には下限値VpLを設けて、注意喚起の必要性が高くない車速では表示を行わないほうが効果的であると判断した。
【0033】
さらに、上限値VpUを閾値に表示のON/OFFを行ったところ、車速が上限値VpU付近を往来している状況では表示のチラつきが起こり、運転者は煩わしさを感じる場合が多いことを確認した。よって、上限値VpU超となり表示を停止した後は、再表示までに適切な幅を持たせるため、低速域内に所定の緩衝値VpBを設けておくのが効果的であると判断した。
【0034】
上記の官能試験の結果等を参照して、上記低速域の上限値VpUは35km/h、下限値VpLは20km/h、緩衝値VpBは上限値VpUに対し85%程度すなわち上限値VpU=35km/hに対しては緩衝値VpB=30km/hに設定するのが好適であると判断した。
【0035】
これを受けて、描画判定部83は、第1に、車速センサ60から車速を取得し、車速が低速域の下限値VpL(20km/h)以上となると描画ユニット8を作動開始し、上限値VpU(35km/h)超となると描画ユニット8を作動停止する。第2に、上記情報センサから、歩行者,対向車,障害物等の他者の接近や、運転者の状態を取得し、運転者および/または他者に注意喚起が必要かを判断して、必要と判断した場合に描画ユニット8を作動させて車両の周囲に所定の表示を描画する。第3に、上限値VpU超となり作動を停止した後は、車速が緩衝値VpB(30km/h)以下となったかを判断して、緩衝値VpB以下となった場合に再び描画ユニット8を作動開始させる。
【0036】
具体的に、描画判定部83は、例えば図4のフローに基づいて表示を行う。まず、ステップS1で、車速センサ60から信号を取得する。次に、ステップS2で、車速が下限値VpL以上であるか判断する。下限値VpL以上(YES)であれば、ステップS3に移行する。下限値VpL未満(NO)であれば、ステップS1に戻る。次に、ステップS3で、車速が上限値VpU以下であるか判断する。上限値VpU以下(YES)であれば、ステップS4に移行する。ステップS4で、上記の情報センサらからデータを取得する。次に、ステップS5で、運転者および/または他者にとって注意すべき状況であるかを判断する。注意すべき状況であり、表示が必要(YES)であれば、ステップS6に移行して描画を開始し、ステップS1に戻る。注意すべき状況ではなく、表示が不要(NO)であれば、ステップS1に戻る。ステップS5による表示の具体例は、下記の実施例で説明する。一方、ステップS3にて、車速が上限値VpU超(NO)と判断されると、ステップS7に移行して、表示を行わないか表示を停止する。次に、ステップS8で、車速が緩衝値VpB以下であるか判断する。緩衝値VpB以下(YES)であれば、ステップS4に戻り、表示が必要か否かの判断に戻る。緩衝値VpB超(NO)であれば、ステップS7に戻り、表示の停止を継続する。
【0037】
以上の構成による車両用表示システム7による表示の好適な例を、図5図12に示す実施例に基づいて説明する。なお、図中では、斜線が付された車両が車両用表示システム7を搭載した車両(自車両)、付されていない車両は他車両として表している。
【0038】
(実施例1)
図5は、低速域で走行中に、図4のステップS5にて、運転者監視センサ73が眼球の動きまたは心拍数等から運転者の眠気を検知したため、表示が必要と判断された場合の例である。車両用表示システム7は、図5の(a)に示すように、車両前方の路面等に注意喚起のための表示I5を行い、運転者に注意喚起するとともに、周囲を走行する他車両にも知らせることで車間距離を取るよう促す。この場合、表示I5は、常時点灯させるよりも点滅させる(例えば周波数2Hz)ほうが、低い描画光度で歩行者等に視認させやすいため好適である。
【0039】
あるいは、図5の(b)に示すように、「寝るな」等の、よりメッセージ性の高い表示としても、他者が理解しやすいため好適である。車両用表示システム7は、所定の低速域にてこの表示を行うため、文字のような複雑な形状の表示であっても良好に認識させることができる。また、この他に、運転者監視センサ73が眼球の動きから運転者のよそ見を検知した場合等に、点滅表示やメッセージ表示により運転者に路面を注視するよう促すことも有効である。
【0040】
(実施例2)
図6は、低速域で走行中に、図4のステップS5にて、交差点カメラ(外部システム)71の画像データから、交差点に進入してくる他車両の存在を検知したため、表示が必要と判断された場合の例である。車両用表示システム7は、自車両の走行車線上に他車両の進行方向を示す点滅表示I6を行い、運転者に注意喚起する。この例は、特に見通しの悪い交差点において有効である。
【0041】
(実施例3)
図7は、低速域で走行中に、図4のステップS5にて、他車両検出センサ68により、ブラインドスポットから来る他車両の存在を検知したため、表示が必要と判断された場合の例である。車両用表示システム7は、自車両の走行車線上で他車両の存在側前方に、他車両の進行方向を示す点滅表示I7を行い、運転者に注意喚起する。
【0042】
(実施例4)
図8は、低速域で走行中に、図4のステップS5にて、車載カメラ67の画像データが画像処理装置72で解析された結果、路面上に穴などの障害物の存在を検知したため、表示が必要と判断された場合の例である。車両用表示システム7は、障害物のある位置に、点滅表示I8を行い、運転者に注意喚起する。
【0043】
(実施例5)
図9の(a)および(b)は、低速域で走行中に、図4のステップS5にて、車載カメラ67やナビゲーションシステム66の情報をもとに、停止すべき状況であることを検知したため、表示が必要と判断された場合の例である。車両用表示システム7は、車両前方の路面等に、注意喚起のために、漢字一文字で点滅表示I9を行い、運転者に注意喚起する。図9の(c)は、図4のステップS5にて、方向指示器検知センサ63やナビゲーションシステム66の情報をもとに、右左折の方向を示す漢字一文字の点滅表示I9を行い、運転者および他者に注意喚起する。車両用表示システム7は、所定の低速域にてこの表示を行うため、このような複雑な形状の表示であっても良好に認識させることが可能である。
【0044】
(実施例6)
図10は、低速域で走行中に、図4のステップS5にて、人感センサ69または交差点カメラ(外部システム)71の画像処理データから、交差点付近の歩行者らの動きを観察し、歩行者らのうち、道路にとび出すなどの危険な動きをしようとする者がいることを検知したため、表示が必要と判断された場合の例である。車両用表示システム7は、その歩行者の位置情報に基づき、車両の前方の路面等に、危険な歩行者がいることを光の誘導で表示する表示I10を行い、運転者および他車両の運転者に注意喚起する。
【0045】
(実施例7)
図11は、低速域で走行中に、図4のステップS5にて、他車両検出センサ68で先行車との車間距離を検知し、車間距離が短くなった場合に、表示が必要と判断した場合の例である。車両用表示システム7は、車間に表示I11を行い、運転者に注意喚起する。この場合、車間距離が短くなると表示I11を常灯から点滅に変え、車間距離が短くなるにつれて周期を短く(例えば2Hzから4Hz)するのも有効である。また、他車両検出センサ68を車両の後部にも配置し、後ろから衝突されそうになった場合にもI11を行い、また点滅周期や表示の色を変えるなどして運転者へ注意喚起することも有効である。
【0046】
(実施例8)
図12は、低速域で走行中に、図4のステップS5にて、ナビゲーションシステム66から生活道路や通学路など、事故発生率が高い道路を走行中であることを検知して、表示が必要と判断した場合の例である。車両用表示システム7は、両前方の路面等に、注意喚起のために、びっくりマーク等の表示I12を行い、運転者に注意喚起する。車両用表示システム7は、所定の低速域にてこの表示を行うため、このような複雑な形状の表示であっても良好に認識させることが可能である。
【0047】
以上、車両用表示システム7によれば、車速が低速域(下限値VpL以上〜上限値VpU以下)である時のみ注意喚起の表示を行うため、高速走行時より表示が拡散しにくく、運転者および/または他者にとって歪みの少ない表示として視認させることができる。また、いずれの実施例においても、車速が上限値VpU付近を往来している状況では、緩衝値VpB以下となるまで再表示が行われないため、表示のチラつきにより運転者の運転を阻害することも少ない。
【0048】
なお、上記の実施例は車両用表示システム7による表示の一例であり、当業者の知識に基づいて種々の変形が想到される。各表示I5〜I12は、その状況に応じて、より注意喚起力を向上させうる他の文字や図形、形態変化、追加情報が採用されてよく、例えば以下の変形およびこれらの組み合わせは本発明の範囲内と言える。
【0049】
上記実験により、表示は車速の増加に伴い拡散し、見にくいと評価される傾向が確認されたため、描画判定部83は、車速の増加に比例して表示を形成する光源の出力を増加するようにしてもよい。描画判定部83は、光源15,16,17の出力を制御する監視装置28の値を検知しながら、レーザ光源制御部81を制御し、車速が下限値VpLから上限値VpUに上がるにつれて、例えば光度を6200cdから60000cdに比例的に増加させる。これにより、表示の拡散を見かけ上低減させることができる。また、光度の制御において、照度センサ70により車両周囲の明るさを検知して、走行環境を考慮した調整がなされてもよい。
【0050】
また、描画判定部83は、下限値VpLとなると、表示I5〜I12を常灯または点滅させ、状況に応じて、運転者が加速した場合点滅を始める/速める、運転者が急減速をした場合点滅を始める/速める、歩行者が飛び出してきた場合に点滅を始める/速める、交差点までの距離に応じて点滅を始める/速める、などの制御を行ってもよい。または、描画の色味を白色から緑青等の有色に変更していくなどや、表示I5〜I12の周囲に暗いスポットエリアを描画し、この暗いスポットエリア内に表示I5〜I12を描画するのもよい。
【0051】
描画判定部83は、操舵角センサ61,加速度センサ62,方向指示器検知センサ63,ブレーキセンサ64からの情報を基に、運転者のブレーキ操作(通常、急ブレーキ)、加速(急加速)、ハンドル操作など、運転者に関するさらに細かな情報も追加して表示してもよい。また、これらのセンサ情報から、車速が今後低速域の下限値VpL、上限値VpU、または緩衝値VpBに至るかを予測して制御に反映してもよい。また、車両が進路変更を行うことを操舵角センサ61または方向指示器検知センサ63により検知した場合には、進路変更後の車線側の道路上にも描画を行うよう制御するのもよい。
【0052】
または、描画判定部83は、実施例1(図5)の例であれば運転者が高齢者である等の属性情報を、実施例2、3(図6、7)の例であれば車両の車速等の情報を、実施例4、7(図8、11)の例であれば障害物までの距離の情報を、実施例6(図10)の例であれば歩行者の属性関するさらに細かな情報、などを追加表示してもよい。または、実施例2、3(図6、7)の例において、運転者監視センサ73により運転者が表示I6およびI7によって他車両の存在を認識したと検知した場合に、表示I6およびI7を停止したり、存在を認識した旨の表示をすることも有効である。
【0053】
なお、車両用表示システム7は、灯具1に収容されている構成に限らず、例えば車両の屋根上に前方を向けて固定されるなど、灯具1の外部に配置されていてもよい。また、車両の後方に表示をしたい場合には、ターンシグナルランプ、ストップランプ等に配置されてもよい。また、車両用表示システム7は、左右の灯具1にそれぞれ収容されている場合は、左右の灯具で異なる表示を行ってもよい。または、車両用表示システム7は、例えば、走査機構11に代えて所定のマーク形状に穿孔した揺動機構を採用し、機械的構成によって表示を行ってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 車両用前照灯
7 車両用表示システム
8 描画ユニット
9 制御装置
11 走査機構
51 灯具ECU
60 車速センサ
67 車載カメラ (情報センサ)
68 他車両検出センサ (情報センサ)
69 人感センサ (情報センサ)
71 外部システム (情報センサ)
73 運転者監視センサ(情報センサ)
VpU 上限値
VpD 下限値
VpB 緩衝値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12