(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水溶性かつ染料を溶解する溶剤の使用量が、前記水系媒体、前記油性有機溶媒、前記水溶性かつ染料を溶解する溶剤、前記染料及び前記ポリマー粒子の総量に対して30wt%以下である、請求項1に記載の着色粒子の製造方法。
前記水溶性かつ染料を溶解する溶剤及び前記油性有機溶媒のSolubility Parameters(SP値)が、下記式(i)及び(ii)の関係を満たす、請求項1〜2のいずれか1項に記載の着色粒子の製造方法。
(i):SPO<SP1<SPW
(ii):SPW−SPO>25[MPa1/2]
(式中、「SP1」は、前記水溶性かつ染料を溶解する溶剤のSP値であり、「SPO」は、前記油性有機溶媒のSP値であり、「SPW」は、前記水のSP値である。)
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪着色粒子の製造方法≫
本発明に係る着色粒子の製造方法(以下「製造方法I」ともいう。)は、水系媒体中において、油性有機溶媒(以下単に「有機溶媒」ともいう。)と、水溶性かつ染料を溶解する溶剤(但し、前記油性有機溶媒は除く)(以下「溶解溶剤」ともいう。)との存在下で、水に不溶性でかつ油性有機溶媒に可溶な染料(以下単に「染料」ともいう。)によりポリマー粒子を染色する工程を含む。
このような製造方法Iによれば、従来よりも短い染色時間で生産性よく従来と同程度の色調を有する着色粒子を作製することができる。この効果にさらに優れ、より着色粒子同士の凝集が起こりにくく、分散性に優れる着色粒子分散液を容易に得ることができる等の点から、前記製造方法Iとしては、下記製造方法IIが好ましく、下記製造方法III及びIVがより好ましく、下記製造方法IIIが特に好ましい。
【0017】
製造方法IIは、水系媒体中、染料と有機溶媒とを含む微分散された油滴により、溶解溶剤の存在下で、ポリマー粒子を前記染料により染色する工程を含む。
【0018】
製造方法IIIは、染料を有機溶媒に溶解又は分散させて得られる染料液を、水系媒体中に分散させて染料エマルションを調製する工程と、
前記染料エマルションと、ポリマー粒子と、溶解溶剤とを混合した混合液中においてポリマー粒子を染色する工程とを含む。
【0019】
製造方法IVは、染料を有機溶媒に溶解又は分散させて得られる染料液と、溶解溶剤と、ポリマー粒子と、水系媒体とを混合し、混合液を調製する工程と、
前記混合液中で前記染料液を微分散させることでポリマー粒子を染色する工程とを含む。
【0020】
なお、製造方法I〜IVの各工程における混合の際の、混合の順番や混合条件などは特に制限されない。用いる材料、得られる分散液や着色粒子の用途等に応じて、加温や窒素などの雰囲気等の下で行ってもよいが、通常、室温、空気中で行えばよい。
【0021】
なお、製造方法I〜IVは、前記工程以外の他の工程を含んでもよく、特に制限されないが、このような工程として、例えば、染色中又は染色後に有機溶媒や溶解溶剤(以下これらをまとめて「溶媒」ともいう。)を除去する工程や、染色後や該溶媒を除去する工程で得られた液中の、着色粒子に含まれていない染料などの成分を除去する工程等を行うことが好ましい。
また、製造方法I〜IVでは、より染料含有量の多い着色粒子を得ることを目的として、前記工程を2回以上、好ましくは2〜4回程度繰り返してもよい。
【0022】
製造方法I〜IVでは、染色の際に、ポリマー粒子の粒子径は基本的にほとんど変化しない。
【0023】
・製造方法I
製造方法Iは、特に制限されないが、具体的には、有機溶媒、染料及びポリマー粒子が分散した状態でポリマー粒子を染色する工程を含むことが好ましく、十分な色調を有する着色粒子をより短い染色時間で得ることができる等の点から、溶解溶剤が溶解した水系媒体中に、有機溶媒、染料及びポリマー粒子が分散した状態でポリマー粒子を染色する工程を含むことがより好ましい。
【0024】
製造方法I〜IVでは、染色する際の分散液(例:製造方法IIIでは混合液)を撹拌することでポリマー粒子を染色することができ、この染色時間を調整することで、得られる着色粒子中の染料含有量を調整することができる。
該撹拌は、従来公知の方法で行えばよい。
【0025】
・製造方法II
製造方法IIは、特に制限されないが、十分な色調を有する着色粒子をより短い染色時間で得ることができる等の点から、水系媒体、溶解溶剤及びポリマー粒子を含む混合液中、染料と有機溶媒とを含む微分散された油滴により、ポリマー粒子を染色する工程を含むことが好ましい。
製造方法IIでは、前記水系媒体中において、染料と有機溶媒とを含む染料液を微分散させながら、ポリマー粒子を染色してもよいし、染料液を水系媒体に分散させてエマルションを調製した後に、ポリマー粒子を添加することで染色してもよい。
【0026】
本発明において、染料液(染料+有機溶媒)を微分散させる方法やエマルションを調製する方法としては、スターラー等の従来公知の撹拌手段で撹拌する方法であってもよいが、下記平均粒子径を有する、微分散状態の染料液(染料+有機溶媒)やエマルション中の油滴(染料+有機溶媒)が得られる等の点から、超音波を照射する方法や、高圧ホモジナイザー等の乳化機を用いた機械的せん断力をかける方法などが好ましく、超音波を照射する方法がより好ましい。
【0027】
本発明において、微分散状態の染料液(染料+有機溶媒)やエマルション中の油滴(染料+有機溶媒)の平均粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは0.001μm〜2μmであり、さらに好ましくは0.01μm〜1μmであり、特に好ましくは0.01μm〜0.5μmである。
なお、本発明における微分散とは、例えば、分散質の平均粒子径が前記範囲にあることを言う。
【0028】
前記微分散状態の染料液(染料+有機溶媒)やエマルション中の油滴(染料+有機溶媒)の平均粒子径は、電気的検知帯法による粒度分布測定装置(商品名:Multisizer4e、ベックマン・コールター社製)を用いて、アパチャー径:10μmの条件下で測定を行い、微分散された油滴を含む水系媒体やエマルションの体積から求める。具体的な測定手順としては、前記微分散された油滴を含む水系媒体やエマルションをビーカーに入れ、Multisizer4eの適正濃度に到達するまで蒸留水で希釈した後、25℃の温度条件で測定し、測定方法は、JIS Z 8832「粒子径分布測定方法−電気的検知帯法」に基づいて決定する。
【0029】
また、製造方法II〜IVでは、微分散状態の染料液(染料+有機溶媒)やエマルション中に微分散する油滴(染料+有機溶媒)の粒子径を例えば0.01μm以下に小さくすることも可能であるため、粒子径の小さいポリマー粒子を用いた場合であっても十分に該粒子を染色することができる。従って、製造方法II〜IVによれば、従来の方法では染色することが困難であった粒子径が非常に小さいポリマー粒子をも、十分に染色することができる。さらに、有機溶媒として、ポリマー粒子を膨潤させ得る溶媒を選択することにより、ポリマー粒子が高度に架橋された分子量の大きいポリマーの粒子である場合にも、これを確実に染色することができる。
【0030】
・製造方法III
製造方法IIIでは、染料を有機溶媒に溶解又は分散させて得られる染料液を、通常は界面活性剤及び/又は分散安定剤の存在下において、水系媒体中に分散、好ましくは前記油滴の平均粒子径まで微分散させることにより染料エマルションを調製し、この染料エマルションと、染色すべきポリマー粒子と、溶解溶剤とを混合して混合液を調製し、必要に応じてこの混合系から溶媒を除去することでポリマー粒子を染色する。
十分な色調を有する着色粒子をより短い染色時間で得ることができる等の点から、製造方法IIIは、前記染料エマルションと、染色すべきポリマー粒子を水系媒体に分散させたポリマー粒子分散液と、溶解溶剤とを混合して混合液を調製することが好ましく、前記染料エマルションと、染色すべきポリマー粒子を水系媒体に分散させ、溶解溶剤を溶解させたポリマー粒子分散液とを混合して混合液を調製することがより好ましい。
【0031】
製造方法IIIでは、ポリマー粒子と染料エマルションとが混合されるが、このように、染料をポリマー粒子に接触させる際に、染料エマルションを使用することで、染料エマルションの油滴(染料液)は表面積が非常に大きくなるため、該染料液とポリマー粒子との接触機会が増えると推測される。このため、製造方法IIIによれば、染料含有量の多い着色粒子を容易に得ることができる。
【0032】
製造方法IIIでは、染料エマルションがポリマー粒子と混合されることにより、更に粒子径の小さな染料エマルションとなって、その染料液がポリマー粒子に衝突し、特に、ポリマー粒子を膨潤させあるいは一部溶解する有機溶媒を用いる場合には、この有機溶媒によってポリマー粒子が膨潤し又は一部溶解し、その結果、染料液中の染料が分子単位に近い形でポリマー粒子中に均一に拡散し、これにより、当該ポリマー粒子が染料によって染色されるものと推定される。
【0033】
製造方法IIIでは、染料を染料エマルションとしてポリマー粒子と混合するため、使用する染料がそれ自体は親油性のものであっても、混合によってポリマー粒子が不安定化して凝集することが起こりにくく、従って、染色の際に、ポリマー粒子の粒子径及びその分布状態が基本的に変化し難い。
【0034】
また、前記染料は水に不溶性であるので、染料エマルションや混合液中において、染料が水系媒体中へ溶出することが少ない。従って染料による染色効率が高い上、多くの染料がポリマー粒子に付着しても、該粒子の分散状態はあまり変化しないため、凝集し難く、染料含有量の多い、通常、十分な濃度に着色された着色粒子を得ることができる。
【0035】
製造方法IIIにおいて、染料エマルションと、ポリマー粒子との混合割合は、ポリマー粒子100質量部に対し染料仕込み量が5質量部以上となる範囲が好ましく、前記ポリマー粒子分散液の使用量は、通常、染料エマルション1リットルあたり0.1〜5リットルである。
【0036】
・製造方法IV
製造方法IVでは、十分な色調を有する着色粒子をより短い染色時間で得ることができる等の点から、染料を有機溶媒に溶解又は分散させて得られる染料液と、溶解溶剤と、ポリマー粒子を水系媒体に分散させたポリマー粒子分散液とを混合して混合液を調製することが好ましく、該染料液と、ポリマー粒子を水系媒体に分散させ、溶解溶剤を溶解させたポリマー粒子分散液とを混合して混合液を調製することがより好ましく、該染料液と水系媒体との分散液と、ポリマー粒子を水系媒体に分散させ、溶解溶剤を溶解させたポリマー粒子分散液とを混合して混合液を調製することがさらに好ましい。
【0037】
(染料)
本発明では、水に不溶性でかつ有機溶媒に可溶性である染料が用いられ、該染料には、この特性以外の他の特性は特に要求されない。この染料に求められる特性は、通常、多くの染料が有する特性であるため、本発明では、様々な種類の染料を用いることができ、所望の用途に応じて所望の染料を用いることができる。このような染料を使用することで、着色粒子からの染料の脱落を抑制できる。
【0038】
前記染料としては、水に不溶性でかつ有機溶媒に可溶であり、ポリマー粒子を着色し得るものであればよく、色調、該染料を溶解する有機溶媒の種類、ポリマー粒子の種類などに応じて適宜選択される。このような染料としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染染料、酸性媒染染料、バット染料、アゾイック染料、分散染料、水性染料、反応染料などが挙げられる。
本発明で用いられる染料は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0039】
前記染料において、25℃における染料の水に対する溶解度aと、25℃における前記染料の有機溶媒に対する溶解度bとの比a/bは、好ましくは1/10以下、より好ましくは1/20以下である。この染料は有機溶媒への溶解度が高いものほど好ましく、具体的にはトルエン100gに対し0.7g以上溶解する染料が好ましい。このように有機溶媒に対する溶解度の高い染料を使用することにより、有機溶媒の使用量を少量としつつポリマー粒子を濃色に染色することができる。しかし、水に対する溶解度より有機溶媒に対する溶解度が十分に大きい染料であれば、実用上特に問題はない。
【0040】
前記染料としては、化学構造的には、親水性基を実質的に含まない、具体的には、1分子中に−OH、−COOH、−NH
2、−SH、−CONH
2などの親水性基を含まない又は1分子中のこれらの親水性基数が2個以下であるアゾ系染料及びアントラキノン系染料からなる群より選ばれる少なくとも1種を好ましく使用することができる。
具体的にはソルベントレッド、ソルベントブルー、ソルベントイエロー、ソルベントグリーンなどの公知の染料を使用することができる。また、油溶性螢光色素、レーザー色素も前記染料として用いることができる。
【0041】
前記染料は耐熱性の高いものが好ましく、耐熱性が高い場合には染色工程後に溶媒を除去するために、スチームストリップ法、減圧蒸留法などの温度上昇を伴う手段を有利に利用することができる。一方、耐熱性に優れていない染料を用いる場合は、染色工程後に多量の水を投入して有機溶媒を徐々に水相へ抽出することにより、ポリマー粒子に含まれる溶媒の大部分を除去することができる。その後、同様の操作を複数回にわたって繰り返し、あるいは減圧蒸留などを低温で行うことにより、溶媒を除去することができる。
【0042】
前記染料の使用量は、従来と同程度の十分な色調を有する着色粒子を容易に作製することができる等の点から、ポリマー粒子100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは5〜60質量部である。
【0043】
(ポリマー粒子)
前記ポリマー粒子としては、特に制限されず、従来から好ましいものとされているポリマー粒子をそのまま用いることができるが、具体的には、例えば、スチレン、スチレンスルホン酸、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレングリコール−ジ−(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール−(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ブタジエン、イソプレン、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの(共)重合体よりなるポリマー粒子を用いることができる。
本発明で用いられるポリマー粒子は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0044】
ポリマー粒子としては、カルボキシ基又はスルホン酸(又はその塩の)基を有するポリマー粒子が好ましく、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−イタコン酸共重合体、スチレンスルホン酸(又はその塩の)(共)重合体等からなる粒子が好ましい。これらの粒子は、その表面にカルボキシ基やスルホン酸(又はその塩の)基が存在する傾向にある。ポリマー粒子の表面にスルホン酸(又はその塩の)基が存在すると、該基同士の静電的な反発力により、ポリマー粒子の分散安定性が向上すると考えられる。また、ポリマー粒子表面にカルボキシ基が存在する場合には、分散安定性に寄与する一方で、本発明の着色粒子を標識抗体として用いる場合には、カルボキシ基部分は、該着色粒子と抗体との化学結合部位となり得るため好ましい。
【0045】
また、ポリマー粒子は、染色工程及び必要に応じてなされる溶媒を除去する際に安定であることが好ましい。このため、例えばポリマー粒子自体がその表面に、カルボキシ基、スルホン酸基などの酸性基による負の電荷を多く有することが好ましい。
【0046】
ポリマー粒子としては、(a)不飽和カルボン酸単量体などの酸性基を有する単量体0〜10質量%と、(b)単量体(a)と共重合可能なその他の単量体90〜100質量%(ただし(a)+(b)=100質量%)とを乳化重合して得られる共重合体ラテックス粒子であることがより好ましく、さらに、前記単量体(b)として芳香族ビニル単量体を、単量体(b)の全量に対し、10〜100質量%の量で用いて得られる共重合体ラテックスであることが望ましい。
【0047】
ポリマー粒子を製造する方法としては、乳化重合法、シード重合法、ソープフリー重合法、懸濁重合法、膨潤重合法などが挙げられる。この際に得られるポリマー粒子の分子量は、特に制限されず、従来より用いられてきたポリマー粒子と同程度の粒子であってもよい。
なお、粒径分布が狭くて粒子形状がより真球に近いポリマー粒子を得るためには、これらの方法で重合した後に、適宜分級などの操作を行うことが好ましい。
【0048】
ポリマー粒子のSEM画像を用いた画像解析で測定した個数平均粒子径(Mean Number Diameter)は、所望の用途に応じ、適宜選択すればよいが、好ましくは0.01μm以上であり、好ましくは0.1〜100μmであり、より好ましくは100〜1000nmである。
前記個数平均粒子径は、次の式により算出される。
個数平均粒子径(MN)=Σ(粒子体積(Ni)×粒子径(di))/Σ(Ni)
【0049】
なお、個数平均粒子径はSEMで撮像した任意の粒子3000個についてその最大径を測定し、前記式により算出したものとする。測定方法は、JIS Z 8827−1の5(画像検出)及び6(画像解析)に従い、サンプル粒子数はJIS Z 8827−1附属書A(参考)「平均粒子径の推定に必要なサンプル粒子数に関する研究」に基づいて決定した。
【0050】
本発明の製造方法で得られる着色粒子を被検出物質の存在を該粒子の色により判別するための粒子(診断薬用着色粒子)として使用する場合、特にクロマトグラフィー用途の場合には、小径な粒子を使用すると、充分な検出感度が得られないことがあるため、個数平均粒子径が100nm〜1000nmのポリマー粒子が好ましい。
【0051】
ポリマー粒子の使用量は、通常、水系媒体1リットルあたり10〜500g、好ましくは10〜400gである。前記ポリマー粒子分散液1リットルあたりのポリマー粒子の濃度も前記範囲にあることが好ましい。
【0052】
なお、水系媒体中におけるポリマー粒子自体の安定性が著しく低い場合には、界面活性剤及び/又は分散安定剤を用いることにより、ポリマー粒子を安定して分散させることができる。
【0053】
(有機溶媒)
前記有機溶媒は、非水溶性の溶媒であり、染色すべきポリマー粒子を膨潤させ、あるいは一部溶解する溶媒であることが好ましい。この有機溶媒は、水(25℃)に対する溶解度が5重量%以下であることが好ましく、このような溶媒を用いることにより、該溶媒を含む染料液を微分散化又はエマルション化することが容易となり、安定した微分散体又はエマルションを得ることができる。
【0054】
このような有機溶媒としては、トルエン、クロロホルム、ベンゼン、エチルベンゼン、塩化メチレン、キシレン、メチルシクロヘキサン、メチルイソブチルケトン、トリクロロエチレン、クロルベンゼンなどを例示することができ、ビニルトルエン、メチルメタクリレート、ジビニルベンゼン、スチレン、ブチルアクリレートを使用することもできる。
本発明で用いられる有機溶媒は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0055】
好ましい有機溶媒としては、例えばメチルシクロヘキサン(SP値16.0[MPa
1/2])、メチルイソブチルケトン(SP値17.0[MPa
1/2])、キシレン(SP値18.0[MPa
1/2])、トルエン(SP値18.2[MPa
1/2])、クロロホルム(SP値19.0[MPa
1/2])などが挙げられる。
【0056】
前記有機溶媒の使用量は、通常、ポリマー粒子100gあたり25〜1000g、好ましくは50〜500gである。
【0057】
(溶解溶剤)
製造方法I〜IVでは、溶解溶剤を用いることを特徴とする。溶解溶剤は水溶性の溶剤であり、具体的には、水(25℃)に対する溶解度が5重量%を超える溶剤が好ましい。溶解溶剤を用いることで、該溶解溶剤が橋渡しとなって、染料がポリマー粒子(分散液)、好ましくは有機溶媒により膨潤したポリマー粒子(分散液)に移動することで、ポリマー粒子の染色が促進される。このことにより染色効率が高まり、従来の方法で得られた着色粒子と同程度の色調を有する着色粒子を作製するための染色時間が短縮される。従って、製造方法I〜IVは、このような着色粒子の生産性が高いという点で特に優れている。
【0058】
特に溶解溶剤として、ポリマー粒子を膨潤させあるいは一部溶解する溶剤を用いる場合には、ポリマー粒子が染料及び有機溶媒に接触する前に、溶解溶剤と接触させることが好ましい。このことにより、溶解溶剤によってポリマー粒子が膨潤し又は一部溶解し、その結果、該ポリマー粒子が染料によってより容易に染色されやすくなるものと推定される。
【0059】
前記溶解溶剤としては、該溶解溶剤のSP値と前記有機溶媒のSP値との差が0を超える溶剤であることが好ましく、例えば、テトラヒドロフラン(SP値19.4[MPa
1/2])、シクロヘキサノン(SP値19.6[MPa
1/2])、アセトン(SP値20.3[MPa
1/2])、2−ブタノール(SP値22.1[MPa
1/2])、イソプロピルアルコール(SP値23.5[MPa
1/2])が挙げられる。
本発明で用いられる溶解溶剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0060】
溶解溶剤と有機溶媒と水との関係をSP値で表すと、以下の関係を満たすことが好ましい。このような関係を有する溶解溶剤、有機溶媒及び水を用いることで、より短い染色時間で生産性よく従来と同程度の色調を有する着色粒子を作製することができる。
(i):SP
O<SP
1<SP
W
(ii):SP
W−SP
O>25[MPa
1/2]
(式中、「SP
1」は、前記溶解溶剤のSP値であり、「SP
O」は、前記有機溶媒のSP値であり、「SP
W」は、前記水のSP値である。なお、水のSP値は、SP
W=47.9[MPa
1/2]である。)
【0061】
さらに、前記(i)は、下記関係を満たすことが好ましい。
・SP
1−SP
O>1[MPa
1/2]
・SP
W−SP
1>20[MPa
1/2]
【0062】
なお、本発明におけるSP値は、Eric A.Grulke, Solubility Parameter Values, Wiley Database of Polymer Properties,(2003).の記載に基づいている。
【0063】
前記溶解溶剤の使用量は、前記水系媒体、有機溶媒、溶解溶剤、染料及びポリマー粒子の総量に対して、好ましくは30wt%以下であり、さらに好ましくは1〜15wt%である。前記溶解溶剤の量が多いと、ポリマー粒子または得られる着色粒子が凝集しやすくなる傾向にある。
【0064】
(水系媒体)
前記水系媒体としては、例えば水、各種の緩衝溶液などを挙げることができ、少なくとも50重量%以上を水が占める媒体を指す。
染料と有機溶媒の合計(染料液)に対する水系媒体の使用量は、染料と有機溶媒の合計(染料液)1リットルあたり0.5〜10リットルが好ましい。
【0065】
前記染料及び有機溶媒(染料液)は、通常は界面活性剤及び/又は分散安定剤の存在下において、水系媒体中に分散される。
界面活性剤及び/又は分散安定剤を用いる場合、界面活性剤及び/又は分散安定剤と水系媒体との混合物に染料及び有機溶媒(染料液)を加えて分散させることが好ましいが、界面活性剤及び/又は分散安定剤を予め染料及び有機溶媒(染料液)に混合したものを水系媒体に微分散させてもよい。
【0066】
ここで使用される界面活性剤及び/又は分散安定剤は、染色されるポリマー粒子に悪影響を与えなければ特に限定されない。界面活性剤及び/又は分散安定剤は、乳化力あるいは分散安定化能が大きいものが好ましく、また、例えば遠心分離などによる洗浄操作によってポリマー粒子の表面から容易に除去されるものが好ましい。
【0067】
界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、硫酸エステル塩などのアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を挙げることができ、ソディウムドデシルサルフェート、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレートなどを好ましいものとして挙げることができる。また、分散安定剤の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールメチルセルロースなどの水溶性高分子物質を挙げることができる。
界面活性剤及び分散安定剤は、それぞれ1種でもよく、2種以上でもよい。
【0068】
界面活性剤及び/又は分散安定剤の使用量は、通常、水系媒体1リットルあたり0.5〜20gである。
【0069】
<着色粒子>
前記製造方法で得られる着色粒子は、染料を含むポリマー粒子よりなる着色粒子である。染料の含有量は限定されないが、好ましくは染料の含有量が着色粒子1g当たり0.05g以上である着色粒子である。
【0070】
前記着色粒子のSEM画像を用いた画像解析で測定した個数平均粒子径は、所望の用途に応じ、適宜選択すればよいが、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.1〜100μmであり、特に好ましくは100〜1000nmである。
着色粒子の粒子径が前記範囲にあると、例えば、該着色粒子をイムノクロマトグラフ用途として使用した際に、該粒子が試験紙上を確実に流れ、かつ十分な検出感度を保持できるため好ましい。
【0071】
着色粒子の粒子径の変動係数(CV値)は20%以下であることが好ましい。20%を超えると、該着色粒子を用いて被検出物質の存在を該粒子の色により判別するための粒子(免疫測定用試薬)を調製する際のロット再現性が悪く、測定の再現性が低下することがある。CV値はより好ましくは15%以下である。前記粒子径の変動係数は、次式により算出される。
粒子径の変動係数(CV値)=粒子径の標準偏差/個数平均粒子径
なお、粒子径の標準偏差は、SEM画像を用いた画像解析で測定した値である。
【0072】
前記着色粒子は、表面に抗原(又は抗体)を結合することにより、抗原−抗体反応を利用した酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、ラテックス凝集法、イムノクロマトグラフ法等の生物学的反応を利用した種々の方法に好適に用いることができる。
【0073】
前記着色粒子の表面に抗原(又は抗体)を結合させる方法としては特に限定はされず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、抗原(又は抗体)を含む緩衝液中に着色粒子を浸漬させ、一定温度で一定時間インキュベートするなどの物理吸着による結合方法や、化学吸着による結合方法が挙げられる。中でも、カルボキシ基を有する着色粒子とアミノ基を有する抗原(又は抗体)とを用い、着色粒子のカルボキシ基と抗原(又は抗体)の含有するアミノ基を架橋させ、結合させる化学吸着がより好ましい。
【0074】
本発明によれば、充分に濃色な着色粒子を作製できることにより、着色粒子を被検出物質の存在を該粒子の色により判別するための粒子(免疫測定用試薬)として使用した際に、目視判定性が格段に向上し、検出感度を向上させることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の実施例における「部」は、特に制限のない限り「質量部」を意味する。
【0076】
[実施例1]
油溶性染料「Oil Red 5B special」((株)シラド化学製、CI Soluvent RED 27)6部を第1の溶媒としてトルエン(SP値:18.2[MPa
1/2])200部に溶解させて染料液を調製した。次いで、Sodium Dodecyl Sulfate(以下「SDS」ともいう。)2部を水200部に溶解することで得られた水系媒体(1%SDS水溶液)に前記染料液を加え、撹拌しながら超音波を照射することにより、染料エマルションを調製した。
【0077】
得られた染料エマルション408部及び第2の溶剤としてアセトン(SP値:20.3[MPa
1/2])25部それぞれをポリスチレン粒子分散液[固形分:30.8重量%、ポリスチレン粒子の個数平均粒子径:0.43μm、分散媒:水]324.68部と混合することで、混合液を調製した。得られた混合液を所定の時間撹拌して染色処理を行い、その一部の液を取り出して下記に示す方法で洗浄工程を行い、得られた着色粒子を含む分散液中の着色粒子の色調を測定した。着色粒子の色調(L)が約36になるまで混合液を撹拌する染色処理を繰り返した。なお、この混合液を調製後、得られる粒子の色調(L)が約36になるまでの混合液の総撹拌時間を染色時間という。
粒子の色調(L)が約36になった時の色調と、染色時間を表1に示す。
【0078】
洗浄工程:取り出した混合液から、スチームストリッピング法によりトルエンなどの溶媒を除去し、その後、遠心精製法により粒子を沈降させ、上澄み液を除去し、純水を加え再分散させた。この操作(遠心精製と再分散)を上澄みの着色がなくなるまで繰り返した。上澄みの着色がなくなった後、純水を加え、全固形分が10体積%となるように調整し、赤色に染色された着色粒子1を含む分散液を得た。
【0079】
[実施例2]
アセトンの代わりにテトラヒドロフラン(SP値:19.4[MPa
1/2])を用いた以外は実施例1と同様の処理を行って、着色粒子2を含む分散液を得た。この着色粒子2についてその色調と、染色時間を表1に示す。
【0080】
[実施例3]
アセトンの代わりにイソプロピルアルコール(SP値:23.5[MPa
1/2])を用いた以外は実施例1と同様の処理を行って、着色粒子3を含む分散液を得た。この着色粒子3についてその色調と、染色時間を表1に示す。
【0081】
[実施例4]
トルエンの代わりにキシレン(SP値18.0[MPa
1/2])を用いた以外は実施例1と同様の処理を行って、着色粒子4を含む分散液を得た。この着色粒子4についてその色調と、染色時間を表1に示す。
【0082】
[実施例5]
トルエンの代わりにキシレン(SP値18.0[MPa
1/2])、アセトンの代わりにテトラヒドロフラン(SP値:19.4[MPa
1/2])を用いた以外は実施例1と同様の処理を行って、着色粒子5を含む分散液を得た。この着色粒子5についてその色調と、染色時間を表1に示す。
【0083】
[実施例6]
実施例1と同様の方法で染料液及び水系媒体を調製し、混合した後、得られた混合液と、アセトン(SP値:20.3[MPa
1/2])25部と実施例1と同様のポリスチレン粒子分散液324.68部とを混合し、撹拌しながら10分間超音波を照射することで染料液を微分散させ、混合液を調製した。得られた混合液を用いた以外は実施例1と同様の染色処理を行って、着色粒子6を含む分散液を得た。この着色粒子6についてその色調と、染色時間を表1に示す。
【0084】
[比較例1]
アセトンを用いない以外は実施例1と同様の処理を行って、着色粒子6を含む分散液を得た。この着色粒子6についてその色調と、染色時間を表2に示す。比較例1では、溶解溶剤を用いていないため、染色時間が長くなった。
【0085】
[比較例2]
アセトンの代わりにトルエン(SP値:18.2[MPa
1/2])を用いた以外は実施例1と同様の処理を行って、着色粒子7を含む分散液を得た。この着色粒子7についてその色調と、染色時間を表2に示す。比較例2では、溶解溶剤を用いていないため、染色時間が長くなった。
【0086】
[比較例3]
アセトンの代わりにヘキサン(SP値:14.9[MPa
1/2])を用いた以外は実施例1と同様の処理を行って、着色粒子8を含む分散液を得た。この着色粒子8についてその色調と、染色時間を表2に示す。比較例3では、溶解溶剤を用いていないため、染色時間が長くなった。
【0087】
[比較例4]
トルエンの代わりにイソプロピルアルコール(SP値:23.5[MPa
1/2])、アセトンの代わりに1−プロピルアルコール(SP値:24.3[MPa
1/2])を用いた以外は実施例1と同様の処理を行って、着色粒子9を含む分散液を得た。この着色粒子9についてその色調と、染色時間を表2に示す。比較例4では、有機溶媒を用いていないため、染色時間が長くなった。
【0088】
[比較例5]
トルエンの代わりにメタノール(SP値:29.7[MPa
1/2])を用いた以外は実施例1と同様の処理を行って、着色粒子10を含む分散液を得た。この着色粒子10についてその色調と、染色時間を表2に示す。比較例5では、有機溶媒を用いていないため、染色時間が長くなった。
【0089】
[試験例1:色調の測定方法]
着色粒子の色調Lab値の測定には、非接触色彩色差計CR241(コニカミノルタ(株)製)を用いた。Lab値は国際照明委員会(CIE)で規格化されており、人間の目の非線形な反応を擬似して、知覚される色を明度・色相・彩度の3要素で示す表色系である。測定方法は、色彩色差計の白色校正を行い、焦点を合わせたのち、スライドガラスに前記洗浄工程で得られた着色粒子を含む分散液(全固形分:10体積%)を10μl載せて迅速にLab測定を行った。測定データのL値は色の明度の指標であり、L=0は黒、L=100は白の拡散色を表す。そのため、L=0に近づくほど着色粒子が濃色であることを示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
なお、表2中の「SP
1」は、前記第2の溶剤のSP値であり、「SP
O」は、前記第1の溶媒のSP値である。