【実施例】
【0050】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
<油脂の上昇融点の測定>
実施例及び比較例で用いた油脂について、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法2.3.4.2−90 融点(上昇融点)」に記載の方法に基づき上昇融点を測定した。なお、油脂1又は油脂2が2種類以上の油脂を含む場合は、それら2種類以上の油脂を混合して得た油脂について、上記方法により上昇融点を測定した。
【0052】
<油滴の平均粒径及び標準偏差の測定>
実施例及び比較例で得られた起泡性クリームについて、レーザー解析/散乱式粒度分布測定装置LA−920((株)堀場製作所)で測定した体積基準分布の平均粒子径を、油滴の平均粒径とし、体積基準の粒子径分布の標準偏差(ばらつき)を油滴の粒径分布の標準偏差とした。各表では、μm単位の標準偏差の値と共に、この標準偏差の値を、平均粒径に対する割合に換算した値を示す。後者が請求項に記載の値に対応する。
【0053】
<起泡性クリームの乳化安定性評価法>
実施例及び比較例で得られた起泡性クリーム60gを100ccビーカーに入れ、それを直径4cmの攪拌ペラで120rpmの条件で攪拌し、流動性がなくなるまでに要する時間を、乳化安定性の評価値とした。前記評価値が高いほど乳化安定性は優れていることになるが、前記評価値が30分以上であれば、起泡性クリームの乳化安定性は良好であるといえる。
【0054】
<ホイップ時間評価法>
カントーミキサー(型番:CS−20:関東混合機工業株式会社製)に実施例及び比較例で得られた起泡性クリーム4kgを入れ、高速攪拌条件(452rpm)でホイップし、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでの時間を、ホイップ時間の評価値とした。ホイップ時間は12分以下であれば、商品として問題がないレベルである。なお、ここでトッピングするのに適度な硬さとは、ホイップ直後のサンプルを容器に入れた後、クリープメーター(株式会社山電製「RE2−33005S」)を用いて直径16mmの円柱状のプランジャーにて、速度5mm/sの速さで1cm貫入時の最大荷重が0.25〜0.35Nになる硬さのことである。
【0055】
<オーバーラン評価法>
オーバーランとは、ホイップドクリームに含まれる空気の割合を%で示したもので、次式により求めた。
オーバーラン(%)=[(一定容積の起泡性クリームの重量)−(前記起泡性クリームと同容積のホイップドクリームの重量)]÷(前記起泡性クリームと同容積のホイップドクリームの重量)×100
【0056】
<ホイップドクリームの常温保型性の評価>
カントーミキサー(CS型20:関東混合機工業株式会社製)に、実施例及び比較例で得られた起泡性クリーム4kgを入れ、それらの品温を5℃に調整し、高速撹拌条件(452rpm)でホイップし、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップし、ホイップドクリームを得た。なお、実施例及び比較例では以上の方法によりホイップドクリームを得た。
【0057】
得られたホイップドクリームを絞り袋に詰め、出口が星型の口金(切り込みの個数8個)を用いて、透明なポリカップ容器に、高さ6cm程度、底辺の直径7cm程度で、できるだけ空洞ができないように渦を巻きながら三角錐状にホイップドクリームを40g絞り、そのホイップドクリームの塊の高さを測定した。次いで、当該塊を25℃で24時間保持した後、再びその高さを測定し、絞った直後の高さが何%残っているかを、常温保型性の評価値とした。該評価値が高いほど常温保型性は良好であり、70%以上では商品性を有し、70%未満では商品性がない。
【0058】
<ホイップドクリームの口溶けの評価>
実施例及び比較例で得られたホイップドクリームを熟練のパネラー10名が食して官能評価を行い、その評価点を平均してホイップドクリームの口溶けの評価結果とした。その際の評価基準は以下の通りである。
【0059】
5点:口溶けがかなり軽い
4点:口溶けが軽い
3点:口溶けが比較的軽い
2点:口溶けがやや重い
1点:口溶けが重い
【0060】
<ホイップドクリームの風味の評価>
実施例及び比較例で得られたホイップドクリームを熟練したパネラー10名が食して官能評価を行い、それの評価点を平均してホイップドクリームの風味の評価結果とした。その際の評価基準は以下の通りである。
【0061】
5点:フレーバーの風味が強く感じられる
4点:フレーバーの風味が感じられる
3点:フレーバーの風味が少し感じられる
2点:フレーバーの風味が殆んど感じられない
1点:フレーバーの風味が感じられない
【0062】
<総合評価>
乳化安定性、オーバーラン、常温保型性、口溶け、風味の各評価結果を基に、総合評価を行った。その際の評価基準は以下の通りである。
【0063】
A:乳化安定性が30分以上、オーバーランが100%以上140%以下、常温保型性が85%以上100%以下、口溶けが4.0点以上5.0点以下、風味が4.0点以上5.0点以下の全てを満たすもの。
【0064】
B:乳化安定性が30分以上、オーバーランが90%以上140%以下、常温保型性が75%以上100%以下、口溶けが3.5点以上5.0点以下、風味が3.5点以上5.0点以下であって、且つオーバーランが90%以上100%未満、常温保型性が75%以上80%未満、口溶けが3.5点以上4.0点未満、風味が3.5点以上4.0点未満のうち少なくとも一つを満たすもの。
【0065】
C:乳化安定性が30分以上、オーバーランが90%以上150%以下、常温保型性が70%以上100%以下、口溶けが3.0点以上5.0点以下、風味が3.0点以上5.0点以下であって、且つオーバーランが140%を超え150%以下、常温保型性が70%以上75%未満、口溶けが3.0点以上3.5点未満、風味が3.0点以上3.5点未満のうち少なくとも一つを満たすもの。
【0066】
D:乳化安定性が30分未満、オーバーランが90%未満もしくは150%を超え、常温保型性が70%未満、口溶けが3.0点未満、風味が3.0点未満のうち何れか1つに該当するもの。
【0067】
E:乳化安定性が30分未満、オーバーランが90%未満もしくは150%を超え、常温保型性が70%未満、口溶けが3.0点未満、風味が3.0点未満のうち2つ以上に該当するもの。
【0068】
<実施例・比較例で使用した原料>
1)(株)カネカ製「パーム油中融点部」(上昇融点:27℃)
2)(株)カネカ製「パーム核油」(上昇融点:27℃)
3)(株)カネカ製「パーム核ステアリン」(上昇融点:31℃)
4)理研香料工業(株)製「牛乳フレーバー3244Z(OS)」
5)Archer Daniels Midland社製「Yelkin TS」
6)三菱化学フーズ(株)製「P−170」(HLB:1)
7)太陽化学社製「サンファットPS−66」(HLB:4)
8)阪本薬品工業(株)製「SYグリスターMS−3S」(HLB:8.4)
9)(株)カネカ製「パーム核硬化油」(上昇融点:36℃)
10)よつ葉乳業(株)製「脱脂粉乳」(水分:4重量%)
11)林原(株)製「サンマルトミドリ」(水分:7重量%)
12)フジ日本精糖(株)製「グラニュー糖FNGMS」(水分:0重量%)
13)昭和産業(株)製「MR25−50」(水分:24.5重量%)
14)阪本薬品工業(株)製「SYグリスターMS−5S」(HLB:11.6)
15)三菱化学フーズ(株)製「P−1670」(HLB:16)
16)Archer Daniels Midland社製「ノヴァザン200メッシュ」(水分:7重量%)
17)星和(株)製「グアーガムXS−5000」(水分:14重量%)
【0069】
(実施例1)
油脂1としてパーム中融点部(上昇融点:27℃)9.9重量部を用い、これに、ミルクフレーバー0.1重量部、大豆レシチン0.026重量部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB:1)0.013重量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:4)0.029重量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:8.4)0.029重量部を添加し、65℃で溶解して第1油相を作製した。
【0070】
更に、油脂2としてパーム核ステアリン(上昇融点:31℃)25重量部を用い、これに、大豆レシチン0.064重量部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB:1)0.033重量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:4)0.071重量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:8.4)0.071重量部を添加し、65℃で溶解して第2油相を作製した。
【0071】
一方、脱脂粉乳8.5重量部、マルトース4.5重量部、グラニュー糖2.4重量部、還元水飴20重量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:11.6)0.15重量部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB:16)0.03重量部、キサンタンガム0.003重量部、グアーガム0.0225重量部を、60℃の水29.0585重量部に溶解して水相を作製した。
【0072】
前記水相に、前記第1油相を混合撹拌して予備乳化後、次いで前記第2油相を混合撹拌し、さらに20分間予備乳化後、高圧ホモジナイザーを用いて4MPaの圧力で均質化処理した後に、UHT殺菌機(スチームインジェクション)を用いて142℃で4秒間殺菌処理した。その後、再び高圧ホモジナイザーを用いて4MPaの圧力で均質化処理し、その後、冷却機で5℃まで冷却したものを容器に充填し、起泡性クリームを得た。得られた起泡性クリームの乳化安定性、及び、この起泡性クリームをホイップして得たホイップドクリームのオーバーラン、常温保型性、口溶け、風味について表1にまとめた。
【0073】
【表1】
【0074】
(実施例2)
表1の配合に従い、油脂1のパーム中融点部の一部をパーム核油(上昇融点:27℃)に代えた以外は、実施例1と同様にして、起泡性クリームを得た。得られた起泡性クリームの乳化安定性、及び、この起泡性クリームをホイップして得たホイップドクリームのオーバーラン、常温保型性、口溶け、風味について表1にまとめた。
【0075】
表1から明らかなように、実施例1の起泡性クリーム、実施例2の起泡性クリームともに、乳化安定性、オーバーラン、常温保型性、口溶け、風味は良好であった。特に、油脂1と油脂2を合計した全油脂中のラウリン系油脂の含有量が88.9重量%と多い実施例2の起泡性クリームは、同含有量が71.6重量%の実施例1の起泡性クリームよりも、常温保型性と口溶けが優れており、風味も強く感じられた。
【0076】
(実施例3)
表1の配合に従い、油脂2のパーム核ステアリンの一部をパーム核硬化油(上昇融点:36℃)に代えた以外は、実施例2と同様にして、起泡性クリームを得た。得られた起泡性クリームの乳化安定性、及び、この起泡性クリームをホイップして得たホイップドクリームのオーバーラン、常温保型性、口溶け、風味について表1にまとめた。
【0077】
表1から明らかなように、油脂2の上昇融点が34℃の起泡性クリーム(実施例3)は、油脂2の上昇融点が31℃の起泡性クリーム(実施例2)に比べ、口溶けが若干低下したものの、常温保型性が向上し、風味も強く感じられた。
【0078】
(比較例1)
表1の配合に従い、油脂1のパーム中融点部の配合量9.9重量部を3.5重量部に減らし、油脂2のパーム核ステアリンの配合量25重量部を31.4重量部に増やし、更に第1油相及び第2油相を併せた全相体中の乳化剤の種類と添加量は同じで、第1油相及び第2油相中の乳化剤の添加量を油脂1/油脂2(重量比)に合わせて変更した以外は、実施例1と同様にして、起泡性クリームを得た。得られた起泡性クリームの乳化安定性、及び、この起泡性クリームをホイップして得たホイップドクリームのオーバーラン、常温保型性、口溶け、風味について表1にまとめた。
【0079】
表1から明らかなように、油脂1と油脂2の重量比が10/90の比較例1の起泡性クリームは、フレーバーの含有量が実施例1と同じであるにも関わらず、風味が弱くなり、好ましくなかった。
【0080】
(比較例2)
表1の配合に従い、第2油相の原材料を全て第1油相に添加して1つの油相とした以外は、実施例1と同様にして、起泡性クリームを得た。得られた起泡性クリームの乳化安定性、及び、この起泡性クリームをホイップして得たホイップドクリームのオーバーラン、常温保型性、口溶け、風味について表1にまとめた。
【0081】
表1から明らかなように、油脂1と油脂2の重量比が100/0で1つの油相となった比較例2の起泡性クリームは、常温保型性が低下し、フレーバーの含有量が実施例1と同じであるにも関わらず風味も弱くなって、商品性のないものであった。
【0082】
(実施例4,5、比較例3,4)
表2の配合に従い、142℃で4秒間殺菌処理した後の高圧ホモジナイザーでの処理圧力を変更した以外は、実施例3と同様にして、起泡性クリームを得た。得られた起泡性クリームの乳化安定性、及び、この起泡性クリームをホイップして得たホイップドクリームのオーバーラン、常温保型性、口溶け、風味について表2にまとめた。
【0083】
【表2】
【0084】
表2から明らかなように、油滴の平均粒径が0.8〜1.5μmの範囲にあり、且つ油滴の粒径分布の標準偏差が平均粒径の50%以下の起泡性クリーム(実施例3〜5)は、乳化安定性は30分以上で、オーバーランは97〜114%で、常温保型性は高く、口溶け、風味は良好であった。一方、油滴の平均粒径が0.63μmで、油滴の粒径分布の標準偏差が平均粒径の52.4%の起泡性クリーム(比較例3)は、乳化安定性、オーバーラン、常温保型性、口溶けは良好であったが、フレーバーの含有量が各実施例と同じであるにも関わらず風味が弱く感じられた。また、油滴の平均粒径が1.58μmの起泡性クリーム(比較例4)は、オーバーランは92%で、口溶け、風味は良好であったが、乳化安定性と常温保型性が劣り、商品性のないものであった。
【0085】
(実施例6、比較例5)
表3の配合に従い、第1油相のミルクフレーバーの一部を第2油相に添加した以外は、実施例3と同様にして、起泡性クリームを得た。得られた起泡性クリームの乳化安定性、及び、この起泡性クリームをホイップして得たホイップドクリームのオーバーラン、常温保型性、口溶け、風味について表3にまとめた。
【0086】
【表3】
【0087】
表3から明らかなように、油滴A中の親油性フレーバー量と油滴B中の親油性フレーバーの重量比が95/5の起泡性クリーム(実施例6)は、当該重量比が100/0の起泡性クリーム(実施例3)に比べ、風味が若干低下したものの商品性があるものであった。一方、重量比が70/30の起泡性クリーム(比較例5)は、フレーバーの含有量が実施例3と同じであるにも関わらず風味の低下が大きく、商品性のないものであった。