特許第6774278号(P6774278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000002
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000003
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000004
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000005
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000006
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000007
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000008
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000009
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000010
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000011
  • 特許6774278-車輪用軸受装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774278
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20201012BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20201012BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20201012BHJP
【FI】
   F16C33/78 Z
   F16C19/18
   F16J15/3232 201
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-179828(P2016-179828)
(22)【出願日】2016年9月14日
(65)【公開番号】特開2018-44611(P2018-44611A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 司
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−154374(JP,A)
【文献】 実開平5−22852(JP,U)
【文献】 特開2009−222183(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0178010(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78,19/18
F16J 15/3232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
芯金が前記外方部材の開口部に嵌合され、金属環が前記芯金に対向するようにして前記内方部材の外周部に嵌合され、前記芯金に弾性体からなるシールリップが設けられ、前記金属環に前記シールリップが接触することで前記外方部材と内方部材との間をシールするシール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記金属環の外縁よりも径方向外側において前記金属環を囲うように突出する円環状の外方部材側堰部が前記芯金に設けられ、
前記外方部材側堰部の内周面に潤滑材を保持する外方部材側拡径部が形成され
前記金属環のシールリップ接触位置よりも径方向外側に、前記外方部材に向かって突出する円環状の内方部材側堰部が前記金属環に設けられ、
前記内方部材側堰部の内周面に前記潤滑材を保持する内方部材側拡径部が形成され、
前記潤滑材はグリースであり、
前記外方部材側堰部および前記内方部材側堰部は、前記外方部材の外周面よりも径方向内側に設けられ
車輪用軸受装置。
【請求項2】
内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
芯金が前記外方部材の開口部に嵌合され、金属環が前記芯金に対向するようにして前記内方部材の外周部に嵌合され、前記芯金に弾性体からなるシールリップが設けられ、前記金属環に前記シールリップが接触することで前記外方部材と内方部材との間をシールするシール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記金属環の外縁よりも径方向外側において前記金属環を囲うように突出する円環状の外方部材側堰部が前記外方部材に設けられ、
前記外方部材側堰部の内周面に潤滑材を保持する外方部材側拡径部が形成され
前記金属環のシールリップ接触位置よりも径方向外側に、前記外方部材に向かって突出する円環状の内方部材側堰部が前記金属環に設けられ、
前記内方部材側堰部の内周面に前記潤滑材を保持する内方部材側拡径部が形成され、
前記潤滑材はグリースであり、
前記内方部材側堰部は、前記外方部材の外周面よりも径方向内側に設けられ
車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記内方部材側堰部の先端と外方部材側拡径部とが、径方向で重複するように構成される
請求項または請求項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記外方部材側拡径部と内方部材側拡径部とのうち少なくとも一方が円環状の溝に形成される
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記外方部材側拡径部と内方部材側拡径部とのうち少なくとも一方が円環状の凹曲面に形成される
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記外方部材側堰部と内方部材側堰部とのうち少なくとも一方の内径が先端に向かって縮径するように形成される
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、車輪に接続されるハブ輪が転動体を介して回転自在に支持されている。車輪用軸受装置は、外方部材内部のグリースが減ったり雨水や粉塵が入り込んだりしたりすることで転動体や内方部材の軌道面が損傷して軸受寿命が短くなる。このため、車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材との隙間から内部に封入されているグリースの漏出を防止するとともに外部から雨水や粉塵等の入り込みを防止するシール部材がナックル側(インナー側)とハブ輪側(アウター側)とに設けられている。
【0003】
このような車輪用軸受装置において、軸受寿命を長くするために、シール部材に複数のシール機構を設けてシール性を向上させているものがある。シール部材には、複数のシールリップによってラビリンスが構成されている。このように構成することで、シール部材は、ラビリンスによりシールリップ先端への雨水や粉塵の入り込みが抑制され、シールリップ先端の損傷を防止し、シール性を向上させることができる。また、ハブ輪側のシール部材は、良好なシール性能を維持するためにハブ輪に沿うように形成された金属環にシールリップが接触するように構成されている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0004】
特許文献1に記載の軸受装置(車輪用軸受装置)におけるフランジ側(ハブ輪側)のベアリングシール(シール部材)は、芯金に固着された複数のシールリップおよび最外径側であってフランジ側に向かって延びるように設けられる堰部を備えるシール体と、内輪(内方部材)のハブ輪に勘合されている金属環とによって構成されている。金属環の外径側端部には、車体側に向かって延びる延出部が形成されている。シール体の堰部と金属環の延出部とは径方向において重なるように設けられ、ラビリンスを構成している。このような構成によって、フランジ側(ハブ輪側)のシール部材は、シール体と金属環とによって内輪と外輪との間にグリースを封入するとともに泥土や異物の混入を防止している。
【0005】
しかし、軸受装置の回転による温度上昇によってグリースの粘度が低下した場合、シールリップに塗布されているグリースが遠心力により流れたり飛散したりする場合がある。この際、ベアリングシールは、シール体の堰部や金属環の延出部によって飛散するグリースを受け止めることができる。しかし、シール体の堰部や金属環の延出部の径方向に対する角度によっては、堰部や延出部に溜まったグリースが遠心力によって外部に流出して周囲に飛散する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−14407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、シールリップに塗布された潤滑剤の外部への流出および飛散を抑制することができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、芯金が前記外方部材の開口部に嵌合され、金属環が前記芯金に対向するようにして前記内方部材の外周部に嵌合され、前記芯金に弾性体からなるシールリップが設けられ、前記金属環に前記シールリップが接触することで前記外方部材と内方部材との間をシールするシール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記金属環の外縁よりも径方向外側において前記金属環を囲うように突出する円環状の外方部材側堰部が前記芯金に設けられ、前記外方部材側堰部の内周面に潤滑材を保持する外方部材側拡径部が形成されるものである。
【0009】
車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、芯金が前記外方部材の開口部に嵌合され、金属環が前記芯金に対向するようにして前記内方部材の外周部に嵌合され、前記芯金に弾性体からなるシールリップが設けられ、前記金属環に前記シールリップが接触することで前記外方部材と内方部材との間をシールするシール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、前記金属環の外縁よりも径方向外側において前記金属環を囲うように突出する円環状の外方部材側堰部が前記外方部材に設けられ、前記外方部材側堰部の内周面に潤滑材を保持する外方部材側拡径部が形成されるものである。
【0010】
前記車輪用軸受装置は、前記金属環のシールリップ接触位置よりも径方向外側に、前記外方部材に向かって突出する円環状の内方部材側堰部が前記金属環に設けられるものである。
【0011】
前記車輪用軸受装置は、前記内方部材側堰部の内周面に潤滑材を保持する内方部材側拡径部が形成されるものである。
【0012】
前記車輪用軸受装置は、前記内方部材側堰部の先端と外方部材側拡径部とが、径方向で重複するように構成されるものである。
【0013】
前記車輪用軸受装置は、前記外方部材側拡径部と内方部材側拡径部とのうち少なくとも一方が円環状の溝に形成されるものである。
【0014】
前記車輪用軸受装置は、前記外方部材側拡径部と内方部材側拡径部とのうち少なくとも一方が円環状の凹曲面に形成されるものである。
【0015】
前記車輪用軸受装置は、前記外方部材側堰部と内方部材側堰部とのうち少なくとも一方の内径が先端に向かって縮径するように形成されるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
即ち、車輪用軸受装置によれば、シールリップに塗布されていた潤滑材が外部に向かって流出しても外方部材側拡径部によって保持される。これにより、シールリップに塗布された潤滑剤の外部への流出および飛散を抑制することができる。
【0018】
車輪用軸受装置によれば、シールリップに塗布されていた潤滑材が外部に向かって流出しても内方部材側堰部を伝って内方部材側拡径部または外方部材側拡径部によって保持される。これにより、シールリップに塗布された潤滑剤の外部への流出および飛散を抑制することができる。
【0019】
車輪用軸受装置によれば、シールリップに塗布されていた潤滑材が外部に向かって流出しても内方部材側堰部によって外方部材側拡径部に案内される。これにより、シールリップに塗布された潤滑剤の外部への流出および飛散を抑制することができる。
【0020】
車輪用軸受装置によれば、遠心力により潤滑剤が任意の径方向に飛散しても前記外方部材側拡径部と内方部材側拡径部とのうち少なくとも一方によって保持される。これにより、シールリップに塗布された潤滑剤の外部への流出および飛散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す斜視図。
図2】車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す断面図。
図3】車輪用軸受装置の第一実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
図4】(a)車輪用軸受装置の第一実施形態において遠心力によって外径方向に流出したグリースが内方部材側堰部に受け止められている状態を示す拡大断面図、(b)同じく内方部材側堰部に受け止められていたグリースが外方部材側拡径部に案内されている状態を示す拡大断面図。
図5】車輪用軸受装置の第二実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
図6】車輪用軸受装置の第二施形態において内方部材側堰部に受け止められていたグリースが外方部材側拡径部に案内されている状態を示す拡大断面図。
図7】車輪用軸受装置の第三実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
図8】車輪用軸受装置の第三施形態において内方部材側堰部に受け止められていたグリースが外方部材側拡径部に案内されている状態を示す拡大断面図。
図9】車輪用軸受装置の第四実施形態における外方部材の外方部材側堰部およびアウター側シール部材を示す拡大断面図。
図10】車輪用軸受装置の他の実施形態として内方部材側堰部と外方部材側堰部とに拡径部が形成されているアウター側シール部材を示す拡大断面図。
図11】車輪用軸受装置の他の実施形態として内方部材側堰部の内周面が外方部材側堰部にグリースを積極的に案内するテーパ状に形成されているアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図1から図3を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0023】
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外輪2、ハブ輪3、内輪4、転動体である二列のボール列5(図2参照)、インナー側シール部材6およびアウター側シール部材7を具備する。
【0024】
図2に示すように、外方部材である外輪2は、ハブ輪3と内輪4とを支持するものである。外輪2は、略円筒状に形成され、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外輪2は、一側端が車載時に車両側であるインナー側に配置され、他側端が車輪側であるアウター側に配置される(以下、車載時の車両側を「インナー側」、車載時の車輪側を「アウター側」と記す)。外輪2の内周面には、周方向に環状の外側転走面2aがインナー側とアウター側とに平行になるように形成されている。各外側転走面2a・2aには、高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲とする硬化層が形成されている。外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材6が嵌合可能なインナー側開口部2bが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材7が嵌合可能なアウター側開口部2cが形成されている。外輪2の外周面には、図示しない懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ2dが一体に形成されている。
【0025】
内方部材の一部であるハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持するものである。ハブ輪3は、有底円筒状に形成され、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが軸方向断面視で円弧状に拡径するように一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置にハブボルト3cが設けられている(図1参照)。また、ハブ輪3のアウター側の外周面には、周方向に環状の内側転走面3dが形成されている。
【0026】
ハブ輪3のインナー側端部の小径段部3aは、内方部材の一部である内輪4が圧入されている。内方部材は、ハブ輪3と内輪4とによって構成されている。内輪4は、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側転走面4aが形成されている。内輪4は、ハブ輪3のインナー側端が径方向の外側に向かって塑性変形(加締め)されることで所定の予圧が付与された状態でハブ輪3のインナー側端部に一体的に固定されている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側転走面4aが構成されている。ハブ輪3は、インナー側の小径段部3aからアウター側の内側転走面3dまでを高周波焼入れにより表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。これにより、ハブ輪3は、車輪取り付けフランジ3bに付加される回転曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有し、ハブ輪3の耐久性が向上する。なお、インナー側端の加締め部分は鍛造加工後の表面硬さのままである。ハブ輪3は、インナー側端部の内輪4に形成されている内側転走面4aが外輪2のインナー側の外側転走面2aに対向し、アウター側に形成されている内側転走面3dが外輪2のアウター側の外側転走面2aに対向するように配置されている。
【0027】
転動体である二列のボール列5は、ハブ輪3を回転自在に支持するものである。二列のボール列5は、複数のボールが保持器によって環状に保持されている。二列のボール列5は、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。二列のボール列5のうち一方のボール列5は、内輪4に形成されている内側転走面4aと、それに対向している外輪2のインナー側の外側転走面2aとの間に転動自在に挟まれている。二列のボール列5のうち他方のボール列5は、ハブ輪3に形成されている内側転走面3dと、それに対向している外輪2のアウター側の外側転走面2aとの間に転動自在に挟まれている。つまり、二列のボール列5は、外輪2に対してハブ輪3と内輪4とを回転自在に支持している。このように、車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4と二列のボール列5とから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、本実施形態において、車輪用軸受装置1には、複列アンギュラ玉軸受が構成されているがこれに限定されるものではなく、複列円錐ころ軸受等で構成されていても良い。
【0028】
インナー側シール部材6は、外輪2と内輪4との隙間を塞ぐものである。インナー側シール部材6は、略円筒状のシール板6aと略円筒状のスリンガ6bとを具備する。インナー側シール部材6は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)等によって構成されているシール板6aに、弾性体であるNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなる複数の一側シールリップが加硫接着されている。スリンガ6bは、シール板6aと同等の鋼板によって構成されている。インナー側シール部材6は、シール板6aが外輪2のインナー側開口部2bに嵌合され、スリンガ6bが内輪4に嵌合され、パックシールを構成している。インナー側シール部材6は、シール板6aの一側シールリップが油膜を介してスリンガ6bと接触することでスリンガ6bに対して摺動可能に構成されている。これにより、インナー側シール部材6は、外輪2の内部からの潤滑グリースの漏れ、および外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止する。
【0029】
図3に示すように、アウター側シール部材7は、外輪2のアウター側開口部2cとハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材7は、複数のシールリップが加硫接着された略円筒状の芯金8と金属環9とによって構成されている。
【0030】
芯金8は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)によって構成されている。芯金8は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、外方部材のアウター側開口部2cに嵌合可能な円筒部8aと円板部8bとが形成されている。
【0031】
芯金8の円板部8bの板面には、それぞれ円環状に形成されているラジアルリップ8c、内側アキシアルリップ8dおよび外側アキシアルリップ8eが一体に加硫接着されている。ラジアルリップ8cは、円板部8bの最も内径側に形成されている。内側アキシアルリップ8dは、ラジアルリップ8cよりも外径側に形成されている。外側アキシアルリップ8eは、内側アキシアルリップ8dよりも外径側に形成されている。ラジアルリップ8c、内側アキシアルリップ8dおよび外側アキシアルリップ8eは、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムによって構成されている。
【0032】
さらに、芯金8は、外方部材のアウター側開口部2cに嵌合されない側(ハブ輪3側)の側面に円環状の外方部材側堰部8fが加硫接着されている。外方部材側堰部8fは、外側アキシアルリップ8eよりも外径側において突出するように形成されている。つまり、外方部材側堰部8fは、ラジアルリップ8c、内側アキシアルリップ8dおよび外側アキシアルリップ8eを囲う円筒状の壁として形成されている。外方部材側堰部8fの内周面には、外方部材側拡径部8gが形成されている。外方部材側拡径部8gは、外方部材側堰部8fの内周面が全周に渡って所定の幅で拡径した円環状の溝に形成されている。なお、本実施形態において、外方部材側堰部8fは、芯金8に合成ゴムが加硫接着されて形成されているがこれに限定するものではなく、芯金8を屈曲させる構成でもよい。
【0033】
アウター側シール部材7の金属環9は、耐食性を有する鋼板であるオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)によって構成されている。金属環9は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲されて一方の端部が拡径している円筒状に形成されている。金属環9は、内方部材に嵌合可能な円筒部9aと軸方向断面視で略円弧状の湾曲部9bと径方向に延びる円板部9cと円筒部側に向かって突出する円環状の内方部材側堰部9dとが一体に形成されている。円筒部9aは、金属環9の一側端部に形成されている。湾曲部9bは円筒部9aと隣接して連続的に形成されている。円板部9cは、湾曲部9bと隣接して金属環9の他側端部に連続的に形成されている。内方部材側堰部9dは、円板部9cの外縁において円筒部9a側に突出するように形成されている。なお、本実施形態において、内方部材側堰部9dは、金属環9を屈曲させて形成されているがこれに限定するものではなく、合成ゴムを加硫接着する構成でもよい。
【0034】
アウター側シール部材7は、芯金8の円筒部8aが外輪2のアウター側開口部2cに嵌合されている。また、アウター側シール部材7は、金属環9の円筒部9aがハブ輪3に嵌合されている。この際、アウター側シール部材7は、芯金8に一体に加硫接着されている各シールリップのうち、ラジアルリップ8cが潤滑材であるグリースの油膜を介して金属環9の円筒部9aに接触し、内側アキシアルリップ8dがグリースの油膜を介して金属環9の湾曲部9bに接触し、外側アキシアルリップ8eがグリースの油膜を介して金属環9の円板部9cに接触するように配置されている。アウター側シール部材7は、各シールリップがグリースの油膜を介して金属環9に接触することで金属環9に対して摺動可能に構成されている。また、金属環9は、鋼板の表面粗さがRa0.2〜0.6の範囲になるように形成されている。これにより、アウター側シール部材7は、各シールリップと金属環9との良好な摺動状態を確保し、外輪2のアウター側開口部2cから内部のグリースの漏れおよび外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止する。
【0035】
アウター側シール部材7は、ラジアルリップ8c、内側アキシアルリップ8dおよび外側アキシアルリップ8eが金属環9の内方部材側堰部9dの内径側に配置されている。つまり、内方部材側堰部9dは、ラジアルリップ8c、内側アキシアルリップ8dおよび外側アキシアルリップ8eを囲う円筒状の壁として配置されている。また、アウター側シール部材7は、内方部材側堰部9dが芯金8の外方部材側堰部8fの内側に配置されている。つまり、外方部材側堰部8fは、内方部材側堰部9dを囲うように配置されている。これにより、アウター側シール部材7は、芯金8と内方部材側堰部9dの先端との隙間が外方部材側堰部8fによって外部から視認できないように構成されている。
【0036】
さらに、アウター側シール部材7は、内方部材側堰部9dの先端と外方部材側堰部8fの外方部材側拡径部8gとが径方向から見て重複するように配置されている。つまり、アウター側シール部材7は、内方部材側堰部9dに到達したグリースを内方部材側堰部9dが外方部材側拡径部8gに流入させるように構成されている。外方部材側拡径部8gは、各シールリップ部に塗布されているグリースを全て保持できる程度の体積(例えば、グリース密度0.9g/cmのグリースが1g塗布されている場合において1.1cm)を有するように形成されている。これにより、アウター側シール部材7は、内方部材側堰部9d、外方部材側堰部8fが障壁となってグリースの流出および飛散を防ぐだけでなく、外方部材側拡径部8gが内方部材側堰部9dから流出したり飛散したりしたグリースを捕獲することで外部へのグリースの流出および飛散を防止する。
【0037】
このように構成される車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4と二列のボール列5とから複列アンギュラ玉軸受が構成され、ハブ輪3が二列のボール列5を介して外輪2に回転自在に支持されている。さらに、車輪用軸受装置1は、インナー側シール部材6によって外輪2と内輪4との隙間が塞がれ、アウター側シール部材7によって外輪2とハブ輪3との隙間が塞がれることで内部のグリースの流出や水や粉塵等の流入を防止している。また、車輪用軸受装置1は、アウター側シール部材7に設けられる内方部材側堰部9dと外方部材側堰部8fとによって各シールリップに塗布されているグリースの流出および飛散が抑制される。
【0038】
次に、図4を用いて、アウター側シール部材7の作用について詳細に説明する。車輪用軸受装置1の内部に封入されているグリースgrは、ハブ輪3の回転に伴う車輪用軸受装置1の温度上昇により粘度が低下する。
【0039】
図4(a)に示すように、アウター側シール部材7の各シールリップに塗布されているグリースgr(薄墨部分)には、ハブ輪3の遠心力によって径方向外側へ向かって押し出される力が働いている。アウター側シール部材7の外側アキシアルリップ8eに塗布されているグリースgrの粘度が低下している場合、グリースgrの一部は、金属環9を伝って金属環9の径方向外側に向かって移動し、金属環9の外縁に形成されている内方部材側堰部9dによって受け止められる(黒塗矢印参照)。
図4(b)に示すように、内方部材側堰部9dに受け止められているグリースgrの量が限界量を超えた場合、グリースgrは、内方部材側堰部9dから芯金8の外方部材側堰部8fに向かって流出する(黒塗矢印)。グリースgrは、内方部材側堰部9dによって内方部材側堰部9dの先端と径方向で重複する位置に形成されている外方部材側拡径部8gに案内される。グリースgrは、外方部材側拡径部8gである溝の内部に流入し、保持される。つまり、グリースgrは、内方部材側堰部9dから流出しても外方部材側拡径部8gによって捕獲される。さらに、外方部材側拡径部8gのグリースgrは、外気と接触している外方部材側堰部8fを介して冷却されることで粘度が増大し、外方部材側拡径部8gから流出し難くなる。
【0040】
このように構成される車輪用軸受装置1は、アウター側シール部材7の金属環9に内方部材側堰部9dを設けることで内方部材側堰部9dが障壁としてグリースgrを堰き止める。さらに、車輪用軸受装置1は、芯金8に外方部材側堰部8fと外方部材側拡径部8gとを設けることで、内方部材側堰部9dから流出するグリースgrを内方部材側堰部9dによって外方部材側拡径部8gに案内する。そして、車輪用軸受装置1は、グリースgrを外方部材側拡径部8gによって捕獲する。つまり、車輪用軸受装置1は、外側アキシアルリップ8e等から流出したグリースgrを内方部材側堰部9dと外方部材側堰部8fによって堰き止めるだけでなく、外方部材側拡径部gによってグリースgrが外方部材側堰部fから外部に向かって移動しないように保持している。これにより、各シールリップに塗布されたグリースgrの外部への流出および飛散を抑制することができる。
【0041】
なお、本実施形態の車輪用軸受装置1には、内方部材側堰部9dと外方部材側堰部8fとが設けられているが、第一実施形態を含む以下の各実施形態において、外方部材側だけに堰部を設ける構成でもよい。車輪用軸受装置1の外方部材側堰部fは、回転しない外方部材である外輪2に設けられているので、外方部材側堰部fの外方部材側拡径部gによってグリースgrを外部に向かって移動しないように保持することができる。
以下の実施形態においても同様である。
【0042】
次に、図5を用いて、車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置10について説明する。なお、以下の実施形態に係る車輪用軸受装置10は、図1から図4に示す車輪用軸受装置1において、車輪用軸受装置1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、記号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0043】
図5に示すように、アウター側シール部材7は、外輪2のアウター側開口部2cとハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材7は、複数のシールリップが加硫接着された略円筒状の芯金11と金属環9とによって構成されている。
【0044】
外輪2のアウター側開口部2cに嵌合されない側(ハブ輪3側)の芯金11の側面には、円環状の外方部材側堰部11fが一体に加硫接着されている。外方部材側堰部11fは、外側アキシアルリップ11eよりも外径側において突出するように形成されている。つまり、外方部材側堰部11fは、ラジアルリップ11c、内側アキシアルリップ11dおよび外側アキシアルリップ11eを囲う円筒状の壁として形成されている。外方部材側堰部11fの内周面には、外方部材側拡径部11gが形成されている。外方部材側拡径部11gは、外方部材側堰部11fの内周面が全周に渡って軸方向断面視で所定の曲率で湾曲している円環状の凹曲面によって構成されている。つまり、外方部材側堰部11fの内周面は、その全面によって外方部材側拡径部11gを構成している。
【0045】
アウター側シール部材7は、芯金11に一体に加硫接着されている外方部材側堰部11fが金属環9の内方部材側堰部9dを囲うように配置されている。つまり、アウター側シール部材7は、芯金11と内方部材側堰部9dの先端との隙間が外部から視認できないように構成されている。これにより、アウター側シール部材7は、内方部材側堰部9d、外方部材側堰部11fが障壁となってグリースの流出および飛散を防ぐだけでなく、外方部材側拡径部11gが内方部材側堰部9dから流出したり飛散したりしたグリースを捕獲することで外部へのグリースの流出および飛散を防止する。
【0046】
次に、図6を用いて、アウター側シール部材7の作用について詳細に説明する。
【0047】
図6に示すように、金属環9の内方部材側堰部9dから流出したグリースgrは、内方部材側堰部9dによって外方部材側堰部11fの内周面全面で形成されている外方部材側拡径部11gに案内される。グリースgrは、外方部材側堰部11fの内周面全体に形成されている外方部材側拡径部11gに保持される(黒塗矢印参照)。つまり、グリースgrは、内方部材側堰部9dから外方部材側堰部11fの内周面のどの位置に案内されても外方部材側拡径部11gによって捕獲される。
【0048】
このように構成される車輪用軸受装置10は、内方部材側堰部9dによってグリースgrを外方部材側堰部11fの任意の位置に流入するように案内するだけでグリースgrを外方部材側拡径部11gによって捕獲する。つまり、車輪用軸受装置10は、外側アキシアルリップ11e等から流出したグリースgrを内方部材側堰部9dと外方部材側堰部11fによって堰き止めるだけでなく、外方部材側拡径部11gによってグリースgrが外方部材側堰部11fから外部に向かって移動しないように保持している。これにより、各シールリップに塗布されたグリースgrの外部への流出および飛散を抑制することができる。
【0049】
次に、図7を用いて、車輪用軸受装置の第三実施形態である車輪用軸受装置12について説明する。
【0050】
図7に示すように、アウター側シール部材7は、外輪2のアウター側開口部2cとハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材7は、複数のシールリップが加硫接着された略円筒状の芯金13と金属環9とによって構成されている。
【0051】
外輪2のアウター側開口部2cに嵌合されない側(ハブ輪3側)の芯金13の側面には、円環状の外方部材側堰部13fが一体に加硫接着されている。外方部材側堰部13fは、外側アキシアルリップ13eよりも外径側において突出するように形成されている。つまり、外方部材側堰部13fは、ラジアルリップ13c、内側アキシアルリップ13dおよび外側アキシアルリップ13eを囲う円筒状の壁として形成されている。外方部材側堰部13fの内周面には、外方部材側拡径部13gが形成されている。外方部材側拡径部13gは、外方部材側堰部13fの内径が外方部材側堰部13fの先端に向かうにつれて縮径する(窄む)逆テーパ状の内周面によって構成されている。つまり、外方部材側堰部13fの内周面は、その全面が外方部材側拡径部13gを構成している。
【0052】
アウター側シール部材7は、芯金13に一体に加硫接着されている外方部材側堰部13fが金属環9の内方部材側堰部9dを囲うように配置されている。つまり、アウター側シール部材7は、芯金13と内方部材側堰部9dの先端との隙間が外部から視認できないように構成されている。これにより、アウター側シール部材7は、内方部材側堰部9d、外方部材側堰部13fが障壁となってグリースgrの流出および飛散を防ぐだけでなく、外方部材側拡径部13gが内方部材側堰部9dから流出したり飛散したりしたグリースgrを捕獲することでグリースgrの流出および飛散を防止する。
【0053】
次に、図8を用いて、アウター側シール部材7の作用について詳細に説明する。
【0054】
図8に示すように、金属環9の内方部材側堰部9dから芯金13の外方部材側堰部13fに向かって流出したグリースgrは、内方部材側堰部9dによって外方部材側堰部13fの内周面に案内される。グリースgrは、外方部材側堰部13fの内周面全体に形成されている外方部材側拡径部13gに保持される。つまり、グリースgrは、内方部材側堰部9dから外方部材側堰部13fの内周面のどの位置に流出しても外方部材側拡径部13gによって捕獲される。
【0055】
このように構成される車輪用軸受装置12は、内方部材側堰部9dによってグリースgrを外方部材側堰部13fの任意の位置に流入するように案内するだけでグリースgrを外方部材側拡径部13gによって捕獲し、外部に向かって移動しないように保持している。これにより、各シールリップに塗布されたグリースgrの外部への流出および飛散を抑制することができる。
【0056】
次に、図9を用いて、車輪用軸受装置の第四実施形態である車輪用軸受装置14について説明する。
【0057】
図9に示すように、外方部材である外輪15は、ハブ輪3と内輪4とを支持するものである。外輪15は、略円筒状に形成されている。外輪15のアウター側端部には、アウター側シール部材7が嵌合可能なアウター側開口部15cが形成されている。さらに、外輪15のアウター側端部には、円環状の外方部材側堰部15eが一体に形成されている。外方部材側堰部15eは、金属環9の内方部材側堰部9dの外径側においてハブ輪3側に突出するように形成されている。つまり、外方部材側堰部15eは、アウター側開口部15cに嵌合されるアウター側シール部材7を囲う円筒状の壁として形成されている。外方部材側堰部15eの内周面には、外方部材側拡径部15fが形成されている。外方部材側拡径部15fは、外方部材側堰部15eの内周面が全周に渡って所定の幅で拡径した円環状の溝に形成されている。なお、本実施形態において、外方部材側拡径部15fは、外方部材側堰部15eの内周面が全周に渡って所定の幅で拡径した円環状の溝に形成されているがこれに限定するものではなく内周面を凹曲面や逆テーパ状に形成したものでもよい。
【0058】
アウター側シール部材7は、外輪2のアウター側開口部15cとハブ輪との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材7は、複数のシールリップが加硫接着された略円筒状の芯金16と金属環9とによって構成されている。
【0059】
芯金16は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、外方部材のアウター側開口部15cに嵌合可能な円筒部16aと円板部16bとが形成されている。円板部16bの板面には、円環状のラジアルリップ16c、内側アキシアルリップ16dおよび外側アキシアルリップ16eが一体に加硫接着されている。ラジアルリップ16cは、芯金16の最も内径側に形成されている。内側アキシアルリップ16dは、ラジアルリップ16cよりも外径側に形成されている。外側アキシアルリップ16eは、内側アキシアルリップ16dよりも外径側に形成されている。
【0060】
アウター側シール部材7は、芯金16の円筒部16aが外輪15のアウター側開口部15cに嵌合されている。また、アウター側シール部材7は、金属環9の円筒部9aがハブ輪3に嵌合されている。アウター側シール部材7は、ラジアルリップ16c、内側アキシアルリップ16dおよび外側アキシアルリップ16eが金属環9の内方部材側堰部9dの内径側に配置されている。つまり、内方部材側堰部9dは、ラジアルリップ16c、内側アキシアルリップ16dおよび外側アキシアルリップ16eを囲う円筒状の壁として配置されている。また、アウター側シール部材7は、外輪15の外方部材側堰部15eの内径側に配置されている。つまり、アウター側シール部材7は、内方部材側堰部9dが外方部材側堰部15eによって覆われるように配置されている。これにより、アウター側シール部材7は、内方部材側堰部9dの先端と芯金16との隙間が外方部材側堰部15eによって外部から視認できないように構成されている。さらに、アウター側シール部材7は、径方向から見て内方部材側堰部9dの先端が外方部材側堰部15eの外方部材側拡径部15fに重複するように配置されている。つまり、アウター側シール部材7は、内方部材側堰部9dから流出するグリースを内方部材側堰部9dが外方部材側拡径部15fに案内するように構成されている。
【0061】
このように構成される車輪用軸受装置14は、内方部材側堰部9dによってグリースを外輪15の外方部材側拡径部15fに流入するように案内することで、グリースを外方部材側拡径部15fによって捕獲し、外部に向かって移動しないように保持している。これにより、各シールリップに塗布されたグリースの外部への流出および飛散を抑制することができる。
【0062】
また、図10に示すように、上述した第一実施形態から第四実施形態における車輪用軸受装置1・10・12・14の変形例(図10は、車輪用軸受装置1の変形例)として、アウター側シール部材7の内方部材堰部18dにも方部材側拡径部18eが形成されている車輪用軸受装置17でもよい。すなわち、第一実施形態から第四実施形態における車輪用軸受装置1・10・12・14は、外方部材側堰部と内方部材側堰部とのうち少なくとも一方にグリースを捕獲し、保持する拡径部が形成されていればよい。
【0063】
また、図11に示すように、述した第一実施形態から第四実施形態における車輪用軸受装置1・10・12・14の変形例(図11は、車輪用軸受装置1の変形例)として、グリースが外方部材側拡径部13gに流入し易いようにアウター側シール部材7の内方部材堰部20dの内周面20eが内方部材側堰部20dの先端に向かうにつれて拡径するテーパ状に形成されている車輪用軸受装置19でもよい。
【0064】
以上、本実施形態に係る車輪用軸受装置1・10・12・14・17・19は、ハブ輪3の外周にボール列5の内側転走面3dが直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置として説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、ハブ輪3に一対の内輪4が圧入固定された内輪回転の第2世代構造であっても良い。また、上述の実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2a 外側転走面
3 ハブ輪
3a 小径段部
4 内輪
4a 内側転走面
5 ボール列
7 アウター側シール部材
8 芯金
8f 外方部材側堰部
8g 外方部材側拡径部
9 金属環
9d 内方部材側堰部
11f 外方部材側堰部
11g 外方部材側拡径部
gr グリース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11