特許第6774313号(P6774313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 黒崎播磨株式会社の特許一覧 ▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許6774313コークス炉の補修方法及びパッチング耐火物
<>
  • 特許6774313-コークス炉の補修方法及びパッチング耐火物 図000005
  • 特許6774313-コークス炉の補修方法及びパッチング耐火物 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774313
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】コークス炉の補修方法及びパッチング耐火物
(51)【国際特許分類】
   C10B 29/06 20060101AFI20201012BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20201012BHJP
   C04B 35/66 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C10B29/06
   F27D1/16 W
   F27D1/16 Z
   C04B35/66
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-226892(P2016-226892)
(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公開番号】特開2018-83881(P2018-83881A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊久
(72)【発明者】
【氏名】松井 泰次郎
(72)【発明者】
【氏名】筒井 康志
(72)【発明者】
【氏名】駒井 祐司
(72)【発明者】
【氏名】中居 幸也
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−088755(JP,A)
【文献】 特開昭49−073407(JP,A)
【文献】 特開2010−222414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B29/00
C04B35/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補修対象の壁体の残置部分に対して、補修用成形体とパッチング耐火物とを組み合わせて壁体を築造するコークス炉の補修方法において、
前記パッチング耐火物は、粘土及び水分を含有すると共に、トップサイズが2mm以上のシリカ質の耐火骨材として、トリジマイト、クリストバライト及び石英のうち少なくとも一種を含む珪石原料を60質量%以上含有することを特徴とするコークス炉の補修方法。
【請求項2】
前記パッチング耐火物は、固形分100質量%に対して外掛けで水分を10質量%以上25質量%以下含む、請求項1に記載のコークス炉の補修方法。
【請求項3】
前記パッチング耐火物は、固形分100質量%に対して外掛けで水分を13質量%以上17質量%以下含む、請求項に記載のコークス炉の補修方法。
【請求項4】
コークス炉の熱間補修用のパッチング耐火物であって、
粘土及び水分を含有すると共に、トップサイズが2mm以上のシリカ質の耐火骨材として、トリジマイト、クリストバライト及び石英のうち少なくとも一種を含む珪石原料を60質量%以上含有することを特徴とするパッチング耐火物。
【請求項5】
固形分100質量%に対して外掛けで水分を10質量%以上25質量%以下含む、請求項4に記載のパッチング耐火物。
【請求項6】
固形分100質量%に対して外掛けで水分を13質量%以上17質量%以下含む、請求項に記載のパッチング耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の補修方法、及びその補修方法に使用するパッチング耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉において、特に炭化室壁を形成する壁体耐火物は損耗が激しいので補修が必要である。このようなコークス炉の壁体の補修方法として、特許文献1には、複数のレンガを組み合わせて大型に形成した耐火物の結合体(耐火物集合体)を炉外で形成し、コークス炉の壁体補修部を解体除去した後、耐火物集合体で壁体を築造する技術が記載されている。この耐火物集合体は、壁体の解体部分及び残置部分の寸法・形状にマッチした形状とする旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−19968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、実際のコークス炉の補修において、補修対象の壁体の解体部分及び残置部分の寸法・形状は、状況によって異なるものとなる。例えば、補修対象の壁体をレンガの目地に沿って解体しようとしても、レンガの損傷や目地モルタルの焼き付きなどがあるため、実際には不可能である。したがって、壁体の解体部分及び残置部分の寸法・形状にマッチした耐火物集合体を事前に形成することは事実上不可能である。
【0005】
これに対して特許文献1には、耐火物集合体及び単体のレンガを組み合わせて壁体を築造する技術も記載されている。しかし、この場合においても、単体のレンガを壁体の解体部分及び残置部分の寸法・形状にマッチするよう事前に検寸して加工する必要がある。そして、この事前の検寸及び加工を補修に使用する耐火物集合体ごとに繰り返し行う必要があるので、補修対象の壁体全体を補修するには極めて大きな手間を要する。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、大きな手間を要することなく、補修対象の壁体の築造を実現できるコークス炉の補修技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、「補修対象の壁体の残置部分に対して、補修用成形体とパッチング耐火物とを組み合わせて壁体を築造するコークス炉の補修方法において、前記パッチング耐火物は、粘土及び水分を含有すると共に、トップサイズが2mm以上のシリカ質の耐火骨材として、トリジマイト、クリストバライト及び石英のうち少なくとも一種を含む珪石原料を60質量%以上含有することを特徴とするコークス炉の補修方法」が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によれば、「コークス炉の熱間補修用のパッチング耐火物であって、
粘土及び水分を含有すると共に、トップサイズが2mm以上のシリカ質の耐火骨材として、トリジマイト、クリストバライト及び石英のうち少なくとも一種を含む珪石原料を60質量%以上含有することを特徴とするパッチング耐火物」が提供される。
【0009】
ここで、本発明で使用する「パッチング耐火物」は、従前よりコークス炉などの補修において使用されている「耐火モルタル」とは異なるものである。すなわち、「パッチング耐火物」とは、耐火骨材に可塑性のある材料を加え練り土状とし、機械を使わずに人の手による押し付けや詰め込みにより施工可能な不定形耐火物のことである。パッチング耐火物は、典型的にはトップサイズ2mm以上の耐火骨材を含む。一方、「耐火モルタル」とは、耐火レンガを積む際に各レンガ間の接合のために使用される泥状の耐火物のことである。耐火モルタルに含まれる耐火粒子は、トップサイズが1mm以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、補修用成形体とパッチング耐火物とを組み合わせて壁体を築造するので、補修用成形体が壁体の解体部分及び残置部分の寸法・形状にマッチしていなくとも、補修用成形体と壁体の残置部分との間にパッチング耐火物を充填することで、大きな手間を要することなく容易に壁体を築造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のコークス炉の補修方法を概念的に示す説明図で、(a)は斜視図(b)は平面図である。
図2】本発明の補修方法により補修したコークス炉の炭化室壁を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明のコークス炉の補修方法を概念的に示す説明図である。同図において、符号1は、コークス炉における補修対象の壁体(炭化室壁)の残置部分である。すなわち残置部分1は、補修対象の壁体において補修部分を解体除去した後の残りの部分である。本発明では、この残置部分1に対して、補修用成形体2とパッチング耐火物3とを組み合わせて壁体を築造する。具体的には、図1(a)に示すように残置部分1と補修用成形体2との接合部分にパッチング耐火物3を配置し、パッチング耐火物3を接合部分にて補修用成形体2と接着させ、パッチング耐火物3を補修用成形体2に接着した状態(組み合わせた状態)で補修用成形体2を残置部分1側へ押し込むようにする。このとき、図1(b)に示すように残置部分1と補修用成形体2との接合部分には当て板4を設置してパッチング耐火物3がはみ出さないようにし、また、突き棒5等を使用してパッチング材3を接合部分に万遍なく押し込むようにすると良い。このような作業を1段又は複数段単位で繰り返すことにより、図2に示すようにコークス炉における炭化室壁Aの補修が完了する。
【0013】
補修用成形体2は、残置部分1を構成する耐火レンガと同材質の複数の耐火レンガを組み合わせた耐火物集合体、又はキャスタブル耐火物を予め成形したプレキャストブロックによって構成できる。この補修用成形体2は、補修対象の壁体の補修部分を解体除去した解体部分に対応する寸法・形状を有するように製作されるが、前述のとおり、補修用成形体2の寸法・形状を壁体の解体部分及び残置部分1の寸法・形状にマッチさせることは不可能である。そこで本発明では、壁体の残置部分1と補修用成形体2との間にパッチング耐火物3を充填することで壁体を築造する。これにより、前述の特許文献1のように単体のレンガを壁体の解体部分及び残置部分の寸法・形状にマッチするよう事前に検寸及び加工する必要はなく、大きな手間を要することなく容易に壁体を築造できる。
【0014】
本発明で使用するパッチング耐火物は、典型的には、粘土とトップサイズが2mm以上のシリカ質の耐火骨材とからなる固形分に水分を添加してなる。シリカ質の耐火骨材の鉱物組成としては、トリジマイト、クリストバライト及び溶融シリカがあるが、コークス炉の壁体を構成する珪石レンガと同程度の熱膨張率を確保する点から、トリジマイト及び/又はクリストバライトを主体として使用することが好ましい。具体的には、本発明のパッチング耐火物は、シリカ質の耐火骨材として、トリジマイト及び/又はクリストバライトを含む珪石原料を60質量%以上含むことが好ましい。すなわち、シリカ質の耐火骨材として溶融シリカは多量に使用しないことが好ましい。だたし、溶融シリカにはパッチング耐火物の耐熱衝撃性を向上させる効果があるので、急熱あるいは急冷時の割れを防止する点からは、トリジマイト及び/又はクリストバライトに加え、溶融シリカを使用することもできる。
【0015】
パッチング耐火物の具体的な熱膨張率としては、コークス炉に使用される珪石レンガの熱膨張率がコークス炉の使用温度(1000〜1200℃)で1.1〜1.2%程度であるから、パッチング耐火物の熱膨張率もこれと同程度であることが好ましく、若干の余裕を勘案すると0.5%以上1.3%以下の範囲にすることが好ましい。このようにパッチング耐火物の熱膨張率を珪石レンガと同程度にすることで、コークス炉の使用時にパッチング耐火物と他の珪石レンガ部分との熱膨張差を抑えることができコークス炉の壁体に亀裂等が生じることを抑制できるので、コークス炉の壁体のシール性を良好に維持できる。
【0016】
また、パッチング耐火物の線変化率は、パッチング耐火物の施工部分のシール性を確保する点から、負にならないようにすることが好ましく、具体的には0%以上1%以下の範囲にすることが好ましい。さらに、パッチング耐火物の線変化率は、コークス炉の壁体を構成する珪石レンガの線変化率より若干大きくすることがより好ましく、具体的には0.2%以上1%以下の範囲にすることがより好ましい。このように、パッチング耐火物の線変化率を珪石レンガの線変化率より若干大きくすることで、パッチング耐火物の施工部分におけるパッチング耐火物の密着性(充填性)が向上し、当該パッチング耐火物の施工部分のシール性が向上する。
【0017】
パッチング耐火物の線変化率は、パッチング耐火物の水分量に強く影響を受ける。すなわち、パッチング耐火物の水分量が多いほど線変化率が負になりやすくなってシール性が低下する。一方、パッチング耐火物の水分量が少ないとパッチング耐火物の流動性が低下して施工性が低下する。そこで、パッチング耐火物の水分量は、パッチング耐火物のシール性及び施工性をバランス良く備える点から、パッチング耐火物の固形分100質量%に対して外掛けで13質量%以上17質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明のパッチング耐火物は、粘土を含有する場合、その粘土がバインダー的な作用を奏することから、バインダーを含有する必要はない。むしろ、バインダーを含有すると、そのバインダーが保管中あるいは施工中に硬化するおそれがある。したがって、パッチング耐火物の長期保管性及び可使時間を考慮すると、バインダーは使用しないことが好ましい。ただし、バインダーはパッチング耐火物の施工後の強度を向上させる効果があるので、強度を重視する場合には使用しても良い。バインダーは有機系と無機系に大別されるが、作業環境を考慮すると無機系のバインダーを使用することが好ましい。無機系のバインダーとしては、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウ珪酸ガラスなどが挙げられるが、前述の長期保管性及び可使時間を考慮すると、リン酸塩を使用することが好ましい。
【0019】
本発明のパッチング耐火物は、コークス炉の熱間補修に使用される。具体的には補修対象の壁体の表面温度は少なくとも50℃以上であり、一般的には200〜300℃程度である。
【実施例】
【0020】
表1は、本発明の実施例を比較例とともに示す。また、表2は表1中の実施例1〜7で使用したパッチング耐火物A〜Gの配合を示し、表3は表2中の珪石原料a〜dの鉱物組成を示す。なお、表3では、珪石原料の結晶相のX線回折強度を指数化して示した。すなわち、珪石原料a〜cでは結晶相としてトリジマイトとクリストバライトが認められたことから、珪石原料a,cではトリジマイトのX線回折強度(最大回折強度)を100、珪石原料bではクリストバライトのX線回折強度(最大回折強度)を100として指数化して示した。また、珪石dは、石英のX線回折強度を100として指数化して示した。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
表1中の実施例1〜7及び比較例1、2について、コークス炉の炭化室壁の補修を模した試験施工を実施した。具体的には実施例1〜7では、図1に概念的に示したように、補修対象の残置部分に対して、補修用成形体とパッチング耐火物A〜Gとを組み合わせてコークス炉の炭化室壁を模した壁体を築造した。一方、比較例1では前述の特許文献1に倣い補修用成形体と珪石レンガとを組み合わせて、また、比較例2では補修用成形体と耐火モルタル(シリカ質でありトップサイズ1mmのモルタル)とを組み合わせて、それぞれ同様に壁体を築造した。そして、各実施例及び比較例について、壁体の築造の際に残置部分と補修用成形体との接合部分の加工(施工)に要する時間を加工時間として評価した。なお、補修用成形体は、コークス炉の炭化室壁の補修段数5段分相当の形状を有し、実施例1、3〜7及び比較例1、2では複数の耐火レンガを組み合わせた耐火物集合体、実施例2ではキャスタブル耐火物を予め成形したプレキャストブロックによって構成した。
【0025】
また、各実施例及び比較例において残置部分と補修用成形体との接合部分に用いたパッチング耐火物、珪石レンガ、耐火モルタルについて以下の特性を評価した。
(1)線変化率及び熱膨張率
線変化率及び熱膨張率は接合部分のシール性の指標として、それぞれJISR2554及びJISR2207に準拠して測定した。測定温度は、コークス炉の石炭乾留時の温度相当の1200℃と、石炭排出時の温度相当の1000℃の2水準とした。
(2)稠度
稠度は接合部分の施工性(流動性)の指標として、JISR2506に準拠して測定した。測定温度は、熱間補修を想定して50℃とした。
(3)圧縮強度
圧縮強度は接合部分の施工後の強度の指標として、JISR2213に準拠して測定した。測定温度は、線変化率及び熱膨張率と同様に1200℃と1000℃の2水準とした。
【0026】
表1より、パッチング耐火物を使用した実施例1〜7では加工時間が実質的にかからず、大きな手間を要することなく容易に壁体を築造できた。
一方、珪石レンガを使用した比較例1では、残置部分と補修用成形体との接合部分の検寸及び珪石レンガの加工に50分間の時間を要した。実際のコークス炉の補修では、このような検寸及び加工を繰り返し行う必要があるので、大きな手間を要することになる。
【0027】
加工時間の観点のみからすれば、比較例2のように耐火モルタルを使用することで、加工時間が実質的にかからないようにすることはできる。しかし、耐火モルタルを使用した場合、表1に示すとおり耐火モルタルの線変化率が負になるため、接合部分に亀裂等が生じやすくなってシール性が低下する。これに対して、パッチング耐火物を使用した実施例1〜7ではパッチング耐火物の線変化率が負にならないように調整することで良好なシール性を確保できる。また、圧縮強度の点からも、耐火モルタルに比べパッチング耐火物の方が優れている。なお、シリカ質の耐火骨材としてトリジマイト及び/又はクリストバライトを含む珪石原料を60質量%以上含み、水分を13質量%以上17質量%以下含む実施例1〜4は、トリジマイト及び/又はクリストバライトを含まない珪石原料を使用した実施例5よりもシール性が良好であり、水分添加量が好ましい範囲(13質量%以上17質量%以下)を外れる実施例6、7よりも施工性やシール性が良好であった。
【符号の説明】
【0028】
1 コークス炉の壁体(炭化室壁)の残置部分
2 補修用成形体
3 パッチング耐火物
4 当て板
5 突き棒
図1
図2