(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774321
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】鉄道車両用台車、鉄道車両及び鉄道車両のセッティング方法
(51)【国際特許分類】
B61F 5/16 20060101AFI20201012BHJP
B61F 5/10 20060101ALI20201012BHJP
B61F 5/12 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
B61F5/16 Z
B61F5/10 C
B61F5/12
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-232167(P2016-232167)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-86987(P2018-86987A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯村 一雄
【審査官】
森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−015484(JP,A)
【文献】
特開2007−216876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/16
B61F 5/10
B61F 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の車体における長手方向の一端部と他端部とにそれぞれ配置されて用いられる鉄道車両用台車であって、
輪軸と、
前記輪軸を支持する台車枠と、
前記台車枠に対して旋回可能なボルスタと、
前記台車枠と前記ボルスタとの間に介在する空気バネと、
前記台車枠から前記車体に牽引力を伝達する牽引装置と、
前記車体の進行方向における後方側に位置する前記鉄道車両用台車において前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗を付与する第1状態と、前記車体の前記進行方向における前方側に位置する前記鉄道車両用台車において前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗を前記第1状態よりも小さくする第2状態との間で切換動作可能なボルスタ規制装置と、
を備える、鉄道車両用台車。
【請求項2】
前記ボルスタ規制装置は、前記車体に対する前記ボルスタの旋回を規制する規制位置と前記車体に対する前記ボルスタの旋回を規制しない非規制位置との間で動作可能なストッパと、前記ストッパを動作させるアクチュエータと、を有し、
前記第1状態では、前記ストッパが前記規制位置にあり、前記第2状態では、前記ストッパが前記非規制位置にある、
請求項1に記載の鉄道車両用台車。
【請求項3】
前記ボルスタ規制装置は、前記ボルスタと前記車体との間に介在して前記車体に対する前記ボルスタの旋回に減衰力を付与する第1可変ダンパを有し、
前記第1状態では、前記第1可変ダンパの減衰係数が第1減衰係数に設定され、前記第2状態では、前記第1可変ダンパの減衰係数が前記第1減衰係数よりも小さい第2減衰係数に設定される、
請求項1に記載の鉄道車両用台車。
【請求項4】
前記ボルスタ規制装置は、前記ボルスタと前記台車枠との間に介在して前記台車枠に対する前記ボルスタの旋回に減衰力を付与する第2可変ダンパを有し、
前記第1状態では、前記第2可変ダンパの減衰係数が第2減衰係数に設定され、前記第2状態では、前記第2可変ダンパの減衰係数が前記第2減衰係数よりも大きい第1減衰係数に設定される、
請求項1に記載の鉄道車両用台車。
【請求項5】
車両長手方向から見て前記ボルスタを鉛直方向に通過し、前記牽引装置を前記車体に連結する連結部材を更に備える、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鉄道車両用台車。
【請求項6】
車体と、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の台車からなり、前記車体の長手方向の一端部を支持する第1台車と、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の台車からなり、前記車体の長手方向の他端部を支持する第2台車と、
前記第1台車及び前記第2台車の前記ボルスタ規制装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記第1台車が前台車となり前記第2台車が後台車となる向きに走行するとき、前記第1台車の前記ボルスタ規制装置を前記第2状態となるように制御し、かつ、前記第2台車の前記ボルスタ規制装置を前記第1状態となるように制御し、
前記第2台車が前台車となり前記第1台車が後台車となる向きに走行するとき、前記第2台車の前記ボルスタ規制装置を前記第2状態となるように制御し、かつ、前記第1台車の前記ボルスタ規制装置を前記第1状態となるように制御する、
鉄道車両。
【請求項7】
車体と、前記車体の長手方向の一端部を支持する第1台車と、前記車体の長手方向の他端部を支持する第2台車とを備え、前記第1台車及び前記第2台車の各々にて、台車枠とボルスタとの間に空気バネが介在してなる鉄道車両のセッティング方法であって、
前記第1台車が前台車となり前記第2台車が後台車となる向きに前記車両が走行するとき、前記第1台車における前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗を、前記第2台車における前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗よりも小さくし、
前記第2台車が前台車となり前記第1台車が後台車となる向きに前記車両が走行するとき、前記第2台車における前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗を、前記第1台車における前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗よりも小さくする、
鉄道車両のセッティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用台車、鉄道車両及び鉄道車両のセッティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車体支持方式には、複数の種類があり、ボルスタ付き台車又はボルスタレス台車がよく用いられる(例えば、特許文献1参照)。ボルスタ付き台車では、車体と台車枠との間にボルスタが介在し、空気バネが鉛直方向及び左右方向に弾性変形して振動を吸収する。ボルスタレス台車では、ボルスタが省略され、台車旋回時には空気バネが鉛直方向及び左右方向のみならず前後方向及び旋回方向にも弾性変形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−240273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボルスタ付き台車又はボルスタレス台車のいずれを採用するかは、走行条件等を勘案して車両に要求される性能に応じて決定される。しかし、同一路線であっても、走行中の場所が曲線通過位置か直線走行位置かによって条件が異なるし、対象の台車が車体に対して前台車となる向きに走行しているか後台車となる向きに走行しているかによっても条件が異なる。そのため、同一路線においても走行条件等に応じて好適な車体支持方式が変わり得る。
【0005】
そこで本発明は、1つの台車で複数の車体支持方式を実現可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る鉄道車両用台車は、
単一の車体における長手方向の一端部と他端部とにそれぞれ配置されて用いられる鉄道車両用台車であって、輪軸と、前記輪軸を支持する台車枠と、前記台車枠に対して旋回可能なボルスタと、前記台車枠と前記ボルスタとの間に介在する空気バネと、前記台車枠から
前記車体に牽引力を伝達する牽引装置と、
前記車体の進行方向における後方側に位置する前記鉄道車両用台車において前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗を付与する第1状態と、
前記車体の前記進行方向における前方側に位置する前記鉄道車両用台車において前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗を前記第1状態よりも小さくする第2状態との間で切換動作可能なボルスタ規制装置と、を備える。
【0007】
前記構成によれば、ボルスタ規制装置が第1状態のとき、車体に対してボルスタが旋回し難いので、曲線通過時にはボルスタに対して台車枠が旋回方向に相対角変位し易くなり、ボルスタレス台車のような挙動を呈する。他方、ボルスタ規制装置が第2状態のとき、車体に対してボルスタが旋回し易いので、曲線通過時にはボルスタに対して台車枠が旋回方向に相対角変位し難くなり、ボルスタ付き台車のような挙動を呈する。即ち、1つの台車でありながら、ボルスタ規制装置を切換動作させることによって異なる車体支持方式を実現できる。
【0008】
本発明の一態様に係る鉄道車両のセッティング方法は、車体と、前記車体の長手方向の一端部を支持する第1台車と、前記車体の長手方向の他端部を支持する第2台車とを備え、前記第1台車及び前記第2台車の各々にて、台車枠とボルスタとの間に空気バネが介在してなる鉄道車両のセッティング方法であって、前記第1台車が前台車となり前記第2台車が後台車となる向きに前記車両が走行するとき、前記第1台車における前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗を、前記第2台車における前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗よりも小さくし、前記第2台車が前台車となり前記第1台車が後台車となる向きに前記車両が走行するとき、前記第2台車における前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗を、前記第1台車における前記車体に対する前記ボルスタの旋回抵抗よりも小さくする。
【0009】
前記方法によれば、前記同様にして、1つの台車でありながら異なる車体支持方式を実現できる。
【0010】
本発明の一態様に係る鉄道車両は、前記車体と、前述した台車からなり、前記車体の長手方向の一端部を支持する第1台車と、前述した台車からなり、前記車体の長手方向の他端部を支持する第2台車と、前記第1台車及び前記第2台車の前記ボルスタ規制装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記第1台車が前台車となり前記第2台車が後台車となる向きに走行するとき、前記第1台車の前記ボルスタ規制装置を前記第2状態となるように制御し、かつ、前記第2台車の前記ボルスタ規制装置を前記第1状態となるように制御し、前記第2台車が前台車となり前記第1台車が後台車となる向きに走行するとき、前記第2台車の前記ボルスタ規制装置を前記第2状態となるように制御し、かつ、前記第1台車の前記ボルスタ規制装置を前記第1状態となるように制御する。
【0011】
曲線通過時に台車枠及び輪軸の旋回角を0°となる状態(直線走行時と同じ状態)に戻そうとする力は、前台車において小さく且つ後台車において大きくすると、台車の曲線追従性が向上する。前記構成によれば、車両長手方向の何れの向きに走行するときも、前台車のボルスタが車体に対して旋回し易くなり、曲線通過時にはボルスタと台車枠との間の相対角変位が生じ難くなるので、曲線通過時に前台車の空気バネが旋回方向に弾性変形することが抑制される。そのため、曲線通過時に台車枠及び輪軸の旋回角を0°に戻そうとする空気バネの復元力が低減され、前台車の曲線追従性が向上する。また、車両長手方向の何れの向きに走行するときも、後台車のボルスタが車体に対して旋回し難くなり、曲線通過時にはボルスタと台車枠との間の相対角変位が生じ易くなるので、曲線通過時に後台車の空気バネが旋回方向に弾性変形することが促進される。そのため、曲線通過時に台車枠及び輪軸の旋回角を0°に戻そうとする空気バネの復元力によって、後台車の曲線追従性が向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1つの台車で複数の車体支持方式を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る鉄道車両の側面図である。
【
図2】
図1に示す鉄道車両の台車の車両長手方向から見た正面図である。
【
図3】
図1に示す鉄道車両の台車の要部拡大図である。
【
図4】
図1に示す鉄道車両の制御系統のブロック図である。
【
図5】
図1に示す鉄道車両の曲線通過時の挙動を模式的に説明する平面図である。
【
図6】
図5に示す曲線通過時の前台車及び後台車の外軌側の車輪とレールとの関係を説明する要部平面図である。
【
図7】第2実施形態に係る鉄道車両の台車の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。なお、以下の説明では、鉄道車両が走行する方向であって車体が延びる方向を車両長手方向とし、それに直交する横方向を車幅方向として定義する。車両長手方向は前後方向とも称し、車幅方向は左右方向とも称しえる。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る鉄道車両1の側面図である。
図2は、
図1に示す鉄道車両1の台車の車両長手方向から見た正面図である。
図3は、
図1に示す鉄道車両1の台車の要部拡大図である。
図4は、
図1に示す鉄道車両1の制御系統のブロック図である。
図1乃至4に示すように、鉄道車両1は、車体2と、車体2の長手方向の一端部2aを支持する第1台車3と、車体2の長手方向の他端部2bを支持する第2台車4とを備える。第1台車3及び第2台車4の各々は、二軸ボギー台車である。
【0016】
第1台車3は、輪軸5、軸箱6、軸箱支持装置7、台車枠8、ボルスタ9、空気バネ10、牽引装置11、連結部材12、旋回支持機構13、摺動機構14、及び、第1ボルスタ規制装置15を備える。第2台車4は、輪軸5、軸箱6、軸箱支持装置7、台車枠8、ボルスタ9、空気バネ10、牽引装置11、連結部材12、旋回支持機構13、摺動機構14、及び、第2ボルスタ規制装置16を備える。第1台車3及び第2台車4は、互いに同構造であり、第1ボルスタ規制装置15の動作と第2ボルスタ規制装置16の動作とが異なる。
【0017】
輪軸5は、車幅方向に延びた車軸5aと、車軸5aに設けられた一対の車輪5bとを有する。車輪5bは、レールRに上方から接触する踏面5baと、踏面5baの車幅方向内側に連続してレールRに車幅方向内側から対向するフランジ部5bbとを有する。軸箱6は、車軸5aの端部を回転自在に支持する軸受(図示せず)を収容する。
【0018】
軸箱支持装置7は、軸箱6を台車枠8に弾性的に連結し、一次サスペンションとしての役目を果たす。台車枠8は、軸箱6及び軸箱支持装置7を介して輪軸5を支持する。台車枠8は、車幅方向に延びた横梁8aと、横梁8aの車幅方向両端部から車両長手方向両側に向けて延びた側梁8bとを有する。なお、台車枠8の形態は特にこれに限られず、あらゆる形態が利用可能である。
【0019】
ボルスタ9は、台車枠8に対してヨーイング方向に旋回可能な状態で台車枠8の上方に配置されている。ボルスタ9は、横梁8aの真上において車幅方向に延びている。空気バネ10は、台車枠8とボルスタ9との間に介在しており、空気バネ10の下端部が台車枠8に接続され、空気バネ10の上端部がボルスタ9に接続されている。具体的には、一対の空気バネ10のうち一方がボルスタ9の車幅方向一端部に接続され、一対の空気バネ10のうち他方がボルスタ9の車幅方向他端部に接続されている。
【0020】
牽引装置11は、台車枠8から車体2に牽引力を伝達するもので、例えば、一本リンク装置等が用いられる。連結部材12は、牽引装置11を車体2に連結する。連結部材12は、車両長手方向から見てボルスタ9を鉛直方向に通過する。即ち、連結部材12は、ボルスタ9に接続されることなく牽引装置11を車体2に連結する。このような構成により、後述する第1及び第2ボルスタ規制装置15,16がどの状態であっても、コンパクトな構成で車体2に牽引力が安定して伝達される。
【0021】
旋回支持機構13は、ボルスタ9の車幅方向中央部に設けられ、車体2に対してボルスタ9をヨーイング方向に旋回可能に連結する。例えば、旋回支持機構13は、ボルスタ9の車幅方向中央部に設けられた心皿13aと、車体2から下方に突出して心皿13aにヨーイング方向に相対回転自在に支持される中心ピン13bとを有する。
【0022】
摺動機構14は、ボルスタ9の車幅方向両側の上面に夫々設けられ、車体2に対するボルスタ9の旋回運動に対して摺動抵抗を付与する。例えば、摺動機構14は、ボルスタ9の上面に固定された側受14aと、車体2の下面に固定されて側受14aの上面に摺接する擦り板14bとを有する。
【0023】
第1ボルスタ規制装置15及び第2ボルスタ規制装置16の各々は、車体2に対するボルスタ9の旋回抵抗を付与する第1状態と、車体2に対するボルスタ9の旋回抵抗を第1状態よりも小さくする第2状態との間で切換動作可能に構成されている。具体的には、第1ボルスタ規制装置15及び第2ボルスタ規制装置16の各々は、一対のストッパ17と、一対のアクチュエータ18とを有する。
【0024】
ストッパ17は、車体2に対するボルスタ9の旋回を規制する規制位置P1(第1状態)と、車体2に対するボルスタ9の旋回を規制しない非規制位置P2(第2状態)との間で動作可能に構成されている。例えば、ストッパ17は、ボルスタ9の車幅方向端部に車両長手方向から対向し、ボルスタ9に対して進退可能に構成されている。
【0025】
アクチュエータ18は、車体2に取り付けられている。アクチュエータ18は、ストッパ17を動作可能に支持し、ストッパ17を規制位置P1と非規制位置P2との間で動作させる。アクチュエータ18には、例えば、空気圧シリンダ、油圧シリンダ又は電動モータが用いられる。
【0026】
車体2には、進行方向検出器20及び制御装置21が搭載されている。進行方向検出器20は、鉄道車両1が車両長手方向一方側又は他方側の何れに向けて走行しているのかを検出する。即ち、進行方向検出器20は、第1台車3が前台車となり第2台車4が後台車となる向き、又は、第2台車4が前台車となり第1台車3が後台車となる向きの何れの向きに走行しているのかを検出する。進行方向検出器20の進行方向検出方法は、特に限定されず、例えば、輪軸5の回転方向に基づいて進行方向を判定するものでもよいし、運転士の入力に基づいて進行方向を判定するものでもよい。また、進行方向検出器20は、制御装置21に含まれるようにしてもよい。
【0027】
制御装置21は、進行方向検出器20からの検出信号に基づいて第1ボルスタ規制装置15及び第2ボルスタ規制装置16を制御する。制御装置21は、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。制御装置21は、進行方向受信部22と、ボルスタ規制制御部23とを有する。進行方向受信部22は、I/Oインターフェースにより実現される。ボルスタ規制制御部23は、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。進行方向受信部22は、進行方向検出器20から鉄道車両1の進行方向の情報を受信する。なお、進行方向受信部22には、ユーザにより進行方向の情報が入力されるようにしてもよい。
【0028】
ボルスタ規制制御部23は、第1台車3が前台車となり第2台車4が後台車となる向きに走行するとき(
図1の右向き)、第1台車3の第1ボルスタ規制装置15を第2状態(車体2に対するボルスタ9の旋回抵抗が小)となるように制御し、かつ、第2台車4の第2ボルスタ規制装置16を第1状態(車体2に対するボルスタ9の旋回抵抗が大)となるように制御する。即ち、ボルスタ規制制御部23は、第1台車3が前台車となり第2台車4が後台車となる向きに走行するとき、第1ボルスタ規制装置15のストッパ17が非規制位置P2となるように第1ボルスタ規制装置15のアクチュエータ18を制御し、かつ、第2ボルスタ規制装置16のストッパ17が規制位置P1となるように第2ボルスタ規制装置16のアクチュエータ18を制御する。
【0029】
他方、ボルスタ規制制御部23は、第2台車4が前台車となり第1台車3が後台車となる向きに走行するとき(
図1の左向き)、第2台車4の第2ボルスタ規制装置16が第2状態(車体2に対するボルスタ9の旋回抵抗が小)となるように制御し、かつ、第1台車3の第1ボルスタ規制装置15が第1状態(車体2に対するボルスタ9の旋回抵抗が大)となるように制御する。即ち、ボルスタ規制制御部23は、第2台車4が前台車となり第1台車3が後台車となる向きに走行するとき、第2ボルスタ規制装置16のストッパ17が非規制位置P2となるように第2ボルスタ規制装置16のアクチュエータ18を制御し、かつ、第1ボルスタ規制装置15のストッパ17が規制位置P1となるように第1ボルスタ規制装置15のアクチュエータ18を制御する。
【0030】
図5は、
図1に示す鉄道車両1の曲線通過時の挙動を模式的に説明する平面図である。
図6は、
図5に示す曲線通過時の前台車及び後台車の外軌側の車輪とレールとの関係を説明する要部平面図である。なお、
図5では一対のレールRの間を通る中心線を軌道線50として図示し、第1台車3が前台車となり第2台車4が後台車となる向きに鉄道車両1が走行しているものとして説明する。
図5に示すように、曲線通過時の前台車3及び後台車4では、車軸5aが軌道線50に直交する向きとなるように車体2に対して台車枠8が旋回する。なお、平面視において、車体2の前後方向に延びる中心線Lと台車枠8の前後方向に延びる中心線Tとがなす角αを台車枠8の旋回角と称する。
【0031】
この際、前台車3のボルスタ9は、第1ボルスタ規制装置15(
図1参照)により旋回規制されない。そのため、前台車3のボルスタ9は、摺動機構14による摺動抵抗を受けながらも、台車枠8から空気バネ10を介して伝達される旋回力によって台車枠8に連れられて車体2に対して旋回する。即ち、前台車3においては、車体2に対してボルスタ9が旋回し易くなることで、曲線通過時に台車枠8とボルスタ9とが互いに旋回方向に相対角変位し難くなり、ボルスタ付き台車のような挙動を呈する。
【0032】
他方、後台車4のボルスタ9は、第2ボルスタ規制装置16(
図1参照)により旋回規制される。そのため、後台車4のボルスタ9は、車体2に対して殆ど旋回しない。即ち、後台車4においては、車体2に対してボルスタ9が旋回し難くなることで、曲線通過時に台車枠8とボルスタ9とが互いに旋回方向に相対角変位が生じ易くなり、ボルスタレス台車のような挙動を呈する。即ち、本台車構造によれば、1つの台車でありながら、第1及び第2ボルスタ規制装置15,16を切換動作させることによって異なる車体支持方式が実現される。
【0033】
このようにして、曲線通過時には、前台車3における台車枠8とボルスタ9との間の相対角変位θ1が、後台車4における台車枠8とボルスタ9との間の相対角変位θ2よりも小さくなる。その結果、前台車3では、空気バネ10が旋回方向(剪断方向)に弾性変形することが抑制され、台車枠8及び輪軸5の旋回角を0°に戻そうとする空気バネ10の復元力が低減される。他方、後台車4では、空気バネ10が旋回方向(剪断方向)に弾性変形することが促進され、台車枠8及び輪軸5の旋回角を0°に戻そうとする空気バネ10の復元力が大きくなる。
【0034】
このとき、
図6に示すように、曲線通過する鉄道車両1では、一般的に、車軸5aの向きと輪軸5が進行する向きとの間にアタック角が生じて、外軌側の車輪5bがレールRに接近する方向を向いた状態になり、車輪5bとレールRとの間に作用する横圧が増加しやすくなる。本実施形態においては、前台車3の外軌側の車輪5bにおいては、輪軸5の旋回角を0°に戻そうとする空気バネ10の復元力が小さいことで、アタック角の増加が抑制され、前台車3の曲線追従性が向上する。他方、後台車4の外軌側の車輪5bにおいては、輪軸5の旋回角を0°に戻そうとする空気バネ10の復元力が大きいことで、アタック角の増加が抑制され、後台車4の曲線追従性も向上する。なお、鉄道車両1が逆向きに走行するときも、第1ボルスタ規制装置15及び第2ボルスタ規制装置16が逆の動作を行うことで、同様の作用を奏する。
【0035】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る鉄道車両101の台車103の要部拡大図である。
図7に示すように、第2実施形態の鉄道車両101では、台車103のボルスタ規制装置115の構成が第1実施形態と異なり、それ以外は第1実施形態と同様である。ボルスタ規制装置115は、車体2とボルスタ9との間に介在して車体2に対するボルスタ9の旋回に減衰力を付与する第1可変ダンパ131と、台車枠8とボルスタ9との間に介在して台車枠8に対するボルスタ9の旋回に減衰力を付与する第2可変ダンパ132とを有する。
【0036】
第1可変ダンパ131は、作動油が貯留されたダンパ本体131aと、ダンパ本体131aからボルスタ9に向けて突出してボルスタ9に連結された第1ロッド131bと、ダンパ本体131aから第1ロッド131bと反対側に突出して車体2に連結された第2ロッド131cとを有する。第2可変ダンパ132は、作動油が貯留されたダンパ本体132aと、ダンパ本体132aからボルスタ9に向けて突出してボルスタ9に連結された第1ロッド132bと、ダンパ本体132aから第1ロッド132bと反対側に突出して台車枠8に連結された第2ロッド132cとを有する。第1可変ダンパ131及び第2可変ダンパ132は、第1ロッド131b,132b又は第2ロッド131c,132cがダンパ本体131a,132aに対して進退動作することで減衰力を発揮する。
【0037】
第1可変ダンパ131及び第2可変ダンパ132は、減衰係数を変更可能に構成されている。第1可変ダンパ131及び第2可変ダンパ132の減衰係数を変化させる機構は、公知のものであり、例えば、ピストンに設けた作動油通過用のオリフィスの開口面積をアクチュエータで駆動されるニードルバルブで変化させる機械式でもよいし、作動油に磁気粘性流体を用いてピストンに設けた磁気流体バルブで磁気粘性流体の粘度を制御するMRF式でもよい。
【0038】
台車103が前台車となるとき、制御装置21(
図4参照)からの指令によって、第1可変ダンパ131の減衰係数が第2減衰係数C2に設定され、第2可変ダンパ132の減衰係数が第2減衰係数C2よりも大きい第1減衰係数C1に設定される(C1>C2)。これにより、車体2に対してボルスタ9が旋回し易くなるとともに、台車枠8に対してボルスタ9が旋回し難くなり、ボルスタ付き台車のような挙動を呈する。
【0039】
他方、台車103が後台車となるとき、制御装置21(
図4参照)からの指令によって、第1可変ダンパ131の減衰係数が第1減衰係数C1に設定され、第2可変ダンパ132の減衰係数が第2減衰係数C2に設定される(C1>C2)。これにより、車体2に対してボルスタ9が旋回し難くなるとともに、台車枠8に対してボルスタ9が旋回し易くなり、ボルスタレス台車のような挙動を呈する。
【0040】
以上のような構成によれば、ボルスタ規制装置115は、第1及び第2可変ダンパ131,132の減衰係数を変えることによって、ボルスタ9と車体2との位置関係にかかわらず簡単に車体支持方式を変更できる。なお、本実施形態では、ボルスタ9と車体2との間及びボルスタ9と台車枠8との間の両方に可変ダンパを介在させたが、いずれか一方のみに介在させた構成としてもよい。
【0041】
本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。前記各実施形態は互いに任意に組み合わせてもよく、例えば1つの実施形態中の一部の構成又は方法を他の実施形態に適用してもよく、実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。ボルスタ規制装置の切換動作は、制御装置によるものに限らず、機械的に車両進行方向に連動する構成としてもよいし、手動で動作させてもよい。ボルスタ規制装置は、ストッパ又は可変ダンパを切換動作させるものに限られず、例えば、車体に対するボルスタの摺動抵抗の大きさ及び/又は台車枠に対するボルスタの摺動抵抗の大きさを可変にする構成としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1,101 鉄道車両
2 車体
3 第1台車
4 第2台車
5 輪軸
8 台車枠
9 ボルスタ
10 空気バネ
11 牽引装置
12 連結部材
15 第1ボルスタ規制装置
16 第2ボルスタ規制装置
17 ストッパ
18 アクチュエータ
21 制御装置
103 台車
115 ボルスタ規制装置
131 第1可変ダンパ
132 第2可変ダンパ
P1 規制位置
P2 非規制位置