(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記質量体は、前記回転体を挟んで対向して配置された第1イナーシャリング及び第2イナーシャリングと、前記第1イナーシャリングと前記第2イナーシャリングとを相対回転不能に連結するリベットと、を有し、
前記遠心子は、前記回転体の外周部でかつ前記リベットの内周側において前記第1イナーシャリングと前記第2イナーシャリングとの軸方向間に配置されており、
前記カムフォロアは、内部に前記リベットが軸方向に貫通する孔を有する円筒状のコロであり、
前記カムは、前記遠心子に形成されて前記カムフォロアに当接し、前記回転体と前記質量体との間の回転方向における相対変位量に応じて前記円周方向力が変化するような形状を有する、
請求項5に記載のトルク変動抑制装置。
回転軸を中心に回転する第1慣性体と、前記回転軸を中心に回転し前記第1慣性体と相対回転自在な第2慣性体と、前記第1慣性体と前記第2慣性体との間に配置されたダンパと、を有するフライホイールと、
前記フライホイールの前記第2慣性体に設けられたクラッチ装置と、
請求項1から6のいずれかに記載のトルク変動抑制装置と、
を備えた動力伝達装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1を含む従来のダイナミックダンパ装置では、所定の回転数域に現れるトルク変動のピークを抑えることができる。しかし、エンジンの仕様等が変わると、それに応じてトルク変動のピークが現れる回転数域が変わる。このため、エンジンの仕様等の変更に伴ってイナーシャリングの慣性量及びコイルスプリングのばね定数を変更する必要があり、対応が困難な場合がある。
【0008】
本発明の課題は、回転部材のトルク変動を抑えるための装置において、比較的広い回転数域においてトルク変動のピークを抑えることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るトルク変動抑制装置は、トルクが入力される回転体のトルク変動を抑制する装置である。このトルク変動抑制装置は、質量体と、複数の遠心子と、複数のカム機構と、複数の規制機構と、を備えている。質量体は、回転体とともに回転可能であり、かつ回転体に対して相対回転自在に配置されている。複数の遠心子は、回転体及び質量体の回転による遠心力を受けるように配置されている。複数のカム機構は、遠心子に作用する遠心力を受けて、回転体と質量体との間に回転方向における相対変位が生じたときには、遠心力を、相対変位が小さくなる方向の円周方向力に変換する。複数の規制機構は、カム機構による遠心子の作動を許容し、かつ遠心子の径方向の移動を規制する。
【0010】
この装置では、回転体にトルクが入力されると、回転体及び質量体が回転する。回転体に入力されるトルクに変動がない場合は、回転体と質量体との間の回転方向における相対変位はなく、同期して回転する。一方、入力されるトルクに変動がある場合は、質量体は回転体に対して相対回転自在に配置されているために、トルク変動の程度によっては、両者の間に回転方向における相対変位(以下、この変位を「回転位相差」と表現する場合がある)が生じる。
【0011】
ここで、回転体及び質量体が回転すると、遠心子は遠心力を受ける。そして、回転体と質量体との間に相対変位が生じたときには、カム機構は遠心子に作用する遠心力を円周方向力に変換し、この円周方向力は回転体と質量体の間の相対変位を小さくするように作用する。このようなカム機構の作動によって、トルク変動が抑えられる。
【0012】
ここでは、遠心子に作用する遠心力を、トルク変動を抑えるための力として利用しているので、回転体の回転数に応じてトルク変動を抑制する特性が変わることになる。また、例えばカムの形状等によって、トルク変動を抑制する特性を適切に設定することができ、より広い回転数域におけるトルク変動のピークを抑えることができる。
【0013】
また、ここでは、規制機構によって、カム機構による遠心子の作動は許容されるが、遠心子の径方向の移動が規制される。このため、遠心子が径方向に移動して回転体等の他の部材と衝突し、打音が発生するのを避けることができる。また、遠心子と他の部材とが衝突する場合であっても、衝突時の打音を抑えることができる。
【0014】
(2)好ましくは、規制機構は、規制軸と規制溝とを有する。規制軸は、質量体及び遠心子の一方に設けられ、回転体の回転軸に沿って延びる。規制溝は、質量体及び遠心子の他方に形成され、規制軸が挿入されている。
【0015】
ここでは、例えば遠心子に規制軸が設けられ、この規制軸は例えば質量体に形成された規制溝に挿入されている。このため、遠心子の作動時には、規制軸が規制溝に規制されて移動し、結果的に遠心子の径方向の移動が規制される。
【0016】
このため、簡単な構成で規制機構を実現できる。また、規制軸が規制溝に挿入されているため、遠心子の径方向の外側及び内側への移動を規制することができる。
【0017】
(3)好ましくは、別の規制機構は、それぞれ別の規制軸と規制面とを有する。規制軸は、質量体に設けられ、回転体の回転軸に沿って延びる。規制面は、遠心子の内周面に形成され、規制軸が摺動する。
【0018】
ここでは、遠心子は、内周面に形成された規制面が質量体に設けられた規制軸に当接しながら作動する。このため、遠心子の径方向内方への移動を規制することができる。また、規制軸を案内するための溝を形成する必要がなく、構成がより簡単になる。
【0019】
(4)好ましくは、規制軸の外周面又は規制軸が当接する面に設けられた弾性体をさらに備えている。
この場合は、規制軸と規制軸が衝突する部分との衝突が緩和され、衝突時の打音をさらに抑えることができる。
(5)好ましくは、回転体は、外周面に複数の凹部を有し、複数の遠心子のそれぞれは回転体の凹部に収容されている。そして、規制機構は、遠心子の内周面が凹部の底面に当接するのを規制する。
【0020】
ここで、回転体及び質量体が回転しているときには、遠心子は遠心力を受けて径方向外方に移動しようとする。一方、回転体及び質量体の回転が停止したときには、遠心子には遠心力が作用しなくなる。したがって、規制機構が設けられていない場合には、複数の遠心子のうちの上方に位置していた遠心子は下方に落下し、凹部の底面に衝突する。この衝突時に打音が発生することになる。
【0021】
しかし、ここでは、規制機構によって遠心子の径方向の移動が規制され、遠心子が凹部の底面に衝突するのを防止している。したがって、回転停止時に遠心子と凹部の底面との打音をなくすことができる。
【0022】
(6)好ましくは、カム機構は、質量体及び遠心子の一方に設けられたカムと、質量体及び遠心子の他方に設けられカムに沿って移動するカムフォロアと、を有する。
【0023】
ここでは、回転体のトルク変動の大きさによって、回転体と質量体との間の回転方向の相対変位量が変動する。このとき、遠心力から変換された円周方向力が、相対変位量に応じて変化するようにカムの形状を設定することにより、トルク変動をより効率的に抑えることができる。
【0024】
(7)好ましくは、質量体は、回転体を挟んで対向して配置された第1イナーシャリング及び第2イナーシャリングと、第1イナーシャリングと第2イナーシャリングとを相対回転不能に連結するピンと、を有している。遠心子は、回転体の外周部でかつピンの内周側において第1イナーシャリングと第2イナーシャリングとの軸方向間に配置されている。カムフォロアは、内部にピンが軸方向に貫通する孔を有する円筒状のコロである。カムは、遠心子に形成されてカムフォロアに当接し、回転体と質量体との間の回転方向における相対変位量に応じて円周方向力が変化するような形状を有する。
【0025】
ここでは、第1イナーシャリングと第2イナーシャリングとを連結するピンを利用して、カムフォロアを装着している。このため、カム機構の構成が簡単になる。
【0026】
(8)本発明に係るトルクコンバータは、エンジンとトランスミッションとの間に配置される。このトルクコンバータは、エンジンからのトルクが入力される入力側回転体と、トランスミッションにトルクを出力する
出力側回転体と、入力側回転体と
出力側回転体との間に配置されたダンパと、以上に記載のいずれかのトルク変動抑制装置と、を備えている。
【0027】
(9)本発明に係る動力伝達装置は、フライホイールと、クラッチ装置と、以上に記載のいずれかのトルク変動抑制装置と、を備えている。フライホイールは、回転軸を中心に回転する第1慣性体と、回転軸を中心に回転し第1慣性体と相対回転自在な第2慣性体と、第1慣性体と第2慣性体との間に配置されたダンパと、を有する。クラッチ装置は、フライホイールの第2慣性体に設けられている。
【発明の効果】
【0028】
以上のような本発明では、回転部材のトルク変動を抑えるための装置において、比較的広い回転数域においてトルク変動のピークを抑えることができる。また、本発明では、遠心子が他の部材と衝突する打音を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
−第1実施形態−
図1は、本発明の第1実施形態によるトルク変動抑制装置をトルクコンバータのロックアップ装置に装着した場合の模式図である。
図1において、O−Oがトルクコンバータの回転軸線である。
【0031】
[全体構成]
トルクコンバータ1は、フロントカバー2と、トルクコンバータ本体3と、ロックアップ装置4と、出力ハブ5と、を有している。フロントカバー2にはエンジンからトルクが入力される。トルクコンバータ本体3は、フロントカバー2に連結されたインペラ7と、タービン8と、ステータ(図示せず)と、を有している。タービン8は出力ハブ5に連結されており、出力ハブ5の内周部には、トランスミッションの入力軸(図示せず)がスプラインによって係合可能である。
【0032】
[ロックアップ装置4]
ロックアップ装置4は、クラッチ部や、油圧によって作動するピストン等を有し、ロックアップオン状態と、ロックアップオフ状態と、を取り得る。ロックアップオン状態では、フロントカバー2に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体3を介さずに、ロックアップ装置4を介して出力ハブ5に伝達される。一方、ロックアップオフ状態では、フロントカバー2に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体3を介して出力ハブ5に伝達される。
【0033】
ロックアップ装置4は、入力側回転体11と、ハブフランジ12(回転体)と、ダンパ13と、トルク変動抑制装置14と、を有している。
【0034】
入力側回転体11は、軸方向に移動自在なピストンを含み、フロントカバー2側の側面に摩擦部材16が固定されている。この摩擦部材16がフロントカバー2に押し付けられることによって、フロントカバー2から入力側回転体11にトルクが伝達される。
【0035】
ハブフランジ12は、入力側回転体11と軸方向に対向して配置され、入力側回転体11と相対回転自在である。ハブフランジ12は出力ハブ5に連結されている。
【0036】
ダンパ13は、入力側回転体11とハブフランジ12との間に配置されている。ダンパ13は、複数のトーションスプリングを有しており、入力側回転体11とハブフランジ12とを回転方向に弾性的に連結している。このダンパ13によって、入力側回転体11からハブフランジ12にトルクが伝達されるとともに、トルク変動が吸収、減衰される。
【0037】
[トルク変動抑制装置14]
図2は、ハブフランジ12及びトルク変動抑制装置14の正面図である。なお、
図2は一方(手前側)のイナーシャリングを取り外して示している。
図3は
図2のA方向から視た図、
図4は
図2の外観斜視図である。
図2以降の図ではハブフランジ12及びトルク変動抑制装置14の一部を示しているが、全体としては、円周方向の4ヶ所に、各図に示した部分が等角度間隔で設けられている。
【0038】
トルク変動抑制装置14は、質量体20を構成する第1イナーシャリング201及び第2イナーシャリング202と、4個の遠心子21と、4個のカム機構22と、4個の規制機構23と、を有している。
【0039】
<第1及び第2イナーシャリング201,202>
第1及び第2イナーシャリング201,202は、それぞれ連続した円環状に形成された所定の厚みを有するプレートであり、
図3に示すように、ハブフランジ12を挟んでハブフランジ12の軸方向両側に所定の隙間をあけて配置されている。すなわち、ハブフランジ12と第1及び第2イナーシャリング201,202とは、軸方向に並べて配置されている。第1及び第2イナーシャリング201,202は、ハブフランジ12の回転軸と同じ回転軸を有し、ハブフランジ12とともに回転可能で、かつハブフランジ12に対して相対回転自在である。
【0040】
第1及び第2イナーシャリング201,202には軸方向に貫通する孔201a,202aが形成されている。そして、第1イナーシャリング201と第2イナーシャリング202とは、それらの孔201a,202aを貫通するリベット24によって固定されている。したがって、第1イナーシャリング201は、第2イナーシャリング202に対して、軸方向、径方向、及び回転方向に移動不能である。
【0041】
<ハブフランジ12>
ハブフランジ12は、円板状に形成され、内周部が前述のように出力ハブ5に連結されている。ハブフランジ12の外周部には、外周側にさらに突出し、円周方向に所定の幅を有する4つの突起部121が形成されている。突起部121の円周方向の中央部には、所定の幅の凹部121aが形成されている。凹部121aは、外周側に開くように形成され、所定の深さを有している。
【0042】
<遠心子21>
遠心子21は、ハブフランジ12の凹部121aに配置されており、ハブフランジ12の回転による遠心力によって径方向に移動可能である。遠心子21は、円周方向に延びて形成され、円周方向の両端に溝21a,21bを有している。溝21a,21bの幅は、ハブフランジ12の厚みより大きく、溝21a,21bの一部にハブフランジ12が挿入されている。
【0043】
なお、遠心子21の外周面21cは、内周側に窪む円弧状に形成されており、後述するように、カム31として機能する。
【0044】
遠心子21の両端の溝21a,21bには、それぞれ2個のローラ26a,26bが配置されている。各ローラ26a,26bは、溝21a,21bを回転軸方向に貫通して設けられたピン27の回りに回転自在に装着されている。そして、各ローラ26a,26bは、凹部121aの側面に当接して転動可能である。
【0045】
<カム機構22>
カム機構22は、カムフォロアとしての円筒状のコロ30と、遠心子21の外周面21cであるカム31と、から構成されている。コロ30は、リベット24の胴部の外周に嵌めこまれている。すなわち、コロ30はリベット24に支持されている。なお、コロ30は、リベット24に対して回転自在に装着されているのが好ましいが、回転不能であってもよい。カム31は、コロ30が当接する円弧状の面であり、ハブフランジ12と第1及び第2イナーシャリング201,202とが所定の角度範囲で相対回転した際には、コロ30はこのカム31に沿って移動する。
【0046】
詳細は後述するが、コロ30とカム31との接触によって、ハブフランジ12と第1及び第2イナーシャリング201,202との間に回転位相差が生じたときに、遠心子21に生じた遠心力は、回転位相差が小さくなるような円周方向の力に変換される。
【0047】
<規制機構23>
規制機構23は、カム機構22による遠心子21の作動を許容し、かつ遠心子21の径方向の移動を規制する。規制機構23は、ピン(規制軸)231と、溝(規制溝)232と、を有している。
【0048】
ピン231は、遠心子21を回転軸方向に貫通して設けられている。より詳細には、ピン231は、遠心子21の長手方向(円周方向)の中央部に、回転軸に沿って延びるように設けられている。また、溝232は、第1イナーシャリング201及び第2イナーシャリング202のそれぞれに、同じ位置に同じ形状で形成されている。溝232は、外周側に凸の円弧状に形成され、この溝232にピン231が挿入されている。ピン231と溝232との間には所定の隙間が設けられており、ピン231は溝232内をスムーズに移動することが可能である。
【0049】
また、ハブフランジ12と第1及び第2イナーシャリング201,202とが同期して回転しているとき(すなわちハブフランジ12と両イナーシャリング201,202との間に回転位相差がないとき)は、
図2に示すように、ピン231は溝232の長手方向(円周方向)の中央に位置している。そして、ハブフランジ12と両イナーシャリング201,202との間に回転位相差が生じた場合は、カム機構22の作動によって遠心子21は径方向に移動する。この遠心子21の作動に伴って、ピン231は溝232に沿って移動する。しかし、ピン231が溝232のどこに位置しても、遠心子21の内周面がハブフランジ12の凹部121aの底面に当接しないように溝232の形状が設定されている。
【0050】
[カム機構22の作動]
図2、
図5及び
図6を用いて、カム機構22の作動(トルク変動の抑制)について説明する。なお、以下の説明では、第1及び第2イナーシャリング201,202を、単に「イナーシャリング20」と記す場合もある。
【0051】
ロックアップオン時には、フロントカバー2に伝達されたトルクは、入力側回転体11及びダンパ13を介してハブフランジ12に伝達される。
【0052】
トルク伝達時にトルク変動がない場合は、
図2に示すような状態で、ハブフランジ12及びイナーシャリング20は回転する。この状態では、カム機構22のコロ30はカム31のもっとも内周側の位置(円周方向の中央位置)に当接し、ハブフランジ12とイナーシャリング20との回転位相差は「0」である。
【0053】
前述のように、ハブフランジ12とイナーシャリング20との間の回転方向の相対変位量を、「回転位相差」と称しているが、これらは、
図2、
図5及び
図6では、遠心子21及びカム31の円周方向の中央位置と、コロ30の中心位置と、のずれを示すものである。
【0054】
ここで、トルクの伝達時にトルク変動が存在すると、
図5及び
図6に示すように、ハブフランジ12とイナーシャリング20との間には、回転位相差θが生じる。
図5は+R側に回転位相差+θ1(例えば5度)が生じた場合を示し、
図6は同様に+R側に回転位相差+θ2(例えば10度)が生じた場合を示している。
【0055】
図5に示すように、ハブフランジ12とイナーシャリング20との間に回転位相差+θ1が生じた場合は、カム機構22のコロ30は、カム31に沿って相対的に
図5における左側に移動する。このとき、遠心子21には遠心力が作用しているので、遠心子21に形成されたカム31がコロ30から受ける反力は、
図5のP0の方向及び大きさとなる。この反力P0によって、円周方向の第1分力P1と、遠心子21を内周側に向かって移動させる方向の第2分力P2と、が発生する。
【0056】
そして、第1分力P1は、カム機構22及び遠心子21を介してハブフランジ12を
図5における左方向に移動させる力となる。すなわち、ハブフランジ12とイナーシャリング20との回転位相差を小さくする方向の力が、ハブフランジ12に作用することになる。また、第2分力P2によって、遠心子21は、遠心力に抗して内周側に移動させられる。
【0057】
なお、逆方向に回転位相差が生じた場合は、コロ30がカム31に沿って相対的に
図5の右側に移動するが、作動原理は同じである。
【0058】
以上のように、トルク変動によってハブフランジ12とイナーシャリング20との間に回転位相差が生じると、遠心子21に作用する遠心力及びカム機構22の作用によって、ハブフランジ12は、両者の回転位相差を小さくする方向の力(第1分力P1)を受ける。この力によって、トルク変動が抑制される。
【0059】
以上のトルク変動を抑制する力は、遠心力、すなわちハブフランジ12の回転数によって変化するし、回転位相差及びカム31の形状によっても変化する。したがって、カム31の形状を適宜設定することによって、トルク変動抑制装置14の特性を、エンジン仕様等に応じた最適な特性にすることができる。
【0060】
例えば、カム31の形状は、同じ遠心力が作用している状態で、回転位相差に応じて第1分力P1が線形に変化するような形状にすることができる。また、カム31の形状は、回転位相差に応じて第1分力P1が非線形に変化する形状にすることができる。
【0061】
なお、以上のようなカム機構22の作動中においては、遠心子21は規制機構23によって移動を規制されない。すなわち、遠心子21に設けられたピン231は溝232に沿ってスムーズに移動することが可能であり、遠心子21の径方向の移動が規制されることはない。
【0062】
一方、ハブフランジ12及びイナーシャリング20の回転が停止する際と、ハブフランジ12及びイナーシャリング20が回転を開始した直後に、遠心子21は規制機構23によって径方向の移動が規制される。
【0063】
具体的には、ハブフランジ12及びイナーシャリング20が回転を停止すると、遠心子21には遠心力が作用しなくなるので、4つの遠心子21のうちの上方に位置している遠心子21は内周方向(下方)に落下する。このとき、仮に規制機構23が設けられていないとすれば、遠心子21が下方に落下し、遠心子21の内周面が凹部121aの底面に衝突し、打音が発生することになる。
【0064】
しかし、ここでは規制機構23が設けられているので、
図6に示すように、遠心子21に固定されたピン231が溝232の端面に当接し、遠心子21は
図6に示す位置からさらに内周側(下方)へ移動するのが規制される。このため、遠心子21の内周面が凹部121aの底面に衝突することはなく、回転停止時の打音を避けることができる。
【0065】
また、仮に規制機構23が設けられていないとすれば、回転停止時には上方に位置する遠心子21は凹部121aの底面に当接する位置まで落下していることになる。この場合は、遠心子21の外周面であるカム31とコロ30との間には比較的広い隙間が存在する。この状態でハブフランジ12及びイナーシャリング20が回転し始めると、遠心子21は外周側に移動してコロ30と衝突し、打音が発生することになる。
【0066】
しかし、ここでは規制機構23が設けられているので、
図6に示すように、回転が停止して遠心子21がもっとも内周側(下方)に落下しているときにも、遠心子21の外周面とコロ30とは当接するか、あるいは微小な隙間しかない。したがって、この状態から回転が開始されて遠心子21が外周側に移動しても、打音がしないか、あるいは発生したとしても打音を抑えることができる。
【0067】
[特性の例]
図7は、トルク変動抑制特性の一例を示す図である。横軸は回転数、縦軸はトルク変動(回転速度変動)である。特性Q1はトルク変動を抑制するための装置が設けられていない場合、特性Q2は従来のダイナミックダンパ装置が設けられた場合、特性Q3は本実施形態のトルク変動抑制装置14が設けられた場合を示している。
【0068】
この
図7から明らかなように、従来のダイナミックダンパ装置が設けられた装置(特性Q2)では、特定の回転数域のみについてトルク変動を抑制することができる。一方、本実施形態(特性Q3)では、すべての回転数域においてトルク変動を抑制することができる。
【0069】
−第2実施形態−
図8〜
図10は本発明の第2実施形態によるトルク変動抑制装置の一部を示しており、第1実施形態の
図2、
図5及び
図6に相当する図である。なお、これらの図は、一方(各図における手前側)のイナーシャリング201を取り外して示している。
【0070】
第2実施形態のトルク変動抑制装置14’は、カム機構22の作動等の基本的な構成は第1実施形態と同様であるが、規制機構の構成が第1実施形態と異なっている。
【0071】
図8に示す規制機構23’は、第1実施形態と同様に、カム機構22による遠心子21’の作動を許容し、かつ遠心子21’の径方向の移動を規制する。規制機構23’は、ピン(規制軸)231’と、溝(規制溝)232’と、を有している。
【0072】
ピン231’は、第1イナーシャリング201と第2イナーシャリング202とを連結するように設けられている。すなわち、ピン231’は回転軸方向に沿って両イナーシャリング201,202間に延びている。また、ピン231’は、ハブフランジ12とイナーシャリング20との回転位相差がない状態(
図8に示す状態)において、ハブフランジ12の凹部121aの円周方向の中央に位置するように設けられている。
【0073】
溝232’は、遠心子21’の円周方向の中央部に、内周側に凸の円弧状に形成され、この溝232’をピン231’が貫通している。ピン231’と溝232’との間には所定の隙間が設けられており、ピン231’は溝232’内をスムーズに移動することが可能である。
【0074】
また、第1実施形態と同様に、ハブフランジ12と第1及び第2イナーシャリング201,202とが同期して回転しているとき(すなわちハブフランジ12と両イナーシャリング201,202との間に回転位相差がないとき)は、
図8に示すように、ピン231’は溝232’の長手方向(円周方向)の中央に位置している。そして、ハブフランジ12と両イナーシャリング201,202との間に回転位相差が生じた場合は、カム機構22の作動によって遠心子21’は径方向に移動する。この遠心子
21’の作動に伴って、
図9及び
図10に示すように、ピン231’は溝232に沿って移動する。しかし、ピン231’が溝232’のどこに位置しても、遠心子21’の内周面がハブフランジ12の凹部121aの底面に当接しないように溝232’の形状が設定されている。
【0075】
図9及び
図10は、カム機構22の作動状態を示す図であり、第1実施形態の
図5及び
図6に対応するものである。カム機構22の作動及び規制機構23’の作動は、第1実施形態と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0076】
このような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0077】
−第3実施形態−
図11は第3実施形態によるトルク変動抑制装置の一部を示しており、第1実施形態の
図2及び第2実施形態の
図8に相当する図である。この第3実施形態では、規制機構の構成のみが第2実施形態と異なる。すなわち、第3実施形態の規制機構23’’は、ピン231’と遠心子21’’の内周面に形成された規制面232’’とから構成されている。ピン231’は第2実施形態と同様である。規制面232’’は、遠心子21’’の内周面であり、この規制面232’’がピン231’に当接している。規制面232’’は、内周側に凸の円弧状に形成されている。
【0078】
なお、前記各実施形態と同様に、ピン231’が規制面232’’のどこの位置に接触していても、遠心子
21’’の内周面がハブフランジ12の凹部121aの底面に当接しないように規制面232’’の形状が設定されている。
【0079】
ここでは、回転停止時に、遠心子21’’は、規制面232’’がピン231’に当接することにより、内周側への移動が規制される。このため、遠心子21’’の内周面が凹部121aの底面に衝突することはなく、回転停止時の打音を避けることができる。
【0080】
−第4実施形態−
図12は第4実施形態によるトルク変動抑制装置の一部を示しており、第1実施形態の
図2に相当する図である。この第4実施形態では、規制機構の構成のみが第1実施形態と異なる。すなわち、第4実施形態では、ピン
231の外周面には弾性体233が設けられている。
【0081】
この場合は、ピン231と規制溝232との間に弾性体233が設けられているので、ピン231と規制溝232とが衝突する際に、衝撃が緩和され、衝突時の打音をさらに抑えることができる。
【0082】
なお、弾性体233は、ピン231の外周面ではなく、規制溝232の内周面、すなわちピン231が当接する面に設けてもよい。
【0083】
−第5実施形態−
図13に第5実施形態によるトルク変動抑制装置の一部を示しており、第1実施形態の
図2に相当する図である。この第5実施形態では、規制機構の構成のみが第1実施形態と異なる。すなわち、第5実施形態の規制機構23’’’は、ローラ26a,26bを支持するピン(規制軸)27’と、第1及び第2イナーシャリング201,202に形成された溝(規制溝)232’’’と、を有している。
【0084】
ピン27’は、遠心子21及び第1及び第2イナーシャリング201,202の溝232’’’を回転軸方向に貫通して設けられている。溝232’’’は、第1イナーシャリング201及び第2イナーシャリング202のそれぞれに、同じ位置に同じ形状で形成されている。溝232’’’は、外周側に凸の円弧状に形成され、この溝232’’’にピン27’が挿入されている。ピン27’と溝232’’’との間には所定の隙間が設けられており、ピン27’は溝232’’’内をスムーズに移動することが可能である。
【0085】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0086】
(a)前記実施形態では、イナーシャリングを連続した円環状の部材で構成したが、分割された複数のイナーシャ体を円周方向に並べて配置してもよい。この場合は、複数のイナーシャ体を保持するために、イナーシャ体の外周側に、円環状の保持リング等の保持部材を設ける必要がある。
【0087】
(b)前記実施形態では、ガイド部としてガイドローラを配置したが、樹脂レースやシート等の摩擦を低減する他の部材を配置してもよい。
【0088】
[適用例]
以上のようなトルク変動抑制装置を、トルクコンバータや他の動力伝達装置に適用する場合、種々の配置が可能である。以下に、トルクコンバータや他の動力伝達装置の模式図を利用して、具体的な適用例について説明する。
【0089】
(1)
図14は、トルクコンバータを模式的に示した図であり、トルクコンバータは、入力側回転体41と、ハブフランジ42と、両回転体41,42の間に設けられたダンパ43と、を有している。入力側回転体41は、フロントカバー、ドライブプレート、ピストン等の部材を含む。ハブフランジ42は、ドリブンプレート、タービンハブを含む。ダンパ43は複数のトーションスプリングを含む。
【0090】
この
図14に示した例では、入力側回転体41を構成する回転部材のいずれかに遠心子が設けられており、この遠心子に作用する遠心力を利用して作動するカム機構及び作動機構44が設けられている。カム機構及び規制機構44については、前記各実施形態に示された構成と同様の構成を適用できる。
【0091】
(2)
図15に示したトルクコンバータは、ハブフランジ42を構成する回転部材のいずれかに遠心子が設けられており、この遠心子に作用する遠心力を利用して作動するカム機構及び規制機構44が設けられている。カム機構及び規制機構44については、前記各実施形態に示された構成と同様の構成を適用できる。
【0092】
(3)
図16に示したトルクコンバータは、
図14及び
図15に示した構成に加えて、別のダンパ45と、2つのダンパ43,45の間に設けられた中間部材46と、を有している。中間部材46は、入力側回転体41及びハブフランジ42と相対回転自在であり、2つのダンパ43,45を直列的に作用させる。
【0093】
図16に示した例では、中間部材46に遠心子が設けられており、この遠心子に作用する遠心力を利用して作動するカム機構及び規制機構44が設けられている。カム機構及び規制機構44については、前記各実施形態に示された構成と同様の構成を適用できる。
【0094】
(4)
図17に示したトルクコンバータは、フロート部材47を有している。フロート部材47は、ダンパ43を構成するトーションスプリングを支持するために部材であり、例えば、環状に形成されて、トーションスプリングの外周及び少なくとも一方の側面を覆うように配置されている。また、フロート部材47は、入力側回転体41及びハブフランジ42と相対回転自在であり、かつダンパ43のトーションスプリングとの摩擦によってダンパ43に連れ回る。すなわち、フロート部材47も回転する。
【0095】
この
図17に示した例では、フロート部材47に遠心子48が設けられており、この遠心子48に作用する遠心力を利用して作動するカム機構及び規制機構44が設けられている。カム機構及び規制機構44については、前記各実施形態に示された構成と同様の構成を適用できる。
【0096】
(5)
図18は、2つの慣性体51,52を有するフライホイール50と、クラッチ装置54と、を有する動力伝達装置の模式図である。すなわち、エンジンとクラッチ装置54との間に配置されたフライホイール50は、第1慣性体51と、第1慣性体51と相対回転自在に配置された第2慣性体52と、2つの慣性体51,52の間に配置されたダンパ53と、を有している。なお、第2慣性体52は、クラッチ装置54を構成するクラッチカバーも含む。
【0097】
図18に示した例では、第2慣性体52を構成する回転部材のいずれかに遠心子が設けられており、この遠心子に作用する遠心力を利用して作動するカム機構及び規制機構55が設けられている。カム機構及び規制機構55については、前記各実施形態に示された構成と同様の構成を適用できる。
【0098】
(6)
図19は、
図18と同様の動力伝達装置において、第1慣性体51に遠心子が設けられた例である。そして、この遠心子に作用する遠心力を利用して作動するカム機構及び規制機構55が設けられている。カム機構及び規制機構55については、前記各実施形態に示された構成と同様の構成を適用できる。
【0099】
(7)
図20に示した動力伝達装置は、
図18及び
図19に示した構成に加えて、別のダンパ56と、2つのダンパ53,56の間に設けられた中間部材57と、を有している。中間部材57は、第1慣性体51及び第2慣性体52と相対回転自在である。
【0100】
図20に示した例では、中間部材57に遠心子58が設けられており、この遠心子58に作用する遠心力を利用して作動するカム機構及び規制機構55が設けられている。カム機構及び規制機構55については、前記各実施形態に示された構成と同様の構成を適用できる。
【0101】
(8)
図21は、1つのフライホイールにクラッチ装置が設けられた動力伝達装置の模式図である。
図21の第1慣性体61は、1つのフライホイールと、クラッチ装置62のクラッチカバーと、を含む。この例では、第1慣性体61を構成する回転部材のいずれかに遠心子が設けられており、この遠心子に作用する遠心力を利用して作動するカム機構及び規制機構64が設けられている。カム機構及び規制機構64については、前記各実施形態に示された構成と同様の構成を適用できる。
【0102】
(9)
図22は、
図21と同様の動力伝達装置において、クラッチ装置62の出力側に遠心子65が設けられた例である。そして、この遠心子65に作用する遠心力を利用して作動するカム機構及び規制機構64が設けられている。カム機構及び規制機構64については、前記各実施形態に示された構成と同様の構成を適用できる。
【0103】
(10)図面には示していないが、本発明のトルク変動抑制装置を、トランスミッションを構成する回転部材のいずれかに配置してもよいし、さらにはトランスミッションの出力側のシャフト(プロペラシャフト又はドライブシャフト)に配置してもよい。
【0104】
(11)他の適用例として、従来から周知のダイナミックダンパ装置や、振り子式ダンパ装置が設けられた動力伝達装置に、本発明のトルク変動抑制装置をさらに適用してもよい。