(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774369
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】金属部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/05 20060101AFI20201012BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20201012BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20201012BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20201012BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
C22C1/05 B
B22F1/00 J
B22F3/02 S
B22F3/10 C
C22C33/02 103B
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-85858(P2017-85858)
(22)【出願日】2017年4月25日
(65)【公開番号】特開2018-184627(P2018-184627A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2019年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591163960
【氏名又は名称】大阪冶金興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 研二
(72)【発明者】
【氏名】花見 和樹
(72)【発明者】
【氏名】花田 忠之
(72)【発明者】
【氏名】北垣 壽
(72)【発明者】
【氏名】寺内 俊太郎
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−104575(JP,A)
【文献】
特開2013−011020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/05
B22F 1/00,3/02,3/10
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の結晶粒と、
前記結晶粒の境界に形成されている粒状の強化物質と、
を備え、
前記強化物質は、粒子面積相当粒径が前記結晶粒の粒子面積相当粒径の1/100より大きい形状を含む
金属部材。
【請求項2】
請求項1に記載の金属部材であって、
前記強化物質は、粒子面積相当粒径が前記結晶粒の粒子面積相当粒径の1/5より小さい形状を含む
金属部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属部材であって、
前記強化物質は、長さが最も長い第1方向の長さを前記第1方向に直交する方向で最も長い部分の長さで割った値が5より小さい形状を含む
金属部材。
【請求項4】
請求項3に記載の金属部材であって、
前記強化物質のうち95%以上は、長さが最も長い第1方向の長さを前記第1方向に直交する方向で最も長い部分の長さで割った値が5より小さく形成されている
金属部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の金属部材であって、
前記強化物質は、複数あり、前記結晶粒を取り囲むように形成されている
金属部材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の金属部材であって、
前記強化物質は、炭素、窒素、酸素のいずれかを含む
金属部材。
【請求項7】
金属粉末と、強化用粉末と、バインダとを混合する混合工程と、
混合した粉末を射出成形により射出成形体を形成する射出成形工程と、
前記射出成形体から前記バインダを除去し、中間成形体を形成する脱脂工程と、
前記中間成形体を焼結する焼結工程と
を含み、
前記強化用粉末は強化物質を含み、
前記強化用粉末の最大粒径は、前記金属粉末の最大粒径の1/100より大きく、
前記混合工程は、前記金属粉末と前記強化用粉末とを互いに粉末の状態で混合する
射出成形による金属部材の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の射出成形による金属部材の製造方法であって、
前記強化用粉末の最大粒径は、前記金属粉末の最大粒径の1/5より小さい
射出成形による金属部材の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の射出成形による金属部材の製造方法であって、
混合する前記強化用粉末の質量に基づき、前記金属粉末の炭素濃度を決定する工程を
さらに含む
射出成形による金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末を素材に用いた金属部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末射出成形(Metal injection molding)は、金属微粉末と有機バインダ(例えば複数の樹脂の混合物。以下バインダと呼ぶ。)とを混ぜた成形材料を融解させて射出成形し、その後脱脂及び焼結を行って金属粉末成形品を製造する方法である。
【0003】
金属粉末射出成形に用いる金属微粉末は、例えば噴霧法による微粉末製造工程において形成される。高温強度が高いチタンを含むニッケル基合金を噴霧法により形成すると、微粉末製造過程でノズルが閉塞する「注湯閉塞」を生じるために、金属粉末射出成形用の微粉末を製造することが困難な場合があった。特許文献1には、この「注湯閉塞」を防止するために、ニッケル基合金におけるチタン濃度を0.1質量%以下とする発明、及びチタンの濃度が1質量%を超える濃度の場合にはニオブの濃度を減少させる調整を行った発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−350710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属粉末射出成形で製造した金属は、鋳造、鍛造などで製造した金属に比べて高温での強度が低く、高温強度を必要とする部材への適用はできなかった。
【0006】
以上の状況を鑑み、本発明は、金属粉末射出成形により高温での強度が高い金属部材を製造することを目的の1つとする。他の目的については、以下の記載及び実施の形態の説明から理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0008】
以上の目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る金属部材は、金属の結晶粒(10)と、結晶粒の境界に形成されている粒状の強化物質(30)と、を備える。強化物質は、粒子面積相当粒径が結晶粒の粒子面積相当粒径の1/100より大きい形状を含む。
【0009】
前述の強化物質(30)は、粒子面積相当粒径が前記結晶粒の粒子面積相当粒径の1/5より小さいものを含むことが望ましい。
【0010】
前述の強化物質(30)は、長さが最も長い第1方向の長さを第1方向に直交する方向で最も長い部分の長さで割った値が5より小さい形状を含むことが望ましい。
【0011】
前述の強化物質(30)のうち95%以上は、長さが最も長い第1方向の長さを前記第1方向に直交する方向で最も長い部分の長さで割った値が5より小さく形成されていることが望ましい。
【0012】
前述の強化物質(30)は、複数あり、結晶粒(10)を取り囲むように形成されていることが望ましい。
【0013】
前述の強化物質(30)は、炭素、窒素、酸素のいずれかを含むことが望ましい。
【0014】
本発明の第2の対象に係る射出成形による金属部材の製造方法は、金属粉末と、強化用粉末と、バインダとを混合する混合工程(S20)と、混合した粉末を射出成形により射出成形体を形成する射出成形工程(S30)と、射出成形体から前記バインダを除去し、中間成形体を形成する脱脂工程(S40)と、中間成形体を焼結する焼結工程(S50)とを含む。強化用粉末は強化物質を含む。強化用粉末の最大粒径は、前記金属粉末の最大粒径の1/100より大きい。混合工程は、金属粉末と強化用粉末とを互いに粉末の状態で混合する。
【0015】
前述の強化用粉末の最大粒径は、前記金属粉末の最大粒径の1/5より小さいことが望ましい。
【0016】
混合する強化用粉末の質量に基づき、金属粉末の炭素濃度を決定する工程を、さらに含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温での強度が高い金属部材を金属粉末射出成形により製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係る製造方法の処理を示すフローである。
【
図2】
図2は、本発明に係る金属部材の断面に関する反射電子像による組織写真である。
【
図3】
図3は、本発明に係る金属部材の断面に関するEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析によるチタン濃度のマッピング像である。
【
図4】
図4は、本発明に係る金属部材の断面に関するEPMA分析による炭素濃度のマッピング像である。
【
図5】
図5は、本発明に係る金属部材の構成を示した模式図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る金属部材と従来の射出成形で製造した金属部材との引張強度を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明に係る金属部材と従来の射出成形で製造した金属部材との伸びを示すグラフである。
【
図8】
図8は、従来の射出成形で製造した金属部材の断面に関する反射電子像による組織写真である。
【
図9】
図9は、従来の射出成形で製造した金属部材の断面に関するEPMA分析によるチタン濃度のマッピング像である。
【
図10】
図10は、従来の射出成形で製造した金属部材の断面に関するEPMA分析による炭素濃度のマッピング像である。
【
図11】
図11は、従来の射出成形で製造した金属部材の構成を示した模式図である。
【
図12】
図12は、鋳造により製造した金属部材の断面に関する二次電子像による組織写真である。
【
図13】
図13は、鋳造により製造した金属部材の断面に関するEPMA分析によるチタン濃度のマッピング像である。
【
図14】
図14は、鋳造により製造した金属部材の断面に関するEPMA分析による炭素濃度のマッピング像である。
【
図15】
図15は、鋳造により製造した金属部材の構成を示した模式図である。
【
図16】
図16は、従来の射出成形で製造した、炭素濃度が異なる金属部材の引張強度を示すグラフである。
【
図17】
図17は、従来の射出成形で製造した、炭素濃度が異なる金属部材の伸びを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(金属の強度)
金属粉末射出成形で製造した金属が、鋳造、鍛造などで製造した金属に比べて高温での強度が低い原因を説明する。
【0020】
金属の引張強度は、常温付近の温度域では、通常、結晶粒界の影響は限定的であるが、温度が高くなるにつれて、結晶粒界の影響を強く受けやすくなる。金属の強度を高めるため、一般に、炭素、酸素、窒素などの強化物質を含めて金属を製造する。この強化物質は結晶粒の境界も強化する。
【0021】
金属粉末射出成形では、粒体表面が融解され、粒体が互いに接着し、部材を成形する。つまり、金属粉末射出成形では、粒体全体は融解されない。このため、鋳造、鍛造などで製造した金属に比べて、金属粉末射出成形により製造した金属は、結晶粒の境界強度が弱い。これは、結晶粒の境界に空隙が入りやすいだけでなく、結晶粒の境界を強化する物質が金属粒子内に保持されていることに原因があることを、出願人は見出した。
【0022】
ここで、強化物質として炭化チタンを含むニッケル基合金の金属粉末を用いて、金属粉末射出成形により金属を製造した。
図8から
図10に示すように、強化物質の炭化チタンが金属断面の全体に分布していることがわかる。つまり、強化物質は、金属粒子内に保持され、金属粒子内から結晶粒の境界に析出していない。模式的に示すと、強化物質120は、
図11に示すように、結晶粒110内に分布しているが、結晶粒110の境界に析出していない。言い換えると、結晶粒110の境界では、強化物質120による強化の影響は小さい。このため、強化物質により結晶粒自体が分裂されにくく、低温環境において金属焼却体の強度は高い。一方、強化物質が結晶粒の境界に析出されていないため結晶粒の境界で分裂されやすく、高温環境において金属部材の強度は低い。
【0023】
比較のため、強化物質として炭化チタンを含むニッケル基合金の金属粉末を用いて、鋳造により金属を製造した。
図12から
図14に示すように、強化物質の炭化チタンが結晶粒の境界に析出している。つまり、鋳造では、粒体全体が融解されるため、結晶粒内から結晶粒の境界に炭化チタンが析出するのがわかる。模式的に示すと、
図15に示すように、結晶粒210内の強化物質220は、粒体全体が融解されるため、結晶粒210の境界に強化物質230として析出する。このため、結晶粒210内の強化物質220は少ない。一方、結晶粒210の境界の強化物質230は多い。この結果、鋳造などで製造した金属部材は、高温環境において強度が高い。一方、金属粉末射出成形で製造した金属部材に比べて、低温環境における強度は低い。
【0024】
また、強化物質の炭素、窒素、酸素などは、脆性材料でもある。このため、強化物質の濃度を高くすると、金属部材の伸びが小さくなる。これは、強化物質が金属結晶内の転移を妨げるからである。金属粉末全体に対して炭素濃度が0.02重量%のニッケル基合金の金属粉末を用いて、金属粉末射出成形により、金属部材Aを製造した。同様に、炭素濃度が0.06重量%のニッケル基合金の金属粉末を用いて金属部材Bを製造した。製造後の金属部材Aの炭素濃度は、金属部材A全体に対して0.06重量%であった。一方、金属部材Bの炭素濃度は0.12重量%であった。
【0025】
図16に示すように、金属部材Aの引張強度は約470MPaである。一方、金属部材Bの引張強度は約550MPaであり、炭素濃度が高い金属部材Bの方が引張強度は大きい。また、金属部材Aの伸びは、
図17に示すように、約5%である。一方、金属部材Bの伸びは約3%であり、炭素濃度が低い金属部材Aの方が大きい。つまり、一般的に、炭素濃度が高くなると引張強度は大きくなるが、伸びが小さくなる。
【0026】
以上のことから、金属粉末射出成形で金属部材を製造する際に、結晶粒の境界に強化物質を配置することで、高温環境において高い強度を保つことができる。また、強化物質の濃度を一定以下に保つことで、金属部材の伸びが小さくなるのを防ぐことができる。
【0027】
(金属部材の製造方法)
以上の特性から、高温環境において強度の高い金属部材を金属粉末射出成形により形成する製造方法1を説明する。具体的には、製造方法1により、金属粉末射出成形を用いても、結晶粒の境界に強化物質が配置されている金属部材を製造する。
【0028】
最初に、
図1に示すように、ステップS10において、金属粉末、強化用粉末を製造する粉末製造工程を行う。金属粉末を製造する方法には、金属を一度融解して製造する方法、機械的に粉砕して製造する方法、化学的に製造する方法などが含まれ、任意の方法を選択できる。例えば、一度融解して製造する方法として、アトマイズ法が存在する。アトマイズ法は、融解した金属を流出する溶湯にガスを吹き付けて粉末を製造する方法である。この金属粉末の最大粒径は、例えば、20μmである。この金属粉末は、例えば、JIS Z8801またはASTM E11に準拠したふるい網で、開口により分級した細粉末である。最大粒径を確認するため、JIS Z8825‐1に準拠するレーザ回析・散乱法により粒径分布を測定してもよい。また、気流分級により分級した細粉末を用いてもよい。
【0029】
ここで融解した金属に、炭素などの強化物質を一定量含めることで、製造する金属部材の強度を確保する。例えば、追加する炭素は、融解する金属全体に対して0.12質量%である。ここで、強化用粉末を混合し成形するため、強化用粉末を混合する質量に基づき、金蔵粉末の炭素濃度を決定することが望ましい。言い換えれば、強化用粉末を混合する質量に基づき、追加する炭素の質量を調整する。具体的には、追加する炭素は、製造する金属部材の炭素濃度に対して5質量%より大きく90質量%より小さい量にすることが望ましい。具体的には、製造する金属部材の炭素濃度を0.2質量%とする場合、追加する炭素の質量は融解する金属全体に対して0.01質量%より大きく、0.18質量%より小さいことが望ましい。例えば、1000質量部の金属粉末に対して、6質量部の強化用粉末を追加する場合、追加する炭素の量は融解する金属全体に対して0.01質量%である。なお、金属には、ニッケル基合金、コバルト基合金、チタン合金、タングステン合金、ステンレス鋼、工具鋼、アルミニウム合金、銅合金など、任意の金属を用いることができる。
【0030】
また、炭素、窒素などの強化物質を含む強化用粉末も同様に製造する。具体的には、強化用粉末は、炭化チタンの粉末、炭化ケイ素の粉末、窒化チタンの粉末、二酸化ケイ素の粉末などである。強化用粉末の最大粒径は、金属粉末の最大粒径の1/5より小さいことが望ましい。さらに、金属粉末の最大粒径の1/7より小さいことが望ましい。また、強化用粉末の最大粒径は、金属粉末の最大粒径の1/100より大きいことが望ましい。例えば、金属粉末の最大粒径が20μmである場合、強化用粉末の最大粒径は3μmである。強化用粉末は、例えば、ふるい網で分級した細粉末である。最大粒径を確認するため、JIS Z8825‐1に準拠するレーザ回析・散乱法により粒径分布を測定してもよい。また、強化用粉末を気流分級により分級した細粉末を用いてもよい。
【0031】
次に、ステップS20において、金属粉末、強化用粉末、バインダを混合する混合工程を行う。金属粉末と強化用粉末との混合は、混合ドラム等を用いて、互いに粉末の状態で混合する。混合する強化用粉末の量は、金属粉末の1000質量部に対して1質量部より大きく、50質量部より小さいことが望ましい。必要に応じて添加物を混合してもよい。バインダは、例えば、パラフィンワックス、カルナバワックス、脂肪酸エステル等の有機化合物と、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等の比較的低融点の熱可塑性樹脂とを、それぞれ一又は複数種混合したものを用いることができる。金属粉末とバインダとの混合については、ステップS10において、粉末を製造する際に混合してもよい。具体的には、融解した金属に、バインダを融解させた状態で混練し、造粒した金属粉末を用いる。
【0032】
ステップS30において、混合した粉末を射出成形により、射出成形体を成形する射出成形工程を行う。具体的には、混合した粉末を射出成形機に供給する。供給された粉末を加熱し融解し、金型に圧送して射出成形する。その後、冷却した後に金型を開いて射出成形体を取り出す。
【0033】
ステップS40において、取り出した射出成形体を脱脂し、射出成形体からバインダを除去する脱脂工程を行う。例えば、射出成形体を約500℃に加熱し、バインダを除去する。この結果、バインダを除去した中間成形体が形成される。この他に、バインダの物性に応じて、光線を照射する脱脂、水や有機溶媒等の溶媒中に浸す脱脂など、種々の方法を用いることができる。
【0034】
ステップS50において、バインダを除去した中間成形体を焼却し、焼結体を形成する焼結工程を行う。具体的には、真空中又は不活性ガス中において加熱し、金属粉末の結合を成長させる。焼却温度は、例えば、1200℃以上1300℃以下である。
【0035】
ステップS60において、焼結体を加圧し、焼結体内の空隙を除去する加圧工程を行う。この加圧により、焼結密度を90%以上100%未満の金属部材を成形する。焼却密度は95%以上でもよい。また、97%以下でもよい。
【0036】
以上のように、金属粉末に、強化用粉末を加えた粉末を用いることで、結晶粒の境界に強化物質が配置されている金属部材を製造することができる。
【0037】
(実施例)
製造方法1で、ニッケル基合金の部材を製造した。具体的には、ニッケル基合金の粉末を用意した。このニッケル基合金の粉末は、最大粒径が20μmであり、炭素濃度は0.01質量%である。この炭素濃度は、製造後の金属部材の炭素濃度を約0.2質量%に制御するため、混合する強化用粉末の量に基づく値である。また、強化用粉末として、炭化チタンの粉末を用意した。この炭化チタンの粉末は、最大粒径が3μmである。混合した炭化チタンの量は、ニッケル基合金の粉末に対して、0.66質量%である。
【0038】
以上の粉末を用いた結果、製造された金属部材の炭素濃度は0.22質量%であった。
図2から
図4に示すように、製造された金属部材は、ニッケル基合金の結晶粒を取り囲むように、強化用粉末の炭化チタンが粒状に形成されている。これは、射出成形する粉末に強化用粉末を混合することで得られる特徴である。実際に、
図8から
図10に示すように、一般に射出成形した金属部材では結晶粒の境界に強化物質が析出していない。
【0039】
図2から
図4に示すように、この結晶粒の境界に析出した炭化チタンは、強化用粉末の最大粒径より大きいことがわかる。このことからも、結晶粒の境界の炭化チタンは、混合した強化用粉末が融解し析出したことがわかる。つまり、結晶粒の境界に析出する強化物質の粒子面積相当粒径は、結晶粒の粒子面積相当粒径の1/100より大きい。また、強化用粉末の最大粒径が金属粉末の最大粒径の1/5より小さい場合、結晶粒の粒子面積相当粒径よりも1/5より小さいものが含まれる。強化用粉末の最大粒径が金属粉末の最大粒径の1/8より小さい場合は、結晶粒の粒子面積相当粒径よりも1/8より小さいものが含まれる。また、炭化チタンの形状の多くは、長さが最も長い方向の長さを、これと直交する方向で最も長い部分の長さで割った値が5より小さい。具体的には、粒状の炭化チタンのうち90%以上の形状は、この値が5より小さい。さらに、この値が3より小さくてもよい。
【0040】
一方、鋳造により製造した金属部材は、
図15に示すように、結晶粒10の境界に沿って強化物質230が析出している。鋳造では金属を完全に融解するため、結晶粒10内の強化物質が結晶粒の境界に析出するためである。このため、結晶粒10の境界に析出する強化物質230は、境界に沿って析出する。また、鋳造により製造した金属部材では、境界に析出する強化物質230は、長さが最も長い方向の長さを、これと直交する方向で最も長い部分の長さで割った値が5より大きい形状のものが多い。
【0041】
製造方法1は射出成形により製造している。このため、粒体全体は融解されず、結晶粒内にも強化物質の炭化チタンが分布していることがわかる。模式的に示すと、
図5に示すように、強化用粉末を混合しているため、結晶粒10を取り囲むように、強化物質30が粒状に形成されている。また、結晶粒10内にも強化物質20が含まれている。一方、鋳造により製造した金属部材は、
図12から
図14に示すように、結晶粒内には強化物質をほとんど確認できない。
【0042】
以上のように、製造方法1により製造された金属部材は、これまでの金属粉末射出成形や鋳造とは異なる構造を有する。
【0043】
次に、製造方法1により製造した金属部材と、一般の金属粉末射出成形により製造した金属部材との引張強度と伸びを比較する。比較のため、炭素濃度が0.12質量%のニッケル基合金の金属粉末を用いて、金属粉末射出成形により、金属部材Cを製造した。この粉末の最大粒径は20μmである。製造後の金属部材の炭素濃度は0.20質量%であった。つまり、製造方法1により製造した金属部材と炭素濃度は同程度である。
【0044】
この金属部材Cの引張強度は
図6に示すように、約585MPaであった。一方、製造方法1により製造した金属部材は約620MPaであり、金属部材Cよりも強度が高い。さらに、伸びを比較すると、金属部材Cは約2%であるのに対して、製造方法1による金属部材は約6%と大きい。つまり、同程度の炭素濃度を有する金属部材よりも、引張強度及び伸びが高いことがわかる。
【0045】
さらに、製造後の炭素濃度が0.06%の金属部材Aの伸びは、
図17に示すように、約5%である。製造方法1による金属部材の伸びは約6%であり、製造後の炭素濃度が高いにもかかわらず、金属部材Aの伸びより大きい。つまり、製造方法1により製造した金属部材は、引張強度、伸びの両方において大きい。このように、製造方法1により製造した金属部材は、従来の金属粉末射出成形により製造した金属部材よりも、引張強度、伸びの両方において有利な効果を有する。
【符号の説明】
【0046】
1 製造方法
10 結晶粒
20 結晶粒内の強化物質
30 結晶粒の境界に析出する強化物質
110 結晶粒
120 結晶粒内の強化物質
210 結晶粒
220 結晶粒内の強化物質
230 結晶粒の境界に析出する強化物質