特許第6774383号(P6774383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774383反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止層付き偏光板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774383
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止層付き偏光板
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/11 20150101AFI20201012BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20201012BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20201012BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20201012BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   G02B1/11
   B32B7/023
   B32B9/00 A
   G02B1/14
   G02B5/30
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-117666(P2017-117666)
(22)【出願日】2017年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-227898(P2017-227898A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2018年10月2日
【審判番号】不服2019-11221(P2019-11221/J1)
【審判請求日】2019年8月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-120947(P2016-120947)
(32)【優先日】2016年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸大
(72)【発明者】
【氏名】金谷 実
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
【合議体】
【審判長】 樋口 信宏
【審判官】 宮澤 浩
【審判官】 関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−47876(JP,A)
【文献】 特開2009−282219(JP,A)
【文献】 特開2008−268328(JP,A)
【文献】 特開2008−233667(JP,A)
【文献】 特開2006−220906(JP,A)
【文献】 特開2013−178534(JP,A)
【文献】 特開2016−225270(JP,A)
【文献】 特開2011−180211(JP,A)
【文献】 特開2008−196017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G02B 1/11-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム基材の一方の主面に、屈折率が異なる複数の薄膜からなる反射防止層を備える反射防止フィルムであって、
透湿度が20〜1000g/m・24hであり、
反射防止層表面の押込弾性率が20〜100GPaであり、算術平均粗さRaが1.3nm以下である、反射防止フィルム。
【請求項2】
前記透明フィルム基材は、前記反射防止層の形成面側にハードコート層を備える、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層がアクリルウレタン系樹脂を含む、請求項2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層は、樹脂マトリクス中に微粒子が分散している防眩性ハードコート層である、請求項2または3に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記反射防止層上に防汚層を備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記反射防止層は、酸化ニオブ薄膜と酸化シリコン薄膜との交互積層体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
偏光子の一方の面に、請求項1〜6のいずれか1項に記載の反射防止フィルムを備える反射防止層付き偏光板。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の反射防止フィルムを製造する方法であって、
反射防止層を構成する薄膜が、スパッタ法により成膜される、反射防止フィルムの製造方法。
【請求項9】
反射防止層を構成する薄膜のスパッタ成膜時の圧力が0.4Pa以上である、請求項8に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項10】
反射防止層を構成する薄膜が、成膜室内に不活性ガスおよび反応性ガスを導入しながら反応性スパッタにより成膜される、請求項8または9に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項11】
反応性スパッタによる成膜が遷移領域となるように、前記反応性ガスの導入量の制御が行われる、請求項10に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項12】
放電のプラズマ発光強度を検知し、プラズマ発光強度に基づいて、前記反応性ガスの導入量の制御が行われる、請求項10または11に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項13】
放電電圧を検知し、放電電圧に基づいて、前記反応性ガスの導入量の制御が行われる、請求項10または11に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項14】
反射防止層を構成する薄膜のスパッタ成膜時のターゲット表面の磁束密度が20mT以上である、請求項8〜13のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フィルム上に複数の薄膜からなる反射防止層を備える反射防止フィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の視認側表面には、外光の反射や像の映り込みによる画質低下の防止、コントラスト向上等を目的として、反射防止フィルムが使用されている。反射防止フィルムは、透明フィルム上に、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる反射防止層を備える。
【0003】
反射防止フィルムの一形態として、反射防止層付き偏光板が挙げられる。反射防止層付き偏光板は、偏光板の表面に反射防止フィルムを貼り合わせたり、偏光子の表面に保護フィルムとして反射防止フィルムを貼り合わせることにより形成される。また、偏光板上に反射防止層を形成することにより、反射防止層付き偏光板を形成する方法も知られている。
【0004】
特許文献1では、透明プラスチック基材上に、透湿度が10g/m・24h以下の水蒸気バリア層を兼ねる反射防止層を設けた反射防止フィルムを用いることにより、加熱および加湿雰囲気下での偏光板の反りが抑制され、信頼性が高められることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−189211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、車載用の画像表示装置に用いられる偏光板は、屋外での使用を想定したモバイル機器に用いられる偏光板に比して、より高温(例えば、90℃以上)での特性変化が小さいこと(高温耐久性)が求められる。特許文献1等の反射防止フィルムを用いた場合、外部からの水分の浸入等が抑制されるため、偏光板の耐湿性が向上する。一方、特許文献1の反射防止フィルムを備える偏光板は、高温環境に長時間曝されると偏光板にムラが発生しやすく、車載用途で要求される高温での信頼性を満たしていないことが判明した。
【0007】
上記に鑑み、本発明は偏光子と貼り合わせた場合に、高温での耐久性に優れる反射防止フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の反射防止フィルムは、透明フィルム基材の一方の主面に、屈折率が異なる複数の薄膜からなる反射防止層を備え、透湿度が15〜1000g/m2・24hである。反射防止層表面の押込弾性率は20〜100GPaであり、算術平均粗さRaは1.5nm未満である
【0009】
透明フィルム基材は、反射防止層の形成面側にハードコート層を備えることが好ましい。ハードコート層はアクリルウレタン系樹脂を含むものが好ましい。ハードコート層は樹脂マトリクス中に微粒子が分散している防眩性ハードコート層でもよい。反射防止層の表面には防汚層が設けられていてもよい。
【0010】
反射防止層は、高屈折率層と低屈折率層との交互積層体であることが好ましい。高屈折率層としては酸化ニオブ薄膜が好ましく、低屈折率層としては酸化シリコン薄膜が好ましい。
【0011】
本発明の反射防止層付き偏光板は、偏光子の一方の面に、上記の反射防止フィルムを備える。
【0012】
さらに、本発明の上記の反射防止フィルムの製造方法に関する。反射防止層を構成する薄膜は、スパッタ法により成膜されることが好ましく、特に反応性スパッタが好ましい。反応性スパッタでは、成膜室内に不活性ガスおよび反応性ガスを導入しながら成膜が行われる。反応性スパッタによる成膜が遷移領域となるように、反応性ガスの導入量を制御することが好ましい。例えば、放電のプラズマ発光強度を検知し、プラズマ発光強度に基づいて、成膜室内に導入される反応性ガスの導入量を制御する方法;スパッタ時の放電電圧を検出し、放電電圧が一定となるよう反応性ガスの導入量を制御する方法等が挙げられる。スパッタ成膜時の圧力は0.4Pa以上が好ましい。スパッタ成膜時のターゲット表面の磁束密度は20mT以上が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の反射防止フィルムは、反射防止層の透湿度が高いため、反射防止層付き偏光板を作製した場合に、高温での耐久性に優れる。また、反射防止層の機械的強度が高く、かつ表面が平滑であるため、耐擦傷性および指紋拭き取り性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】反射防止フィルムの一形態を模式的に示す断面図である。
図2】反射防止層付き偏光板の一形態を模式的に示す断面図である。
図3】実施例および比較例の偏光板の加熱試験(95℃、1000時間)前後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[反射防止フィルムの構成]
図1は、一実施形態にかかる反射防止フィルムの構成を模式的に示す断面図である。図2は、反射防止層を備える偏光板の一形態を模式的に表す断面図であり、偏光子8の一方の面に、反射防止フィルムが貼り合わせられている。
【0016】
図1の反射防止フィルム100は、透明フィルム基材1上に、密着性向上層3を介して反射防止層5が設けられている。反射防止層は、2層以上の薄膜の積層体であり、図1では、4層の薄膜51,52,53,54の積層体からなる反射防止層5が図示されている。
【0017】
<透明フィルム基材>
透明フィルム基材1は、可撓性の透明フィルム10を含む。透明フィルム10の反射防止層5形成面側には、ハードコート層11が設けられていることが好ましい。
【0018】
(透明フィルム)
透明フィルム10の可視光透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。透明フィルム10の厚みは特に限定されないが、強度や取扱性等の作業性、薄層性等の観点から、5〜300μm程度が好ましく、10〜300μmがより好ましく、20〜200μmがさらに好ましい。
【0019】
透明フィルム10を構成する樹脂材料としては、例えば、透明性、機械強度、および熱安定性に優れる熱可塑性樹脂が挙げられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0020】
図2に示すように、反射防止フィルムが偏光子8と積層される場合、透明フィルム10は、反射防止層5形成のための基材としての機能と、偏光子8の保護フィルムとしての機能を有する。透明フィルム10が偏光子8と積層して用いられる場合、透明フィルム10の透湿度は、100g/m2・24h以上が好ましく、130g/m2・24h以上がより好ましく、150g/m2・24h以上がさらに好ましい。透湿度は、40℃、90%の相対湿度差で、面積1mの試料を24時間で透過する水蒸気の重量であり、JIS K7129:2008 附属書Bに準じて測定される。
【0021】
透明フィルム10の透湿度が大きければ、偏光板が加熱環境に置かれた際に、偏光子中の水分が透明フィルムを介して外部に放出されやすいため、水分に起因する偏光子の劣化を抑制できる。一方で、透明フィルム10の透湿度が過度に高いと、偏光板の加湿耐久性が低下する場合がある。そのため、透明フィルム10の透湿度は、2000g/m2・24h以下が好ましく、1500g/m・24h以下がより好ましい。
【0022】
透湿度を上記範囲とするために、透明フィルム10の材料としてセルロース系樹脂が好適に用いられる。セルロース系樹脂としては、例えばセルロースと脂肪酸のエステルが挙げられる。セルロースエステルの具体例としは、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート等の酢酸セルロース、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネート等が挙げられる。これらの中でも、セルローストリアセテートが特に好ましい。
【0023】
透明フィルム中には任意の添加剤が1種類以上含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤等が挙げられる。
【0024】
(ハードコート層)
透明フィルム10の表面には、ハードコート層11が設けられていることが好ましい。透明フィルム基材1の反射防止層5形成面側にハードコート層11が設けられることにより、反射防止層の硬度や弾性率等の機械特性を向上できる。ハードコート層11は、表面の硬度が高く、耐擦傷性に優れるものが好ましい。ハードコート層11は、例えば、透明フィルム10上に、硬化性樹脂を含有する溶液を塗布することにより形成できる。
【0025】
硬化性樹脂としては、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等が挙げられる。硬化性樹脂の種類としてはポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、アミド系、シリコーン系、シリケート系、エポキシ系、メラミン系、オキセタン系、アクリルウレタン系等の各種の樹脂があげられる。これら硬化性樹脂は、一種または二種以上を、適宜に選択して使用できる。
【0026】
これらの中でも、硬度が高く、紫外線硬化が可能で生産性に優れることから、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、およびエポキシ系樹脂が好ましく、中でもアクリルウレタン系樹脂が好ましい。紫外線硬化型樹脂には、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。好ましく用いられる紫外線硬化型樹脂は、例えば紫外線重合性の官能基を有するもの、中でも当該官能基を2個以上、特に3〜6個有するアクリル系のモノマーやオリゴマーを成分として含むものが挙げられる。
【0027】
反射防止フィルムに、防眩性およびギラツキ防止性を持たせるために、透明フィルムの表面に設けられるハードコート層は防眩性を有していることが好ましい。防眩性ハードコート層としては、例えば、上記の硬化性樹脂マトリクス中に、微粒子を分散させたものが挙げられる。樹脂マトリクス中に分散させる微粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等の各種金属酸化物微粒子、ガラス微粒子、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル−スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、ポリカーボネート等の各種透明ポリマーからなる架橋又は未架橋の有機系微粒子、シリコーン系微粒子等の透明性を有するものを特に制限なく使用できる。これら微粒子は、1種または2種以上を適宜に選択して用いることができる。中でも、マトリックス樹脂よりも屈折率の高い微粒子が好ましく、例えばスチレンビーズ(屈折率1.59)等の屈折率1.5以上の有機系微粒子が好ましい。微粒子の平均粒子径は好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜5μmである。微粒子の割合は特に制限されないが、マトリックス樹脂100重量部に対して6〜20重量部が好ましい。
【0028】
ハードコート層は、例えば、透明フィルム10上に、硬化性樹脂を含有する溶液を塗布することにより形成できる。ハードコート層を形成するための溶液には、紫外線重合開始剤が配合されていることが好ましい。微粒子を含む防眩性ハードコート層を形成するためには、硬化性樹脂に加えて上記の微粒子を含有する溶液を透明フィルム上に塗布することが好ましい。溶液中には、レベリング剤、チクソトロピー剤、帯電防止剤等の添加剤を含有させてもよい。防眩性ハードコート層の形成においては、溶液中にチクソトロピー剤(粒子径0.1μm以下のシリカ、マイカ等)を含有させることにより、ハードコート層の表面において、突出粒子による微細凹凸構造を容易に形成できる。
【0029】
ハードコート層11の厚みは特に限定されないが、高い硬度を実現するためには、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。塗布による形成の容易性を考慮すると、ハードコート層の厚みは15μm以下が好ましく、12μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。また、偏光子からの水分の外部への放出を妨げないように、フィルム基材の透湿度を高く維持するためにも、ハードコート層11の厚みは上記範囲であることが好ましい。
【0030】
透明フィルム基材1の反射防止層5形成面側の表面の算術平均粗さRaは、1.5nm以下が好ましく、1.0nm以下がより好ましい。透明フィルム10上にハードコート層11が形成されている場合は、ハードコート層11の算術平均粗さが、透明フィルム10の反射防止層5形成面側の表面の算術平均粗さとなる。算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた1μm四方の観察像から求められる。
【0031】
上記のように、塗布によりハードコート層11を形成すれば、透明フィルム基材1の表面の算術平均粗さを小さくできる。透明フィルム基材1の表面が平滑であれば、その上に形成される反射防止層5の表面の算術平均粗さも小さくなり、反射防止フィルムの耐擦傷性が向上する傾向がある。
【0032】
(表面処理)
透明フィルム基材1の表面には、反射防止層5との密着性向上等の目的で、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、ケン化処理、カップリング剤による処理等の表面改質処理が行われてもよい。例えば、真空中でプラズマ処理を実施することにより、基材の表面が改質されるとともに、表面に適度な凹凸が形成され、透明フィルム基材1(ハードコート層11)と反射防止層5との密着性を向上できる。また、プラズマ処理により表面に形成された凹凸上に反射防止層を成膜することにより、反射防止フィルムの透湿度が大きくなる傾向がある。後述のように、透明フィルム基材1と反射防止層5との密着性を向上するために、透明フィルム基材1上に、密着性向上層3を設けてもよい。
【0033】
<反射防止層>
透明フィルム基材1上に、反射防止層5が形成される。反射防止層5は、2層以上の薄膜からなる。一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と厚みの積)が調整される。反射防止層を、屈折率の異なる2層以上の薄膜の多層積層体とすることにより、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。
【0034】
反射防止層5を構成する薄膜の材料としては、金属の酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。例えば、波長550nmにおける屈折率が1.6以下の低屈折率材料として、酸化シリコン、フッ化マグネシウム等が挙げられる。波長550nmにおける屈折率が1.9以上の高屈折材料として、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。低屈折率層と高屈折率層に加えて、屈折率1.50〜1.85程度の中屈折率層として、例えば、酸化チタンや、上記低屈折率材料と高屈折材料の混合物からなる薄膜を形成してもよい。反射防止層を構成する薄膜は、可視光の光吸収が小さいことが好ましく、波長550nmにおける消衰係数が0.5以下である材料が好ましく用いられる。
【0035】
反射防止層5の積層構成としては、透明フィルム10側から、光学膜厚240nm〜260nm程度の高屈折率層と、光学膜厚120nm〜140nm程度の低屈折率層との2層構成;光学膜厚170nm〜180nm程度の中屈折率層と、光学膜厚60nm〜70nm程度の高屈折率層と、光学膜厚135nm〜145nm程度の低屈折率層との3層構成;光学膜厚20nm〜55nm程度の高屈折率層と、光学膜厚15nm〜70nm程度の低屈折率層と、光学膜厚60nm〜330nm程度の高屈折率層と、光学膜厚100nm〜160nm程度の低屈折率層との4層構成;光学膜厚15nm〜30nm程度の低屈折率層と、光学膜厚20nm〜40nm程度の高屈折率層と、光学膜厚20nm〜40nm程度の低屈折率層と、光学膜厚240nm〜290nm程度の高屈折率層と、光学膜厚100nm〜200nm程度の低屈折率層との5層構成等が挙げられる。反射防止層を構成する薄膜の屈折率や膜厚の範囲は上記例示に限定されない。また、反射防止層5は、6層以上の薄膜の積層体でもよい。
【0036】
反射防止層は、低屈折率層と高屈折率層との交互積層体であることが好ましい。空気界面での反射を低減するために、反射防止層の最表面層(透明フィルム基材1と反対側の面)として設けられる薄膜54は、低屈折率層であることが好ましい。低屈折率層および高屈折率層の材料としては、上記のように酸化物が好ましい。中でも、反射防止層5は、低屈折率層としての酸化シリコン(SiO)薄膜52,54と、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb)薄膜51,53との交互積層体であることが好ましい。
【0037】
反射防止層5の透湿度は、15g/m・24h以上が好ましく、20g/m・24h以上がより好ましく、30g/m・24h以上がさらに好ましい。反射防止層の透湿度を高めることにより、水分の滞留を抑制し、高温での耐久性を向上できる。高温での耐久性をさらに向上する等の観点において、反射防止層5の透湿度は、100g/m・24h以上または130g/m・24h以上であってもよい。反射防止層の透湿度が過度に高いと、高湿での耐久性が低下する傾向があるため、反射防止層5の透湿度は、1000g/m・24h以下が好ましく、500g/m・24h以下がより好ましい。
【0038】
反射防止層は薄膜であり、単体で透湿度を求めることは困難である。そのため、透明フィルム基材上に反射防止層を形成して透湿度を測定すればよい。多くの樹脂フィルムの透湿度は、無機酸化物層の透湿度に比べて十分大きいため、透明フィルム基材1上に反射防止層5が設けられた反射防止フィルムの透湿度は、反射防止層5の透湿度に等しいとみなせる。したがって、本発明の反射防止フィルムの透湿度は、15〜1000g/m・24hが好ましく、20〜500g/m・24h以上がより好ましい。
【0039】
透明フィルム基材1上に反射防止層5が設けられた反射防止フィルムや反射防止層付き偏光板が加熱環境に曝されると、透明フィルム10や偏光子8中の水分がフィルム外に蒸散する。反射防止層の透湿度が小さい場合は、水分が系外に拡散し難い。偏光板の内部に水分が滞留すると、透明フィルム10のトリアセチルセルロース等が加水分解されやすく、偏光子の保護性能が低下する傾向がある。また、アセチルセルロースが加水分解されると、遊離酸が発生する。酸の存在下では、偏光子を構成するポリビニルアルコールのポリエン化が生じ易く、偏光板の劣化の原因となる。これに対して、反射防止層5の透湿度が大きい場合は、偏光子や透明フィルムから蒸散した水分が、反射防止層5の表面から系外に拡散しやすいために、水分の滞留が抑制され、高温での偏光板の劣化が抑制されると考えられる。
【0040】
反射防止層5の押込弾性率は、20GPa以上が好ましく、30GPa以上がより好ましい。反射防止層の弾性率を大きくすることにより、耐擦傷性が向上する。一方、弾性率が過度に大きいと、フィルムの搬送性等の取り扱い性が低下する場合がある。そのため、反射防止層5の押込弾性率は、100GPa以下が好ましく、70GPa以下がより好ましい。同様の理由から、反射防止層の押込硬度は、0.5〜10GPaが好ましく、1〜5GPaがより好ましい。押込弾性率および押込硬度は、ナノインデンテーションにより測定される。
【0041】
反射防止層5表面の算術平均粗さRaは、3nm以下が好ましく、1.8nm以下がより好ましく、1.5nm以下がさらに好ましく、1.3nm以下が特に好ましい。算術平均粗さを小さくすることにより、耐擦傷性が向上する傾向がある。特に、反射防止層5表面の算術平均粗さが1.5nm以下であれば、皮脂等の汚れが付着した際の拭き取り性が向上する傾向がある。一方、反射防止層5表面の算術平均粗さが過度に小さいと、フィルム製造時等のロール搬送が困難となる傾向があるため、反射防止層5の表面の算術平均粗さは、0.3nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましい。
【0042】
反射防止層を構成する薄膜の成膜方法は特に限定されず、ウェットコーティング法、ドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一で緻密な薄膜を形成できることから、真空蒸着、CVD,スパッタ、電子線蒸等のドライコーティング法が好ましい。中でも、上記の弾性率を有する機械的強度の高い膜を形成しやすいことから、スパッタ法が特に好ましい。ロールトゥーロール方式により、長尺のフィルム基材を一方向(長手方向)に搬送しながら連続成膜を行うことにより、反射防止フィルムの生産性を向上できる。
【0043】
スパッタ法による酸化シリコンや酸化ニオブ等の酸化物層の成膜は、酸化物ターゲットを用いる方法、および金属ターゲットを用いた反応性スパッタのいずれでも実施できる。酸化物ターゲットを用いて、酸化シリコン等の絶縁性の酸化物を成膜するためには、RF放電が必要であるため、成膜レートが小さく生産性が低い。そのため、酸化物のスパッタ成膜は、金属ターゲットを用いた反応性スパッタが好ましい。反応性スパッタでは、アルゴン等の不活性ガスおよび酸素等の反応性ガスをチャンバー内に導入しながら成膜が行われる。反応性スパッタでは、金属領域と酸化物領域との中間の遷移領域となるように酸素量を調整することが好ましい。酸素量が不足する金属領域で成膜を行うと、得られる膜の酸素量が化学量組成に比して大幅に小さく、反射防止層が金属光沢を帯びて透明性が低下する傾向がある。また、酸素量が大きい酸化物領域では、成膜レートが極端に低下する傾向がある。スパッタ成膜が遷移領域となるように酸素量を調整することにより、高レートで酸化物膜を成膜できる。また、遷移領域で成膜を行うことにより、得られる膜の透湿度が上昇し、高温での耐久性が向上する傾向がある。反応性スパッタに用いるスパッタ電源としては、DCまたはMF−ACが好ましい。
【0044】
反応性デュアルマグネトロンスパッタ法において、成膜モードが遷移領域となるように酸素導入量を制御する方法としては、放電のプラズマ発光強度を検知して、成膜室へのガス導入量を制御するプラズマエミッションモニタリング方式(PEM方式)が挙げられる。PEMでは、プラズマ発光強度を検知し、酸素導入量にフィードバックすることにより制御が行われる。例えば、発光強度の制御値(セットポイント)を所定の範囲に設定してPEM制御を行い、酸素導入量を調整することにより、遷移領域での成膜を維持できる。また、プラズマインピーダンスが一定となるように、すなわち放電電圧が一定となるように酸素導入量を制御するインピーダンス方式による制御を行ってもよい。
【0045】
PEM方式やインピーダンス方式により酸素導入量を制御すれば、ロールトゥーロール方式での薄膜の連続成膜における成膜レートを長手方向で一定に保つことができる。そのため、薄膜の膜厚が均一となり、反射防止特性に優れる反射防止フィルムが得られる。幅方向に複数の酸素導入配管を設け、各配管から導入する酸素流量を個別に制御することにより、幅方向の品質の均一性も向上できる。
【0046】
スパッタ成膜においてはターゲット表面へのパーティクルの付着等に起因して放電異常を生じる場合があり、放電異常が発生した部分では薄膜の膜質が低下する。このような放電異常もプラズマ発光や、放電電圧によりモニタリングできる。放電異常等によりプラズマ発光量が制御範囲を外れた場合、膜質や膜厚の異常を生じている可能性が高いため、この部分を「欠点有り」と判断して、スパッタ成膜部よりも下流側に設けられたマーキング装置によりマーキングを実施すれば、長尺の反射防止フィルムから、不良部分を容易に除去できる。
【0047】
スパッタ法では、高エネルギーのスパッタリングガス(例えばAr)をターゲットに衝突させることにより、ターゲットから材料を弾き出すため、スパッタ粒子も高エネルギーを有している。そのため、スパッタ法では、真空蒸着法やCVD法に比べて緻密な膜が形成されやすい。一般に、スパッタ法により形成された薄膜は透湿度が小さく、例えば、酸化シリコン膜の透湿度は10g/m・24h以下であることが多い。
【0048】
スパッタ成膜条件を調整することにより、透湿度が15g/m・24h以上の薄膜を形成できる。例えば、スパッタ成膜時の放電電圧が小さい場合は、スパッタ粒子の運動エネルギーが小さく、基板表面での拡散が抑制される。そのため、柱状に膜が成長しやすく、膜質がポーラスとなりやすい。放電電圧が高い場合は、面状に膜が形成されやすく、緻密な膜質となりやすい。一方、放電電圧が過度に大きくなると、反跳したAr等の中性粒子が膜表面にダメージを与え、欠陥が生じるため、膜密度が低下する傾向がある。
【0049】
マグネトロンスパッタでは、磁場が強い(磁束密度が大きい)方が、プラズマの拡がりが抑制され、プラズマ密度が高くなる傾向がある。これに伴って、放電電圧を小さくできるため、上記の様に、膜が柱状成長しやすく透湿度が大きくなる傾向がある。また、放電電圧の低下に伴うスパッタ粒子の運動エネルギー低下により、反跳Ar粒子等によるダメージを低減できる。そのため、膜表面が平滑となりやすく、算術平均粗さRaが小さく、耐擦傷性や指紋拭き取り性に優れる反射防止フィルムが得られる。スパッタ成膜時のターゲット表面の磁束密度は20mT以上が好ましく、35mT以上がより好ましく、45mT以上がさらに好ましく、55mT以上が特に好ましい。
【0050】
成膜時の圧力が高いと、スパッタ粒子の平均自由行程が小さくなり、スパッタ粒子の指向性が低下してArにより拡散されやすくなるため、膜質がポーラスとなりやすい。一方、成膜圧力が過度に高いと、成膜レートが低下する。また、成膜圧力が高いと、プラズマ放電が不安定となる傾向がある。透湿度が高く、かつ十分な機械強度を有する酸化物薄膜を形成するために、成膜圧力は0.4Pa〜1.5Paが好ましい。
【0051】
これらのスパッタ成膜条件の他に、成膜下地となる基板の表面形状等も膜成長様式に影響を与える場合がある。例えば、前述のように、透明フィルム基材の表面にプラズマ処理を施すと、表面に形成された凹凸に起因して、スパッタ膜が柱状成長しやすく、透湿度が大きくなる傾向がある。
【0052】
(密着性向上層)
ハードコート層11等の有機材料と、酸化物薄膜との密着性は十分ではない場合が多い。そのため、透明フィルム基材1と反射防止層5との間には、密着性向上層3が設けられることが好ましい。密着性向上層3の材料としては、シリコン、ニッケル、クロム、アルミニウム、錫、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、ジルコニウムおよびパラジウム等の金属;これら金属の2種類以上からなる合金;これらの金属の酸化物、窒化物およびフッ化物等が挙げられる。
【0053】
光透過率が高く、かつ有機層と酸化物層の両方に対する接着力が高いことから、密着性向上層3としては、化学量論組成よりも酸素量の少ない酸化物が特に好ましい。密着性向上層3の酸素量は、化学量論組成の60〜95%程度が好ましい。例えば、密着性向上層3として酸化シリコン(SiO)層を形成する場合、xは1.2〜1.9が好ましい。
【0054】
密着性向上層3の厚みは、透明フィルム基材1の透明性を損なわない程度あればよく、例えば1〜10nm以下程度である。密着性向上層3は、スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等により形成できる。反射防止層5がスパッタ法により形成される場合、透明フィルム基材1を搬送しながら、密着性向上層3と反射防止層5とを1パスで連続成膜できる。そのため、密着性向上層3は、スパッタ法により成膜されることが好ましい。
【0055】
化学量論組成よりも酸素量の少ない酸化物薄膜のスパッタ成膜においても、PEM方式やインピーダンス方式により酸素導入量を制御してもよい。
【0056】
(防汚層)
反射防止フィルムは、液晶表示装置等のディスプレイの最表面に配置して用いられるため、外部環境からの汚染(指紋、手垢、埃等)の影響を受けやすい。特に、反射防止層の最表面に設けられるSiO等の低屈折率層は濡れ性が良く、指紋や手垢等の汚染物質が付着しやすい。また、酸化物からなる反射防止層は、一般的な透明フィルムに比べて汚染が目立ちやすく、汚染物質が付着しやすいため、表面反射率の変化や、付着物が白く浮き出て視認されることにより、表示が不鮮明になる場合がある。
【0057】
外部環境からの汚染防止や、付着した汚染物質の除去を容易とするために、反射防止層5の表面には防汚層7が設けられることが好ましい。汚染防止性および汚染物質の除去性を高めるために、防汚層7の純水接触角は、100°以上が好ましく、102°以上がより好ましく、105°以上がさらに好ましい。純水接触角は、汚染防止層の表面に直径2mm以下の水滴を形成してその接触角を測定することにより求められる。
【0058】
反射防止層5の反射防止特性を維持するために、防汚層7は、反射防止層5の最表面の低屈折率層54との屈折率差が小さいことが好ましい。防汚層7の屈折率は、1.6以下が好ましく、1.55以下がより好ましい。防汚層7の材料としては、フッ素基含有のシラン系化合物や、フッ素基含有の有機化合物等が好ましい。
【0059】
防汚層7は、リバースコート法、ダイコート法、グラビアコート法等のウエット法や、CVD法等のドライ法等により形成できる。防汚層7の厚みは、通常、1〜100nm程度であり、好ましくは2〜50nm、より好ましくは3〜30nmである。
【0060】
反射防止層5が有する耐擦傷性等の機械強度を維持するために、防汚層7も、反射防止層5と同様、表面の算術平均粗さRaが小さいことが好ましい。防汚層7表面の算術平均粗さ(すなわち反射防止フィルム表面の算術平均粗さ)は、3nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましく、1.8nm以下がさらに好ましく、1.5nm以下が特に好ましく、1.3nm以下が最も好ましい。反射防止フィルム表面の算術平均粗さが1.5nm以下であれば、指紋拭き取り性が向上する傾向がある。
【0061】
[反射防止層付き偏光板]
本発明の反射防止フィルムは、図2に示すように、偏光子と積層して、反射防止層付き偏光板として実用に供することができる。図2に示す反射防止層付き偏光板110では、透明フィルム基材1の反射防止層形成面と反対側の主面に、偏光子8の一方の面が貼り合わせられている。偏光子8の他方の面には、透明フィルム9が貼り合わせられている。
【0062】
偏光子8としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。
【0063】
中でも、高い偏光度を有することから、ポリビニルアルコールや、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて所定方向に配向させたポリビニルアルコール(PVA)系偏光子が好ましい。例えば、ポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素染色および延伸を施すことにより、PVA系偏光子が得られる。PVA系偏光子として、厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることもできる。薄型の偏光子としては、例えば、特開昭51−069644号公報、特開2000−338329号公報、WO2010/100917号パンフレット、特許第4691205号明細書、特許第4751481号明細書等に記載されている薄型偏光膜を挙げることができる。このような薄型偏光子は、例えば、PVA系樹脂層と延伸用樹脂基材とを積層体の状態で延伸する工程と、ヨウ素染色する工程とを含む製法により得られる。
【0064】
透明フィルム9としては、透明フィルム10の材料として前述したものと同様の材料が好ましく用いられる。なお、透明フィルム9の材料と透明フィルム10の材料は、同一でもよく、異なっていてもよい。
【0065】
偏光子と透明フィルムとの貼り合わせには、接着剤を用いることが好ましい。接着剤としては、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。PVA系偏光子の接着には、ポリビニルアルコール系の接着剤が好ましく用いられる。
【0066】
本発明の反射防止フィルムおよび反射防止層付き偏光板は、液晶表示装置や有機EL表示装置等のディスプレイに用いられる。特に、ディスプレイの最表面層として用いた場合に反射防止によるディスプレイの視認性向上に寄与する。本発明の反射防止フィルムおよび反射防止層付き偏光板は、高温環境に長時間曝された場合でも劣化が生じ難く、高温信頼性に優れるため、車載ディスプレイ等に特に好適に用いられる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[防眩性ハードコート層付きフィルムの作製]
紫外線硬化型のウレタンアクリレート系モノマー(屈折率1.51)100重量部、平均粒子径3.5μm(粒子分布範囲が3.0〜4.1μm)のポリスチレンビーズ(屈折率1.59)14重量部、ベンゾフェノン系光重合開始剤5重量部、およびトルエン171重量部を混合した固形分濃度40重量%の溶液を、厚み80μmのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率1.49)上に塗布し、120℃で5分間乾燥した。その後、紫外線照射により硬化処理を行い、表面に凹凸構造を有する厚み約4μmの防眩性ハードコート層を形成した。この防眩性ハードコート層の算術平均粗さRaは0.43nmであった。
【0069】
[実施例1]
防眩性ハードコート層が形成されたトリアセチルセルロースフィルムを、ロールトゥーール方式のスパッタ成膜装置に導入し、フィルムを走行させながら、防眩性ハードコート層形成面にボンバード処理(Arガスによるプラズマ処理)を行った後、密着性向上層として、3.5nmのSiO層(x<2)を成膜し、その上に、12nmのNb層、28nmのSiO層、100nmのNb層および85nmのSiO層を順に成膜した。反射防止層上に、防汚層としてフッ素系の樹脂を厚み5nmとなるように形成して、反射防止フィルムを作製した。
【0070】
(ボンバード処理)
ボンバード処理は、圧力0.5Pa、実効パワー密度0.34W・min/m・cmの条件にて実施した。なお、ボンバード処理後の防眩性ハードコート層(密着性向上層および反射防止層を形成していないもの)の表面の算術平均粗さRaは0.51nmであり、処理前に比べてRaが大きくなっていた。実効パワー密度とは、プラズマ出力のパワー密度(W/cm)をロールトゥーロール方式によるフィルム基材の搬送速度(m/min)で割った値である。プラズマパワーが同一でも搬送速度が大きい場合は、実効的な処理パワーは低下する。
【0071】
(スパッタ成膜)
密着性向上層としてのSiOx層は、圧力0.4Paで、Siターゲットに3W/cmのMF-AC電力を40kHz印加して成膜した。SiO層の成膜にはSiターゲット、Nb層の成膜にはNbターゲットを用い、表1に示す電圧、圧力で成膜を行った。酸化物薄膜の成膜においては、アルゴンの導入量および排気量を調整することにより圧力を一定に保ち、プラズマ発光モニタリング(PEM)制御により、成膜モードが遷移領域を維持するように導入する酸素量を調整した。
【0072】
[実施例2〜5および比較例1〜4]
ボンバード処理の実効パワー密度、ならびにSiO層およびNb層の成膜時の放電電圧および圧力を表1に示すように変更した。実施例4,5および比較例1〜4では、マグネットを変更して、ターゲット表面の磁束密度80mTの条件で成膜を行った。実施例5および比較例3では、PEM制御により、成膜モードが酸化領域を維持するように酸素導入量を調整した。
【0073】
[比較例5]
防眩性ハードコート層が形成されたトリアセチルセルロースフィルムのハードコート層表面に、圧力0.15Pa,実効パワー密度0.10W・min/m・cmの条件でボンバード処理を実施した。その上に、真空蒸着法により、12nmのNb層、28nmのSiO層、100nmのNb層および85nmのSiO層を順に成膜して、実施例1と同様に反射防止層上に防汚層を形成し、反射防止フィルムを作製した。
【0074】
[比較例6]
防眩性ハードコート層が形成されたトリアセチルセルロースフィルムのハードコート層表面に、ウェットコーティングにより100nmの低屈折率層を形成して反射防止フィルムを作製した。低屈折率層の材料としては、ポリシロキサンとフルオロアルキルシランの混合物のゾルゲル反応により生成したフッ素化合物ポリマーを用いた。
【0075】
[比較例7]
防眩性ハードコート層の表面に、圧力0.5Pa,実効パワー密度0.10W・min/m・cmの条件でボンバード処理を実施した。その後、比較例6と同様にして反射防止フィルムを作製した。
【0076】
[反射防止フィルムの評価]
実施例および比較例の反射防止フィルムを、下記の方法により評価した。
【0077】
(透湿度)
JIS K7129:2008 附属書Bに準じて、温度40℃、湿度90%RHの雰囲気中で反射防止フィルムの透湿度を測定した。フィルム基材の透湿度が、反射防止層の透湿度に比べて十分に大きいため、反射防止フィルム全体の透湿度が反射防止層の透湿度に等しいとみなした。
【0078】
(算術平均粗さ)
原子間力顕微鏡(AFM)を用いた1μm四方の観察像から、算術平均粗さを求めた。
【0079】
(押込弾性率)
反射防止フィルムの透明フィルム側の面をスライドガラスに貼り付けた試料を、反射防止層を上向きにして、ナノインー(Hysitron, Inc.製 TI950 TriboIndenter)のステージ上に固定した。測定は、23℃、50%RHの測定環境下において、バーコッチ(三角錐)型のダイヤモンド製圧子(先端の曲率半径:0.1μm)を用いて、徐々に荷重を印加し、最大荷重到達後に荷重を0まで徐々に戻した。深さ10nm付近の押込弾性率Erを、下記式により算出した。
【0080】
Er=(S√π)/(2√A)
S:除荷曲線の傾き
π:円周率
A:圧子と試料の投影接触面積
なお、圧子と試料の投影接触面積Aは、特開2005−195357号公報に記載の方法により求めた。
【0081】
(耐擦傷強度)
スチールウール(日本スチールウール Bonstar #0000)を擦傷試験機に固定し、2000gの荷重をかけて、10往復の擦傷試験を行い、試験後の反射防止フィルムの表面の外観を目視で確認した。傷が確認されなかったものを〇、傷が確認されたものを×とした。
【0082】
(指紋拭き取り性)
反射防止フィルムの表面(実施例1〜5および比較例1〜5では防汚層、比較例6,7ではフッ素系反射防止層)に皮脂を強制的に付着させた。摺動試験機にセルロース不織布ワイパー(旭化成 ベンコットM−1)を取り付け、200gの荷重をかけて防汚層の表面を10往復させ、皮脂が拭き取れているか目視で確認した。皮脂が拭き取れたものを〇、完全には拭き取れなかったものを×とした。
【0083】
[反射防止層付き偏光板の作製]
偏光子の一方の面に、実施例および比較例の反射防止フィルムを貼り合わせ、偏光子の他方の面に、ラクトン環構造を有する変性アクリル系ポリマーからなる厚み30μmの透明フィルム(透湿度:125g/m2・24h)を貼り合わせて、反射防止層付き偏光板を作製した。偏光子としては、平均重合度2700、厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素染色しながら6倍に延伸したPVA系偏光子を用いた。PVA系偏光子と透明フィルムとの接着には、アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1200,ケン化度98.5モル%,アセトアセチル化度5モル%)とメチロールメラミンとを重量比3:1で含有する水溶液からなる接着剤を用い、ロール貼合機で貼り合わせた後、オーブン内で加熱乾燥させた。
【0084】
[偏光板の加熱信頼性評価]
得られた反射防止層付き偏光板を、95℃の熱風オーブン内に投入し、1000時間後に取り出した。バックライト上に市販の偏光板を載置し、その上に加熱試験後の反射防止層付き偏光板をクロスニコルに載置して、目視にて外観の変化の有無を確認した。加熱試験前後で外観に変化がみられなかったものを〇、変化がみられたものを×とした。
【0085】
実施例および比較例の反射防止フィルムの作製条件、反射防止フィルムの評価結果、および偏光板の加熱信頼性評価結果を表1に示す。また、実施例1〜3および比較例1の偏光板の加熱試験前後の外観(クロスニコル観察)を、図3に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
実施例1〜3の反射防止層のスパッタ成膜条件と、反射防止層の特性との相関をみると、スパッタ成膜時の圧力が低いほど、機械強度(押込弾性率)が高く、反射防止層の透湿度が小さく、算術平均粗さRaが小さくなる傾向がみられた。また、実施例4と比較例2との対比からも、スパッタ成膜時の圧力の低下に伴って、反射防止層の透湿度が小さくなる傾向があることが分かる。これらの結果から、低圧でスパッタ成膜を行うと緻密な膜が形成されやすく、成膜圧力の上昇に伴って、よりポーラスな膜が形成されやすいために透湿度が上昇すると考えられる。
【0088】
実施例3と実施例4との対比から、磁束密度を高めることにより、スパッタ成膜に要する放電電圧が小さくなり、反射防止層の透湿度が上昇し、算術平均粗さRaが小さくなることが分かる。実施例4と実施例5との対比から、酸化領域で酸化物薄膜を成膜すると、反射防止層の透湿度が減少し、算術平均粗さRaが小さくなることが分かる。
【0089】
比較例1と比較例2との対比、および実施例5と比較例3との対比から、基材のボンバード処理時の圧力が大きいほど、反射防止層の透湿度が高くなる傾向があることが分かる。上述のように、ボンバード処理により基材表面の算術平均粗さが大きくなる傾向があり、ボンバード処理によって表面に形成された凹凸に起因して、スパッタ膜が柱状成長することが、透湿度上昇に寄与していると考えられる。
【0090】
スパッタ成膜圧力を小さくすることにより低透湿度の反射防止層が形成された比較例1では、図3に示すように、加熱試験後の偏光板にムラが発生していた。一方、高透湿の反射防止層が形成された実施例1〜5では、真空蒸着法により反射防止層が形成された比較例5およびウェットコーティングにより反射防止層が形成された比較例6,7と同様、加熱試験の前後で外観に差は見られなかった。これらの結果から、反射防止層の透湿度を大きくすることにより、反射防止層付き偏光板の加熱耐久性が向上することが分かる。
【0091】
真空蒸着法により反射防止層が形成された比較例5では、反射防止層の透湿度が高く、偏光板の加熱耐久性は良好であったが、膜の機械強度が小さく、耐擦傷性が不十分であった。ウェットコーティングにより反射防止層が形成された比較例6,7では、反射防止層の機械強度が比較例5よりもさらに低下していた。
【0092】
比較例6と比較例7とを対比すると、ボンバード処理により基材の表面凹凸を大きくした比較例7では、その上に設けられた反射防止層の算術平均粗さが大きくなっており、指紋拭き取り性が低下していた。実施例1〜5の反射防止フィルムは、いずれも表面の算術平均粗さRaが比較例6と同等あるいは比較例6よりも小さいため、指紋拭き取り性が良好であった。
【0093】
以上の結果から、スパッタ成膜条件を調整することにより、透湿度が高く、かつ機械強度の高い反射防止層が形成され、偏光板の高温での信頼性および機械強度に優れる反射防止フィルムが得られることが分かる。また、反射防止フィルム表面の算術平均粗さRaが小さい場合は、指紋拭き取り性が向上する。上記の実施例1〜5および比較例1〜4の対比から、機械強度、高透湿度による偏光板の加熱耐久性、および表面形状に基づく指紋拭き取り性を兼ね備える反射防止フィルムの製造条件としては、プラズマ処理(ボンバード処理)等による基材表面形状の調整、高磁場成膜、表面凹凸が過度に大きくならない範囲での高圧成膜、酸素流量調整による遷移領域での成膜等が好ましいといえる。
【符号の説明】
【0094】
1 透明フィルム基材
10 透明フィルム
11 ハードコート層
3 密着性向上層
5 反射防止層
51,52,53,54 薄膜
7 防汚層
8 偏光子
9 透明フィルム
100 反射防止フィルム
110 反射防止層付き偏光板
図1
図2
図3