(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の正極用スラリー、リチウムイオン二次電池の正極用スラリーを用いて得られるリチウムイオン二次電池用正極およびその製造方法、並びに、リチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池およびその製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正極活物質(A)100質量部に対する前記樹脂バインダー(C)の含有量が0.2質量部以上、5.0質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の正極用スラリー。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリー、リチウムイオン二次電池の正極用スラリーを用いて得られるリチウムイオン二次電池用正極およびその製造方法、並びに、リチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池およびその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0025】
[リチウムイオン二次電池の正極用スラリー]
本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーは、正極活物質(A)と、導電助剤(B)と、樹脂バインダー(C)と、増粘分散剤(D)と、水(E)と、を含み、樹脂バインダー(C)が、エチレン性不飽和カルボン酸エステルおよびエチレン性不飽和カルボン酸の少なくとも1種と芳香族ビニル化合物とを含むモノマーの共重合体であり、増粘分散剤(D)が、側鎖にフェニル基を有するポリアルキレンオキシドを含む。
以下、リチウムイオン二次電池の正極用スラリーを、正極用スラリーと言うこともある。
【0026】
<正極活物質(A)>
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いることができる正極活物質であれば特に限定されないが、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、スピネルマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、Ni−Mn−Co系、Ni−Mn−Al系、およびNi−Co−Al系等の含ニッケルリチウム複合化合物、LiTiS
2、LiMnO
2、LiMoO
3、LiV
2O
5等のカルコゲン化合物等が挙げられる。正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
<導電助剤(B)>
導電助剤としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、通常、炭素材料を用いることが好ましい。炭素材料としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されないが、グラファイト、カーボンブラック、カーボンファイバー等が挙げられる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックおよびサーマルブラックが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラック、ケッチェンブラックが好ましい。
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーでは、正極活物質(A)100質量部に対する導電助剤(B)の含有量が、1質量部以上、10質量部以下であることが好ましく、2質量部以上、8質量部以下であることがより好ましく、4質量部以上、6質量部以下であることがさらに好ましい。
導電助剤の含有量が上記範囲内であれば、このリチウムイオン二次電池の正極用スラリーを用いて作製したリチウムイオン二次電池用正極を備えるリチウムイオン二次電池は、体積当たりの容量バランスが優れ、耐久性(サイクル特性)が優れる。
【0029】
<樹脂バインダー(C)>
樹脂バインダー(C)は、エチレン性不飽和カルボン酸エステルおよびエチレン性不飽和カルボン酸の少なくとも1種と芳香族ビニル化合物とを含むモノマーの共重合体である。
【0030】
前記共重合体の原料モノマーである芳香族ビニル化合物は、エチレン性炭素−炭素二重結合と芳香環を有する化合物である。
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0031】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、α,β−不飽和モノカルボン酸もしくはジカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等)のアルキルエステルが挙げられる。エステルのアルキル鎖は、好ましくは炭素数1〜18の直鎖状、分岐状または環状のアルキル鎖、より好ましくは炭素数2〜12の直鎖状、分岐状または環状のアルキル鎖、さらに好ましくは炭素数2〜8の直鎖状、分岐状または環状のアルキル鎖である。
【0032】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、炭素数2〜8の直鎖状、分岐状または環状のアルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
なお、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸またはアクリル酸のことである。
【0033】
さらに、正極活物質同士および正極活物質と集電体との結着性を損なわない限り、樹脂バインダー(C)として、エチレン性不飽和カルボン酸エステルおよびエチレン性不飽和カルボン酸の少なくとも一方と芳香族ビニル化合物との共重合体には、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニルやアルカン酸ビニルに代表されるビニルエステル類、モノオレフィン類(エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等)、ジオレフィン(アレン、メチルアレン、ブタジエン)、ジアセトンアクリルアミド等の含カルボニル基エチレン性不飽和単量体、含スルホン酸エチレン性不飽和単量体が共重合されていてもよい。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
上述した樹脂バインダー(C)の中でも、リチウムイオン二次電池の正極用スラリー中の正極活物質の分散性を向上させる観点、並びに、リチウムイオン二次電池の特性を向上させる目的で、電解液への耐溶出性および正極における耐酸化性をより向上させるという観点から、樹脂バインダー(C)は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、または、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−アクリル酸−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体であることが好ましい。これらの中でも、工業生産上、凝集物の発生を軽減可能であるという観点から、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−アクリル酸−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体がより好ましい。
【0035】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルおよびエチレン性不飽和カルボン酸の少なくとも1種と芳香族ビニル化合物とを含むモノマーの共重合体構成単位の100モル部に対する、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位の含有量は、25モル部以上、85モル部以下であることが好ましく、30モル部以上、80モル部以下であることがより好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位の含有量が上記範囲内であれば、得られる正極の柔軟性や耐熱性が向上し、正極活物質同士および正極活物質と集電体との結着性も向上する。
【0036】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルおよびエチレン性不飽和カルボン酸の少なくとも1種と芳香族ビニル化合物とを含むモノマーの共重合体構成単位の100モル部に対する、エチレン性不飽和カルボン酸単位の含有量は、1モル部以上、10モル部以下であることが好ましく、1モル部以上、5モル部以下であることがより好ましい。
エチレン性不飽和カルボン単量体単位の含有量が上記範囲内であれば、芳香族ビニル化合物とエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体の乳化重合安定性または機械的安定性が維持され、正極活物質同士および正極活物質と集電体との結着性が向上する。
【0037】
また、樹脂バインダー(C)、特にエチレン性不飽和カルボン酸エステルまたはエチレン性不飽和カルボン酸と芳香族ビニル化合物との共重合体は、必要に応じて、架橋剤となるグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、ビニルトリエトキシシランやγ−メタクリロキシプポピルトリメトキシシラン等の加水分解性アルコキシシリル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物等のモノマーを導入し、それ自身同士を架橋させるか、もしくは活性水素基を持つエチレン性不飽和化合物成分と組み合わせて架橋させてもよい。また、カルボニル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物等を共重合体に導入し、ポリヒドラジン化合物、特に、シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ジヒドラジド等の2以上のヒドラジド基を有する化合物と組み合わせて架橋させてもよい。
【0038】
樹脂バインダー(C)、特にエチレン性不飽和カルボン酸エステルまたはエチレン性不飽和カルボン酸と芳香族ビニル化合物との共重合体を得るための重合法としては、従来から公知の方法を用いることができる。公知の方法の中でも、乳化重合法を用いることが好ましい。
乳化重合に用いられる界面活性剤としては、通常のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンスルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
乳化重合における界面活性剤の使用量は、全単量体100質量部に対して、0.1質量部以上、3質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上、1.0質量部以下であることがより好ましい。
界面活性剤の使用量が上記範囲内であれば、得られた水系エマルジョンの粒子径が所望の粒子径となり、安定した乳化重合が行えるとともに、正極活物質と集電体の密着力の低下が抑制される。
【0040】
乳化重合の際に用いられるラジカル重合開始剤としては、公知慣用のラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。また、必要に応じて、これらの重合開始剤を、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤と併用してレドックス重合を行ってもよい。
【0041】
樹脂バインダー(C)を得るための乳化重合法としては、一括して仕込む重合方法、各成分を連続供給しながら重合する方法等が用いられる。
重合は、通常、30℃以上、90℃以下の温度範囲内で撹拌下に行われる。なお、共重合に用いるエチレン性不飽和カルボン酸のため、系が酸性にシフトするので、重合中もしくは重合終了後に、塩基性物質を加えてpH調整することにより、乳化重合時の重合安定性、機械的安定性、化学的安定性を向上させることができる。その際に用いられる塩基性物質としては、アンモニア、トリエチルアミン、エタノールアミン、苛性ソーダ等が挙げられる。塩基性物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーでは、正極活物質(A)100質量部に対する樹脂バインダー(C)の含有量が、0.2質量部以上、5.0質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上、3.0質量部以下であることがより好ましい。
樹脂バインダー(C)の含有量が上記範囲内であれば、正極活物質同士および正極活物質と集電体との結着性が良好なリチウムイオン二次電池の正極用スラリーおよびリチウムイオン二次電池用正極を提供することができる。さらに、その正極を利用することで、高い初期放電容量と優れた高温充放電サイクル特性を有するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0043】
<増粘分散剤(D)>
増粘分散剤(D)は、正極用スラリーに含まれる正極活物質同士および正極活物質と集電体に対する結着性を高め、かつ正極用スラリー中の正極活物質の分散性を上げ、正極用スラリーの安定性を高めるために用いられる。
本発明では、増粘分散剤(D)が、正極用スラリー中の正極活物質の分散性をより高めることができることから、側鎖にフェニル基を有するポリアルキレンオキシドを含む。また、増粘分散剤(D)がその他に水溶性高分子を含んでもよい。正極用スラリー中の正極活物質の分散性を高めることができるその他の水溶性高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロースの誘導体、ポリアルキレンオキシド誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、ポリカルボン酸誘導体(これらの塩類を含む)、ポリカルボン酸エステル誘導体、ポリビニルアミド誘導体およびエチレン性不飽和カルボン酸とビニルアミドとの共重合体等が挙げられる。増粘分散剤(D)が、側鎖にフェニル基を有するポリアルキレンオキシドであってもよい。また、増粘分散剤(D)が、側鎖にフェニル基を有するポリアルキレンオキシドとカルボキシメチルセルロース(CMC)であってもよい。
【0044】
また、側鎖にフェニル基を有するポリアルキレンオキシドとしては、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0045】
【化2】
(但し、式中、n、mおよびlはモノマーのモル比を示す。また、n、mおよびlは整数を表し、n+m+l=100、n+m≦98、l≧1を示す)
【0046】
上記式(1)で表される化合物としては、n=50〜98、m=1〜10、l=1〜10であるものが好ましく、n=80〜98、m=1〜10、l=1〜10であるものがより好ましい。
フェニル基存在比を下記式のように定義したとき、好ましくは1〜10%である。
フェニル基存在比(%):l/(n+m+l)×100
なお、上記式(1)におけるn、m、およびlは当該モノマーのモル比を示すものであり、当該各モノマーユニットがn、m、l個連続して繋がっていることを示すものではない。また、ブロック共重合ということでもない。
増粘分散剤に用いる水溶性高分子の分子量は特に限定されないが、正極用スラリーの製造時に用いる、増粘分散剤の水溶液の粘度に応じた分子量を設定することが好ましい。増粘分散剤として、上記式(1)で表される化合物を用いる場合、重量平均分子量(MW)は、特に限定されないが、10,000〜1,000,000であることが好ましく、20,000〜500,000であることがより好ましい。
上記式(1)で表される化合物の重量平均分子量が上記範囲内であれば、導電助剤の分散性に優れ、初期直流抵抗が低くなる。
なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(商品名:Shodex(登録商標)GPC−101、昭和電工社製)を用いて、下記条件にて測定し、標準プルラン検量線を用いて求めた値のことを意味する。
分析カラム:(1)OHpak SB−803HQ、(2)OHpak SB−804HQ、昭和電工社製
リファレンスカラム:OHpak SB−800RL、昭和電工社製
カラム温度:40℃
試料:測定サンプル濃度は0.1質量%
流量:1mL/分
溶離液:0.1M 硝酸ナトリウム水溶液
検出器:RI−71S
【0047】
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、明成化学工業社製のアルコックスCP−B(商品名)が挙げられる。
【0048】
これらの水溶性高分子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、各々の水溶性高分子のモノマーを共重合させたものを用いることも好適である。
【0049】
増粘分散剤(D)は、正極用スラリーの増粘分散の観点から、1質量%増粘分散剤の水溶液の23℃における、回転式粘度計(商品名:TVB−25L、東機産業社製)を用いた毎分60回転における粘度(mPa・s)が、1mPa・s〜10000mPa・sであることが好ましく、10mPa・s〜2000mPa・sであることがより好ましい。上記範囲の粘度を有する増粘分散剤を用いることにより、増粘分散剤の水溶液の粘度が所望の粘度に保たれ、正極用スラリーにおける正極活物質(A)、導電助剤(B)、樹脂バインダー(C)および増粘分散剤(D)の分散性、並びに、正極活物質同士および正極活物質と集電体に対する結着性が向上し、スラリーの集電体への塗工に優れる。
【0050】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーでは、正極活物質(A)100質量部に対する増粘分散剤(D)の含有量が、0.2質量部以上、5.0質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上、3.0質量部以下であることがより好ましい。
増粘分散剤(D)の含有量が上記範囲内であれば、正極活物質の分散性がより高まるため、正極活物質が均一に分散され、集電体への塗工に適した粘度を有する正極用スラリーが得られる。
また、本発明の効果を十分に発揮するために、増粘分散剤(D)がその他に水溶性高分子(例えば、CMC)を含む場合、本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーでは、増粘分散剤(D)100質量部において、側鎖にフェニル基を有するポリアルキレンオキシド(例えば、上記一般式(1)の化合物)の含有量が、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることが更に好ましい。
【0051】
<水(E)>
本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーにおいて、分散媒として用いる水としては、イオン交換樹脂で処理された水(イオン交換水)、および逆浸透膜浄水システムにより処理された水(超純水)等が好ましい。
【0052】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーでは、正極活物質(A)100質量部に対する水(E)の含有量が、20質量部以上、100質量部以下であることが好ましく、30質量部以上、90質量部以下であることがより好ましく、40質量部以上、80質量部以下であることがさらに好ましい。
水の含有量が20質量部以上であれば、高濃度のスラリーが製造でき、電極作製時の乾燥工程が容易になる。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーは、上記樹脂バインダー(C)と増粘分散剤(D)を併用したため、正極活物質の分散性が高く、低い初期抵抗値を有するリチウム二次電池が得られる。かつ集電体に均一に塗工可能である。
【0054】
[リチウムイオン二次電池の正極用スラリーの製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーは、正極活物質(A)と、導電助剤(B)と、樹脂バインダー(C)と、増粘分散剤(D)と、を含む混合物を、水(E)に分散または溶解させたものである。
【0055】
正極用スラリーは、水分散体が好ましい。しかし、正極用スラリーは、環境の負荷に影響のない範囲内で、水と親水性の高い溶媒を含んでいてもよい。
【0056】
水(E)に、正極活物質(A)と、導電助剤(B)と、樹脂バインダー(C)と、増粘分散剤(D)と、を分散または溶解させる方法としては、これらの成分を均一に分散または溶解できる方法であれば特に限定されず、例えば、プラネタリーミキサー、ディスパー、ボールミルを用いた方法が挙げられる。
【0057】
正極用スラリーの調製方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。樹脂バインダー(C)と増粘分散剤(D)とを、水(E)(または水と親和性の高い溶媒)に分散または溶解させる。その後、その分散液または溶液に、正極活物質(A)と導電助剤(B)とを加え、必要に応じてpH調製剤、濡れ剤、消泡剤等の添加剤を添加し、さらに、分散、溶解または混練する。
【0058】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、正極集電体と、その正極集電体上に形成され、正極活物質を含む正極活物質層と、を備え、正極活物質層は、本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーから形成されたものである。
【0059】
正極集電体としては、アルミニウムからなる集電体を初めとして、金属製のものであれば特に限定されない。
また、正極集電体の形状は特に限定されないが、正極集電体としては、通常、厚さが0.001mm以上、0.5mm以下のシート状のものを用いることが好ましい。
【0060】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーから形成された正極活物質層を備えているため、正極活物質層と集電体との良好な結着性を有する。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池は容量の低下を招く可能性が低い。
【0061】
[リチウムイオン二次電池用正極の製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、正極集電体上に、本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーを塗布、乾燥して、正極活物質層を形成する工程を有する。
【0062】
正極集電体への正極用スラリーの塗布方法としては、一般的な方法が用いられ、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法が挙げられる。
【0063】
正極用スラリーの正極集電体への塗布は、正極集電体の片面および両面に施すことができる。正極集電体の両面に塗布する場合は、片面ずつ逐次、塗布してもよく、両面同時に塗布してもよい。また、正極集電体の表面に連続、あるいは、間欠に塗布してもよい。正極用スラリーの塗布層の厚さ、長さや幅は、リチウムイオン二次電池の大きさに応じて適宜設定する。
【0064】
正極用スラリーの乾燥方法としては、一般的な方法を用いることができる。例えば、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線、低温風を用いる乾燥方法が挙げられる。これらの乾燥方法は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
乾燥温度は、50℃以上、350℃以下であることが好ましく、50℃以上、200℃以下であることがより好ましい。
【0065】
リチウムイオン二次電池用正極は、必要に応じてプレスして成形することができる。プレスの方法としては、一般的な方法を用いることができるが、金型プレス法やカレンダープレス法が好ましい。プレス圧は特に限定されないが、0.1t/cm
2以上、10t/cm
2以下であることが好ましく、0.5t/cm
2以上、5.0t/cm
2以下であることがより好ましい。
【0066】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備える。
リチウムイオン二次電池としては、例えば、次の2つの非水系二次電池が挙げられる。
負極と本発明のリチウムイオン二次電池用正極とを、リチウムイオン透過性のセパレータ(例えば、ポリエチレン製またはポリプロピレン製の多孔性フィルム)を介して配置し、これに非水系の電解液を含浸させた非水系二次電池。
負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極/セパレータ/正極集電体の両面に正極活物質層が形成された本発明のリチウムイオン二次電池用正極/セパレータからなる積層体をロール状(渦巻状)に巻回した巻回体が、電解液と共に有底の金属ケーシングに収容された筒状の非水系二次電池。
【0067】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる負極としては、例えば、負極集電体上に負極活物質やバインダーを含む負極活物質層が形成された公知の負極を用いることができる。
負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な元素を含有する負極活物質や、炭素材料等、公知の負極活物質を用いることができる。
リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な元素としては、リチウムと合金化し得る元素が挙げられる。例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、インジウムおよび亜鉛が挙げられる。このような元素を含む活物質を負極活物質として用いることにより、リチウムイオン二次電池の高容量化が可能となる。
【0068】
リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な元素を含有する負極活物質としては、具体的に、金属化合物、金属酸化物、リチウム金属化合物、リチウム金属酸化物(リチウム−遷移金属複合酸化物を含む)等が挙げられる。
金属化合物の形態の負極活物質としては、例えば、LiAl、Li
4Si、Li
4.4Pb、Li
4.4Sn等が挙げられる。
金属酸化物の形態の負極活物質としては、例えば、SnO、SnO
2、GeO、GeO
2、In
2O、In
2O
3、PbO、PbO
2、Pb
2O
3、Pb
3O
4、SiO、ZnO等が挙げられる。
炭素材料としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維、コークス、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等の炭素材料等が挙げられる。
これらの負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
また、負極に用いられるバインダーとしては特に限定されないが、公知の負極用バインダー樹脂を用いることができる。
【0070】
負極集電体の材料としては、導電性を有する物質であれば特に限定されないが、金属が用いられる。金属としては、リチウムと合金を形成し難い金属が好ましく、具体的には、銅、ニッケル、鉄、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、あるいはこれらの合金が挙げられる。
負極集電体の形状としては、薄膜状、網状、繊維状が挙げられる。これらの中でも、薄膜状が好ましい。
負極集電体の厚みは、5μm〜30μmであることが好ましく、8μm〜25μmであることがより好ましい。
【0071】
電解液としては、例えば、リチウムイオン二次電池の場合、電解質としてのリチウム塩を1mol/L程度の濃度で非水系有機溶媒に溶解したものが用いられる。
リチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiBF
4、LiI、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、LiCH
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、Li[(CO
2)
2]
2B等が挙げられる。
【0072】
非水系有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、NMP等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル等のエステル類;ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;スルホラン等のスルホン類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類等が挙げられる。これらの非水系有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、容量の維持率が高い。
【0074】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、本発明のリチウムイオン二次電池の正極用スラリーを調製する工程と、正極集電体上に、そのリチウムイオン二次電池の正極用スラリーを塗布して正極活物質層を形成し、リチウムイオン二次電池用正極を作製する工程と、そのリチウムイオン二次電池用正極を備えるリチウムイオン二次電池を組み立てる工程と、を有する。
リチウムイオン二次電池を組み立てる工程は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を正極として用いれば特に限定されない。
【0075】
リチウムイオン二次電池を組み立てる工程では、例えば、正極と負極とを、透過性のセパレータを介して配置し、これに非水系の電解液を含浸させる。次いで、負極を負極端子に、正極を正極端子に接続し、リチウムイオン二次電池とする。
また、リチウムイオン二次電池が筒状の場合、以下のようにして得られる。まず、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極/セパレータ/正極集電体の両面に正極活物質層が形成された本発明のリチウムイオン二次電池用正極/セパレータからなる積層体をロール状(渦巻状)に巻回して巻回体とする。得られた巻回体を、金属ケーシング(電池缶)に収容し、負極を負極端子に、正極を正極端子に接続する。次いで、金属ケーシングに電解液を含浸させた後、金属ケーシングを封止することにより筒状のリチウムイオン二次電池とする。
【0076】
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法によれば、簡便な工程により、本発明のリチウムイオン二次電池が得られる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における「部」は、特に断りのない場合は質量部を示す。また、実施例および比較例における「%」は、フェニル基存在比以外で特に断りのない場合は質量%を示す。実施例で得られたリチウムイオン二次電池の正極用スラリー、このスラリーを用いて得られるリチウムイオン二次電池用正極、および、このリチウムイオン二次電池用正極を用いて得られるリチウムイオン二次電池の性能評価試験は、以下の方法により行った。
【0078】
[樹脂バインダー(C)の作製]
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、イオン交換水100質量部および反応性アニオン性乳化剤(商品名:エレミノールJS−20、有効成分40%、三洋化成工業社製)0.9質量部を仕込み、75℃に昇温した。
次いで、上記反応性アニオン性乳化剤6.5質量部、非反応性アニオン性乳化剤(商品名:ハイテノール08E、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、第一工業製薬社製)1.2質量部、スチレン149質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル131質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5.8質量部、イタコン酸5.8質量部、パラスチレンスルホン酸ソーダ1.2質量部、ジビニルベンゼン0.1質量部およびイオン交換水271質量部を予め混合してなるモノマー乳化物を4時間かけて80℃で滴下した。
同時に、重合開始剤として過硫酸カリウム1.3質量部をイオン交換水29質量部に溶解したものを4時間かけて80℃で滴下重合した。
モノマー乳化物と重合開始剤の滴下終了後、80℃で2時間熟成後、反応液を室温に冷却した。その後、反応液に、25%アンモニア水6.0質量部およびイオン交換水36質量部を添加し、樹脂(i)のエマルジョン(固形分40.0%)を得た。樹脂(i)のエマルジョンは、23℃における回転式粘度計(商品名:TVB−25L、東機産業社製)を用いた毎分10回転における粘度が500mPa・s、pHが7.0であった。
【0079】
[リチウムイオン二次電池の正極用スラリーの作製]
下記の実施例および比較例に記載の含有量で、正極活物質、導電助剤としてカーボンブラック、樹脂バインダーおよび増粘分散剤を混合し、さらにその混合物に必要に応じて分散媒である水を加えて混練し、リチウムイオン二次電池の正極用スラリーを作製した。
【0080】
[正極の作製]
リチウムイオン二次電池の正極用スラリーを、集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔にロールプレス処理後の厚さが90μmとなるように塗布し、ホットプレートで50℃にて5分間乾燥し、次いで、110℃にて5分間乾燥し、正極を得た。
【0081】
[導電助剤の分散性評価]
得られた正極の表面を、走査型電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて観察し、導電助剤であるカーボンブラックの分散性を目視により評価した。
導電助剤が正極表面に万遍なく存在していた場合は「均一」、導電助剤の凝集や非局在箇所が存在していた場合は、その度合いに応じ「やや不均一」と「不均一」に分類した。
【0082】
[負極スラリーの作製]
負極活物質である人造黒鉛(商品名:SCMG(登録商標)−BR、昭和電工社製)100質量部に対して、導電助剤としてカーボンブラック(アセチレンブラック)を2質量部、バインダーとしてスチレン−アクリル酸エステル共重合体(商品名:ポリゾール(登録商標) LB−200、固形分40%、粘度2000mPa・s、pH7.0、昭和電工社製)からなる乳化重合体を4質量部、増粘分散剤としてカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と言う。)(1質量%のCMC水溶液の23℃における粘度:1100mPa・s)を水に溶解させたCMC水溶液(CMC濃度が2質量%)を50質量部混合し、さらにその混合物に水を5質量部加えて混練し、負極用スラリーを作製した。
【0083】
[負極の作製]
負極用スラリーを、集電体となる厚さ10μmの銅箔にロールプレス処理後の厚さが60μmとなるように塗布し、ホットプレートで50℃にて5分間乾燥し、次いで、110℃にて5分間乾燥した。その後、金型プレス機を用いて、プレス圧2.5t/cm
2にてプレスし、集電タブを取り付けることで、負極を得た。
【0084】
[電解液の調製]
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを、体積比で2:3で混合した溶媒に、LiPF
6を1.0mol/Lの濃度になるように溶解し、電解液を調製した。
【0085】
[リチウムイオン二次電池の作製]
上記の通りに作製した正極および負極を、ポリエチレン製のセパレータを挟んで対向させ、アルミラミネートの容器に収容した。その後、アルゴン雰囲気下のグローボックス中にて、正極および負極を収容した容器に上記電解液を滴下し、脱圧しながらラミネート容器を熱圧着してリチウムイオン二次電池を作製した。なお、この電池の理論容量を16.5mAhとして設計した。
【0086】
[電池性能評価:初期直流抵抗]
日鉄エレックス社製の充放電試験装置を用いて、上記リチウムイオン二次電池を評価した。
まず、リチウムイオン二次電池にエージング処理を施した後、25℃条件下、CC−CV(定電流―定電圧)充電(上限電圧(正極活物質としてLiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2(以下、「NMC」とも言う。)、LiCo
1.5/10Ni
7/10Mn
1.5/10O
2(以下、「Hi−Ni NMC」とも言う。)、LiCoO
2(以下、「LCO」とも言う。)を用いた場合は4.2V、LiFePO
4(以下、「LFP」とも言う。)を用いた場合は3.65V)になるまで1C(1時間で満充放電する電流)で充電し、その後CV時間(1.5時間)が経過するまで一定の電圧(4.2V)で充電した)およびCC放電(下限電圧(正極活物質としてLFPを用いた場合は2.0V、その他は2.75V)になるまで0.2Cで放電)を2サイクル行った。2回のCC放電時の容量の平均をそのリチウムイオン二次電池の初期容量と定めた。初期容量測定後、25℃条件下、初期容量の60%に相当する容量を0.2Cで充電し、その後0.2Cで1分間CC放電をし、1秒後の放電電流と電圧を測定した。同様のCC放電を0.5C、1.0C、2.0Cでも行い、各々1秒後の放電電流と電圧を測定し、各測定値をプロットし、近似直線の傾きをその電池の初期直流抵抗と定めた。
【0087】
[実施例1]
正極用スラリーの作製において、樹脂バインダー(C)として上記合成した樹脂(i)のエマルジョン(固形分40.0%)を1.25g(樹脂バインダー(C):0.5g(2.5質量部))、増粘分散剤(D)として下記式(1)で表される化合物(以下、「Ph−PEO」とも言う。明成化学工業社製)を水に溶解させたPh−PEO水溶液(Ph−PEO濃度が10質量%、下記式(1)中、n+m+l=100、n+m=98、l=2、重量平均分子量80,000)を3g(増粘分散剤(D):0.3g(1.5質量部))、溶媒として水を8g(水(E):40質量部)加えて、プラネタリーミキサー(商品名:ハイビスミックス2P−03型、プライミクス社製)を用いて混練した後、この混練物に、正極活物質としてNMCを20g(正極活物質(A):100質量部)、導電助剤としてカーボンブラック(アセチレンブラック)1g(導電助剤(B):5質量部)を添加して、プラネタリーミキサー(商品名:ハイビスミックス2P−03型、プライミクス社製)を用いて混練し、正極用スラリーを作製した。
【0088】
【化3】
【0089】
[実施例2]
正極用スラリーの作製において、Ph−PEOの重量平均分子量が200,000であること以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極用スラリーを作製した。
【0090】
[実施例3]
正極用スラリーの作製において、Ph−PEOの組成がn+m+l=100、n+m=95、l=5であること以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極用スラリーを作製した。
【0091】
[実施例4]
正極用スラリーの作製において、樹脂バインダー(C)として合成した樹脂(i)のエマルジョン(固形分40.0%)を1.25g、増粘分散剤としてPh−PEOを水に溶解させたPh−PEO水溶液(Ph−PEO濃度が10質量%、上記式(1)中、n+m+l=100、n+m=98、l=2、質量平均分子量80,000)を2g、CMC(商品名:CMCダイセル1350、ダイセル社製)を水に溶解させたCMC水溶液(CMC濃度が5質量%)を2g(増粘分散剤の質量比がPh−PEO/CMC=2/1となるように調整)、溶媒として水を7g加えて、プラネタリーミキサー(商品名:ハイビスミックス2P−03型、プライミクス社製)を用いて混練した後、この混練物に、NMCを20g、導電助剤としてカーボンブラック(アセチレンブラック)1gを添加して、プラネタリーミキサー(商品名:ハイビスミックス2P−03型、プライミクス社製)を用いて混練し、実施例4の正極用スラリーを作製した。
【0092】
[実施例5]
正極用スラリーの作製において、樹脂バインダー(C)として合成した樹脂(i)のエマルジョン(固形分40.0%)を1.25g、増粘分散剤としてPh−PEOを水に溶解させたPh−PEO水溶液(Ph−PEO濃度が10質量%、上記式(1)中、n+m+l=100、n+m=98、l=2、重量平均分子量80,000)を1g、CMC(商品名:CMCダイセル1350、ダイセル社製)を水に溶解させたCMC水溶液(CMC濃度が5質量%)を4g(増粘分散剤の質量比がPh−PEO/CMC=1/2となるように調整)、溶媒として水を6g加えて、プラネタリーミキサー(商品名:ハイビスミックス2P−03型、プライミクス社製)を用いて混練した後、この混練物に、NMCを20g、導電助剤としてカーボンブラック(アセチレンブラック)1gを添加して、プラネタリーミキサー(商品名:ハイビスミックス2P−03型、プライミクス社製)を用いて混練し、実施例5の正極用スラリーを作製した。
【0093】
[実施例6]
正極用スラリーの作製において、正極活物質をHi−Ni NMCに変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の正極用スラリーを作製した。
【0094】
[実施例7]
正極用スラリーの作製において、正極活物質をLCOに変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の正極用スラリーを作製した。
【0095】
[実施例8]
正極用スラリーの作製において、正極活物質をLFPに変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例8の正極用スラリーを作製した。
【0096】
[比較例1]
正極用スラリーの作製において、増粘分散剤としてポリエチレンオキシド(L8(明成化学工業社製)、上記式(1)において、側鎖を一切持たない骨格、以下「PEO」とも言う。分子量80,000)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極用スラリーを作製した。
【0097】
[比較例2]
正極用スラリーの作製において、増粘分散剤としてPEO(R−400(明成化学工業社製)、重量平均分子量200,000)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極用スラリーを作製した。
【0098】
[比較例3]
正極用スラリーの作製において、増粘分散剤としてPEO(L8(明成化学工業社製)、重量平均分子量80,000)を用いたこと以外は実施例4と同様にして、比較例3の正極用スラリーを作製した。
【0099】
[比較例4]
正極用スラリーの作製において、増粘分散剤としてPEO(L8(明成化学工業社製)、重量平均分子量80,000)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、比較例4の正極用スラリーを作製した。
【0100】
[比較例5]
正極用スラリーの作製において、増粘分散剤としてPEO(L8(明成化学工業社製)、重量平均分子量80,000)を用いたこと以外は実施例6と同様にして、比較例5の極用スラリーを作製した。
【0101】
[比較例6]
正極用スラリーの作製において、増粘分散剤としてPEO(L8(明成化学工業社製)、重量平均分子量80,000)を用いたこと以外は実施例7と同様にして、比較例6の正極用スラリーを作製した。
【0102】
[比較例7]
正極用スラリーの作製において、増粘分散剤としてPEO(L8(明成化学工業社製)、重量平均分子量80,000)を用いたこと以外は実施例8と同様にして、比較例7の正極用スラリーを作製した。
【0103】
[比較例8]
正極用スラリーの作製において、樹脂バインダー(C)として合成した樹脂(i)のエマルジョン(固形分40.0%)を1.25g、増粘分散剤としてCMC(商品名:CMCダイセル1350、ダイセル社製)を水に溶解させたCMC水溶液(CMC濃度が5質量%)を6g、溶媒として水を5g加えて、プラネタリーミキサー(商品名:ハイビスミックス2P−03型、プライミクス社製)を用いて混練した後、この混練物に、NMCを20g、導電助剤としてカーボンブラック(アセチレンブラック)1gを添加して、プラネタリーミキサー(商品名:ハイビスミックス2P−03型、プライミクス社製)を用いて混練し、比較例8の正極用スラリーを作製した。
【0104】
実施例1〜8および比較例1〜8について、正極における導電助剤の分散性と電池性能を評価した。結果を表1に示す。
表1中の略語は、以下に示す通りである。
NMC:LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2
Hi−Ni NMC:LiCo
1.5/10Ni
7/10Mn
1.5/10O
2
LCO:LiCoO
2
LFP:LiFePO
4
CMC:カルボキシメチルセルロース
Ph−PEO:側鎖にフェニル基が含有されたポリエチレンオキシド(上記式(1))
PEO:ポリエチレンオキシド
(a)/(b):増粘分散剤(a)と増粘分散剤(b)の質量組成比
【0105】
【表1】
【0106】
表1に示す結果から、実施例1と比較例1を比較すると、増粘分散剤として、Ph−PEOを用いることにより、導電助剤の分散性が向上し、電池の初期直流抵抗が低減することが確認された。
また、実施例2と比較例2を比較すると、増粘分散剤として、分子量が高いPh−PEOを用いても、導電助剤の分散性が向上し、電池の初期直流抵抗が低減することが確認された。
また、実施例4および5と、比較例3および4とを比較すると、増粘分散剤として、Ph−PEOとCMCを組み合わせて用いても、導電助剤の分散性が向上し、電池の初期直流抵抗が低減することが確認された。
また、比較例8から、導電助剤の分散性の向上および電池の初期直流抵抗の低減には、増粘分散剤としてPh−PEOを用いることが有効であることが確認された。すなわち、フェニル基を有する化合物を用いることが有効であることが確認された。
加えて、実施例6〜8と比較例5〜7を比較すると、増粘分散剤として、Ph−PEOを用いることにより、正極活物質の種類に関係なく、導電助剤の分散性が向上し、電池の初期直流抵抗が低減することが確認された。