特許第6774420号(P6774420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山下 直樹の特許一覧

<>
  • 特許6774420-培養容器の表示用シール 図000006
  • 特許6774420-培養容器の表示用シール 図000007
  • 特許6774420-培養容器の表示用シール 図000008
  • 特許6774420-培養容器の表示用シール 図000009
  • 特許6774420-培養容器の表示用シール 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774420
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】培養容器の表示用シール
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20201012BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20201012BHJP
   C12N 5/075 20100101ALI20201012BHJP
【FI】
   C12M1/00 Z
   C12N5/07
   C12N5/075
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-544183(P2017-544183)
(86)(22)【出願日】2016年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2016004427
(87)【国際公開番号】WO2017061097
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2018年3月26日
【審判番号】不服2019-8216(P2019-8216/J1)
【審判請求日】2019年6月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-197772(P2015-197772)
(32)【優先日】2015年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513051117
【氏名又は名称】山下 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】山下 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中田 久美子
(72)【発明者】
【氏名】河野 博臣
【合議体】
【審判長】 田村 聖子
【審判官】 中島 庸子
【審判官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−187674号公報
【文献】 特開2011−26425号公報(拒絶査定の文献2)
【文献】 特開2011−202126号公報
【文献】 工業用粘着テープ総合カタログ[オンライン],リンテック株式会社,2015年 3月26日,[検索日:2016.11.30],インターネット,p.28,H−41177−50
【文献】 Toxicol.Rep.,2015年,Vol.2,pp.729−736
【文献】 BioChim.Biophys.Acya.,2002年,Vol.1591,pp.147−155
【文献】 Inhal.Toxicol.,2009年,Vol.21,pp.973−978
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N 5/00
SwissProt/PIR/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の片面に水溶性粘着層が形成された表示用シールであって、2−プロパノールのアウトガスとしての発生が低減又は抑制されている前記表示用シールを選択し、選択した表示用シールを培養容器表面に貼付することを特徴とする哺乳類受精卵の培養方法。
【請求項2】
哺乳類がヒトであることを特徴とする請求項に記載の培養方法。
【請求項3】
基材層の片面に水溶性粘着層が形成された表示用シールであって、2−プロパノールのアウトガスとしての発生が低減又は抑制されている前記表示用シールを含むことを特徴とする、請求項1に記載の培養方法に用いるためのキット。
【請求項4】
哺乳類がヒトであることを特徴とする請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類受精卵又は哺乳類細胞の培養に用いる培養容器表面に貼付するための表示用シールや、かかる表示用シールを貼付した培養容器中で培養する哺乳類受精卵又は哺乳類細胞の培養方法や、上記表示用シールを備えた、哺乳類受精卵又は哺乳類細胞の培養用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
日本においては、晩婚化や晩産化の影響により、4組に1組の夫婦が不妊の問題を抱えているといわれている。このため、人工授精(AIH)による一般的な不妊治療の他、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)等の高度不妊治療(ART)の実施が増加傾向にある。
【0003】
現在、本来の受精の場である卵管に近い条件下で培養した精子と卵子とを体外受精させ、受精卵を作製した後、卵割、桑実胚、胚盤胞の段階を経て、透明帯から孵化した脱出胚盤胞の段階まで培養することが可能となっている。胚盤胞の段階で胚を子宮に移植すると、より高い妊娠率が得られるが、胚盤胞の段階まで発生が進行する胚の割合は40〜50%であり、良好な胚盤胞に限ってはその割合が20〜30%と低いことが問題とされていた。
【0004】
受精卵の生体外培養は、通常、シャーレ上に培養液の20〜30μLのドロップ(滴)を形成させ、かかるドロップ内に単一又は複数の受精卵を入れて培養を行う方法(マイクロドロップレット法)により行われる。かかるマイクロドロップレット法を改良するために、ドロップ内の受精卵を、ピペットによる操作性が向上し、かつ安定な培養液のドロップを形成できる培養容器が報告されている(特許文献1)。また、受精卵と子宮内膜細胞とを共培養させることにより、より生体内に近い環境で培養させ、発生効率を向上させる方法も報告されている(特許文献2)。
一方、患者の胚を培養するシャーレは、個別管理されるため、マジックでの記載やシールによるサンプルの識別が行われているが、これまで培養シャーレに貼付するシールが、受精卵の胚発生に悪影響を及ぼす可能性については考えられていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−29431号公報
【特許文献2】特開2012−75391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、哺乳類受精卵又は細胞の培養に用いる培養容器表面に貼付しても、受精卵の胚発生や哺乳類細胞の増殖・生存に悪影響を及ぼすことのない表示用シールや、受精卵の胚発生や細胞の増殖・生存に悪影響を及ぼすことなく、哺乳類胚盤胞の胚を作製したり、哺乳細胞の培養を行うことができる、受精卵又は細胞の培養方法や培養用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述のとおり、受精卵の体外培養において、培養容器表面に貼付した表示用シールが、受精卵の胚発生に悪影響を及ぼすという課題自体、この分野の当業者に知られていなかった。本発明者らは、アウトガスのシールと、アウトガスレスのシール(水溶性粘着シール)とを用いて検討した結果、アウトガス(少なくとも2−プロパノール)が受精卵の胚発生に悪影響を及ぼすことや、アウトガスが低減又は抑制された水溶性粘着シールは、受精卵の胚発生に悪影響を及ぼすことがないため、かかる水溶性粘着シールを貼付した培養容器中で受精卵を体外培養すると、効率よく良好なヒト等の哺乳類胚盤胞の胚を作製できることを見いだし、本発明の完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]基材層の片面に水溶性粘着剤層が形成されてなり、アウトガスの発生が低減又は抑制されていることを特徴とする、哺乳類受精卵又は哺乳類細胞の培養に用いる培養容器表面に貼付するための表示用シール。
[2]哺乳類がヒトであることを特徴とする上記[1]に記載の表示用シール。
[3]アウトガスの成分の1つとして、2−プロパノールが含まれることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の表示用シール。
[4]アウトガスレスであることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の表示用シール。
[5]採取された哺乳類受精卵、又は哺乳類細胞を、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の表示用シールを貼付した培養容器中で培養することを特徴とする哺乳類受精卵又は哺乳類細胞の培養方法。
[6]哺乳類がヒトであることを特徴とする上記[5]に記載の培養方法。
[7]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の表示用シールを備えたことを特徴とする、哺乳類受精卵又は哺乳類細胞の培養に用いるためのキット。
[8]哺乳類がヒトであることを特徴とする上記[7]に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表示用シールは、受精卵の胚発生に悪影響を及ぼすことがないため、本発明の表示用シールを貼付した培養容器中で受精卵を体外培養すると、効率よく良好な哺乳類胚盤胞の胚を作製することができる。また、胚への影響がない本発明の表示用シールは、ES細胞、iPS細胞、神経細胞などの細胞培養中のサンプルの識別に使用されても、細胞増殖や生存に悪影響がないことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の表示用シールを貼付した培養ディッシュの模式図である。
図2】シールを貼付しない培養ディッシュを用いてマウス受精卵を培養後、2日目及び5日目の顕微鏡画像を示す図である。
図3】アウトガスのシールを貼付した培養ディッシュを用いてマウス受精卵を培養後、2日目及び5日目の顕微鏡画像を示す図である。
図4】アウトガスレスの水溶性粘着シールを貼付した培養ディッシュを用いてマウス受精卵を培養後、2日目及び5日目の顕微鏡画像を示す図である。
図5】アウトガスレスの水溶性粘着シール(図中の「サンプル2」)におけるアウトガス総量を、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて解析した結果を示す図である。図中のサンプル3は、アウトガスレス処理前のサンプル2を示し、また、サンプル1は、アウトガスのシールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の表示用シールは、「哺乳類受精卵又は哺乳類細胞の培養に用いる培養容器表面に貼付するため」という用途が限定された、基材層の片面に水溶性粘着剤層が形成されてなり、アウトガスの発生が低減又は抑制されている表示用シールであり、ここで「アウトガス」とは、揮発性物質が揮発することにより発生するガスを意味する。かかる性質を有する本発明の表示用シールを用いると、培養液中へ溶解するアウトガスの量を効果的に低減又は抑制できるため、シールから放出されるアウトガスが要因となり、哺乳類受精卵の胚発生や、哺乳類細胞の増殖に悪影響を及ぼすことを予防できる。
【0012】
また、本発明の受精卵又は細胞の培養方法としては、インビトロで、採取された哺乳類受精卵、又は哺乳類細胞を、本発明の表示用シールを貼付した培養容器中で培養する工程を含む方法であれば特に制限されないが、哺乳類受精卵を培養する場合、胚発生が進行し、胚盤胞の状態になった受精卵(胚)を女性の子宮に着床させる工程等のいわゆる医師による医療行為や、女性の子宮に着床させる胚を取捨選択する工程等の正常な胚を破棄するおそれのある行為は含まれない。哺乳類受精卵の培養は、マイクロドロップレット法により行うことができる。また、哺乳類細胞の培養は、細胞の種類に応じて、培養液の種類、継代方法等を適宜選択して行うことができる。
【0013】
また、本発明のキットとしては、「哺乳類受精卵又は哺乳類細胞の培養に用いるため」という用途が限定された、本発明の表示用シールを備えたキットである。かかるキットには、一般にこの種のキットに用いられるもの、例えば、培養容器、培養液の他、本発明の表示用シールについての説明書等の添付文書が通常含まれる。
【0014】
上記哺乳類としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を例示することができ、中でもヒトを好適に例示することができる。
【0015】
上記哺乳類細胞としては、具体的に胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cells:EG細胞)、生殖細胞系列幹細胞(germline stem cells:GS細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞;induced pluripotent stem cell)等の多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞、歯髄幹細胞等の複能性幹細胞、心筋前駆細胞、血管内皮前駆細胞、神経前駆細胞、脂肪前駆細胞、皮膚線維芽細胞、骨格筋筋芽細胞、骨芽細胞、象牙芽細胞等の単能性幹細胞(前駆細胞)などの幹細胞や、心筋細胞、血管内皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、皮膚線維細胞、骨格筋細胞、骨細胞、ヘパトサイト(肝)細胞、臍帯静脈内皮細胞、皮膚微小リンパ管内皮細胞、表皮角化細胞、気管支上皮細胞、メラノサイト細胞、平滑筋細胞、象牙細胞、毛乳頭細胞等の成熟細胞を挙げることができる。また、上記哺乳類細胞には、器官培養する精巣の精細菅由来の細胞や、自家培養皮膚由来の細胞も含まれる。なお、上記哺乳類細胞は、組織の状態の細胞であってもよい。
【0016】
上記基材としては、具体的に、セロハン、プラスチック、紙、布、不織布等を挙げることができる。
【0017】
上記水溶性粘着剤層の厚さは、通常5〜250μmであり、好ましくは5〜150μmである。
【0018】
上記アウトガスの成分として、ホルムアルデヒド、D−リモネン、トルエン、アセトン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトニトリル、1−ブタノール、2−エチルヘキサノール、ヘキサナール等の揮発性物質(有機化合物)の1又は2種以上を挙げることができ、好ましくは2−プロパノールが含まれる。
【0019】
上記水溶性粘着剤としては、具体的に、メチルセルロース、かんしょ澱粉、ばれいしょ澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、こんにゃく、ふのり、寒天、アルギン酸ナトリウム、トロロアオイ、トラガントゴム、アラビアゴム、デキストラン、レバン、にかわ、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、ビスコース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、可溶性澱粉、カルボキシメチル澱粉、ジアルデヒド澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリ−N−ビニルピドリドン等を挙げることができる。
【0020】
上記基材層や水溶性粘着剤層には、不揮発性の各種添加剤、例えば水溶性可塑剤、界面活性剤、粘着付与剤、酸化防止剤、着色剤、油剤を添加してもよい。
【0021】
本発明の表示用シールは、未使用の状態で水溶性粘着剤層表面(基材層が形成されていない片面)に、ゴミ等が付着せずに粘着性能が維持できるように、通常、剥離紙(剥離フィルム)で保護されている。また、本発明の表示用シールは、シロキサンガスの発生を防止するために、シリコーンを含まない(シリコーンフリー)のものが好ましい。
【0022】
本発明の表示用シールとしては、アウトガスレスであることが好ましい。本発明において「アウトガスレス」とは、本発明の表示用シール(シールサンプル)、又は、本発明の表示用シールを複数枚(例えば2〜15枚の範囲内)貼付した培養容器(マルチウエルプレート、培養皿[シャーレ、ディッシュ]等)中で任意の時間(通常6時間〜10日間、好ましくは3〜7日間)インキュベートした培養液(培養液サンプル)を、任意の時間(通常10〜180分間、好ましくは50分〜70分間)加熱(通常40〜150℃の範囲内、好ましくは50〜70℃)したときに発生するガス量を、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で検出・定量した場合、1又は2種以上のアウトガスの成分由来のピークが、ほとんど又は全く検出されないこと(検出感度以下であること)を意味する。
【0023】
本発明の表示用シールは、アウトガスの発生が低減又は抑制されている基材に片面に、アウトガスの発生が低減又は抑制されている水溶性粘着剤を塗工することにより作製することができる。また、本発明の表示用シールとしては、アウトガスの発生が低減又は抑制されている市販品、例えば、3M社製の3M(登録商標)低アウトガス接着剤転写テープ(ATX203SF、又はATX204SF)や、LINTEC社製のシリコーンフリーでかつ、アウトガスが極めて少ない粘着テープ(両面粘着タイプ[TL−6177−12−GA]、基材レスタイプ[TL−607−GA、又はTL−609−GA]、又は片面粘着タイプ[H−41177−50、H−41041−50、H−41051−50、又はH−41081−50])を用いることもできる。
【0024】
本発明の表示用シールを貼付する箇所としては、哺乳類受精卵又は細胞の培養に用いる培養容器(マルチウエルプレート、培養皿[シャーレ、ディッシュ]等)の表面であればよく、哺乳類受精卵又は細胞と接触する培養容器の外側表面や、培養容器がマルチウエルプレートや培養皿の場合、培養容器の蓋上面の内側や蓋側周面の内側であってもよいが、通常は哺乳類受精卵又は細胞と接触しない培養容器の外側表面や、培養容器がマルチウエルプレートや培養皿の場合、培養容器の蓋上面の外側や蓋側周面の外側である。培養容器表面に貼付する表示用シールの枚数は、通常1枚であるが、本発明の表示用シールは、受精卵の胚発生や哺乳類細胞の増殖・生存に悪影響を及ぼさないという優れた効果を有するため、必要に応じて複数枚(全シールの総面積がシャーレの面積以内であればよく、例えば2〜15枚の範囲内)であってもよい。
【0025】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
1.胚発生における、表示用シールから放出されるアウトガスの影響の確認
胚発生における、表示用シールから放出されるアウトガスの影響を確認するために、以下の〔1〕〜〔3〕の手順の方法にしたがって検討を行った。
1−1 方法
〔1〕アウトガスレスの水溶性粘着シールとして、アウトガスが極めて少ない粘着テープ(厚さ:0.075mm、製品番号:H−41177−50、LINTEC社製)を、縦8mm、横28mmとなるように切断したものを用いた。また、アウトガスのシールとして、ASONE社製のシール(縦:8mm、横:28mm、厚さ:0.07mm、製品番号:72150)を用いた。これら2種類のシールを、培養ディッシュ(3002、falcon社製)の蓋上面の内側に7枚、及び側周面内側に6枚貼り、培養ディッシュ(1008、falcon社製)上に滴(ドロップ)状の培養液(4mg/mLBSA[Bovine serum albumin]を含有するM16培養液)(20μL/滴)をのせ、その上をパラフィンオイル(OVOIL、VitroLife社製)(3mL/ディッシュ)で覆った後、蓋を除いた培養ディッシュ(3002、falcon社製)の上に置いた(図1参照)。なお、コントロールとしてラベルシールを貼らない培養ディッシュを用いた実験を行った。
〔2〕滴状の培養液中にマウス受精卵を入れた後、インキュベーター(37℃、5%O、5%CO、90%N)内で培養した。なお、マウス受精卵は、8週齢の雄BDF1と雌BDF1を用いて定法にしたがって体外受精を行い作製した。
〔3〕培養後2日目に、分割(卵割)した受精卵の数を算出し(表1、図2〜4の2日目参照)、培養後5日目に、胚盤胞に到達した受精卵の数を算出するとともに(表1、図2〜4の5日目参照)、Gardner分類により胚盤胞の発生ステージ(グレード1;初期胚盤胞[内腔が全体の1/2以下]、グレード2;胚盤胞[内腔が全体の1/2以上]、グレード3;完全胚盤胞、グレード4;拡張胚盤胞、グレード5;孵化中胚盤胞、及びグレード6;孵化後胚盤胞)を評価した(表2、図2〜4の5日目参照)。
【0027】
1−2 結果
まず、アウトガスの水溶性粘着シール(図5の「サンプル3」参照)をアウトガスレス処理したもの、すなわち、アウトガスレスの水溶性粘着シール(図5の「サンプル2」参照)におけるアウトガス量が検出感度以下であることを、GC−MSを用いた解析により確認した。
アウトガスのシールを貼った培養ディッシュを用いて受精卵を培養した場合、シールを貼らなかった培養ディッシュを用いた場合と比べ、分割する受精卵の割合は9%と少なく、また、胚盤胞に到達した受精卵は全くなかった(表1参照)。一方、アウトガスレスの水溶性粘着シールを貼った培養ディッシュを用いて受精卵を培養した場合、シールを貼らなかった培養ディッシュを用いた場合と同様に、受精卵のすべてが分割し、胚盤胞に到達した受精卵の割合は約90%と高く、そのほとんどが良好胚の目安とされているグレード3(完全胚盤胞)以上の胚盤胞であることが確認された(表1参照)。
以上の結果は、揮発性物質の発生が低減又は抑制された水溶性粘着シールは、受精卵の胚発生に悪影響を及ぼすことがないため、ヒト受精卵の培養に用いる培養容器表面に貼付するための表示用シールとして用いることができることを示している。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【実施例2】
【0030】
2.胚発生に悪影響を及ぼすアウトガスの同定
アウトガスのシールを培養ディッシュに貼付すると、シールから放出された揮発性物質が培養液中に溶解し、受精卵の胚発生に悪影響を及ぼすと考えられる。そこで、胚発生に悪影響を及ぼす揮発性物質を特定するために、以下の〔1〕〜〔3〕の手順の方法にしたがって検討を行った。
2−1 方法
〔1〕実施例1で用いた2種類のシール(アウトガスレスの水溶性粘着シール及びアウトガスのシール)を、培養ディッシュ(3002、falcon社製)の蓋上面の内側に7枚、及び側周面内側に6枚貼り、培養ディッシュ(1008、falcon社製)上に滴状の培養液(4mg/mLBSA[Bovine serum albumin]を含有するM16培養液)(20μL/滴)をのせ、その上をパラフィンオイル(OVOIL、VitroLife社製)(3mL/ディッシュ)で覆った後、蓋を除いた培養ディッシュ(3002、falcon社製)の上に置いた(図1参照)。なお、コントロールとしてラベルシールを貼らない培養ディッシュを用いた実験を行った。
〔2〕インキュベーター(37℃、5%O、5%CO、90%N)内で5日間インキュベートした後、培養液サンプルをヘッドスペースバイアルに回収した。
〔3〕培養液サンプルを60℃で1時間加熱処理した後、測定装置(GCMS-TQ8030、島津社製)及びカラム(InertCap 1、GLサイエンス社製)を用いたGC−MSにより解析した。なお、コントロールとしてアウトガスのシール(ASONE社製)自体を加熱処理したもの(表3の「シールサンプル」参照)も、GC−MSにより解析した。
【0031】
2−2 結果
アウトガスレスのシールを用いてインキュベートした場合、エタノール以外の揮発性物質は検出されなかったのに対して(表3の「培養液サンプル アウトガスレス」参照)、アウトガスのシールを用いてインキュベートした場合、エタノールに加えて2−プロパノールが検出された(表3の「培養液サンプル アウトガス」参照)。この結果から、胚発生に悪影響を及ぼす揮発性物質の1つとして、2−プロパノールが同定された。
なお、エタノールは、シールを貼付しなかった培養液サンプルでも検出されたことから(表3の「培養液サンプル −」参照)、アウトガスレスのシールで検出されたエタノールは、シールから放出されたものではなく、殺菌・消毒に用いた空気中のエタノールが混入したものと考えられる。
【0032】
【表3】
【実施例3】
【0033】
3.シールから放出される2−プロパノールの定量
アウトガスのシールを培養ディッシュに貼付すると、培養液中の2−プロパノールは検出感度以下であった。そこで、アウトガスのシール自体が、どの程度2−プロパノールを放出しているかについて、定量解析した。
3−1 方法
実施例1で用いた2種類のシール(アウトガスレスの水溶性粘着シール及びアウトガスのシール)を、60℃で1時間加熱処理した後、測定装置(GCMS-TQ8030、島津社製)及びカラム(InertCap 1、GLサイエンス社製)を用いたGC−MSにより定量解析した。
【0034】
アウトガスのシールから放出される2−プロパノールは、0.093μL/gで検出されたのに対して、アウトガスレスのシールから放出される2−プロパノールは、検出感度以下(0.08μL/g未満)であった(表4参照)。
【0035】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、不妊治療に資するものである。
図1
図2
図3
図4
図5