【実施例】
【0110】
後述の鋼鉄から形成されたねじ部(雄型もしくは雌型のいずれか又は両方)の非限定的実施例は、二元亜鉛−ニッケル合金で電解処理された。これらの実施例で使用した二元亜鉛−ニッケル合金は、ELECTROPOLI社(登録商標)から商品名ZELTEC 2.4(登録商標)で入手可能である。
【0111】
電解処理のパラメータは以下のとおりであった。
・電解浴の温度:温度=36℃、
・電解浴のpH:pH=5.4、
・印加電流密度:J=2A/dm
2、
・電解浴中の滞留時間:t=20分。
【0112】
このように、電解処理を酸性媒体中で実施した。
【0113】
これによって、亜鉛(Zn)を含む金属層を生成した。金属層の厚さは、4.0μm〜12.5μm(極値)の範囲であり、典型的には、6μm〜約8μmであった。ニッケル(Ni)含有量は、概して12%〜15%(極値)の範囲であった。したがって、亜鉛(Zn)含有量は、概して85%〜88%(極値)の範囲であった。金属層は、抗摩耗特性と防食特性の両方を有していた。
【0114】
バリア層が存在する場合、特に、COVENTYA社(登録商標)から名称FINIGARD 460で販売されている製品であった。
【0115】
パッシベーション層が存在する場合、特に、COVENTYA社(登録商標)から名称FINIDIP 128 CF(コバルトフリー)で販売されている製品であった。それは、ATOTECH(登録商標)Deutschland GmbH(ドイツ有限会社)から名称EcoTri(登録商標)NoCoで販売されている製品でもあり得た。これら2つの製品は、六価クロム(Cr(VI))を含まないという特別な利点を有する。
【0116】
後述する典型的な実施形態では、各ねじ部は、ねじ状管状連結部の一部を形成することを目的とする。各ねじ部は、回転軸を有し、ねじ切りを備える。雄型部材である場合、ねじ切りは、ねじ部の外周面上に延在する。対照的に、雌型部材である場合、ねじ切りは、ねじ部の内周面上に延在する。また、各ねじ部は、管の相補的ねじ部に属する対応する第2シール面と金属−金属干渉を生じるように配置された外周面又は内周面上に第1シール面も備える。雄部の相補的ねじ部は、雌型ねじ部である。雌部の相補的ねじ部は、雄型ねじ部である。
【0117】
以下の典型的実施形態では、一方を他方に組み合わせたときに管状連結部を形成し得る2つの相補的ねじ部の組み立てを体系的に参照する。表面処理、層及び仕上げ処理を雄型ねじ部又は雌型ねじ部に関係なく適用し得ると理解されたい。結果として、ある実施形態がある特定の第1コーティング(層のアンサンブル(集合体))を備えた雄部を参照し、ある特定の第2コーティング(層の他のアンサンブル)を備える雌部を参照するとき、ねじ部の特定の第1及び第2コーティングを入れ替えること、すなわち、特定の第1コーティングを雌部に適用し、特定の第2コーティングを雄部に適用することが可能であることを理解されたい。
【0118】
実施例1
図1は、鋼鉄から形成した基板100を示す。雌型ねじ部102及び雄型ねじ部104を形成するように基板100を成形する。
【0119】
第1防食及び抗摩耗層108で雄型ねじ部104をコーティングする。上述のように、第1金属層108を電解により堆積させる。第1金属層108は、二元亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金により構成され、亜鉛(Zn)、すなわち85.7%の平均量の亜鉛を含む。第1金属層108は、8.3μmの平均厚さを有する。さらに、第1金属層は、単相ガンマタイプの微細構造を有する。
【0120】
上述のように、パッシベーション層110で第1金属層108をコーティングする。本質的に、パッシベーション層は、防食特性を有する。
【0121】
任意選択的に、上述のように、腐食性をも有するバリア層114でパッシベーション層110をコーティングする。
【0122】
第2金属製抗摩耗層106で雌型ねじ部102をコーティングする。第2金属層106は、二元Zn−Ni合金により構成される。
【0123】
第2金属層106を電解により堆積させる。第2金属層106は、重量基準で主に亜鉛(Zn)を含む。さらに、第2金属層は、単相ガンマタイプの微細構造を有する。
【0124】
潤滑剤層112で第2金属層106をコーティングする。
図1の実施形態では、潤滑剤層112は、潤滑特性と防食特性の両方を有するホットメルトタイプのものである。
【0125】
ホットメルト潤滑剤層は、重量基準で以下の組成を有する。
マトリックス:70%〜95%、
固体潤滑剤:5%〜30%。
マトリックスは、以下の組成を有する。
ポリエチレンホモポリマー:8%〜90%、
カルナウバワックス:5%〜30%、
ステアリン酸亜鉛:5%〜30%、
スルホン酸カルシウム誘導体:0〜50%、
ポリメタクリル酸アルキル:0〜15%、
着色剤:0〜1%、
抗酸化剤:0〜1%、
シリコーン(界面活性剤正文):0〜2%。
【0126】
実施例2
図2は、鋼鉄から形成された基板100を示す。雌型ねじ部102及び雄型ねじ部104を形成するように基板100を成形する。
【0127】
金属製防食及び抗摩耗層108で雄型ねじ部104をコーティングする。上述のように、金属層108を電解により堆積させる。金属層108は、二元亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金により構成され、亜鉛(Zn)、すなわち86.5%の平均量の亜鉛を含む。第1金属層108は、、6.7μmの平均厚さを有する。
【0128】
上述のように、パッシベーション層110で雄型ねじ部104の金属層108をコーティングする。本質的に、パッシベーション層は防食特性を有する。
【0129】
上述のように、防食特性も有するバリア層114で雄型ねじ部104のパッシベーション層110をコーティングする。
【0130】
金属製防食及び抗摩耗層108で雌型ねじ部102をコーティングする。上述のように、金属層108を電解により堆積させる。金属層108は、二元亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金により構成され、亜鉛(Zn)、すなわち86.4%の平均量の亜鉛を含む。金属層108は、7.4μmの平均厚さを有する。
【0131】
上述のように、パッシベーション層110で雌型ねじ部102の金属層108をコーティングする。本質的に、パッシベーション層は、防食特性を有する。
【0132】
雌型ねじ部102のパッシベーション層110を潤滑剤層112でコーティングする。
図2の実施形態では、潤滑剤層112は、潤滑特性と防食特性の両方を有するホットメルトタイプのものである。
【0133】
実施例3
図3は、鋼鉄から形成された基板100を示す。雌型ねじ部102及び雄型ねじ部104を形成するように基板100を成形する。
【0134】
金属製防食及び抗摩耗層108で雄型ねじ部104をコーティングする。上述のように、金属層108を電解により堆積させた。金属層108は、二元亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金により構成され、亜鉛(Zn)、すなわち86.5%の平均量の亜鉛(Zn)を含む。第1金属層108は、7μmの平均厚さを有する。
【0135】
上述のように、パッシベーション層110で雄型ねじ部104の金属層108をコーティングする。本質的に、パッシベーション層は、防食特性を有する。
【0136】
上述のように、防食特性をも有するバリア層114で雄型ねじ部104のパッシベーション層をコーティングする。
【0137】
雌型ねじ部102の基板100は、表面粗さを有する。表面粗さは、サンドブラスティング処理によって得られたものである。サンドブラスティング処理は、特に、1.0μm〜10μmの範囲の表面粗さ(Ra)を生成することを可能にする。
図3の典型的な実施形態では、表面粗さ(Ra)は、約2μmである。
【0138】
金属製防食及び抗摩耗層108で雌型ねじ部102をコーティングする。上述のように、金属層108を電解により堆積させた。金属層108は、二元亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金により構成され、亜鉛(Zn)、すなわち85.6%の平均量の亜鉛を含む。金属層108は、7μmの平均厚さを有する。
【0139】
上述のように、雌型ねじ部102の金属層108をパッシベーション層110でコーティングする。本質的に、パッシベーション層は、防食特性を有する。
【0140】
雌型ねじ部102のパッシベーション層110を潤滑剤層112でコーティングする。
図3の実施形態では、潤滑剤層112は、樹脂と、この樹脂中に分散された乾燥固体潤滑剤とを含む。この場合、潤滑剤層112は、カーボンブラックの粒子が分散されたポリウレタン樹脂(タイプPU2K)により構成されている。
【0141】
実施例4
図4は、鋼鉄から形成された基板100を示す。雌型ねじ部102及び雄型ねじ部104を形成するように基板100を成形する。
【0142】
金属製防食及び抗摩耗層108で雄型ねじ部104をコーティングする。上述のように、金属層108を電解により堆積させた。金属層108は、二元亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金により構成され、亜鉛(Zn)、すなわち86.3%の平均量の亜鉛(Zn)を含む。第1金属層108は、7.3μmの平均厚さを有する。
【0143】
上述のように、雄型ねじ部104の金属層108をパッシベーション層110でコーティングする。本質的に、パッシベーション層は、防食特性を有する。
【0144】
上述のように、任意選択的に、防食特性をも有するバリア層114で雄型ねじ部104のパッシベーション層110をコーティングする。
【0145】
雌型ねじ部102の基板100は、表面粗さを有する。表面粗さは、サンドブラスティング処理によって得られたものである。
図4の典型的な実施形態では、表面粗さ(Ra)は、約2μmである。変形例では、後述する雌型ねじ部102の金属製防食及び抗摩耗層108上で、サンドブラスティング処理を実施してもよい。
【0146】
金属製防食及び抗摩耗層108で雌型ねじ部102をコーティングする。上述のように、金属層108を電解により堆積させた。金属層108は、二元亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金により構成され、亜鉛(Zn)、すなわち86.8%の平均量の亜鉛を含む。金属層108は、7.7μmの平均厚さを有する。
【0147】
上述のように、雌型ねじ部102の金属層108上で、サンドブラスティング処理を実施してもよい。本発明の一実施形態では、金属層108は、約2μmの表面粗さ(Ra)を有する。これは、後述するパッシベーション層又は潤滑剤層112が十分に付着可能であることを意味する。
【0148】
上述のように、任意選択的に、雌型ねじ部102の金属層108をパッシベーション層110でコーティングする。本質的に、パッシベーション層は、防食特性を有する。
【0149】
雌型ねじ部102のパッシベーション層110を潤滑剤層112でコーティングする。
図4の実施形態では、潤滑剤層は、エポキシ及びMoS
2により構成される。
【0150】
変形例では、パッシベーション層110がなく、潤滑剤層112を雌型ねじ部102の金属層108に対して直接に(又は、必要に応じて雄型ねじ部の金属層108に対して直接に)施用(適用)することができる。
【0151】
実施例5
図5は、鋼鉄から形成された基板100を示す。雌型ねじ部102及び雄型ねじ部104を形成するように基板100を成形する。
【0152】
雄型ねじ部104の基板100は、表面粗さを有する。表面粗さは、サンドブラスティング処理によって得られたものである。
図5の典型的な実施形態では、表面粗さ(Ra)は、約2μmである。変形例では、後述する雌型ねじ部102の金属製防食及び抗摩耗層108上で、サンドブラスティング処理を実施してもよい。
【0153】
金属製防食及び抗摩耗層108で雄型ねじ部104をコーティングする。上述のように、金属層108を電解により堆積させた。金属層108は、二元亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金により構成され、亜鉛(Zn)、すなわち86.7%の平均量の亜鉛を含む。金属層108は、7.2μmの平均厚さを有する。
【0154】
上述のように、雄型ねじ部104の金属層108上で、サンドブラスティング処理を実施してもよい。本発明の一実施形態では、金属層108は、約2μmの表面粗さ(Ra)を有する。これは、後述するパッシベーション層又は潤滑剤層112が十分に付着可能であることを意味する。
【0155】
上述のように、任意選択的に、雄型ねじ部104の金属層108をパッシベーション層110でコーティングする。本質的に、パッシベーション層は、防食特性を有する。
【0156】
雄型ねじ部104のパッシベーション層110を潤滑剤層112でコーティングする。
図5の実施形態では、潤滑剤層112は、アクリル樹脂及びカーボンブラックにより構成される。
【0157】
変形例では、パッシベーション層110がなく、雄型ねじ部104の金属層108に潤滑剤層112を直接施用することができる。
【0158】
雌型ねじ部102の基板100は、表面粗さを有する。表面粗さは、サンドブラスティング処理によって得られたものである。
図5の典型的な実施形態では、表面粗さ(Ra)は、約2μmである。変形例では、後述する雌型ねじ部102の金属製防食及び抗摩耗層108上で、サンドブラスティング処理を実施してもよい。
【0159】
金属製防食及び抗摩耗層108で雌型ねじ部102をコーティングする。上述のように、金属層108を電解により堆積させた。金属層108は、二元亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金により構成され、亜鉛(Zn)、すなわち86.2重量%の平均量の亜鉛を含む。金属層108は、6.7μmの平均厚さを有する。
【0160】
上述のように、雌型ねじ部102の金属層108上で、サンドブラスティング処理を実施してもよい。本発明の一実施形態では、金属層108は、約2μmの表面粗さ(Ra)を有する。これは、後述するパッシベーション層又は潤滑剤層112が十分に付着可能であることを意味する。
【0161】
上述のように、任意選択的に、雌型ねじ部102の金属層108をパッシベーション層110でコーティングする。本質的に、パッシベーション層は、防食特性を有する。
【0162】
雌型ねじ部102のパッシベーション層110を潤滑剤層112でコーティングする。
図5の実施形態では、潤滑剤層112は、アクリル樹脂とカーボンブラックのその樹脂中の分散体とにより構成される。
【0163】
変形例では、パッシベーション層110がなく、雌型ねじ部102の金属層108に対して直接に(又は、必要に応じて、雄型ねじ部の金属層108に対して直接に)潤滑剤層112を施用することができる。
【0164】
特定の実施形態では、これらの層の少なくとも一部は、ねじ部の他の部材上に延在してもよい。一例として、当接部がねじ部上に存在するとき、この層は、その上に延在すればよい。
【0165】
本出願人は、本発明に係る金属層の電解蒸着前のねじ部と、本発明に係る金属層の電解蒸着後のねじ部とで粗度比較試験を実施した。その部分の機械方向に対して平行な方向で、粗度を測定した。表1にその結果を公表する。
【表1】
表1.粗度の比較
【0166】
Raは、平均偏差粗度であり、これは、粗度プロファイルで測定された山と谷との間の距離の絶対値の算術平均である。Rzは、平均最大粗度として知られ、これは、粗度プロファイルで複数(例えば、5つ)の選択された部分にわたって測定された最大高さの平均である。Rtは、全粗度として知られ、これは、粗度プロファイルの全体にわたって測定された最大高さである。
【0167】
表1は、電解蒸着前のねじ部のサンプルと比較して、電解蒸着後のねじ部のサンプルが機械方向に平行な方向に減少する粗度を有することを示す。特に、本発明に係る電解蒸着は、レベリング(水平化)効果を有する。
【0168】
図6は、光学顕微鏡で撮影したねじ状部材の写真を示す。より詳細には、
図6は、本発明に係るねじ状部材の2つの選択された類似部分と比較した従来技術のねじ状部材の2つの選択された部分を示す。
【0169】
使用した顕微鏡は、光学式であった。その倍率は、500倍であった。各写真で示したスケールは、50μmである。
【0170】
従来技術のねじ状部材を写真200a及び200bに示す。エポキシ樹脂中に分散された層状亜鉛の粒子を含む層204で、鋼鉄から形成された従来技術の基板202をコーティングする。当該技術分野で公知の処理を使用して層204を施用した。従来技術の処理は、層204を基板202上に周囲温度で空気圧噴霧し、続いて、基板/層アンサンブルを熱硬化させることを含む。噴霧段階の間、層204の組成は、溶媒を含む。硬化段階を利用して、溶媒を除去し、層204を架橋させる。写真200a及び200bは、層204が不均一であることを示す。実際、従来技術のねじ状部材の層204は、非均一な微細構造を有する。
【0171】
写真300a及び300bは、本発明のねじ状部材を示す。上記実施例1に記載したタイプの二元Zn−Ni合金により構成された第1金属層108で基板100をコーティングする。均質層を形成するために、二元合金を電解により施用した。実際、
図6の写真300a及び300bは、本発明のねじ状部材の第1金属層108が均一な微細構造を有することを示す。この場合、それは、単相ガンマ(γ)型の微細構造である。
【0172】
図7は、光学顕微鏡で撮影した本発明に係るねじ状部材の写真400を示す。その倍率は、500倍である。各写真で表示したスケールは、50μmである。
【0173】
上記実施例1で記載したタイプの二元Zn−Ni合金により構成された第2金属層106で基板100をコーティングした。均質層を形成するために、二元合金を電解により施用した。金属層は、約4μm〜約6μmの厚さ(平均厚さ約5μm)を有していた。実施例1で上述したように、ホットメルトHMS−3タイプの潤滑剤層112で金属層をコーティングした。潤滑剤層は、約40μm〜約43μmの厚さを有する。
【0174】
第2金属層106は、均一な微細構造を有する。実際、二元Zn−Ni合金により構成される第2金属層も、単相ガンマ(γ)型微細構造を有する。
【0175】
このように、
図6及び7は、本発明の金属層が均一な微細構造を有することを実証する。
【0176】
本発明の管の部材、すなわち、雄型ねじ部又は雌型ねじ部は、これらのねじ部で製造された連結部と同様に、国際標準API RP 5C5(第3版、2003年7月)の条件に適合する。特に、管部材は、15の組み立て/分解手順に耐え、また密封(シール)条件を完全に満たした。
【0177】
本発明の管の部材、すなわち、雄型ねじ部又は雌型ねじ部は、これらのねじ部で製造された連結部と同様に、塩水ミスト試験に関する欧州標準NF EN ISO 9227の条件に完全に準拠していた。特に、管部材は、浸食環境への1000時間暴露に対する腐食耐性に関して好ましい反応を示した。