特許第6774435号(P6774435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774435抗ウイルス活性を有する鼻づまり解除組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774435
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】抗ウイルス活性を有する鼻づまり解除組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20201012BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   A61K31/737
   A61K47/02
   A61K47/26
   A61K47/10
   A61K9/08
   A61P11/02
   A61P31/12
   A61P31/16
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-565990(P2017-565990)
(86)(22)【出願日】2016年7月12日
(65)【公表番号】特表2018-523635(P2018-523635A)
(43)【公表日】2018年8月23日
(86)【国際出願番号】EP2016066565
(87)【国際公開番号】WO2017009351
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2019年6月14日
(31)【優先権主張番号】15176670.6
(32)【優先日】2015年7月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509035244
【氏名又は名称】マリノメド ビオテヒ エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】グラッサウアー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】プリィシゥル‐グラッサウアー,エバ
(72)【発明者】
【氏名】ボーデンタイヒ,アンジェリカ
(72)【発明者】
【氏名】コーラー,クリスチャーヌ
(72)【発明者】
【氏名】モロクッティ‐クルツ,マーティーナ
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0241271(US,A1)
【文献】 特開平03−133936(JP,A)
【文献】 特開2008−260708(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/060915(WO,A1)
【文献】 Archives of Pharmacal Research,2012年,Vol.35,No.2,p.359-366
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性浸透圧調整剤と組み合わせた非イオン性浸透圧調整剤、およびカラギーナン成分を抗ウイルス有効成分として含む、鼻づまり解除活性を有し、気道のウイルス感染に対して活性である高浸透圧性の水溶液であって、
前記水溶液は、鼻適合性緩衝剤を含み、そして4.0〜8.0の範囲内のpH値に調整されており、
前記水溶液は、1〜2mg/mlの濃度のEDTAを含み、
前記イオン性浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および塩化ナトリウムと塩化カリウムの混合物からなる群から選択され、
前記非イオン性浸透圧調整剤は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および低分子量ポリオールからなる群から選択され、
前記低分子量ポリオールは、グリセロール、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、キシリトール、トレイトール、およびマルチトールからなる群から選択され、
前記水溶液は、500mOsm/kgから1000mOsm/kgの高浸透圧値に調整され、
前記カラギーナン成分は唯一の抗ウイルス活性成分であり、そしてイオタ−カラゲナン、カッパ−カラゲナン、およびイオタ−カラゲナンとカッパ−カラゲナンの混合物から選択され、
前記カラギーナン成分の濃度は、即時使用可能製剤の0.05〜1%(w/v)(g/L)の範囲であり、
但し、即時使用可能製剤における前記水溶液は、1.5%(w/v)以下の前記イオン性浸透圧調整剤を含有することを条件とする、
ことを特徴とする水溶液。
【請求項2】
前記単糖類および二糖類は、グルコース、フルクトース、スクロース、およびマンノースからなる群から選択される、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
保存料、抗酸化物質、保水剤、皮膚軟化薬、保湿剤、および香料からなる群から選択される少なくとも1つの生理学的に許容され得る添加物を含む、請求項1または2に記載の水溶液。
【請求項4】
前記非イオン性浸透圧調整剤を前記水溶液全体の1〜15%(w/v)の濃度で含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項5】
前記イオン性浸透圧調整剤を前記水溶液全体の0.1〜1.3%(w/v)の濃度で含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項6】
局所投与用に調製された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項7】
鼻づまりの即時遮断解除および上気道のウイルス感染の同時治療に適した医薬の調製における請求項1〜5のいずれか一項に記載の水溶液の使用。
【請求項8】
前記ウイルス感染は、ヒトライノウイルス、ヒトコロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、メタニューモウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、およびB亜型アデノウイルスの少なくとも1つによって引き起こされる、請求項7に記載の水溶液の使用。
【請求項9】
前記医薬が、点鼻薬として調製された、請求項7または8に記載の水溶液の使用。
【請求項10】
前記高浸透圧値が650mOsm/kgから900mOsm/kgである、請求項1に記載の水溶液。
【請求項11】
前記カラギーナン成分の濃度が0.1〜0.5%(w/v)(g/L)である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項12】
前記非イオン性浸透圧調整剤を、前記全水溶液の5〜10%(w/v)の濃度で含む、請求項4に記載の水溶液。
【請求項13】
前記イオン性浸透圧調整剤を前記水溶液全体の0.5〜1.2%(w/v)の濃度で含む、請求項5に記載の水溶液
【請求項14】
点鼻薬として調製される、請求項6に記載の水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学および免疫学の分野であり、鼻閉、呼吸性ウイルス感染、及びアレルギーの治療に関する。
【背景技術】
【0002】
気道のウイルス感染および、花粉または他のアレルゲンによって惹起されるアレルギー反応は、異なるトリガーに対する免疫組織学的応答を結果的に生じる。両方の徴候において、広範な種類の実体は、類似の症状を発症させることができる。気道のウイルス感染は、ヒトライノウイルス属(100を超える血清型)、ヒトコロナウイルス属、パラインフルエンザウイルス(1型〜4型)、メタニューモウイルス、RSウイルスのようなパラミクソウイルス科のメンバー、インフルエンザ(A型、B型、C型)のようなオルトミクソウイルス科のメンバー、ボカウイルス属、およびこれより多数由来の150を超える異なるウイルスによって発症する。鼻腔におけるアレルギー反応は、特定の花粉もしくは類似の一時的なアレルギー源に対するアレルギーによる季節性であり得、またはハウスダストダニ、ネコ、イヌ、他のペットおよびこれらに類するものに由来する抗原に対するアレルギーによる通年性であり得る。
【0003】
呼吸性ウイルス感染およびアレルギーにおける鍵となる症状は、鼻づまりおよび鼻水である。高浸透圧性点鼻薬は通常、このような鼻閉の原因とは独立した一時的な鼻閉を低下させるために使用される。細胞区画に対する点鼻薬のより高い浸透圧により、液体は細胞から外部へと吸い取られ、それにより浮腫が低下する。高浸透圧性溶液およびカラゲナンからなる組み合わせは、高い浸透圧による抗浮腫性活性、およびカラゲナンの公知の抗ウイルス効能による抗ウイルス活性を発揮するであろう。イオタ−カラゲナンならびにイオタ−カラゲナンおよびカッパ−カラゲナンからなる組み合わせは、例えば、WO2008/067982ならびにWO2009/027057において報告されるように、インビトロ、インビボ、ならびにまた感冒、流行性感冒様疾患およびインフルエンザに罹患しているヒトにおける臨床試験において呼吸器ウイルスの複製を低下させることが当該技術分野において示されてきた。カラゲナン点鼻薬は、上気道のウイルス感染に対して有効であるために、数日間の反復適用を必要とする。ところが、典型的な高浸透圧性溶液の適用は、鼻づまりにおける膨潤した粘膜に及ぼす即時的な収縮効果を有する。
【0004】
それゆえ、即時作用する鼻づまり解除薬の利点と抗ウイルス性および/または抗アレルギー性として有効な化合物の利点を組み合わせるであろう医薬組成物を有することは有益であろう。
【0005】
本明細書に開示される調製物は、以後、より詳細に述べられるであろうようにこれらの利点をうまく組み合わせる。特に、新たに開発された製剤は、当該製剤が関係する利点をすべて用いた抗ウイルス治療として作用し、さらに、鼻づまりに及ぼす即時効果を発揮する。鼻腔におけるアレルギー反応に罹患している患者の場合、新たに開発された製剤は、その抗ウイルス活性により追加の緩和を提供する。呼吸器ウイルス感染が既存のアレルギー性疾患の実質的な悪化をもたらすことができることは当該技術分野で公知である。例えば、枯草熱に罹患している患者が気道の再発性ウイルス感染に攻撃された場合、アレルギー性喘息を発症する危険性が高まることは、受け入れられた医学的知識である。
【0006】
点鼻薬におけるカラゲナンの使用は、当該技術分野で公知である。特に、イオタ−カラゲナンおよびカッパ−カラゲナンは、十分に許容されており、ラムダ−カラゲナンとは異なり、いかなる炎症過程も促進しない。さらに、カラゲナンは、医薬産業、化粧産業、および食品産業における賦形剤および増粘剤として広く使用されている。
【発明の概要】
【0007】
本明細書で使用する「高浸透圧性」という用語は、生理学的な、すなわち、0.9重量%塩化ナトリウム溶液によって生じる浸透圧よりも高い浸透圧を発揮する何らかの溶液を指す。
【0008】
点鼻薬の高浸透圧性溶液は通常、最高3重量%の濃度で塩化ナトリウムを含有する。カラゲナンは、そのポリマー二次構造を無作為の構造からよりらせん状の平行構造へと変化し得る点で、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンのような種々の陽イオンの存在に対して応答する。この構造変化は、カラゲナンポリマーを含有する水溶液の粘度と、ヒトライノウイルスのような特定のウイルスに対するポリマーの活性の両方をもたらす。さらに、より高い陽イオン性塩濃度がより粘性のある溶液をもたらし、HRV1a感染およびHRV8感染の治療におけるイオタ−カラゲナンのIC50値の実質的な上昇によって証明されるように、特にヒトライノウイルスに対するカラゲナンの抗ウイルス活性の有意な喪失をもたらすことは認識されてきた。同様に、ヒトコロナウイルスOC43の阻害に必要な最低阻害濃度は、等浸透圧性調製物に対して高浸透圧性濃度の塩化ナトリウムを含有するカラゲナン調製物において最高10倍ほど増大することがわかっている。それゆえ、高浸透圧性塩化ナトリウム溶液をカラゲナンとともに含む鼻づまり解除調製物は、おそらく失敗するであろうと結論付けることができる。
【0009】
カラゲナン、特にイオタ−カラゲナンまたはイオタ−カラゲナンおよびカッパ−カラゲナンからなる組み合わせが、抗ウイルス効能を鼻閉解除活性と組み合わせるために新規の医薬組成物へと製剤化することができることは今や驚くべきことに発見されている。
【0010】
本明細書で使用される「鼻閉解除活性」は、例えば、アレルギー障害またはウイルス障害のような一時的な鼻づまりの原因とは無関係に、このような一時的な鼻づまりの部分的なまたは完全な解除をもたらす、本明細書に言及される新規の調製物の何らかの活性に関することになっている。
【0011】
この問題に対する解決策は、ソルビトール、マンニトールまたはグルコースのような、非イオン性「浸透圧付与剤」とも以後呼ばれる非イオン性浸透圧調整剤が、既に適用されたイオン性浸透圧付与剤、典型的にはカラゲナン系鼻閉解除調製物中の塩化ナトリウムを完全にまたは部分的に置き換え得るという観察に由来してきた。イオタカラゲナンおよび/またはカッパカラゲナンが、0.9%(w/v)未満、例えば、0.5%(w/v)の濃度の単独の浸透圧付与剤として塩化ナトリウムを含む低浸透圧性カラゲナン溶液に匹敵するレベルで鼻閉解除調製物において抗ウイルス性有効性をとどめているであろうという実験的な証拠によって今や確立されている。この目的は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えば、塩化ナトリウムのような非陽イオン性源か、代替物におけるわずかに高浸透圧性の、等浸透圧性のまたは低浸透圧性の濃度のこのような塩かのいずれかを、単糖、二糖、およびオリゴ糖の群から選択される短鎖糖とともに、ならびに/または、糖アルコール、すなわちソルビトールのようなポリオールとともに、以後述べられるように、所望の目的のために、最終的な溶液を十分に高浸透圧性であるようにするのに適した量で含む高浸透圧性溶液中にカラゲナン成分を提供することによって達成される。
【0012】
結果が証明をもたらすことを要約すると、好ましいイオタカラゲナンおよびカッパカラゲナンの抗ウイルス特性が、塩化ナトリウムのような通常使用される浸透圧亢進塩を、短鎖糖またはポリオール成分のような浸透圧調整剤と置き換えることによって、高浸透圧性鼻閉解除調製物において保有することができることが得られた。新規の調製物とは対照的に、NaClを唯一の浸透圧調整剤として含む高浸透圧性カラゲナン調製物、例えば、以後示される2.3%(w/v)または2.6%(w/v)のNaClを含むカラゲナン調製物は、非常に粘性があり濾過滅菌がこのような調製物にとってほぼ不可能であるという大きな弱点に悩まされている。
【0013】
本発明の高浸透圧性組成物の成分の相対的な濃度を百分率(%)で付与する場合、当該相対濃度は、別段の明白な記載がない限り、容積による重量パーセント(w/v)、例えば、リットル当たりのグラムを指すものとして理解されることになっている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
驚くべきことに、カラゲナン成分、典型的にはイオタ−カラゲナンおよび/またはカッパカラゲナンを0.5%NaClおよび7%〜10%ソルビトールとともに含む高浸透圧性水溶液は、粘度が低く、当該溶液の濾過滅菌が可能である。当該溶液は、緩衝液およびEDTAを用いてpHを安定化させることもできる。それゆえ、高浸透圧性水溶液中にカラゲナンを、好ましくは単糖、二糖、三糖、およびオリゴ糖、ならびにポリオールからなる群から選択される非イオン性浸透圧調整剤を含む、ならびに例えば塩化ナトリウムまたは塩化カリウムのようなイオン性浸透圧付与剤を低浸透圧性濃度、等浸透圧性濃度、またはわずかに高浸透圧性濃度で任意にさらに含む、水溶液中にイオタ−カラゲナンおよび/またはカッパ−カラゲナンを含む医薬調製物を準備することを本発明の目的とする。本明細書で言及される高浸透圧性調製物は、鼻閉解除薬、すなわち、鼻づまり解除活性、粘膜収縮活性およびヒトライノウイルス、ヒトコロナウイルス、パラミクソウイルス科のメンバー、オルトミクソウイルス科のメンバー、アデノウイルス科のメンバー、および他の呼吸器ウイルスによって頻繁に発症する呼吸器ウイルス感染を含む呼吸器ウイルス感染の予防処置または治療処置において有用な追加的に伝達性のある抗ウイルス活性を有する薬剤として有用である。
【0015】
本発明の実施形態において、主として鼻腔の一時的な鼻閉を低下させるよう設計された医薬組成物が提供される。
【0016】
本明細書で言及される「鼻閉」は、一時的な性質であり、およびウイルスもしくは細菌によって鼻腔における感染の結果であり得、または通常特異的なアレルゲンに対する個体の身体のアレルギー反応に起因し得る。
【0017】
本明細書で使用する「呼吸器ウイルス感染」は、国際疾病分類第10版(ICD−10)のコード群J00によって定義されるような、ウイルスによって発症する気道、特に上気道の感染に関することになっている。
【0018】
本明細書で使用する「治療処置」」という用語は、鼻水、鼻づまり、喉の痛み、くしゃみ、悪寒、頭痛、筋肉痛、咳などのようないずれかの臨床症状が介入なしよりも重症ではないような方法で、または当該臨床症状がより短期間持続するような方法で、または当該症状に罹患している個体が当該感染因子を別の固体へ伝染させることができるままである期間が短縮されるような方法で、または当該疾患の再発、すなわち、症状がない期間に続く症状のある期間があまり頻繁に生じないような方法で、または当該抗科の何れかの組み合わせが得られ得るような方法で、鼻づまりのおよび/または呼吸器ウイルス感染の臨床経過を修正するために適用される、本明細書で言及される高浸透圧性調製物を用いた何らかの治療介入を意味することになっている。
【0019】
同様に、本発明の脈絡において、「予防処置」という用語は、当該予防処置の必要のあるまたは気道感染を獲得する危険性が高くなった個体へ適用される本明細書で言及される高浸透圧性調製物を用いた何らかの介入を意味することになっており、この中で、当該介入は、ウイルス感染の発症前に実施され、典型的にはウイルス感染が生じないか、ウイルス感染の臨床的に関連性のある症状が、すなわちこのような予防的処置の不在下で、さもなくば呼吸器ウイルス感染を発症させるのに十分であろう量の感染性ウイルス薬へのその後の曝露の際に健常個体において生じないかのいずれかであることを事実上有する。
【0020】
「予防処置」という用語は、気道感染の発症前の、部分的な効果のみを送達する本明細書で言及される高浸透圧性調製物を用いた介入も包含し、すなわち、この中で、鼻の予防処置にもかかわらず、しかしながら呼吸器ウイルス感染は、予防的処置がないよりも重症ではない症状を伴って、または発祥の遅延を示しもしくはより早期に解決する症状を伴って発症する。
【0021】
したがって、イオタカラゲナンおよび/またはカッパカラゲナンを含む本明細書で言及される高浸透圧性鼻閉解除組成物はまた、ヒトライノウイルス、ヒトコロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、メタニューモウイルス、もしくはRSウイルスのようなパラミクソウイルス科のメンバー、インフルエンザウイルスのようなオルトミクソウイルス科のメンバー、またはB亜型アデノウイルスからなる群から選択されるウイルスによる感染によって発症する気道感染に対する活性がある(ICD−10コードJ09およびJ10)。発症した疾患は、感冒、流行性感冒様疾患またはインフルエンザと通常呼ばれる。
【0022】
本明細書で好ましい実施形態において、鼻づまりを解除するためにおよび呼吸器ウイルス感染を同時に治療するために開発された高浸透圧性医薬組成物は、鼻腔への局所的な投与に特に適している。
【0023】
高浸透圧性医薬組成物は、ヒト個体における呼吸器ウイルス感染の発症の前または後に適用され得る。ウイルス感染の発症の後に適用された場合でさえ、当該医薬組成物は、呼吸器ウイルス感染の後期合併症をなおも予防し得、または少なくとも寛解させ得る。このような合併症は、当該技術分野で公知であり、これには、細菌による二次感染と関連する合併症、およびアレルギーまたはCOPDのような事前に存在する疾患の悪化と関連した合併症が含まれるが、それらに限定されない。
【0024】
本明細書で言及される高浸透圧性組成物は典型的には、カラゲナン成分、好ましくは、抗ウイルス性有効成分としての、または場合により単独の抗ウイルス性有効成分としてのイオタ−カラゲナンおよびカッパ−カラゲナンの組み合わせを、即時使用可能調製物の0.05%(w/v)〜1%(w/v)(g/L)の、好ましくは0.1〜0.5%(w/v)の、最も好ましくは0.1〜0.3%(w/v)の濃度で含有する。当該組成物の浸透圧は、300mOsを超える値へ、好ましくは500mOs〜1000mOsの範囲内の値へ、最も好ましくは650〜900mOsの値へ調整される。当該組成物は、1.5%を超える塩化ナトリウムを含有せず、好ましくは1.2%以下の塩化ナトリウム、最も好ましくは0.9%以下の、頻繁には0.9%(w/v)未満の塩化ナトリウムをイオン性浸透圧付与剤として含有する。
【0025】
「わずかに高浸透圧性の」という用語を、イオン性浸透圧付与剤との関連で本明細書で使用する場合、0.9%(w/v)〜1.5%(w/v)の塩化ナトリウム濃度を、または等価物、すなわち、等モル濃度の別のイオン性浸透圧付与剤を指すよう理解されることになっている。
【0026】
高浸透圧の調整は、低分子量の糖および低分子量の多価アルコール(「ポリオール」)のうちの少なくとも1つを、典型的には本明細書において開示されるカラゲナン成分を含む生理学的に許容され得る水溶液へ添加することによって達成される。適切な糖は、単糖、二糖、およびオリゴ糖の群から、典型的にはグルコース、フルクトース、マンノース、およびスクロースから選択され得る。適切な多価アルコール、典型的には3〜12個の炭素原子の骨格を有する短鎖糖アルコールは、グリセロール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、トレイトール、イノシトール、およびマルチトールの群から選択され得る。浸透圧調整剤であるソルビトール、マンニトール、またはグルコースは典型的には、0.5%〜20%(w/v)、好ましくは2%〜15%(w/v)、最も好ましくは3%〜10%(w/v)の濃度(すなわち、リットル当たりのグラム)の濃度で使用される。
【0027】
本明細書で言及される局所的に投与可能な鼻内組成物は、3.5〜8.0の範囲内での、通常約4.0〜約8.0の範囲内でのpH値を有し得る。当該組成物は、保管中にpHドリフトを防止する1つ以上の鼻と適合性のあるpH調整剤または緩衝液系を含み得る。このようなpH調整剤には、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸、重炭酸ナトリウム、およびNaHPO、NaHPO、KHPOのような種々の無機リン酸緩衝液、ならびにこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。何らかのこのようなpH調整剤によって導入される最小イオン強度は、本発明の本質に干渉しない。当該緩衝液系由来のリン酸イオンによるカルシウムの沈殿を防止するために、EDTAを2mg/mlの濃度まで添加し得る。さらに、ユーカリ、樟脳、メントール、ハッカまたは類似物のような油または抽出物としての香料を、当該技術分野で公知の濃度で当該生成物へ添加し得る。
【0028】
また、本明細書で言及される局所鼻内製剤は、1つ以上の鼻内で適合性のある界面活性剤を含み得る。当該界面活性剤は、鼻粘膜表面を通過する当該製剤の延展を容易にし、非イオン性または陰イオン性であり得る。例示的な非イオン性界面活性剤は、チロキサポール、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリエトキシ化ひまし油、ポロキサマー、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン界面活性剤、ポリオキシエチレンステアラート、ポリオキシエチレンプロピレングリコールステアラート、ヒドロキシアルキルホスホナート、ラウリン酸エステルおよびラウリン酸エーテル、またはパルミチン酸エステルおよびパルミチン酸エーテル、トリエタノールアミンオレアートを含む群から、あるいは先の薬剤の組み合わせから選択され得る。なおもさらに適切な界面活性剤は、当業者に公知であり得る。当該界面活性剤は典型的には、0.02%(w/v)〜0.1%(w/v)の組成物の濃度で存在し得る。
【0029】
種々の実施形態において、本発明の局所的鼻内調製物は、微生物増殖を阻害しかつ半減期を延長するための1つ以上の保存料を含有し得る。例示的な保存料には、エデト酸二ナトリウム(EDTA)およびソルビン酸カリウムが含まれる。保存料の量は典型的には、組成物全体の約0.02%(w/v)未満であり、EDTAは、2mg/mlまで添加され得る。
【0030】
先に記載の成分に加えて、種々の追加のまたは代替的な成分が本発明の医薬組成物中に存在し得ることは考慮され得、追加のまたは代替的な成分には、ビタミンEまたはトコフェロールポリエチレングリコール1000スクシナート(TPGS)のようなビタミンEの市販の誘導体、アスコルビン酸、またはメタ重亜硫酸ナトリウムのような抗酸化物質が含まれる。
【0031】
本明細書の医薬組成物は典型的には、鼻腔への局所投与のための滅菌済み形態で提供され、好ましくは自己投与の必要のある個体による自己投与のために調整される。一実施形態において、当該調製物は、粒子非含有点鼻薬である。他の適切なガレン製剤には、鼻内で許容され得るスワブ、ならびに鼻へ適用することのできる軟膏およびゲル、任意にスプレーまたはエアゾールとしてのものが含まれる。
【0032】
実施例1:1a型および8型ヒトライノウイルスに対するカラゲナンのIC50値の決定
Hela細胞を96穴プレートへ、ウェルあたり5×10個の細胞密度で播種し、4.5g/lグルコースを含有する標準的なDMEM組織培地中で24時間培養した。0〜150μg/mlの変動する濃度でカラゲナンポリマーを、連続希釈した(各表に対する個々の説明文において示されるような)NaClおよびソルビトールとの組み合わせで含有するウイルス懸濁液を30分間インキュベートした。細胞に、検査物質および7×10(HRV1a)または5×10(HRV8)感染単位をウェルあたりに含有するこれらのウイルス懸濁液を感染させた。感染30分後、ウイルス接種材料を取り出し、カラゲナンポリマー、NaCl塩およびソルビトールを検査されることになっている濃度で含有するウイルス非含有感染培地によって置換した。細胞を2,3日間、33度でインキュベートした。検査試料の抗ウイルス効能は、カラゲナンポオリマーの非存在下で対照感染の90%超の細胞が死滅した時の細胞生存率を決定することによって評価した。細胞を、同じ連続希釈の検査物質(すなわち、カラゲナン成分および浸透圧調整剤)とともに、ウイルス感染の非存在下でインキュベートして、当該処置の潜在的な毒性についてモニターした。IC50値の算出は、標準的な適合ソフトウェアExcelFitを用いて実施した。非感染細胞に及ぼすポリマーおよび異なる検査塩またはソルビトールの濃度の有意な陰性効果は検出されなかった。
【表1】
【0033】
表1に示されるように、ヒトライノウイルス複製の阻害は、イオタ−カラゲナンの調製物中のNaCl濃度を増大させることによって強く損なわれる。低浸透圧性溶液(0.5%NaCl)を等浸透圧性溶液(0.9%)および高浸透圧性溶液(2%、2.3%、および2.6%NaCl)と比較することによって、およそ34倍までの阻害効能が観察される。
【0034】
表2に示されるように、抗ウイルス効能は、7%ソルビトールを0.5%または0.9%のNaCl溶液へ添加すると保有され、当該溶液の所望の浸透圧亢進を達成する。
【表2】
【0035】
安定したpHを有する製剤を達成するために、1mg/ml EDTA含有の0.5倍のMc−Ilvaine緩衝液(リン酸/クエン酸緩衝液)を、0.5%または0.9%のNaClおよび7%または10%のソルビトールを含有するカラゲナン溶液へ添加した。これらの溶液のpH、浸透圧および粘度を測定した。
【0036】
以下の表3は、単独の浸透圧調整剤として2.3%のNaClを含有するカラゲナン調製物と比較した、本発明により調製されたカラゲナン調製物(3:1(w/w)の比におけるイオタ−カラゲナン/カッパカラゲナンの配合物)のIC50の低下を表す。表3に示すように、0.5%または0.9%のNaCl、0.5倍のMc−Ilvaine緩衝液含有7%ソルビトールおよび1mg/mlのEDTAを含むカラゲナンの高浸透圧性製剤は、2.3%のNaClのみを含有するカラゲナン製剤よりもはるかに優れている。ソルビトールを含む溶液の浸透圧値は、鼻閉解除活性を得るために高浸透圧性点鼻薬に通常適用される2.3%塩類溶液で得られる値と近い。
【表3】
【0037】
実施例2:ヒトコロナウイルスOC43付着の予防のためのイオタ−カラゲナンの最低阻害濃度を判定するための手順(血球凝集阻害アッセイ)
96穴プレート上に、hCoV OC43の2血球凝集単位/ウェルを、1/2対数連続希釈の検査試料または対照試料とともに室温で10分間インキュベートした。最終的なアッセイ濃度は、7%ソルビトールの存在下または非存在下で0.5、0.9、2.0、2.3または2.6%NaCl水溶液中の0.002〜3μg/mlイオタ−カラゲナンとした。次に、ニワトリRBC(PBS中の1%(v/v))の懸濁液を各ウェルに添加し、ウイルスによる赤血球(RBC)の4℃で1.5時間の血球凝集を可能にした。アッセイ評価の時点で、カラゲナン非存在下の対照RBCを完全に凝集させたのに対し、血球凝集は、最高試料特異的濃度である最低阻害濃度のカラゲナン存在下で阻害された。
【0038】
表4および表5に示されるように、増大する濃度の塩化ナトリウム(2%、2.3%、および2.6%)を含有するカラゲナン製剤は、赤血球に対するヒトコロナウイルスOC43の付着を防止する上でほとんど有効ではない。塩化ナトリウムをソルビトールと置き換えると、この効果は元に戻り、0.5%塩化ナトリウムを含有する低浸透圧性カラゲナン溶液に対して有意差は検出されない。
【表4】

【表5】
【0039】
実施例3:カラゲナンを含有する高浸透圧性溶液の濾過滅菌
表6に要約されるように、カラゲナンを含有する高浸透圧性溶液の濾過滅菌は、高濃度の塩化ナトリウムの場合に損なわれる。代替的な浸透圧付与剤としての7%または10%ソルビトールの添加は、一部の調製物において類似の効果を有し、すなわち、これらの溶液はいずれも、0.22μmフィルターシステムを通じて濾過滅菌することはできない。対照的に、追加の緩衝液およびEDTAを含有する高浸透圧性カラゲナン製剤はすべて、0.22μmフィルターを通じて濾過滅菌することができる。それゆえ、ソルビトールのような非イオン性浸透圧調整剤を、塩化ナトリウムのようなイオン性浸透圧調整剤の部分的なまたは完全な置き換えにおいて、適切な緩衝液およびEDTAとともに含有するカラゲナン製剤は、鼻づまりを解除する上で有効でありかつ少なくともヒトライノウイルスに対する抗ウイルス活性を留めている滅菌済み溶液として製造することができる。
【表6】
【0040】
さらに、ユーカリ芳香を香料として、典型的には最終組成物の0.01〜0.05ml/Lの、例えば、0.02〜0.03ml/L(0.002〜0.003%(v/v))の範囲の通常濃度で添加し得る。また、デクスパンテノールを保水剤、皮膚軟化薬、および/または湿潤剤として、典型的には最終組成物の1〜5%(v/v)に及ぶ濃度で添加し得る。デクスパンテノールは、水和を改善すること、皮膚のかゆみおよび炎症を低下させること、ならびに表皮創傷の治癒速度を加速させることも公知である。
【0041】
実施例4:抗ウイルス活性のある鼻閉解除点鼻薬調製物
イオタ−カラゲナン:1.2mg/ml
カッパ−カラゲナン:0.4mg/ml
ソルビトール:70mg/ml
NaCl:5mg/ml
0.5倍のMc−Ilvaine緩衝液
1mg/mlのEDTA
浸透圧:787mOsm/L
水を添加して100%にする。
【0042】
実施例5:抗ウイルス活性のある鼻閉解除点鼻薬調製物
イオタ−カラゲナン:1.2mg/ml
カッパ−カラゲナン:0.4mg/ml
ソルビトール:70mg/ml
NaCl:9mg/ml
0.5倍のMc−Ilvaine緩衝液
1mg/mlのEDTA
浸透圧:904mOsm/L
水を添加して100%にする。
【0043】
実施例6:抗ウイルス活性のある鼻閉解除点鼻薬調製物
イオタ−カラゲナン:1.2mg/ml
カッパ−カラゲナン:0.4mg/ml
ソルビトール:100mg/ml
NaCl:5mg/ml
0.25倍のMc−Ilvaine緩衝液
1mg/mlのEDTA
浸透圧:954mOsm/L
水を添加して100%にする。
【0044】
実施例7:抗ウイルス活性のある鼻閉解除点鼻薬
イオタ−カラゲナン:1.2mg/ml
カッパ−カラゲナン:0.4mg/ml
ソルビトール:100mg/ml
NaCl:9mg/ml
0.5倍のMc−Ilvaine緩衝液
1mg/mlのEDTA
浸透圧:1090mOsm/L
水を添加して100%にする。
【0045】
実施例4〜7において、ソルビトールは、鼻閉解除および/または個々の調製物の抗ウイルス効能における有意差を結果として生じることなく、等モル濃度のキシリトールおよび/またはマンニトールと部分的にまたは完全に置き換えられ得る(データ非表示)。
【0046】
実施例8:鼻閉解除効果
上気道の流行性感冒様感染による12時間を超える鼻づまりを報告する10名の患者を、実施例4により製造した調製物(表6における調製物8番)を用いて処置した。140μlの調製物を各鼻孔へ標準的な点鼻ポンプ装置を用いて適用した。適用後2分以内で、当該ボランティアは、鼻づまりの症状の改善を報告し、5分後にボランティア全員は、鼻を通じて自由に呼吸することができた。鼻閉解除効果を、当該ボランティアによって1時間を超えて持続可能に感じた。ボランティアの半分はさらに、投与4時間後まで症状の持続的な緩和を報告した。