(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
走行用油圧モータにネガティブブレーキの制動力を作用させると共に、エンジンにより駆動される油圧ポンプからの作動油を連通位置の強制排出弁を経て前記ネガティブブレーキのブレーキ解除シリンダに供給して前記制動力を解除する一方、車両の進行方向に配設されたガード柵が障害物と接触したときに、該ガード柵の位置変位に連動して前記強制排出弁をドレン位置に切り換え、該強制排出弁を経て前記ブレーキ解除シリンダから作動油を排出して前記ネガティブブレーキを作動させる転圧車両において、
前記ガード柵と前記強制排出弁とが伝達部材を介して連結され、該伝達部材を介して前記ガード柵の位置変位が前記強制排出弁に伝達されるように構成された
ことを特徴とする転圧車両。
前記強制排出弁がドレン位置に切り換えられた状態であっても、手動操作により前記油圧ポンプからの作動油を前記ネガティブブレーキのブレーキ解除シリンダに供給可能な手動解除弁をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をコンバインド振動ローラに具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のコンバインド振動ローラを示す側面図であり、以下の説明では、車両を基準として前後方向及び左右方向を表現する。
【0010】
コンバインド振動ローラ1(以下、車両と称することもある)の車体は、前部転圧輪2を備えた前部車体4と後部転圧輪3を備えた後部車体5とにより構成されている。これらの車体4,5はアーティキュレート機構6を介して連結されており、前部車体4に設けられた図示しない操舵シリンダの駆動により、アーティキュレート機構6を中心として前部及び後部車体4,5が水平方向に屈曲することで車両1が旋回するようになっている。
【0011】
前部転圧輪2は、ほぼ車幅と対応する長さを有する金属ドラムから構成され、前部車体4から下方に延設された左右一対の支持アーム9により回転可能に支持されている。また、後部転圧輪3は左右2本ずつ計4本のゴムタイヤから構成され、後部車体5に設けられた図示しないアクスルにより回転可能に支持されている。
【0012】
図1に示すように、前部転圧輪2は前部油圧モータ7(走行用油圧モータ)により駆動され、後部転圧輪3はアクスルに設けられた後部油圧モータ8(走行用油圧モータ)により駆動され、これにより車両1が走行する。また、図示はしないが前部転圧輪2には油圧式の起振装置が内蔵され、例えば路面上の砕石を締め固める際には、起振装置により前部転圧輪2が加振されて効率的に作業が実施される。
【0013】
後部車体5上の前側位置にはステアリング10を備えた操作台11が設置され、操作台11の後側にはベンチ式の運転席12が設置されている。締固め作業ではオペレータが運転席12に着座し、ステアリング10及び操作台11の両脇の前後進レバー13や足元のブレーキペダル14等を操作する。これらの操作に応じて、前部車体4に搭載されたエンジンを動力源とするHST(Hydro Static Transmission)からの作動油が切り換えられて前部及び後部油圧モータ7,8、操舵シリンダ或いは起振装置に適宜供給され、車両1の走行や操舵、前部転圧輪2の加振等が行われる。
【0014】
運転席12の後側位置に相当する後部車体5上の最後部には、貯水タンク15が設置されている。貯水タンク15には、前部及び後部転圧輪2,3の近傍に配設された転圧輪散水ノズル16a,16b、及び後部車体5の後端に配設された図示しない路面散水ノズルが配管及び給水ポンプを介して接続されている。舗装作業時には、前部及び後部転圧輪2,3への舗装材の付着防止或いは転圧後の舗装材の冷却等を目的として、貯水タンク15内に貯留された水が給水ポンプにより各散水ノズル16a,16bに供給されて前部及び後部転圧輪2,3や路面へと散水される。
【0015】
図2は車両に搭載されたHSTを示す油圧回路図であり、後述する第1実施形態に相当する。
前部転圧輪2を駆動する前部油圧モータ7は第1及び第2油圧モータ7a,7bからなり、後部転圧輪3を駆動する後部油圧モータ8は第1及び第2油圧モータ8a,8bからなる。HSTにはエンジン17により駆動される可変容量型の走行用油圧ポンプ18及びチャージポンプ19(油圧ポンプ)が備えられている。
【0016】
走行用油圧ポンプ18の一方のポートは、油路20,21を介して前部油圧モータ7の各油圧モータ7a,7bの一方のポートに接続されると共に、油路20,22を介して後部油圧モータ8の各油圧モータ8a,8bの一方のポートに接続されている。また、走行用油圧ポンプ18の他方のポートは、油路23,24を介して前部油圧モータ7の各油圧モータ7a,7bの他方のポートに接続されると共に、油路23,25を介して後部油圧モータ8の各油圧モータ8a,8bの他方のポートに接続されている。
【0017】
走行用油圧ポンプ18の一方の傾転角調整部18aは、油路26,27及びリリーフ弁28を介してチャージポンプ19に接続され、他方の傾転角調整部18bは油路29を介してオイルタンク30に接続されている。油路26,29には、上記した前後進レバー13により切換操作される前後進切換弁31が介装されており、前後進切換弁31の中立位置では走行用油圧ポンプ18の傾転角が0に保たれ、前後進切換弁31の一方向或いは他方向への切換に応じて傾転角が正側或いは負側に増加する。それに応じて走行用油圧ポンプ18からの作動油が前部及び後部油圧モータ7,8に供給され、前部及び後部転圧輪2,3の停止、正転、逆転に応じて車両1が停車、前進、後退する。
【0018】
前部及び後部油圧モータ7,8の第1油圧モータ7a,8aの一方のポートには、それぞれ高低切換弁32が接続されている。これらの高低切換弁32は前部及び後部油圧モータ7,8の出力を高低2段に切り換える機能を奏するが、本発明の要旨と直接関係ないため概略のみを述べる。
【0019】
例えば路面の転圧時には図示しない走行モード選択スイッチにより低速モードが選択され、それに応じて高低切換弁32が開弁されて第1油圧モータ7a,8aに作動油が供給されるため、転圧輪2,3の回転速度の低下と引き替えに駆動力が高められる。また転圧以外の車両1の移動時には高速モードが選択され、それに応じて高低切換弁32が閉弁されて第1油圧モータ7a,8aへの作動油の供給が中止されるため、転圧輪2,3の駆動力の低下と引き替えに回転速度が高められる。
【0020】
前部及び後部油圧モータ7,8には、ネガティブブレーキ34が内蔵されている。ネガティブブレーキ34の構成は周知であるため概略のみを述べるが、各油圧モータ7,8の出力軸7c,8cと図示しないモータケーシングとの間に多板ブレーキ34aを介装し、多板ブレーキ34aを係合させる方向に圧縮スプリング34bを設け、圧縮スプリング34bに対抗してブレーキ解除シリンダ34cを画成してなる。各ブレーキ解除シリンダ34cは、駐車ブレーキ電磁弁35が介装された油路36及び油路27を介してチャージポンプ19に接続されており、図示しない駐車ブレーキスイッチのOFF操作時には、駐車ブレーキ電磁弁35が図示の連通位置に切り換えられている。
【0021】
従って、エンジン17の停止時にはチャージポンプ19から作動油が吐出されないため、圧縮スプリング34bの付勢力により多板ブレーキ34aが係合し、油圧モータ7,8の出力軸7c,8cが回転規制されて車両1にネガティブブレーキ34の制動力が作用している。そしてエンジン17が運転されると、チャージポンプ19からの作動油が油路27,36を経てブレーキ解除シリンダ34cに供給され、その油圧により圧縮スプリング34bの付勢力に抗して多板ブレーキ34aの係合が解除され、出力軸7c,8cの回転が許容されて車両1が走行可能となる。
【0022】
このようなネガティブブレーキ34の構成はHSTのトラブルを想定したものであり、例えば車両1の走行中において何らかのトラブルがHSTに発生すると、ブレーキ解除シリンダ34cへの作動油の供給が途絶えて多板ブレーキ34aの係合解除が中断される。このため、係合した多板ブレーキ34aにより出力軸7c,8cが回転規制され、オペレータのブレーキ操作を要することなく車両1を自動停止できる。
【0023】
なお、ネガティブブレーキ34は駐車ブレーキの役割も果たし、駐車ブレーキスイッチのON操作に応じて駐車ブレーキ電磁弁35がドレン位置に切り換えられると、ブレーキ解除シリンダ34c内の作動油が油路36及び駐車ブレーキ電磁弁35を経てオイルタンク30に排出される。従って、多板ブレーキ34aの係合により出力軸7c,8cが回転規制されて車両1に制動力が作用する。
【0024】
ブレーキ解除シリンダ34cの油圧は油路36に設けられた油圧センサ37により検出され、その油圧が圧縮スプリング34bの付勢力を下回っているとき、換言するとネガティブブレーキ34が制動中のときに、操作台11に設けられたブレーキ表示ランプ38が点灯するようになっている。従って、オペレータはブレーキ表示ランプ38の点灯・消灯に基づき、現在ネガティブブレーキ34が制動中であるか否かを容易に把握することができる。
【0025】
一方、ネガティブブレーキ34による制動は走行制限装置にも利用されており、そのために
図2中の油路36には常開の強制排出弁39が介装されている。また、
図1に示すように車両1の前部及び後部にはガード柵40,41が設けられ、その揺動に連動した強制排出弁39の切換によりネガティブブレーキ34が作動して車両1の進行が抑制され、車体4,5と障害物との接触が回避されるようになっている。
【0026】
そして、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、同様の機能を備えた特許文献1の走行制限装置は電気的な伝達手段を備えた構成であるが故に、故障のリスクがないわけではなく、信頼性の点で改良の余地があった。
そこで、不具合の原因である電気的な構成を廃止してガード柵40,41と強制排出弁39とを機械的に連結する対策を講じており、その詳細を第1〜4実施形態として以下に説明する。
【0027】
[第1実施形態]
図1には、前後のガード柵40,41と強制排出弁39との連結状態が模式的に示されている。車両1の前部(車両の進行方向)には前部転圧輪2を前方から覆うように前部ガード柵40が配設され、車両1の後部(車両の進行方向)には後部転圧輪3を後方から覆うように後部ガード柵41が配設されている。これらのガード柵40,41は、例えば特許文献1に開示されているものと同じく、それぞれ車幅とほぼ等しい左右幅を有する四角の柵状をなしている。
【0028】
前部ガード柵40は、その上部の揺動軸40aを中心として揺動可能なように図示しないブラケットを介して前部車体4から支持され、同じく後部ガード柵41は、その上部の揺動軸41aを中心として揺動可能なように図示しないブラケットを介して後部車体5から支持されている。通常時の前部及び後部ガード柵40,41は、それぞれ図示しないスプリングにより図中に実線で示す直立姿勢に保持されており、前部ガード柵40は前方からの押圧力を受けるとスプリングの付勢力に抗して後方に揺動し、後部ガード柵41は後方からの押圧力を受けるとスプリングの付勢力に抗して前方に揺動するようになっている。
【0029】
一方、後部車体5のフロア43内には補機室44が画成され、その内部には散水ノズル16a,16bからの散水のための図示しない給水ポンプや切換弁と共に、走行制限装置のバルブユニット45も内蔵されている。バルブユニット45は、上記した強制排出弁39とネガティブブレーキ34を手動解除する常開の手動解除弁46とからなり、手動解除弁46の操作ノブ46aが後部車体5のフロア43上に突出している。
【0030】
図3は第1実施形態における前部及び後部ガード柵40,41と強制排出弁39との連結状態の詳細を示す説明図である。
図1,3に示すように強制排出弁39は、ワイヤケーブル47(伝達部材)を介して前部ガード柵40と連結されると共に、プッシュロッド48(伝達部材)を介して後部ガード柵41と連結されており、それらの連結状態を以下に説明する。
【0031】
ワイヤケーブル47はチューブ47a内にワイヤ47bを摺動可能に挿通してなり、前部車体4の内部を前後方向に架設されて適宜ブラケット49により固定されると共に、アーティキュレート機構6を経て後部車体5まで延設されている。ワイヤ47bの前端は前部ガード柵40の揺動軸40aよりも上側箇所に連結され、後端は強制排出弁39の操作ノブ39aに連結されている。従って、揺動軸40aを中心として前部ガード柵40が後方に揺動すると、
図3に矢印で示すようにワイヤ47bが前方に引かれて操作ノブ39aを介して強制排出弁39が連通位置からドレン位置に切り換えられる。
【0032】
なお、伝達部材として柔軟性を有するワイヤケーブル47を用いているのは、アーティキュレート機構6を介して車体4,5が屈曲したときでも前部ガード柵40の揺動を操作ノブ39aに伝達可能とするためである。無論、タイヤローラのようにアーティキュレート機構6を備えない転圧車両の場合には、ワイヤケーブル47に代えてプッシュロッドやプルロッド等を用いてもよい。
【0033】
また、プッシュロッド48は後部車体5の内部を前後方向に架設されて適宜ブラケット50により前後方向に摺動可能に支持されている。プッシュロッド48の後端は後部ガード柵41の揺動軸41aよりも下側箇所に連結され、前端は強制排出弁39の操作ノブ39aに連結されている。従って、揺動軸41aを中心として後部ガード柵41が前方に揺動すると、
図3に矢印で示すようにプッシュロッド48が前方に押されて操作ノブ39aを介して強制排出弁39が連通位置からドレン位置に切り換えられる。
【0034】
次いで、油圧回路上での強制排出弁39及び手動解除弁46の設置状態及び作動について述べる。
図2,3に示すように、強制排出弁39及び手動解除弁46はチャージポンプ19と前後のネガティブブレーキ34とを接続する油路36上に介装され、手動解除弁46は強制排出弁39を迂回するバイパス油路51を介して油路36のチャージポンプ19側の箇所に対しても接続されている。通常時(障害物との非接触時)の強制排出弁39及び手動解除弁46は共に連通位置に保たれているため、エンジン17の運転時には、チャージポンプ19からの作動油が強制排出弁39や手動解除弁46に妨げられることなく前後のネガティブブレーキ34に供給されて車両1が走行可能となっている。
【0035】
例えば前進中の車両1が障害物に接触すると前部ガード柵40が後方に揺動するため、上記のようにワイヤケーブル47を介して強制排出弁39がドレン位置に切り換えられる。このため、ブレーキ解除シリンダ34c内の作動油が強制排出弁39を経てオイルタンク30に排出され、車両1に制動力が作用してそれ以上の前進が抑制され、前部車体4と障害物との接触が回避される。
【0036】
後退中の車両1が障害物に接触した場合も同様であり、後部ガード柵41の前方への揺動によりプッシュロッド48を介して強制排出弁39がドレン位置に切り換えられ、ネガティブブレーキ34の制動力により車両1の後退が抑制されて後部車体5と障害物との接触が回避される。
【0037】
以上のように本実施形態の振動ローラ1の走行制限装置によれば、障害物との接触による前部ガード柵40の揺動をワイヤケーブル47を介して強制排出弁39に伝達し、後部ガード柵41の揺動をプッシュロッド48を介して強制排出弁39に伝達している。即ち、特許文献1の技術においてガード柵と強制排出弁との間に介在していた電気的な伝達手段(リミットスイッチ、コントローラ、各機器間の配線)をワイヤケーブル47やプッシュロッド48に置き換えている。
【0038】
リミットスイッチやコントローラは故障の可能性があり、配線は断線の可能性があるが、それに比較して機械的な伝達手段であるワイヤケーブル47やプッシュロッド48に作動不良が生じる可能性は極めて低い。このため、障害物へのガード柵40,41の接触時には、その揺動を確実に強制排出弁39に伝達してネガティブブレーキ34により車両1を走行制限でき、これにより車体4,5と障害物との接触を未然に回避できることから、走行制限装置として高い信頼性を実現することができる。
【0039】
また、以上のように故障のリスクが低いだけでなく、万一故障が発生した場合でも故障原因を容易に特定できるという利点もある。即ち、走行制限装置の故障は作業現場で発生する場合が多いため、必然的に故障原因の調査は振動ローラ1のオペレータ等に委ねられる。しかしながら、特許文献1の技術のリミットスイッチやコントローラの機能或いは配線の導通状態等を点検することは、整備に関して不慣れなオペレータにとって容易ではない上に、専用の計測器を要する場合もある。従って、故障原因を特定できない場合もあるし、特定できたとしても修理に時間を要して肝心の締固め作業が滞ってしまう場合もある。
【0040】
これに対して本実施形態のワイヤケーブル47やプッシュロッド48は、計測器等を要することなく、その作動状態を目視するだけで極めて容易に故障原因を特定できる。従って、短時間で修理を完了して締固め作業を再開でき、この点でも特許文献1の技術に比して優れている。
【0041】
一方、以上のように障害物にガード柵40,41が接触した状態では、ネガティブブレーキ34の作動により車両1の走行が制限されており、移動可能な障害物の場合には撤去してガード柵40,41を直立姿勢に戻せば、自ずと強制排出弁39が連通位置に戻されて車両1の走行機能を回復できる。しかし壁等に接触した場合には、ガード柵40,41が揺動姿勢のままのためネガティブブレーキ34を解除できず、例えば車両1を他の車両で牽引する等の厄介な作業が必要になってしまう。
【0042】
このような場合、本実施形態ではオペレータが手動解除弁46の操作ノブ46aを操作し、連通位置からバイパス位置に切り換える。ガード柵40,41が傾動姿勢のままでも、チャージポンプ19からの作動油は油路27,36、バイパス油路51、手動解除弁46及び油路36を経てブレーキ解除シリンダ34cに供給され、多板ブレーキ34aの係合解除により車両1を走行可能となる。従って、車両1を障害物から速やかに離間させて、本来の締固め作業を速やかに再開することができる。
【0043】
そして、手動解除弁46の操作ノブ46aは後部車体5のフロア43上、即ちオペレータの足元に突出している。このためオペレータは車両1から降車することなく、運転席12に着座したまま操作ノブ46aを操作可能であり、極めて簡単に車両1の走行機能を回復できる。この点は走行制限装置の使い勝手、ひいては振動ローラ1の使い勝手に大きく貢献する。
また、この手動解除弁46の操作ノブ46aを操作する際にもブレーキ表示ランプ38が点灯から消灯に切り換えられるため、その表示に基づきオペレータは車両1が走行可能になったことを容易に把握できる。
【0044】
[第2実施形態]
次いで、本発明を具体化した第2実施形態について説明する。第1実施形態との相違点は、油圧回路上の強制排出弁61及び手動解除弁62の設置状態及び作動にあり、その他の構成は第1実施形態と同様である。よって、重複する箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
【0045】
図4は本実施形態の車両1に搭載されたHSTを示す油圧回路図である。
常開の強制排出弁61は油路36上に介装され、前部及び後部ガード柵40,41の揺動に応じて連通位置とドレン位置との間で切り換えられる。ガード柵40,41との連結状態は、
図3の基づき第1実施形態で説明したワイヤケーブル47及びプッシュロッド48を介したものと同様である。
【0046】
常開の手動解除弁62は油路36上には介装されず、強制排出弁61がドレン位置に切り換えられたときに油路36とオイルタンク30とを連通させるようになっている。従って、強制排出弁61が連通位置のときに手動解除弁62は油路36に何ら影響せず、強制排出弁61がドレン位置に切り換えられた状態において、連通位置では油路36の作動油をオイルタンク30に排出し、遮断位置では作動油の排出を中止する。なお、手動解除弁62の操作ノブ62aが後部車体5のフロア43上に突出している点は第1実施形態と同様であり、その操作性に関する作用効果についても相違ない。
【0047】
通常時の強制排出弁61は連通位置に保たれているため、エンジン17の運転時には、チャージポンプ19からの作動油が強制排出弁61に妨げられることなく前後のネガティブブレーキ34に供給されて車両1が走行可能となっている。
前後何れかのガード柵40,41が障害物との接触により揺動すると、強制排出弁61がドレン位置に切り換えられる。このとき手動解除弁62は連通位置にあるため、油路36の作動油が手動解除弁62を介してオイルタンク30に排出され、ネガティブブレーキ34の制動力により車両1の進行が抑制されて、障害物との接触が回避される。
【0048】
そして本実施形態においても、ガード柵40,41の揺動を機械的な伝達手段であるワイヤケーブル47やプッシュロッド48を介して強制排出弁61に伝達している。従って、重複する説明はしないが、第1実施形態と同様の信頼性及び故障原因の特定に関する作用効果が得られる。
【0049】
第1実施形態との主たる相違点は、HSTの走行用油圧ポンプ18の作動状態にある。第1実施形態では強制排出弁39がドレン位置に切り換えられたとき、強制排出弁39よりもネガティブブレーキ34側の作動油のみがオイルタンク30に排出されるため、走行用油圧ポンプ18はその時点の傾転角を保ち続けていた。このため、油圧モータ7,8による転圧輪2,3の駆動力は消失せず、その駆動力をネガティブブレーキ34の制動力が上回ることにより車両1の進行が抑制されていた。
【0050】
これに対して本実施形態では、強制排出弁61よりもネガティブブレーキ34側の作動油のみならずチャージポンプ19側の作動油もオイルタンク30に排出されるため、チャージポンプ19から走行用油圧ポンプ18の傾転角調整部18a,18bへの作動油の供給が中断され、その傾転角が0(中立)に戻される。このため、油圧モータ7,8による転圧輪2,3の駆動力が消失するだけでなく、その回転を妨げる所謂HSTブレーキが作用し、ネガティブブレーキ34の制動力と相俟ってより速やかに車両1の進行を抑制でき、一層確実に障害物との接触を回避することができる。
【0051】
一方、このようにして作動したネガティブブレーキ34を解除するために、オペレータにより手動解除弁62の操作ノブ62aが操作されて遮断位置に切り換えられると、油路36からオイルタンク30への作動油の排出が中止される。チャージポンプ19からの作動油がブレーキ解除シリンダ34cに供給されてネガティブブレーキ34が解除されると共に、作動油は走行用油圧ポンプ18の傾転角調整部18a,18bにも供給されて傾転角制御が再開され、これにより車両1が走行可能となる。
【0052】
[第3実施形態]
次いで、本発明を具体化した第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1及び第2実施形態で述べた手動解除弁46,62を廃止し、それと同等の機能をプッシュロッド48及びワイヤケーブル47に付与したものである。よって、重複する箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。なお、強制排出弁については第1実施形態で述べた強制排出弁39を用いている。
【0053】
図5は本実施形態の強制排出弁39の操作ノブ39aとプッシュロッド48との連結部分を示す説明図であり、
図3のA矢視図に相当する。
補機室44内においてプッシュロッド48の前端は一対の連結片71からなる二股状に形成され、両連結片71は強制排出弁39の操作ノブ39aの左右両側に位置している。各連結片71及び操作ノブ39aには左右方向にピン孔72が貫設され、これらのピン孔72には連結ピン73が挿入され、その先端にEリング74が係合されて離脱を防止されている。これにより操作ノブ39aとプッシュロッド48の前端とが連結され、第1及び第2実施形態で述べたように、障害物への後部ガード柵41の接触時には、その揺動がプッシュロッド48を介して強制排出弁39の操作ノブ39aに伝達されてネガティブブレーキ34が作動する。
【0054】
このような状態において、車両1の走行のためにネガティブブレーキ34を解除したい場合、本実施形態ではオペレータがEリング74を取り外して連結ピン73を引き抜く。操作ノブ39aとプッシュロッド48とが切り離されることから、障害物と接触した後部ガード柵41の揺動姿勢のまま、操作ノブ39aを把持して強制排出弁39をドレン位置から連通位置に切り換えることができ、これにより車両1が走行可能となる。
【0055】
また図示はしないが、操作ノブ39aとワイヤケーブル47との間にも同一の連結構造が採用されており、障害物への前部ガード柵40の接触時には、操作ノブ39aとワイヤケーブル47との切り離しによりネガティブブレーキ34を解除できるため、上記と同様の作用効果が得られる。
【0056】
以上のように第1及び第2実施形態は、ガード柵40,41と強制排出弁39とを機械的な伝達手段であるプッシュロッド48やワイヤケーブル47を介して連結した点に特徴を有するが、加えて本実施形態では、この特徴部分のプッシュロッド48及びワイヤケーブル47を操作ノブ39aに対して脱着可能とすることにより、手動解除弁46,62に相当する機能を付与している。結果として高価な手動解除弁46,62を省略でき、走行制限装置の製造コストの低減という別の利点を達成することができる。
【0057】
[第4実施形態]
次いで、本発明を具体化した第4実施形態について説明する。本実施形態は、操作ノブ39aとプッシュロッド48及びワイヤケーブル47との間に第3実施形態とは別の連結構造を設けたものであり、手動解除弁46,62を廃止した点は同様である。よって、重複する箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
【0058】
図6は本実施形態の強制排出弁39の操作ノブ39aとプッシュロッド48との連結部分を示す説明図であり、
図3のB部詳細図に相当する。
補機室44内においてプッシュロッド48の前端には鍔状のバネ受け81が一体形成され、このバネ受け81を内包するように円筒状のシリンダ部材82が配設されている。シリンダ部材82内の前壁82aとバネ受け81との間には圧縮スプリング83が介装され、バネ受け81は後方に付勢されて後壁82bに当接している。シリンダ部材82の前部には連結部82cが一体形成され、強制排出弁39の操作ノブ39aに対してピン84を介して連結されている。
【0059】
シリンダ部材82の上部には鋼板をクランク状に折曲形成した連動ブラケット85の下面85aが溶接され、その上面85bは操作孔85cが貫設されてフロア43の直下に位置している。操作孔85cと対応するようにフロア43には連通孔86が貫設されると共に、レバーブラケット87が立設されて手動解除レバー88がピン89を介して前後方向に傾動可能に軸支されている。
【0060】
手動解除レバー88の下端は連通孔86を介して連動ブラケット85の操作孔85c内に挿入され、手動解除レバー88の傾動に応じて連動ブラケット85と共にシリンダ部材82が前後方向に操作される。図中に仮想線で示す手動解除レバー88の前方位置では、図示しないロック機構により任意に傾動規制し得るようになっている。
【0061】
通常時のバネ受け81は、プッシュロッド48を介して直立姿勢の後部ガード柵41に対応した前後位置に保持されているため、それに対応する前後位置にシリンダ部材82も保たれており、このとき強制排出弁39は操作ノブ39aを介して連通位置に保持されている。
【0062】
障害物との接触により後部ガード柵41が前方に傾動すると、プッシュロッド48及びバネ受け81を介して圧縮スプリング83に前方への押圧力が作用する。押圧力を受けても圧縮変形しない程度のバネ定数が圧縮スプリング83に付与されているため、圧縮スプリング83を介してシリンダ部材82と共に操作ノブ39aが前方に操作されてネガティブブレーキ34が作動する。
なお、このときの手動解除レバー88は、シリンダ部材82の前方移動に倣って図中に仮想線で示す前方位置から実線で示す後方位置へと切り換えられる。
【0063】
このような状態において、車両1の走行のためにネガティブブレーキ34を解除したい場合、本実施形態ではオペレータが手動解除レバー88を前方位置へと傾動操作する。このときの操作は圧縮スプリング83の付勢力を上回る力で行われるため、後部ガード柵41に連結されているプッシュロッド48は移動しないものの、圧縮スプリング83を圧縮させながらシリンダ部材82が後方に移動し、操作ノブ39aを介して強制排出弁39がドレン位置から連通位置に切り換えられる。
【0064】
前方位置への傾動操作後に、オペレータはロック機構を操作して手動解除レバー88を傾動規制する。このため強制排出弁39は連通位置に保持され、ネガティブブレーキ34が解除され続けて車両1が走行可能となる。
【0065】
また図示はしないが、操作ノブ39aとワイヤケーブル47との間にも同一の連結構造が採用されており、障害物への前部ガード柵40の接触時には、手動解除レバー88の傾動操作によりネガティブブレーキ34を解除できるため、上記と同様の作用効果が得られる。
以上の構成による作用効果は第3実施形態と同様であるため詳細は述べないが、高価な手動解除弁46,62を省略して製造コストを低減することができる。
【0066】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、振動ローラ1の前後に揺動可能なガード柵40,41を設けて、その揺動をワイヤケーブル47及びプッシュロッド48を介して強制排出弁39に伝達したが、これに限るものではない。例えば、車両1の前後何れか一方のみにガード柵を設けてもよいし、揺動に代えてガード柵を前後方向に位置変位可能に設け、その位置変位をワイヤケーブル47やプッシュロッド48を介して強制排出弁39に伝達してもよい。