(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774465
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造および高圧水素ガス用蓄圧器
(51)【国際特許分類】
F17C 13/06 20060101AFI20201012BHJP
F16J 13/12 20060101ALI20201012BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20201012BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20201012BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20201012BHJP
【FI】
F17C13/06 301A
F16J13/12 A
F17C1/06
F16J12/00 A
H01M8/04 N
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-159115(P2018-159115)
(22)【出願日】2018年8月28日
(65)【公開番号】特開2019-44968(P2019-44968A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2019年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2017-169596(P2017-169596)
(32)【優先日】2017年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391018019
【氏名又は名称】JFEコンテイナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】岡野 拓史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 周作
(72)【発明者】
【氏名】高野 俊夫
【審査官】
加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−158243(JP,A)
【文献】
特開昭62−136210(JP,A)
【文献】
特開2009−208204(JP,A)
【文献】
米国特許第05429268(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/06
F16J 12/00
F16J 13/12
F17C 1/06
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄圧部を構成するストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造であって、
前記蓄圧部と連通し、かつ前記高圧水素ガス用蓄圧器の外部へは解放されていない小空間を有し、
一方の主面が前記蓄圧部に面し、前記鋼製容器の内周面との間をシールする円盤状の第1のプラグと、
外周面にねじ山を有する円筒状であり、前記第1のプラグの他方の主面と接する第1のグランドナットと、
一方の主面が前記第1のグランドナットに接し、前記鋼製容器の内周面との間をシールする円盤状の第2のプラグと、
外周面にねじ山を有する円筒状であり、前記第2のプラグの他方の主面と接する第2のグランドナットと、を備え、
前記小空間が、前記第1のプラグ、前記第1のグランドナット、および前記第2のプラグによって画定されており、
前記蓄圧部と前記小空間とが、前記第1のプラグに設けられた開口によって連通しており、
前記鋼製容器の長手方向に垂直な断面における前記蓄圧部の内部断面積S1に対する、前記小空間の前記鋼製容器の長手方向に垂直な断面における内部断面積S2の比(S2/S1)が、0.4〜0.8である、高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造。
【請求項2】
ストレート形状の鋼製容器を備え、前記鋼製容器の少なくとも一方の端部に請求項1に記載の蓋構造を有する、高圧水素ガス用蓄圧器。
【請求項3】
前記鋼製容器の表面に炭素繊維強化樹脂層を有する、請求項2に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【請求項4】
前記鋼製容器がシームレス鋼管からなる、請求項2または3に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造および高圧水素ガス用蓄圧器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CO
2排出問題を解決すると共に、エネルギー問題を解決可能な燃料電池自動車は、今後の新たな自動車として期待されている。この燃料電池自動車に水素を供給するための水素ステーションには、80MPa以上の圧力で水素を蓄圧する蓄圧器と呼ばれる圧力容器が設置されている。
【0003】
このような、高圧水素ガス用蓄圧器には、大きく2種類の形状がある。一つはガスボンベに代表されるような、管の端部に絞り加工を施して鏡部を作製したものボンベ型蓄圧器、もう一つはストレートな管の両端に蓋をしたストレート型蓄圧器である。
【0004】
ボンベ型蓄圧器は、ガスの出口に向けて容器内の断面積が減少する形状となっており、口金部は径の小さなねじ構造の留め金で封止される。この場合、口金のねじ部にかかる応力は低減されるため、圧力の封止に関する問題はない。しかし、水素ステーション用などの高圧水素ガス用蓄圧器では、使用開始後に定期的に内面検査を行う必要があり、上記のように端部を絞ると蓄圧器の内面検査が困難となるという問題がある。また、鋼製容器を備える蓄圧器を作製する場合には、通常、鋼製容器に熱処理が施されるが、鋼製容器内部への冷却水の侵入および排出に時間がかかるため、熱処理時の冷却速度が遅くなり、鋼組織のばらつきが大きくなる。さらに、熱処理によって鋼製容器表面に生成するスケールや脱炭層を除去することが困難であるため、内面を熱処理ままの状態で用いることとなり、鋼製容器の疲労特性劣化の原因となる。
【0005】
そこで、上記のような問題を回避するために、ストレート型の蓄圧器を用いることが考えられる。ストレートな管に蓋をした構造であれば、管の開口部が大きいため、熱処理時の冷却が容易になり、鋼材の組織を精緻に制御することができる。また、熱処理時に生成する脱炭層やスケールを機械加工により容易に除去することができる。さらに、蓋を取り外すことにより、使用後の内面検査も容易に行える。加えて、ストレート型蓄圧器では絞り加工された鏡部がないため、加工によるばらつきもほとんどなく、均一な容器製造が可能となる。このような高圧水素ガス用蓄圧器としては、例えば、特許文献1、非特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−158243号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本製鋼所技報、平成27年10月、第66号、p.149〜150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ストレート管を利用した場合、容器断面が一定であるため、内部の圧力はすべて蓋で受圧される。したがって、ストレート形状の容器を用いた高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造には、極めて高い応力に耐えることが求められる。
【0009】
ストレート型蓄圧器の蓋構造としては、ストレート形状の容器の端部にフランジを設け、蓋をボルト止めする構造や、蓋をねじ止めする構造が考えられる。
【0010】
しかし、フランジを用いた蓋構造では、フランジを設けるために容器サイズが大きくなり、コストが高くなるという問題がある。一方、ねじ止めによる蓋構造では、フランジを用いた場合の問題は回避できるものの、ねじ部に負荷される応力が高く、ねじ部から疲労破壊する可能性がある。
【0011】
このように、ストレート管を用いた蓄圧器は容器特性が良好であるものの、蓋構造にかかる応力が高く、疲労破壊が起きるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造に負荷される応力を緩和し、疲労破壊を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨構成は、次のとおりである。
【0014】
1.蓄圧部を構成するストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造であって、
前記蓄圧部と連通し、かつ前記高圧水素ガス用蓄圧器の外部へは解放されていない小空間を有し、
前記鋼製容器の長手方向に垂直な断面における前記蓄圧部の内部断面積S1に対する、前記小空間の前記鋼製容器の長手方向に垂直な断面における内部断面積S2の比(S2/S1)が、0.4〜0.8である、高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造。
【0015】
2.一方の主面が前記蓄圧部に面し、前記鋼製容器の内周面との間をシールする円盤状の第1のプラグと、
外周面にねじ山を有する円筒状であり、前記第1のプラグの他方の主面と接する第1のグランドナットと、
一方の主面が前記第1のグランドナットに接し、前記鋼製容器の内周面との間をシールする円盤状の第2のプラグと、
外周面にねじ山を有する円筒状であり、前記第2のプラグの他方の主面と接する第2のグランドナットと、を備え、
前記小空間が、前記第1のプラグ、前記第1のグランドナット、および前記第2のプラグによって画定されており、
前記蓄圧部と前記小空間とが、前記第1のプラグに設けられた開口によって連通している、上記1に記載の高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造。
【0016】
3.ストレート形状の鋼製容器を備え、前記鋼製容器の少なくとも一方の端部に上記1または2に記載の蓋構造を有する、高圧水素ガス用蓄圧器。
【0017】
4.前記鋼製容器の表面に炭素繊維強化樹脂層を有する、上記3に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0018】
5.前記鋼製容器がシームレス鋼管からなる、上記3または4に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造によれば、蓋構造に負荷される応力を緩和し、ストレート形状の鋼製容器を利用した蓄圧器を、より高圧、大断面で使用可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態における蓋構造を示す断面模式図である。
【
図2】比較例における蓋構造を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施態様を示すものであり、本発明は以下の説明によって何ら限定されるものではない。
【0022】
[蓋構造]
本発明の一実施形態における蓋構造は、蓄圧部を構成するストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造であり、前記蓄圧部と連通し、かつ前記高圧水素ガス用蓄圧器の外部へは解放されていない小空間を有している。前記小空間は蓄圧部と連通しているため、蓄圧部に水素ガスが充填されると、小空間にも水素ガスが導入される。なお、ここで「蓄圧部」とは、鋼製容器の内部空間であって、水素ガスが充填される部分を指す。また、ここで「外部へ解放されていない」とは、バルブ等を介して外部と遮断されている場合を包含するものとする。
【0023】
さらに、前記鋼製容器の長手方向に垂直な断面における前記蓄圧部の内部断面積S1に対する、前記小空間の前記鋼製容器の長手方向に垂直な断面における内部断面積S2の比(S2/S1)を、0.4〜0.8とする。このような小空間を設けることにより、蓄圧器内部に充填された水素ガスの圧力により、蓋構造に負荷される応力を、蓄圧部と小空間との間、たとえば第1のグランドナットと、小空間と蓄圧器外部との間、例えば第2のグランドナットの2カ所に、適切な配分で分散させることができる。第1のプラグと第1のグランドナット、および第2のプラグと第2のグランドナットは、各々一体化しても同様の効果を有する。そのため、蓋構造に負荷される応力の最大値を緩和し、蓄圧器を、より高圧、大断面で使用可能とすることができる。また、内部断面積の比(S2/S1)を0.4〜0.8とすることにより、ネジ部の応力分散を均一とすることができる。S2/S1を0.8以下とした理由は、S2/S1が0.8よりも大きい場合は、ネジ部の最大応力は低減するものの、圧力によって第1のグランドナット自体にかかる周方向応力が著しく増大しグランドナットが変形する場合があるためである。
【0024】
さらに、本発明の一実施形態においては、上記蓋構造が第1のプラグ、第1のグランドナット、第2のプラグ、および第2のグランドナットを備えることができる。
【0025】
図1は、上記プラグおよびグランドナットを用いた蓋構造の一例を示す模式図であり、高圧水素ガス用蓄圧器1の長手方向一端の、断面を示している。高圧水素ガス用蓄圧器1は、ストレート形状で、断面円形の鋼製容器10を備えており、鋼製容器10の内部空間は蓄圧部11を構成している。
【0026】
鋼製容器10の端部には蓋構造20が形成されており、蓋構造20は第1のプラグ21、第1のグランドナット22、第2のプラグ23、および第2のグランドナット24を備えている。
【0027】
第1のプラグ21は、対向する1対の主面(平坦な円形の面)を有する円盤状の部材であり、その周側面が鋼製容器10の内周面と接することによって、第1のプラグ21と鋼製容器10との間がシールされる。第1のプラグ21の一方の主面は蓄圧部11に面しており、第1のプラグ21が蓄圧部の圧力を受ける構造となっている。
【0028】
第1のグランドナット22は、外周面にねじ山を有する円筒状の部材であり、鋼製容器10の内周面に設けられたねじと螺合している。第1のグランドナット22は、第1のプラグ21の他方の主面と接しており、第1のプラグ21を支持する働きを有している。
【0029】
第2のプラグ23は、対向する1対の主面(平坦な円形の面)を有する円盤状の部材であり、その周側面が鋼製容器10の内周面と接している。また、第2のプラグ23の一方の主面は、第1のグランドナット22に接している。第2のプラグ23は、その周側面にねじを有していてもよく、その場合、前記ねじを鋼製容器10の内周面に設けられたねじと螺合させることができる。
【0030】
第2のグランドナット24は、外周面にねじ山を有する円筒状の部材であり、鋼製容器10の内周面に設けられたねじと螺合している。第2のグランドナット24は、第2のプラグ23の他方の主面と接しており、第2のプラグ23を支持する働きを有している。
【0031】
そして、
図1に示したように、第1のプラグ21、第1のグランドナット22、および第2のプラグ23によって、蓋構造20の内部に小空間25が画定されている。小空間25は、第1のプラグ21に設けられた開口26によって蓄圧部11と連通している。したがって、高圧水素ガス用蓄圧器1の蓄圧部11に水素ガスを充填すると、小空間25にも水素ガスが充填された状態となる。
【0032】
開口26の形状は特に限定されず、円形や四角形など、任意の形状とすることができる。また、開口の位置も特に限定されないが、例えば、第1のプラグ21の中心とすることができる。開口26のサイズ(円形の開口の場合、直径)は、第1のグランドナット22の内径よりも小さくすることが好ましい。
【0033】
上記のように、プラグとグランドナットを2組用い、小空間25を備えた蓋構造を構成した場合、第1のプラグ21が蓄圧部11から受ける圧力は、小空間25から受ける圧力によって一部相殺されるため、第1のプラグ21にかかる圧力を軽減することにより、第1のグランドナット22と螺合する鋼製容器の内周面のネジ部にかかる応力を軽減することができる。また、第2のプラグ23にかかる圧力は、蓄圧部11よりも断面積が小さい小空間25からのものとなるため、第2のプラグ23および第2のグランドナット24にかかる負荷も低減される。
【0034】
上記構造を採用する場合、第1のグランドナット22の肉厚は、小空間25の断面積が、上述した条件を満たすように調整すればよい。
【0035】
なお、グランドナットのネジ形状は特に限定されず、例えば、JISで規定されているネジとすることができるが、より応力集中を低減する形状とすると好ましい。前記応力集中を低減する形状としては、例えば、ネジ底先端の曲率半径が大きいネジ(台形ネジの先端を丸くした形状等)が挙げられる。
【0036】
前記プラグおよびグランドナットの材質は特に限定されないが、金属製とすることが好ましく、鋼製とすることがより好ましい。前記鋼としては、引張強さ(TS)が750MPa以上の鋼を用いることがさらに好ましい。前記鋼は、例えば低合金鋼であってよい。
【0037】
前記プラグの肉厚はとくに限定されないが、強度を高め、変形や座屈を防止するという観点からは、第1のプラグ21および第2のプラグ23の肉厚を、それぞれ独立に、35mm以上とすることが好ましい。一方、プラグを製造する際の焼入れを容易にするという観点からは、第1のプラグ21および第2のプラグ23の肉厚を、それぞれ独立に、100mm以下とすることが好ましい。また、プラグと同様に、強度を高め、変形や座屈を防止するという観点からは、第1のグランドナット22および第2のグランドナット24の肉厚を、それぞれ独立に20mm以上とすることが好ましい。
【0038】
上記グランドナットとしては、特に限定されず、任意の方法で製造されたものを用いることができる。例えば、鋼材の内部をくり抜いて中空円筒状としたものであってもよく、鋼管を加工したものであってもよい。また、前記鋼管としては、電縫溶接鋼管やシームレス鋼管など、任意のものを用いることができるが、中でもシームレス鋼管からなるグランドナットを用いることが好ましい。シームレス鋼管からなるグランドナットは、くり抜きによって製造されるグランドナットに比べて靭性などの特性に優れることに加え、溶接部もないため、高圧水素ガス用蓄圧器の封止に極めて好適に用いることができる。
【0039】
また、蓋構造には、ガスの漏洩を防止するためにOリングなどのシール部材を用いることができる。前記シール部材の配置は特に限定されないが、例えば、
図1に示したように、各部材の間にOリング27を設けることができる。
【0040】
なお、
図1に示した例においては、第1のプラグ21、第1のグランドナット22、および第2のプラグ23が別体であり、これらがOリングを介して接合されることによって小空間25を画定しているが、第1のプラグ、第1のグランドナット、および第2のプラグが一体となった構造とし、その内部に、蓄圧部11と連通する小空間25を形成することもできる。
【0041】
[高圧水素ガス用蓄圧器]
本発明の一実施態様における高圧水素ガス用蓄圧器は、蓄圧部を構成するストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器であり、上記蓋構造を、前記鋼製容器の少なくとも一方の端部に有している。前記鋼製容器は、その両端に上記蓋構造を有することが好ましい。前記高圧水素ガス用蓄圧器は、例えば、水素ステーション用蓄圧器として用いることができるが、それに限定されることなく、任意の用途で用いることができる。
【0042】
[鋼製容器]
上記鋼製容器の材質としては、特に限定されることなく任意の鋼を用いることができるが、低コスト化の観点からは低合金鋼製の容器を用いることが好ましく、特に、クロムモリブデン鋼JIS SCM steel、ニッケルクロムモリブデン鋼JIS SNCM steel、マンガンクロム鋼JIS SMnC steel、マンガン鋼JIS SMn steel、およびボロン添加鋼N28CB、N36CB、N46CB、ASME SA723のうちいずれか1つを用いることが好ましい。中でも、材料強度との両立の観点からは、焼き入れ性を確保しやすいクロムモリブデン鋼もしくはクロムモリブデンニッケル鋼を用いることがより好ましい。例えば、クロムモリブデン鋼(SCM435)は、C:0.33〜0.38質量%、Si:0.15〜0.35質量%、Mn:0.60〜0.90質量%、P:0.030質量%以下、S:0.030質量%以下、Cr:0.90〜1.20質量%、Mo:0.15〜0.30質量%である。
【0043】
上記鋼製容器としては、ストレート形状のものであれば特に限定されず、任意の方法で製造されたものを用いることができる。例えば、鋼材の内部をくり抜いて容器としたものであってもよく、鋼管を加工したものであってもよい。また、前記鋼管としては、電縫溶接鋼管やシームレス鋼管など、任意のものを用いることができるが、中でもシームレス鋼管からなる鋼製容器を用いることが好ましい。シームレス鋼管からなる鋼製容器は、くり抜きによって製造される鋼製容器に比べて靭性などの特性に優れることに加え、溶接部もないため、高圧水素ガス用蓄圧器の容器として極めて好適である。
【0044】
[炭素繊維強化樹脂層]
上記鋼製容器の表面には、炭素繊維強化樹脂層を設けることができる。炭素繊維強化樹脂層は、強化材に炭素繊維を用い、これに樹脂を含浸させて強度を向上させた複合材料であり、CFRP(carbon-fiber-reinforced plastic)と呼ばれている。前記炭素繊維強化樹脂層を設けることにより、蓄圧器の耐圧性および疲労特性をさらに向上させることができる。前記炭素繊維強化樹脂層は、鋼製容器の外周面の全域もしくは一部を覆うことができるが、低コスト化の観点からは容器の周方向のみに炭素繊維を巻き付けたタイプ2蓄圧器とすることが好ましい。なお、炭素繊維強化樹脂層を用いる場合、前記鋼製容器は「ライナ」と称される。
【0045】
炭素繊維強化樹脂層は、強化材に炭素繊維を用い、これに樹脂を含浸させて強度を向上させた複合材料であり、CFRP(carbon-fiber-reinforced plastic)と呼ばれている。前記炭素繊維としては、特に限定されることなく、例えば、PAN系、ピッチ系など、任意のものを用いることができる。炭素繊維強化樹脂層における炭素繊維の体積含有率は、日本工業規格JIS K 7075(1991)に準拠して求めることができ、通常50%〜80%の範囲とすることが好ましい。
【0046】
[防食層]
また、鋼製容器の表面に炭素繊維強化樹脂層を設ける場合には、鋼製容器(ライナ)の外周面(炭素繊維強化樹脂層と鋼製容器との間)に、さらに電蝕防止のための防食層を設けることが好ましい。前記防食層としては、例えば、塗膜やガラス繊維強化樹脂(GFRP)層を用いることができる。前記塗膜は、例えば、粉体塗装により形成できる。前記粉体塗装には、塩化ビニル系樹脂等をベースとする熱可塑性粉体塗料や、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂等をベースとする熱硬化性粉体塗料を用いることができる。中でも、水素充填時の熱等を考慮して、熱硬化性粉体塗料を用いるのが好ましい。また、前記ガラス繊維強化樹脂層はガラス繊維強化樹脂をワインディングすることにより形成できる。防食層を設けることにより、表層である炭素繊維強化樹脂層にクラック等が発生して、水分が炭素繊維強化樹脂層中に侵入してきても、防食層にとどまるため、ライナ表層に行きつかずライナが腐食しづらい。また、万一ライナ表層に行きついたとしても、炭素繊維強化樹脂層とライナ表層が隔絶しているため、電蝕が発生せず、腐食速度を低下させて容器の劣化を抑制できる。
【0047】
さらに、炭素繊維強化樹脂層の上にGFRP層をワインディングすれば、GFRPはCFRPよりも軟質であるため、小石等での疵付きも防止できる。
【実施例】
【0048】
蓄圧器モデルを用いた有限要素法(FEM)によりネジ底応力の解析を行った。蓄圧器モデルとしては、低合金鋼製の鋼製容器からなり、炭素繊維強化樹脂層を有さないタイプ1蓄圧器と、前記タイプ1蓄圧器と同等の低合金鋼製の鋼製容器(ライナ)と、その表面にCFRPを厚さ5mmとなるように巻き付けて形成された炭素繊維強化樹脂層を備えるタイプ2蓄圧器の2種類を作製した。前記低合金鋼の強度は、SCM435鋼の応力ひずみ曲線を用い、引張強さ(TS):894MPa、降伏強さ(YP):770MPaとした。
【0049】
鋼製容器の寸法は、長手方向長さ:1600mm、内径:250mm、肉厚:60mmとした。また、蓋構造は、
図1に示した構造とし、第1のプラグ21の肉厚30mm、第1のグランドナット22の長さ60mm、第2のプラグ23の肉厚30mm、第2のグランドナット24の長さ60mmで、第1のグランドナット22、第2のプラグ23、第2のグランドナット24の外周にはねじを有する形状とした。
【0050】
グランドナットのネジ部の頂点から内面までの厚さであるグランドナットの肉厚は、第1のグランドナット22では4種類の肉厚で比較し、第2のグランドナット24では35mmで固定とした。素材の強度は降伏強さ(YP)を800MPaとした。第1のグランドナット22の肉厚を変えることで容器の長手方向に垂直な断面における前記蓄圧部の内部断面積S1に対する、前記小空間の前記鋼製容器の長手方向に垂直な断面における内部断面積S2の比(S2/S1)を変化させた。ねじ形状は、ピッチ12mm、ねじ肩曲率半径1mmのJIS台形ネジとした。ねじ底応力の解析は、疲労により容器が破壊する可能性のある鋼製容器のめねじ部分について実施した。また、第1のグランドナット22の肉厚を変えることにより変化する、第1のグランドナットにかかる周方向応力の解析も併せて実施した。
【0051】
また、比較のために、小空間を備えない、
図2に示した構造のモデルでの解析も行った。この場合も、プラグの肉厚を30mm、グランドナットの肉厚を35mmとした。
【0052】
上記モデルを用い、最高圧力82MPaの条件でFEMによる解析を行って、ねじ底応力の最大値を求めた。結果を表1に示す。ネジ底応力最大値が鋼製容器の素材YPである770MPaよりも低減可能な場合に、疲労特性が顕著に改善される。ここでは、応力が素材YP以下であれば良好とする。本発明の条件を満たす実施例では、鋼製容器の素材YPよりもネジ底応力最大値を低減できており、疲労破壊危険度が低減されることが確認された。
【0053】
一方、第1のグランドナットにかかる周方向応力に関しては、グランドナットが薄くなると急激に前記周方応力が増加するので、応力がグランドナットの素材YP(800MPa)の0.8倍以下であれば良好とする。本発明の条件を満たす実施例では第1のグランドナットにかかる周方向応力の最大値が素材YPの0.8倍よりも低減できており、第1のグランドナットが変形する危険性が低減されることが確認された。
【0054】
このように、受圧部に隣接して蓄圧部よりも断面積の小さな空間を配置することにより、ねじ底で発生する応力が小さく疲労破壊危険度の小さい、安全性を確保した蓄圧器を作製することができる。
【0055】
【表1】
【符号の説明】
【0056】
1 高圧水素ガス用蓄圧器
10 鋼製容器
11 蓄圧部
20 蓋構造
21 第1のプラグ
22 第1のグランドナット
23 第2のプラグ
24 第2のグランドナット
25 小空間
27 シール部材(Oリング)