(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774520
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】血管瘤の破裂リスク評価方法、評価装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20201019BHJP
A61B 8/14 20060101ALI20201019BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
A61B10/00 KZDM
A61B8/14
A61B6/03 375
A61B6/03 377
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-72537(P2019-72537)
(22)【出願日】2019年4月5日
(65)【公開番号】特開2020-168262(P2020-168262A)
(43)【公開日】2020年10月15日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】305053721
【氏名又は名称】有限会社 ライブエイド
(73)【特許権者】
【識別番号】300010268
【氏名又は名称】野方 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】野方 文雄
(72)【発明者】
【氏名】中田 修
【審査官】
清水 裕勝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−097237(JP,A)
【文献】
特開2013−233251(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/132320(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0130878(US,A1)
【文献】
Shukei Sugita et al.,Evaluation of Rupture Properties of Thoracic Aortic Aneurysms in a Pressure-Imposed Test for Rupture Risk Estimation,Cardiovascular Engineering and Technology,2011年10月27日,Vol. 3, No. 1,pp. 41-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/00−5/22
A61B 6/00−6/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管瘤の破裂リスク評価装置によって血管瘤の破裂リスクを評価する方法であって、
前記破裂リスク評価装置が、患者の血管造影画像の入力を受け付けるステップと、
前記破裂リスク評価装置が、患者の血圧のデータの入力を受け付けるステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記血管造影画像から血管瘤を検出し、前記血管瘤の形状を楕円体の式で表し、血管瘤の膨張比に基づいて前記血管瘤の壁の厚さを求めるステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記血管瘤の壁の厚さと前記血圧のデータとに基づいて、前記血管瘤にかかる応力を計算するステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記応力と前記患者の血管の強度とに基づいて前記血管瘤の破裂リスクを評価するステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記評価の結果を出力するステップと、
を備える血管瘤の破裂リスク評価方法。
【請求項2】
前記血管瘤の壁の厚さを求めるステップは、前記血管瘤の形成前の親血管の直径を計測し、当該親血管の直径と前記血管瘤の大きさとに基づいて、前記血管瘤の壁の厚さを求める請求項1に記載の血管瘤の破裂リスク評価方法。
【請求項3】
前記破裂リスク評価装置が、超音波診断装置にて撮影した患者のエコー動画像の入力を受け付けるステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記エコー動画像に基づいて患者の血管の強度を求めるステップと、
を備え、
前記血管瘤の破裂リスクを評価するステップは、前記患者の血管の強度を求めるステップにて算出した血管の強度を用いて前記血管瘤の破裂リスクを評価する請求項1または2に記載の血管瘤の破裂リスク評価方法。
【請求項4】
前記破裂リスク評価装置が、患者の心拍による血管壁振動のデータを取得するステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記血管壁振動の周波数と血管の強度との相関関係を記憶したデータベースを参照して、患者の血管の強度を求めるステップと、
を備え、
前記血管瘤の破裂リスクを評価するステップは、前記患者の血管の強度を求めるステップにて算出した血管の強度を用いて前記血管瘤の破裂リスクを評価する請求項1または2に記載の血管瘤の破裂リスク評価方法。
【請求項5】
前記評価の結果を出力するステップは、リスクの評価と共に前記血管瘤の形状を表した楕円体を表示する請求項1乃至4の何れかに記載の血管瘤の破裂リスク評価方法。
【請求項6】
血管瘤の破裂リスク評価装置によって血管瘤の破裂リスクを評価する方法であって、
前記破裂リスク評価装置が、患者の血管造影画像の入力を受け付けるステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記血管造影画像から血管瘤を検出し、前記血管瘤の形状を楕円体の式で表し、血管瘤の膨張比に基づいて前記血管瘤の壁の厚さを求めるステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記血管瘤の壁の厚さに基づき、血圧を変数として前記血管瘤にかかる応力を計算するステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記応力と前記患者の血管の強度とに基づいて、血圧を変数として、前記血管瘤の破裂リスクを評価するステップと、
前記破裂リスク評価装置が、前記評価の結果を出力するステップと、
を備える血管瘤の破裂リスク評価方法。
【請求項7】
多数の医療用の端末から、患者の血管造影画像、患者の血圧のデータ、および患者のエコー動画像を含む患者の情報を取得するステップと、
請求項1乃至6のいずれかに記載の血管瘤の破裂リスク評価方法を用いて、前記患者の情報に基づいて、前記患者の血管瘤の破裂リスクを評価するステップと、
前記評価の結果を前記医療用の端末に送信するステップと、
収集した患者の情報を統計的に解析するステップと、
を備える血管瘤の破裂リスク評価方法。
【請求項8】
患者の血管造影画像の入力を受け付ける血管造影画像入力部と、
患者の血圧のデータの入力を受け付ける血圧データ入力部と、
前記血管造影画像から血管瘤を検出し、前記血管瘤の形状を楕円体の式で表し、血管瘤の膨張比に基づいて前記血管瘤の壁の厚さを求める壁厚計算部と、
前記血管瘤の壁の厚さと前記血圧のデータとに基づいて、前記血管瘤にかかる応力を計算する応力計算部と、
前記応力と前記患者の血管の強度とに基づいて前記血管瘤の破裂リスクを評価するリスク評価部と、
前記評価の結果を出力する出力部と、
を備える血管瘤の破裂リスク評価装置。
【請求項9】
血管瘤の破裂リスクを評価するためのプログラムであって、コンピュータに、
患者の血管造影画像の入力を受け付けるステップと、
患者の血圧のデータの入力を受け付けるステップと、
前記血管造影画像から血管瘤を検出し、前記血管瘤の形状を楕円体の式で表し、血管瘤の膨張比に基づいて前記血管瘤の壁の厚さを求めるステップと、
前記血管瘤の壁の厚さと前記血圧のデータとに基づいて、前記血管瘤にかかる応力を計算するステップと、
前記応力と前記患者の血管の強度とに基づいて前記血管瘤の破裂リスクを評価するステップと、
前記評価の結果を出力するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管瘤の力学的破裂リスク評価法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管系疾患は、日常的に胸部、腹部、頭部の弱い痛み、あるいは、ある日突然、何の前触れもなく、胸や背部、頭部の激痛を伴って発症することが知られている。血管壁の一部が全周性に増大、あるいは局所的な突出があり、正常径の1.5倍以上の場合に瘤と呼ばれている。瘤の初生と拡大は多くの場合、発症前は本人には無症状である。瘤は、検診や他の疾患の精査、画像検査などにおいて発見されることが多い。
【0003】
この瘤サイズが大きくなるにつれて破裂割合が大きくなることが臨床的に知られる。力学的破裂は、被験者の血管壁強度と外力である血圧(内圧)により生じる瘤の壁応力が等しい時に起こる。形状的には、瘤が大きくなると共に、壁厚さは小さくなるので壁応力は増大し、破裂割合は急速に大きくなる。例えば、瘤が球状の場合、径が2倍になると壁厚さは2乗分の1となる、すなわち、4分の1の血管壁厚さとなるので、血圧により生じる壁応力は、4倍となる。
【0004】
瘤の診断および対処は、医用画像により血管壁の層の剥がれ(乖離)や瘤形状、サイズ、6ケ月当たりの拡張速度、性別、年齢、喫煙、高血圧などのリスクファクターなどを精査し、他報告の臨床例や経験により、手術などの処置がなされていることが一般的である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したとおり、現在の診断方法は、循環器病の診断と治療に関するガイドラインにより、医用画像に基づくリスクファクターなどを精査する方法であるが、この方法だと診断結果が、医用画像を読影する者の技量に依存することが避けられなかった。
【0007】
近年の食生活や労働に関連した生活環境の多様化により、血管系罹患者が急増しており、医用画像検査からの瘤の発見、形状同定、力学学理による定量的破裂リスク評価法の確立は急務の未達課題の一つである。
【0008】
本発明は、上記背景に鑑み、医用画像に基づいて瘤の破裂リスクを定量的に評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の血管瘤の破裂リスク評価方法は、血管瘤の破裂リスク評価装置によって血管瘤の破裂リスクを評価する方法であって、前記破裂リスク評価装置が、患者の血管造影画像の入力を受け付けるステップと、前記破裂リスク評価装置が、患者の血圧のデータの入力を受け付けるステップと、前記破裂リスク評価装置が、前記血管造影画像から血管瘤を検出し、前記血管瘤の形状を楕円体の式で表し、血管瘤の膨張比に基づいて前記血管瘤の壁の厚さを求めるステップと、前記破裂リスク評価装置が、前記血管瘤の壁の厚さと前記血圧データとに基づいて、前記血管瘤にかかる応力を計算するステップと、前記破裂リスク評価装置が、前記応力と前記患者の血管の強度とに基づいて前記血管瘤の破裂リスクを評価するステップと、前記破裂リスク評価装置が、前記評価結果を出力するステップとを備える。ここで、楕円体の式で表すとは、血管瘤の形状を楕円体を表す3つのパラメータで表すことである。この構成により、個々の血管瘤の破裂リスクを定量的に評価できる。
【0010】
本発明の血管瘤の破裂リスク評価方法において、前記壁厚を計算するステップは、前記血管瘤の形成前の親血管の直径を計測し、当該親血管の直径と前記血管瘤の大きさとに基づいて、前記血管瘤の壁の厚さを求めてもよい。
【0011】
本発明の血管瘤の破裂リスク評価方法は、超音波診断装置にて撮影した患者のエコー動画像を入力するステップと、前記エコー動画像に基づいて患者の血管の強度を求めるステップとを備え、前記リスクを評価するステップは、前記血管の強度を求めるステップにて算出した血管の強度を用いて前記血管瘤の破裂リスクを評価してもよい。
【0012】
本発明の血管瘤の破裂リスク評価方法は、患者の心拍による血管壁振動のデータを取得するステップと、前記血管壁振動の周波数と血管の強度との相関関係を記憶したデータベースを参照して、患者の血管の強度を求めるステップとを備え、前記リスクを評価するステップは、前記血管の強度を求めるステップにて算出した血管の強度を用いて前記血管瘤の破裂リスクを評価してもよい。この構成により、患者への負担を少なく血管の強度を求め、血管瘤の破裂リスクを評価することができる。
【0013】
本発明の血管瘤の破裂リスク評価方法において、前記出力するステップは、リスクの評価と共に前記血管瘤の形状を表した楕円体を表示してもよい。この構成により、血管瘤の破裂リスクについて患者に分かりやすく説明をすることができる。
【0014】
本発明の別の態様の血管瘤の破裂リスク評価方法は、血管瘤の破裂リスク評価装置によって血管瘤の破裂リスクを評価する方法であって、前記破裂リスク評価装置が、患者の血管造影画像の入力を受け付けるステップと、前記破裂リスク評価装置が、前記血管造影画像から血管瘤を検出し、前記血管瘤の形状を楕円体の式で表し、血管瘤の膨張比に基づいて前記血管瘤の壁の厚さを求めるステップと、前記破裂リスク評価装置が、前記血管瘤の壁の厚さに基づき、血圧を変数として前記血管瘤にかかる応力を計算するステップと、前記破裂リスク評価装置が、前記応力と前記患者の血管の強度とに基づいて、血圧を変数として、前記血管瘤の破裂リスクを評価するステップと、前記破裂リスク評価装置が、前記評価結果を出力するステップとを備える。この構成により、血管瘤の大きさに基づいて、個々の血管瘤の破裂リスクを血圧の値に応じて評価することができる。
【0015】
本発明の血管瘤の破裂リスク評価方法は、多数の医療用の端末から、患者の血管造影画像、患者の血圧のデータ、および患者のエコー動画像を含む患者の情報を取得するステップと、上記の血管瘤の破裂リスク評価方法を用いて、前記患者の情報に基づいて、前記患者の血管瘤の破裂リスクを評価するステップと、前記評価結果を前記医療用の端末に送信するステップと、収集した患者の情報を統計的に解析するステップとを備える。このように医療用の端末から取得した患者の情報に基づいて、血管瘤の破裂リスクを提供することにより、医療機関ごとの血管瘤の破裂リスクの診断差異が解消される。また、収集した患者の情報のビックデータを統計的に解析することにより、血管瘤の破裂リスクの評価の精度を益々高めることができる。
【0016】
本発明の血管瘤の破裂リスク評価装置は、患者の血管造影画像の入力を受け付ける血管造影画像入力部と、患者の血圧のデータの入力を受け付ける血圧データ入力部と、前記血管造影画像から血管瘤を検出し、前記血管瘤の形状を楕円体の式で表し、血管瘤の膨張比に基づいて前記血管瘤の壁の厚さを求める壁厚計算部と、前記血管瘤の壁の厚さと前記血圧データとに基づいて、前記血管瘤にかかる応力を計算する応力計算部と、前記応力と前記患者の血管の強度とに基づいて前記血管瘤の破裂リスクを評価するリスク評価部と、前記評価結果を出力する出力部とを備える。
【0017】
本発明のプログラムは、血管瘤の破裂リスクを評価するためのプログラムであって、コンピュータに、患者の血管造影画像の入力を受け付けるステップと、患者の血圧のデータの入力を受け付けるステップと、前記血管造影画像から血管瘤を検出し、前記血管瘤の形状を楕円体の式で表し、血管瘤の膨張比に基づいて前記血管瘤の壁の厚さを求めるステップと、前記血管瘤の壁の厚さと前記血圧データとに基づいて、前記血管瘤にかかる応力を計算するステップと、前記応力と前記患者の血管の強度とに基づいて前記血管瘤の破裂リスクを評価するステップと、前記評価結果を出力するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、血管瘤の大きさに基づいて、個々の血管瘤の破裂リスクを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態の血管瘤の破裂リスク評価装置の構成を示す図である。
【
図2】(a)血管瘤認識部にて認識された血管瘤の例を示す図である。(b)血管瘤を2値化データで再構築した図である。
【
図3】(a)嚢状瘤の例を示す図である。(b)紡錘状瘤の例を示す図である。(c)漿果状瘤の例を示す図である。(d)楕円体の式を示す図である。
【
図4】(a)球体の係数の例を示す図である。(b)回転楕円体1の係数の例を示す図である。(c)回転楕円体2の係数の例を示す図である。(d)楕円体の係数の例を示す図である。
【
図5】瘤モデルの膨張比と、壁厚の減少比との関係を示したグラフである。
【
図6】血管周方向引張スティフネスと血管が破裂するときの応力(引張強度)の計測データの回帰近似曲線を示す図である。
【
図8】実施の形態のリスク評価装置の動作を示すフローチャートである。
【
図9】瘤の膨張比と瘤の壁にかかる応力との関係を示すグラフである。
【
図10】多数の医療機関の医療用端末とリスク評価装置とが接続された血管瘤の破裂リスク評価システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態にかかる血管瘤の破裂リスク評価装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態の血管瘤の破裂リスク評価装置10(以下、「リスク評価装置10」という。)の構成を示す図である。リスク評価装置10には、X線CT装置20と、血圧計21と、超音波診断装置22と、血管壁振動計測装置23が接続されている。
【0021】
X線CT装置20は、患者の血管造影画像を撮影し、撮影した血管造影画像のデータをリスク評価装置10に送信する。本実施の形態では、患者の血管造影画像を撮影するのにX線CT装置20を用いる例を説明しているが、患者の血管造影画像は、例えば、MRI検査、MRA検査によって撮影したデータであってもよい。
【0022】
血圧計21は、患者の血圧を測定し、測定した血圧のデータをリスク評価装置10に送信する。血圧データとしては、最高血圧、最低血圧の両方のデータを送信する。なお、血圧計21とリスク評価装置10が通信可能に接続されていない場合には、ユーザが血圧計21で測定した血圧データを入力してもよい。
【0023】
超音波診断装置22は、超音波によって患者の画像を撮影する装置である。本実施の形態では、患者の頸動脈の動画像を撮影し、撮影した頸動脈のエコー動画像データをリスク評価装置10に送信する。
【0024】
血管壁振動計測装置23は、患者の外耳道の血管壁の心拍による振動を測定し、測定した振動データをリスク評価装置10に送信する。患者の外耳道の血管壁の振動を測定する機器としては、イヤホン型の機器を用いてもよい。イヤホン型の機器を用いることで、例えば、音楽の再生の合間に患者の振動データを取得することが可能であり、患者への負担を著しく減らすことができる。
【0025】
リスク評価装置10は、X線CT装置20、血圧計21、超音波診断装置22、血管壁振動計測装置23と通信するための通信部11を備えている。通信部11が、患者の血管造影画像、患者の血圧のデータ、患者のエコー動画像データ、患者の心拍による血管壁振動のデータの入力を受け付ける。なお、X線CT装置20、血圧計21、超音波診断装置22、血管壁振動計測装置23の通信方式が異なる場合には、それぞれに対応する通信部を備えることとすればよい。
【0026】
リスク評価装置10は、血管瘤認識部12と、壁厚計算部13と、応力計算部14と、血管強度算出部15と、リスク評価部16と、出力部17とを備えている。血管瘤認識部12は、X線CT装置20から受信した患者の血管造影画像から血管瘤を認識する機能を有する。
【0027】
図2(a)は、血管瘤認識部12にて認識された血管瘤の例を示す図である。血管瘤認識部12は、血管瘤を認識すると、3次元医用画像であるX線CT画像をデジタル化するために、血管瘤を格子状に区分してデータとして描出し、
図2(b)に示すように2値化データで再構築を行う。
図2(b)に示す画像データでは、
図2(a)に示す画像において瘤と判断された格子を黒、瘤ではないと判断された格子を白で表現している。2値化データは、3次元座標値(xi,yi,zi)とその座標に対応する位置に瘤が存在するか否かを示す2値(例えば、0:瘤なし、1:瘤あり)のデータである。
【0028】
壁厚計算部13は、血管瘤を楕円体で表し、瘤の膨張比から壁厚を計算する機能を有する。
図3(a)〜
図3(c)は代表的な血管瘤を示す図である。
図3(a)は嚢状瘤、
図3(b)は紡錘状瘤、
図3(c)は漿果状瘤と称される。いずれの血管瘤も、
図3(d)に示すような楕円体の式により数式同定することができる。
【0029】
図4(a)〜
図4(d)は、具体的な楕円体形状とその係数値を示す図である。
図4(a)は球体、
図4(b)は回転楕円体1、
図4(c)は回転楕円体2、
図4(d)は楕円体である。
図4(a)〜
図4(d)に示すように、楕円体の形状は、長軸、中軸、短軸の3つの係数値によって特定をすることができる。本実施の形態では、血管瘤の形状をこの3つの係数値によって特定する。
【0030】
壁厚計算部13は、血管瘤を表した楕円体の式に基づいて血管瘤の壁厚を計算する。
図5は、瘤モデルの膨張比と、壁厚の減少比との関係を示したグラフである。膨張比を乗じる元となる血管壁の大きさとしては、一般に、血管瘤が形成された親血管の直径を用いる。壁厚の減少比は、親血管の壁部体積と瘤の壁部全体の体積が等しい(非圧縮性)として計算する。この考え方に基づいて、
図5に示すグラフが描かれる。グラフには、瘤モデルとして球体、楕円体を示し、参考例として円筒の半径方向膨張(長さ方向変形なし)の場合を示している。球体の場合には、膨張比nに対して壁厚の減少比は1/n
2であり、楕円体の場合には、膨張比nに対して壁厚の減少比は約1.06/n
2であった。円筒の場合には、膨張比nに対して壁厚の減少比は1/nである。瘤のない血管に比べて、血管瘤の方が壁厚の減少比が大きいことが分かる。
【0031】
図1に戻って説明をする。リスク評価装置10の血管強度算出部15は、患者のエコー動画像、または、患者の血管壁振動のデータに基づいて、血管の引張強度を算出する。患者のエコー動画像を用いる場合には、拡張期血管内径と収縮期血管内径との比率に基づいて計算する。この方法としては、例えば、特許5187734号に記載された方法を用いることができる。
【0032】
次に、患者の血管壁振動のデータを用いる場合について説明する。血管強度算出部15は、相関データを記憶した相関データ記憶部18と接続されている。相関データは、血管壁の固有振動周波数と、血管の引張強度との相関関係を表すデータである。この相関関係のデータは、予め多数の患者のエコー動画像の総頸動脈のヤング率Eth、および引張強度と外耳道での固有振動周波数を測定することによって生成しておく。
【0033】
ここで、引張強度について説明する。引張強度は、血管が破裂するときに血管の壁に係る応力である。引張強度は、
図6に示すような計測データの回帰近似曲線を用いて周方向引張スティフネスEthから求めることができる。
図6に示す回帰近似曲線は、次のようにして求めた。まず、ヒト、ヒツジ、ウシ等の総頸動脈を用いて、血管に液体圧を負荷し、血管が破裂したときの応力(引張強度)を求める。そして、同じ血管の引張試験片のスティフネスEthと引張強度との関係を記録して求めたものである。
【0034】
血管強度算出部15は、患者の血管壁振動のデータに基づいて血管壁の固有振動周波数を求め、固有振動周波数に対応するヤング率Ethを相関式より算出し、
図6より、引張強度を求める。なお、この方法については、野方文雄他「イヤホンで音楽を聞きながら健康管理〜外耳道壁振動解析による動脈硬化検査〜」Bio Industry,第34巻,第12号、48-56(2017)、にて詳しく説明している。
【0035】
応力計算部14は、壁厚計算部13にて計算した血管瘤の壁厚と、血圧計21にて測定した患者の血圧データとに基づいて、血管瘤の壁にかかる応力を計算する。
図7は、漿果状瘤のリスク評価のモデルを示す図である。
図7に示すモデルにおいて、膨張比nは、漿果状瘤の長軸方向の径d
d=2aと瘤の根元部の瘤形成径d
nとの比であり、n=d
d/d
nである。変形後の壁の厚さt´は、
図5で説明したとおり、t´=1.06t/n
2である。なお、臨床的には、
図7における瘤形成径d
nは「ネック径」、瘤を根元と平行な平面で切ったときの最大の径2bは「ドーム径」と呼ばれる。
【0036】
漿果状瘤が球体(a=b=c)であるとした場合、変形後の壁厚t´により求められる周方向応力σθ、長さ方向応力σ
z、半径(厚さ)方向応力σ
rは、次の式で表される。なお、次式において、pは血圧である。
【数1】
漿果状瘤が回転楕円体(b=c)とした場合に、T点の周方向応力σθ、長さ方向応力σ
zは、次の式で表される。
【数2】
【0037】
また、E点の周方向応力σθ、長さ方向応力σ
zは、次の式で表される。
【数3】
【0038】
血圧による瘤の壁の応力は3軸(σθ,σ
z,σ
r)状態であるから、本実施の形態では、ミーゼスの相当応力σ
Misesと血管の一軸引張強度σtと対応させて破裂条件(クライテリオン)を仮定する。ミーゼスの相当応力σ
Misesは、次式から計算できる。
【数4】
【0039】
リスク評価部16は、応力計算部14にて求めた血管瘤にかかる応力と、血管強度算出部15にて算出した血管の引張強度に基づいて、血管瘤の破裂リスクを評価する。
図7に示す漿果状瘤では、最大応力は点Tに生じ、最小応力は点Eに生じる。楕円体の尖ったT点の壁厚が最も薄く破裂リスクが最も高いので、リスク評価部16は、T点における破裂リスクを評価する。式(2)からミーゼスの相当応力σ
Misesを求め、血管の引張強度と比較してリスクを計算する。なお、瘤の膨らみにより、赤道線上のE点とT点の値は変化するので、リスク評価部16は、E点の応力も管理する。
【0040】
リスク評価部16は、血管の引張強度A、血管瘤に生じる応力Bとした場合、B/A(%)でリスクを評価する。血管引張強度Aと血管瘤に生じる応力Bとが等しくなったときには、リスクは100%と評価され、理論上、血管瘤は破裂するという評価になる。
【0041】
図8は、本実施の形態のリスク評価装置10の動作を示すフローチャートである。
リスク評価装置10は、X線CT装置20から患者の血管造影画像データを取得し、血圧計21から患者の血圧データを取得する。リスク評価装置10は、超音波診断装置22から患者のエコー動画像を取得するか、または、血管壁振動計測装置23から患者の外耳道の血管壁の振動データを取得する(S10)。
【0042】
リスク評価装置10は、取得した血管造影画像から血管瘤を検出し、検出した血管瘤の形状を楕円体の式で表現する(S11)。具体的には、リスク評価装置10は、まず、血管造影画像データを2値化データに変換する。そして、リスク評価装置10は、2値化データで瘤がある座標の集まりで形成された形状を楕円体の3軸の係数によって表現する。リスク評価装置10は、この処理を検出されたすべての血管瘤に対して行う。
【0043】
リスク評価装置10は、検出された血管瘤が楕円体の式で表現できたか否かを判定する(S12)。具体的には、モデル化した楕円体と元の2値化データとの相関を求める。もし、相関が所定の閾値より低い場合には(S12でNO)、有限要素法(FEM)等の数値解析によって応力を算出する(S14)。
【0044】
ここで、相関の取り方の一例を説明する。楕円体の式と2値化データとの各座標における差分を2乗じて総和をとり、2値化データで瘤と判定された座標の総数で割ることにより、楕円体と瘤の2値化データとの相関を表す値を求める(最小二乗法)。最小二乗法で求めた値に基づいて、楕円体と2値化データとの相関値を求める。相関値は0〜1をとる値であり、楕円体と2値化データとの相関が高い場合には1に近づく。
【0045】
リスク評価装置10は、相関を表す値に基づいて、楕円体と2値化データとの相関の大きさを判定し(S12)、相関が所定の閾値以上と判定された場合(S12でYES)、リスク評価装置10は、血管瘤の壁の厚さと最大応力を算出する処理(S13)に進む。楕円体と2値化データとの相関が所定の閾値以上でないと判定された場合(S12でNO)、リスク評価装置10は、微小な要素分割(メッシュ)の組合せでモデル化(再構築)して、有限要素法(FEM)等の数値解析によって応力を算出する(S14)。
【0046】
なお、本実施の形態では、相関が低い場合に要素分割の組合せで応力を算出する例を挙げたが、相関があまりにも低い場合(例えば、先に説明した相関値が0.5以下の場合)には、楕円体の式で表現できないと判定し、専門臨床医等にリスクの評価を委ねることとしてもよい。
【0047】
リスク評価装置10は、患者のエコー動画像または患者の外耳道の振動データに基づいて、患者の血管の引張強度を求める(S15)。リスク評価装置10は、血管瘤の壁厚と患者の血圧データとに基づいて、血管瘤の壁にかかる応力を計算し、応力と血管の引張強度に基づいて血管瘤の破裂リスクを評価する(S16)。リスク評価装置10は、瘤の破裂リスクを定量的に表示する(S17)。例えば、血管の破裂リスクが何パーセント程度であるかを表示する。このとき、リスク評価装置10は、血管瘤の形状を数式化した楕円体の形状を合わせて表示する。
【0048】
以上、リスク評価装置10の構成について説明したが、上記したリスク評価装置10のハードウェアの例は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク、ディスプレイ、キーボード、マウス、通信インターフェース等を備えたコンピュータである。上記した各機能を実現するモジュールを有するプログラムをRAMまたはROMに格納しておき、CPUによって当該プログラムを実行することによって、上記したリスク評価装置10が実現される。このようなプログラムも本発明の範囲に含まれる。
【0049】
以上、本実施の形態のリスク評価装置10の構成および動作について説明した。血管瘤は血圧の変化により膨張するとその壁の厚さは減少する。しかし、X線CT装置20で撮影した医用画像からはその壁厚の変化は測定が困難なほど僅かである。本実施の形態では、血管瘤を数式で表すことにより、壁厚の計算を可能にし、血管瘤の経過管理と処置の手続きに対して、医師等の判断、および診断を容易にした。
【0050】
以上、本発明の血管瘤の破裂リスク評価装置10について、実施の形態を挙げて詳細に説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではない。上記した実施の形態においては、患者の血管の引張り強さを求める方法として、患者の外耳道の血管壁の振動データに基づいて、相関データを用いて引張り強さを求める方法を挙げたが、血管の引張り強さを求める方法として他の方法を採用してもよい。
【0051】
また、本実施の形態のリスク評価装置10では、血圧計21にて測定した患者の血圧データを用いて血管瘤の破裂リスクを評価する例を挙げたが、患者の血圧を何パターンか想定して、リスクを見積もってもよい。つまり、例えば、最高血圧が120mmHgではリスクは50%、140mmHgではリスクは70%、160mmHgでは90%といった具合にリスクを評価する。これにより、患者に血圧に注意するように指導を行うことができる。
【0052】
また、リスク評価結果の出力の仕方としては、血管瘤が破裂すると予測される膨張比を示してもよい。
図9は、瘤の膨張比と瘤の壁にかかる応力との関係を示すグラフである。
図9では、嚢状瘤、漿果状瘤(楕円体)、漿果状瘤(球体)について、血圧が160mmHgと120mmHgの場合の膨張比と、瘤にかかる応力とを示している。一例として、患者の血管の引張り強さが2.4MPaとすると、嚢状瘤が破裂する膨張比は、血圧120mmHgでは膨張比2.7と予測される。
【0053】
また、上記した実施の形態のリスク評価装置10は、全世界の医療機関の医療用端末から患者の情報を取得して、その患者の血管瘤の破裂リスクの評価を行ってもよい。
図10は、血管瘤の破裂リスクの評価システム30の構成を示す図である。リスク評価装置10は、全世界の医療機関の医療用端末とインターネットによって接続されている。すなわち、リスク評価装置10は、世界中からアクセス可能なクラウド上のサーバである。
【0054】
リスク評価装置10は、世界中の医療機関の医療用端末から、患者の血管瘤に関する情報や、その他の関連情報の入力を受け付ける。患者の関連情報とは、患者の性別、年齢、人種、喫煙などの生活習慣や病歴、手術歴等である。リスク評価装置10は、医療機関から受け付けた患者の血管瘤に関する情報に基づいて、その患者の血管瘤の破裂リスクを評価し、その評価結果を医療用端末に送り返す。これにより、世界中の医療機関における瘤破裂の診断差異が解消される。
【0055】
また、リスク評価装置10は、血管瘤に関する情報と、患者の性別、年齢、人種、生活習慣や病歴、手術歴などの関連情報とを統計的に解析する。全世界から収集されたビックデータを利用して統計、確率等の学理、ディープラーニング(深層学習)を応用した人工知能(AI)により解析して診断結果を最適化できる。また、世界最高レベルの専門医に画像データ等を送信し、その解析/診断結果を得ることにより、さらに精度の高い評価システムを実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、血管瘤の破裂リスクを定量的に評価することができ、血管瘤の診断を支援する方法およびシステムとして有用である。
【符号の説明】
【0057】
10 血管瘤の破裂リスク評価装置
11 通信部
12 血管瘤認識部
13 壁厚計算部
14 応力計算部
15 血管強度算出部
16 リスク評価部
17 出力部
18 相関データ記憶部
20 X線CT装置
21 血圧計
22 超音波診断装置
23 血管壁振動計測装置
30 血管瘤の破裂リスク評価システム