(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントの原子炉などで発生した放射性廃棄物(放射性物質)は、放射性物質収納容器に収納され、貯蔵施設や再処理施設などに搬送され、貯蔵または再処理される。このような放射性物質収納容器は、上部が開口した底付きの円筒形状をなす胴部と、胴部内に収容されて複数の放射性廃棄物を収納可能なバスケットと、胴部の上部に固定されて開口を閉塞する蓋部と、から構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された放射性物質収納容器では、胴本体の外周部にトラニオンが固定されている。トラニオンは、放射性物質収納容器の縦起こしや横倒し時の掴み部として用いられる。トラニオンは、胴本体に固定される基端部に凹部が形成されている。凹部は、内部に中性子遮蔽体(レジン)が充填され、放射性物質からの放射線を遮蔽する。
【0004】
また、例えば、特許文献2に記載された放射性物質収納容器(キャスク)では、胴本体の外周に外筒が設けられており、胴本体と外筒との間にフィンが溶接され、胴本体と外筒とフィンとによって形成される空間に中性子遮蔽体(レジン)が充填され、放射性物質からの放射線を遮蔽する。また、この放射性物質収納容器は、レジンと外筒との間にアルミハニカムが配置されている。
【0005】
また、例えば、特許文献3に記載された放射性物質収納容器(金属キャスク)では、胴本体、外筒、フィンで囲まれて形成された充填部に中性子遮蔽体が充填され、充填部内における、胴本体とフィンとの溶接部の全て、および外筒とフィンとの溶接部の全てに、離型剤が塗布されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した、特許文献1に記載のようなトラニオンは、胴本体への締結方法としてネジ式が採用されているが、冷やし嵌め加工が検討されている。この冷やし嵌め加工において、トラニオンの凹部に中性子遮蔽体が充填され、トラニオンの金属材と中性子遮蔽体とが接着した状態にある。この状態で冷やし嵌め加工を行うと、中性子遮蔽体の熱収縮率が金属材よりも過大であるため、冷却時に接着面で歪みが生じ、この歪みが起点となって中性子遮蔽体が破損するおそれがある。中性子遮蔽体が破損した場合、中性子遮蔽体の遮蔽性能が不十分となる。
【0008】
また、特許文献2に記載のようなアルミハニカムは、放射性物質の熱による中性子遮蔽体の熱膨張時に充填部が膨張しろとして機能し、この膨張により塑性変形することで中性子遮蔽体を保持する。しかし、中性子遮蔽体は、胴本体およびフィンに接着した状態にあるため、中性子遮蔽体の熱膨張時に接着面で歪みが生じ、この歪みが起点となって中性子遮蔽体が破損するおそれがある。しかも、中性子遮蔽体の熱膨張時にアルミハニカムが塑性変形した後、中性子遮蔽体が収縮した場合、外筒と中性子遮蔽体との間に空間が生じるため、容器の輸送時での衝撃吸収性や中性子遮蔽体の保持安定性が低下するおそれがある。
【0009】
なお、特許文献3においては、中性子遮蔽体が硬化する過程において、溶接部の凹凸によって中性子遮蔽体に局所的な引っ張り応力が生じることでクラックが形成される事態を防ぐ目的で、離型剤が塗布されている。しかし、当該離型剤は、中性子遮蔽体の熱収縮時の問題を回避するものではなく、かつ膨張しろとして機能する充填部における問題を回避するものではない。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、トラニオンの凹部に充填される中性子遮蔽体における熱収縮時における歪みを防止することのできる放射性物質収納容器を提供することを目的とする。また、本発明は、上述した課題を解決するものであり、胴本体と外筒とフィンとで形成される空間において中性子遮蔽体の膨張時の歪みを防止すると共に中性子遮蔽体の保持安定性を維持することのできる放射性物質収納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明の放射性物質収納容器は、一方に開口部が形成されて他方に閉塞部が形成される筒形状をなして内部に放射性物質を収納可能な胴本体と、前記開口部を閉塞するように前記胴本体に対して取付可能な蓋部と、吊下げ用の掛止部と前記胴本体の外周部における所定の位置に固定される固定部とを有すると共に前記固定部に前記胴本体側に開放する凹部が形成された金属製のトラニオンと、前記トラニオンの前記凹部内に充填される中性子遮蔽体と、前記トラニオンの前記凹部の内面に沿って配置されてガラス転移点が前記トラニオンをなす金属材の冷やし嵌め加工時の冷却温度と同等な剥離材からなる剥離層と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この放射性物質収納容器によれば、剥離層は、トラニオンの金属材と中性子遮蔽体との間に介在して相互を非接着にすると共に、トラニオンの金属材からの伝熱を抑制する離型性断熱材として機能する。この結果、断熱効果により中性子遮蔽体におけるトラニオンの金属との熱収縮率の差を抑えると共に、中性子遮蔽体をトラニオンの凹部内で非接着として相互間の熱収縮率の差による中性子遮蔽体の歪みの発生を防止することができる。
【0013】
また、本発明の放射性物質収納容器では、前記剥離層は、発泡体からなることを特徴とする。
【0014】
この放射性物質収納容器によれば、剥離層は、発泡体からなることで、断熱性能および緩衝性能が向上するため、上記効果を顕著に得ることができる。
【0015】
また、本発明の放射性物質収納容器では、前記剥離層は、前記トラニオンの前記凹部の内面の一箇所で一部が除去された除去部を有していることを特徴とする。
【0016】
この放射性物質収納容器によれば、除去部の部分において中性子遮蔽体が凹部の内面の一箇所で一部が接着することになる。この結果、中性子遮蔽体の位置が一箇所で保持されるため、放射性物質収納容器の体勢が例えば縦置きから横置きに変化しても、中性子遮蔽体が凹部内でがたついて移動することを防止できる。
【0017】
また、本発明の放射性物質収納容器では、前記トラニオンの前記凹部の底に弾性部材が設けられていることを特徴とする。
【0018】
この放射性物質収納容器によれば、弾性部材は、トラニオンの凹部に充填された中性子遮蔽体を凹部の開放側であって胴本体側に弾性力により付勢する。この結果、中性子遮蔽体が放射性物質収納容器の径方向内側であって放射性物質に対してより近づいて配置されるため、中性子遮蔽体による遮蔽性能を安定化させることができる。
【0019】
また、本発明の放射性物質収納容器では、前記トラニオンの前記凹部の周囲に空洞部が形成されていることを特徴とする。
【0020】
この放射性物質収納容器によれば、空洞部は、空洞内に空気が存在することで、凹部の周囲の断熱性が向上する。このため、冷やし嵌め加工時に、凹部内に配置された中性子遮蔽体がトラニオンの冷やし嵌めに必要な低温まで冷却されることを防止できる。この結果、中性子遮蔽体におけるトラニオンの金属との熱収縮率の差を抑え、熱収縮率の差による中性子遮蔽体の歪みの発生を防止することができる。
【0021】
上述の目的を達成するために、本発明の放射性物質収納容器は、一方に開口部が形成されて他方に閉塞部が形成される筒形状をなして内部に放射性物質を収納可能な胴本体と、前記開口部を閉塞するように前記胴本体に対して取付可能な蓋部と、前記胴本体の外周を覆う外筒と、前記胴本体の外周面と前記外筒の内周面との間に配置されたフィンと、前記胴本体と前記外筒と前記フィンとで形成される空間に充填される中性子遮蔽体と、前記フィンの側面に沿って配置される剥離材からなる剥離層と、前記外筒の内面に沿って配置された発泡体からなる緩衝層と、を備えることを特徴とする。
【0022】
この放射性物質収納容器によれば、中性子遮蔽体の周面が剥離層および緩衝層により外筒およびフィンと接着されないことから、中性子遮蔽体が放射性物質の熱により熱膨張した場合でも、中性子遮蔽体の歪みを防止することができる。しかも、中性子遮蔽体と外筒との間に発泡体からなる緩衝層が介在されることで、中性子遮蔽体の熱膨張時の変形吸収性や、放射性物質収納容器の輸送時での衝撃吸収性や、中性子遮蔽体の保持安定性を得ることができる。しかも、発泡体からなる緩衝層は、中性子遮蔽体の熱膨張時の変形や衝撃を吸収した後も寸法が安定しているため、外筒と中性子遮蔽体との間に空間が生じることがなく、変形吸収性や衝撃吸収性を維持することができる。
【0023】
また、本発明の放射性物質収納容器では、前記緩衝層は、前記フィンの側面との間に隙間を有して配置されていることを特徴とする。
【0024】
この放射性物質収納容器によれば、隙間は、フィンを外筒に溶接する際の熱の影響を避けるスペースとして確保される。従って、隙間を設けることでフィンを外筒に溶接する以前に緩衝層を外筒の内面に設けることができ、施工性を向上することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、トラニオンの凹部に充填される中性子遮蔽体における熱収縮時における歪みを防止することのできる放射性物質収納容器を提供することができる。また、本発明によれば、胴本体と外筒とフィンとで形成される空間において中性子遮蔽体の膨張時の歪みを防止すると共に中性子遮蔽体の保持安定性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0028】
図1は、本実施形態に係る放射性物質収納容器の側断面図である。
図2は、本実施形態に係る放射性物質収納容器の平断面図である。
【0029】
放射性物質収納容器としてのキャスク11は、胴部12と、蓋部13と、バスケット14とを有する。胴部12は、胴本体21の一方である上部に開口部22が形成され、他方である下部に底部(閉塞部)23が形成された円筒形状をなしている。胴本体21は、内部にバスケット14が収容されるキャビティ(収容部)24が設けられている。そして、胴本体21は、下部に底部23が溶接結合または一体成形されており、この胴本体21および底部23は、γ線遮蔽機能を有する炭素鋼製の鍛造品となっている。胴本体21および底部23は、炭素鋼の代わりにステンレス鋼を用いることもできる。また、胴本体21および底部23は、球状黒鉛鋳鉄または炭素鋼鋳鋼などの鋳造品を用いることもできる。
【0030】
胴部12は、胴本体21の外周側に所定の隙間を空けて外筒25が配設されており、胴本体21の外周面と外筒25の内周面との間に、熱伝導を行う銅や鋼製のフィン25Aが周方向に所定間隔で複数溶接されている。そして、胴部12は、胴本体21と外筒25とフィン25Aとの空間部に、水素を多く含有する高分子材料であって中性子遮蔽機能を有するボロンまたはボロン化合物を含有したレジン(中性子遮蔽体)26が流動状態で図示しないパイプなどを介して注入され、固化されている。
【0031】
また、胴部12は、底部23の下側に複数の連結板27により所定の隙間を空けて底板28が連結されていてもよく、この連結板27と底板28との空間部にレジン(中性子遮蔽体)29が設けられている。なお、連結板27を設けないこともある。また、胴部12は、側面35にトラニオン30が固定されている。トラニオン30は、キャスク11において径方向の相反する側に突出して対をなし、かつ上下方向の2箇所に配置されて、少なくとも計4箇所に設けられている。なお、図には明示しないが、補助として、トラニオン30は、上述したキャスク11において径方向の相反する側に突出して対をなし、かつ上下方向の2箇所にさらに追加配置して、計8箇所に設けてもよい。
【0032】
蓋部13は、
図1に示すように、一次蓋31と、二次蓋32と、三次蓋33と、を有する。一次蓋31は、胴部12における胴本体21の開口部22に対して着脱可能に取り付けられる。二次蓋32は、一次蓋31の外側で開口部22に対して着脱可能に取り付けられる。三次蓋33は、二次蓋32の外側で開口部22に対して着脱可能に取り付けられる。一次蓋31は、キャビティ24側の負圧を維持してキャビティ24内に充填されたガスの漏洩を防ぐと共に、キャビティ24内に収納された放射性物質50から出る放射線(γ線)を遮蔽する。また、一次蓋31は、二次蓋32側にレジン(中性子遮蔽体)34が設けられている。二次蓋32は、一次蓋31との間に大気に対して加圧された圧力監視境界を有すると共に、放射性物質50から出る放射線(γ線)を遮蔽する。
【0033】
バスケット14は、キャビティ24内に収容され、図中一点鎖線にて示す燃料集合体である放射性物質50を個々に収納するセルとしての放射性物質収納部15が上下方向で連続して形成されている。ここで、上下方向とは、キャスク11において胴本体21の円筒形状の中心軸の延在方向である高さ方向Xに対して沿う方向であり、胴本体21の上下方向に相当する。バスケット本体14Aは、例えば、複数の板状部材を組み合わせて構成されている。板状部材は、炭素鋼や、ステンレス鋼またはアルミニウム合金に中性子吸収材としてボロンまたはボロン化合物を添加した複合材により構成される。なお、中性子吸収材は、ボロンの他にガドリニウムを用いることができる。
【0034】
このように構成された放射性物質収納容器としてのキャスク11において、放射性物質50は、水中において胴部12におけるキャビティ24のバスケット14に挿入され、一次蓋31が配置される。その後、胴部12は、水中から引き上げられ、一次蓋31に設けられた排水口(図示せず)から排水および吸引が行われ、一次蓋31がボルトで取り付けられた後、真空乾燥および一次蓋31に設けられた封入口(図示せず)からガス(例えば、不活性ガス)が注入されることで、一次蓋31により密封された内部が負圧とされてガスで満たされる。その後、二次蓋32および三次蓋33がボルトにより取り付けられる。このように、放射性物質50は、一次蓋31、二次蓋32および三次蓋33を胴本体21に取り付けることによりキャスク11に収納される。なお、図には明示しないが、キャスク11は、一次蓋31および二次蓋32のみを有する構成や、一次蓋31および三次蓋33のみを有する構成がある。
【0035】
[実施形態1]
以下、実施形態1であってトラニオンについて説明する。
【0036】
図3は、トラニオンの断面図である。
図4は、剥離材の温度変化を示す説明図である。
図5〜
図8は、トラニオンの他の例の断面図である。
【0037】
図3に示すように、トラニオン30は、金属材により円柱形状に形成されており、図示しない吊下装置を係止する吊下げ用の掛止部30Aと、胴部12を構成する胴本体21の外周部における所定の位置に固定される固定部30Bと、を有している。
【0038】
トラニオン30は、その一例として、円柱形状をなす小径部41と中径部42と大径部43とが一体に形成されて全体が円柱形状に形成されている。小径部41は、外周部が掛止部30Aとして機能し、先端部に円盤形状をなすフランジ部41aが一体に形成されている。中径部42は、外径が小径部41の外径より大きく設定され、リング形状をなす端面部42aが掛止部30Aを挟んで小径部41のフランジ部41aに対向して形成されている。つまり、トラニオン30は、掛止部30A(小径部41の外周部)に係止した吊下装置が、フランジ部41aと端面部42aとの間に維持され、外れにくい構造となっている。大径部43は、外径が中径部42の外径より大きく設定され、リング形状をなす端面部43aが形成されると共に、外周部の基端部側に固定部30Bが形成されている。
【0039】
また、トラニオン30は、固定部30Bを形成する大径部43側における基端部の端面部43bに凹部43cが形成されている。凹部43cは、例えば、円柱形状の空間部をなしトラニオン30が固定される胴本体21側に向けて開放して形成されている。凹部43cは、その内部に、水素を多く含有する高分子材料であって中性子遮蔽機能を有するボロンまたはボロン化合物を含有したレジンからなる中性子遮蔽体44が充填されている。
【0040】
また、トラニオン30は、凹部43cの内面に沿って、剥離材からなる剥離層45が設けられている。すなわち、剥離層45は、凹部43cの内面と中性子遮蔽体44との間に介在される。剥離層45は、ガラス転移点がトラニオン30をなす金属材の冷やし嵌め加工時の冷却温度と同等である。例えば、冷やし嵌め加工時の冷却温度が−150℃である場合、この冷却温度と同等であり、好ましくは、トラニオン30をなす金属材が−150℃に達したときの中性子遮蔽体44の温度(冷却の過渡状態の温度)よりも低い温度のガラス転移点である剥離材が適用される。このような剥離材としては、例えば、低密度ポリエチレン、シリコーンゴム、ポリテトラフルオルエチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリアセタールがある。
【0041】
一方、胴部12を構成する胴本体21は、外周部の所定位置に、径方向の外方から凹む固定用凹部51が設けられている。固定用凹部51は、円柱形状の空間部をなし、胴本体21の径方向外方に開放して形成されている。この固定用凹部51に、トラニオン30の固定部30Bが挿入され冷やし嵌め加工により固定される。
【0042】
トラニオン30は、胴本体21へ固定する前に、凹部43cの内面に沿って剥離層45が配置され、その後に中性子遮蔽体44が流動状態で図示しないパイプなどを介して凹部43c内に注入され、固化される。そして、胴本体21へ固定する際、冷却された後、固定部30Bが胴本体21の固定用凹部51に差し込まれて温度が上昇して戻ることで固定部30Bが固定用凹部51に嵌め込まれて固定される。
【0043】
上記のようなトラニオン30を胴本体21に固定する過程において、剥離層45は、
図4に示すように、例えば、剥離材にガラス転移点が−123℃のシリコーンゴムを用いた場合、冷却過程で−123℃に至るまではゴム状態であり、さらに冷却されるとガラス状態に至る。ここで剥離層45は、トラニオン30の金属材と中性子遮蔽体44との間に介在して相互を非接着にすると共に、トラニオン30の金属材からの伝熱を抑制する離型性断熱材として機能する。この結果、断熱効果により中性子遮蔽体44におけるトラニオン30の金属との熱収縮率の差を抑えると共に、中性子遮蔽体44をトラニオン30の凹部43c内で非接着として相互間の熱収縮率の差による中性子遮蔽体44の歪みの発生を防止することができる。
【0044】
そして、剥離層45は、室温に戻される過程において−123℃以上でゴム状態に戻る。ここで剥離層45は、ゴム状態に戻ったことで、トラニオン30の金属材と中性子遮蔽体44との間に介在して相互を非接着にすると共に、中性子遮蔽体44からトラニオン30の金属材への伝熱を抑制する離型性断熱材として機能する。さらに、剥離層45は、ゴム状態に戻ったことで、衝撃緩衝材としても機能する。この結果、断熱効果により収納した放射性物質50の熱がトラニオン30から中性子遮蔽体44に伝わる事態を抑制すると共に、緩衝効果により中性子遮蔽体44へ衝撃が伝わる事態を抑制することができる。
【0045】
ところで、剥離層45は、発泡体からなることが好ましい。具体的に剥離層45は、厚さが0.5mm以上のシート状に形成された発泡体であって、例えば、発泡ポリエチレンシートからなる。このように構成することで、剥離層45は、断熱性能および緩衝性能が向上するため、上記効果を顕著に得ることができる。特に、極低温で脆性が高くなるレジンに対する衝撃緩衝材として高い効果が期待できる。このため、剥離層45を発泡体から構成する場合は、可能な限りガラス転移点が低い方が、ゴム状態である温度域が広範囲となって、極低温でも衝撃緩衝材としての機能を維持することができる。
【0046】
また、
図5に示すように、剥離層45は、トラニオン30の凹部43cの内面の一箇所で一部除去された除去部45aを有していることが好ましい。
【0047】
除去部45aは、例えば、剥離層45に設けられた貫通穴であって、凹部43cに充填された中性子遮蔽体44を通過させて凹部43cの内面まで至らせる。従って、除去部45aの部分において中性子遮蔽体44が凹部43cの内面の一箇所で一部が接着することになる。この結果、中性子遮蔽体44の位置が一箇所で保持されるため、キャスク11の体勢が例えば縦置きから横置きに変化しても、中性子遮蔽体44が凹部43c内でがたついて移動することを防止できる。なお、
図5において、除去部45aは凹部43cの底面に対応する位置に設けられているが、凹部43cの側面に対応する位置に設けられていてもよい。また、除去部45aの範囲(中性子遮蔽体44が凹部43cの内面に接着する範囲)は、中性子遮蔽体44の表面積の0.5%以上30%以下の範囲にすることが、中性子遮蔽体44の位置が保持し、かつ中性子遮蔽体44の歪みを抑制するうえで好ましい。
【0048】
また、
図6および
図7に示すように、トラニオン30の凹部43cの底に弾性部材46が設けられていることが好ましい。
【0049】
弾性部材46は、例えば、板バネや皿バネやハニカム式バネがある。
図6では、弾性部材46がトラニオン30の凹部43cの底一面に板状に配置された例を示しており、
図7では、弾性部材46がトラニオン30の凹部43cの底の周囲でリング状に配置された例を示している。この弾性部材46は、トラニオン30の凹部43cに充填された中性子遮蔽体44を凹部43cの開放側であって胴本体21側に弾性力により付勢する。この結果、中性子遮蔽体44がキャスク11の径方向内側であって放射性物質50に対してより近づいて配置されるため、中性子遮蔽体44による遮蔽性能を安定化させることができる。
【0050】
また、
図8に示すように、トラニオン30の凹部43cの周囲に空洞部47が形成されていることが好ましい。
【0051】
空洞部47は、
図8に示すように凹部43cの全周囲に設けられていてもよいが、凹部43cの周囲の一部に設けられていてもよい。この空洞部47は、空洞内に空気が存在することで、凹部43cの周囲の断熱性が向上する。このため、冷やし嵌め加工時に、凹部43c内に配置された中性子遮蔽体44がトラニオン30の冷やし嵌めに必要な低温まで冷却されることを防止できる。この結果、中性子遮蔽体44におけるトラニオン30の金属との熱収縮率の差を抑え、熱収縮率の差による中性子遮蔽体44の歪みの発生を防止することができる。
【0052】
[実施形態2]
以下、実施形態2であって外筒25について説明する。
【0053】
図9は、外筒の断面図である。
図10は、外筒の他の例の断面図である。
【0054】
外筒25は、上述したように、胴本体21の外周側に所定の隙間を空けて配設されており、胴本体21の外面と外筒25の内面との間に、熱伝導を行う銅や鋼製のフィン25Aが周方向に所定間隔で複数溶接されている。そして、胴本体21と外筒25とフィン25Aとの空間部に、中性子遮蔽体26が充填されている。
【0055】
この外筒25において、
図9に示すように、フィン25Aの側面に沿って配置される剥離材からなる剥離層61と、外筒25の内面に沿って配置された発泡体からなる緩衝層62と、を備えている。
【0056】
剥離層61は、中性子遮蔽体26において胴本体21の外面側の周面を除き、フィン25Aの側面側の周面を覆うように設けられる。剥離層61の剥離材は、中性子遮蔽体26の最大温度150℃程度でも安定した性質を確保することのできる、例えば、シリコーンオイルがあり、中性子遮蔽体26を充填する前に胴本体21の外周面およびフィン25Aの側面に塗布される。
【0057】
緩衝層62は、中性子遮蔽体26において剥離層61のない外筒25の内面側の周面を覆うように設けられる。緩衝層62の発泡体は、中性子遮蔽体26の膨張を吸収する弾性を有すること、外筒25の内面形状に併せて成型し易いこと、寸法安定性があることを満足する、例えば、シート状の発泡シリコーンゴムがあり、中性子遮蔽体26を充填する前に外筒25の内面に貼り付けられる。
【0058】
このように、胴本体21と外筒25とフィン25Aとの空間部に充填された中性子遮蔽体26は、その周囲が剥離層61および緩衝層62により覆われている。剥離層61は、フィン25Aの側面と中性子遮蔽体26の周面との間に配置される。緩衝層62は、外筒25の内面と中性子遮蔽体26の周面との間に配置される。胴本体21の外面と中性子遮蔽体26の周面との間は相互に接触する。
【0059】
従って、中性子遮蔽体26の周面が剥離層61および緩衝層62により外筒25およびフィン25Aと接着されないことから、中性子遮蔽体26が放射性物質50の熱により熱膨張した場合でも、中性子遮蔽体26の歪みを防止することができる。しかも、中性子遮蔽体26の周面が胴本体21とは接着されることから、中性子遮蔽体26の位置が保持されるため、キャスク11の体勢が例えば縦置きから横置きに変化しても、中性子遮蔽体26が胴本体21と外筒25とフィン25Aとの空間部内でがたついて移動することを防止できる。しかも、中性子遮蔽体26と外筒25との間に発泡体からなる緩衝層62が介在されることで、中性子遮蔽体26の熱膨張時の変形吸収性や、キャスク11の輸送時での衝撃吸収性や、中性子遮蔽体26の保持安定性を得ることができる。しかも、発泡体からなる緩衝層62は、中性子遮蔽体26の熱膨張時の変形や衝撃を吸収した後も寸法が安定しているため、外筒25と中性子遮蔽体26との間に空間が生じることがなく、変形吸収性や衝撃吸収性を維持することができる。
【0060】
なお、緩衝層62の発泡体が発泡シリコーンゴムである場合は、緩衝層62が剥離材としても機能する。この場合、剥離層61を中性子遮蔽体26において外筒25の内面側の周面であって中性子遮蔽体26と緩衝層62との間に設けなくてもよい。
【0061】
なお、緩衝層62は、白金化合物を加えて難燃化させてもよい。また、緩衝層62は、酸化チタン、酸化鉄、カーボン、金属炭酸塩などの難燃化助剤を添加することで、難燃性と自己消火性を付与することができる。
【0062】
また、
図10に示すように、緩衝層62は、フィン25Aの側面との間に隙間63を有して配置されていることが好ましい。
【0063】
この隙間63は、フィン25Aを外筒25に溶接する際の熱の影響を避けるスペースとして確保される。従って、隙間63を設けることでフィン25Aを外筒25に溶接する以前に緩衝層62を外筒25の内面に設けることができ、施工性を向上することができる。フィン25Aを外筒25に溶接した後で緩衝層62を外筒25の内面に設けるには、作業スペースが限られるため施工性が悪い。
【0064】
ところで、特許文献2に記載されているアルミハニカムは、中性子遮蔽体26の熱膨張時の変形吸収時や、キャスク11の輸送時での衝撃吸収時において潰れた場合復元しないため、中性子遮蔽体26が冷却した後に空間が生じる。この空間により中性子遮蔽体26の保持安定性を確保できなくなり、中性子遮蔽性能を維持できないおそれもある。このため、アルミハニカムを用いる場合は、中性子遮蔽体26を固定するアンカーを胴本体21に溶接にて設置する。従って、アンカーを胴本体21に溶接にて設置する工程が生じ、かつアンカーを起点として中性子遮蔽体26にクラックが発生するおそれもある。このような問題に対して、本実施形態では、緩衝層62が発泡体からなり、変形しても復元性を有するため、中性子遮蔽体26が冷却した後に空間が生じることを防ぎ、中性子遮蔽体26の保持安定性を確保することができると共に、温度変化により数回の中性子遮蔽体26の変形にも対応できる。しかも、本実施形態では、緩衝層62が発泡体からなり、変形しても復元性を有するため、アンカーを不要として中性子遮蔽体26にクラックが発生することを防止でき、製造時の工数を低減することもできる。