(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポケットのそれぞれの内側に、前記ローラが、2個以上ずつ、前記保持器の径方向に関して直列に配置されており、かつ、前記吐出口が、前記ポケットの内側に保持された前記ローラのうち、少なくとも、前記保持器の径方向に関して最も内側に配置されたローラの転動面に対し、前記保持器の円周方向に対向している、請求項7に記載のトロイダル無段変速機用押圧装置。
前記吐出口が、2個以上設けられ、かつ、前記吐出口が、前記ポケットの内側に保持された前記ローラのうち、前記保持器の径方向に関して最も内側に配置されたローラを含む少なくとも2個のローラの転動面に対し、前記保持器の円周方向に対向している、請求項8に記載のトロイダル無段変速機用押圧装置。
【背景技術】
【0002】
トロイダル無段変速機では、互いに同軸に配置されて相対回転する入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これらの間に挟持されている複数個のパワーローラとを備え、パワーローラを介して、入力側ディスクから出力側ディスクに動力を伝達するように構成されている。トロイダル無段変速機では、パワーローラの傾斜角度を変えることにより、入力側ディスクと出力側ディスクとの間の変速比を調節することが可能である。
【0003】
トロイダル無段変速機の運転時に、入力側ディスクの軸方向側面および出力側ディスクの軸方向側面と、パワーローラの周面との転がり接触部であるトラクション部には、トラクションオイルの油膜が形成される。入力側ディスクと出力側ディスクとの間での動力は、この油膜を介して伝達される。トロイダル無段変速機において、トラクションオイルの油膜を介しての動力伝達を確実に行えるように、入力側ディスクと出力側ディスクとを互いに近づく方向に押圧するための押圧装置が設置される。
【0004】
特開平11−201251号公報には、トロイダル無段変速機用の押圧装置として、伝達トルクの大きさに比例した押圧力を機械的に発生するローディングカム式の押圧装置が開示されている。ローディングカム式の押圧装置は、円板状のカム板の軸方向側面に形成された第一のカム面と、第一のカム面と軸方向に対向するディスクの軸方向側面に形成された第二のカム面と、第一のカム面と第二のカム面との間に挟持された複数個のローラとを備える。ローラは、複数個ずつ、カム板の径方向に関して直列に配置された状態で、保持器の円周方向複数箇所に形成された矩形状のポケットの内側に転動自在に保持されている。
【0005】
ローディングカム式の押圧装置の作動時には、ローラが、第一のカム面および第二のカム面を構成する凸部に乗り上げることにより、第一のカム面と第二のカム面との間の軸方向間隔が拡がる。これにより、第二のカム面が形成された第一のディスク(たとえば、入力側ディスク)が、第一のディスクに対向する第二のディスク(たとえば、出力側ディスク)に向けて押圧されて、トラクション部の面圧が確保される。
【0006】
ローディングカム式の押圧装置の作動時、すなわち、押圧力の発生時には、ローラの転動面は、第一のカム面と第二のカム面との間で強い力で挟持される。トロイダル無段変速機を一定の変速比で運転すると、第一のカム面および第二のカム面の凸部に対するローラの乗り上げ量が一定となり、ローラは転動しなくなる。したがって、ローラの転動面と第一のカム面および第二のカム面との間で微小すべりが生じると、ローラの転動面と、第一のカム面および第二のカム面には、フレッチング摩耗が発生しやすくなる。フレッチング摩耗の発生を抑制するためには、ローラの転動面と、第一のカム面および第二のカム面との接触部に、潤滑油を十分に供給することが重要である。これに対して、たとえば、特開2006ー002882号公報には、保持器の径方向内側部に、下流側端部がポケットの径方向内側面に開口した通油孔を有する構造が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特開2006−002882号公報に記載の構造では、通油孔から吐出された潤滑油に作用するコリオリ力の影響が考慮されていない。このため、ローラの転動面と、第一のカム面および第二のカム面との接触部に潤滑油を十分に供給することができない可能性がある。特開2006−002882号公報に記載の構造では、複数個のローラが、ポケットの内側に、2個以上ずつ、保持器の径方向に関して直列に配置された状態で保持されている。このため、ローラのうち、ポケットの径方向外側に配置されたローラに、潤滑油を十分に供給することが特に難しくなっている。
【0009】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、ポケット内のローラに潤滑油を十分に供給することができ、かつ、ローラの転動面と、第一のカム面および第二のカム面とに、フレッチング摩耗が発生することを抑制できる構造を備えた、トロイダル無段変速機用押圧装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のトロイダル無段変速機用押圧装置は、カム板と、ディスクと、保持器と、複数個のローラとを備える。
【0011】
前記カム板は、軸方向片側に、円周方向に関する凹凸である第一のカム面を有する。
【0012】
前記ディスクは、パワーローラを挟持するように配置される入力側ディスクと出力側ディスクとのうちの一方のディスクであって、軸方向片側に、断面円弧形のトロイダル曲面を有し、軸方向他側に、第一のカム面に軸方向に対向し、円周方向に関する凹凸である第二のカム面を有する。
【0013】
前記保持器は、第一のカム面と第二のカム面との間に配置され、かつ、円周方向複数箇所にそれぞれの中心軸が放射方向に沿うように配置された矩形状のポケットを有する。
【0014】
前記複数個のローラは、前記ポケットのそれぞれの内側に1個以上ずつ転動自在に保持される。前記ローラが前記ポケットの内側に保持された状態では、前記ローラは、それぞれの中心軸が、放射方向に沿い、かつ、前記ポケットの中心軸と実質的に平行となるように配置される。
【0015】
前記保持器は、内部または表面に、潤滑油を通過させるための1つ以上の通油路を有する。前記通油路の下流側端部には、前記ポケットの内側に開口し、かつ、該ポケットの中心軸よりも前記保持器の回転方向に関して前方側に潤滑油を吐き出す、1つ以上の吐出口が設けられている。
【0016】
前記吐出口を、前記ポケットの径方向内側面に開口させ、かつ、前記吐出口の中心軸を、前記ポケットの中心軸に対し、前記回転方向に関して前方側に傾斜させることができる。
【0017】
前記吐出口を、前記ポケットの径方向内側面のうち、該ポケットの中心軸よりも前記回転方向に関する前方側に設けることができる。
【0018】
前記ポケットのそれぞれの内側に、前記ローラを、2個以上ずつ、前記保持器の径方向に関して直列に配置することができる。
【0019】
あるいは、前記吐出口を、前記ポケットの1対の円周方向側面のうち、前記回転方向に関する前方側の側面に開口させることもできる。この場合も、前記ポケットのそれぞれの内側に、前記ローラを、2個以上ずつ、前記保持器の径方向に関して直列に配置し、かつ、前記吐出口を、前記ポケットのそれぞれの内側に保持された前記2個以上のローラのうち、少なくとも、前記保持器の径方向に関して最も内側に配置されたローラの転動面に対し、前記保持器の円周方向に対向させることができる。さらに、前記吐出口を2個以上設けて、前記保持器の径方向に関して最も内側に配置されたローラを含む、少なくとも2個のローラの転動面に対し、前記保持器の円周方向に対向させることもできる。
【0020】
前記保持器の回転速度に応じて、前記吐出口から吐き出す潤滑油の吐出速度を変化させることができる。具体的には、前記回転速度が速くなるにつれて、前記吐出速度を速くし、前記回転速度が遅くなるにつれて、前記吐出速度を遅くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のトロイダル無段変速機用押圧装置によれば、ポケットの内側のローラに潤滑油を十分に供給しやすくでき、かつ、ローラの転動面と、第一のカム面および第二のカム面とに、フレッチング摩耗が発生することを抑制できる。
【0022】
すなわち、本発明の押圧装置では、保持器に設けた通油路の吐出口から、ローラを転動自在に保持するポケットの中心軸よりも前記保持器の回転方向に関して前方側に潤滑油を吐き出すことができる。このため、保持器の回転に伴い作用するコリオリ力を利用して、ポケットに保持されたローラの中心軸を円周方向に横切るように潤滑油を移動させることができる。このため、ポケットの内側に保持されたローラ、特に保持器の径方向に関して外側に配置されたローラに供給できる潤滑油の量を十分に多くすることができる。
【0023】
このように、本発明によれば、ポケット内のローラに潤滑油を十分に供給しやすくすることができる。この結果、ローラの転動面と、第一のカム面および第二のカム面との接触部の潤滑状態を良好にすることができ、フレッチング摩耗の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態の第1例]
図1〜
図4は、本発明の実施の形態の第1例を示している。トロイダル無段変速機1は、ダブルキャビティ型であり、1対の外側ディスク4a、4bと、内側ディスク6a、6bとを備え、これらの間にパワーローラ7が配置される2つのキャビティが形成される。1対の外側ディスク4a、4bは、入力軸2の軸方向両端部周囲に、ボールスプライン3を介して、互いに同軸にかつ同期した回転を可能に支持される。外側ディスク4a、4bは、互いに対向する軸方向内側に、断面円弧形の凹面であるトロイダル曲面を有する。ただし、本発明は、入力側ディスクと出力側ディスクとを、それぞれ1個ずつ備える、いわゆるシングルキャビティ型のトロイダル無段変速機用の押圧装置に適用することもできる。
【0026】
入力軸2の軸方向中間部周囲には、歯車5が、入力軸2に対する相対回転を可能に支持されている。歯車5の中心部に設けられた円筒部の両端部に、内側ディスク6a、6bがスプライン係合により歯車5と同期した回転を可能に支持されている。内側ディスク6a、6bは、外側ディスク4a、4bと軸方向に対向する軸方向外側に、断面円弧形の凹面であるトロイダル曲面を有する。
【0027】
外側ディスク4a、4bの軸方向内側のトロイダル曲面と、内側ディスク6a、6bの軸方向外側のトロイダル曲面との間には、それぞれ複数個ずつのパワーローラ7が挟持される。パワーローラ7はそれぞれ、トラニオン8の内側面に、支持軸9および複数の転がり軸受を介して回転自在に支持されている。トラニオン8はそれぞれ、長さ方向(
図1の表裏方向)両端部に設けられた、図示しない枢軸を中心とする揺動変位が可能である。トラニオン8を揺動させる動作は、図示しないアクチュエータにより、トラニオン8を枢軸の軸方向に変位させることにより行われる。
【0028】
トロイダル無段変速機1の運転時には、動力源に繋がる駆動軸10により、ローディングカム式の押圧装置11を介して、外側ディスク4a、4bのうちの一方(
図1の左側)の外側ディスク4aを回転駆動することにより、入力軸2を回転駆動する。本例では、1対の外側ディスク4a、4bが動力を入力する入力側ディスクに相当し、内側ディスク6a、6bが動力を出力する出力側ディスクに相当する。ただし、本発明は、内側ディスク6a、6bを入力側ディスクとし、1対の外側ディスク4a、4bを出力側ディスクとする構造に適用することもできる。
【0029】
押圧装置11は、カム板12と、1対の外側ディスク4a、4bのうちの外側ディスク4aと、複数個のローラ13と、保持器14とにより構成される。
【0030】
カム板12は、断面クランク形で、全体を円輪状に構成されており、入力軸2の基端部(
図1の左端部)の周囲に支持されている。カム板12は、径方向外側部に設けられた円輪部15と、径方向内側部に設けられた円筒部16とを備える。円輪部15は、軸方向片側、すなわち軸方向内側面(
図1および
図2の右側面)に、第一のカム面に相当する、円周方向に関する凹凸である駆動側カム面17を有し、かつ、軸方向他側、すなわち軸方向外側面(
図1および
図2の左側面)の径方向内側部に、軸方向に突出する複数の突片18を有する。突片18は、駆動軸10の先端部に係合して、駆動軸10の回転をカム板12に伝達することを可能としている。
【0031】
円筒部16は、内周面に、アンギュラ型の外輪軌道19を有する。外輪軌道19と、入力軸2の基端部外周面に形成されたアンギュラ型の内輪軌道21と、外輪軌道19と内輪軌道21との間に転動自在に配置された複数個の玉22とにより、アンギュラ型の玉軸受20が構成される。アンギュラ型の玉軸受20により、カム板12が、入力軸2の基端部に回転自在に支持され、かつ、カム板12に作用するスラスト荷重が入力軸2により支承可能となっている。円筒部16は、円周方向複数箇所に、直径方向に貫通する状態で、潤滑油(トラクションオイル)を通過させるための油孔23を有する。油孔23は、たとえば円筒部16の円周方向等間隔の4箇所に設けることができる。油孔23は、入力軸2の内部を通じて玉軸受20に供給された潤滑油を、保持器14の内径側へと供給する。
【0032】
外側ディスク4aは、入力軸2の基端寄り部分の周囲に、ボールスプライン3を介して、入力軸2と同期した回転を可能に、かつ、入力軸2に対する軸方向の変位を可能に支持されている。外側ディスク4aは、上述のように、軸方向片側である軸方向内側に前記トロイダル曲面を有し、軸方向他側、すなわち駆動側カム面17と対向する軸方向外側面(背面、
図1および
図2の左側面)に、第二のカム面に相当し、かつ、円周方向に関する凹凸である被駆動側カム面24を有する。
【0033】
保持器14は、全体として円輪板状であり、駆動側カム面17と被駆動側カム面24との間に配置されている。保持器14は、径方向中間部の円周方向等間隔の4箇所に、それぞれの中心軸が保持器14の放射方向に沿い、かつ、軸方向から見た開口部の形状が矩形状のポケット25を有する。ただし、ポケット25の数は任意であり、ポケット25を、保持器14の円周方向の2箇所以上に設けることができる。好ましくは、ポケット25は、保持器14の径方向中間部の円周方向等間隔の3箇所〜5箇所に設けられる。
【0034】
保持器14は、内周縁部および外周縁部に、軸方向に関して互いに逆向きに突出した突出部26a、26bを有する。突出部26aを駆動側カム面17に、突出部26bを被駆動側カム面24に、それぞれ係合させることにより、保持器14の軸方向に関する位置決めが図られている。保持器14の内周面を、カム板12を構成する円筒部16の外周面に近接対向させる、すなわち、保持器14の内周面を円筒部16の外周面に隙間嵌で外嵌することにより、保持器14の径方向に関する位置決めが図られている。
【0035】
複数個のローラ13は、それぞれが直径寸法に比べて軸方向寸法の短い短円柱状に構成されている。本例では、ローラ13は、3個ずつ、それぞれの中心軸が一致するように、保持器14の径方向に関して直列に配置された状態で、保持器14の円周方向等間隔4箇所に形成されたポケット25のそれぞれの内側に転動自在に保持されている。ポケット25の内側に配置されたローラ13の中心軸は、放射方向に沿い、かつ、ポケット25の中心軸と実質的に平行であり、好ましくは実質的に一致する。保持器14に保持されたローラ13は、それぞれの転動面を、駆動側カム面17および被駆動側カム面24に転がり接触させた状態で、駆動側カム面17と被駆動側カム面24との間に挟持される。
【0036】
ただし、それぞれのポケット25に配置されるローラ13の数は任意であり、ポケット25のそれぞれの内側に、ローラ13を1個ずつ、その中心軸が、放射方向に沿い、かつ、ポケット25の中心軸と実質的に平行ないしは一致させるように配置することもできる。あるいは、ローラ13を、ポケット25のそれぞれの内側に、2個以上(2個〜4個)ずつ、保持器14の径方向に関して径方向に直列に配置することもできる。本例のように、ポケット25のそれぞれの内側にローラ13を2個以上備えることにより、これらのローラ13が、それぞれ独立して回転できるため、駆動側カム面17および被駆動側カム面24の内径側と外径側との速度差を吸収することが可能となる。
【0037】
本例では、ローラ13の転動面と、駆動側カム面17および被駆動側カム面24との接触部に潤滑油を十分に供給するために、保持器14は、保油凹部27と、複数の通油路28とを有する。
【0038】
保油凹部27は、カム板12の円筒部16の外周面に開口した油孔23と径方向に対向するように、保持器14の内周面に全周にわたり形成されている。すなわち、油孔23の
下流側端部である径方向
外側開口部は、保油凹部27の底部に開口している。保油凹部27は、ローラ13の駆動側カム面17および被駆動側カム面24への乗り上げ位置にかかわらず、油孔23の径方向
外側開口部と常に径方向に対向できる幅寸法を有する。
【0039】
通油路28は、保持器14の径方向内側部のうち、保油凹部27が形成された部分よりも径方向外側に位置する部分の内部に形成された通孔により構成される。通油路28は、下流側である径方向外側に向かうほど、トロイダル無段変速機1の運転時の保持器14の回転方向に関して前方側に向かう方向(
図3および
図4中の矢印X方向)に傾斜している。通油路28は、それぞれの上流側端部である径方向内側開口部を保油凹部27の底部に開口させ、かつ、それぞれの下流側端部である吐出口29を、ポケット25の径方向内側面の円周方向中央部に開口させている。このため、吐出口29の中心軸(通油路28の中心軸)O
29は、それぞれが放射方向に配置されたポケット25の中心軸Cに対し、保持器14の回転方向に関して前方側に傾斜している。なお、ポケット25の中心軸Cに対する吐出口29の中心軸O
29の傾斜角度は、2度以上60度以下とすることが好ましく、2度以上30度以下とすることがさらに好ましい。図示の例では、この傾斜角度を約60度としている。
【0040】
なお、本例では、通油路28は、保持器14の内部に形成されているが、保油凹部27とポケット25とを連通している限り、代替的に、保持器14の軸方向両側面のうちの一方、あるいは、その両方の表面に、凹溝を形成することにより構成することもできる。
【0041】
トロイダル無段変速機1の運転時に、駆動軸10によりカム板12を回転駆動することにより、ローラ13が、駆動側カム面17と被駆動側カム面24との間で強く挟持されると、カム板12の回転が、ローラ13を介して外側ディスク4aに伝達される。この結果、入力軸2の軸方向両端部に支持された1対の外側ディスク4a、4bが、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転し、さらに、外側ディスク4a、4bの回転は、パワーローラ7を介して内側ディスク6a、6bに伝わり、歯車5から取り出される。
【0042】
本例では、ポケット25の内側の全てのローラ13に潤滑油を十分に供給することが可能になり、ローラ13の転動面と駆動側カム面17および被駆動側カム面4に、フレッチング摩耗が発生することを抑制できる。
【0043】
すなわち、カム板12の油孔23を通じて保油凹部27内に供給された潤滑油は、通油路28を径方向外方に向かって流れた後、ポケット25の径方向内側面の円周方向中央部に開口した吐出口29から吐き出される。本例では、吐出口29の中心軸O
29を、それぞれが放射方向に配置されたポケット25の中心軸Cに対し、保持器14の回転方向に関して前方側に傾斜させているため、潤滑油を、ポケット25の中心軸Cよりも保持器14の回転方向に関して前方側に吐き出すことができる。このため、
図4中に矢印A
1で表した潤滑油の移動軌跡のように、保持器14の回転に伴い作用するコリオリ力を利用して、潤滑油の移動方向を、ポケット25の中心軸Cに近づく方向へと次第に変化させ、ポケット25の内側のローラ13のうち、径方向内側のローラ13と径方向中間のローラ13との間位置にて、ポケット25の中心軸Cを横切るように潤滑油を移動させることができる。これにより、潤滑油がポケット25の内側を径方向に通過する際に、ポケット25の内側の全てのローラ13を通過するように潤滑油を移動させることができる。
【0044】
したがって、たとえば
図11に示した従来の構造のように、ポケット25zの径方向内側面の円周方向中央部に開口した吐出口29zから、ポケット25zの中心軸C
zの方向と一致する放射方向に潤滑油を供給することで、潤滑油が吐出直後からポケット25zの中心軸C
zから離れる方向に移動してしまう場合に比べて、ポケット25の内側のローラ13、特に径方向中間のローラ13および径方向外側のローラ13に供給できる潤滑油の量をより多くすることができる。このように、本例のトロイダル無段変速機1によれば、ポケット25の内側の全てのローラ13に潤滑油を十分に供給しやすくすることができ、かつ、ローラ13の転動面と、駆動側カム面17および被駆動側カム面24との接触部の潤滑状態を良好にすることができて、フレッチング摩耗の発生を抑制することができる。
【0045】
[実施の形態の第2例]
図5は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例では、保持器14aの径方向内側部に設けられた通油路28aの下流側端部である吐出口29aの開口位置、および、ポケット25の中心軸Cに対する吐出口29aの傾斜態様が、実施の形態の第1例の保持器14と異なる。
【0046】
すなわち、吐出口29aは、ポケット25の径方向内側面のうち、保持器14aの回転方向に関する前端部に開口している。このため、ポケット25の中心軸Cと、ポケット25の内側のローラ13の中心軸とを一致させた状態では、吐出口29aが、ローラ13から円周方向に外れた位置、すなわち、ローラ13の軸方向端面と対向しない位置に存在している。吐出口29aの中心軸(通油路28aの中心軸)O
29aは、ポケット25の中心軸Cに対して傾斜せず、ポケット25の中心軸Cと平行に配置されている。
【0047】
本例では、潤滑油がポケット25の内側を径方向に通過する際に、
図5中に矢印A
2で表した潤滑油の移動軌跡のように、ポケット25の内側に配置されたローラ13のうち、径方向外側のローラ13の軸方向中間位置にて、ポケット25の中心軸Cを横切るように、潤滑油を移動させることができる。したがって、ポケット25の内側の全てのローラ13を通過するように潤滑油を移動させることができる。その他の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0048】
[実施の形態の第3例]
図6は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例では、ポケット25の内側に、保持器14bの径方向に関して直列に配置されたローラ13の数を、2個としている。また、本例の保持器14bでは、実施の形態の第1例の保持器14における通油路28の吐出口29の傾斜態様と、実施の形態の第2例の保持器14aにおける通油路28aの吐出口29aの開口位置とを組み合わせた構成が採用されている。
【0049】
すなわち、保持器14bの径方向内側部に設けられた通油路28bの吐出口29bは、ポケット25の径方向内側面のうち、保持器14bの回転方向に関する前側部に開口する。また、吐出口29bの中心軸O
29bは、ポケット25の中心軸Cに対し、保持器14bの回転方向に関して前方側に傾斜(図示の例ではおよそ10度傾斜)している。
【0050】
本例では、
図6中に矢印A
3で表した潤滑油の移動軌跡のように、ポケット25の内側に配置されたローラ13のうち、径方向外側のローラ13の軸方向中間位置にて、ポケット25の中心軸Cを横切るように潤滑油を移動させることができる。このため、それぞれのポケット25の内側の全てのローラ13を通過するように潤滑油を移動させることができる。その他の構成および作用効果は、実施の形態の第1例および第2例と同様である。
【0051】
[実施の形態の第4例]
図7および
図8は、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例では、保持器14cの保油凹部27aおよび通油路28c(吐出口29c)の構成が、実施の形態の第1例〜第3例と異なっている。
【0052】
本例では、保油凹部27aは、保持器14cの内周面に、円周方向に等間隔に離隔するように複数形成されている。より具体的には、保持器14cの内周面のうち、円周方向に関する位相がポケット25から保持器14cの回転方向前側に僅かにずれたそれぞれの位置に、保油凹部27aが形成されている。
【0053】
保油凹部27aの底面に上流側端部が開口した1対の通油路28cが、保持器14cの回転方向に関してポケット25よりも前方側に形成されている。1対の通油路28cは、保持器14cの軸方向に離隔するように形成されており、ポケット25の中心軸Cと略平行に配置されている。通油路28cのうち、保持器14cの径方向に関してポケット25の内側に配置されたローラ13とそれぞれ整合する部分には、円周方向に分岐した内径側分岐孔30a、中間分岐孔30bおよび外径側分岐孔30cが設けられている。内径側分岐孔30a、中間分岐孔30bおよび外径側分岐孔30cの開口部は、それぞれ吐出口29cとして機能する。このため、吐出口29cはそれぞれ、保持器14cの回転方向に関して前方側に位置するポケット25の円周方向側面に開口しており、径方向内側のローラ13、径方向中間のローラ13および径方向外側のローラ13のそれぞれの転動面に対し、保持器14cの円周方向に対向している。なお、本例の保持器14cは、射出成形により通油路28cを構成する溝あるいは空隙が形成された複数の板部材を重ね合わせることにより、形成することができる。あるいは、通油路28cは、保持器14cを径方向に貫通する貫通孔を形成した後、貫通孔の径方向外端部を、たとえば栓などにより塞ぐことにより、形成することもできる。
【0054】
本例では、吐出口29cが、ポケット25のそれぞれの内側に配置されたローラ13と同数設けられている。すなわち、ローラ13ごとに専用の吐出口29cが設けられている。このため、ローラ13の転動面と、駆動側カム面17および被駆動側カム面24との接触部に潤滑油を十分に供給することができる。ただし、本発明では、吐出口29cを、ポケット25のそれぞれの内側に配置されたローラ13のうち、少なくとも、保持器14cの径方向に関して最も内側に配置されたローラ13の転動面に対して、保持器14cの円周方向に対向させることもできる。また、本例では、1対の通油路28cを、保持器14cの軸方向に離隔するように形成しているが、通油路28cの数は1個でもよく、保持器14cの軸方向の幅に余裕がある限り、3個以上の通油路28cを設けることも可能であり、これらの態様も本発明の範囲内にある。その他の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0055】
[実施の形態の第5例]
図9および
図10は、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例では、保持器の回転数(回転速度)に応じて、潤滑油の移動軌跡に影響を与えるコリオリ力および遠心力が変化する点に着目し、保持器の回転数を考慮に入れて、吐出口の最適な傾斜角度、および、潤滑油の最適な吐出速度を決定する方法について説明する。
【0056】
使用時に回転する保持器に設けられた吐出口から吐き出される潤滑油の運動方程式は、
図9に示した二次元極座標を利用して求めると、次の(1)式および(2)式で表される。
【0057】
m(d
2x/dt
2)=mxω
2+2mω(dy/dt)・・・(1)
m(d
2y/dt
2)=myω
2−2mω(dx/dt)・・・(2)
【0058】
なお、
図9、(1)式および(2)式、後述する(3)式および(4)式における記号の意味は下記の通りである。
【0059】
t : 時刻
x : 吐出口の時刻tに於けるx軸方向の位置座標
y : 吐出口の時刻tに於けるy軸方向の位置座標
x
0 : 吐出口のx軸方向の初期位置座標
y
0 : 吐出口のy軸方向の初期位置座標
ν
0 : 潤滑油の吐出速度
θ
0 : 吐出口の中心軸の傾斜角度{x軸(ポケット中心軸)とのなす角度}
m : 潤滑油の質量
ω : 保持器(ディスク)の回転速度(角速度)
【0060】
さらに、運動方程式である上記(1)式および(2)式から解を求めると、潤滑油の移動軌跡は、次の(3)式および(4)式で表される。
【0061】
x(t)={(ν
0cosθ
0−y
0ω)t+x
0}cosωt+{(ν
0sinθ
0+x
0ω)t+y
0}sinωt・・・(3)
y(t)=−{(ν
0cosθ
0−y
0ω)t+x
0}sinωt+{(ν
0sinθ
0+x
0ω)t+y
0}cosωt・・・(4)
【0062】
得られた上記(3)式および(4)式を利用して、潤滑油の移動軌跡をシミュレーションにより求めるべく、保持器の回転速度ωとして、一般的なトロイダル無段変速機の通常運転時における保持器の回転速度を採用し、かつ、吐出口のx軸方向の初期位置座標x
0、および、吐出口のy軸方向の初期位置座標y
0を、一般的なトロイダル無段変速機に組み込まれる保持器の寸法を基準に設定した。潤滑油の吐出速度ν
0および吐出口の中心軸の傾斜角度θ
0をそれぞれ変化させた場合の潤滑油の移動軌跡をそれぞれシミュレーションにより求めた。本例では、ν
0を10(m/s)に設定し、かつ、θ
0を10(deg)に設定したケース1と、ν
0を10(m/s)に設定し、かつ、θ
0を30(deg)に設定したケース2と、ν
0を20(m/s)に設定し、かつ、θ
0を30(deg)に設定したケース3と、ν
0を20(m/s)に設定し、かつ、θ
0を60(deg)に設定したケース4とについて、それぞれ移動軌跡を求めた。
【0063】
ケース1〜ケース4についてのシミュレーション結果を示した
図10によれば、ケース1では、潤滑油の吐出速度が低く、かつ、吐出口の傾斜角度が小さいため、また、ケース2では、潤滑油の吐出速度が低いため、吐出後すぐに移動方向が回転方向後方へと変化してしまう。このため、ケース1に比べて潤滑油の移動軌跡が径方向外側を通過するケース2でも、ケース2の潤滑範囲を1点鎖線αで示したように、保持器の径方向に関して最も外側に配置されたローラRが潤滑範囲から外れてしまう。したがって、ケース1およびケース2のいずれの場合にも、潤滑油の移動軌跡がポケットの内側の全てのローラを十分に潤滑できる軌跡とはなっていない。これに対し、ケース3およびケース4では、潤滑油の吐出速度が高く、かつ、吐出口の傾斜角度が大きいため、吐出後しばらくしてから移動方向が回転方向後方へと変化する。このため、ケース3およびケース4のいずれの場合にも、ケース1およびケース2に比べて、潤滑油の移動軌跡が径方向外側を通過し、保持器の径方向に関して最も外側に配置されたローラRを通過している。したがって、ケース3およびケース4のいずれの場合にも、潤滑油の移動軌跡がポケットの内側の全てのローラを潤滑できる軌跡となっている。特に、ケース4では、潤滑油の移動軌跡がローラRの端面を通過しないため、潤滑範囲は、実線βで示したように、ポケットの径方向内端部から径方向外端部にわたる広範囲となる。
【0064】
以上のように、(3)式および(4)式を利用することで、保持器の回転数に応じた、吐出口の最適な傾斜角度および潤滑油の最適な吐出速度を決定することができる。さらに、保持器の回転数に応じて吐出速度をアクティブに制御することもできる。具体的には、保持器の回転速度が速くなるにつれて、前記吐出速度を速くする制御を行い、保持器の回転速度が遅くなるにつれて、前記吐出速度を遅くする制御を行えば、回転数に応じた必要十分な量の潤滑油を供給することが可能になり、潤滑油を過剰に供給することによる撹拌抵抗(流体抵抗)の発生を抑制することもできる。