特許第6774571号(P6774571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774571
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】複合材成形治具及び複合材成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20201019BHJP
   B29C 70/44 20060101ALI20201019BHJP
   B29C 43/56 20060101ALI20201019BHJP
   B29C 39/42 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   B29C70/54
   B29C70/44
   B29C43/56
   B29C39/42
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-532368(P2019-532368)
(86)(22)【出願日】2018年4月2日
(86)【国際出願番号】JP2018014177
(87)【国際公開番号】WO2019021537
(87)【国際公開日】20190131
【審査請求日】2019年10月29日
(31)【優先権主張番号】特願2017-143970(P2017-143970)
(32)【優先日】2017年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】長田 保
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−235635(JP,A)
【文献】 特開2015−142993(JP,A)
【文献】 特開2011−098527(JP,A)
【文献】 特開平04−223140(JP,A)
【文献】 特表2009−542460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00 − 70/88
B29C 39/00 − 39/44
B29C 43/00 − 43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空気を導いて使用される複合材成形治具であって、
可撓性を有する筒状体と、
前記筒状体の強度を部分的に補強する複数の剛体の板状体と、
有し、
前記複数の板状体は、
横断面がハット型の長尺構造物をパネル上に形成した硬化中における複合材構造体を、前記長尺構造物の内側から支持できるように、前記長尺構造物のキャップを内側から支持する前記筒状体の部分における強度を補強する第1の板状体と、
前記長尺構造物の2箇所のウェブを内側からそれぞれ支持する前記筒状体の部分における強度をそれぞれ補強する2枚の第2の板状体と
を少なくとも有する複合材成形治具。
【請求項2】
前記筒状体の横断面上における前記筒状体の部分的な変形が可能となる一方、前記筒状体の長さ方向に平行な平面上における前記筒状体の変形が抑止されるように前記筒状体の長さ方向に垂直な方向に複数の板状体を隙間をあけて配置した請求項1記載の複合材成形治具。
【請求項3】
前記パネル側には、前記板状体を設けない請求項1又は2記載の複合材成形治具。
【請求項4】
前記パネル側に、複数枚の板状体を互いに重ならないように配置した請求項1又は2記載の複合材成形治具。
【請求項5】
前記板状体の一部を前記筒状体に埋め込んだ請求項1乃至のいずれか1項に記載の複合材成形治具。
【請求項6】
前記板状体を前記筒状体の内面に貼り付けた請求項1乃至のいずれか1項に記載の複合材成形治具。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の複合材成形治具を用いて複合材構造体を製作する複合材成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複合材成形治具及び複合材成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機構造体を始めとする構造体の素材として、繊維で樹脂を強化したガラス繊維強化プラスチック(GFRP: Glass fiber reinforced plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の複合材が用いられている。
【0003】
複合材の成形方法としては、シート状の繊維に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを積層し、プリプレグの積層体を成形後の形状に整えた後、真空引きを行って加熱硬化する方法と、成形後の複合材の形状に合わせてシート状の繊維を積層した後に真空引きを行って熱硬化性樹脂を含浸させて加熱硬化するRTM(Resin Transfer Molding)法が知られている。プリプレグは、オーブンやオートクレーブ装置で加熱硬化される。尚、プリプレグの形状を整える作業は、加熱硬化による複合材の成形と区別するために、賦形と呼ばれる。
【0004】
プリプレグや繊維を積層して賦形を行うための治具としては、剛体の成形型やプラダバッグ等の様々な治具が考案されている。具体例として、外板(パネル)に桁(スパー)を取付けた航空機の翼構造体において桁のウェブを成形するための治具として、GFRPのプレートをシリコンゴムシートで連結することによって真空引きを可能にした形状保持具が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、真空引きを行うための真空バッグとして、繰返し使用できるように柔軟性のあるダイヤフラム内に剛体のフレームを封入したものが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
他方、航空機の部品等として使用される複合材のフレームを成形する方法として、金属製の外型、合成樹脂製又はゴム製の内型並びにゴム等の可撓性を有する合成樹脂で形成された管状の中子を使用し、RTM法によってフレームを成形する方法も提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
航空機の翼構造体や胴体構造体には、長尺構造を有する補強部材をパネルに取付けた複合材構造体が採用される。パネルの補強部材としては、スパーの他、小骨(リブ)や縦通材(ストリンガ)が挙げられる。パネルに補強部材を取付けた複合材構造体は、部品の組立作業に伴う製造コスト及び製造時間の増加を抑制することを目的として、近年では部品ごとに加熱硬化せずに、コキュア成形によって製造される。コキュア成形は、補強部材とパネルを同時に加熱硬化する成形法である。
【0007】
コキュア成形によって補強部材をパネルに取付けた複合材構造体を成形する場合には、補強部材用のプリプレグの積層体及びパネル用のプリプレグの積層体がそれぞれ製作され、プリプレグの積層体を組立てた後、加熱硬化することによって複合材構造体が製造される。或いは、パネルに補強部材を形成した一体型のプリプレグの積層体を製作して加熱硬化する場合もある。
【0008】
パネルに取付けられる補強部材の横断面がハット型である場合には、複合材構造体が中空構造となる。このため、未硬化の樹脂を含浸した繊維を、中空構造に賦形することが必要となる。そこで、未硬化の樹脂を含浸した繊維を中空構造に賦形した後、真空引きを行って加熱硬化するための様々な成形治具が用いられている。
【0009】
横断面がハット型の補強部材をパネルに取付けた航空機用の複合材構造体を成形するための従来の方法は、補強部材が設けられない側のパネルの表面、すなわちパネルのOML(outer mold line)側に剛体の型を設置する一方、補強部材が設けられる側のパネルの表面、すなわちパネルのIML(inner mold line)側をバギングして大気圧を負荷するOML治具方式と、逆に、パネルのIML側に剛体の型を設置する一方、パネルのOML側をバギングして大気圧を負荷するIML治具方式に大別される。
【0010】
IML治具方式で中空構造を有する複合材構造体を成形する方法の具体例としては、パネル用の樹脂と、補強部材用の樹脂との間、すなわち補強部材の内側にブラダバッグを配置する方法が知られている(例えば特許文献4参照)。ブラダバッグは、エラストマで構成されるバッグであり、空気を注入して使用されるインフレータブルマンドレルの1つである。IML治具方式においても、精度を維持するためにパネルのOML側に剛体のプレートを設置した上でバギングを行うことが必要となる。
【0011】
一方、OML治具方式で中空構造を有する複合材構造体を成形する方法の具体例としては、パネル用の樹脂と、補強部材用の樹脂との間、すなわち補強部材の内側に中実のマンドレルを中子治具として設置する方法が挙げられる(例えば特許文献5参照)。また、OML治具方式において、補強部材の内側に熱硬化性樹脂で構成される中空のインナー部材を配置し、加熱硬化によってインナー部材を補強部材と一体化する方法が提案されている(例えば特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−268911号公報
【特許文献2】特開2013−078937号公報
【特許文献3】特開2001−150465号公報
【特許文献4】特開2011−062846号公報
【特許文献5】特表2010−510111号公報
【特許文献6】特開2003−039566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、IML治具方式の場合には、補強部材の形状に合わせた成形型が必要となる。このため、複雑な構造を有する成形型を製作することが必要になるという課題がある。また、パネル用のプリプレグがブラダバッグの上に積層されることになる。このため、パネルを平坦に保つことが困難となる恐れがある。換言すれば、パネル用のプリプレグの積層体を支持できるようにブラダバッグの弾性及び強度を設計することが必要となる。加えて、上下の剛体の成形型で未硬化の樹脂を挟むことになるため、大気圧を負荷したとしても圧力が不均一になるという問題がある。
【0014】
一方、補強部材の内側にマンドレルを中子治具として設置するOML治具方式の場合には、複合材の硬化後において剛体のマンドレルを引き抜くことが必要となる。このため、複合材の形状が、マンドレルを引き抜くことが可能な形状に限定される。加えて、マンドレルの重量も、引き抜くことが可能な重量に制限されることになる。特に、重量が大きなマンドレルを設置した場合には、マンドレルの引き抜き作業に時間と労力を要する。
【0015】
他方、補強部材の内側に中空のインナー部材を配置して補強部材と一体化するOML治具方式の場合には、補強部材の外側に剛体の成形型としてカウルプレートを設置することが必要となる。
【0016】
また、仮に、補強部材の内側に中空のインナー部材に代えてブラダバッグを配置したとしても、ブラダバッグ自体に形状を保持する機能が無いことから、複合材の加熱硬化中においてブラダバッグが理想的な形状から変形してしまう。このため、補強部材の内側にブラダバッグを配置する場合においても、補強部材の外側に剛体の成形型としてカウルプレートを設置することが必要となる。その結果、治具の構成が複雑となるのみならず、IML治具方式と同様に、上限の剛体の成形型で未硬化の樹脂を挟むことになるため、大気圧を負荷したとしても圧力が不均一になるという問題がある。
【0017】
そこで、本発明は、中空構造を有する複合材構造体を簡易に成形できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の実施形態に係る複合材成形治具は、内部に空気を導いて使用され、可撓性を有する筒状体と、前記筒状体の強度を部分的に補強する複数の剛体の板状体とを有する。前記複数の板状体は、横断面がハット型の長尺構造物をパネル上に形成した硬化中における複合材構造体を、前記長尺構造物の内側から支持できるように、前記長尺構造物のキャップを内側から支持する前記筒状体の部分における強度を補強する第1の板状体と、前記長尺構造物の2箇所のウェブを内側からそれぞれ支持する前記筒状体の部分における強度をそれぞれ補強する2枚の第2の板状体とを少なくとも有する。
【0019】
また、本発明の実施形態に係る複合材成形方法は、上述した複合材成形治具を用いて複合材構造体を製作するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る複合材成形治具である補強入りブラダバッグを含む成形治具ユニットの構造を示す横断面。
図2図1に示す補強入りブラダバッグの端部における構造を示す斜視図。
図3図1に示す補強入りブラダバッグの端部におけるシール方法を説明する縦断面図。
図4図1に示す補強入りブラダバッグを中子治具として用いることによって成形することが可能なコルゲートストリンガをパネルに取付けて構成される複合材構造体の例を示す横断面図。
図5図1に示す補強入りブラダバッグを中子治具として用いることによって成形することが可能な上側パネルと下側パネルとを複数のストリンガで連結した構造を有する複合材構造体の例を示す横断面図。
図6図1に示す成形治具ユニットを用いて複合材構造体を成形する方法の第1の例を示すフローチャート。
図7図1に示す成形治具ユニットを用いて複合材構造体を成形する方法の第2の例を示すフローチャート。
図8】中子治具としてマンドレルを使用して横断面がハット型の複合材構造体を成形する従来のOML治具方式による複合材成形方法を示す図。
図9】上下の成形型及び通常のブラダバッグを使用して横断面がハット型の複合材構造体を成形する従来のIML治具方式による複合材成形方法を示す図。
図10】上下の成形型及び通常のブラダバッグを使用して横断面がハット型の複合材構造体を成形する従来のOML治具方式による複合材成形方法を示す図。
図11】本発明の第2の実施形態に係る複合材成形治具である補強入りブラダバッグの構造を示す横断面。
図12】本発明の第3の実施形態に係る複合材成形治具である補強入りブラダバッグの構造を示す横断面。
図13】本発明の第4の実施形態に係る複合材成形治具である補強入りブラダバッグの構造を示す横断面。
【実施形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る複合材成形治具及び複合材成形方法について添付図面を参照して説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
(複合材成形治具の構成及び機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係る複合材成形治具である補強入りブラダバッグを含む成形治具ユニットの構造を示す横断面である。
【0023】
成形治具ユニット1は、2次元的な閉曲面を有する中空の複合材構造体Oを成形するための治具である。すなわち、成形治具ユニット1は、シート状の繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させた硬化前におけるプリプレグの積層、積層されたプリプレグの賦形及びプリプレグの積層体の加熱硬化を行うための治具である。
【0024】
尚、シート状の繊維を積層した後に熱硬化性樹脂を含浸させるようにしてもよい。その場合には、シート状のプリプレグに代えて、シート状の繊維が成形治具ユニット1を用いて積層される。繊維を積層した後に樹脂を含浸させる複合材の成形方法は、上述したようにRTM法と呼ばれる。RTM法のうち、真空圧で繊維に樹脂を含浸させる手法は、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)法と呼ばれる。
【0025】
また、プリプレグの積層と、RTM法を併用するハイブリッド成形法による複合材の成形用に成形治具ユニット1を用いることもできる。ハイブリッド成形法は、プリプレグの積層体の上にシート状の繊維を積層し、積層されたシート状の繊維に樹脂を含浸させた後、加熱硬化する複合材の成形法である。従って、ハイブリッド成形法による複合材の成形用に成形治具ユニット1が用いられる場合には、シート状のプリプレグ及びシート状の繊維の双方が積層されることになる。
【0026】
複合材を加熱硬化する方法としては、任意の方法を採用することができる。複合材の典型的な加熱硬化法としては、オートクレーブ成形装置内に硬化前の複合材を搬入し、真空引きを行って加圧下で加熱硬化する方法が挙げられる。一方、オートクレーブ成形装置を使用せずに複合材を成形する様々な脱オートクレーブ(OoA:Out of autoclave)成形法が知られている。具体例として、オーブンで複合材を加熱硬化する方法が知られている。従って、複合材の加熱硬化法に応じた所望の設備内に、硬化前かつ賦形後の複合材をセットした成形治具ユニット1を搬入することができる。
【0027】
複合材構造体Oを構成する素材の例としては、CFRPやGFRP等の炭素繊維やガラス繊維で樹脂を強化した複合材が代表的である。また、中空構造を有する複合材構造体Oの例としては、図1に例示されるようにパネルO1上に、横断面がハット型の長尺構造物O2を形成した複合材構造体Oが挙げられる。このような構造を有する複合材構造体Oは、主に航空機の翼構造体や胴体構造体として用いられる。横断面がハット型の長尺構造物O2の例としては、リブやストリンガ等の長尺構造を有する補強部材が挙げられる。
【0028】
成形治具ユニット1を用いると、補強部材用とパネルO1用のシート状のプリプレグ又はシート状の繊維の積層、補強部材用とパネルO1用の未硬化の樹脂の賦形並びに補強部材とパネルO1を同時に加熱硬化するコキュア成形を行うことができる。つまり、補強部材及びパネルO1を未硬化の状態で組立てた後、バギングを行って同時に加熱硬化することができる。
【0029】
そのために、成形治具ユニット1は、成形型2、補強入りブラダバッグ3及びバギングフィルム4で構成される。
【0030】
成形型2は、パネルO1のOML側を支持する剛体の型である。パネルO1のOML側の表面は平面に限らず曲率が小さな曲面であってもよい。従って、成形型2の表面は、成形後におけるパネルO1のOML側の表面とマッチする略平坦な形状を有する。成形型2は、パネルO1用のシート状のプリプレグ又は繊維の積層、パネルO1用の未硬化の樹脂のOML側における賦形並びにパネルO1の加熱硬化時におけるOML側からの形状保持を伴う支持のために用いられる。成形治具ユニット1は、パネルO1のOML側を成形型2で支持する治具ユニットであるためOML治具方式用の治具ユニットであると言うことができる。
【0031】
補強入りブラダバッグ3は、内部に空気を導いて中子治具として使用される部分的なインフレータブルマンドレルである。すなわち、補強入りブラダバッグ3は、中空構造を有する複合材構造体Oの内側に設置して使用される。従って、補強入りブラダバッグ3は、広げた状態で、中空構造を有する複合材構造体Oの内側にフィットする形状を有する。
【0032】
補強入りブラダバッグ3は、可撓性を有する筒状体5と、筒状体5の強度を部分的に補強するために筒状体5の内部に全体が埋め込まれた少なくとも1つの剛体の板状体6で構成される。図1に示す例では、3枚の板状体6が筒状体5の内部に筒状体5の長さ方向に垂直な方向に隙間をあけて異なる向きで挿入されている。
【0033】
筒状体5は、従来のブラダバッグと同じ素材で構成される。具体的には、筒状体5は、エラストマで構成することができる。エラストマは、ゴム状弾性を有する高分子材料である。一方、板状体6は、剛体として機能するように十分な機械的強度を有する金属やCFRP等の複合材で構成することができる。特に、板状体6を複合材で構成すれば、板状体6に必要な強度を確保しつつ板状体6を設けることに伴う補強入りブラダバッグ3の重量の増加を軽減することができる。内部に板状体6を埋め込んだ筒状体5は、板状体6を適切な位置に配置し、エラストマを加硫及び成型することによって製造することができる。
【0034】
筒状体5に複数の板状体6を埋め込む場合には、複数の板状体6を、筒状体5の長さ方向に垂直な方向に隙間をあけて配置することができる。これにより、筒状体5の横断面上における筒状体5の部分的な変形が可能となる一方、筒状体5の長さ方向に平行な平面上における筒状体5の変形を抑止することができる。換言すれば、筒状体5の横断面の形状を限定的に変形させる一方、筒状体5の長さ方向に平行な平面上において筒状体5に剛性を付与することができる。
【0035】
図1に示すように、横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1上に形成した複合材構造体Oが成形対象である場合には、補強入りブラダバッグ3は、横断面がハット型の長尺構造物O2の内側に配置して中子治具として使用される。このため、筒状体5の横断面の形状もハット型の長尺構造物O2の内側にフィットする形状、具体的には4つの頂点にR面取りを施した等脚台形とされる。
【0036】
横断面がハット型の長尺構造物O2は、平坦な板状のキャップO3でそれぞれ平坦な板状の2箇所のウェブO4を閉塞した構造を有する。そこで、横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1上に形成した複合材構造体Oが成形対象である場合には、硬化中における複合材構造体Oを長尺構造物O2の内側から支持できるように、図1に例示されるように第1の板状体6Aと、2枚の第2の板状体6Bとを筒状体5の内部に埋め込むことができる。
【0037】
第1の板状体6Aは、長尺構造物O2のキャップO3を内側から支持する筒状体5の部分における強度を補強するための板状体6である。一方、2枚の第2の板状体6Bは、それぞれ長尺構造物O2の2箇所のウェブO4を内側からそれぞれ支持する筒状体5の部分における強度をそれぞれ補強するための板状体6である。従って、第1の板状体6Aは、R面取りを施した等脚台形の上底に対応する位置に配置される。一方、2枚の第2の板状体6Bは、R面取りを施した等脚台形の2本の脚に対応する位置にそれぞれ配置される。
【0038】
他方、長尺構造物O2のR面取りに内側からフィットさせる筒状体5の部分と、筒状体5のパネルO1側には、板状体6が設けられない。すなわち、長尺構造物O2のR面取りを内側から支持する補強入りブラダバッグ3の部分と、補強入りブラダバッグ3のパネルO1側の部分は、板状体6で補強されずにエラストマのみで構成される。
【0039】
このため、エラストマの伸展性により補強入りブラダバッグ3の板状体6が設けられない部分を、複合材構造体Oの加熱硬化時における形状の変化に追従させることが可能である。すなわち、長尺構造物O2の加熱硬化時における変形に合わせて補強入りブラダバッグ3を変形させることができる。また、パネルO1側の部分に板状体6が挿入されないため、複合材構造体Oの加熱硬化後には、補強入りブラダバッグ3を内側に折り曲げて容易に長尺構造物O2の内側から引き抜くことが可能である。
【0040】
このような構成を有する補強入りブラダバッグ3を中子治具として用いると、長尺構造物O2の形状を、加熱硬化前後に亘って保持することができる。すなわち、剛体の成型型を用いることなく、未硬化の樹脂を含浸させた繊維を、板状体6で補強された補強入りブラダバッグ3で長尺構造物O2の形状に賦形することができる。更に、その後、賦形された未硬化の樹脂を、形状を保持しながら加熱硬化することができる。
【0041】
バギングフィルム4は、複合材構造体Oの加熱硬化前におけるバギングを行うためのフィルムである。バギングフィルム4は、シーラント7で成形型2及び補強入りブラダバッグ3の筒状体5に貼り付けられる。バギングフィルム4で覆われた領域は、真空ポンプを備えた真空装置8で減圧される。
【0042】
図2は、図1に示す補強入りブラダバッグ3の端部における構造を示す斜視図である。
【0043】
図2に示すように補強入りブラダバッグ3の長さは、長尺構造物O2の長さよりも長くなるように決定される。また、補強入りブラダバッグ3の長さは、パネルO1の縁よりも突出する長さに決定される。これは、補強入りブラダバッグ3の内部を外部に開放しつつ、未硬化の樹脂の外側においてバギングフィルム4をシーラント7で補強入りブラダバッグ3に貼り付けることができるようにするためである。
【0044】
補強入りブラダバッグ3の側面は必ずしも閉塞する必要がない。これは、複合材構造体Oの加熱硬化時において補強入りブラダバッグ3の内部に加熱用の空気を導くことが望ましいためである。加えて、補強入りブラダバッグ3の位置決め時には、補強入りブラダバッグ3の長さ方向における撓みを抑止するために、補強入りブラダバッグ3の内部に剛体の位置決め部材9を挿入することが望ましいためである。
【0045】
但し、強度を得るために補強入りブラダバッグ3の側面を閉塞し、空気を導くための貫通孔を設けるようにしてもよい。また、開閉式の蓋で補強入りブラダバッグ3の側面を閉塞するようにしてもよい。
【0046】
図3は、図1に示す補強入りブラダバッグ3の端部におけるシール方法を説明する縦断面図である。
【0047】
図3に示すように硬化前における長尺構造物O2を覆うバギングフィルム4の部分をシーラント7で補強入りブラダバッグ3に貼り付けることができる。また、硬化前におけるパネルO1を覆うバギングフィルム4の部分をシーラント7で成形型2に貼り付けることができる。更に、補強入りブラダバッグ3と成形型2との間に形成される、パネルO1の厚さに相当する隙間も、シーラント7で塞ぐことができる。
【0048】
これにより、バギングフィルム4で覆われた領域を密閉し、真空装置8で真空引きを行うことができる。すなわち、バギングフィルム4で覆われた領域から空気を排出することによって、硬化前後の樹脂に大気圧を作用させることができる。
【0049】
尚、図1は、横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1上に形成した複合材構造体Oが成形対象である場合の例を示しているが、2次元的な閉曲面で形成される中空構造を有する様々な複合材構造体を対象とする成形加工用に補強入りブラダバッグ3を用いることができる。
【0050】
図4は、図1に示す補強入りブラダバッグ3を中子治具として用いることによって成形することが可能なコルゲートストリンガO5をパネルO6に取付けて構成される複合材構造体O7の例を示す横断面図である。
【0051】
図4に示すように横断面がハット型である複数の補強部材を連結した波型構造を有するコルゲートストリンガO5をパネルO6に取付けて構成される複合材構造体O7を、複数の補強入りブラダバッグ3を用いて成形することができる。すなわち、コルゲートストリンガO5とパネルO6との間に形成される、閉曲面で囲まれた複数の空間にそれぞれ補強入りブラダバッグ3を載置した状態で複合材構造体O7を加熱硬化することができる。
【0052】
図5は、図1に示す補強入りブラダバッグ3を中子治具として用いることによって成形することが可能な上側パネルO8と下側パネルO9とを複数のストリンガO10で連結した構造を有する複合材構造体O11の例を示す横断面図である。
【0053】
図5に示すように上側パネルO8と下側パネルO9とを複数のストリンガO10で連結した構造を有する複合材構造体O11を、複数の補強入りブラダバッグ3を用いて成形することができる。すなわち、上側パネルO8、下側パネルO9及び隣接する2つのストリンガO10の間に形成される、閉曲面で囲まれた空間に補強入りブラダバッグ3を載置した状態で複合材構造体O11を加熱硬化することができる。尚、ストリンガO10の横断面の形状はI字型に限らず任意である。
【0054】
(複合材成形治具を用いた複合材成形方法)
次に補強入りブラダバッグ3を含む成形治具ユニット1を用いて2次元的な閉曲面を有する中空の複合材構造体Oを製作する複合材成形方法について説明する。
【0055】
図6は、図1に示す成形治具ユニット1を用いて複合材構造体Oを成形する方法の第1の例を示すフローチャートである。
【0056】
まずステップS1において、成形型2にパネルO1用のシート状のプリプレグP1が積層される。他方、ステップS2において、補強入りブラダバッグ3にパネルO1の補強部材である長尺構造物O2用のシート状のプリプレグP2が積層される。パネルO1用のプリプレグP1及び長尺構造物O2用のプリプレグP2は、自動積層装置によって成形型2及び補強入りブラダバッグ3上にそれぞれ積層することができる。或いは、作業者が手作業でパネルO1用のプリプレグP1及び長尺構造物O2用のプリプレグP2を積層するようにしてもよい。
【0057】
長尺構造物O2用のプリプレグP2が積層される補強入りブラダバッグ3は、板状体6で部分的に補強されている。具体的には、長尺構造物O2のキャップO3を内側から支持する筒状体5の部分における強度が第1の板状体6Aで補強されている。また、長尺構造物O2の2箇所のウェブO4を内側からそれぞれ支持する筒状体5の部分における強度が、それぞれ2枚の第2の板状体6Bで補強されている。このため、補強入りブラダバッグ3に長尺構造物O2用のプリプレグP2を積層するのみで、長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体を、長尺構造物O2の形状に合わせて賦形することができる。
【0058】
但し、後述するように、位置決め部材9等の剛体の治具を併用して長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体を賦形するようにしてもよい。
【0059】
次に、ステップS3において、積層されたパネルO1用のシート状のプリプレグP1の上に、長尺構造物O2用のシート状のプリプレグP2が積層された補強入りブラダバッグ3が載置される。
【0060】
尚、補強入りブラダバッグ3をパネルO1用のシート状のプリプレグP1の上に載置した後に、長尺構造物O2用のシート状のプリプレグP2を補強入りブラダバッグ3の上に積層するようにしてもよい。但し、パネルO1用のプリプレグP1及び長尺構造物O2用のプリプレグP2を別々に積層してから組立てるようにすれば、作業時間の短縮に繋がる。
【0061】
また、パネルO1用のプリプレグP1と、長尺構造物O2用のプリプレグP2を別々に積層する場合には、長尺構造物O2用の剛体の型の上に長尺構造物O2用のプリプレグP2を積層して賦形した後、長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体を補強入りブラダバッグ3の上に載置するようにしてもよい。換言すれば、長尺構造物O2用のプリフォーム(未硬化の複合材)を補強入りブラダバッグ3ではなく、別の剛体の治具で賦形するようにしてもよい。この場合、長尺構造物O2用のプリフォームは剛体の治具で賦形されるため、高品質なプリフォームを製作することができる。
【0062】
補強入りブラダバッグ3は長尺構造を有し、かつ可撓性を有する。このため補強入りブラダバッグ3の長さが長い場合には、板状体6で補強しても補強入りブラダバッグ3をホイスト等で搬送する際には撓みが生じる。特に、長尺構造物O2用のプリプレグP2が積層された状態の補強入りブラダバッグ3を、長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体の形状を保ちながら搬送及び位置決めすることは困難である。
【0063】
そこで、補強入りブラダバッグ3の内部に、補強入りブラダバッグ3の撓みを抑止するための剛体の位置決め部材9を挿入した状態で補強入りブラダバッグ3をシート状のプリプレグP1の上に載置することが、補強入りブラダバッグ3をより正確な位置に載置する観点から望ましい。位置決め部材9は、長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層前において予め補強入りブラダバッグ3の内部に挿入しておいても良いし、長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層後に補強入りブラダバッグ3の内部に挿入しても良い。
【0064】
長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層前に位置決め部材9を補強入りブラダバッグ3の内部に挿入しておけば、長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層時において、補強入りブラダバッグ3の剛性を一層確保することができる。すなわち、補強入りブラダバッグ3の剛性を剛体の型と同程度に保つことができる。このため、補強入りブラダバッグ3を用いて長尺構造物O2用のプリフォームを賦形する場合において、剛体の型を用いて長尺構造物O2用のプリフォームを賦形する場合と同程度の品質で、長尺構造物O2用のプリフォームを製作することが可能となる。
【0065】
位置決め部材9の形状は、補強入りブラダバッグ3の撓みを適切に抑止し、かつ補強入りブラダバッグ3から引き抜くことができるように補強入りブラダバッグ3の内側に形成される空間の形状と同様な形状とすることが適切である。従って、位置決め部材9の構造は長尺構造となり、4つの頂点にR面取りを施した等脚台形となる。また、位置決め部材9を補強入りブラダバッグ3から容易に引き抜くことができるように、位置決め部材9の外表面のサイズには、補強入りブラダバッグ3の内面のサイズに対してクリアランスを設けることが適切である。
【0066】
パネルO1用のプリプレグP1の積層体と長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体の組立が完了すると、ステップS4において、バギングが行われる。具体的には、積層されたパネルO1用のシート状のプリプレグP1及び長尺構造物O2用のシート状のプリプレグP2がバギングフィルム4で覆われる。但し、補強入りブラダバッグ3の内部が密閉されずに外部に開放されるようにパネルO1用のプリプレグP1の積層体及び長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体がバギングフィルム4で覆われる。
【0067】
そして、真空装置8が駆動し、バギングフィルム4で覆われた領域から空気が排出される。すなわち、バギングフィルム4で覆われた領域が真空装置8によって減圧される。これにより、バギングフィルム4で覆われた領域には、バギングフィルム4の外側から負荷される大気圧と、バギングフィルム4で覆われた領域内における真空圧との間における差圧が負荷される。
【0068】
この時、補強入りブラダバッグ3の内側は、バギングフィルム4で密閉されないため大気圧となる。従って、バギングフィルム4及び長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体を介して補強入りブラダバッグ3の外側から負荷される大気圧は、補強入りブラダバッグ3の内側から補強入りブラダバッグ3に負荷される大気圧と釣り合うことになる。しかも、硬化前における長尺構造物O2のキャップO3及びウェブO4にフィットする補強入りブラダバッグ3の平坦な部分は、それぞれ第1の板状体6A及び第2の板状体6Bで補強されている。その結果、バギング前後において長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体の形状を、成形後における長尺構造物O2の形状に合わせて補強入りブラダバッグ3で保持することができる。
【0069】
次に、ステップS5において、バギング後におけるパネルO1用のプリプレグP1の積層体及び長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体、すなわちシート状の繊維で強化された未硬化の熱硬化性樹脂が加熱硬化される。
【0070】
そのために、バギング後におけるパネルO1用のプリプレグP1の積層体及び長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体が、成形型2及び補強入りブラダバッグ3と共にオーブン又はオートクレーブ装置に搬入される。そして、オーブン又はオートクレーブ装置で加圧下におけるパネルO1用のプリプレグP1の積層体及び長尺構造物O2用のプリプレグP2の積層体を加熱することによって、長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oがコキュア成形される。
【0071】
複合材構造体Oの加熱硬化時には、複合材構造体Oに加熱硬化に伴う僅かな変形が生じる。これに対して、補強入りブラダバッグ3を構成する筒状体5の素材はエラストマであるため、補強入りブラダバッグ3は、第1の板状体6A及び第2の板状体6Bでそれぞれ補強されたキャップO3側及びウェブO4側における平坦な部分を除き可撓性を有する。このため、長尺構造物O2を含む複合材構造体Oが加熱硬化に起因して変形しても、補強入りブラダバッグ3を長尺構造物O2の内面側にフィットさせることができる。これにより、横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oを良好な品質で製作することができる。
【0072】
次に、ステップS6において、加熱硬化後における複合材構造体Oが、成形型2及び補強入りブラダバッグ3と共にオーブン又はオートクレーブ装置から搬出される。そして、補強入りブラダバッグ3を含む成形治具ユニット1から加熱硬化後における複合材構造体Oが取り出される。
【0073】
この複合材構造体Oの取り出し作業の一環として、加熱硬化後における複合材構造体Oから補強入りブラダバッグ3が取外される。この時、補強入りブラダバッグ3を構成する筒状体5のパネルO1側には板状体6が埋め込まれていないため、補強入りブラダバッグ3を容易に内側に変形させることができる。このため、加熱硬化後における長尺構造物O2の内側から、補強入りブラダバッグ3を容易に引き抜くことができる。尚、補強入りブラダバッグ3の撓みを抑止するための位置決め部材9については、バギング後又は加熱硬化後に補強入りブラダバッグ3から引き抜くことができる。
【0074】
図6に示す複合材成形方法はパネルO1用のプリプレグP1及び長尺構造物O2用のプリプレグP2を積層して加熱硬化することによって中空構造を有する複合材構造体Oを製作する方法であるが、VaRTM法で中空構造を有する複合材構造体Oを製作することもできる。
【0075】
図7は、図1に示す成形治具ユニット1を用いて複合材構造体Oを成形する方法の第2の例を示すフローチャートである。
【0076】
まずステップS10において、成形型2にパネルO1用のシート状の繊維F1が積層される。他方、ステップS11において、補強入りブラダバッグ3にパネルO1の補強部材である長尺構造物O2用のシート状の繊維F2が積層される。パネルO1用の繊維F1及び長尺構造物O2用の繊維F2は、自動積層装置によって成形型2及び補強入りブラダバッグ3上にそれぞれ積層することができる。或いは、作業者が手作業でパネルO1用の繊維F1及び長尺構造物O2用の繊維F2を積層するようにしてもよい。尚、シート状の繊維F2間には粘着力が無いため必要に応じてバインダで貼り付けることができる。
【0077】
次に、ステップS12において、積層されたパネルO1用のシート状の繊維F1の上に、長尺構造物O2用のシート状の繊維F2が積層された補強入りブラダバッグ3が載置される。
【0078】
尚、補強入りブラダバッグ3をパネルO1用のシート状の繊維F1の上に載置した後に、長尺構造物O2用のシート状の繊維F2を補強入りブラダバッグ3の上に積層するようにしてもよい。但し、パネルO1用の繊維F1及び長尺構造物O2用の繊維F2を別々に積層してから組立てるようにすれば、作業時間の短縮に繋がる。
【0079】
VaRTM法で複合材構造体Oを製作する場合においても、補強入りブラダバッグ3の内部に、補強入りブラダバッグ3の撓みを抑止するための剛体の位置決め部材9を挿入した状態で補強入りブラダバッグ3をシート状の繊維の上に載置することが、補強入りブラダバッグ3をより正確な位置に載置する観点から望ましい。
【0080】
次に、ステップS13において、バギングが行われる。具体的には、積層されたパネルO1用のシート状の繊維F1及び長尺構造物O2用のシート状の繊維F2がバギングフィルム4で覆われる。但し、補強入りブラダバッグ3の内部が密閉されずに外部に開放されるようにパネルO1用の繊維F1の積層体及び長尺構造物O2用の繊維F2の積層体がバギングフィルム4で覆われる。
【0081】
そして、真空装置8が駆動し、バギングフィルム4で覆われた領域から空気が排出される。すなわち、バギングフィルム4で覆われた領域が真空装置8によって減圧される。これにより、バギングフィルム4で覆われた領域には、バギングフィルム4の外側から負荷される大気圧と、バギングフィルム4で覆われた領域内における真空圧との間における差圧が負荷される。
【0082】
次に、ステップS14において、バギングフィルム4で覆われた領域に未硬化の熱硬化性樹脂が注入される。すなわち、樹脂貯留槽10から未硬化の熱硬化性樹脂がバギングフィルム4で覆われた領域内に供給される。これにより、パネルO1用の繊維F1及び長尺構造物O2用の繊維F2に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させることができる。
【0083】
未硬化の熱硬化性樹脂は、パネルO1用の繊維F1が積層された位置に限らず、長尺構造物O2用のシート状の繊維F2が積層された位置から注入することもできる。そうすると、未硬化の樹脂を速やかに長尺構造物O2用のシート状の繊維F2に含浸させることができる。その結果、樹脂の含浸に要する時間を短縮することができる。
【0084】
VaRTM法で複合材構造体Oを製作する場合において、少なくとも長尺構造物O2用のシート状の繊維F2が積層された位置から未硬化の樹脂を供給する場合には、長尺構造物O2用の繊維F2の積層体を覆うバギングフィルム4の部分に樹脂の供給口4Aが設けられる。尚、図7は、パネルO1用の繊維F1が積層された位置と、長尺構造物O2用の繊維F2が積層された位置の双方から繊維を供給する場合の例を示している。
【0085】
樹脂の注入前後に亘って、補強入りブラダバッグ3の内側は、バギングフィルム4で密閉されないため大気圧となる。従って、バギングフィルム4及び長尺構造物O2用の樹脂を含浸させた繊維F2の積層体を介して補強入りブラダバッグ3の外側から負荷される大気圧は、補強入りブラダバッグ3の内側から補強入りブラダバッグ3に負荷される大気圧と釣り合うことになる。しかも、硬化前における長尺構造物O2のキャップO3及びウェブO4にフィットする補強入りブラダバッグ3の平坦な部分は、それぞれ第1の板状体6A及び第2の板状体6Bで補強されている。
【0086】
その結果、樹脂の注入後において、長尺構造物O2用の樹脂を含浸させた繊維F2の積層体の形状を、成形後における長尺構造物O2の形状に合わせて賦形することができる。また、長尺構造物O2用の樹脂を含浸させた繊維F2の積層体の賦形後における形状を、補強入りブラダバッグ3で保持することができる。
【0087】
次に、ステップS15において、バギング及び樹脂の注入後におけるパネルO1用の樹脂を含浸させた繊維F1の積層体並びに長尺構造物O2用の樹脂を含浸させた繊維F2の積層体、すなわちシート状の繊維で強化された未硬化の熱硬化性樹脂が加熱硬化される。
【0088】
そのために、図6のステップS5と同様に、パネルO1用の樹脂を含浸させた繊維F1の積層体及び長尺構造物O2用の樹脂を含浸させた繊維F2の積層体が、成形型2及び補強入りブラダバッグ3と共にオーブン又はオートクレーブ装置に搬入される。そして、オーブン又はオートクレーブ装置で加圧下におけるパネルO1用の樹脂を含浸させた繊維F1の積層体及び長尺構造物O2用の樹脂を含浸させた繊維F2の積層体を加熱することによって、長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oがコキュア成形される。これにより、横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oを良好な品質で製作することができる。
【0089】
次に、ステップS16において、加熱硬化後における複合材構造体Oが、成形型2及び補強入りブラダバッグ3と共にオーブン又はオートクレーブ装置から搬出される。そして、補強入りブラダバッグ3を含む成形治具ユニット1から加熱硬化後における複合材構造体Oが取り出される。この際、図6のステップS6と同様に、補強入りブラダバッグ3の、板状体6で補強されていないパネルO1側を内側に変形させることによって、補強入りブラダバッグ3を長尺構造物O2の内側から容易に引き抜くことができる。
【0090】
尚、図6及び図7に示す複合材成形方法の他、上述したようにプリプレグの積層と、VaRTM法を併用するハイブリッド成形法によって横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oを製作することもできる。具体例として、パネルO1用には、プリプレグP1を積層することによって樹脂を含浸させた繊維F1の積層体を製作する一方、長尺構造物O2についてはVaRTM法で樹脂を含浸させた繊維F2の積層体を製作することができる。もちろん、横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oに限らず、所望の中空構造を有する複合材構造体を、上述した複合材成形方法で製作することが可能である。
【0091】
(効果)
以上のような複合材成形方法は、剛体の板状体6で部分的に補強された補強入りブラダバッグ3を中子治具として中空構造を有する複合材構造体を成形するようにしたものである。すなわち、補強入りブラダバッグ3は、ブラダバッグに形状保持機能を付与しつつ、成形に必要な伸展性を保持させたものである。
【0092】
このため、補強入りブラダバッグ3を用いた複合材成形方法によれば、中空構造を有する複合材構造体を成形する場合において、設計の自由度を確保しつつ、治具の構成を従来よりも簡略化することができる。
【0093】
図8は、中子治具としてマンドレルを使用して横断面がハット型の複合材構造体を成形する従来のOML治具方式による複合材成形方法を示す図である。
【0094】
横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oを製作するための従来の複合材成形方法の1つとして、図8に示すようにパネルO1のOML側を下方としてOML成形型20の上に硬化前における複合材構造体Oを載置し、かつ硬化前における長尺構造物O2の内側に中実のマンドレル21を載置する方法が挙げられる。しかしながら、中実のマンドレル21を使用する場合、複合材構造体Oの形状がマンドレル21を引き抜くことが可能な形状に限定される。しかも、マンドレル21の搬送を含む取扱に労力を要する。
【0095】
これに対して、補強入りブラダバッグ3は変形させることができるため、加熱硬化後における長尺構造物O2の内側から容易に引き抜くことができる。このため、横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oはもちろん、他の中空構造を有する複合材構造体の設計の自由度を確保することができる。しかも、補強入りブラダバッグ3は中空であるため軽量であり、搬送を含む取扱も容易である。
【0096】
図9は、上下の成形型及び通常のブラダバッグを使用して横断面がハット型の複合材構造体を成形する従来のIML治具方式による複合材成形方法を示す図である。
【0097】
横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oを製作するための従来の別の複合材成形方法の1つとして、図9に示すようにパネルO1のIML側を下方とし、硬化前における長尺構造物O2の内側に補強の無いブラダバッグ30を挿入する一方、硬化前における複合材構造体O全体をIML側成形型31と、OML側成形型32で2方向から支持する方法が挙げられる。しかしながら、IML治具方式の場合、IML側成形型31の構造が複雑になる。しかも、補強の無いブラダバッグ30で硬化前後におけるパネルO1が支持されるため、パネルO1の支持が不安定になるという欠点がある。
【0098】
これに対して、補強入りブラダバッグ3を用いたOML治具方式で、複合材構造体Oを製作すれば、複雑な構造を有する成形型が不要となる。しかも、パネルO1を剛体の成形型2で安定的に支持することができる。
【0099】
図10は、上下の成形型及び通常のブラダバッグを使用して横断面がハット型の複合材構造体を成形する従来のOML治具方式による複合材成形方法を示す図である。
【0100】
横断面がハット型の長尺構造物O2をパネルO1に取付けた複合材構造体Oを製作するための従来の更に別の複合材成形方法の1つとして、図10に示すようにパネルO1のOML側を下方とし、硬化前における長尺構造物O2の内側に補強の無いブラダバッグ40を挿入する一方、硬化前における複合材構造体O全体をカウルプレートと呼ばれるIML側成形型41と、OML側成形型42で2方向から支持する方法が挙げられる。
【0101】
これに対して、補強入りブラダバッグ3を用いたOML治具方式で複合材構造体Oを製作すれば、IML側成形型41であるカウルプレートを不要にすることができる。すなわち、カウルプレートを使用しなくても、複合材構造体Oの加熱硬化中において補強入りブラダバッグ3が円筒形状に変形したり、重力の影響でキャップO3やウェブO4が凹んだり歪んだりするといった不具合を回避することができる。
【0102】
しかも、補強入りブラダバッグ3を用いれば、従来、大気側に載置されていた治具を省略することができる。このため、治具の載置、取外し及び清掃等に要する労力及び時間を削減することができる。また、治具を含む複合材構造体Oの重量を低減することができる。このため、搬送が容易となるのみならず、加熱対象の体積を小さくすることができる。その結果、複合材構造体Oの加熱硬化に要する時間とエネルギを低減することができる。
【0103】
加えて、補強入りブラダバッグ3を用いた複合材成形方法では、上下の剛体の成形型で未硬化の樹脂を挟む従来の複合材成形方法とは異なり、大気側に剛体の成形型が設置されない。このため、加熱硬化中において複合材構造体Oに大気圧に対応する圧力を均一に負荷することができる。その結果、良好な品質で複合材構造体Oを製作することができる。
【0104】
また、大気側に剛体の成形型が設置されないため、VaRTM法で複合材構造体Oを製作する場合には、樹脂の注入位置を長尺構造物O2側に設けることができる。これにより、VaRTM法において課題となる、繊維に樹脂を含浸させるために要する時間を短縮することができる。加えて、長尺構造物O2の外側に、樹脂を効率よく含浸させるための、プラスチック等の網で構成されるResin Distribution Mediaを配置することも可能となる。
【0105】
(第2の実施形態)
図11は本発明の第2の実施形態に係る複合材成形治具である補強入りブラダバッグの構造を示す横断面である。
【0106】
図11に示された第2の実施形態における成形治具ユニット1Aでは、補強入りブラダバッグ3Aを構成する筒状体5のパネルO1側に第3の板状体6Cを埋め込んだ点が第1の実施形態における成形治具ユニット1と相違する。第2の実施形態における成形治具ユニット1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態における成形治具ユニット1と実質的に異ならないため、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0107】
図11に示すように補強入りブラダバッグ3Aを構成する筒状体5には、横断面の形状がハット型である長尺構造物O2のキャップO3側における第1の板状体6A及び長尺構造物O2のウェブO4側における2枚の第2の板状体6Bに加えてパネルO1側の第3の板状体6Cを埋め込むことができる。そうすると、補強入りブラダバッグ3AをパネルO1側においても第3の板状体6Cで補強することができる。
【0108】
更に、筒状体5のパネルO1側に第3の板状体6Cを埋め込む場合には、複数の板材に分割することが好ましいい。すなわち、筒状体5のパネルO1側に、複数枚の第3の板状体6Cを互いに重ならないように配置することが好ましい。図11に示す例では、2枚の第3の板状体6Cが隙間をあけて筒状体5のパネルO1側に埋め込まれている。
【0109】
このように分割された第3の板状体6Cで補強入りブラダバッグ3Aを補強すると、パネルO1側における補強入りブラダバッグ3Aの強度を第3の板状体6Cで部分的に補強しつつ、補強入りブラダバッグ3AをパネルO1側において容易に折り曲げることが可能となる。このため、加熱硬化後における複合材構造体Oから補強入りブラダバッグ3Aを容易に引き抜くことができる。
【0110】
これは、横断面がハット型である長尺構造物O2をパネルO1に取付けた構造を有する複合材構造体Oに限らず、他の中空構造を有する複合材構造体を製作する場合においても同様である。すなわち、厚さ方向を同じ方向に向けて並列配置された複数の板状体6で筒状体5を同一方向に補強すれば、補強入りブラダバッグ3Aの強度を部分的に補強しつつ、補強入りブラダバッグ3Aを折り曲げることによって中空構造を有する複合材構造体から容易に引き抜くことができる。
【0111】
(第3の実施形態)
図12は本発明の第3の実施形態に係る複合材成形治具である補強入りブラダバッグの構造を示す横断面である。
【0112】
図12に示された第3の実施形態における成形治具ユニット1Bでは、補強入りブラダバッグ3Bを構成する筒状体5に板状体6の一部を埋め込んだ点が第1の実施形態における成形治具ユニット1と相違する。第3の実施形態における成形治具ユニット1Bの他の構成及び作用については第1の実施形態における成形治具ユニット1と実質的に異ならないため補強入りブラダバッグ3Bのみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0113】
図12に示すように、板状体6全体を筒状体5に埋め込まずに板状体6の一部のみを筒状体5に埋め込むことによって補強入りブラダバッグ3Bを構成することもできる。そうすると、必要に応じて板状体6を交換することも可能となる。このため、例えば、板状体6が変形した場合や異なる強度を有する板状体6を使用する場合には、板状体6を容易に交換することができる。もちろん、第2の実施形態において、板状体6全体を筒状体5に埋め込む代わりに、板状体6の一部を筒状体5に埋め込むようにすることもできる。
【0114】
(第4の実施形態)
図13は本発明の第4の実施形態に係る複合材成形治具である補強入りブラダバッグの構造を示す横断面である。
【0115】
図13に示された第4の実施形態における成形治具ユニット1Cでは、補強入りブラダバッグ3Cを構成する筒状体5の内面に板状体6を貼り付けた点が第1の実施形態における成形治具ユニット1と相違する。第4の実施形態における成形治具ユニット1Cの他の構成及び作用については第1の実施形態における成形治具ユニット1と実質的に異ならないため補強入りブラダバッグ3Cのみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0116】
図13に示すように、板状体6を筒状体5に埋め込まずに、板状体6の片面を筒状体5の内面に接着剤で貼り付けることによって補強入りブラダバッグ3Cを構成することもできる。そうすると、必要に応じて板状体6を交換することができるのみならず、既存のブラダバッグに板状体6を貼り付けて補強入りブラダバッグ3Cを製作することが可能となる。このため、第3の実施形態と同様に、例えば、板状体6が変形した場合や異なる強度を有する板状体6を使用する場合には、板状体6を容易に交換又は取付けることができる。もちろん、第2の実施形態において、板状体6を筒状体5に埋め込む代わりに、板状体6の一面を筒状体5の内面に貼り付けるようにすることもできる。
【0117】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
図1
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図13