(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者が人の歩行について鋭意検討したところ、後述のように人の歩行を安定歩行と非安定歩行とに区分し、安定歩行時の計測値を抽出し、その計測値の平均値を用いる等して評価指標とすれば、短期的には値が安定した、被計測者の歩行能力を示す評価指標を得ることができる、ことを見出した。従って、その時系列的な変化に着目する等、安定歩行を評価することによって、人の老化、加齢、衰弱等身体能力の低下、或いは、体力回復、体力向上など身体能力の亢進を判別したり、判定したりできることに思い至った。
【0010】
人の日常において、人の歩行というものは、複数の態様が混在しているものである。例えば、買い物、観光、見物、探索、ジョギング等歩行の目的、あるいは、歩道の混雑、道路の横断、同伴者の存在、団体行動、悪天候等外部環境に応じて、人は、意識する、又は、意識しないに拘わらず、状況に応じて歩行を早めたり、遅くしたりする。
【0011】
一方、人の日常生活において、直線ないし緩やかな曲線の平坦で障害物がない道路や通路を、目的場所を目指す以外に歩行目的がなく、外部環境の発生もないような状態で歩行することは頻繁にあり、人は無意識に、リズミカル、あるいは、規則的に自身に合ったペースで歩行する。これは、人が中枢パターン発生器 (central pattern generator)という歩行機能を本来備えているためである。発明者は、この歩行を安定歩行と呼び、これに対して、前者の歩行を非安定歩行と呼ぶことにする。
【0012】
即ち、連続する任意の歩数における歩行周期等の標準偏差が設定閾値以下の歩行を安定歩行と定義し、それ以外の歩行を非安定歩行と定義する。この定義に基づいて人の日常の歩行を安定歩行と非安定歩行に区分し、前記被計測者の歩行能力を示す評価指標を生成することができる。
【0013】
非安定歩行は、歩行目的や外部環境からの影響を受けるために、歩行の状態や態様は、人の身体状態や身体能力に正確に由来したものには成り得ない。一方、安定歩行は、歩行目的や外部環境からの影響を受けていないか、又は、少ないために、歩行の状態や態様は人の身体状態や身体能力に由来したものになる。言い換えると、人の身体状態の変化である。例えば、老化、加齢、衰弱等は安定歩行の指標の変化として現れる。反対に、体力回復、体力改善等も同じである。したがって、安定歩行の指標を評価することによって、人の老化、加齢、衰弱等人の身体状態や身体能力の変化を判定、判別等することができる。
【0014】
しかしながら、安定歩行は非安定歩行と混在していることと、安定歩行は規則的に生じるものではないために、安定歩行を非安定歩行と区別して、抽出することはそもそも容易なことではない。
【0015】
図1は、発明者のある日常に於ける、時間(秒)である横軸と、2歩の周期としての歩行周期(ミリ秒単位)である縦軸との関係を示した特性図である。歩行周期がほぼ1000ミリ秒のものが安定歩行であり、これ以外のものが非安定歩行である。安定歩行と非安定歩行とが混在しているものの、安定歩行は歩行の間に複数回生じていることが分る。
図2は、
図1のうちの安定歩行を拡大した特性図である。安定歩行の歩行周期の変動係数(標準偏差/平均値)は1%前後であった。本発明者は、健常高齢者の安定歩行の歩行周期の変動係数を調査したところ、健常高齢者で2%前後であった。
【0016】
本発明者は、安定歩行を、人が、歩みを遅くしようとする、或いは、歩みを速くしようとする等を意識しない無意識な自律歩行であって、歩行周期の変動が所定の閾値に収まっている歩行と、即ち前述のとおり定義した。前記変動の幅とは、例えば、標準偏差、又は、変動係数でよい。閾値は限定されるべきものではなく、人種、性別、年齢、身長、体重、疾病その他の身体の状態等、その一つ又は複数に応じて変更してよい。例えば、標準偏差は、10%の範囲内、好ましくは、5%の範囲内、さらに、好ましくは、3%の範囲内でよい。
【0017】
従来は、人の日常歩行の中から安定歩行を区分することは容易でなかったが、本発明者は、測定対象としての人が携行する携帯端末(スマートフォン)の歩数計測機能を利用して、日中の歩行を所定期間(日、週、月等)継続的に計測して、歩行の周期を求め、携帯端末、及び/又は、サーバの演算機能は歩行周期をフィルタリングすることによって、安定歩行を抽出することとした。そして、携帯端末、及び/又は、サーバの演算機能は、抽出された安定歩行の歩行周期に基づいて、当該安定歩行の指標を算出し、これに基づいて、人の身体状態を評価することができる。携帯端末は、請求項の計測装置に該当する。携帯端末、及び/又は、サーバの演算機能は、請求項の演算装置に該当する。
【0018】
日々の歩行環境やそのときどきの歩行目的は異なるため、ここで算出される“安定歩行の歩行周期”の平均値も実際には日々多少は変動するが、その変動幅は極めて狭いことを確認している。
【0019】
人の“最も歩き易い歩行周期”は、人それぞれの歩行能力、性格等を含めた特性によって定まるため、突然の疾病でもない限り、短期的には大きく変動しないと考えられるが、中長期的には老化や体調の変化に伴い変動していく。“歩き易い歩幅”も同じく中長期的に変動していく。
【0020】
他方で、安定歩行を除く非安定歩行では、外部環境に大きく影響を受けているため、その平均歩行周期の変動は大きく、また安定歩行と非安定歩行それぞれの平均値も大きく異なる。その結果を検証し、歩行を安定歩行と非安定歩行に区分けする意味は大きいことが確認できている。
【0021】
安定歩行時の平均歩行周期は、実際の計測でその変動幅が極めて狭いことからも、“被計測者の最も歩き易い歩行周期”に非常に近い値であると考えられる。即ち、“安定歩行時の平均歩行周期”の推移を追って行けば、中長期的な老化や体調の変化の度合いなど、人の身体状態を評価することができると考えられる。
【0022】
同じく、本発明者は、歩行周期に基づいて個人の身体状態を評価するために、歩行比に注目した。歩行比とは、歩幅を歩行率で除した値であり、人それぞれの一定期間内の自由歩行時の歩行比は一定である、即ち、歩幅と歩行率は比例しているという学術研究結果が多数ある。自由歩行とは、外部環境の影響を排除した歩行であり、多くは直線ないし緩やかな曲線上で計測された結果である。歩行率とは、1分あたりの歩行周期数の2倍、即ち1分あたりの歩数である。
【0023】
多数回の計測から導かれた安定歩行の歩行周期の平均値等もまた、上記自由歩行と同等の状況下での歩行時のそれと見なせ、即ち、安定歩行では、歩行比はほぼ一定、即ち、歩行周期と歩幅は比例していると見做してよい。
【0024】
歩行比の利点は、歩行率に歩行比を乗じることによって、歩幅を推定できることである。歩行率は、既述のとおり、携帯端末によって容易に検出できるために、歩行比が決まれば、歩行率に歩幅を乗じることによって、容易に、安定歩行の歩行速度をほぼ正確に推定できることである。
【0025】
本発明者が検討したところ、この歩行比は、中短期的にはほぼ一定であった。歩行比はまた、加齢等によって、漸減していく。したがって、加齢等に伴う歩行能力の低下を、安定歩行時の歩行速度の相対的な低下に置き換えて、ユーザに提示できる。歩行速度に置き換えるのは、健康寿命の優劣において歩行速度が語られる事が多く、かつ、歩行速度はユーザにとって受け入れ易いからである。
【0026】
また、歩幅と歩行周期を定期的に計測して、歩行比の中長期的な変化を知ることができる。安定歩行の歩行周期の計測誤差は極めて小さいが、高齢期には歩行率の低下よりも歩幅の低下度合いの方が大きいと言われている。
【0027】
歩幅と歩行周期の計測精度は、安定歩行の歩行周期の計測精度より劣るものの、安定歩行の歩行周期の微細な変化を知ることで歩幅と歩行周期の計測をユーザに促し、その歩行比の変化も併せて身体状態を評価することができる、即ち、両者の長所を併せることで、変化の兆候を早期に発見できる。
【0028】
図3は、本発明に係るシステムの一実施態様に係るハードウェアブロック図である。システムは複数の携帯端末10と、サーバ12とを備え、複数の携帯端末10とサーバ12とは、電話回線網、インターネット等の通信網14によって接続されている。携帯端末10は、加速度センサと、GPSセンサを少なくとも備えるものでよい。
【0029】
携帯端末10、及び、サーバ14は、夫々、計算機としての通常の構成を備えている。通常の構成とは、コンピュータとしての、コントローラ(CPU等)、メモリ(記憶媒体)、ストレージ、ディスプレイ、通信部等である。記憶媒体としては、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリドライブ等の非可搬型の記憶媒体でよい。携帯端末10としては、アンドロイドスマートフォン、アイフォン、又は、携帯型パソコン、腕時計型その他の携帯機器でよい。サーバ14のメモリは、ハードディスク、フラッシュメモリ等、非可搬判型の記録媒体から構成される。
図4は、携帯端末の機能ブロック図の一例である。携帯端末10は、歩数計測モジュール20、歩行周期算出モジュール22、位置計測モジュール24を備える。携帯端末10のコントローラは、携帯端末10のメモリのプログラムを実行すること、そして、センサ等のハードウェアと共働することにより、これらのモジュールを実現する。モジュールは、手段、部、回路、ブロック、単位、要素等、他の用語で言い換えられてもよい。
【0030】
歩数計測モジュール20は、加速度センサないしはアンドロイド端末のSTEP_DETECTOR、STEP_COUNTER等のソフトセンサ(以下、単にセンサという)の出力に基づいて、歩数と歩数カウント時刻を計測する。加速度センサの出力から歩数と歩数カウント時刻を算出する方法は任意でよい。
【0031】
歩数計測モジュール20は、センサの出力を継続的に取り込んで、1歩目、2歩目、・・・、n歩目のように歩数を累計する。歩数計測モジュール20は、歩数カウント毎にミリ秒単位のカウント時刻情報(以下、歩数カウント情報と時刻情報を併せて歩数計測情報という。)を管理テーブルに記録する。管理テーブルは携帯端末10のメモリに存在する。
【0032】
歩行周期算出モジュール22は、メモリの歩数計測情報を参照し、歩数計測モジュール20の歩数計測値と時刻情報とに基づいて、時刻情報の差分から各一歩の周期を算出する。前記時刻情報がすべての1歩毎のカウント時刻を示している場合は、その差分が各1歩の周期となる。なお、1歩行周期は左右2歩の周期の合計値である。
【0033】
但し、歩数計測モジュール20の時刻情報は必ずしもすべての1歩毎のカウント時刻情報を得ていない場合があり、その場合は前記歩数計測モジュール20のカウント時刻情報に基づき、任意の方法により1歩毎ないしは2歩毎のカウント時刻を算出し、その差分を歩行周期情報としてよい。尚、この場合においても、本発明の目的を達するために必要な精度の歩行周期情報を得ることが十分に可能であることを確認している。
【0034】
普通に歩いている場合、1歩の周期は350ミリ秒以上700ミリ秒未満であり、2歩の周期は700ミリ秒以上1,400ミリ秒未満である。1歩の周期350ミリ秒(171歩/分)は走っている状態であり、周期700ミリ秒(85歩/分)はバランスが取り辛いような緩慢な歩行であるため、前記任意の方法は、例えば、時刻情報の差分が700ミリ秒以上であれば二等分して2歩とカウントするなどの態様を取り得る。
【0035】
歩行周期算出モジュール22は、歩行が開始してから終了するまで、前記歩行周期情報をメモリの管理テーブルに継続的に記録する。管理テーブルは、歩数カウント毎に、時刻情報と、歩行周期と、を対応させて記録する。
【0036】
位置計測モジュール24は、GPSデータの取得時刻と位置情報に、その取得時刻での歩数と歩数カウント時刻情報を紐づけながら、継続的に記録する。位置計測モジュールは、この記録をテーブルに纏めて、メモリに記録する。
【0037】
携帯端末10のコントローラは、定期的に、メモリに記録された、これら管理テーブルをサーバ12にアップロードする。サーバ12は、ストレージに、携帯端末10ごと、即ち、ユーザ毎に、管理テーブルを記録する。
【0038】
サーバ12は、
図5に示すように、安定歩行抽出モジュール50、歩行速度演算モジュール52、そして、評価モジュール54と、を備える。
【0039】
安定歩行抽出モジュール50は、管理テーブルを参照して、ユーザ毎に、安定歩行を抽出する。安定歩行抽出モジュール50は、例えば20歩毎(単位歩行区間毎)に、歩行が安定歩行であるか否かを判別する。単位歩行区間、換言すれば、安定歩行チェック対象領域を「20歩」としたのは、単位歩行区間が大きいと、安定歩行に非安定歩行が混入しやすくなり、一方、単位歩行区間が小さいと、安定歩行と非安定歩行とを区別し難いためである。単位歩行区間は、例えば、8歩から40歩であってよい。
【0040】
安定歩行抽出モジュール50は、単位歩行区間の20歩夫々の歩行周期の変動値(標準偏差、又は、変動係数)を計算する。安定歩行抽出モジュール50は、複数の単位歩行区間の夫々について変動値を計算し、閾値以内の単位歩行区間を選別する。これによって、安定歩行抽出モジュール50は、安定歩行を判別して、安定歩行時の平均歩行周期データをメモリに蓄積していくことができる。
【0041】
安定歩行抽出モジュール50は、選別された単位歩行期間について、歩数毎の歩行周期の平均値を、上限、そして、下限と比較して、上限を超える単位歩行期間と、下限を下回る単位歩行期間とを除いてもよい。上限は、通常歩行とは言えない、早歩き、或いは、ジョギング(高速域の歩行)を除くためのものであり、下限は、これも通常歩行とは云えない、遅い歩み(低速域の歩行)を除くためのものである。
【0042】
日常生活では人は無意識の内に最も歩き易い歩行周期、歩幅で歩くことが多いため、安定歩行時の歩行周期では、その人が最も歩き易い歩行周期の近傍の値が突出して多く観測される。従って、安定歩行抽出モジュール50は、一日など一定期間内に蓄積された安定歩行時の平均歩行周期データの平均値と標準偏差を求め、平均値から一定範囲内のデータのみの平均値を算出し直すなどの計算プロセスによって、ユーザ毎に、発生頻度が少ない早歩き、遅い歩みなどを除外した安定歩行時の平均歩行周期を求め、これを、ユーザ毎に管理テーブルに記録する。
【0043】
歩行速度演算モジュール52は、ユーザ毎に、歩行速度を演算する。歩行速度演算モジュールは、安定歩行の平均周期から歩行率を算出し、これに歩行比を乗じて歩幅を計算する。歩行速度演算モジュール52は、歩行比を、予め、後述の歩行比の計算に基づいて、所定期間毎に見直し、メモリに記憶させておく。安定歩行抽出モジュール50は、日毎、週毎、一月毎、3ヶ月毎、半年毎、又は、年毎等所定期間毎の平均歩行周期を計算して管理テーブルに記憶する。
【0044】
歩行速度演算モジュール52は、1分を平均歩行周期/2で除して得た歩行率、即ち1分あたりの歩数に、前記平均歩行周期から算出した歩行率に歩行比を乗じて得た歩幅を掛け合わせて、歩行速度を計算することができる。歩行速度計算モジュール52は、例えば、一日毎に歩行速度を計算する。即ち、歩行速度計算モジュール52は、一日の平均歩行周期に基づく歩行率に現在の歩行比を乗じて得た歩幅から歩行速度を計算してこれを管理テーブルに記録する。歩行速度計算モジュール52は、計算した歩行速度を携帯端末10の通信モジュールに送信する。携帯端末10のコントローラは、サーバ12から送信された歩行速度を、ディスプレイに表示する等してユーザに報知する。
【0045】
歩行速度演算モジュール52は、歩行比を予め計算し、これを所定期間毎に更新して、メモリに記録する。歩行速度演算モジュール52は、位置情報、位置情報の時刻情報、歩数情報、および、歩数の時刻情報に基づいて歩行比を複数計算し、複数の前記歩行比情報から予め所定期間毎に歩行比の代表値を定めてもよい。歩行速度演算モジュール52が歩行比を計算する態様としては、次のものがある。歩行速度演算モジュール52は、ユーザ毎に定期的に、下記のように、歩幅と歩行率の組のデータを管理テーブルから取得して、当該複数組のデータから歩幅と歩行率の関係式を得る方法である。この場合は、歩幅を歩行率で割って歩行比を算出し、一定期間の歩行比の平均値を得る、あるいは回帰分析等に基づき歩行比を求める関係式を作成する。
【0046】
歩行速度計算モジュール52は、年齢、性別、身長、体重、疾病等身体の属性毎に歩行比が分類されたモデルから、ユーザの属性が該当するモデルの歩行比を援用してもよい。この方法では、歩行速度演算モジュール52が多くのユーザ毎に歩行比のデータを継続的に蓄積し、これを分析することによってモデルを構築することができる。このモデルを利用すれば、携帯端末10による歩幅の計測は不要になる。
【0047】
前者の方法について説明する。歩幅と歩行率の算出には次の方法がある。
1 歩幅(cm)=歩行距離(m)/歩数
2 歩幅(cm)=歩行速度(m/分)×半歩行周期(秒)
3 画像情報等の歩行の接地時刻と位置情報から歩行周期と歩幅を算出する。
【0048】
まず1の方法を、
図6を利用して説明する。衛星電波等を用いた位置計測は現時点では精度が低いものの、所定位置において、繰り返し計測すれば高精度の位置情報が得られるため、始点Csと終点Ceの位置情報から始点終点間の距離を定めることができる。
【0049】
ユーザは始点Csで一旦立ち止まり、端末の“計測開始ボタン”を押すと、位置計測モジュール24はGPSデータの取得時刻と位置情報に、その取得時刻の歩数計測情報を紐づけ、記録し続ける。
【0050】
位置計測モジュール24は、“計測開始ボタン”の操作により始点Csに立っていることを判別でき、次に最初の1歩を踏み出すまでの数十秒間に得られたGPSデータは始点Csの位置情報だと判別できる。歩行開始1歩目までの時間は数秒を超えるので、位置計測モジュール24は、歩行開始1歩目以降は歩行状態であることを判別でき、歩行中の各GPSデータに紐づけされた歩数カウントを次第に増えさせていく。
【0051】
終点Ceで数十秒立ち止まれば、その後の1歩目の時刻が数秒以上後になるため、位置計測モジュール24は歩行終了時刻を特定できる。終点Ceで数十秒停止すると、その間のGPSデータ取得時の歩数カウントは同一なので、位置計測モジュール24は、歩数カウントが同一のGPSデータを終点Ceの位置情報であると判別する。
【0052】
終点Ceから歩き始めると歩数カウントが増えるため、位置計測モジュール24は計測が終了したことを判別できる。位置計測モジュール24は、端末10の“計測終了ボタン”で計測を終了させてもよい。
【0053】
このときの歩行は安定歩行であり、歩行周期算出モジュール22は、歩行中の歩数と歩数カウント時刻情報から、既述の方法と同様にして平均歩行周期を算出する。歩行開始時刻は、歩行開始1歩目の時刻の1歩前の時刻(平均歩行周期/2を差し引いた時刻)であると推定できるため、歩行開始時刻と歩行終了時刻の差分が歩行所要時間となり、歩行所要時間を平均歩行周期/2で割れば歩数が算出される。
【0054】
始点Csと終点Ceの位置情報から、始点Csと終点Ce間の距離が定まり、これを歩数で割ると平均歩幅が算出される。歩行率は前述の平均歩行周期から算出され、歩行率と歩幅の組のデータが得られる。
【0055】
電波状況のよい場所では位置情報の標準偏差は10m前後なので、位置計測モジュール24は、計測を繰り返せば急速に位置情報の精度を高めることができる。位置計測モジュール24は、精度が高まった距離情報に基づき、測値も的確に補正できる。
【0056】
位置計測モジュール24が、この計測を多数回行うと、歩幅と歩行率の組のデータが多くなるため、このデータの提供を受けた、サーバ12の歩行速度演算モジュール52は、回帰分析などから歩幅と歩行率の関係式を作ることができる。歩行速度演算モジュール52は、サンプル数が少ないときは、歩幅と歩行率が、比例関係にあるとして、歩行比の関係式を導いてもよいし、歩行比として、年齢、性別などで分類したモデルの関係式を採用してもよい。
【0057】
次に2の方法について、説明する。計測開始直後の計測座標をPm(Xm,Ym)、計測終了直前の計測座標をPn(Xn,Yn)、その間の計測座標をPi(Xi,Yi)、その位置情報取得時刻をTi、i=m〜nとする。ユーザが、一定速度で直線歩行しているものと仮定すると、理論座標推定式は(xi= a*Ti+b、yi= c*Ti+d)として表わせる。
【0058】
F = Σ[(a*Ti + b - Xi)
2+(c*Ti +d - Yi)
2] 、i = m〜nとし、最小二乗法の連立方程式dF/da=0, dF/db=0, dF/dc=0, dF/dd=0 からa, b, c, d が求まり、歩行速度は(a
2+c
2)
1/2となる。歩行速度演算モジュール54は、同時にその間の平均歩行周期に基づいて、歩行速度と平均歩行周期/2を掛け合わせると平均歩幅を決定することができる。同時に、平均歩行周期から歩行率が算出される。このため、2の方法では始点、終点を定める必要がなく、任意の場所で自動計測が可能になる。個々の計測座標は誤差を含むが、計測座標が多くなれば推定式の精度は高まる。
【0059】
位置計測モジュール24は、歩幅計測モードを実施することによって、計測を予め任意に定めた計測歩行路で行ってもよいし、あるいは、歩行路を特定せず自動計測する場合は、安定歩行の抽出をトリガーとして位置情報の自動計測を開始し、計測区間が直線で、且つ計測の間に安定歩行が持続していることを自動的に確認して、計測する。位置計測モジュール24は、当該歩行区間を複数に分割し、分割区間の各2ベクトルの内積から角度を導いて直線判定する。その判別閾値は任意でよい。
【0060】
次に、3の方法について説明する。建物や土地に付属して端末IDや顔認証など個人認証や画像認識の仕組みを備えた歩行路で、計測装置は、自動的に被計測者を特定して、センサ情報や画像情報の接地時刻と接地位置から歩行周期と歩幅を計測する。
【0061】
計測を意識した場合、被計測者は計測を意識して速めに歩きがちで、無意識下とは多少異なる歩き方になる可能性は排除されないが、実際の計測では、歩行率に応じた歩幅は被計測者の特性に応じて非常に狭い範囲の変化に収まり、歩行比(歩幅/歩行率)も狭い範囲の変化に収まることを、発明者は確認している。計測歩行路の始点終点間の距離が既知の場合は、その値を手動操作などで携帯端末10に入力するようにしてもよい。複数の利用者が合意して同じ歩行路を使う場合は、携帯端末10は、始点と終点の座標とニックネームなど個人の属性情報に基づいて当該複数の利用者を特定して歩行路の距離情報を共有すれば、より早く精度の高い距離を得られる。
【0062】
尚、前記2の方法では、安定歩行時の歩行速度が算出されているため、歩幅と歩行率を算出することなく、そのまま安定歩行時の歩行速度を得ることができる。但し、位置情報の精度が低い現状では微小な変化を抽出するには計測値の精度が低く、また計測頻度も少ない、即ち解析のための十分な計測数を得られない場合が多いという課題がある。更に、GPS等位置情報センサが稼働してから一定の精度を得られるまでに時間を要するためGPSを作動し続ける必要があるが、そのために電力消費が過大になる。近い将来、位置計測精度が高まり、少数回の計測でも高精度の歩幅算出が可能になることが期待される。
【0063】
歩行速度演算モジュール52は、歩幅と歩行率の組の複数回の計測値を用い、歩幅と歩行率の間の関係式を作成する。歩幅と歩行率との間には比例関係があり、この比例の定数、又は、線形関係が歩行比である。発明者の検証では、20回以上の計測における歩行比の標準偏差は3%未満であり、かなり高い精度の関係式が得られることを確認している。歩行比は、複数回の計測で得られた値を平均したものでよい。歩行速度演算モジュール52は、関係式、即ち、歩行比を、所定期間毎(例えば、3ヶ月毎)に更新すればよい。歩行速度演算モジュール52は、歩行比を演算して得た都度、管理テーブルに登録する。
【0064】
歩行速度演算モジュール52は、管理テーブルから平均歩行周期を読み込み、さらに、最新の歩行比を読み込む。歩行速度演算モジュール52は、平均歩行周期から歩行率を求めて、歩行率に歩行比を乗じて歩幅を算出し、それから歩行速度を演算する。歩行速度演算モジュール52は、例えば、一日の平均歩行周期に基づいて一日の歩行速度を演算する。
【0065】
評価モジュール54は、管理テーブルから、歩行能力指標としての歩行速度について、その時系列記録を参照して、歩行速度の変化を検出する。例えば、評価モジュール54は、一日の歩行速度の過去数ヶ月分の記録を参照して、歩行速度と日付との間の関係式を算出する。例えば、高齢者において、関係式から、数ヶ月間での歩行速度の減少率が分かる。評価モジュール54は、この減少率を所定の閾値と比較して、比較結果に基づいて警告表示を作成し、これを、歩行速度に対応する携帯端末10に送信する。閾値としては、例えば、ユーザの年齢、性別に近い、多数のユーザの平均値でよい。
【0066】
警告表示としては、減少率が閾値以上の場合には、ユーザに、健康寿命への留意や増進に対する意欲を促進するための表示であってよい。減少率が閾値より未満の場合、ユーザの健康寿命を称えたり、その維持のための表示であってよい。
【0067】
評価モジュール54は、安定歩行の周期の偏差や歩行速度の変化率を、短期間で比較してもよい。例えば、数日以内毎である。一例を説明すると、脳梗塞、脳出血などの急性脳疾患は突然発症するように思われがちだが、実際には数日前からその前兆が現われている場合も少なくない。急激に、安定歩行の周期の偏差が増大し、あるいは歩行速度が低下している場合は、歩行能力よりも、そもそも、運動機能や神経回路に関する急性疾患のリスク(予兆)が疑われる。これは、関節疾患やその他の疾患で歩行が不安定になっている場合についても同じである。
【0068】
また、評価モジュール54は、機械学習によって、安定歩行の歩行能力指標と身体状態との相関関係を生成することができる。例えば、目的変数を転倒とし、説明変数を、性別、年齢、体重、身長、バイタルデータ(血圧、体脂肪率、体温等)、安定歩行時の歩行速度の情報(数カ月分)等の歩行能力指標として、サーバが機械学習を行って得た多項式を生成し、この多項式に基づいて、ユーザの転倒のリスクを算出し、これをユーザに忠告することができる。
【0069】
歩行能力指標としては、歩行速度に限らず、平均歩行周期やその偏差の変動、または、歩幅の変動でもよい。前者について、健常者では、安定歩行を抽出するために定める閾値を元の設定値より大きく設定しても、抽出される安定歩行の歩行周期の大半は元の閾値で設定されたときのものと同一であり、歩行周期が若干より大きな変動量の“安定歩行”的なものが追加して抽出されるだけである。この“安定歩行”的なものには、実際、非安定歩行が混在している可能性が高い。しかし、歩行が不安定になってくると、元の設定値の閾値で抽出される安定歩行の数は減少し、より大きな設定値での安定歩行的なものを含む抽出数が増えてくる。
【0070】
長期的に上記のような傾向が継続すれば、被計測者の歩行が不安定になってきていることを判別でき、安定歩行モジュール50は、設定閾値を変更するトリガーとできる。数日というような短期間に急激に前記のような状況が生じれば、被計測者の歩行が急激に不安定になっている可能性がある、即ち重篤な疾病のリスクがあると捉えることができる。従って、このような現象が生じれば、評価モジュール54は、これをトリガーとして被計測者にアラームを発することができる。
【0071】
以上説明したように、既述のシステムよれば、人の歩行の計測値に基づいて、人の身体状態を正確に判定できる。以上説明した実施形態は、本発明を限定するものではなく、既述の実施形態を適宜変更することができる。例えば、歩行周期が安定している状態の歩行を含む抽出において、非安定歩行が混入されてしまうことを妨げない。既述のサーバ12の機能を携行端末に集約させて、携行端末だけで本発明を実現させてもよい。