特許第6774593号(P6774593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774593
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】結晶性酸化物膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/40 20060101AFI20201019BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20201019BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20201019BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   C23C16/40
   C30B29/16
   H01B5/14 A
   H01L21/368 Z
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-5910(P2016-5910)
(22)【出願日】2016年1月15日
(65)【公開番号】特開2017-125243(P2017-125243A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2019年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(72)【発明者】
【氏名】織田 真也
(72)【発明者】
【氏名】徳田 梨絵
(72)【発明者】
【氏名】人羅 俊実
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−138376(JP,A)
【文献】 特開2014−234337(JP,A)
【文献】 特開2009−016410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/40
C30B 29/16
H01B 5/14
H01L 21/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムを含有する酸化物を主成分として含む結晶性酸化物膜であって、膜厚が1μm以上であり、かつ[0006]面に対して測定されたX線回折法のロッキングカーブ半値幅が100arcsec以下であり、前記酸化物が、コランダム構造を有しており、さらに、前記酸化物が、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウムまたはガリウムドープ酸化インジウムであることを特徴とする結晶性酸化物膜。
【請求項2】
前記酸化物が、単結晶または多結晶である請求項1記載の結晶性酸化物膜。
【請求項3】
前記酸化物が、酸化インジウムである請求項1または2に記載の結晶性酸化物膜。
【請求項4】
ドーパントを含む請求項1〜3のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項5】
前記半値幅が50arcsec以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項6】
透明導電膜である、請求項1〜5のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項7】
絶縁膜、半導体膜および導電膜から選ばれる1種または2種以上の膜と電極とを少なくとも備えるデバイスであって、前記膜が、請求項1〜6のいずれかに記載の結晶性酸化物膜であることを特徴とするデバイス。
【請求項8】
前記膜が、請求項6記載の結晶性酸化物膜である請求項7記載のデバイス。
【請求項9】
太陽電池、ディスプレイ、照明、電子ペーパー、トランジスタ、プリンタブル回路、又は透明面状発熱体である請求項8記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性酸化物膜およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム膜は、スズをドープすることで1×10−4Ωcm程度の金属的な電気抵抗率を発現し、同時に透明性が保たれるので、透明導電性膜として好適であり、液晶ディスプレイの画素電極や太陽電池のキャリア捕集電極等として広く用いられる。このような用途に用いられる場合には、高い表面抵抗値は出力を押し下げる原因となるため、一般に表面抵抗値は比較的低いものが望ましいとされ、そのために結晶性が高い酸化インジウム膜が求められている(特許文献1)。
【0003】
また、酸化物エレクトロニクスの分野において、酸化インジウムは、3.6〜3.75eVの大きなバンドギャップに基づき、将来有望とされる半導体である。酸化インジウムを半導体として用いる場合には移動度をできるだけ高める工夫が必要であるが、結晶性の高い厚膜を作成することが困難である等の問題がある。
さらに、デバイスを構成する場合には、高移動度の半導体膜の他に、絶縁膜が必要となることが多い。このような場合に高移動度の酸化インジウムと絶縁性の酸化インジウムとが得られれば、これらを互いに積層することによって、例えばFETトランジスタなどの電子デバイスを実現できることとなる。酸化インジウムを絶縁膜として用いる場合には、透明電極材料の場合とは反対に、電気抵抗率をできるだけ高めなくてはならない。そのために不純物イオンをできるだけ取り除き、また酸素欠陥をできるだけ作らない工夫を施す必要がある。(特許文献2)。
【0004】
酸化インジウム膜の結晶性を高めつつ厚膜を作成する取り組みとして、非特許文献1のでは、MBE法を用いて、In基板上にビックスバイト構造を有するIn膜を成膜し、X線回法のロッキングカーブ半値幅が83.1arcsecという結晶性の高い膜(膜厚720nm)を作成している。しかしながら、MBE法では、膜厚1μm以上の結晶性の高い膜を得ることが困難であり、特に、半値幅100arcsec以下でかつ膜厚1μm以上の膜を得ることはできなかった。また、特許文献3記載の発明のように、ミストCVD法を用いた酸化インジウム膜の作成の検討が進められている。例えば非特許文献2では、ミストCVD法を用いてサファイア基板上にコランダム構造を有するIn薄膜を成長させ、X線回法のロッキングカーブ半値幅が182arcsecという配向性の高い薄膜を得ることに成功しているが、膜厚はせいぜい約300nm程度であった。また、これら技術を用いても、これ以上半値幅の低い膜を作成することは困難であり、通常は300〜1000arcsec程度の薄膜のみしか得られていなかった。またこのような膜は表面にピットが発生するなどの問題があり、表面平滑性も満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−193440号公報
【特許文献2】特許第4480809号公報
【特許文献3】特開2014−234337号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Cornelia Haas, ”Molecular Beam Epitaxial Growth and Doping Studies of In2o3 Films onZrO2:Y(111) and In2O3(111)”,Inaugural dissertation of university of Freiburg, 2013
【非特許文献2】Norihiro Suzuki, Kentaro Kaneko, Shizuo Fujita, ”Growth of corundum-structured In2O3 thin films on sapphire substrates with Fe2O3 buffer layers” , Journal of Crystal Growth 364, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、結晶性の高い、インジウムを含有する酸化物を主成分として含み、膜厚が1μm以上である結晶性酸化物膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の条件下でミストCVD法を用いて成膜すると、結晶性の高い、インジウムを含有する酸化物を主成分として含み、さらに準安定相のコランダム構造を含む結晶性酸化物膜を成膜できることを見出した。また本発明者らは、このような結晶性酸化物膜が上記従来の問題を一挙に解決できるものであることを知見した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] インジウムを含有する酸化物を主成分として含む結晶性酸化物膜であって、膜厚が1μm以上であり、X線回析法のロッキングカーブ半値幅が100arcsec以下であることを特徴とする結晶性酸化物膜。
[2] 前記酸化物が、単結晶または多結晶である前記[1]記載の結晶性酸化物膜。
[3] 前記酸化物が、酸化インジウムである前記[1]または[2]に記載の結晶性酸化物膜。
[4] 前記酸化物が、コランダム構造を有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[5] ドーパントを含む前記[1]〜[4]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[6] 前記半値幅が50arcsec以下であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[7] 透明導電膜である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[8] 絶縁膜、半導体膜および導電膜から選ばれる1種または2種以上の膜と電極とを少なくとも備えるデバイスであって、前記膜が、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜であることを特徴とするデバイス。
[9] 前記膜が、請求項7記載の結晶性酸化物膜である前記[8]記載のデバイス。
[10] 太陽電池、ディスプレイ、照明、電子ペーパー、トランジスタ、プリンタブル回路、又は透明面状発熱体である前記[9]記載のデバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、結晶性の高い、インジウムを含有する酸化物を主成分として含み、膜厚が1μm以上である結晶性酸化物膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例において用いられる成膜装置(ミストCVD)の概略構成図である。
図2】比較例において用いられる成膜装置(ミストCVD)の概略構成図である。
図3】実施例におけるAFMの観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の結晶性酸化物膜は、インジウムを含有する酸化物を主成分として含む結晶性酸化物膜であって、膜厚が1μmであり、X線回法のロッキングカーブ半値幅が100arcsec以下であることを特長とする。
【0013】
本発明の結晶性酸化物膜は、絶縁膜、半導体膜または導電膜のいずれであってもよいが、導電膜または透明導電膜であってもよい。
【0014】
前記結晶性酸化物膜に含まれる結晶は、単結晶であっても多結晶であってもよく、これらの混合物であってもよい。本発明においては、前記結晶がインジウムを含有する酸化物からなるのが好ましい。なお、前記「主成分」とは、前記結晶性酸化物膜中の組成比(原子比)で、前記酸化物を50%以上含むものをいい、好ましくは70%以上含むものであり、より好ましくは90%以上含むものである。
【0015】
前記酸化物は、インジウムを含有していれば特に限定されない。インジウムを含有する酸化物としては、例えば、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、ガリウムドープ酸化インジウム、インジウムドープ酸化亜鉛などが挙げられる。前記酸化物としては、好適には、酸化インジウムまたは錫ドープ酸化インジウムが挙げられ、より好適には、酸化インジウムが挙げられる。本発明においては、前記酸化物がコランダム構造を有しているのが好ましく、コランダム構造を有している酸化インジウムまたは錫ドープ酸化インジウムであるのがより好ましく、コランダム構造を有している酸化インジウムであるのが最も好ましい。
【0016】
前記結晶性酸化物膜の膜厚は1μm以上であれば特に限定されないが、本発明においては、前記膜厚が、1.5μm以上であるのが好ましく、1.8μm以上であるのがより好ましい。前記結晶性酸化物膜の形状等は特に限定されず、四角形状であっても、円形状であっても、多角形状であってもよい。前記結晶性酸化物膜の表面積は、特に限定されず、本発明においては、3mm角以上であるのが好ましく、5mm角以上であるのがより好ましく、直径50mm以上であるのが最も好ましい。
【0017】
前記結晶性酸化物膜には、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは特に限定されず、公知のものであってよい。前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブ等のn型ドーパント、またはp型ドーパント等が挙げられる。本発明においては、前記ドーパントが、スズであるのが好ましい。ドーパントの含有量は、前記結晶性酸化物膜の組成中、0.00001原子%以上であるのが好ましく、0.00001原子%〜20原子%であるのがより好ましく、0.00001原子%〜10原子%であるのが最も好ましい。
【0018】
上記「半値幅」とは、XRD(X−ray diffraction:X線回折法)によりロッキングカーブ半値幅を測定した値を意味する。面方位としては、特に限定されないが、例えば、[0006]などが挙げられる。本発明においては、上記半値幅が、通常100arcsec以下であるが、50arcsec以下であるのが好ましく、40arcsec以下であるのがより好ましい。
【0019】
以下、前記結晶性酸化物膜の好ましい製造方法について説明するが、本発明はこれら好ましい製造方法に限定されない。
【0020】
前記結晶性酸化物膜の好ましい製造方法としては、例えば図1のようなコールドウォール式のミストCVD装置を用いて、原料溶液を霧化または液滴化し(霧化・液滴化工程)、得られたミストまたは液滴をキャリアガス(不活性ガス)で成膜室内に設置されている基体まで搬送し(搬送工程)、ついで成膜室内で前記ミストまたは液滴を500℃以下で熱反応させて前記基体上に結晶性酸化物膜を成膜する(成膜工程)方法などが挙げられる。
【0021】
(霧化・液滴化工程)
霧化・液滴化工程は、前記原料溶液を霧化または液滴化する。前記原料溶液の霧化手段または液滴化手段は、前記原料溶液を霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段または液滴化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミストまたは液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは0.1〜10μmである。
【0022】
(原料溶液)
前記原料溶液は、霧化または液滴化が可能であり、インジウムを含有していれば特に限定されない。本発明においては、前記原料溶液としては、前記金属を錯体または塩の形態で有機溶媒または水に溶解または分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、有機金属塩(例えば金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属クエン酸塩等)、硫化金属塩、硝化金属塩、リン酸化金属塩、ハロゲン化金属塩(例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等)などが挙げられる。本発明においては、前記原料溶液がインジウムのハロゲン化金属塩であるのが好ましい。このような好ましい原料溶液を用いることにより、膜の表面平滑性を良好なものとすることができ、さらに膜の結晶性をより良好なものとすることができる。
【0023】
前記原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。原料溶液にドーパントを含ませることで、ドーピングを良好に行うことができる。前記ドーパントは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブ等のn型ドーパント、またはp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、通常、約1×1016/cm〜1×1022/cmであってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×1017/cm以下の低濃度にしてもよい。また、さらに、本発明によれば、ドーパントを約1×1020/cm以上の高濃度で含有させてもよい。
【0024】
原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水または水とアルコールとの混合溶媒であるのがより好ましく、水であるのが最も好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。
【0025】
(搬送工程)
搬送工程では、キャリアガスでもって前記ミストまたは前記液滴を成膜室内に搬送する。前記キャリアガスとして、窒素やアルゴン等の不活性ガスが用いられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、流量を下げた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01〜20L/分であるのが好ましく、1〜10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001〜2L/分であるのが好ましく、0.1〜1L/分であるのがより好ましい。
【0026】
(成膜工程)
成膜工程では、成膜室内で前記ミストまたは液滴を熱反応させることによって、基体上に、結晶性酸化物膜を成膜する。熱反応は、熱でもって前記ミストまたは液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、500℃以下の温度で行うが、400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、150℃〜350℃が最も好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよいが、非酸素雰囲気下(例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガスまたは水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどの雰囲気下)で行われるのが好ましく、不活性ガス雰囲気下で行われるのがより好ましい。また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は、成膜時間を調整することにより、1μm以上に設定することができる。
【0027】
(基体)
前記基体は、前記結晶性酸化物膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状、多孔質体状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されない。
【0028】
前記基板は、板状であって、前記結晶性酸化物膜の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、金属基板や導電性基板であってもよいが、前記基板が、絶縁体基板であるのが好ましく、また、表面に金属膜を有する基板であるのも好ましい。前記基板の形状は、特に限定されず、略円形状(例えば、円形、楕円形など)であってもよいし、多角形状(例えば、3角形、正方形、長方形、5角形、6角形、7角形、8角形、9角形など)であってもよく、様々な形状を好適に用いることができる。本発明においては、前記基板の形状を好ましい形状にすることにより、基板上に形成される膜の形状を設定することができる。また、本発明においては、大面積の基板を用いることもでき、このような大面積の基板を用いることによって、前記結晶性酸化物膜の面積を大きくすることができる。前記基板としては、例えば、コランダム構造を有する基板材料を主成分として含む下地基板、またはβ−ガリア構造を有する基板材料を主成分として含む下地基板、六方晶構造を有する基板材料を主成分として含む下地基板などが挙げられる。ここで、「主成分」とは、前記特定の結晶構造を有する基板材料が、原子比で、基板材料の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよい。
【0029】
基板材料は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のものであってよい。前記のコランダム構造を有する基板材料としては、例えば、α−Al(サファイア基板)またはα−Gaが好適に挙げられ、a面サファイア基板、m面サファイア基板、r面サファイア基板、c面サファイア基板や、α型酸化ガリウム基板(a面、m面またはr面)などがより好適な例として挙げられる。β−ガリア構造を有する基板材料を主成分とする下地基板としては、例えばβ−Ga基板、又はGaとAlとを含みAlが0wt%より多くかつ60wt%以下である混晶体基板などが挙げられる。また、六方晶構造を有する基板材料を主成分とする下地基板としては、例えば、SiC基板、ZnO基板、GaN基板などが挙げられる。
【0030】
本発明においては、前記基体が、コランダム構造を有するのが好ましく、コランダム構造を有する基板材料を主成分とする下地基板であるのがより好ましく、サファイア基板またはα型酸化ガリウム基板であるのが最も好ましい。また、前記基体は、アルミニウムを含むのが好ましく、コランダム構造を有するアルミニウム含有基板材料を主成分とする下地基板であるのがより好ましく、サファイア基板(好ましくはc面サファイア基板、a面サファイア基板、m面サファイア基板、r面サファイア基板)であるのが最も好ましい。
【0031】
本発明においては、前記基体上にそのまま成膜してもよいが、前記基体上にバッファ層を積層したのち、前記基体上にバッファ層を介して成膜するのが好ましい。バッファ層としては、例えば、コランダム構造を含む半導体層、絶縁体層または導電体層などが挙げられるが、中でもコランダム構造を含む半導体層が好ましい。前記のコランダム構造を含む半導体層としては、例えば、α―Fe、α―Ga、α―Alなどが挙げられる。前記バッファ層の積層手段は特に限定されず、前記結晶性酸化物膜の積層手段と同様であってよい。
【0032】
上記のようにして得られた結晶性酸化物膜は、膜厚が1μm以上であり、さらに、X線回法のロッキングカーブ半値幅が100arcsec以下であり、結晶性に優れている。このような結晶性酸化物膜は、デバイス等に好適に用いることができる。前記デバイスとしては、例えば、太陽電池、ディスプレイ、照明、電子パーパー、トランジスタ、プリンタブル回路、又は透明面状発熱体等が挙げられる。本発明においては、前記デバイスが、絶縁膜、半導体膜および導電膜から選ばれる1種または2種以上の膜と電極とをすくなくとも備えるデバイスであるのが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
1.成膜装置
図1を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置1を説明する。ミストCVD装置1は、キャリアガスを供給するキャリアガス源2aと、キャリアガス源2aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)源2bと、キャリアガス(希釈)源2bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁3bと、前駆体溶液4aが収容されるミスト発生源4と、水5aが入れられる容器5と、容器5の底面に取り付けられた超音波振動子6と、成膜室7と、ミスト発生源4から成膜室7までをつなぐ供給管9と、成膜室7内に設置されたホットプレート8と、熱反応後のミスト、液滴および排気ガスを排出する排気口11とを備えている。なお、ホットプレート8上には、基板10が設置されている。
2.前駆体溶液の作製
臭化インジウムを超純水に混合し、臭化インジウム0.025molとなるように水溶液を調整した。
【0035】
3.成膜準備
上記2.で得られた前駆体溶液4aをミスト発生源4内に収容した。次に、基板10として、表面にバッファ層としてα―Fe膜が積層されているサファイア基板(直径2インチ)をホットプレート8上に設置し、ホットプレート8を作動させて成膜室7内の温度を350℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁3a、3bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段2a、2bからキャリアガスを成膜室7内に供給し、成膜室7の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5.0L/分に、キャリアガス(希釈)の流量を0.5L/分にそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして窒素を用いた。
【0036】
4.膜形成
次に、超音波振動子6を2.4MHzで振動させ、その振動を、水5aを通じて前駆体溶液4aに伝播させることによって、前駆体溶液4aを霧化させてミスト4bを生成させた。このミスト4bが、キャリアガスによって、供給管9内を通って、成膜室7内に導入され、大気圧下、350℃にて、成膜室7内でミストが熱反応して、基板10上に酸化インジウム膜が形成された。なお、膜厚は1.8μmであり、成膜時間は120分であった。
【0037】
上記4.にて得られた酸化インジウム膜は、白濁もなく、きれいな結晶であった。X線回装置を用いて膜の同定をしたところ、得られた膜はα‐In膜であった。また、X線回法により測定したロッキングカーブ半値幅は36arcsecであり、結晶性の高い膜であった。さらに、原子力顕微鏡(AFM)で膜表面を観察したところ、図3の通り、表面にピット等もなく、表面平滑性にも優れた膜が得られた。
【0038】
(比較例1)
を用いて、比較例1で用いたミストCVD装置19を説明する。ミストCVD装置19は、基板20を載置するサセプタ21と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給手段22aと、キャリアガス供給手段22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)供給手段22bと、キャリアガス(希釈)供給手段22bから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる供給管27と、供給管27の周辺部に設置されたヒーター28とを備えている。サセプタ21は、石英からなり、基板20を載置する面が水平面から傾斜している。成膜室となる供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0039】
成膜装置として、図4に示すミストCVD装置19を用いたことおよび成膜時間を40分としたこと以外は、実施例1と同様にして成膜を行った。得られた膜につき、X線回装置を用いて同定したところ、α―Inであった。また、X線回装置を用いて半値幅を測定したところ、187arcsecであった。なお、膜厚は250nmであった。
【0040】
以上の通り、本発明の結晶性酸化物膜は、結晶性に優れており、膜厚が1μm以上であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の結晶性酸化物膜は、種々のデバイスに用いることができるが、とりわけ、太陽電池、ディスプレイ、照明、電子ペーパー、トランジスタ、プリンタブル回路、又は透明面状発熱体などに有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 ミストCVD装置
2a キャリアガス源
2b キャリアガス(希釈)源
3a 流量調節弁
3b 流量調節弁
4 ミスト発生源
4a 原料溶液
4b ミスト
5 容器
5a 水
6 超音波振動子
7 成膜室
8 ホットプレート
9 供給管
10 基板
11 排気口
19 ミストCVD装置
20 基板
21 サセプタ
22a キャリアガス供給手段
22b キャリアガス(希釈)供給手段
23a 流量調節弁
23b 流量調節弁
24 ミスト発生源
24a 原料溶液
25 容器
25a 水
26 超音波振動子
27 供給管
28 ヒーター
29 排気口

図1
図2
図3