特許第6774619号(P6774619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774619高分子量ポリオキシエチレン誘導体のマトリクス支援レーザー脱離質量分析法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774619
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】高分子量ポリオキシエチレン誘導体のマトリクス支援レーザー脱離質量分析法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   G01N27/62 V
   G01N27/62 F
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-65358(P2016-65358)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2016-194513(P2016-194513A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2019年3月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-71739(P2015-71739)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】神谷 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】松木 亮太
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−071075(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/019882(WO,A1)
【文献】 MIGUEL et al.,Poly(γ-benzyl-L-glutamate)-PEG-alendronate multivalent nanoparticles for bone targeting,International Journal of Pharmaceutics,2014年 1月,Vol.460/Iss.1-2,PP.73-82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62−74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量40000以上のポリエチレングリコール誘導体とマトリクスとを含む混合物にレーザー光を照射することで、前記ポリエチレングリコール誘導体を前記マトリクスとともに気化させて分子量を測定するマトリクス支援レーザー脱離質量分析法であって、
前記ポリエチレングリコール誘導体が式(1)および式(2)で表され、
前記マトリクスとして1−オクタノール/水分配係数(logPow)が4.1〜4.8の低極性マトリクスを用いることを特徴とする方法。

【化1】

(上記式(1)および上記式(2)において、
Zは2〜8個の水酸基を持つ化合物から、すべての水酸基を除いた残基であり、
OA、OA、OAはオキシエチレン基であり、
a、b、cは0〜5000であり、
、L、Lは、それぞれ独立して、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合、ウレア結合、エーテル結合、チオエーテル結合をアルキレン鎖中又は末端に有していてもよいアルキレン基であり、L、L、Lは一分子中で互いに同一又は異なっていてよく、
p、q、rは、それぞれ独立して、0または1であり、
s、tは、それぞれ独立して、0〜8であり、
、X、Xは、それぞれ独立して、アルコキシ基、または生理活性物質と特異的に反応する活性基を示し、X、X、Xは一分子中で互いに同一又は異なっている。)
【請求項2】
前記ポリエチレングリコール誘導体の分子量が60000以上であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記マトリクスがtransー2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチルー2−プロペニリデン]マロノニトリルであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
分子量40000以上のポリエチレングリコール誘導体およびマトリクス支援レーザー脱離質量分析法に用いるマトリクスを含む組成物であって、
前記マトリックスが1−オクタノール/水分配係数(logPow)が4.1〜4.8の低極性マトリクスであり、
前記ポリエチレングリコール誘導体が式(1)および式(2)で表され、
前記マトリクスとして1−オクタノール/水分配係数(logPow)が4.1〜4.8の低極性マトリクスを用いることを特徴とする組成物

【化1】

(上記式(1)および上記式(2)において、
Zは2〜8個の水酸基を持つ化合物から、すべての水酸基を除いた残基であり、
OA、OA、OAはオキシエチレン基であり、
a、b、cは0〜5000であり、
、L、Lは、それぞれ独立して、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合、ウレア結合、エーテル結合、チオエーテル結合をアルキレン鎖中又は末端に有していてもよいアルキレン基であり、L、L、Lは一分子中で互いに同一又は異なっていてよく、
p、q、rは、それぞれ独立して、0または1であり、
s、tは、それぞれ独立して、0〜8であり、
、X、Xは、それぞれ独立して、アルコキシ基、または生理活性物質と特異的に反応する活性基を示し、X、X、Xは一分子中で互いに同一又は異なっている。)
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール誘導体の分子量が60000以上であることを特徴とする、請求項4記載の組成物
【請求項6】
前記マトリクスがtransー2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチルー2−プロペニリデン]マロノニトリルであることを特徴とする、請求項4または5記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量ポリエチレングリコール誘導体のマトリクス支援レーザー脱離(以下、MALDIと称する)質量分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
MALDI質量分析法は、マトリクスとポリマーを混合したものにレーザー光を照射することで、ポリマーをマトリクスとともに気化、イオン化し、ポリマーの分子量を測定する分析法である。MALDI質量分析法におけるマトリクスの役割として、レーザー光のエネルギーをポリマーに伝えイオン化することが挙げられる。そのため、マトリクスとポリマーの親和性は重要である。親和性の目安として、ポリエチレングリコール(PEG)などの高極性ポリマーの測定にはα―シアノー4−ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)や2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)などの高極性マトリクスを使用することが推奨されている。また、ポリスチレン(PS)などの低極性ポリマーの測定には、ジスラノールやレチノイン酸(RA)などの低極性マトリクスを使用することが推奨されている(非特許文献1、2)。更に、分子量10000のポリエチレングリコールにおけるMALDI質量分析では、高極性マトリクスであるCHCAが最良であることが示されている(非特許文献3)。
【0003】
一方で、高分子量のポリマーはMALDI質量分析での測定が困難であることが一般的に知られている。分子量の増加に伴いイオン化が困難になることから、照射するレーザー強度を強くする必要があるが、レーザー照射によるポリマー分子の分解が起こりやすくなるためである。そのためポリエチレングリコールを例としてあげると、測定結果が報告されているのは分子量25000以下のものしかない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ケミカル・レビューズ(Chemical Reviews)、2001年、vol.101、p.527−569
【非特許文献2】マススペクトロメトリ・レビューズ(Mass Spectrometry Reviews)、1999年、vol.18、p.309−344
【非特許文献3】アナリティカル・ケミストリー(Analytical Chemistry)、2004年、vol.76、p.5157−5164
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、高分子量ポリエチレングリコール誘導体の分子量は、MALDI質量分析での測定が困難である。また、特に、分岐型構造を有するポリマーは、レーザー照射による分解が顕著に見られ、シグナル強度が十分でない場合が多い。このため、高分子量ポリエチレングリコール誘導体の分子量をMALDI質量分析で測定できるようにすることが望まれる。
【0006】
本発明の課題は、高分子量ポリエチレングリコール誘導体のMALDI質量分析法において、従来よりも強度の高いシグナルが得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のものである。
(1) 分子量40000以上のポリエチレングリコール誘導体とマトリクスとを含む混合物にレーザー光を照射することで、前記ポリエチレングリコール誘導体を前記マトリクスとともに気化させて分子量を測定するマトリクス支援レーザー脱離質量分析法であって、
前記マトリクスとして1−オクタノール/水分配係数(logPow)が4.1〜4.8の低極性マトリクスを用いることを特徴とする方法。
(2) 前記ポリエチレングリコール誘導体の分子量が60000以上であることを特徴とする、(1)の方法。
(3) 前記マトリクスがtransー2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチルー2−プロペニリデン]マロノニトリルであることを特徴とする、(1)または(2)の方法。
(4) 分子量40000以上のポリエチレングリコール誘導体のマトリクス支援レーザー脱離質量分析法に用いるマトリクスであって、1−オクタノール/水分配係数(logPow)が4.1〜4.8の低極性マトリクス。
(5) 前記ポリエチレングリコール誘導体の分子量が60000以上であることを特徴とする、(4)のマトリクス。
【発明の効果】
【0008】
本発明者は、高極性ポリマーであるポリエチレングリコール誘導体の分子量をMALDI質量分析法によって測定するのに際して、ポリエチレングリコール誘導体が40000以上という高分子量の場合には、上述のような低極性マトリクスを用いることで、ポリマーの分解を抑制し、十分なシグナル強度が得られることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
本発明のMALDI質量分析法を用いることで、高分子量のポリエチレングリコール誘導体の分解を抑制し、高いシグナル強度を得られ、開発や品質管理に好適に用いることができるため工業的に極めて有用である。
【0010】
なお、本発明以前には、ポリエチレングリコール(PEG)などの高極性ポリマーの測定には、α―シアノー4−ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)や2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)などの高極性マトリクスが推奨されており、高極性マトリクスを用いたほうが良好な分析結果が得られると報告されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図2】比較例1−1で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図3】比較例1−2で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図4】実施例2で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図5】比較例2−1で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図6】比較例2−2で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図7】実施例3で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図8】比較例3−1で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図9】比較例3−2で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図10】実施例4で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図11】比較例4−1で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図12】比較例4−2で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図13】実施例5で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図14】比較例5−1で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図15】比較例5−2で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図16】実施例6で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図17】比較例6−1で得られたマススペクトルを示すチャートである。
図18】比較例6−2で得られたマススペクトルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明の分析対象となるポリエチレングリコール誘導体は、直鎖状でも分岐状でも良い。本発明の分析方法では、従来のMALDI質量分析法とは異なり、特に分岐構造を有するポリエチレングリコール誘導体であっても分解を抑制し、分子量を測定することができることから、分岐状で2以上のポリエチレングリコール鎖を有することが好ましい。ポリエチレングリコール鎖の数の上限は特にないが、例えば、最大8本のポリエチレングリコール鎖を有する場合でも分析可能である。より典型的には、ポリエチレングリコール誘導体のポリエチレングリコール鎖数が2、3、4、6あるいは8本である。
【0013】
ポリエチレングリコール誘導体の分子量は40000以上である。また、ポリエチレングリコール誘導体の分子量は、60000以上とすることもできる。また、ポリエチレングリコール誘導体の分子量は、1000000以下が好ましく、200000以下が更に好ましい。本発明は、従来の高極性マトリクスを用いた測定方法とは異なり、高分子量でも高い精度で分析することが可能である。
【0014】
分子量が40000以上のポリエチレングリコール誘導体の場合、先行技術文献の記載とは反対に、高極性マトリクスを用いた場合にはシグナル強度が小さくなった。
【0015】
本発明の分析対象となるポリエチレングリコール誘導体は、式(1)および(2)で表される。
【化1】
【0016】
ここで、Zは2〜8個の水酸基を持つ化合物から、すべての水酸基を除いた残基である。
OA、OA、OAはオキシエチレン基であり、a、b、cは0〜5000(好ましくは0〜3000、更に好ましくは0〜1000)である。
、L、Lは、それぞれ独立して、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合、ウレア結合、エーテル結合、チオエーテル結合をアルキレン鎖中又は末端に有していてもよいアルキレン基である。L、L、Lは一分子中で互いに同一又は異なっている。
p、q、rは、それぞれ独立して、0または1である。
s、tは、それぞれ独立して、0〜8(特に好ましくは2、3、4、6、8)である。
、X、Xは、それぞれ独立して、水酸基、メトキシ基、t-ブトキシ基、ベンジロキシ基等のアルコキシ基、またはタンパク質やポリペプチド、薬物などの生理活性物質と特異的に反応する活性基を示す。X、X、Xは一分子中で互いに同一又は異なっている。
【0017】
こうした活性基として、具体的には、アルデヒド基、アセタール基、ニトロフェニルカーボネート基、スクシンイミジルカーボネート基、スクシンイミジルエステル、メルカプト基、マレイミド基、アルケニル基、アルキニル基、アジド基、アミノ基、カルボキシル基などが挙げられ、好ましくはアルデヒド基、ニトロフェニルカーボネート基、スクシンイミジルカーボネート基、スクシンイミジルエステル、メルカプト基、マレイミド基、アルキニル基、アジド基、アミノ基、カルボキシル基が挙げられる。
【0018】
本発明において用いることができるMALDI質量分析用低極性マトリクスは、1−オクタノール/水分配係数が4.1〜4.8(より好ましくは4.3〜4.8)の低極性マトリクスである。マトリクスの1−オクタノール/水分配係数は、OECDテストガイドライン117記載の高速液体クロマトグラフィー法にて測定した数値である。
【0019】
本発明で用いる低極性マトリクスとしては、炭素、水素、窒素の3元素より構成される芳香族化合物を用いることができ、特に好ましくはtransー2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチルー2−プロペニリデン]マロノニトリルが挙げられる。
【0020】
ポリエチレングリコール誘導体とMALDI質量分析用マトリクスの比率については、特に限定されないが、ポリエチレングリコール誘導体:MALDI質量分析用マトリックス=1:100(モル比)から1:1000000(モル比)が好ましく、1:500(モル比)から1:100000(モル比)がさらに好ましい。
【0021】
本発明の分析用試料の調製方法において、MALDI質量分析用マトリクス、ポリエチレングリコール誘導体を含む液を作製するために用いることができる溶剤としては、MALDI質量分析用マトリクスとポリエチレングリコール誘導体を溶解させることのできるものが望ましい。具体的には、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等を挙げることができる。また、これらの溶剤は、単独でも、あるいは2種以上混合して用いることもできる。これらのMALDI質量分析用マトリクスあるいはポリエチレングリコール誘導体を溶剤に溶解させたときの濃度は、1〜100mg/mLが好ましい。
【0022】
MALDI質量分析用マトリクスには、イオン化剤を含有させることができる。イオン化剤としては、具体的には、トリフルオロ酢酸ナトリウムやトリフルオロ酢酸銀、硝酸銅、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の金属塩やアンモニウム塩、有機塩等を挙げることができる。
含有させるイオン化剤とMALDI質量分析用マトリクスの比率については、イオン化剤:MALDI質量分析用マトリクス=1:1(モル比)から1:10000(モル比)が好ましく、1:10(モル比)から1:5000(モル比)がさらに好ましい。
【0023】
イオン化剤を溶剤に溶解させた後に、MALDI質量分析用マトリクスと混合させることもでき、その場合、溶剤に溶解させた時のイオン化剤の濃度は、0.1〜100mg/mL程度が好ましい。
【0024】
このようにして本発明の分析用試料の調製方法により調製したMALDI質量分析用試料は、レーザー強度を弱くしても高いシグナル強度を与えるので、本発明の分析用試料の調製方法により調製されたMALDI質量分析用試料を用いて行うMALDI質量分析方法は、ポリマーの分解を抑制し、正確な分子量を測定できることから、ポリエチレングリコール誘導体の品質管理に好適に用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
transー2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチルー2−プロペニリデン]マロノニトリル(サンタクルーズ社製、純度99%以上:1−オクタノール/水分配係数4.6)をMALDI質量分析用マトリクスとし、分岐型ポリエチレングリコール誘導体SUNBRIGHT GL2−600HO(日油製、分子量60000、化合物1)を試料とし、これにトリフルオロ酢酸ナトリウムをイオン化剤として用いた。MALDI質量分析用マトリクスのテトラヒドロフラン溶液(濃度20mg/mL)、分岐型ポリエチレングリコール誘導体のテトラヒドロフラン溶液(濃度60mg/mL)、トリフルオロ酢酸ナトリウム(イオン化剤)のテトラヒドロフラン溶液(濃度2mg/mL)を100:1:2(容量比)で混合した。
【0026】
MALDI質量分析用マトリクス、分岐型ポリエチレングリコール誘導体、イオン化剤混合溶液をMALDI質量分析用ターゲット上にマイクロピペットで1μL滴下し、乾燥させた後、そのターゲットをブルカー・ダルトニクス社製AutoFlexIII型MALDI質量分析装置内に挿入した。その後、加速電圧20.0kV、レーザー強度を適宜調整し、レーザーショット2500回積算の正イオン化モードにて測定を行った。シグナル強度の評価は、得られたマススペクトルにおけるピークトップのシグナル強度を用いることとした。
実施例1のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は10389カウントであった。実施例1で得られたマススペクトルチャートを図1に示す。
【0027】
【化2】
【0028】
(比較例1−1)
マトリクスとしてα―シアノー4−ヒドロキシ桂皮酸(CHCA:(1−オクタノール/水分配係数0.9)を用いた以外は、実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。比較例1−1のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は、978カウントであった。比較例1−1で得られたマススペクトルチャートを図2に示す。
【0029】
(比較例1−2)
マトリクスとして2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB:(1−オクタノール/水分配係数0.6)を用いた以外は、実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。比較例1−2のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合、シグナルは検出されなかった。比較例1−2で得られたマススペクトルチャートを図3に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
(実施例2)
ポリエチレングリコール誘導体としてSUNBRIGHT GL4−800HO(日油製、分子量80000、化合物2)の80mg/mLテトラヒドロフラン溶液を用いた以外は、実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例2のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は23,734カウントであった。実施例2で得られたマススペクトルチャートを図4に示す。
【0032】
【化3】
【0033】
(比較例2−1)
マトリクスとしてCHCAを用いた以外は、実施例2と同一の条件で測定および評価を行った。比較例2−1のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は2,005カウントであった。比較例2−1で得られたマススペクトルチャートを図5に示す。
【0034】
(比較例2−2)
マトリクスとしてDHBを用いた以外は、実施例2と同一の条件で測定および評価を行った。比較例2−2のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合、シグナルは検出されなかった。比較例2−2で得られたマススペクトルチャートを図6に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
(実施例3)
ポリエチレングリコール誘導体としてSUNBRIGHT MEH−40T(日油製、分子量40000、化合物4)の40mg/mLテトラヒドロフラン溶液を用いた以外は、実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例3のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は1,390カウントであった。実施例3で得られたマススペクトルチャートを図7に示す。
【0037】
【化4】
【0038】
(比較例3−1)
マトリクスとしてCHCAを用いた以外は、実施例3と同一の条件で測定および評価を行った。比較例3−1のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は39カウントであった。比較例3−1で得られたマススペクトルチャートを図8に示す。
【0039】
(比較例3−2)
マトリクスとしてDHBを用いた以外は、実施例3と同一の条件で測定および評価を行った。比較例3−2のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合、シグナルは検出されなかった。比較例3−2で得られたマススペクトルチャートを図9に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
(実施例4)
ポリエチレングリコール誘導体としてSUNBRIGHT ME−400GS(日油製、分子量40000、化合物5)の40mg/mLテトラヒドロフラン溶液を用いた以外は、実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例4のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は1,971カウントであった。実施例4で得られたマススペクトルチャートを図10に示す。
【0042】
【化5】
【0043】
(比較例4−1)
マトリクスとしてCHCAを用いた以外は、実施例4と同一の条件で測定および評価を行った。比較例4−1のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は39カウントであった。比較例4−1で得られたマススペクトルチャートを図11に示す。
【0044】
(比較例4−2)
マトリクスとしてDHBを用いた以外は、実施例4と同一の条件で測定および評価を行った。比較例4−2のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合、シグナルは検出されなかった。比較例4−2で得られたマススペクトルチャートを図12に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
(実施例5)
ポリエチレングリコール誘導体としてSUNBRIGHT GL2−400HO(日油製、分子量40000、化合物6)の40mg/mLテトラヒドロフラン溶液を用いた以外は、実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例5のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は4,469カウントであった。実施例5で得られたマススペクトルチャートを図13に示す。
【0047】
【化6】
【0048】
(比較例5−1)
マトリクスとしてCHCAを用いた以外は、実施例5と同一の条件で測定および評価を行った。比較例5−1のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は85カウントであった。比較例5−1で得られたマススペクトルチャートを図14に示す。
【0049】
(比較例5−2)
マトリクスとしてDHBを用いた以外は、実施例5と同一の条件で測定および評価を行った。比較例5−2のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合、シグナルは検出されなかった。比較例5−2で得られたマススペクトルチャートを図15に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
(実施例6)
ポリエチレングリコール誘導体としてSUNBRIGHT PTE−40000(日油製、分子量40000、化合物7)の40mg/mLテトラヒドロフラン溶液を用いた以外は、実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例6のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は10,138カウントであった。実施例6で得られたマススペクトルチャートを図16に示す。
【0052】
【化7】
【0053】
(比較例6−1)
マトリクスとしてCHCAを用いた以外は、実施例6と同一の条件で測定および評価を行った。比較例6−1のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合のシグナル強度は564カウントであった。比較例6−1で得られたマススペクトルチャートを図17に示す。
【0054】
(比較例6−2)
マトリクスとしてDHBを用いた以外は、実施例6と同一の条件で測定および評価を行った。比較例6−2のMALDI質量分析用試料の調製方法を用いた場合、シグナルは検出されなかった。比較例6−2で得られたマススペクトルチャートを図18に示す。
【0055】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18