特許第6774628号(P6774628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774628電池監視装置の保護回路、及び電池監視装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774628
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】電池監視装置の保護回路、及び電池監視装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20201019BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20201019BHJP
   H02H 9/04 20060101ALI20201019BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   H02J7/00 S
   H02J7/02 H
   H02H9/04 A
   H01M10/48 P
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-237263(P2016-237263)
(22)【出願日】2016年12月7日
(65)【公開番号】特開2018-93679(P2018-93679A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎一郎
【審査官】 早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−090635(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3150369(JP,U)
【文献】 特開2010−057265(JP,A)
【文献】 実開昭59−122733(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J7/00−7/12
H02J7/34−7/36
H01M10/42−10/48
H02H9/00−9/08
G01R19/00−19/32
G01R31/36−31/396
B60R16/00−17/02
B60L1/00−3/12
B60L7/00−13/00
B60L15/00−15/42
B60L50/00−58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単位電池が直列に接続された構成をなす電池モジュールを監視する電池監視装置の保護回路であって、
複数の電圧信号線を備え、直列に接続された複数の前記単位電池の電池間電極部又は前記電池モジュールの端部電極部に各々の前記電圧信号線が電気的に接続される信号線群と、
直列に接続される複数のツェナーダイオードを備え、各々の前記ツェナーダイオードが複数の前記電圧信号線の信号線間において前記単位電池と並列に接続されるとともに、各々の前記ツェナーダイオードのアノードが、並列に接続される前記単位電池の負極側の前記電圧信号線に接続され、カソードが正極側の前記電圧信号線に接続される第1保護回路部と、
複数の抵抗部を備え、各々の前記抵抗部が各々の前記電圧信号線において前記ツェナーダイオードと前記単位電池との間に介在しつつ電流を制限する抵抗部群と、
直列に接続される複数のバリスタを備え、各々の前記バリスタが複数の前記電圧信号線の信号線間において前記単位電池と並列に接続されるとともに、各々の前記バリスタの各端子が前記電圧信号線において前記抵抗部と前記単位電池との間に接続される第2保護回路部と、
を有し、
複数の前記単位電池の一部でオープン故障しているときに前記電池モジュールの両端に過電圧が生じた場合、オープン故障が生じている前記単位電池に並列に配置された前記バリスタ及び前記ツェナーダイオードに電流が流れる電池監視装置の保護回路。
【請求項2】
請求項1に記載の前記保護回路と、
前記保護回路における複数の前記電圧信号線にそれぞれ接続され、各々の前記電圧信号線に印加された電圧がそれぞれ入力される監視回路と、
を含む電池監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池監視装置の保護回路、及び電池監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の電池セル(単位電池)が直列に接続されてなる電池モジュールを車載用として用いる場合、各々の電池セルの電圧等を監視して、電池セルの状態を監視することが望まれる。この点に関し、特許文献1には、電圧計測ラインを介して各電池セルの電圧を電圧計測部によって監視する電池システムの例が開示されている。この電池システムでは、電池モジュールに通常より大きい電圧が印加された場合、電圧計測ラインに設けられたヒューズを介してツェナーダイオードに電流が流れ、ヒューズが溶断する。そして、このようなヒューズの溶断により回路を保護する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−121246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1で開示される電池システムは、一度ヒューズが溶断すると、溶断したヒューズを新たなヒューズに交換する作業を行わない限り、その経路において電池セルの電圧監視できなくなる。つまり、この電池システムは、ヒューズの溶断によって回路を保護する動作を行った後、その溶断した経路での電圧監視が不能となり、その回復には、手間のかかる作業が避けられないという問題を抱えている。
【0005】
本発明は上述した事情に基づいてなされたものであり、経路を溶断することなく回路を過電流から保護し得る電池監視装置の保護回路、及び電池監視装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、
複数の単位電池が直列に接続された構成をなす電池モジュールを監視する電池監視装置の保護回路であって、
複数の電圧信号線を備え、直列に接続された複数の前記単位電池の電池間電極部又は前記電池モジュールの端部電極部に各々の前記電圧信号線が電気的に接続される信号線群と、
直列に接続される複数のツェナーダイオードを備え、各々の前記ツェナーダイオードが複数の前記電圧信号線の信号線間において前記単位電池と並列に接続されるとともに、各々の前記ツェナーダイオードのアノードが、並列に接続される前記単位電池の負極側の前記電圧信号線に接続され、カソードが正極側の前記電圧信号線に接続される第1保護回路部と、
複数の抵抗部を備え、各々の前記抵抗部が各々の前記電圧信号線において前記ツェナーダイオードと前記単位電池との間に介在しつつ電流を制限する抵抗部群と、
直列に接続される複数のバリスタを備え、各々の前記バリスタが複数の前記電圧信号線の信号線間において前記単位電池と並列に接続されるとともに、各々の前記バリスタの各端子が前記電圧信号線において前記抵抗部と前記単位電池との間に接続される第2保護回路部と、
を有し、
複数の前記単位電池の一部でオープン故障しているときに前記電池モジュールの両端に過電圧が生じた場合、オープン故障が生じている前記単位電池に並列に配置された前記バリスタ及び前記ツェナーダイオードに電流が流れる。
【0007】
第2の発明の電池監視装置は、前記保護回路と、前記保護回路における複数の前記電圧信号線にそれぞれ接続され、各々の前記電圧信号線に印加された電圧がそれぞれ入力される監視回路と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明では、電池モジュールの全体又は一部で過電圧が生じ、いずれかの電圧信号線間の電位差が大きくなった場合に、その電圧信号線間に配置されるバリスタに対して電流を流し、過電流が監視回路側に流れ込むことを防ぐことができる。このようにバリスタに電流を流すことができるため、バリスタが存在しない場合と比較してツェナーダイオードに流れる電流は小さく抑えられる。そして、過電流発生時に一部電流がツェナーダイオードを流れた場合、ツェナーダイオードによって電圧信号線間の電圧をクランプすることができる。このとき、バリスタよりも監視回路側において、ツェナーダイオードの精度で電圧信号線間の電圧をクランプすることができる。つまり、バリスタでのクランプ精度がばらついたとしても、ツェナーダイオード側ではツェナーダイオードの精度でクランプすることが可能となる。
【0009】
第2の発明によれば、第1の発明と同様の効果を奏する電池監視装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の電池監視装置を備えた車載用電池システムを例示する回路図である。
図2】実施例1の電池監視装置を備えた車載用電池システムにおいて、システム電源から電池監視装置に対して過電圧が印加される場合の一例を示す説明図である
図3】実施例1の電池監視装置を備えた車載用電池システムにおいて、システム電源から電池監視装置に対して過電圧が印加される場合の別例を示す説明図である
図4】比較例の車載用電池システムにおいて、システム電源から電池監視装置に対して過電圧が印加される場合の一例を示す説明図である
図5】比較例の車載用電池システムにおいて、システム電源から電池監視装置に対して過電圧が印加される場合の別例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1について説明する。
図1に示す車載用電池システム1は、複数の単位電池4が直列に接続されてなる車載用の電池モジュール2(以下、電池モジュール2ともいう)と、この電池モジュール2の各部位の電圧を検出する車載電池用の電池監視装置10(以下、電池監視装置10ともいう)とを備えている。なお、図1図5において、一部の単位電池4を省略して示しており、省略された単位電池4に対応する回路も省略して示している。
【0012】
電池モジュール2は、車載用の電源として機能し得る蓄電手段であり、例えば電動車両(EVやHEV)の走行用モータの電源等として車両に搭載される。電池モジュール2は、例えば、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などからなる単位電池4を複数個直列に接続した直列接続体として構成されている。
【0013】
電池モジュール2は、後述する電池監視装置10に対して着脱可能とされており、例えば、電池モジュール2の端部電極部2A,2B(以降、電極部2A,2Bともいう)及び電池間電極部2C(以降、電極部2Cともいう)にそれぞれ接続された各端子3と、各電圧信号線12Aとが着脱可能とされている。また、電池モジュール2の電極部2A,2Bにはシステム電源5が接続されている。システム電源5は、電池モジュール2を充電し得る車載用電源であり、電力を出力し得る電源であればよい。図1の例では、電池モジュール2の電極部2A,2Bにシステム電源5からの出力電圧が印加され、このような電力供給により電池モジュール2において各単位電池4の充電がなされる。
【0014】
電池監視装置10は、保護回路11、及び監視回路である電池監視IC20を備えており、電池モジュール2を監視する装置として構成されている。
【0015】
保護回路11は、信号線群12、第1保護回路部13、第2保護回路部14、及び抵抗部群15を有している。
【0016】
信号線群12は、複数の電圧信号線12Aを備えている。これら電圧信号線12Aは、電池モジュール2の電極部2A,2B、及び直列に接続された複数の単位電池4のそれぞれの電極部2Cに各々が電気的に接続されている。
【0017】
電極部2Aは、電池モジュール2の一端部の電極部であり、電池モジュール2において、最も大きい電位の電極部である。電極部2Bは、電池モジュール2の他端部の電極部であり、電池モジュール2において、最も小さい電位の電極部である。電極部2Cは、直列に接続された単位電池4間において一方の単位電池4の正極と他方の単位電池4の負極が電気的に接続された部分である。また、これら電極部2Cのそれぞれの電位は、電極部2Aに近い電極部2Cが、電極部2Aから遠い電極部2Cに比べて大きい。具体的には、複数の電極部2Cの各々は、電池モジュール2において回路内で電極部2Aに近い位置となるにつれて電位が大きくなる。
【0018】
第1保護回路部13は、最も電位が高い電圧信号線12Aと最も電位が低い電圧信号線12Aとの間に直列に接続される複数のツェナーダイオード16を備えている。いずれのツェナーダイオード16も、両端が2つの電圧信号線12Aにそれぞれ接続されるように信号線間に設けられる。各々のツェナーダイオード16は、電極部2A,2B,及び2Cにそれぞれ接続される複数の電圧信号線12Aにおいて、電池モジュール2に対する接続部位が回路内において隣り合う2つの電圧信号線12Aに接続されている。ツェナーダイオード16の両端が接続される両電圧信号線12A(電池モジュール2に対する接続部位が隣り合う電圧信号線12A)は、回路内において電極部2Bに近いほうが電位が低く、電極部2Aに近い信号線のほうが電位が高くなる。
【0019】
ツェナーダイオード16は、電極部2A,2B,及び2Cにそれぞれ接続される複数の電圧信号線12Aの信号線間において単位電池4と並列に接続され、アノードが当該ツェナーダイオード16と並列に接続される単位電池4の負極側の電圧信号線12A(相対的に電位が低い電圧信号線)に接続され、カソードが正極側の電圧信号線12A(相対的に電位が高い電圧信号線)に接続される。
【0020】
各ツェナーダイオード16は、両端が2つの電圧信号線12Aにそれぞれ接続され、相対的に電位が高い電圧信号線12Aにカソードが接続され、その電圧信号線12Aの次に電位が低い電圧信号線12Aにアノードが接続されている。このように接続されるため、ツェナーダイオード16に対して並列に接続された単位電池4の端子間電圧が所定値まで高くなると、ツェナーダイオード16のカソード側からアノード側に電流が流れる。これにより、ツェナーダイオード16の両端に接続された2つの電圧信号線12A間の電圧は所定電圧以下に維持される。
【0021】
第2保護回路部14は、最も電位が高い電圧信号線12Aと最も電位が低い電圧信号線12Aとの間に直列に接続される複数のバリスタ17を備えている。これらバリスタ17は電極部2A,2B,及び2Cにそれぞれ接続される複数の電圧信号線12Aの信号線間において単位電池4と並列に接続されるとともに、各々のバリスタ17の各端子が電圧信号線12Aにおいて後述する抵抗部19と単位電池4との間に接続される。いずれのバリスタ17も、両端が2つの電圧信号線12Aにそれぞれ接続されるように信号線間に設けられる。各々のバリスタ17は、電極部2A,2B,及び2Cにそれぞれ接続される複数の電圧信号線12Aにおいて、電池モジュール2に対する接続部位が回路内において隣り合う2つの電圧信号線12Aに接続されている。各バリスタ17は各単位電池4及び各ツェナーダイオード16に対して並列に接続されている。いずれの電圧信号線12Aでも、バリスタ17の接続部位は、ツェナーダイオード16の接続部位と単位電池4の接続部位との間となっている。
【0022】
バリスタ17は、当該バリスタ17に対して並列に接続された単位電池4の端子間電圧が所定値まで高くなると、当該バリスタ17の両端に接続された2つの電圧信号線12Aのうちの電位が高い一方の電圧信号線12Aから、電位が低い他方の電圧信号線12Aに向けて電流が流れる。これにより、バリスタ17の両端に接続された2つの電圧信号線12A間の電圧は所定電圧以下に維持される。
【0023】
抵抗部群15は、複数の抵抗部19を備えている。これら抵抗部19は各々の電圧信号線12Aにおいてツェナーダイオード16と単位電池4との間に介在しつつ電流を制限する。具体的には、各々の電圧信号線12Aにおいて、ツェナーダイオード16が接続される部位とバリスタ17が接続される部位との間に抵抗部19が設けられており、各抵抗部19は、各々の電圧信号線12Aにおいて第2保護回路部14側から第1保護回路部13側に電流が流れる際に電圧降下を生じさせるように電流を制限している。
【0024】
電池監視IC20は、保護回路11における複数の電圧信号線12Aにそれぞれ接続され、各々の電圧信号線12Aに印加された電圧がそれぞれ入力される。電池監視IC20は、各々の電圧信号線12Aを介して入力される入力電圧を検出し、複数の電圧信号線12Aにおける各信号線間の電圧(即ち、各単位電池4の電極間電圧(セル電圧))をそれぞれ検出する機能を有する。電池監視IC20は、複数の電圧信号線12Aがそれぞれ接続される複数の入力端子を備えており、各電圧信号線12Aを介して入力されるアナログ電圧信号を検知する。更に、各電圧信号線12Aを介して入力されるアナログ電圧信号によって各電圧信号線12A間の電位差(即ち、各単位電池4の端子間電圧)を検出する。なお、電池監視IC20は、入力された各アナログ電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器を有していてもよく、各アナログ電圧信号に基づく判定や制御を行い得る制御回路(CPU等)を有していてもよい。
【0025】
次に、この電池監視装置10の動作について説明する。
本構成では、電池モジュール2を構成する複数の単位電池4が同等の構成をなし、いずれの単位電池4も満充電時の電圧が所定値程度となっている。また、複数のバリスタ17は同等の構成をなし、いずれのバリスタ17もバリスタ電圧が同程度となっている。また、複数のツェナーダイオード16は同等の構成をなし、いずれのツェナーダイオード16もツェナー電圧が同程度となっている。各単位電池4の満充電時の端子間電圧は、各バリスタ17のバリスタ電圧よりも小さく且つ各ツェナーダイオード16のツェナー電圧よりも小さい。
【0026】
各単位電池4の両端に接続される両電圧信号線12A間の電圧がいずれも正常範囲内(単位電池4の満充電時の電圧値(所定値)よりも低い範囲)であり、電池モジュール全体の両端(電極部2A,2B)に接続される両電圧信号線12A間の電圧が正常範囲内である場合、いずれのバリスタ17においても、両端に接続される両電圧信号線12A間の電圧がバリスタ電圧よりも小さくなるため、各バリスタ17には電流が流れない。また、この場合、いずれのツェナーダイオード16においても、両端に接続される両電圧信号線12A間の電圧がツェナー電圧よりも小さくなるため、各ツェナーダイオード16には電流が流れない。この場合、電極部2A,2B,2Cの各電圧に応じたアナログ電圧信号が、各電圧信号線12Aを介して電池監視IC20に入力される。よって、電池監視IC20は、電極部2A,2B,2Cの各電圧、あるいは各単位電池4の端子間電圧(セル電圧)を検出することができる。
【0027】
次に、異常発生時の動作の一例として、システム電源5からの出力電圧が正常範囲よりも大きくなった状態(過電圧出力状態)における電池監視装置10の動作について説明する。
【0028】
まず、比較対象として、図4のような電池システムにおいて、システム電源5からの出力電圧が正常範囲よりも大きくなった状態(過電圧出力状態)における動作について説明する。図4で示す電池システムでは、システム電源5から過電圧が出力され、電極部2Aに接続される電圧信号線112Aと電極部2Bに接続される電圧信号線112Aとの間の電位差が大きくなると、これら両側の電圧信号線112A間に直列に接続された複数のツェナーダイオード116の各端子間電圧V2が増大する。そして、端子間電圧V2がツェナー電圧より大きくなると、複数のツェナーダイオード116を介して電極部2A側から電極部2B側に電流が流れて、各ツェナーダイオード116の両端の電圧がツェナー電圧程度の大きさにクランプされる。このとき、電極部2A,2Bに接続された電圧信号線112Aに設けられたヒューズFに過電流I1が流れる。そして、過電流I1がヒューズFの定格電流を超えて溶断電流に達すると、ヒューズFが溶断する。この後、システム電源5からの出力電圧が過電圧出力状態を継続すると、溶断したヒューズFが接続された電圧信号線112Aに隣り合う電圧信号線112AのヒューズFが溶断することになり、最終的に全てのヒューズFが溶断することになる。このようにヒューズFが溶断すると、電池監視ICやツェナーダイオード116が設けられた回路側には過電流が流れ込まなくなるが、電池監視IC20は電池モジュール2の各部位の電圧を検出できなくなる。このため、図4の電池システムでは、ヒューズFが溶断してしまうとシステム電源5の過電圧出力状態を解消できてもヒューズFを交換しなければ動作することができない。
【0029】
これに対して、図2で示す本構成の電池監視装置10は、システム電源5から過電圧が出力され、電極部2Aに接続される電圧信号線12Aと電極部2Bに接続される電圧信号線12Aとの間の電位差が大きくなると、これら両側の電圧信号線12A間に直列に接続された複数のバリスタ17の各端子間電圧V4が増大する。そして、各バリスタ17の端子間電圧V4が各バリスタ17のバリスタ電圧より大きくなると、各バリスタ17を介して電極部2A側から電極部2B側に電流I2が流れ、各バリスタ17の両端電圧は所定電圧程度にクランプされる。
【0030】
また、システム電源5から過電圧が出力されて電極部2Aに接続される電圧信号線12Aと電極部2Bに接続される電圧信号線12Aとの間の電位差が大きくなった場合、これら両側の電圧信号線12A間に直列に接続された複数のツェナーダイオード16の各端子間電圧V6も増大する。そして、各端子間電圧V6が各ツェナーダイオード16のツェナー電圧より大きい場合には、各ツェナーダイオード16を介して電極部2A側から電極部2B側に電流I3が流れて、各ツェナーダイオード16の両端電圧はツェナー電圧程度の大きさにクランプされる。
【0031】
このように、電池監視装置10は、システム電源5から過電圧が出力されることで電極部2Aに接続される電圧信号線12Aと電極部2Bに接続される電圧信号線12Aとの間の電位差が大きくなった場合、バリスタ17が直列に接続された経路とツェナーダイオード16が直列に接続された経路のいずれにも電流が流れ、電池監視IC20側に過電流が流れ込むことを抑えることができる。そして、このように両直列経路に電流が流れる状態では、各電圧信号線12Aに配置された各抵抗部19の存在により、バリスタ17側からツェナーダイオード16側に向かう方向の電流が制限される。このため、バリスタ17が直列に接続された経路の経路両端電圧V3よりも、ツェナーダイオード16が直列に接続された経路の経路両端電圧V5ほうが電圧が小さくなり、過電圧発生時に各ツェナーダイオード16に印加される電圧が抑えられる。また、電池監視装置10では、バリスタ17が直列に接続された経路が存在するため、少なくともその分だけツェナーダイオード16が直列に接続された経路に流れる電流を抑えることができる。更に、本構成では、図2のような過電圧の発生時に、バリスタ17が直列に接続された経路においてより大きな電流を流すことができ、ツェナーダイオード16が直列に接続された経路の電流I3は、バリスタ17の経路の電流I2よりも小さくすることができる。
【0032】
本構成では、ツェナーダイオードとバリスタの性質上、各ツェナーダイオード16のクランプ電圧の個体間のばらつきは、各バリスタ17のクランプ電圧の個体間のばらつきより小さくなる。つまり、過電圧発生時に各バリスタ17のクランプ電圧が大きくばらついたとしても、各ツェナーダイオード16のクランプ電圧は、ばらつきを抑えて一定値付近に保つことができる。よって、電池監視IC20において隣り合う入力端子間の電位差がばらつきに起因して増大してしまうことを防ぐことができる。
【0033】
本構成では、図2のような過電圧が発生した場合に、上述したような保護動作がなされる。そして、何らかの処理又は対応によってシステム電源5の過電圧状態が解消して通常状態となった場合、各ツェナーダイオード16の端子間電圧V6及び各バリスタ17の端子間電圧V4がいずれも小さくなるため、各バリスタ17の経路及び各ツェナーダイオード16の経路には電流が流れなくなる。このように通常状態に復帰した場合には、電池監視IC20によって、電極部2A,2B,2Cの各電圧、あるいは各単位電池4の端子間電圧(セル電圧)を検出することができる。
【0034】
次に、異常発生時の動作の別例として、システム電源5からの出力電圧が正常範囲よりも大きくなる状態(過電圧出力状態)が発生した場合に、電極部2A,2B,及び2Cのいずれかがオープン故障しているときの電池監視装置10の動作について説明する。
【0035】
まず、図5で示す比較例で上記異常が発生した場合について説明する。図5で示す電池システムにおいて、システム電源5から過電圧が出力されたときに直列に接続されるべき単位電池4の一部で断線等のオープン故障が生じている場合、図5のように、オープン故障している位置を回避してヒューズF及びツェナーダイオード116を通るように過電流が流れる。具体的には、図5のように、過電圧発生に伴い、オープン故障した単位電池4に対して並列に配置されたツェナーダイオード116の両端電圧V10が増大し、電圧V10がツェナー電圧より大きくなると、このツェナーダイオード116に電流I7が流れるとともに両端電圧がツェナー電圧程度の大きさにクランプされる。そして、電流I7がヒューズFの定格電流を超えて溶断電流に達すると、ヒューズFが溶断する。この場合も、ヒューズFを交換しなければ溶断した経路を介しての電圧検出ができなくなる。
【0036】
これに対して、実施例1の電池監視装置10は、図3に示すように、システム電源5から過電圧が出力されたときに直列に接続されるべき単位電池4の一部(図3の例では、2番目の単位電池4の端子間電極部2C)で断線等のオープン故障が生じている場合、図3のように、オープン故障している位置を回避してバリスタ17及びツェナーダイオード16を通るように過電流が流れる。具体的には、図3のように、過電圧発生に伴い、オープン故障した単位電池4に対して並列に配置されたバリスタ17の両端電圧V11及びツェナーダイオード16の両端電圧V12が増大する。オープン故障した単位電池4に並列に配置されたバリスタ17の両端電圧V11がバリスタ電圧より大きくなると、このバリスタ17に電流I8が流れて、このバリスタ17の両端の電圧が所定電圧にクランプされる。また、オープン故障した単位電池4に並列に配置されたツェナーダイオード16の両端電圧V12がツェナー電圧より大きくなると、このツェナーダイオード16に電流I9が流れて、このツェナーダイオード16の両端電圧がツェナー電圧程度にクランプされる。
【0037】
このように、図3のような状態で過電圧が発生した場合でも、オープン故障した単位電池4に対して並列に設けられたバリスタ17、及びツェナーダイオード16を介して過電流を流し、回路を保護することができる。この場合も、抵抗部19の存在により、バリスタ17側からツェナーダイオード16側に向かう方向の電流が制限され、ツェナーダイオード16に印加される電圧が抑えられる。また、少なくともバリスタ17に流れる電流I8の分は、ツェナーダイオード16に流れる電流を抑えることができ、更には、バリスタ17においてより大きな電流を流すことができるため、ツェナーダイオード16の電流I9り小さくすることができる。また、バリスタ17のクランプ電圧の誤差が大きかったとしても、ツェナーダイオード16のクランプ電圧は、所望の値に高精度に保つことができる。
【0038】
次に、上記構成の効果を例示する。
保護回路11は、電池モジュール2の全体又は一部で過電圧が生じ、いずれかの電圧信号線間の電位差が大きくなった場合に、その電圧信号線間に配置されるバリスタ17に電流を流し、過電流が電池監視IC(監視回路)側に流れ込むことを防ぐことができる。このようにバリスタ17に電流を流すことができるため、バリスタ17が存在しない場合と比較してツェナーダイオード16に流れる電流は小さく抑えられる。そして、過電流発生時に一部電流がツェナーダイオード16を流れた場合、ツェナーダイオード16によって電圧信号線間の電圧をクランプすることができる。このとき、バリスタ17よりも電池監視IC(監視回路)側において、ツェナーダイオード16の精度で電圧信号線間の電圧をクランプすることができる。つまり、バリスタ17でのクランプ精度がばらついたとしても、ツェナーダイオード16側ではツェナーダイオード16の精度でクランプすることが可能となる。
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0039】
上述した実施例では、電池モジュール2の一例を示したが、電池モジュールを構成する単位電池の数は複数であればよく、その数は限定されない。また、電池モジュールの各部位に接続される電圧信号線の数も複数であればよく、その数は限定されない。
【0040】
上述した実施例では、電池モジュール2の電極部2A,2B,及び電極部2Cに電圧信号線12Aが接続された構成を例示したが、電池モジュールの端部電極部及び全ての電池間電極部のうちいずれか1つ又は複数位置に電圧信号線が接続されていなくてもよい。例えば、直列に接続された単位電池4において複数個毎に電圧信号線が接続されていてもよい。
【0041】
上述した実施例では、単位電池4として、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池といった二次電池を例示したが、これらの二次電池の代わりに、電気二重層キャパシタなどの蓄電手段を用いてもよい。
【0042】
上述した実施例では、電池監視装置10の外部に電池モジュール2が設けられた構成を例示したが、電池監視装置は、電池モジュールを含んだ構成であってもよい。つまり、電池監視装置は、構成要素として電池モジュールを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。電池監視装置が構成要素として電池モジュールを含む場合、例えば、ツェナーダイオード、電圧信号線などが基板に設けられてなる回路構成体と、電池モジュールとが一体的に構成されていてもよい。
【0043】
上述した実施例では、1つの電池監視装置10が1つの電池モジュール2の各部位を監視する例を示したが、車両内に複数の電池モジュールが設けられる場合、複数の電池モジュールを監視するように電池監視装置が設けられていてもよく、各電池モジュールにそれぞれ対応するように電池監視装置が設けられていてもよい。例えば、複数の電池モジュール2が直列に接続され、直列に接続された複数の電池モジュール2に対してシステム電源から出力電圧が印加されてもよい。この場合、各々の電池モジュール2に1つの電池監視装置がそれぞれ接続されていてもよく、複数の電池モジュール2に対し1つの電池監視装置が接続されるように割り当てられてもよい。また、各々の電池モジュール2に対して複数の電池監視装置が割り当てられていてもよい。
【符号の説明】
【0044】
2…電池モジュール
2A,2B…端部電極部
2C…電池間電極部
4…単位電池
0…電池監視IC(監視回路)
11…保護回路
12…信号線群
12A…電圧信号線
13…第1保護回路部
14…第2保護回路部
15…抵抗部群
16…ツェナーダイオード
17…バリスタ
19…抵抗部
図1
図2
図3
図4
図5