(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Co量が10〜13質量%、Co量に対するCr量の比が2〜8%、TaCとNbCの少なくとも1種をTaCとNbCの総量が0.2〜0.5質量%となる範囲で含有し、残部がWCから成り、硬さが88.6HRA〜89.5HRAであるWC基超硬合金において、研磨面上の面積比におけるWC積算粒度80%径D80と積算粒度20%径D20の比D80/D20が2.0≦D80/D20≦4.0の範囲にあり、上記D80が4.0〜4.86μmの範囲にあり、かつWC接着度cが0.36≦c≦0.43にあることを特徴とするWC基超硬合金。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料の切削加工には、高硬度、高強度、高熱伝導率の特性を有するWC基超硬合金に、耐摩耗性、耐酸化性、耐溶着性に優れたセラミック硬質皮膜を化学蒸着法又は物理蒸着法により単層又は多層に被覆したインサートが一般的に使用されている。
近年では、被削材形状の複雑化や高能率加工の要求に伴い、インサートへの熱的、機械的負荷は増大する傾向にあり、基材であるWC基超硬合金にも耐熱性、耐欠損性が求められるようになっている。また、ステンレス鋼やチタン合金ではインサート刃先部に被削材成分が凝着する頻度が高く、切削寿命をより不安定なものとしている。
【0003】
そこで、WC粒子の粒度分布や粒子形状を制御することで、耐摩耗性、耐欠損性を向上したWC基超硬合金の提案およびWC粒子の粒度分布や粒子形状を制御するための製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献1は、炭化クロムを含有するWC基超硬合金において、大小異なる平均粒径を有する炭化タングステン相の平均粒径の比と体積比をある所定の範囲に制御することにより、耐クラック伝播性、耐欠損性、耐ヒートクラック性に優れた超硬合金を得る技術を開示している。
【0005】
特許文献2は、WC基超硬合金における混合方法を解砕工程と混合工程に分け、各工程のWC粒子の粉砕状態を制御することで、均一なWC基超硬合金組織を得る技術を開示している。
【0006】
WC基超硬合金においては、合金中のWC粒子の分散状態が特性に影響を及ぼすことが古くから知られており、例えば非特許文献1に記載されている方法でWC粒子の分散状態を示す指標であるWC接着度を求めることができる。
【0007】
また、例えば非特許文献2に記載されている様にWC粒子の輪郭形状を円形に近づけることで、応力集中を避け強度を高めるという思想があり、WC粒子の形状を制御することで特性が向上する可能性が示唆されている。
【0008】
前述のような粒子の輪郭形状を評価する指標としては円形度と呼ばれる値が使われることが多い。円形度は例えば非特許文献3に記載されている方法で測定することができる。
【0009】
特許文献3は、WC基超硬合金におけるWC粒子が概略多角形形状で、かつ長径に対してなす2つの角部の曲率半径が50nm以上の丸みを有する粒子を主とした超硬合金を開示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1]WC基超硬合金の組成
<Co含有量>
WCは硬質相成分であり、CoはWC粒子を結合させる結合相である。
Co含有量は10〜13質量%にすることが必要である。Co含有量が10質量%未満では靭性が不十分であり、耐欠損性に劣る。Co含有量が13質量%超ではWC基超硬合金の耐塑性変形性、高温硬さが不十分であり、耐摩耗性、耐溶着性も低下する。好ましくは10.5〜12.5質量%である。
【0022】
<Cr含有量>
CrはCoを主とする結合相中に固溶し、Coを固溶強化することで、WC基超硬合金の靭性及び強度を向上させる。また、Crを含有することでWC粒子の局所的な粒成長を抑制し、均一なWC基超硬合金組織が得られる。さらにCr無添加に比べてWC粒子の間に存在するCo相が均一に分布するようになるため、WC粒子を均一に分散することができる。
Cr含有量は、Coに対し質量比で2〜8%にすることが必要であり、Coに対し質量比で3.0〜6.0%にすることが好ましい。
Cr含有量が質量比で2%未満では固溶強化、粒成長抑制効果ともに不十分である。Cr含有量が質量比で8%超では靭性が低下してチッピングが生じやすくなる。
【0023】
<TaCまたはNbCの少なくとも1種の含有量>
TaCおよびNbCはCoを主とする結合相中にわずかに固溶し高温硬さを高めることが知られている。
TaCとNbCの少なくとも1種をTaCとNbCの総量が0.2〜0.5質量%となる範囲で含有することが必要である。
TaCおよびNbCの含有量が質量比で0.2%未満では高温硬さ向上の効果を十分に得ることが出来ない。また0.5%を超えて多い場合はTaおよび/またはNbを主とする炭化物が生成し、破壊の起点となりやすい。
【0024】
本発明のWC基超硬合金では公知の不可避的不純物の含有が許容される。
【0025】
[2]WC基超硬合金の組織
本発明のWC基超硬合金の組織は、上記本発明のCrとTaCまたはNbCの少なくとも1種を添加したWC基超硬合金の特定組成および後述の製造方法(新規な粉砕・混合工程)を採用したことにより、
図1にも示すように、従来のCrとTaC等を添加したWC基超硬合金とはWC粒子の粒度分布や形状が異なる新規なミクロ組織を呈するものである。
即ち、本発明は、WC基超硬合金の組織において、当該超硬合金の焼結体の研磨面上の面積比において積算して80%を占める際のWCの粒度径D
80に対する面積比において積算して20%を占める際のWCの粒度径D
20の比D
80/D
20を2.0≦D
80/D
20≦4.0の範囲とし、上記D
80を4.0〜
4.86μmの範囲とし、かつWC粒子の接着度cを0.36≦c≦0.43と規定することにより、優れた耐溶着欠損性と長寿命・安定性を両立させたWC基超硬合金を提供するものである。
【0026】
<D
80/D
20値>
超硬合金における上記D
80/D
20は組織中のWC粒子の粒径のバラつきを示す指標の一つであり、値が1に近いほどWC粒径が均一であることを示す。本発明の超硬合金のD
80/D
20は2.0≦D
80/D
20≦4.0の範囲にある必要があり、好ましくは2.5≦D
80/D
20≦3.5である。D
80/D
20が2.0未満では粗粒WC粒子による靭性向上の効果が不十分であり、機械的な衝撃によるチッピングが生じやすくなる。またD
80/D
20が4.0を超えて大きいと粗粒WC粒子の近傍で応力集中によるクラックが発生しやすくなり、さらには細粒WCを主とした組織ではクラックの進展に対する抵抗が小さいため、熱疲労に起因するヒートクラックがスクイ面から逃げ面へと到達しやすく。刃先部のチッピング頻度が高まり、寿命が低下する。
【0027】
<D
80>
前記D
80の値は4.0〜
4.86μmである必要がある。D
80の値が4.0μmより小さいと粗粒WCによる靭性向上の効果が不十分であり、機械的な衝撃によるチッピングが生じやすくなる。また、D
80の値が
4.86μmを超えて大きいと硬さが低下し、耐摩耗性が低下するため、溶着欠損の頻度が高まり寿命が低下する。
【0028】
<WC接着度>
WC−Co超硬合金において、WC接着度をcとすれば、cは単位体積中のWC粒子の全表面積に対するWC/WC界面の面積の占める割合と定義され、非特許文献1の記載に基づけば、c=2S
WC/WC/(2S
WC/WC+S
WC/Co)となる。
ここで、S
WC/WCは、単位体積当たりのWC/WC界面の面積、S
WC/Coは、単位体積当たりのWC/Co界面の面積をいう。
WC−Co超硬合金が完全に緻密であり、合金中における気孔の存在を無視できる場合、WC粒子は他のWC粒子か結合相であるCo相と接触すると考えることができるため、WC/WC界面の面積をWC粒子の全表面積で除することによってWC/WC接着度を得ることができる。現実的にはWC/WC界面の面積を直接測定することができないため、非特許文献1のとおり、インターセプト法を用いて、以下の式で算出することができる。
c=2(N
L)
WC/WC/[2(N
L)
WC/WC+(N
L)
WC/Co]
ここで、(N
L)
WC/WCおよび(N
L)
WC/Coは、それぞれ、任意の直線がWC/WC界面またはWC/Co界面を通過する単位長さあたりの平均回数である。
本発明の超硬合金のWC接着度cは0.36≦c≦0.43にあることが必要である。WC接着度cが0.36より小さい場合、WCのスケルトン構造が不十分であるため、
耐塑性変形性が低下する。また、WC接着度cが0.43を超えて大きい場合、WC/WC界面の面積が増加し、溶着した被削材成分が剥落する際にWC粒子がクラスター状の塊となって持ち去られるため、刃先の一部にチッピングが集中し、溶着欠損の頻度が高まる。
【0029】
本発明は超硬合金の破壊スケールをWC粒子単位で制御するという新規な思想に基づいており、上記のD
80/D
20、D
80、WC接着度cが各々の範囲内であることにより、
チッピングや塑性変形、溶着欠損を抑えて切削寿命の向上と寿命バラつきの大幅な低減が可能となる。
【0030】
<円形度および平均円形度>
上記の本発明超硬合金において、粗粒WCと細粒WC粒子の円形度を各々制御することにより、さらに性能を向上することが可能である。
ここで、円形度とは、個々のWC粒子において、4π(面積S)/(周囲長L)
2にて定義されるものであり、規定対象の粒径群の個々の円形度の平均を平均円形度という。
【0031】
本発明超硬合金において、D
80以上の粒径を有するWC粒子の平均円形度が0.80以上であり、かつD
20以下の粒径を有するWC粒子の平均円形度が0.40〜0.60の範囲にあることが好ましい。
【0032】
D
80以上の粒径を有するWC粒子の平均円形度が0.80以上であることで、粗粒WC角部への応力集中を低減し、かつ生じたクラックの直進を抑えるため合金の靭性が向上し、びびり振動や切りくずの噛み込み等の機械的な衝撃による欠損を低減することができる。
【0033】
また、D
20以下の粒径を有するWC粒子の平均円形度が0.60より小さい場合は細かいWC粒子の形状が略多角形状であることを意味している。これによりWC粒子の形状が略球状である場合に比べて、周囲のWCとの接着頻度が小さくなり、溶着欠損の破壊スケールを抑制することができる。他方、D
20以下の粒径を有するWC粒子の平均円形度が0.40より小さい場合は、WC粒子形状が平板上であることを意味しており、クラックの伝播が生じやすく耐欠損性が低下する。
【0034】
<ミーリング加工用インサート>
本発明の超硬合金は種々の形状を有する切削加工用工具に適用可能であるが、特に、ミーリング加工用インサートに好適である。上記の切削加工用工具やミーリング加工用インサートは、本発明のWC基超硬合金上にTiAlN等の公知の硬質皮膜を単層または多層構造に被覆して構成される。
このような硬質皮膜を構成する化合物としては、例えばTiC、TiN、TiCN、TiNO、TiCNO、TiB
2、TiO
2、TiBN、TiBNO、TiCBN、TiCrCN、ZrC、ZrO
2、HfC、HfN、TiAlN、AlCrN、AlCrSiN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、AlN、AlCN、ZrN、TiZrN、TiAlC、NbC,NbN、NbCN、Mo
2C、WC又はW
2C等が挙げられる。
このような硬質皮膜は、実用に耐えるために、1層当り10nm以上30μm以下の平均厚みを有することが好ましい。
【0035】
[3]WC基超硬合金の製造方法
以下に、本発明に係るWC基超硬合金の製造方法の一例を示すが、本発明の製造方法は、以下の製造方法に限定されるものではない。
<原料スラリーの製造>
細粒WC粉末、Co粉末、Cr
3C
2粉末、TaC粉末および/またはNbC粉末を所定組成にて配合し、適宜助剤等を添加し、湿式混合・粉砕を行い、細粒WCスラリーを作製する。
また、別途、粗粒WC粉末に適宜助剤等を添加し、湿式混合・粉砕を行い、粗粒WCスラリーを作製する。
次に、前記細粒WCスラリーと前記粗粒WCスラリーとをさらに数時間混合することにより、粗細粒WC混合スラリーを得る。
ここで、原料となるWC粉末について、細粒WC粉末の平均粒径は、1.5μm〜3.0μmとし、粗粒WC粉末の平均粒径は、前記細粒WC粉末の平均粒径に対する粗粒WC粉末の平均粒径の比が、1.5〜4.0であるものとすることが好ましい。(ここでWC粒子径はフィッシャー法による測定値とする。)また、Co粉末、Cr
3C
2粉末、TaC粉末、NbC粉末の平均粒径は0.5〜2.0μmとすることが好ましい。
そして、上記工程では、粗粒WC粉末以外を粉砕能力の高い混合条件で予め粉砕・混合した後に粗粒WCと共に粉砕能力の低い混合装置で混合するという新たな工程を採用することで細粒WC粒子の解砕、Co粉末、Cr
3C
2粉末、TaC粉末および/またはNbC粉末の均一分散と粗粒WCの粒径維持、円形度の向上、粗細粒WCの均一分散を両立することが可能となる。上記のTaC粉末およびNbC粉末に代わって固溶体である(Ta,Nb)Cを使用することも可能である。この場合、(Ta,Nb)C粉末の平均粒径は0.5〜2.0μmとすることが好ましく、上記工程のTaC粉末およびNbC粉末と同様に細粒WCスラリーを作製する時点で添加することが均一分散の点で好ましい。
【0036】
<WC基超硬合金(焼結体)の製造>
得られた粗細粒WC混合スラリーをスプレードライヤーにて造粒・乾燥して造粒粉末を得た。得られた造粒粉末により、ミーリング加工用インサート(RPMT1204M0EN、ブレーカを配した形状)の基材用の成形体を成形した。得られた成形体を焼結炉において、所定焼成温度にて所定時間加熱保持後、所定の冷却速度にて、室温まで冷却し、本発明のWC基超硬合金(焼結体)を得た。
【実施例】
【0037】
以下では、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
本発明例1
細粒WC粉末(平均粒径2.5μm)、Co粉末(平均粒径1.2μm)、Cr
3C
2粉末(平均粒径が1.0μm)およびTaC粉末(平均粒径が1.5μm)を用いて、表1に示す組成に配合した。次に配合した各粉末を、湿式混合・粉砕の助剤をエチルアルコール(水分含有量10%未満)としたアトライターに投入し、4時間、湿式の混合・粉砕を行った。この混合・粉砕工程では、原料粉末の総質量に対し2質量%のパラフィンワックスを添加した細粒WCスラリーを作製した。
前記の細粒WCスラリーとは別に、粗粒WC粉末(平均粒径5.5μm)を、湿式混合・粉砕の助剤をエチルアルコール(水分含有量10%未満)としたボールミルに投入し、20時間、湿式の混合・粉砕を行い粗粒WCスラリーを作製した。粗粒WCスラリーの入ったボールミル内に前述の細粒WCスラリーを投入し、さらに4時間混合を行うことで、粗細粒WC混合スラリーを得た。
上記粉砕能力の目安の一例としては、例えば細粒WCスラリーは平均粒径2.5μmの原料WC粉末を4時間で1.0μm以下まで粉砕する能力で混合・粉砕することが、また、粗粒WCスラリーは平均粒径5.5μmの原料WC粉末を20時間で平均粒径2.0μmまで粉砕する能力で混合・粉砕することが挙げられる。
【0038】
そして、その後、最終的に得られた粗細粒WC混合スラリーをスプレードライヤーにて造粒・乾燥して造粒粉末を得た。得られた造粒粉末により、ミーリング加工用インサート(RPMT1204M0EN、ブレーカを配した形状)の基材用の成形体を成形した。得られた成形体を焼結炉に入炉し、焼成温度1350℃〜1430℃にて30〜90分間加熱保持後、前記の焼成温度から1150℃までの冷却速度を10〜40℃/分として冷却し、その後室温まで冷却して本発明のWC基超硬合金(焼結体)を得た。
【0039】
この焼結体を研削、研磨した後、フラットミリングを施し組織観察試料とした。電子プローブマイクロアナライザ(日本電子(株)JXA−8530F、以下EPMA)の反射電子像からインターセプト法によりWC接着度を算出した。上記の操作を各試料の測定切片数が2000個以上となるまで行った。
【0040】
前記の組織観察試料を用い、EPMAに備えた後方散乱電子回折検出器((株)TSLソリューションズ OIM、以下EBSD)によりWC粒子の逆極点図と粒度分布を測定した。得られた逆極点図よりWC粒子の輪郭を抽出し、画像処理ソフト(Media Cybernetics,Inc Image−Pro Prus)で各WC粒子の周囲長と面積を測定し、円形度を算出した。上記の操作を各試料の測定粒子数が2000個以上となるまで行い、WC積算粒度20%径D
20とWC積算粒度80%径D
80を得た。
【0041】
重心間の距離の測定については、前記のD
80以上の粒子径を有するWC粒子(粗大側WC粒子)のみを抽出し、各粒子の重心を画像処理ソフトにより決定し、粗大側WC粒子において、定められた視野内で最大径の粒子(第1の粒子)を選択し、選択された第1の粒子と重心同士が最も接近した粗大側WC粒子(第2の粒子)との重心間の距離を測定した。次に、第1の粒子および第2の粒子のいずれかと重心同士が最も接近した粗大側WC粒子(第3の粒子)を、すでに重心間の距離測定が行われた粒子同士の組み合わせとなる場合を除いて選択し、重心間の距離を測定した。同視野内の粗大側WC粒子について同様の手法にて測定を繰り返し、測定された全重心間距離より、重心間平均距離Rを算出した。測定された粗大側WC粒子数は300個以上であった。
【0042】
得られた本発明例1のWC基超硬合金(RPMT1204M0EN基材)の逃げ面、ブレーカー及び刃先は焼結肌のままとし、底面のみを研削加工し、刃先の先端部にコーナー半径R0.04mmを付与するホーニング処理を施した。次に、このRPMT1204M0EN基材の表面に、物理蒸着法(アークイオンプレーティング法)により、TiAlN硬質皮膜を平均厚さ3μmに被覆して本発明のミーリング加工用インサートを得た。
【0043】
得られた本発明例1のミーリング加工用インサートを用い、以下の条件により切削試験を行った。本条件は一般的な切削条件に対し、切削速度を2倍に設定した高能率加工条件である。
<切削試験の条件>
加工方法:湿式の平面ミーリング加工
切削油 :水溶性切削油を使用
被削材 :SUS304(28HRC)
切削速度:200m/分
一刃あたりの送り量 :0.3mm/刃
軸方向切込み :1.0mm
径方向切込み :30mm
【0044】
<Co量>
本発明において、切削寿命及び10分時点損傷量に及ぼすCoの配合量の影響を確認するために、本発明例1に対し、Co量を変えたインサートを作製し、切削試験を実施した。試験結果を下記表1に示す。
ここで、切削試験における、インサートの切削寿命は、逃げ面の最大摩耗幅が0.300mmを超えたとき、および硬質皮膜が剥離、又は硬質皮膜が欠損(チッピング)し、その幅が0.300mmを超えたときまでの加工時間(分)をいい、切削寿命が、10分以上のものを本発明例とした。
また、表中のデータに付された「*」は、データが請求項1の発明特定事項を満足していないことを示す。(以下、表2〜表8においても同様。)
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すとおり、本発明例1〜4のミーリング加工用インサートは長寿命であり、10分加工時点における工具刃先部の損傷状態はいずれもチッピングであった。Co量が10%より低い比較例1−1は早期にチッピングが生じ、そこから欠損に至った。また、Co量が13%よりも多い比較例1−2は早期に工具すくい面が大きく摩耗し、欠損によって寿命に達した。
【0047】
<Cr/Co比(%)>
本発明例1に対し、Cr/Co比(%)を変えたインサートを作製し、切削試験を実施した。試験結果を下記表2に示す。
なお、表1、表2などでは、Crの含有量はCr/Co比(%)で表示されており、例えば、本発明例1でみると、原料粉に含まれるCrの質量%は、金属Cr換算で、0.48質量%(=12質量%×0.04)となる。
また、表2からも明らかなとおり、本発明に係る硬質合金の適正な硬度(ロックウェル硬さ)範囲は、88.6〜89.5HRAである。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すとおり本発明例1および本発明例5〜7のインサートは長寿命であり、10分加工時点における工具刃先部の損傷状態はいずれもチッピングであった。Cr/Co比が2%より低い比較例2−1は早期に工具すくい面が大きく摩耗し、欠損によって寿命に到達した。またCr/Co比が8%より多い比較例2−2は早期にチッピングが生じ、そこから欠損に至った。
【0050】
<TaC量およびNbC量>
本発明例1に対し、TaC量およびNbC量を変えたインサートを作製し、切削試験を実施した。試験結果を下記表3及び表4に示す。
また、本発明例1のTaC0.3質量%に代えて、TaCとNbCを同時添加したインサート、および、複合炭化物である(Ta
50Nb
50)Cを添加したインサートを作製し、切削試験を実施した。試験結果を本発明例13および本発明例14として下記表5に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表3、表4に示すように本発明例1および本発明例8〜12のインサートは長寿命であり、10分加工時点における工具刃先部の損傷状態はいずれもチッピングであった。TaC量およびNbC量が0.2%より低い比較例3−1、比較例4−1は早期に工具すくい面が大きく摩耗し、欠損によって寿命に到達した。またTaC量およびNbC量が0.5%より多い比較例3−2、比較例4−2は早期にチッピングが生じ、そこから欠損に至った。
【0054】
【表5】
【0055】
本発明例13および14のインサートは長寿命であり、10分加工時点における工具刃先部の損傷状態はいずれもチッピングであった。TaCとNbCの合計量が0.2質量%より低い比較例8−1は早期に工具すくい面が大きく摩耗し、欠損によって寿命に到達した。またTaCとNbCの合計量が0.5質量%より多い比較例8−2は早期にチッピングが生じ、そこから欠損に至った。
【0056】
<ロックウェル硬さHRA>
本発明例1に対し、ロックウェル硬さHRAを変えたインサートを作製し、切削試験を実施した。試験結果を下記表6に示す。
【0057】
【表6】
【0058】
表6に示すように、ロックウェル硬さHRAが88.6より低い比較例5−1は早期に工具すくい面が大きく摩耗し、欠損によって寿命に到達した。またロックウェル硬さHRAが89.5より高い比較例5−2は早期にチッピングが生じ、そこから欠損に至った。
【0059】
<WC積算粒度80%径D
80>
本発明例1に対し、WC積算粒度80%径D
80を変えたインサートを作製し、切削試験を実施した。試験結果を下記表7に示す。組成は本発明例1と同じくCo量12質量%、Cr/Co比4%、TaC量0.3質量%とした。
【0060】
【表7】
【0061】
表7に示すように、WC積算粒度80%径D
80が、4.0μmより小さい比較例6−1は、早期に欠損が生じ、WC積算粒度80%径D
80が、
4.86μmより大きい比較例6−2はホーニング部のスクイ面側にチッピングが生じた後、そこを起点として欠損に至った。
【0062】
<D
80/D
20>
本発明例1に対し、D
80/D
20を変えたインサートを作製し、切削試験を実施した。試験結果を下記表8に示す。組成は本発明例1と同じくCo量12質量%、Cr/Co比4%、TaC量0.3質量%とした。
【0063】
【表8】
【0064】
表8に示すように、D
80/D
20が2.0より小さい比較例7−1は早期に欠損が生じ、D
80/D
20が4.0より大きい比較例7−2はホーニング部のスクイ面側にチッピングが生じた後、そこを起点として欠損に至った。
【0065】
<WC接着度>
前記表1の比較例1−1、比較例1−2、及び前記表8の比較例7−1からも明らかなとおり、WC接着度が所定の範囲を満たさない場合には、所望の切削寿命を達成することができないため、WC接着度は、0.36以上、0.43以下の条件を満足することが必要である。
【0066】
本発明例1〜10について、D
80以上の平均円形度、D
20以下の平均円形度、重心間平均距離RとD
80の比R/D
80を測定し、表9として整理した。
表9中、(*2)は、平均円形度(D
80以上)、平均円形度(D
20以下)にて、請求項2の特定事項を満たしていないこと、(*3)は、R/D
80にて、請求項3の特定事項を満たさないことを示している。
【0067】
【表9】
【0068】
表9によれば、本発明例1〜10は、いずれも、切削寿命10分以上を満たすとともに、切削加工10分時点における損傷量が0.300mm以下であり、優れた特性を有するものである。特に、請求項2の発明特定事項である、D
80以上の粒径を有するWC粒子の平均円形度が0.80以上、かつ、D
20以下の粒径を有するWC粒子の平均円形度が0.40〜0.60の条件を満たす、本発明例1〜3及び本発明例6は、さらに、切削寿命が13分を超え、長寿命であり、中でも、請求項3の発明特定事項である、D
80以上の粒径を有するWC粒子の中心間距離平均RとD
80の比R/D
80が2.5≦R/D
80≦5.0を満たす、本発明例1は、その切削寿命は18分を超え、10分時点における損傷量は、0.15mm以下であり、さらに優れた特性を有するものである。