特許第6774651号(P6774651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774651
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】チョップド繊維束の製造装置
(51)【国際特許分類】
   D06H 7/00 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   D06H7/00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-197090(P2016-197090)
(22)【出願日】2016年10月5日
(65)【公開番号】特開2018-59235(P2018-59235A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰幹
(72)【発明者】
【氏名】河原 好宏
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−114611(JP,A)
【文献】 特開平05−261698(JP,A)
【文献】 特開平04−222231(JP,A)
【文献】 特開昭60−110927(JP,A)
【文献】 特開平05−201613(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/002582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B1/00−23/30;D06C3/00−29/00;D06G1/00−5/00;D06H1/00−7/24;D06J1/00−1/12、
D01G1/00−99/00、
B26D7/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール軸方向に複数の円盤刃が間隔をもって配列された回転されるカッターロールと、前記カッターロールのロール軸方向と平行に配置され前記カッターロールとの間に強化繊維糸条をニップ可能な回転されるニップロールと、前記ニップロールと前記カッターロールとの間へと強化繊維糸条を案内するガイドと、前記カッターロールと前記ニップロール、前記ガイドの少なくとも一方を、前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動させる往復動駆動機構とを備え、前記ガイドを介して前記ニップロールと前記カッターロールとの間に送り込まれる前記強化繊維糸条の糸道を、前記往復動駆動機構を介して前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動するように移動させながら、前記強化繊維糸条を前記カッターロールにより連続的に切断するチョップド繊維束の製造装置であって、前記カッターロール、前記ニップロールの少なくとも一方に対し、前記カッターロールまたは前記ニップロールのロール軸方向と平行に前記カッターロールまたは前記ニップロールに近接して配置されるとともに前記カッターロールまたは前記ニップロールの回転方向と同方向に回転駆動される清掃ロールを設け、前記カッターロールまたは前記ニップロールにおける前記カッターロールまたは前記ニップロールと前記清掃ロールとの間に位置する部位に向けて清掃用エアを吹き付けるエア吹付け機構を設けたことを特徴とするチョップド繊維束の製造装置。
【請求項2】
前記エア吹付け機構が、エアナイフを用いて構成されている、請求項1に記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項3】
前記清掃ロールが、空洞のロール内部とロール表面との間を貫通する多数の孔を有するロールに構成され、前記エア吹付け機構が、前記清掃ロールのロール内部にエアノズルを設け該エアノズルからのエアを前記多数の孔を通して前記カッターロールまたは前記ニップロールに向けて吹き付ける機構に構成されている、請求項1に記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項4】
前記清掃ロールが、その表面の周速が前記カッターロールまたは前記ニップロールの表面の周速よりも高くなるように回転駆動される、請求項1〜3のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項5】
前記カッターロールまたは前記ニップロールと前記清掃ロールとの間の間隙を調整可能な間隙調整機構を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項6】
前記清掃ロールの表面が弾力性を有する材料で形成されている、請求項1〜5のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項7】
前記エア吹付け機構が、吹き付ける清掃用エアの速度または量を調整可能な調整機構を有している、請求項1〜6のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項8】
前記強化繊維糸条が炭素繊維糸条からなる、請求項1〜7のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料として用いた場合、良好な含浸性、流動性、成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学物性を発現するチョップド繊維束を、トラブルなく安定して連続的に製造することが可能なチョップド繊維束の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れること、耐候性、耐薬品性などの高機能特性を有することなどから産業用途においても注目され、その需要は年々高まりつつある。その中でも、3次元形状等の複雑な形状に適した成形方法として、不連続の強化繊維(例えば、炭素繊維)の束状集合体(以下、繊維束ということもある。)とマトリックス樹脂からなる成形材料を用いて、加熱、加圧成形により、所望形状の成形品を製造する技術が知られており、SMC(シートモールディングコンパウンド)やスタンパブルシートを用いた成形等が主なものとして挙げられる。
【0003】
SMC成形品は、強化繊維の繊維束を例えば繊維長が25mm程度になるように繊維直交方向に切断してチョップド繊維束を作製し、該チョップド繊維束に熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂を含浸せしめ半硬化状態としたシート状基材(SMC)を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧することにより得られる。スタンパブルシート成形品は、例えば25mm程度に切断したチョップド繊維束や連続の強化繊維よりなる不織布マット等に熱可塑性樹脂を含浸させたシート状基材(スタンパブルシート)を一度赤外線ヒーターで熱可塑性樹脂の融点以上に加熱し、所定の温度の金型に積層して冷却加圧することにより得られる。多くの場合、加圧前にSMCやスタンパブルシートを成形体の形状より小さく切断して成形型上に配置し、加圧により成形体の形状に引き伸ばして(流動させて)成形を行う。これらは繊維が不連続であるため、樹脂と共に強化繊維束が自由に流動することができるので、3次元形状等の複雑な形状にも追従可能となる。
【0004】
ところで、上述した不連続の強化繊維からなる繊維強化プラスチックの材料の性能を向上させる技術として、不連続繊維のカット角度を繊維方向に対して90°より小さくする知見に関する開示がある(例えば特許文献1、2)。かかる開示には、斜めの切断面を有するチョップドストランドを用いることにより、樹脂とストランド端部接合面積が増大し、応力集中が回避され破壊強度が向上する。また、チョップドストランドが容易に単繊維にまで開繊し、樹脂とストランド接合面積が増大し、応力集中が回避され破壊強度が向上するといった効果が挙げられている。
【0005】
繊維方向に対して90°より小さなチョップドストランドを得る方法として、特許文献1においては、回転ロール上に斜めに切断刃を配置した切断ロールが挙げられている。また特許文献2においては、通常のカッターロール同様、ロール周方向に直線刃を配置した形のカッターロールに、繊維糸条を傾けて導入する方法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−114611号公報
【特許文献2】特開2009−114612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に例示されるようなロール状の刃で連続的に切断を行なうと、刃の間に切断した強化繊維が目詰まりしやすくなり、所定の繊維長や角度どおりにカットしづらくするおそれがある。刃が目詰まりを起こすと、強化繊維の切断がうまく行なわれず、前述のような異形のチョップドストランドが発生するおそれがある。さらにカットし続けると、強化繊維が全く切断されなくなったり、カッターへの巻きつきを起こしたりする等、切断装置の故障につながるおそれがある。
【0008】
また、ニップロール側にもチョップドストランドが付着、堆積することがある。ニップロールにチョップドストランドが付着したまま切断し続けると、カッターに繰り返し送り込まれる形となり、チョップドストランドがみじん切りされたカット片が混入するおそれがある。
【0009】
本発明の課題は、上記のような問題点に着目し、簡便な装置で、強化繊維糸条を連続的に斜め切断でき、かつ、より小さい角度での斜め切断を可能とし、しかも特にその斜め切断により得られるチョップド繊維束を、切断の際に発生するごみ等によるトラブルなく、安定して連続的に製造することが可能なチョップド繊維束の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るチョップド繊維束の製造装置は以下の構成を有する。
(1)ロール軸方向に複数の円盤刃が間隔をもって配列された回転されるカッターロールと、前記カッターロールのロール軸方向と平行に配置され前記カッターロールとの間に強化繊維糸条をニップ可能な回転されるニップロールと、前記ニップロールと前記カッターロールとの間へと強化繊維糸条を案内するガイドと、前記カッターロールと前記ニップロール、前記ガイドの少なくとも一方を、前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動させる往復動駆動機構とを備え、前記ガイドを介して前記ニップロールと前記カッターロールとの間に送り込まれる前記強化繊維糸条の糸道を、前記往復動駆動機構を介して前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動するように移動させながら、前記強化繊維糸条を前記カッターロールにより連続的に切断するチョップド繊維束の製造装置であって、前記カッターロール、前記ニップロールの少なくとも一方に対し、前記カッターロールまたは前記ニップロールのロール軸方向と平行に前記カッターロールまたは前記ニップロールに近接して配置されるとともに前記カッターロールまたは前記ニップロールの回転方向と同方向に回転駆動される清掃ロールを設け、前記カッターロールまたは前記ニップロールにおける前記カッターロールまたは前記ニップロールと前記清掃ロールとの間に位置する部位に向けて清掃用エアを吹き付けるエア吹付け機構を設けたことを特徴とするチョップド繊維束の製造装置。
(2)前記エア吹付け機構が、エアナイフを用いて構成されている、(1)に記載のチョップド繊維束の製造装置。
(3)前記清掃ロールが、空洞のロール内部とロール表面との間を貫通する多数の孔を有するロールに構成され、前記エア吹付け機構が、前記清掃ロールのロール内部にエアノズルを設け該エアノズルからのエアを前記多数の孔を通して前記カッターロールまたは前記ニップロールに向けて吹き付ける機構に構成されている、(1)に記載のチョップド繊維束の製造装置。
(4)前記清掃ロールが、その表面の周速が前記カッターロールまたは前記ニップロールの表面の周速よりも高くなるように回転駆動される、(1)〜(3)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
(5)前記カッターロールまたは前記ニップロールと前記清掃ロールとの間の間隙を調整可能な間隙調整機構を有する、(1)〜(4)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
(6)前記清掃ロールの表面が弾力性を有する材料で形成されている、(1)〜(5)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
(7)前記エア吹付け機構が、吹き付ける清掃用エアの速度または量を調整可能な調整機構を有している、(1)〜(6)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
(8)前記強化繊維糸条が炭素繊維糸条からなる、(1)〜(7)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な装置で、強化繊維糸条を連続的に斜め切断でき、かつ、より小さい角度での斜め切断を可能とし、しかも、特にその斜め切断により得られるチョップド繊維束を、切断の際に発生するごみ等によるトラブルなく、安定して連続的に製造することが可能なチョップド繊維束の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施態様に係るチョップド繊維束の製造装置の概略斜視図である。
図2】カッターロールに取り付けた円盤刃と、円盤刃によって切断される強化繊維糸条とのなす角度との関係を示す概略構成図である。
図3】チョップド繊維束の切断長を示す図2の部分拡大図である。
図4】本発明を実施するための糸道の往復動動作の一例を示す概略構成図である
図5】本発明を実施するためのカッターロールの構成の一例を示す概略構成図である。
図6】本発明を実施するためのカッターロールとニップロールのニップ部の一例を示す拡大概略構成図である。
図7】本発明による効果を説明するための、切断の際に発生するごみの清掃ロールによる清掃動作の例を示す概略構成図である。
図8図1に示した本発明の一実施態様に係るチョップド繊維束の製造装置における清掃動作を説明するための概略部分構成図である。
図9】本発明の別の実施態様に係るチョップド繊維束の製造装置における清掃動作を説明するための概略部分構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
<チョップド繊維束の製造装置の全体構成>
まず、本発明におけるチョップド繊維束の製造に用いる製造装置の全体構成について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施態様に係るチョップド繊維束の製造装置200の全体構成を示しており、該製造装置200は、ロール本体11の外周に、ロール本体41の回転軸と中心軸が一致するように、ロール軸方向X−Xに複数の円盤刃12が間隔をもって配列された回転されるカッターロール10と、カッターロール10のロール軸方向X−Xと平行に配置されカッターロール10との間に強化繊維糸条1(複数の連続強化繊維の束からなる強化繊維糸条)をニップ可能な回転されるニップロール20と、ニップロール20とカッターロール10との間へと強化繊維糸条1を案内するガイド30と、を有している。カッターロール10とニップロール20のセット、ガイド30の少なくとも一方には、これらをカッターロール10のロール軸方向X−Xと平行な方向に往復動させる往復動駆動機構が設けられている。図示例では、カッターロール10とニップロール20のセットを往復動させる往復動駆動機構(A)41と、ガイド30を往復動させる往復動駆動機構(B)42の両方が設けられている。
【0014】
ガイド30を介してニップロール20とカッターロール10との間に送り込まれる強化繊維糸条1の糸道が、往復動駆動機構(A)41、往復動駆動機構(B)42の少なくとも一方を介してカッターロール10のロール軸方向X−Xと平行な方向に往復動するように移動されながら、強化繊維糸条1がカッターロール10により連続的に切断されてチョップド繊維束50が製造される。往復動駆動機構(A)41、往復動駆動機構(B)42はそれぞれ独立に駆動制御されることが好ましい。図1に示す状態では、往復動駆動機構(A)41、往復動駆動機構(B)42の少なくとも一方の作動により、強化繊維糸条1の糸道が、カッターロール10とニップロール20のセットに対し、相対的に矢印Aの方向に移動されている。強化繊維糸条1の糸道が、カッターロール10とニップロール20のセットに対し、斜めに進入されることにより、強化繊維糸条1がカッターロール10により連続的に斜めに切断されて、両端部が斜め切断されたチョップド繊維束50が得られる。
【0015】
上記チョップド繊維束の製造装置200においては、カッターロール10、ニップロール20の少なくとも一方に対し(図示例では、カッターロール10に対し)、カッターロール10またはニップロール20のロール軸方向と平行にカッターロール10またはニップロール20に近接して(間隔をもって)配置されるとともにカッターロール10またはニップロール20の回転方向と同方向に(図示例では、カッターロール10の回転方向と同方向に)回転駆動される清掃ロール60が設けられており、清掃ロール60により、清掃対象としてのカッターロール10が後述の如く適切に清掃されるようになっている。そして、カッターロール10またはニップロール20におけるカッターロール10またはニップロール20と清掃ロール60との間に位置する部位(図示例では、カッターロール10におけるカッターロール10と清掃ロール60との間に位置する部位)に向けて清掃用エアを吹き付けるエア吹付け機構70が設けられている。本実施態様では、エア吹付け機構70は、スリット状のエア吹き出し口を有するエアナイフ71を用いて構成されており、エアナイフ71にエアを供給するエア供給ライン72には、エアナイフ71により吹き付けられる清掃用エアの速度または量を調整可能な調整機構73が設けられている。スリット状のエア吹き出し口を有するエアナイフ71の代わりに、パイプ状のエアノズル(図示略)を複数配置することも可能である。このようなエア吹付け機構70を用いての清掃例の詳細については後述する。
【0016】
<カッターロールとニップロール>
カッターロール10は、ロール本体11と円盤刃12より形成されるロール状回転体全体を指し、ロール表面に円盤刃12の刃部が突出した形状を有する。円盤刃12は、ロール本体11の外周部分に固定もしくは一体化されていてもよいが、刃のメンテナンスの観点から、着脱可能であることが好ましい。またニップロール20は、カッターロール10に隣接もしくは接触するように、カッターロール10の回転軸方向と略平行に設置され、比較的平坦な表面形状を有する。ニップロール20、カッターロール10の材質としては、特に限定されるものではないが、ゴム、ウレタン等の弾力性のある材質を用いると、強化繊維糸条1をグリップする力を向上させることができる。特に、ニップロール20に弾力性のある材質を用いると、カッターロール10との密着性が向上するため、強化繊維糸条1の切断が確実に行われやすくなる。
【0017】
<強化繊維糸条>
本発明に用いる強化繊維糸条1は、特に限定されるものではないが、円盤刃12の減耗が早く頻繁に円盤刃12の交換の必要がある高強度の強化繊維、その中でも特に硬度の高い炭素繊維の場合に、本発明は好適である。
【0018】
<切断手順の全容>
強化繊維糸条1は、ガイド30に導かれるが、その糸道がカッターロール10とニップロール20のセットに対し相対的に左右に往復動されながら、カッターロール10と、その対となるニップロール20との間に挟み込まれ、カッターロール10の表面に突出した円盤刃12によって、チョップド繊維束50の形に切断される。ニップロール20はカッターロール10と常に接触しており、例えば、カッターロール10が駆動することによりニップロール20も摩擦で従動する。また、この場合ニップロール20を駆動、カッターロール10をフリーとして従動させても構わない。また、スリップ等により摩擦でうまく従動しないような場合であれば、ニップロール20、カッターロール10の両方を駆動させてもよい。
【0019】
<強化繊維糸条への張力付与>
強化繊維糸条1は、カッターロール10とニップロール20との間に挟まれ、カッターロール10および/またはニップロール20の回転により引き込まれ、張力が付与される。これにより、ガイド30とニップロール20との間で強化繊維糸条1は所定の角度を保ったまま固定される。したがって、強化繊維糸条1をガイド等により固定したり、強化繊維糸条1に樹脂を含浸させる等してあらかじめ固化したりする等の特別な処理をすることなく、直接カットすることが出来る。
【0020】
<角度調整の説明>
次に、強化繊維糸条1をチョップド繊維束50に切断する際の角度について、図2を用いて説明する。ガイド20の移動速度とカッターロール10のロール軸方向の移動速度との相対速度により、強化繊維糸条1はカッターロール10上の円盤刃12に対し、角度θ[°]をもって進入し、切断される。その結果、角度θ[°]を有する平行四辺形形状のチョップド繊維束50が形成される。なお、角度θ[°]は、円盤刃12と強化繊維糸条1とのなす角度のうち、鋭角の角度として規定する。
【0021】
ここで、V[m/分]は強化繊維糸条1を案内するガイド30の移動速度と、カッターロール10のロール軸方向の移動速度との相対速度、つまり、強化繊維糸条1の糸道のカッターロール10に対する相対移動速度を示し、Rω[m/分]はカッターロール10の周速を示し、角度θ[°]はこの両者の関係により決定される。つまり、これらの速度を適宜変化させることにより、円盤刃12を交換することなく、角度θ[°]を随時容易に、しかも無段階的にコントロールすることが可能である。
【0022】
また、相対速度V[m/分]を任意に変動させることにより、角度θ[°]の変更を連続的に行うことができる。このような切断方法を活用すれば、種々の角度θ[°]を有するストランドを混在させることも可能である。なかでも、往復動駆動機構(A)41と往復動駆動機構(B)42の少なくとも一方の速度を任意に調整する機構を設けておくと、相対速度V[m/分]を容易に変動させることができる。
【0023】
また、相対速度V[m/分]に対して周速Rω[m/分]を大きくしたり、相対速度V[m/分]自身を小さい値に調整したりすることにより、角度θ[°]のきわめて小さい,例えばθ<5°のようなチョップド繊維束を得ることが可能である。このような切断角度θ[°]のきわめて小さいチョップド繊維束は、例えば不連続繊維強化プラスチックに適用した際、その強度向上を図ることができる。
【0024】
<切断長の説明>
強化繊維糸条1の切断長は、図3に示すように、円盤刃12の間隔(配列ピッチ)がP[mm]で、強化繊維糸条1が角度θ[°]で進入した場合、強化繊維糸条1の切断長はP/sinθ[mm]となる。すなわち、角度θ[°]を変化させるだけで、円盤刃12の間隔P[mm]を変更することなく、切断長を任意に、しかも無段階的にコントロールすることが可能である。
【0025】
<往復動ターン時の制御>
図4に示すようにガイド30に案内される強化繊維糸条1が往復動においてカッターロール10の端部まで達したとき、往復動方向を切り替えることで、連続して強化繊維糸条1を切断することができる。例えばガイド30が往復動されている場合、ガイド30が端部でターンし、逆方向に折り返すことにより、切断角度はθ[°]から−θ[°]へと変化する。ここで、−θ[°]は、円盤刃12に対して左右が異なる向きであることを示すものである。折り返し前後で相対速度V[m/分]が一定の場合、切り出されるチョップド繊維束50、52は互いに線対称の形となり、切断長、切断角度は実質同一となる。これを強化繊維糸条1がロール端部に達するごとに繰り返すことにより、切れ目無く、連続的に効率よく行うことが可能となる。
【0026】
上記動作において、ガイド30のターン時、切断角度をθ[°]から−θ[°]へと切り替える過程で、角度θ[°]が0°に近づき、切断長がP/sinθ[mm]より長くなるチョップド繊維束51が切り出される。切断長があまりに長くなり、通常時の切断長との差異が拡大してしまうと、品質の不均一を招く等の悪影響が考えられる。このようなチョップド繊維束51の繊維長を抑えるためにも、往復動のストロークの折り返し端部における強化繊維糸条1の糸道の移動速度が、折り返し端部に至るまでの移動速度に対して適切に増大するよう制御されることが好ましい。
【0027】
次に、カッターロール10の構成の一例を図5に示す。外縁に刃が取り付けられ、中心に取付用の開口部を備えた円盤刃12と、同じく中心に取付用の開口部を備えた円盤形状のスペーサー13とを交互に並べ、円盤刃12およびスペーサー13の開口部にロール本体11を挿通させることにより、カッターロール10を構成することができる。このような構成とすれば、円盤刃12が損耗した場合、損耗した円盤刃12のみを交換すればよく、円盤刃12の交換に伴う作業時間の短縮、交換費用の低減が可能となる。特に、円盤刃12の減耗が早く頻繁に円盤刃12の交換の必要がある高強度の強化繊維、その中でも特に硬度の高い炭素繊維を切断する場合に好適である。また、この構成であれば、スペーサー13を交換もしくは並べ替えすることにより、円盤刃12の間隔を容易に、しかも正確に変更することができる。さらに、複数のカッターロール10を所有しなくても、1種類のカッターロール10にて様々な角度θ[°]、繊維長P/sinθ[mm]に対応することができる。またさらに、円盤刃12もしくはスペーサー13の直径を変更することにより、カッターロール10表面からの刃の突出量を変化させることが可能となる。これによって様々な厚みの強化繊維糸条1に対応することが可能である。
【0028】
このような構成の場合、円盤刃12の形状が非常に単純になることから、円盤刃12の材料として加工の難しいハイス鋼等高硬度の材料を選定することができる。また、スペーサー13についても、同様の理由で様々な材質を用いることができる。
【0029】
上記のように構成されたカッターロール10とニップロール20との間に強化繊維糸条1が送り込まれて切断されるが、ニップされて切断される強化繊維糸条1は、例えば図6に示すようになる。すなわち、強化繊維糸条1は、カッターロール10とニップロール20との間に確実にニップされ、必要な円盤刃12が使用されて、送り込まれてくる強化繊維糸条1が連続的に切断されていく。
【0030】
次に、本発明における清掃ロール60による清掃動作について説明する。以下の説明は、清掃ロール60をカッターロール10に対して設けた場合について例示するが、ニップロール20に対して清掃ロール60を設ける場合にも、同様の清掃機能が得られる。
【0031】
図7に示すように、清掃対象としてのカッターロール10に対し、例えばカッターロール10の円盤刃12の先端との間に僅かな間隙(例えば0.3〜0.5mm程度の間隙)を持たせて清掃ロール60をカッターロール10と平行に配置すると、カッターロール10の表面に付着した強化繊維糸条1の切断屑等のごみGを、図7(A)に示すように、カッターロール10と同方向に回転されている清掃ロール60(したがって、カッターロール10の周面の移動方向と清掃ロール60の周面の移動方向が互いに対向するカウンター方向となる)の表面との接触により弾き飛ばされて除去される。とくに、清掃ロール60が、その表面の周速がカッターロール10の表面の周速よりも高くなるように(例えば、1.5倍以上速く、好ましくは2倍以上速く)回転駆動されると、ごみGの弾き飛ばし効果が向上される。しかし図7(B)に示すように、完全に円盤刃12間に入ってしまったごみGは、清掃ロール60の表面に接触できず、清掃が困難になるおそれがある。
【0032】
そこで本発明では、図8に示すように、上記のように回転駆動される清掃ロール60が設けられるとともに、エアナイフ71を用いてカッターロール10におけるカッターロール10と清掃ロール60との間に位置する部位に向けて清掃用のエア100を吹き付けるエア吹付け機構70が設けられている。このようなエア吹付け機構70を設けることにより、例えば上述の図7(B)に示したようにごみGが完全に円盤刃12間に入ってしまった場合にあっても、エア100の吹き付けによりごみGが引き起こされ、引き起こされたごみGが清掃ロール60の表面に接触し弾き飛ばされて除去されるようになる。さらに、調整機構73により清掃用エアの速度または量を適切に調整することにより、適切な風速の吹き付けエア100により、カッターロール10の表面に付着したごみGを直接的に吹き飛ばすことも可能になる。エア吹付け機構70を設けた結果、より確実にカッターロール10の表面に付着したごみGを除去することが可能になり、とくに完全に円盤刃12間に入ってしまったごみGの除去が可能になり、カッターロール10による切断の際にトラブルを誘発するおそれのあるごみGを適切に除去して、トラブルなく安定して連続的に所望のチョップド繊維束を製造することが可能になる。
【0033】
なお、上記清掃ロール60の表面の材質としては、特に限定されるものではないが、清掃ロール60の表面がゴムのような柔らかい弾力性を有する材料で構成されていると、たとえ円盤刃12の先端と接触することがあっても、円盤刃12を傷つけずに清掃を続行することが可能であり、また、除去すべきごみGとの摩擦係数を大きくすることができるので、接触によるごみGの弾き飛ばしがより容易にかつ確実になる。また、ゴムのような柔らかい材質を用いる場合にあっても、より硬い材質を用いる場合にあっても、例えば清掃ロール60の表面に周方向に延びる溝を刻設しておく等の工夫を加えることで、清掃ロール60の表面が部分的に円盤刃12間に侵入可能になり、清掃ロール60による清掃効果の一層の向上をはかることも可能である。
【0034】
図9は、本発明の別の実施態様に係るチョップド繊維束の製造装置における清掃動作を説明するための概略部分構成、とくに、清掃ロールとエア吹付け機構の別の実施形態を示している。図1図8に示したようなエアナイフ71の設置が困難な場合に有効な実施形態である。図9において、カッターロール10に対し平行に配置された清掃ロール80はロール内部が空洞のロールに構成され、空洞のロール内部とロール表面との間を貫通する多数の孔81を有するロールに構成されている。エア吹付け機構90は、清掃ロール80のロール内部に挿入されて設置されるエアノズル91を有し、該エアノズル91にエアを供給するエア供給ライン92には、エアノズル91から清掃ロール80の多数の孔81を通しカッターロール10に向けて吹き付けられる清掃用の吹き付けエア100の速度または量を調整可能な調整機構93が設けられている。
【0035】
このような清掃ロール80とエア吹付け機構90においては、エアノズル91の向きは固定されて、エアノズル91のエア吹き出し口からは常にカッターロール10に向け多数の孔81を通してエア100が吹き付けられ、清掃ロール80はカッターロール10と同方向に回転されて、吹き付けエア100により引き起こされたカッターロール10表面のごみが清掃ロール80との接触により弾き飛ばされる。図9に示す装置では、図8に示した装置と同様の清掃効果が得られる。清掃ロール80の内部機構は図8に示した装置に比べやや複雑になるが、図8に示した装置のようにエアナイフ71の設置用スペースは不要になる。
【0036】
なお、以上の実施態様の説明は、清掃対象としてカッターロール10を例示して説明したが、清掃対象をニップロール20とする場合にも、同様のエア吹付けによる清掃機構の設置が可能である。カッターロール10とニップロール20の両方に対し、それぞれエア吹付けによる清掃機構を設置することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、カッターロール等の清掃を行いながら、強化繊維糸条の斜め切断によりチョップド繊維束を連続的に安定して製造することが求められるあらゆる用途に適用でき、とくに強化繊維糸条が炭素繊維糸条である場合に好適なものである。
【符号の説明】
【0038】
1:強化繊維糸条
10:カッターロール
11:ロール本体
12:円盤刃
13:スペーサー
20:ニップロール
30:ガイド
41:往復動駆動機構(A)
42:往復動駆動機構(B)
43:折り返し端部移動速度制御手段
50、51、52:チョップド繊維束
60、80:清掃ロール
70、90:エア吹付け機構
71:エアナイフ
72,92:エア供給ライン
73、93:調整機構
81:孔
91;エアノズル
100:吹き付けエア
200:チョップド繊維束の製造装置
θ:繊維のカット角度[°]
V:ガイドの移動速度に対する、カッターロールのロール軸方向の移動速度との相対速度[m/分]
Rω:カッターロールの周速[m/分]
P:円盤刃の配置ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9