特許第6774662号(P6774662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6774662-窒化マグネシウム粉末の製造法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774662
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】窒化マグネシウム粉末の製造法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/06 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   C01B21/06 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-27973(P2017-27973)
(22)【出願日】2017年2月17日
(65)【公開番号】特開2018-131366(P2018-131366A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】初森 智紀
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
(72)【発明者】
【氏名】松井 克己
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02487474(US,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0127492(KR,A)
【文献】 特開平01−145309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応前段部に1100℃以上1500℃以下に加熱するゾーン及び反応後段部に100℃以上800℃以下に加熱するゾーンを連続して有する反応装置を用い、次の工程(a)及び(b)を連続して行うことを特徴とする窒化マグネシウム粉末の製造法。
(a)流量10mL/min〜2.5L/minでアルゴンガスを供給することによって形成されるアルゴンガス雰囲気下、金属マグネシウムを、1100℃以上1500℃以下に加熱するゾーンを流通させて蒸気化する工程、
(b)反応前段部の加熱ゾーンと反応後段部の加熱ゾーンの間よりアルゴンガスよりも少ない流量で窒素を供給することによって形成される窒素ガスおよびアルゴンガス混合雰囲気下、マグネシウム蒸気を100℃以上800℃以下に加熱するゾーンを流通させて窒化マグネシウム粉末を生成させる工程
【請求項2】
反応前段部の加熱ゾーンと反応後段部の加熱ゾーンとの間隔が、反応前段部で生成したマグネシウム蒸気が液化しない距離である請求項1記載の窒化マグネシウム粉末の製造法。
【請求項3】
窒化マグネシウム粉末の回収が、反応後段部の加熱ゾーン内又は当該加熱ゾーン直後である請求項1又は2記載の窒化マグネシウム粉末の製造法。
【請求項4】
工程(b)における窒素ガスおよびアルゴンガス混合雰囲気下を形成する窒素ガスの流量が、5mL/min〜2L/minである請求項1〜3いずれか1項記載の窒化マグネシウム粉末の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属マグネシウムから窒化マグネシウム粉末を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化マグネシウム(Mg32)は、蛍光体原料として有用であり、注目されている。蛍光体として使用されるMg32は粉末状の形態で利用される。
【0003】
窒化マグネシウムは、金属マグネシウム(Mg)と窒素を800〜900℃で反応させることにより得られる(非特許文献1〜7)。この合成法においては、通常、横型管状炉を用いてアルミナボートに金属マグネシウムを仕込み、窒素ガスフロー下で焼成することにより得られる。また、焼成手段としては、管状炉以外にプラズマCVD法、減圧CVD法も用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】非特許文献1:「化学大辞典5」、共立出版(株)、第887頁、1961年
【非特許文献2】大木道則編、「化学大辞典」、(株)東京化学同人、第1版、第1414−1415頁、1989年
【非特許文献3】「無機化合物・錯体辞典」、中原勝儼著、(株)講談社サイエンティフィック、第481頁、1997年
【非特許文献4】「新実験化学講座8 無機化合物の合成[I]」、丸善(株)、第413−414頁、1976年
【非特許文献5】板谷清司、日本セラミックス協会1991第4回秋季シンポジウム講演予稿集、第242ページ
【非特許文献6】板谷清司、日本セラミックス協会1992、年会講演予稿集、第504ページ
【非特許文献7】板谷清司、石膏と石灰、250、第202−210、1994−05
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来法では、この合成方法の場合、金属マグネシウムの融点(650℃)および窒化マグネシウムの融点(800℃)以上に加熱することから、得られる窒化マグネシウムは溶融するため、自然冷却後容器と窒化マグネシウムが密着して、試料の回収が非常に困難である。また、試料を回収した後の粉砕工程において窒化マグネシウムの塊が非常に硬いため、窒化マグネシウム粉末として得られる収量も少ない。
また、プラズマCVD法では、酸素との反応が生じ収率が低く、減圧CVD法では炉壁に原料や窒化マグネシウムが付着し、収率が低く、MgOが副生する。
【0006】
従って、本発明の課題は、容易な手段により高収率で窒化マグネシウム粉末を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、金属マグネシウムの加熱手法から粉末として回収する手段までを検討したところ、金属マグネシウムの蒸気化及び窒化マグネシウム粉末の析出までを連続して行うように制御すれば、特別な装置を使用することなく、高収率で窒化マグネシウム粉末が製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔3〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕反応前段部に1100℃以上1500℃以下に加熱するゾーン及び反応後段部に100℃以上800℃以下に加熱するゾーンを連続して有する反応装置を用い、次の工程(a)及び(b)を連続して行うことを特徴とする窒化マグネシウム粉末の製造法。
(a)アルゴンガス雰囲気下、金属マグネシウムを、1100℃以上1500℃以下に加熱するゾーンを流通させて蒸気化する工程、
(b)窒素ガスおよびアルゴンガス混合雰囲気下、マグネシウム蒸気を100℃以上800℃以下に加熱するゾーンを流通させて窒化マグネシウム粉末を生成させる工程
〔2〕反応前段部の加熱ゾーンと反応後段部の加熱ゾーンとの間隔が、反応前段部で生成したマグネシウム蒸気が液化しない距離である〔1〕記載の窒化マグネシウム粉末の製造法。
〔3〕窒化マグネシウム粉末の回収が、反応後段部の加熱ゾーン内又は当該加熱ゾーン直後である〔1〕又は〔2〕記載の窒化マグネシウム粉末の製造法。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、特殊な装置を用いることなく、金属マグネシウムから窒化マグネシウム粉末を高収率で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】窒化マグネシウムの気相合成装置の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の窒化マグネシウム粉末の製造法は、反応前段部に1100℃以上1500℃以下に加熱するゾーン及び反応後段部に100℃以上800℃以下に加熱するゾーンを連続して有する反応装置を用い、次の工程(a)及び(b)を連続して行うことを特徴とする。
(a)アルゴンガス雰囲気下、金属マグネシウムを、1100℃以上1500℃以下に加熱するゾーンを流通させて蒸気化する工程。
(b)窒素ガスおよびアルゴンガス混合雰囲気下、マグネシウム蒸気を100℃以上800℃以下に加熱するゾーンを流通させて窒化マグネシウム粉末を生成させる工程。
【0013】
本発明の製造方法に用いられる反応装置は、例えば図1のように、反応前段部の加熱ゾーン1と反応後段部の加熱ゾーン2とを有する。
【0014】
加熱ゾーン1は、1100℃以上1500℃以下に加熱するゾーンであり、ヒーター1(A)によりこの温度に加熱される。この加熱ゾーン1には、原料である金属マグネシウムを収容する原料用匣鉢(B)が設置されている。原料用匣鉢(B)の材料は、1500℃の加熱により変性しない材料、例えば、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等が好ましい。
【0015】
加熱ゾーン2は、100℃以上800℃以下に加熱するゾーンであり、ヒーター2(G)によりこの温度に加熱される。この加熱ゾーン2の内部又は加熱ゾーン2の直後には、目的物である窒化マグネシウム粉末を回収するための合成物回収用匣鉢(H)が設置されている。合成物回収用匣鉢(H)の材料は、800℃の加熱により変性しない材料、例えばムライト、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、石英ガラス等が好ましい。
【0016】
加熱ゾーン1と加熱ゾーン2とは、加熱ゾーン1で生成したマグネシウム蒸気を、蒸気の状態で加熱ゾーン2に移動させるために、連続して設置されている必要があり、その間隔は、加熱ゾーン1で生成したマグネシウム蒸気が液化しない距離であるのが望ましい。具体的には、その間隔は、10mm〜1000mmが好ましく、10mm〜800mmがより好ましく、10mm〜500mmがさらに好ましい。
【0017】
なお、反応装置には、窒素ガス供給ボンベ(C)、窒素ガス流量計(D)、アルゴンガス供給ボンベ(E)及びアルゴンガス流量計(F)が設置されているのが好ましい。また、アルゴンガスの代わりにヘリウムガスを用いても良い。加熱ゾーン2の後段には、粉末トラップ(I)が設置されているのが好ましい。
【0018】
本発明の窒化マグネシウム粉末の製造方法の工程(a)は、アルゴンガス雰囲気下、金属マグネシウムを、1100℃以上1500℃以下に加熱するゾーンを流通させて蒸気化する工程である。
アルゴンガス雰囲気は、加熱ゾーン1にアルゴンガスを供給することにより形成される。アルゴンガス流量は、工程(b)で供給される窒素ガス流量よりも多いことが望ましく、反応容器の大きさにも因るが、10mL/min〜3L/minが好ましく、30mL/min〜2.5L/minがより好ましい。
【0019】
金属マグネシウムの沸点は1091℃であるから、金属マグネシウムを、1100℃以上1500℃以下の加熱ゾーン1を流通させれば、金属マグネシウムは蒸気となる。1100℃未満ではマグネシウムが蒸気化せず、窒化マグネシウムが得られない。加熱ゾーン1の温度は1100℃以上1450℃が好ましく、1100℃以上1400℃以下がより好ましい。加熱時間は、金属マグネシウムの量にもよるが、0.5時間〜48時間が好ましく、0.5時間〜24時間がより好ましい。
【0020】
工程(b)は、窒素ガスおよびアルゴンガス混合雰囲気下、マグネシウム蒸気を100℃以上800℃以下の加熱ゾーン2を流通させて窒化マグネシウム粉末を生成させる工程である。加熱ゾーン2を窒素ガスおよびアルゴンガス混合雰囲気にするには、加熱ゾーン1と加熱ゾーン2の間より窒素を供給することが望ましい。窒素ガス流量は、加熱ゾーン1への窒素の供給を防ぐ観点から、工程(a)で供給されるアルゴンガス流量よりも少ないことが望ましく、反応容器の大きさにも因るが、5mL/min〜2.5L/minが好ましく、10mL/min〜2L/minがより好ましい。
金属マグネシウムの融点は、1200℃であるから、100℃以上800℃以下にすれば、マグネシウム蒸気は、気相で粉末化する。100℃未満では高純度の窒化マグネシウムが得られず、800℃を超えると窒化マグネシウムが粉末として回収できない。加熱ゾーン2の好ましい温度は、100〜800℃であり、より好ましくは100〜750℃である。加熱時間は、0.5時間〜48時間が好ましく、0.5時間〜24時間がより好ましい。
【0021】
金属マグネシウムを、工程(a)及び工程(b)に付すことにより、高純度の窒化マグネシウム粉末が高収率で得られる。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0023】
実施例1
マグネシウム(Mg)20g(高純度化学社、粉末、180μm以下)をアルミナ容器に入れ、図1に示すゾーンに仕込んだ。炉内を差圧−10Paになるように真空ポンプで真空引きし、アルゴンガスを2L/min、窒素ガスを1L/minフローさせ、加熱ゾーン1を1300℃、加熱ゾーン2を600℃となるように昇温し、12時間保持した。その後、自然冷却し−90℃に露点管理したグローブボックス内に炉芯管を入れ、試料を取り出した。試料の評価として、酸素窒素分析装置(LECO社 TCH−600)を用いて酸素窒素の定量分析を、鉱物の同定にXRD分析を行った。
合成物回収用匣鉢から回収できた窒化マグネシウムの重量を測定し、回収量とした。
【0024】
実施例2〜6及び比較例1〜3
実施例1の条件を表1のように変化させて、実施例2〜6及び比較例1〜3を行った。
比較例1は、加熱ゾーン1が1000℃で金属マグネシウムが蒸気化できなかったため、窒化マグネシウムが合成できなかった。比較例2は、加熱ゾーン2が900℃と高く、合成物回収用匣鉢に溶融し、窒化マグネシウムが回収できなかったため、試料の評価を行わなかった。
【0025】
実施例1〜6及び比較例1〜3の結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1から明らかなように、加熱ゾーン1を1100〜1500℃とし、加熱ゾーン2を100〜800℃とすることによって、金属マグネシウムから高純度の窒化マグネシウム粉末が高収率で得られることがわかる。
【0028】
比較例4
マグネシウム(Mg)10g(高純度化学社、粉末、180μm以下)をアルミナボートに入れ、横型管状炉に仕込んだ。窒素ガスを1L/minフロー下、900℃まで昇温させ、12時間保持した。その後、自然冷却し−90℃に露点管理したグローブボックス内に炉芯管を入れ、試料の取り出しを試みた。アルミナボートと密着して合成物の全量回収は困難であったため、アルミナが混入しないように表面部分の窒化マグネシウムを削り取り、約3gを回収し、実施例1と同様に分析を行った。表2に実験水準と分析結果を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2より、従来の方法では、窒化マグネシウムを粉末として回収できず、収率も低かった。
【符号の説明】
【0031】
(1):加熱ゾーン1
(2):加熱ゾーン2
A:ヒーター1
B:原料用匣鉢
C:N2ガス供給ボンベ
D:N2流量計
E:Arガス供給ボンベ
F:Arガス流量計
G:ヒーター2
H:合成物回収用匣鉢
I:粉体トラップ
J:ロータリーポンプ
K:減圧調整用バルブ
図1