特許第6774663号(P6774663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774663P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートの精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774663
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/10 20060101AFI20201019BHJP
   C07H 1/06 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   C07H19/10
   C07H1/06
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-547665(P2018-547665)
(86)(22)【出願日】2017年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2017038237
(87)【国際公開番号】WO2018079503
(87)【国際公開日】20180503
【審査請求日】2019年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-209024(P2016-209024)
(32)【優先日】2016年10月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-209026(P2016-209026)
(32)【優先日】2016年10月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大庭 勇介
(72)【発明者】
【氏名】小山 智子
(72)【発明者】
【氏名】加納 文尊
(72)【発明者】
【氏名】内野 飛翔
【審査官】 神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/103704(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/012949(WO,A1)
【文献】 Org Biomol Chem,2011年,Vol.9,pp.730-738,DOI: 10.1039/c0ob00542h
【文献】 有機合成化学,Vol.40,pp.853-854,DOI: 10.5059/yukigoseikyokaishi.40.853
【文献】 炭素,2008年,No.232,pp.98-107,DOI: 10.7209/tanso.2008.98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートおよび鉄イオンを含有する水溶液または親水性溶媒溶液から、鉄イオンを除去し、P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートを精製する方法であって、
(1)キレート樹脂を用いたカラム精製工程、および
(2)キレート樹脂カラム精製後の溶液pHを5.5以下に調整した後、P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートを結晶化させる工程、又は
キレート樹脂カラム精製後の溶液を、塩化亜鉛賦活活性炭によって処理する工程
を含む、P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートの精製方法。
【請求項2】
鉄イオンが3価の鉄イオンである、請求項1記載の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートおよび鉄イオンを含有する水溶液または親水性溶媒溶液から、鉄イオンを除去し、当該鉄イオン濃度を低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式[I]で表されるP1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェート(以下「UP4U」と表記する)またはその塩は、ドライアイに伴う角結膜上皮障害の治療薬として用いられている。また、痰排出誘導作用を有し、去痰剤または肺炎治療薬としての開発が期待されている化合物である。
【0003】
【化1】
【0004】
従来UP4Uの合成法として、下記の方法が知られている。
(1)ウリジン5’−トリリン酸(UTP)の脱水縮合反応により調製されるウリジン5’−環状トリリン酸と、ウリジン5’−モノリン酸(UMP)とを反応させる方法(非特許文献1)、およびその改良法(特許文献1)。
(2)ピロリン酸をイミダゾールによって活性化してピロリン酸ジイミダゾリドを合成し、これをジメチルホルムアミド(DMF)などの有機溶媒を用いた無水環境下でUMPと縮合させる方法(特許文献2、非特許文献2)。
(3)下記式[II]または[III]で示されるリン酸活性化合物と、UMP、UDP、UTPおよびピロリン酸から成る群より選択されるリン酸化合物またはその塩(UTPフリーを除く)とを、鉄(II)イオンまたは鉄(III)イオン等の金属イオンの存在下、水または親水性溶媒中で反応させることを特徴とする方法(特許文献3)。
(式[II]中、R1は5’位で結合したウリジル基を、Xは複素環式基を、nは1または2の整数を示す。)
(式[III]中、Xはイミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基および1,2,4−トリアゾリル基から成る群より選択される1つの複素環式基を示す。)
【0005】
【化2】
【0006】
【化3】
【0007】
中でも(3)の方法を用いると、工業的な大量製造に適さないUTPフリーの利用およびUTP塩の脱水操作を回避しつつ、しかも収率よくUP4Uを合成できる。また、この方法は、副生成物をほとんど生成せず、親水性条件下で反応を行うことにより煩雑な脱水工程を省略できることなどから、UP4Uの工業的な大量合成にきわめて好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2008/012949
【特許文献2】WO2008/024169
【特許文献3】WO2014/103704
【特許文献4】WO2000/020430
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bioorg.& Medicinal Chemistry Letters,vol.11,157−160(2001)
【非特許文献2】Org.Biomol.Chem.,2011,No.9,730−738(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
UP4Uは医薬品原料として用いられる化合物であり、きわめて高度な不純物管理が求められる。したがって金属イオン濃度についても、十分な低値におさえることが必須である。一方、たとえば上記(3)の製造方法では、反応溶液中に触媒として鉄(II)イオンまたは鉄(III)イオン等の金属イオンを添加することから、反応終了後のUP4U溶液には金属イオンが含有されている。このような場合、精製工程において金属イオンを除去する必要がある。
【0011】
UP4Uの精製法として従来、粗UP4U又はその塩を、陰イオン交換クロマトグラフィーと活性炭クロマトグラフィーとを用いて精製し、精製されたUP4U又はその塩溶液を、所望によりpH6〜9に調整後、60℃以下の温度条件で親水性有機溶媒を加えて結晶を析出させることを特徴とするUP4U又はその塩の結晶の製造法が知られている(特許文献4)。しかし、鉄イオンを含むUP4U溶液中からの金属の除去効率等については検討されていない。
【0012】
一方、溶液中の鉄イオンを除去する方法としては、リン酸や苛性ソーダを用いて鉄イオン由来の沈殿を形成させ、当該沈殿を除去する方法、キレート樹脂や合成吸着樹脂を用いて鉄イオンを吸着除去する方法などが、常法として用いられる。しかしながら、本発明者は検討を行った結果、鉄イオンを含有するUP4U反応液の鉄イオン濃度を低下させようとするとき、上に説明したような常法では、鉄イオンの濃度を十分に低減することができない場合があることを見出した。
【0013】
したがって本発明の課題は、UP4Uの精製法として容易かつ実践的な鉄イオン除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、UP4Uおよび鉄イオンを含む水溶液または親水性溶媒溶液から鉄イオンを除去するにあたり、キレート樹脂を用いたカラム精製工程と、従来知られている結晶化条件とは異なるpH5.5以下での結晶化工程、又は塩化亜鉛賦活活性炭を用いた処理工程とを組み合わせることによって、UP4U反応液中の鉄イオンを十分に除去し、当該鉄イオンの残存濃度10ppm以下という非常に低い濃度まで低減させることができることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供するものである。
〔1〕P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートおよび鉄イオンを含有する水溶液または親水性溶媒溶液から、鉄イオンを除去し、P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートを精製する方法であって、
(1)キレート樹脂を用いたカラム精製工程、および
(2)キレート樹脂カラム精製後の溶液pHを5.5以下に調整した後、P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートを結晶化させる工程、又は
キレート樹脂カラム精製後の溶液を、塩化亜鉛賦活活性炭によって処理する工程
を含む、P1,P4−ジ(ウリジン5’−)テトラホスフェートの精製方法。
〔2〕鉄イオンが3価の鉄イオンである、〔1〕記載の精製方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の精製方法を用いることにより、鉄イオンを触媒として用いる方法でも、触媒を用いない方法で製造されたUP4Uと同等品質のUP4Uを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、キレート樹脂カラム処理の後に、各種樹脂を用いて再度キレート樹脂カラム処理を行ったときの、処理終了後溶液中における対UP4U鉄イオン濃度を示したものである。
図2図2は、キレート樹脂カラム処理の後に活性炭処理を行った時の、処理終了後溶液中における対UP4U鉄イオン濃度を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の方法は、UP4Uおよび鉄イオンを含有する水溶液または親水性溶媒溶液から、鉄イオンを除去し、当該鉄イオン濃度を低減させる方法に関するものである。
【0019】
UP4Uおよび鉄イオンを含有する水溶液または親水性溶媒溶液は、UP4Uおよび鉄イオンを含有する限り限定されるものでない。たとえば、(1)下記式[II]または[III]で示されるリン酸活性化合物と、(2)UMP、UDP、UTPおよびピロリン酸から成る群より選択されるリン酸化合物またはその塩(UTPフリーを除く)とを、(3)鉄(II)イオンおよび鉄(III)イオンからなる群より選択される金属イオンの存在下、水または親水性有機溶媒中で反応させることを特徴とする製造法(特許文献3)によって得られた合成反応液などを挙げることができる。
(式[II]中、R1は5’位で結合したウリジル基を、Xは複素環式基を、nは1または2の整数を示す。)
(式[III]中、Xはイミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基および1,2,4−トリアゾリル基から成る群より選択される1つの複素環式基を示す。)
【0020】
【化4】
【0021】
【化5】
【0022】
本発明の「鉄イオン」とは、鉄が塩の形態で溶液に添加されることによって、水または親水性有機溶媒中で金属イオンとなっているものをいう。塩の種類としては、ハロゲン化物、無機酸塩、有機酸塩等を提示することができる。さらなる具体例としては、(i)ハロゲン化物の例として塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化第二鉄等を、(ii)無機酸塩の例として硫酸、硝酸、過塩素酸等の無機酸塩を、(iii)有機酸塩の例としてトリフルオロメタンスルホン酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩等を有機酸塩を挙げることができる。塩は第一鉄塩であっても第二鉄塩であってもよいが、第二鉄塩が好ましく、中でも塩化第二鉄が特に好ましい。なお、用いる塩は、無水物であっても水和物であっても良い。
【0023】
本発明のUP4U溶液において、溶媒は水または親水性有機溶剤である。親水性有機溶剤としては、メタノール、エタノール等の炭素数6以下のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類等を使用することができる。
【0024】
UP4U溶液中の鉄イオン濃度は、UP4Uに対して10ppm以上であるのが好ましく、60ppm以上であるのがより好ましく、60ppm以上10%以下であるのがさらに好ましい。またUP4U溶液中のUP4U濃度は0.01〜10%が好ましく、0.1〜5%がより好ましく、1〜3%がさらに好ましい。
【0025】
本発明の方法は、UP4U溶液から鉄イオンを除去する方法において、(1)キレート樹脂を用いたカラム精製工程と、(2)pH5.5以下で結晶化を行う工程、又は塩化亜鉛賦活化活性炭処理を行う工程とを含む、UP4Uの精製方法に関するものである。
【0026】
(1)のキレート樹脂を用いたカラム精製工程では、常法にしたがってカラム精製を行えばよい。用いるキレート樹脂の種類としてはアミノリン酸型、イミノジ酢酸型、ポリアミン型、ビスピコリルアミン型、イソチオウロニウム型などの中から任意のものを用いればよい。中でもアミノリン酸型、イミノジ酢酸型のものが好ましい。
【0027】
キレート樹脂の市販品としては、IRC747(アミノリン酸基Na型、オルガノ株式会社製)、IRC748(イミノジ酢酸基Na型、オルガノ株式会社製)、CR−11(イミノジ酢酸基Na型、三菱化学株式会社製)、CR−20(ポリアミン基遊離型、三菱化学株式会社製)、OT−71(イミノジ酢酸基Na型、室町ケミカル社製)、XMS−5612(アミノリン酸基Na型、室町ケミカル社製)、XMS−5418(ビスピコリルアミン基SO4型、室町ケミカル社製)、XMS−5413(イソチオウロニウム基Cl型、室町ケミカル社製)が挙げられる。
工程(1)は、具体的には、鉄イオンを含むUP4U水溶液又は親水性有機溶媒溶液を、キレート樹脂を充填したカラムに通液し、通過した溶液を採取すればよい。
キレート樹脂を用いたカラム精製工程により、UP4U溶液中のUP4Uに対する鉄イオン濃度は60ppm以下になる。
【0028】
(2)の結晶化工程(2−1)では、まず(1)処理後の溶液に塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、酢酸等の酸を添加することで結晶化母液をpH5.5以下に調整し、結晶化を行う。ここでpHは5.5以下であればよいが、2.5以上5.5以下がより好ましい。結晶化では、たとえば当該UP4U溶液に親水性有機溶媒を白濁するまで添加・撹拌したのち静置し、析出した結晶をろ過などによって取り出せばよい。親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール等炭素数6以下のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類等を例示することができ、特にアルコール類、好ましくはエタノールが挙げられる。このとき、結晶化の効率を向上させるため、親水性有機溶媒と同時に種結晶を添加しても良い。
【0029】
(2)の塩化亜鉛賦活化活性炭を用いた処理工程(2−2)では、常法に従って活性炭処理を行なえばよい。すなわち、(1)処理後の溶液に塩化亜鉛賦活化活性炭を加えて30分間〜20時間ほど撹拌した後、ろ過等によって当該活性炭を取り除くなどの処理方法を行なえばよい。
【0030】
本発明の方法で用いる活性炭の種別としては、水蒸気賦活されたものや、薬剤賦活されたものなどの中でも、塩化亜鉛賦活化されたものを用いることを特徴とする。活性炭の原料は木材、ヤシガラ、石炭などの中から選ぶことができる。形状は粉末、破砕状、顆粒状、円柱状、繊維状、シート状などの中から任意のものを選べばよい。塩化亜鉛賦活化活性炭の市販品としては、特製白鷺M600(大阪ガスケミカル社製)等が挙げられる。
【0031】
本発明の方法では、上記(1)キレート樹脂を用いたカラム精製工程および(2)pH5.5以下条件下での結晶化工程又は塩化亜鉛賦活化活性炭処理工程を、(1)、(2)の順で少なくとも1回ずつ行う。また本発明の方法は、上記工程(1)、(2)のほかに、イオン交換カラム等によるカラム精製を行う工程、他の活性炭処理を行う工程、再度の結晶化を行う工程などをさらに含んでいても良い。これらの工程は、工程(1)及び(2)の前後、及び中間に行うことができる。
【0032】
本発明の方法による精製を行うことで、UP4U含有溶液中の鉄濃度をきわめて低い濃度に低下させることができ、たとえば処理後の対UP4U鉄含量10ppm以下というきわめて低い値に調整することが可能である。
【0033】
本発明の方法において、工程(2)として塩化亜鉛賦活化活性炭処理工程による精製が完了した後は、必要に応じて結晶化処理などを行うことによって、UP4Uを高純度で取得することができる。結晶化の方法としては、たとえば公知の知見(特許文献4)等を用いることができる。
【実施例】
【0034】
(参考例)
公知の方法(特許文献3)にしたがってUP4Uを合成した。リン酸活性化合物としてピロリン酸ジイミダゾリド、リン酸化合物としてUMPを用い、溶媒は水、触媒は塩化第二鉄を用いて縮合反応させた。(式[III]、Xはイミダゾリル基。)
【0035】
【化6】
【0036】
縮合反応後の溶液を、キレート樹脂(IRC748、オルガノ株式会社製)カラム処理に供した。キレート樹脂処理後の鉄イオン濃度は40ppmであった。その後、既知法に従って結晶化を行っても鉄イオン濃度は40ppm以下とはならなかった。
【0037】
なお、鉄イオン濃度の定量は、JIS K 0400-57-10の1、10−フェナントロリン吸光光度法を参考に行った。具体的な定量方法は下記の通りである。
(1)検体および検量線作成用の鉄標準液(Fe100)を10mLメスフラスコに投入する。ブランク用に何も投入しない10mLメスフラスコも用意する。
(2)全てのメスフラスコに6.0M HCl溶液400μL、10%塩酸ヒドロキシルアミン溶液200μLを投入し、よく混和する。その後、30分間以上静置する。
(3)0.5% o−Phenanthroline溶液200μL、50%酢酸アンモニウム溶液1mLを添加し、10mLにメスアップする。
(4)よく撹拌し、10分以上室温で静置する。その後、それぞれのOD510を測定する。
(5)得られたOD510の値から検量線を作成し、検体中の鉄イオン濃度を求める。
【0038】
(実施例1)キレート樹脂カラム処理と結晶化工程の組み合わせの検討
キレート樹脂カラム処理の後に再度脱鉄処理を追加する方法として、キレート処理液に対して結晶化を行い、結晶のみを分離することで、鉄の濃度を低下させることを検討した。
【0039】
検討は、UP4Uに対して鉄を38ppm含む模擬処理液を作成して行った。具体的には、まずUP4U 480gを脱イオン水に溶解し、2Lに調整した。そして当該溶液に塩化鉄(III)溶液を添加し、対UP4U鉄含量38ppmとした。当該溶液に塩酸を添加し、pHを4.5、5.0、5,5、6.0、6.5、7.0になるように調整し、これを模擬処理液とした。
【0040】
それぞれの模擬処理液200mLを25℃水浴中で撹拌した後、95%エタノールを白濁するまで(約120mL)添加し、UP4Uの種結晶(25mg)を加えて一晩撹拌した。結晶が十分析出したことを確認し、さらに95%エタノールを約40mL添加して撹拌した。ろ過にて結晶と上清を分離した。得られた結晶を100mLの脱イオン水に溶解し、鉄含量を測定した。
結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
上記表に示すように、キレート樹脂に続いて結晶化処理を行うとき、結晶化前液がpH7.0で結晶化した後の鉄濃度は38ppmで、鉄は除去されていなかった。一方、pH5.5以下で結晶化したときの結晶化後の鉄濃度は10ppm以下であり、pH5.5以下の低いpH条件で結晶化を行うことにより、鉄濃度を非常に低い濃度まで低下させることができた。
【0043】
(実施例2)キレート樹脂カラム処理と別処理の組み合わせの検討
キレート樹脂カラム処理の後に再度脱鉄処理を追加する方法として、はじめのキレート処理液に対して再度鉄吸着剤(各種キレートカラム樹脂または各種活性炭)を投入し、鉄の濃度を低下させることを検討した。
検討は、鉄イオンを含む模擬処理液を作成して行った。具体的には、まずUP4U 480gを脱イオン水に溶解し、2Lに調整した。そして当該溶液に塩化鉄(III)溶液を添加し、対UP4U鉄含量60ppmとしたものを模擬処理液とした。
【0044】
pH2.0に調整した模擬処理液を、4.0mLずつ14本の試験管に量り取った。当該試験管中の模擬処理液に、キレート樹脂、あるいは粉末活性炭を各60mgずつ量り取り、模擬処理液の入った試験管に添加して撹拌した。撹拌開始から20時間後に、当該処理液を1mL以上採取し、0.2μmのメンブランフィルターでろ過して樹脂や活性炭を取り除いた。ろ液1mLを使用し、鉄含量を測定した。
【0045】
なお、試験に用いたキレートカラム樹脂の種別は、下記に挙げるとおりである;IRC747(アミノリン酸基Na型、オルガノ株式会社製)、IRC748(イミノジ酢酸基Na型、オルガノ株式会社製)、CR−11(イミノジ酢酸基Na型、三菱化学株式会社製)、CR−20(ポリアミン基遊離型、三菱化学株式会社製)、OT−71(イミノジ酢酸基Na型、室町ケミカル社製)、XMS−5612(アミノリン酸基Na型、室町ケミカル社製)、XMS−5418(ビスピコリルアミン基SO4型、室町ケミカル社製)、XMS−5413(イソチオウロニウム基Cl型、室町ケミカル社製)。
【0046】
また、活性炭の種別は下記の通りである;白鷺P(やし殻/水蒸気賦活、大阪ガスケミカル株式会社)、特製白鷺(木質/塩化亜鉛賦活、大阪ガスケミカル株式会社)、白鷺A(木質/水蒸気賦活、大阪ガスケミカル株式会社)、FP−3(原料不明/水蒸気賦活、大阪ガスケミカル株式会社製)、太閤KタイプA(木質/賦活法不明、フタムラ化学株式会社製)。
【0047】
結果を表2、3および図1、2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
上記図1に示すように、キレート樹脂カラム処理液にキレート樹脂を投入した場合には、アミノリン酸基Na型であるXMS−5612(室町ケミカル社製)またはIRC747(オルガノ株式会社製)を用いた場合を除くと、鉄は除去されなかった。また、アミノリン酸基Na型樹脂で処理した場合でも、処理後の鉄濃度は10ppm以上であった。
【0051】
次に図2に示すように、キレート樹脂カラム処理液に活性炭処理を行うと、いずれの活性炭を用いた場合でも鉄濃度は低下していた。とくに、塩化亜鉛賦活活性炭を用いた場合では、処理後の鉄濃度は10ppm未満となっており、鉄濃度を非常に低い濃度まで低下させることができた。
図1
図2