【実施例】
【0009】
本実施形態では、表1に示した濃度で合金を作製し(実施例1から実施例7、及び比較例1から比較例14)、これらの合金の抗ウイルス性を調べた。
【0010】
実施例1から実施例7の合金の組成は、以下の通りである。
[実施例1]:銀(Ag)(97.0重量%)、錫(Sn)(2.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[実施例2]:銀(Ag)(95.05重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(1.00重量%)
[実施例3]:銀(Ag)(95.50重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(0.55重量%)
[実施例4]:銀(Ag)(95.95重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[実施例5]:銀(Ag)(96.04重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(0.01重量%)
[実施例6]:銀(Ag)(92.50重量%)、錫(Sn)(7.40重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[実施例7]:銀(Ag)(90.00重量%)、錫(Sn)(9.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
【0011】
比較例1から比較例14として、以下の合金を作製した。比較例8から比較例11、比較例13、比較例14は、金(Au)を含まない合金、比較例12から比較例14では、錫(Sn)を含まない合金とした。そして、比較例9及び比較例13は、ゲルマニウム(Ge)、比較例10及び比較例14では銅(Cu)をそれぞれ含有させた合金とした。
【0012】
[比較例1]:銀(Ag)(96.049重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(0.001重量%)
[比較例2]:銀(Ag)(99.0重量%)、錫(Sn)(0.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例3]:銀(Ag)(99.50重量%)、錫(Sn)(0.40重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例4]:銀(Ag)(80.00重量%)、錫(Sn)(19.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例5]:銀(Ag)(50.00重量%)、錫(Sn)(49.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例6]:銀(Ag)(9.90重量%)、錫(Sn)(90.00重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例7]:銀(Ag)(0.40重量%)、錫(Sn)(99.50重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例8]:銀(Ag)(96.05重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)
[比較例9]:銀(Ag)(95.50重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、ゲルマニウム(Ge)(0.55重量%)
[比較例10]:銀(Ag)(95.50重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、銅(Cu)(0.55重量%)
[比較例11]:銀(Ag)(95.50重量%)、錫(Sn)(4.50重量%)
[比較例12]:銀(Ag)(95.50重量%)、金(Au)(4.50重量%)
[比較例13]:銀(Ag)(95.50重量%)、ゲルマニウム(Ge)(4.50重量%)[比較例14]:銀(Ag)(95.50重量%)、銅(Cu)(4.50重量%)
[比較例15]:銀(Ag)(100重量%)
【0013】
各合金の抗ウイルス性試験を以下の通り行った。
具体的には、各合金(35mm×35mm×厚さ1mm)をバクテリオファージφ6(抗インフルエンザ代替ウイルス)希釈液(1/4NB)に、室温下で、5分間浸漬させた後、抗ウイルス性を調べた。抗ウイルス性試験は、JIS R1756(2013(可視光応答型光触媒、抗ウイルス(バクテリオファージ)))を参考に行った。なお、密着フィルムには、ポリプロピレンフィルム(30mm×30mm)を使用した。
試験後、抗ウイルス活性値を比較することで、評価した。抗ウイルス活性値は以下の式によって計算した。
V=U
0−A
t
V:抗ウイルス活性値
U
0:接種量あたりのバクテリオファージの感染価の対数値
A
t:試料の反応後の感染価の対数値
【0014】
評価基準は以下の通りとした。
◎:抗ウイルス活性値5.3以上
〇:抗ウイルス活性値2.5以上5.3未満
△:抗ウイルス活性値1.0以上2.5未満
×:抗ウイルス活性値1.0未満
【0015】
【表1】
【0016】
各合金の抗ウイルス性試験の結果を表1に示した。
実施例2から実施例7に係る合金は、非常に高い抗ウイルス性を示し、実施例1の合金はやや高い抗ウイルス性を示すことがわかった。このことから、これらの合金は、バクテリオファージφ6を不活性化させる特性を有することがわかった。そして、これら実施例1から実施例7の合金は全て、比較例15(純銀)よりも高い抗ウイルス性を示すことも明らかとなった。
また、実施例1から実施例7に係る合金は、加工性にも優れていることがわかった。
【0017】
まず、錫(Sn)を含有させた効果について説明する。
実施例1から実施例7と比較例12(錫(Sn)不含有)、比較例13(錫(Sn)の代わりにゲルマニウム(Ge)を含有)及び比較例14(錫(Sn)の代わりに銅(Cu)を含有う)の結果を比較すると、錫(Sn)を含有させた合金が高い抗ウイルス性を有していることがわかった。実施例1から実施例7に係る合金において、錫(Sn)が3.95重量%以上含有されていることで、特に高い抗ウイルス性を示すことがわかった。
また、比較例2から比較例7の結果から、錫(Sn)の濃度が2.5重量%から10.0重量%の範囲外の合金では、抗ウイルス性が低い、あるいは、所望の形状に加工ができないことがわかった。
【0018】
次に、金(Au)を含有させた効果について説明する。
実施例2と比較例8(金(Au)不含有)及び比較例9(金(Au)の代わりにゲルマニウム(Ge)を含有)の結果を比較すると、金(Au)を含有させた合金が高い抗ウイルス性を有していることが明らかである。さらに比較例1(金(Au):0.001重量%)の結果から、金(Au)を0.10重量%以上含有させることで、高い抗ウイルス性を付与できると考えられる。ただし、金(Au)は高価であるため、1.00重量%以下であることが好ましい。
なお、比較例11(金(Au)不含有)と比較例12(錫(Sn)不含有)の結果から、同じ濃度であれば、金(Au)を含有させた合金の方が錫(Sn)を含有させた合金よりも、高い抗ウイルス性を示すことがわかる。
【0019】
以上の結果から、銀(Ag)−錫(Sn)−金(Au)合金とし、錫(Sn)が2.5重量%から10.0重量%、金(Au)が0.01重量%から1.0重量%がそれぞれ含まれていることで、高い抗ウイルス性を示すことがわかった。さらに、これらの合金は、純銀よりも高い抗ウイルス性を示すことも明らかとなった。
【0020】
また、本実施形態の銀(Ag)−錫(Sn)−金(Au)合金は、抗ウイルス性を有することに加え、加工性にも優れているため、医療分野(例えば、ドアハンドル、医療用メス、医療用ピンセット、医療用バット、回診車)、食品分野(例えば、トング、食器、厨房機器)、日用品分野(例えば、つめきり、毛抜き、耳かき)、住宅関連分野(例えば、三角コーナー、排水口、洗面台、シンク)、家電分野(例えば、空気清浄機フィルター、エアコンフィルター、掃除機)、機械設備関連分野(例えば、ボルト、ねじ)、及び畜産関連分野(防鳥ネット、床、壁)に応用することができる。
【0021】
さらに、本実施形態の銀(Ag)−錫(Sn)−金(Au)合金は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法で使用する薄膜形成用ターゲット材として使用し、物(材料)の表面にこれらの合金を被膜させることもできる。このように、物の表面に合金の薄膜を形成することで、抗ウイルス性を付与することができる。
【0022】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。本実施形態では、抗ウイルス性について調べたが、本実施形態に係る合金は、抗菌性も有すると考えられる。
本実施形態に係る合金には、銀よりも標準電極電位が高い金(Au)を用いたが、金(Au)以外の金属として、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)を用いることもできる。また、本実施形態に係る合金には、錫(Sn)を用いたが、錫(Sn)以外の金属として、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)を用いることもできる。