特許第6774690号(P6774690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6774690
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】抗ウイルス性合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 5/06 20060101AFI20201019BHJP
   A61L 2/02 20060101ALI20201019BHJP
   A61L 101/02 20060101ALN20201019BHJP
【FI】
   C22C5/06 Z
   A61L2/02
   A61L101:02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-165563(P2019-165563)
(22)【出願日】2019年9月11日
【審査請求日】2020年3月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592258133
【氏名又は名称】相田化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】和気 康弘
(72)【発明者】
【氏名】手塚 基文
(72)【発明者】
【氏名】松前 裕稀
(72)【発明者】
【氏名】矢次 昭孔
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−264329(JP,A)
【文献】 特開平09−111378(JP,A)
【文献】 特表平08−500392(JP,A)
【文献】 P.L.Cavallotti, et al.,TARNISHING RESISTANCE OF COPPER, SILVER AND ITS ALLOYS FOR ELECTRONIC APPLICATIONS,CORROSION AND RELIABILITY OF ELECTRONIC MATERIALS AND DEVICES: PROCEEDINGS OF THE FOURTH INTERNATIONAL SYMPOSIUM,米国,The Electrochemical Society, Inc.,1999年,Vol.99-29,P.127-136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/06
C22F 1/14
A61L 2/02
A61L 101/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ウイルス性を有する合金から成る抗ウイルス性部材であって、
2.5重量%から10.0重量%の錫(Sn)と、
0.01重量%から1.0重量%の金(Au)と、が含まれ、
残部が銀(Ag)で構成される、
ことを特徴とする合金から成る抗ウイルス性部材
【請求項2】
前記錫(Sn)が3.95重量%以上含まれている、
請求項1に記載の合金から成る抗ウイルス性部材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来、合金は、優れた加工特性を有するため、装飾品や金属材料に使用されてきた。例えば、銀−銅合金粉末と有機系バインダとを含有した装飾用の銀含有可塑性組成物としても使用されている(例えば、特許文献1)。
また、銀が含有された合金や化合物は、抗菌性や抗ウイルス性を有するため、医療の現場で使用される金属材料や衛生用品にも使用されている(例えば、特許文献2、及び特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2018−24926号公報
【特許文献2】特表平9−510629号公報
【特許文献3】特許第5291198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまで開示されている抗ウイルス性を有する銀合金は、含有させる金属の種類が多く、
例えば、ニッケル(Ni)は、特に強い金属アレルギーを引き起こす原因となり、鉛(Pb)は、有害物質であるため、人の肌に直接触れる用途に使用することは困難である。
そのため、人の肌に触れる場所や物に適用できる、汎用性の高い抗ウイルス性を有する合金が求められている。
【0004】
そこで、本発明は、抗ウイルス性を有する合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の合金は、抗ウイルス性を有し、2.5重量%から10.0重量%の錫(Sn)と、0.01重量%から1.0重量%の金(Au)とが含まれ、残部が銀(Ag)で構成されることを特徴とする。
【0006】
本発明の合金は、錫(Sn)が3.95重量%以上含まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る合金は、2.5重量%から10.0重量%の錫(Sn)と、0.01重量%から1.0重量%の金(Au)とが含まれ、残部が銀(Ag)で構成されている。
上記の濃度で金属が含有された合金は、純銀(銀100%)よりも高い抗ウイルス性を示すと共に、加工性にも優れ、極めて実用的価値が高い。そのため、医療分野や食品分野などの抗ウイルス性を強く求められる材料に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係る合金について、説明する。
本実施形態に係る合金は、銀(Ag)、錫(Sn)、及び金(Au)を含んでいる。これらの合金は、錫(Sn)が2.5重量%から10.0重量%、金(Au)が0.01重量%から1.0重量%がそれぞれ含まれ、残部が銀(Ag)で構成されている。
【実施例】
【0009】
本実施形態では、表1に示した濃度で合金を作製し(実施例1から実施例7、及び比較例1から比較例14)、これらの合金の抗ウイルス性を調べた。
【0010】
実施例1から実施例7の合金の組成は、以下の通りである。
[実施例1]:銀(Ag)(97.0重量%)、錫(Sn)(2.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[実施例2]:銀(Ag)(95.05重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(1.00重量%)
[実施例3]:銀(Ag)(95.50重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(0.55重量%)
[実施例4]:銀(Ag)(95.95重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[実施例5]:銀(Ag)(96.04重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(0.01重量%)
[実施例6]:銀(Ag)(92.50重量%)、錫(Sn)(7.40重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[実施例7]:銀(Ag)(90.00重量%)、錫(Sn)(9.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
【0011】
比較例1から比較例14として、以下の合金を作製した。比較例8から比較例11、比較例13、比較例14は、金(Au)を含まない合金、比較例12から比較例14では、錫(Sn)を含まない合金とした。そして、比較例9及び比較例13は、ゲルマニウム(Ge)、比較例10及び比較例14では銅(Cu)をそれぞれ含有させた合金とした。
【0012】
[比較例1]:銀(Ag)(96.049重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、金(Au)(0.001重量%)
[比較例2]:銀(Ag)(99.0重量%)、錫(Sn)(0.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例3]:銀(Ag)(99.50重量%)、錫(Sn)(0.40重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例4]:銀(Ag)(80.00重量%)、錫(Sn)(19.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例5]:銀(Ag)(50.00重量%)、錫(Sn)(49.90重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例6]:銀(Ag)(9.90重量%)、錫(Sn)(90.00重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例7]:銀(Ag)(0.40重量%)、錫(Sn)(99.50重量%)、金(Au)(0.10重量%)
[比較例8]:銀(Ag)(96.05重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)
[比較例9]:銀(Ag)(95.50重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、ゲルマニウム(Ge)(0.55重量%)
[比較例10]:銀(Ag)(95.50重量%)、錫(Sn)(3.95重量%)、銅(Cu)(0.55重量%)
[比較例11]:銀(Ag)(95.50重量%)、錫(Sn)(4.50重量%)
[比較例12]:銀(Ag)(95.50重量%)、金(Au)(4.50重量%)
[比較例13]:銀(Ag)(95.50重量%)、ゲルマニウム(Ge)(4.50重量%)[比較例14]:銀(Ag)(95.50重量%)、銅(Cu)(4.50重量%)
[比較例15]:銀(Ag)(100重量%)
【0013】
各合金の抗ウイルス性試験を以下の通り行った。
具体的には、各合金(35mm×35mm×厚さ1mm)をバクテリオファージφ6(抗インフルエンザ代替ウイルス)希釈液(1/4NB)に、室温下で、5分間浸漬させた後、抗ウイルス性を調べた。抗ウイルス性試験は、JIS R1756(2013(可視光応答型光触媒、抗ウイルス(バクテリオファージ)))を参考に行った。なお、密着フィルムには、ポリプロピレンフィルム(30mm×30mm)を使用した。
試験後、抗ウイルス活性値を比較することで、評価した。抗ウイルス活性値は以下の式によって計算した。
V=U−A
V:抗ウイルス活性値
:接種量あたりのバクテリオファージの感染価の対数値
:試料の反応後の感染価の対数値
【0014】
評価基準は以下の通りとした。
◎:抗ウイルス活性値5.3以上
〇:抗ウイルス活性値2.5以上5.3未満
△:抗ウイルス活性値1.0以上2.5未満
×:抗ウイルス活性値1.0未満
【0015】
【表1】
【0016】
各合金の抗ウイルス性試験の結果を表1に示した。
実施例2から実施例7に係る合金は、非常に高い抗ウイルス性を示し、実施例1の合金はやや高い抗ウイルス性を示すことがわかった。このことから、これらの合金は、バクテリオファージφ6を不活性化させる特性を有することがわかった。そして、これら実施例1から実施例7の合金は全て、比較例15(純銀)よりも高い抗ウイルス性を示すことも明らかとなった。
また、実施例1から実施例7に係る合金は、加工性にも優れていることがわかった。
【0017】
まず、錫(Sn)を含有させた効果について説明する。
実施例1から実施例7と比較例12(錫(Sn)不含有)、比較例13(錫(Sn)の代わりにゲルマニウム(Ge)を含有)及び比較例14(錫(Sn)の代わりに銅(Cu)を含有う)の結果を比較すると、錫(Sn)を含有させた合金が高い抗ウイルス性を有していることがわかった。実施例1から実施例7に係る合金において、錫(Sn)が3.95重量%以上含有されていることで、特に高い抗ウイルス性を示すことがわかった。
また、比較例2から比較例7の結果から、錫(Sn)の濃度が2.5重量%から10.0重量%の範囲外の合金では、抗ウイルス性が低い、あるいは、所望の形状に加工ができないことがわかった。
【0018】
次に、金(Au)を含有させた効果について説明する。
実施例2と比較例8(金(Au)不含有)及び比較例9(金(Au)の代わりにゲルマニウム(Ge)を含有)の結果を比較すると、金(Au)を含有させた合金が高い抗ウイルス性を有していることが明らかである。さらに比較例1(金(Au):0.001重量%)の結果から、金(Au)を0.10重量%以上含有させることで、高い抗ウイルス性を付与できると考えられる。ただし、金(Au)は高価であるため、1.00重量%以下であることが好ましい。
なお、比較例11(金(Au)不含有)と比較例12(錫(Sn)不含有)の結果から、同じ濃度であれば、金(Au)を含有させた合金の方が錫(Sn)を含有させた合金よりも、高い抗ウイルス性を示すことがわかる。
【0019】
以上の結果から、銀(Ag)−錫(Sn)−金(Au)合金とし、錫(Sn)が2.5重量%から10.0重量%、金(Au)が0.01重量%から1.0重量%がそれぞれ含まれていることで、高い抗ウイルス性を示すことがわかった。さらに、これらの合金は、純銀よりも高い抗ウイルス性を示すことも明らかとなった。
【0020】
また、本実施形態の銀(Ag)−錫(Sn)−金(Au)合金は、抗ウイルス性を有することに加え、加工性にも優れているため、医療分野(例えば、ドアハンドル、医療用メス、医療用ピンセット、医療用バット、回診車)、食品分野(例えば、トング、食器、厨房機器)、日用品分野(例えば、つめきり、毛抜き、耳かき)、住宅関連分野(例えば、三角コーナー、排水口、洗面台、シンク)、家電分野(例えば、空気清浄機フィルター、エアコンフィルター、掃除機)、機械設備関連分野(例えば、ボルト、ねじ)、及び畜産関連分野(防鳥ネット、床、壁)に応用することができる。
【0021】
さらに、本実施形態の銀(Ag)−錫(Sn)−金(Au)合金は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法で使用する薄膜形成用ターゲット材として使用し、物(材料)の表面にこれらの合金を被膜させることもできる。このように、物の表面に合金の薄膜を形成することで、抗ウイルス性を付与することができる。
【0022】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。本実施形態では、抗ウイルス性について調べたが、本実施形態に係る合金は、抗菌性も有すると考えられる。
本実施形態に係る合金には、銀よりも標準電極電位が高い金(Au)を用いたが、金(Au)以外の金属として、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)を用いることもできる。また、本実施形態に係る合金には、錫(Sn)を用いたが、錫(Sn)以外の金属として、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)を用いることもできる。
【要約】
【課題】抗ウイルス性を有する合金を提供する。
【解決手段】抗ウイルス性を有する合金であって、2.5重量%から10.0重量%の錫(Sn)と、0.01重量%から1.0重量%の金(Au)とが含まれ、残部が銀(Ag)で構成される。
【選択図】なし